リレー小説3
<Rel3.サテライトキャノン3>

 

  アレクサンドリア・モーロック、監獄

 

「そういえば… 
 ニュースとかで、子供の失踪事件とかって多かったよなぁ… 
 テレビで3日くらい騒がれた後、別の事件が起こって忘れてたけど… 
 アレって、どうなったんだろうな? 
 母ちゃん、捜索願とか出してるかな〜。出してねぇだろうなぁ〜。 
 俺もこうして忘れられるのか…? 
 くそッ…冗談じゃねェ…!」
素直に相手の意見に従わなかったクロノも悪いと言えば悪いが、 
ここまで理不尽な扱いを受ける事は想像できなかった。 
クロノ少年は監禁された部屋の中で、言い様のない憤りに悶えていた。 
この状況なら、怒りよりも恐怖で気が動転してしまうのが普通だろうが、 
彼がそうでなかったのは幸いだ。 
尤も、単に「殺されるかもしれない」という恐怖を知らないだけで、 
気が動転していることに変わりはないのかもしれない。 
不意に声をかけられるまでドアの向こうに人がいる事に気が付かなかった。
「小僧、大丈夫か?」
声に気付いたクロノはドアの鉄格子に噛り付いた。
「大丈夫な訳ないだろ! 
 ここから出せ! 
 勝負しろ!」 
ドアを殴りつけ、精一杯吠え立てた。 
だが、ドアの外に立っている者を見て直に大人しくなった。 
そこにいたのは、自分をマスターと呼ぶルビーの姿だった。
「ルビー…?」
正確には、ルビーの姿をした者だ。喋り方がおかしい。 
「心配はなさそうだな。 
 ところで、単刀直入に聞くが、お前が『トリガー』なんだろ?」
「……………?」
「…カマ掛けてみたつもりだが、こりゃ本当に何も知らないみたいだな… 
 こっちの情報とも多少の食い違いがあるし、どうしたもんかねェ… 
 まぁいい、小僧、よく聞け。 
 死にたくなけりゃ、命乞いをして、奴等に協力することだ。 
 それが嫌なら俺に協力しろ。 
 どうせ小僧一人じゃ何も出来んし、何にもならん。 
 戦うつもりがあるなら、わめいてないで腹括れ」
「ルビー…何言ってんだ?」
「…腹減ってないか? とりあえず喰っとけ。 
 後、2,3時間で実験が始まる。恐らくお前が必要になるだろう。 
 その時どうするか、頭を冷やして考えておくことだな」
クロノの疑問符は置き去りのまま、 
ルビーの姿をした者は一方的に話を進めた後、 
格子の隙間から菓子パンを数個ねじ込むと、そのまま去っていった。
執筆者…Gawie様

  アレクサンドリア・モーロック、展望ホール

 

実験場は最上階の展望ホールに移された。 
元は天体観測用に作られた部屋だったが、実験のため急遽天井が取り除かれ、 
さながら天然のプラネタリウムと言ったところだ。 
時折夜風に吹かれて書類が床に舞い散るが、 
南天達は気にせず作業を進めている。
部屋の中央には、 
今回の実験の被験体である守護者ルビーが台座にうつ伏せに固定されている。 
頭部に被せたヘルメット型のインターフェースからは無数のケーブルが延び、 
それらが各種計測機器、そしてサテライトキャノンへと接続されている。
「準備完了しました」
警備に当たるプロ達の指揮を執るプロギルドマスター白水東雲、 
そしてこの実験を遂行する南天桂馬とイワガ・ウェッブ、 
三者が見守る中、星をも砕くと謳われた古代の兵器の復活しようとしていた。
「よし、実験を開始する」
南天の合図を最後に、辺りは異様な沈黙に包まれ、 
その場いた全員が頭上の夜空に輝く衛星ダイモスを固唾を飲んで見つめる。
「お、おおお……」
ダイモスが一瞬輝きを増す。 
明らかに衛星が自ら光を放っているのが確認出来る。
「マイクロ波、受信、 
 続いてエーテル波、来ます」
「被験体、エネルギーゲイン上昇中」
ルビーが痙攣するように体を波打たせ、 
その背中から蝶の羽の様な光の模様が浮び上がる。 
しかし次の瞬間、 
激しいスパークと共に光の粒子が周囲に飛散し、そして直に消えた。
「……………」
「…エ、エーテル、消失しました…」
実験は失敗だった。 
しかしウェッブと南天は別段驚いた表情を見せることなく、 
黙って解析作業に取り掛かった。
「最大値は?」
「計測不能でした」
「なるほどな」
研究者からすれば、この結果は予想の範囲内であった。 
そもそも、マイクロ波による無線送電自体は珍しいものではない。 
今の宇宙コロニー群を形成するのにも必要不可欠な技術である。 
しかしこれがエーテルとなると話は別だ。 
結晶とエーテルの関連性は解明されつつあるものの、 
結晶そのものを人工的に作り出すことは未だ実現されてはおらず、 
エーテルの人口制御も実用レベルには至っていない。 
ウェッブや南天達研究者にとってはサテライトキャノンの破壊力よりも、 
エーテルという気紛れなエネルギーの人口制御こそが狙いだったのだ。
「……ふん」
白水が鼻で笑う。 
興醒めして部屋を出ようとしたその時だ。
「おい、ここは立入禁止だ! アンタ…」
「保安総監の命により参った。どけ」
プロメンバーの制止をものともせず、強引に実験室に入ってきたのは、 
白いスーツを着た男だった。胸のバッチは確かに保安部のものである。
「…まさか、直接いらっしゃるとは… 
 え〜と、貴方は…?」
ウルグザハニルはどうだ?」
「は、出力30%で実験を行いないましたが…」
「それではダメだ。 
 クロノとかいうガキを連れて来い。 
 間もなくフォボスが昇る。 
 最大出力で実験を再開せよ」 
実験室に入ってくるなりこの態度だ。密命もなにもない。
(…この男、ウルグザハニルと言ったか… 
  たかが保安部の人間が、なぜ、サテライトキャノンの本当の名を… 
  それに、なぜガキのことまで知っている…!?)
執筆者…Gawie様

  アレクサンドリア・モーロック周辺の林

 

「派手にやられたな、大丈夫かよ?」
気楽な調子で呟いたのはD。 
皮肉げな眼、軽薄そうな顔立ち、
流石にこの深夜にサングラスはかけていないが、至っていつも通りである。 
ただ、トレードマークたるブラウンのコートは、今は血でべったりと汚れている。
「な…んで、お前が……」
苦しげに言うのはアリエス。 
木の根元に座り込み、そこかしこの傷を押さえながら、Dのほうを睨み上げる。
「そう睨むなって。助けてやったンだからよ。」
言いながらなんとはなしに周りを眺める。 
特筆すべきことは何もない、ただの林。
たまたま近くにあったので、駆け込んだだけ。 
そのまま背後に眼をやれば、濛々と舞いあがる煙が見える。
ここからでは見えないが、かなりの被害が出たことだろう。
要するに、あの煙が立ち昇っている所―モーロックから、
ボロボロのアリエスを抱えてここまで逃げてきたのだった。
(はぁ……ったく面倒な仕事だぜ。 
 契約の2倍くらいは報酬貰わねーとワリに合わねーぞコレ。)
「余計な、コトを……」
口の中でぶつぶつと文句を言っていた為、
それが自分の台詞に続くのだと理解するのに一瞬時間がかかった。
「へいへい、悪かったね。 
 ンなコトより、そのイタイタしい傷はなんとかなんねーのかよ。」 
言って、再びアリエスを見下ろす。 
全身傷だらけで、着ている服は余す所無く血で濡れている。
満身創痍とはまさにこのことだろう。 
憎まれ口を叩く余裕があるくらいだから、まぁ大丈夫なのだろうが、
見ていて気持ちのイイものではない。 
少なくとも、Dにはそんな趣味は無かった。
「あんだけすげぇ魔法使えるんだ、回復魔法くらいできるんだろ?」
「………………。」
返事はない。更には何か噛み締めるような表情で視線を逸らした。 
ふと、嫌な予感が頭をよぎる。
「……まさか、魔力切れとか。」
「………………………。」 
どうやらアタリのようだった。 
Dはハァと溜息をつくと、その場に腰を下ろす。
すると自然、血に塗れたコートに眼がいく。 
この血は勿論アリエスのもので、抱えて逃げる時に付着したモノだ。 
いくら余裕の無い状況だったとは言え、これは失敗だった。
ものの見事にべっとりと付いてくれている。 
(洗っても落ちないよなぁ……) 
などと考え、陰鬱に溜息をつく。
だが、気分が沈んでいるのは、そればかりが原因ではない。
寧ろ、そんなコトは微々たることだ。 
今現在、一番の問題はといえば、
「どーするんだよ、これから………」
「…どうする? 
 き…決まってんじゃん。 
 アンタ、まだ前金分の働きもしてないし。 
 前金50,000UDでターゲットの確保、クライアントに引渡して残り100,000UD。 
 …そうだったでしょ?」
「痛いとこ突いてくるな。 
 しかし前金は前金だぜ。失敗も勘定の内だ。 
 無理そうなら俺はここで降りる。それがプロってもんだろ?」
「甘いわね。 
 前金50,000UDが無条件で振り込まれた。これは破格… 
 今回の物件…実はお金なんてどうでもいいのよ。 
 マジで…お金の意味がなくなる事態…アンタ想像できる?」
「悪いが興味ないな。 
 …だが、俺もまだやめるとは言ってない。 
 そういうことなら、取れるだけ取ってやろうじゃねェか」
Dはそう言いながら、武器をライフルに持ち替え、 
何を思ったか、サイレンサーを取り外した。
「俺が囮になる。 
 その隙にお前が侵入しろ。 
 …動けるな?」
アリエスは傷ついた体を起こし、黙って肯いた。 
作戦は、Dが遠距離から狙撃しつつ接近、 
その隙にアリエスが侵入するというものだ。 
今いる場所から目標のモーロックまでは約1.5km。 
Dがライフルのスコープを覗きながら慎重に標的を探す。
「…ん? 
 あの見張り台の奴… あ、また… 
 気のせいか? いきなり背後から攻撃したように見えたが… 
 仲間割れか…?」
執筆者…you様、Gawie様

  アレクサンドリア・モーロック、見張り台

 

サテライトキャノン起動実験に備え、 
雇われたプロメンバー達は周囲の警戒を強めていた。 
だが、その警備の中に既に侵入者が混じっていることに気付いた者はいなかった。
「お、ヤスか、交代の時間にはまだ早いぜ?」
「火星の夜は冷えますからネ。 
 コレ、差し入れッス」
ヤスが差し入れと言って、見張り役の男に缶コーヒーと肉饅を手渡す。 
男がその温もりに頬を緩ませた瞬間、 
背後から一撃―――
「…悪く思うな。 
 さて、次は…あのツヨシンとか言う奴…使えるかな?」
軽く探りを入れるだけのつもりが、 
状況はグレート・ブリテンが思った以上に複雑であった。 
ここまでで、守護者とサテライトキャノンを狙っているのは、三者。 
一つは、火星政府の研究者である南天桂馬とイワガ・ウェッブ。
もう一つは突然現われた保安部の白服。 
同じく政府の密命を受けた者だろうが、 
その様子から察するに、この二者の思惑は一致してはいないようだ。 
そもそも、政府の密命とは言え、 
態々プロを雇ってまで密かにクロノ達を拉致したのは何故か? 
単に公に出来ない理由があるにしても、こんな強行策を取る必要はない。 
考えられるのは、政府組織内の複数の派閥か、或いは他の組織の介入があり、 
その何れかが守護者とサテライトキャノンを独占しようとしている事だ。 
他の組織の介入があるとすれば、まず思い付くのがSFES。 
グレート・ブリテンが情報を得たのも、 
仲間のガウィーが入手したSFESデータベースによるものだ。 
そのSFESが何も知らないということはあり得ない。 
逆に考えれば、火星政府がSFESの目を欺くための強行策とも考えられるだろう。
そして、謎の追跡者二名。 
守護者を狙ってきたか、単なる妨害工作かは解らないが、 
発掘された古代の兵器の秘密を知る者はそう多くはない。 
恐らくは、何者かの依頼か命令を受けた者だろう。 
守護者とサテライトキャノンを狙うこの三者、
ここに居る全員が互いに本当の黒幕を計りかねていると言ったところだろう。
何れにしても、火星政府内に思惑の異なる二派が存在するのは間違いない。
そこにSFESが介入する可能性があるとすれば、
グレート・ブリテンとしてもここで調査を止める訳にはいかないのだ。
見張りを粗方始末したグレート・ブリテンは通信機を手に取った。
《各員、状況は?》
「こちら正面ゲート、異常なし」 
「こちらヤス、異常ありません」
ヤスに成りすましているグレート・ブリテンは、 
奪った通信機にそれぞれ応答した。
《これから実験を再開するそうだ。 
 例のガキは今ツヨシンが見張っているから、ヤスと二人で連れて来い》
「了解ッス」
執筆者…Gawie様

  アレクサンドリア・モーロック、エレベーター

 

最上階への直通エレベーター内。 
ヤスとツヨシンは指示通りにクロノを連れて実験室に向かっていた。 
流石の腕白も今はぐったりとしたまま、大人しく二人に担がれている。 
あまりに喚くのでツヨシンが軽く黙らせたのだ。 
だが、そのツヨシンも今回の役回りに疑問を感じているのか、 
ガムを噛んでは不機嫌そうに溜息を吐き、何処となく落ち着きがない。
「…聞いたんスけど、 
 ツヨシンさんって、あの大名古屋大戦の勇者さんなんですよねェ?」
「あ、あぁ…なんかそう言う風に言われてるな」
「火星政府の奴等って、古代の兵器を掘り出して何考えてんスかね? 
 地球に宣戦布告するって噂もあるし、 
 今回のサテライトキャノンも、一撃で移民船団を全滅させられるとか…」
「何が言いたいんだよ?」
「いえいえ、自分はどうすれば良いか解らなくて… 
 プロとして、ただ割り切って依頼を遂行すべきか?、否か? 
 ツヨシンさんはランクは同じでも先輩ッスから、 
 どうなのかぁ〜っと思って、そこら辺」
「……さ、さぁな」
 ツヨシンは、ヤスの問いには答えなかった。
(…まずまずの反応だ。 
  コイツは悪党にはなれんし、兵士にもなれん。 
  …使えるな…)
答える事が出来なかったのか、答えたくなかったのか、どちらでも良い。 
グレート・ブリテンはそう思った。 
そして無言のまま、程なくしてエレベーターは最上階に着いた。
執筆者…Gawie様

  アレクサンドリア・モーロック、展望ホール

 

部屋に入るなり、待ち構えていたのは白服の男だ。 
いきなり連れてこられたクロノの頭髪を掴み、サテライトキャノンの前へ引きずり出した。
「…う…うぅ……」 
意識を取り戻したクロノが見たのは―― 
自分を誘拐した白髪の中年、ずんぐり体型のトカゲ男、 
怪しい科学者風の老人、白服の大男、 
そして、空に向けて固定されているサテライトキャノンと、 
台座の上にうつ伏せで横たわっているルビー。
「ル、ルビーに何をした…?」
「それはこっちのセリフだ。 
 こんなクソガキをマスターと誤認するとは、 
 システムに致命的な欠陥があるようだな」
白服の大男は片手でクロノの耳を掴んで引っ張り上げる。
「よく聞け、クソガキ。 
 これからサテライトキャノンの発射実験を行う。 
 砲手は、マスターであるお前がやるのだ」
「………?」
「だが忘れるな。 
 誤認とは言え、マスターに選ばれたお前にチャンスやろうと言うのだ。 
 お前でなくともマスターの代わりはいくらでもいる」
(その割には拘るな、条件付きってとこか…?)
「簡単な事だ。 
 お前はただトリガーを引けばいい。標的は…地球だ」
「お、お待ちください。 
 それはいくらなんでも時期尚早では… 
 それに今の時間帯では地球は火星の裏側…」
「…つまらん冗談だ」
(いや、ガウィーの情報では、 
  衛星のリフレクターを使えば火星の裏側でも砲撃可能だ。 
  …って時期尚早? コイツら…まさか…)
出来るだけ動揺を顔に出さぬようにするグレートブリテン。
「どうということはない。ただの実験だ。 
 さぁ、やれクソガキ。 
 上手く成せば、お前をこのままマスターとして使ってやらんでもないぞ?」
(さぁ、どうする? 小僧)
「イ、イヤだ、と言ったら……」
――ブチッ!!
肉が引きちぎれる音と共に、 
クロノが悲鳴を上げて床に転がった。 
白服の大男はちぎり取った耳を放り投げ、クロノを蹴り飛ばす。
「聞えなかったのか? 
 お前に与えられた選択肢は、やるか、死ぬか、だ」
「わ、分かった、分かりましたよぉ…」
クロノは血が噴出す即頭部を押えながら、サテライトキャノンを手に取り、 
そして、その銃口を…白服の大男に向けた。
「何のつもりだ! 
 それでどうしようと言うのだぁ!!?」
(こ、この小僧は…… 
  追い詰められて気が狂ったか、死を覚悟したのか? 
  だが、追い詰められた鼠が猫を噛んだところで、鼠は猫には勝てん…)
クロノがサテライトキャノンを構え、白服に向かって引金を引く。 
だが、肝心のサテライトキャノンは何の反応もない。
「サルにウルグザハニルの使い方が分かるかッ!!」 
白服がクロノに襲い掛かる。 
クロノはサテライトキャノンに渾身の力を込め、殴りつけた。
「ぐは… 
 ガ…ガキがッ!!!」
白服の男の行動は尋常ではない。 
流石に白水達プロメンバーも各々の武器を構える。 
しかしその時だ。
「…Save your master…」
執筆者…Gawie様
「…っ!?」
緊急用マスター保護プログラムが作動し、 
ルビーが己を台座に束縛していた鉄枷を力づくで破壊するのと同時に、 
白服の男がクロノを捕らえようと手を伸ばす。 
マスターさえ押さえてしまえば守護者は無力化する。 
これは既に白水等、プロ達によって証明されていた。 
無論、プロの面々も其処は十二分に心得ており、 
ルビー起動を見るや否やクロノの捕獲に動き出す。 
或る程度、足には自信のあるクロノだが、 
訓練されたプロの精鋭達相手に通じるはずも無く、 
再び捕らえられるのは目に見えていた。 
だが……
タンッ!
突如、響く乾いた銃声。 
最もクロノに逼迫していたプロの1人が脳天に風穴を開けられ倒れる。 
クロノは何が起こったのか解らずに硬直し、 
白服の男やプロ達は瞬時にスナイパーの存在を感知して、 
付近の物陰に身を隠すものの、間に合わなかった1人が銃弾の餌食となった。 
見計らった様に白水の通信機から敵襲の知らせが飛ぶものの時既に遅し。
「ちっ、さっきの追っ手か!?」
展望ホールに出たのは失敗だった様だ。 
外では襲撃者を拘束すべく警備部隊が慌しく動き出しているものの、 
直ぐに片付けられるものでもないだろう。 
そうこうしている内にルビーはヘルメットを投げ捨て、 
クロノの確保に成功してしまっていた。 
こうなってしまえば捕獲は容易ではない。 
但し、ルビーの方も咄嗟にクロノを護ったものの、 
自分が何故、こんな場所にいたのか、 
何故、こんな目にあっているのかも良く解っていない様で、 
少々戸惑っている様子ではある。
「馬鹿な… 
 セーフモードを自ら解除し、再起動したというのか…」
システムの暴走は科学者として最も嫌うところだ。 
ただ、一度は制御に成功している。 
その状態から如何にしてマスターの危機を判断したのか? 
多重OSか? ならば最初のセーフモードは何だったのか? 
床に伏せて考察する南天とウェッブだったが、考えたところでどうする事も出来ない。
一方の白水達プロメンバーも、 
ルビーを抑えなければならないと考えつつも、白服の暴挙の方も気に掛り、 
動きが冴えない。
白服とルビーが睨み合う中、 
最初に動いたのは、プロの一人、ヤスだった。 
白服の背後からルビーに突進する…と見せかけ、 
摺り抜けざまに白服の足元に何かを落とした。
「煙幕弾!?」
眩い閃光と共に室内は一瞬で煙に包まれた。
「何やってる小僧! 逃げるぞ!」
煙で何も見えないにもかかわらず、 
白服の男は声のした方向に突進し、触れる者全てを手当り次第に殴る。 
障害物を全てなぎ倒したところで、背後で窓ガラスが割れた音に振り返る。 
回り込まれていた事に気付いた時には既に遅く、 
ルビーとクロノのヤスはドーム状の屋根を滑り降りていた。
割れた窓から煙が吹き出し、どうにか辺りが見渡せるようになった時には、 
室内には白服の男と白水とプロが数人、そして巻き添えを喰った者数人が倒れていた。 
ツヨシンは一人でルビー達の後を追ったようだ。 
それに南天とウェッブの姿もない。 
逃げたのだろうか、見るとエレベーターが地下に向かって作動している。
「追うぞ」
白服の男が後を追おうと窓から身を乗り出す。 
だが、白水はその場で腕を組んだまま動かず、 
他のプロ達は倒れた仲間の介抱をしている。
「何をしている! グズグズするな!」
「…よろしいですかな。 
 貴公は直接の依頼人ではありませんな。 
 我々の任務は守護者とそのマスターの護送、及びモーロックの警備。 
 任務は既に果たしており、ターゲットの逃亡に関しては其方の失敗によるもの。 
 逃げたターゲットを追えと仰るなら別途契約して頂かなければなりません」
「何ィ…」
「それに、先程地球をどうとか仰いましたな。 
 もし冗談でなければ… 
 我々としても流石に戦争をする訳には参りません」
「…猿の分際で生意気な、…覚えていろ」 
白服の男は今にも噛み付かんばかりの形相で白水を睨みつけた後、 
窓枠を蹴破って外に飛び降りていった。
「やれやれ… 
 楽な仕事にはならなかったか。 
 トカゲ殿とドクトルウェッブは逃がすなよ、聞きたい事がある。 
 後はモーロックの警備隊を援護しつつ、侵入者は適当にあしらえ」 
簡単に指示を出しながら、白水は壊れた窓枠に片足をかけ、下を覗き込んだ。 
正面ゲート前では、モーロックの警備隊と助っ人のプロがたった二人の相手― 
仮面の少女とスナイパーに苦戦している。 
少女の体術は相当なものだ。 
多人数を相手に着かず離れずの微妙な間合い、決め手は全てカウンター、 
下手に距離を取れば、今度はスナイパーの正確な射撃が襲う。 
発射の度に弾道角度が異なり、銃声も一つではない。 
まるで狙撃隊の一斉射撃をうけているような感覚だが、スナイパーは一人だ。 
発射ポイントを悟られぬようにダミーの銃声を鳴らし、 
ジグザグに移動しながらの狙撃、こちらも相当な手錬だ。 
しかし、プロも個々の戦闘能力では決して退けを取るものではないはず。 
不意打ちで混乱させられたが、 
冷静の相手の力量を見定め、数の利を生かせば勝てない相手ではないだろう。 
この事態は、プロギルドの総合的なレベルの低下、管理の甘さが招いた結果である。
「なんという体たらくだ… 
 ギルドの再編成も考えねばならんな」 
白水は眼下の光景に溜息を吐き、展望ホールを後にした。
執筆者…is-lies、Gawie様

モーロックは予想以上の被害を受けたが、 
自ら応戦に向かわなかった白水の推測は正しかったようだ。 
獅子奮迅のアリエスも流石に限界が近付いていた。
「さ、さすがにキツイ… 
 これじゃ、ボス戦までもたないわね…」
そんなアリエスに追撃ちをかけるように、 
何者かが屋根を滑り降りて向かって来た。 
片手に何かを抱え、背には光の翼が煌々と輝いている。 
強敵であると直感的に判断したアリエスが身構える。 
が、相手は2階に張り出したテラスに一旦着地し、更に大きく飛翔、 
そのままアリエスの頭上を越え、外壁の向こうに消えていった。
「今の… 守護者? 
 それに、担がれてたのクロノ!?」
戸惑うアリエスの前に、更にもう二人が屋根を滑り降りてきて、 
着地するなり取っ組み合いを始めた。
「クロノ君よォ、悪いが逃がす訳にはいかねェんだ」
「見逃してくださいよツヨシンさん」
「なぬぅ!?またクロノ? クロノが二人?」
「お前…クロノじゃねェな。 
 ヤスか、何で裏切った? 
 ってかヤスじゃねェだろ! 何者だ!?」
ツヨシンの顔面パンチでクロノの顔がグニャリと変形する。 
クロノに化けていたヤス、に化けていたグレートブリテンが再び姿を変える。 
今度は少女の姿、しかもツヨシンも知っている人物だ。
「…本当の敵が何かも知らず、 
 ただ命令に従うだけのツヨシンさん。 
 同じプロとして、そして嘗ての仲間として貴方を軽蔑します」
「な、敷往路メイ…」
敵の変身能力だと分かっていても、これには意表を衝かれた。 
メイの姿のグレートブリテンはスルリとツヨシンの腕を解き、鳩尾に一撃、 
まんまとゲートの外に走り去った。
「う…くそッ… 
 アイツ…名前は忘れたけど多分アイツだ。待ちやがれ…!」
逃げたグレートブリテンをツヨシンが追う。 
呆気に取られているアリエスの前に更にまたもう一人、 
やはり屋根から滑り降りてきたのは保安部の白服だ。 
保安部とは即ちアリエスとDの依頼主でもある。
「おのれ…ガキが…!」
「あれ、アンタは…」
「むぅ? 邪魔したのは貴様か。 
 役に立たんばかりか邪魔までしおってサルが、 
 ガキの次は貴様も血祭りだ」
白服は捨て台詞を吐いてクロノ達が逃げた方向に走り去った。 
依頼を請けた時からただならぬモノを感じてはいたが、 
それとは別に、かなりヒートアップしている様子だ。 
成功報酬は望めそうにない。
状況が呑み込めずにただ立ち尽くすアリエス。 
今度は地鳴りと共、モーロックのドーム側面が崩れ、中から巨大な物体が現われた。 
構造上あまり意味を成さないようなドリルが付いた巨大ロボットだ。
《総員、逃亡者を追跡せよ。 
 逃亡するもの全てがターゲットだ。生死は問わない》
何がどうなったのかは分からないが、 
守護者ルビーとそのマスタークロノが逃亡し、それを全員が追っている様だ。 
結局無視されることとなったアリエスは今一納得のいかないものがあったが、 
これならばDと二人で挟み撃ちに出来る。 
追跡者を排除しつつクロノを確保し、そのまま市街地まで逃げればOKである。
先頭はクロノを抱きかかえた守護者。 
その後を二人のプロが追跡、 
更に100メートル程遅れて白服の男が追う。 
一番遅れて追跡に加わったアリエスの前には、 
南天とウェッブが乗るモグラロボ、ロボットドリモーグ。 
鉤爪の付いた腕で一々地面を掘削しながら進んでいるものだから、後にいるアリエスは堪らない。 
魔法弾の一撃でも喰らわせてやりたいところだが、折角僅かに回復した魔力だ。 
モグラロボの動きは然程速くはない。アリエスは魔力を脚力に集中させ、 
回り込むようにしてモグラロボを抜き去った。
アリエスの前方、約400メートル先を行くのはプロ二人と保安部の白服。 
先程のやり取りでは、プロの一人は味方である可能性もある。
執筆者…Gawie様

バイクで追うツヨシンに、追いつかれると見るや、グレートブリテンは馬に変身し再び距離を保つ。 
名前は忘れたが、以前名古屋大戦で戦ったアイツに間違いない。
「おい! グレートなんとか!」
「グレート・ブリテン様だよォ! 
 政府は何か企んでる! 協力しねェか!?」
「企んでんのはオメェも同じだろ!?」
他の勇者達がそうであるように、
名古屋大戦の結末が記憶からスッポリと抜けているのはツヨシンも同じであった。 
プロの任務よりも、今は何としても其れが知りたい。 
ツヨシンが真紅の魔銃ヴァーミリオンを抜く、その時だ。
「どけどけどけェェェ!!」
白服が直背後に迫る。 
ツヨシンの決断は意外なほどあっさりしていた。 
いや、ヴァーミリオンがそうさせたのかも知れない。 
白服はツヨシンの放った銃弾に頭半分を吹き飛ばされ、脳みそを撒き散らしながら転がった。 
如何なる能力者と言えどもこれは即死だろう。
「…やっちゃった。 
 これでお前もプロには戻れないな」
即死はグレートブリテンの目から見ても明らかだった。 
仮に変身能力等で体型を変化させる事が出来たとしても、生物としての基本構造は変わらない。 
頭を吹き飛ばされれば当然死ぬ。 
ところが、どうやら相手は人間ではなかったようだ。
「脆い…!
 こんなにも脆い人間がぁ我等に逆らう!!」
異様な波動。 
グレートブリテンが遺跡で感じたものと同じだ。 
ひんやりとした死臭にも似た不快な空気が辺り覆っていく。

 

先頭を行くクロノ達も背後から覆う悪寒を感じ取った。
「マスター、敵Aの予想戦闘力が増大しました」
「追いつかれるのか?」
「いえ、一時的に距離が開きました。 
 こちらが停止状態での接触予想時間は38秒。 
 時間内にウルグザハニルのチャージ可能。 
 ただし同時に、敵B、不明Aには追いつかれます」
「………よし、降ろしてくれ」
ルビーが身を翻し、その場に着地。 
足がフラつくのを堪え、クロノがサテライトキャノンを構える。 
ルビーのギミックアームと接続されると、
今までただの鉄の塊のようだったサテライトキャノンが
ブゥゥゥンという低い音を発し、砲身が伸びる。 
ルビーの光の翼が一層輝きを増し、
それに呼応するように二つの衛星からそれぞれの光が射す。
「エーテル増幅、 
 発射まで10秒…9…8…7…」
ここでツヨシンとグレートブリテンが追いついた。 
クロノも覚悟を決めるが、
二人は直に反転し、クロノ達の両脇を固めるように迎撃態勢を取る。
「サテライトキャノン、いけるのか…?」
どうやら二人は邪魔をする気はないようだ。 
だが、一番ヤバそうな敵、白服のバケモノがもう目前まで迫る。
「3…2… 
 砲身に亀裂発生!」
「構わねェ!!いけェェェッ!!!」
「ぐぅおぉサ…サルめがァ!!」
其の刹那、視界の全てが光に包まれた。 
白服のバケモノも、其の後を追って来るプロ達や警備員達も、地面も空も。 
クロノ、そしてツヨシン、グレートブリテンは、 
まるで其れそのものが脳を揺さ振っているかの様に感じられる程の轟音に耐えつつ、 
サテライトキャノンの反動に備えて其の場に踏ん張るが、 
予想に反して、精々強風と感じられる程度の風が全身を打つに留まっていた。 
だが、其の光に満ちた世界の中、 
何も見えないという事に加え、風に全身を強く煽られているという事から、 
クロノは自分が立っているのか浮いているのかも解らなくなり、 
目の前に敵が迫っているという恐怖以上の、 
自分が取り返しの付かない事をしているのではないのかという、 
根拠の無い恐怖に捉われてしまっていた。 
慌ててサテライトキャノンのトリガーから手を離そうとした其の時、 
直ぐ近くで耳を劈く轟音が起こり、激しくクロノの体を… 
…最早、地とも壁とも判断出来ない何かに叩き付ける。 
先の白服に千切られた耳に、轟音がやけに響いたと感じたのを最後に、 
クロノ・ファグルの意識はプツリと途切れた。
執筆者…Gawie様、is-lies

 

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