リレー小説3
<Rel3.サテライトキャノン2>

 

 

「くそ…思ったより早いな…」
Dはトレーラーを追跡しながら面倒そうに呟いた。 
その時、携帯電話のバイブレーターが動き始め、 
Dは無言で携帯電話をとった。 
「…」 
《Dか?たった今そちらに応援を送った》
「はいよ、ご苦労なこって」 
《もうじきそっちと合流するはずだ》
「はいはいっと…」 
Dはそのまま携帯電話を切り、再び追跡を開始した。
「さてと…」 
「ちょっとあんた。」 
「うお!!?」 
いつのまにか隣に並んでいたバイクに乗ってる人物に 
不意に声をかけられDは驚いて声を上げた。 
声をかけたのは14から16くらいの無機質な表情の仮面をつけた 
赤毛の少女だった。
「あんたでしょ?Dって…」 
「そうだが…お前は…?」 
「あたし?あたしはアリエス、助っ人よ」
助っ人…恐らくは雇い主の言っていた応援の事だろう。 
だが、幾ら何でも早過ぎる。先程、たった今送ったと連絡があったばかりだ。 
自分の雇い主は思った以上に近くにいる…いや、其れでもこの早さは異常だ。 
まるで打ち合わせたかの様な登場に、不安と疑問を抱くDであったが、 
アリエスという助っ人の言葉は、有無を言わせない。
「何、ボーっとしてんのよ。ホラ、トレーラーいっちゃうじゃない」 
 発信機を付けてるっていっても、見てない所で車を乗り換えられちゃ意味無いでしょ?」
何だか妙に胡散臭い助っ人だが、 
確かにターゲットを何処か解らない場所に移されても困る。
「…解った。宜しく頼むぞ」 
バイクに乗ったまま、2人は遠巻きにトレーラー追跡を続ける。
併し、トレーラーに乗っているのはプロ。 
そう簡単に眼を欺けるものではなかった。
執筆者…R.S様、is-lies

「………ギルドマスター。後方から追っ手です。 
 速さからして……バイクみたいですね」
索敵能力を持ったプロの1人がD達に感付く。
「人数は?」
「2人です。どうも素人じゃなさそうですよ。 
 一方は…妙に近付いて来てますね……何だ? 
 まさか……仕掛ける積りか!?」
「いや、まてまだ追っ手と判明したわけではない。 
 …しかし、警戒して損は無いな。グレムリン、ケビン、迎撃の準備をしろ。」
しばし思案した後、白水は部下二名に命令を下す。
「うす、ギルマスお任せくだせい。ぶっ殺してやりまさぁ。」 
パンクファッションの小男が答える。
「いや、殺さんでも良いだろう、お前の能力(ちから)でバイクをぶっ壊して足止めしろ。 
 逆に返り討ちにあってもつまらんだろう。やばくなったら命令を出すからすぐ行けよ」
「へい、分かりました。では、先に行っておきます。」 
「…」 
パンクファッションの小男は白水に頭を下げると、
となりのレザージャケットを着た黒色長髪で眉無しの男を連れて後部に移動する事にした。
「それから、行き先はモーロックだったな。先にゲートを開放させておくとするか。 
 それに奴らがゲートを強引に突破しようとすれば
 迎撃すべきか先行すべきか判断しやすいというもの…。」 
壁掛けモニターに携帯電話のコネクターを突っ込み、テレビ電話をかける白水。

 

「…なぁ、ちょっと質問良い?」 
隣のウォークマンで音楽を聴いている男に尋ねるツヨシン。
「あ?なンだよ。」 
面倒そうにイヤホンを引き抜く男。
「なぁ…モーロックとか、ゲートって何?」
「あン?あぁ、そうだったなお前こっち(火星)には来たばっかだったな。 
 テラ・フォーミングの前は、外は空気はすえないわ宇宙線で危険だわで、
 密閉したドームを立てて穴倉掘ってそこで暮らしていたんだよ。
 その後、テラ・フォーミングの成功で外で暮らせるようになって、
 用済みになったドームに、そのころから問題になっていた厄介な犯罪者やら、
 反逆的な獣人と言った、国からしたら隔離しておきたい奴らを閉じ込めるようにしたってことだ。
 それを通称モーロックと呼んでる。
 昔は空気が漏れないように、今じゃ出られちゃ困る奴らを出さないために、
 数箇所だけゲートを設置して出られないようにしている。 
 ついでに許可無く入ることも難しくしているわけだが、それはまぁ出るときよか難しくは無い。
 …なんでも噂じゃ、外に知られてはいけないような事をひっそりとやってるとか…。
 もっとも、その噂も今回の仕事から考えれば(ルビー・クロノにちらりと視線を送る)…
 …あながちウソじゃないみたいだがな。」
「…そっ、そうか(イマイチ分からん)。」 
とりあえず頷くツヨシン。

 

その間に白水は、電話で話をつけていた。 
「…分かればいいんだ。我々は急いでいるんだ、あらかじめゲートを開いておけ。 
 そして、我々が通った後早急にゲートを閉めて、
 その後で入ろうとする奴はしっかりと調べて、情報が入り次第こちらに送信しろ。」
《もちろんですとも…シークレットオフィサーの方の頼みとあれば…》
蒼い顔で答えるゲートの担当官。
「そうか、協力感謝する。さてと…。」 
電話をしまう白水
「先生、情報漏れについて何か心当たりは?隠すとためになりませんよ。」 
南天を睨みつける白水。
「…わっ、私は知りませんよ…。
 ただ、噂によると政府の一部では反閣下らしき不穏な動きがあるとか…。」
執筆者…is-lies、Mr.Universe様

しばし時間を巻き戻して、後部仮眠室兼物置に視点を移す。 
仮眠用ベッドにはルビーの手刀で胴を貫かれた男が包帯を巻かれて横たわっている。
その隣にはヒビのいったゴーグルをかけたヒゲ面の男がいる。
「ぐしぐし…よかったなぁヤスよぅ、コンピューターの診断によると
 傷は奇跡的に肺と心臓の間をギリギリ通り抜けて、背骨をそれていたんだと。
 おまけに動脈・静脈も外してるんだと。 
 俺はもう、お前が死んじまったもんだと覚悟していたよぅ。」 
ゴーグルヒゲの男は男泣きに泣きながら、包帯の男・ヤスを看病していた。
「ヘイ、自分運が良かったんスね。 
 ところで、兄貴…もう大丈夫スから、いつから作業に戻れるスか? 
 兄貴達に面倒かけるのは心苦しいっスよ…。」 
ヤスが言う。
「ダメだダメだ!いくらお前が超再生能力の持ち主でも、数日は無理だ。 
 …なぁ、お前なんかおかしいぞ…
 冗談なのかもしれないが俺のことを兄貴兄貴言うのはよせよ。しばらく休んでろって。」 
そういってゴーグルヒゲはタオルを取りにベッドのそばから離れた。
(やばい、やばい…グレート・ブリテン様も修行が足りないな。
  まぁ、あの感じじゃ入れ替わってるとは気がついてはいないようだな…
  しかし、不意打ちで腹をぶち抜かれるとは思わなかったな)
そうつぶやくヤス、いやさその実、病院で入れ替わっていたセレクタ工作員グレート・ブリテン。
彼は遺跡で火星帝を見かけたときからそのまま調査を続行していたのであった。
情報をつかんだ彼は病院の看護婦に化けてヤスに下剤を盛り、
一人トイレに行ったヤスを襲撃して入れ替わっていたのだ。 
ルビーに腹を突かれて一時危険だったが、
変身能力を活用した細胞並び替えで傷を応急処置しておいたため
コンピューターは急所を外していたと診断したのであった。
「お、グレムリン、お前も手伝ってくれるのか?」 
ゴーグルヒゲの声が響く。
白水の命令でやってきたグレムリンとケビンがバイクの準備をしにきたのだ。
「ちげぇよ、バカ、追っ手がいるみたいだから迎撃しろとさ。」 
パンクファッションの小男ことグレムリンが、警棒をもって、バイクを調べる
「…。」 
眉なし長髪がガンストックからショットガンを手に取る。
2台のバイクは進行方向と逆を向いて設置されており、
命令一下で後部ドアを開放すればすぐに追跡者を迎撃できるようになっていた。 
2台ともしっかりとチューンナップされており、特に小回りが利くように改造されていた。 
ハグリン! 追っ手との距離は?」
《片方は100m前後間隔を空けて来ていますが、もう片方は30mもありません。 
 うちの車、速さには自信あったのですが… 
 流石にぐんぐん距離を詰められて来ています》 
グレムリンが通信機で、 索敵能力を持ったプロことハグリンから情報を収集する。 
思った以上に大胆な追跡者だ。 
火星に於いては大胆な敵とは、自分の能力に自信がある敵と相場が決まっている。 
直ぐに追い付かれるだろうと判断したグレムリンが、 
自分のバイクを逆に…詰まり進行方向と同じ向きにする。
「随分と楽しませてくれそうだなぁ〜」
《慎重に行った方が良いですよ。 
 今、大胆な追跡者は… 
 車の進行方向から向かって左。徐々に近付いて来ます》
「わーってる、わーってる。 
 んじゃ、ちょっくら行って来るぜェ!!」
グレムリンの叫びと共に、後部ドアが開放された。 
勢い良く飛び出すケビンとグレムリン(逆向き)。 
彼等が出たと同時にコンテナのドアが閉じる。
近付き過ぎてグレムリンに背後を取られたアリエス。 
そしてケビンを真正面から迎え撃つ形になるD。
執筆者…Mr.Universe様、is-lies

「ええい、気付かれたか。アイツが近づきすぎるせいだ…」
コンテナのドアが開けられたのを見て、ボソリと文句を言うD。 
実際は、例え彼女が近づいてなくても気付かれていたのだが… 
その呟きを言い終わるか終わらないかの内に、2台のバイクがトラックから飛び出してくる。
一人はアリエスのバイクの後ろにピッタリと付き、もう一人はDのほうへと迫り来る。 
Dと対峙する男は、なんと両足でハンドルを器用に操り、両手にはショットガンを構えている。 
並のバランス感覚と修練ではできない芸当だ。 
その男はショットガンの銃口をDへ向けると、トリガーに手をかけた。

 

アリエスは、背後をとられた自分に憤り、舌打ちした。 
自分の背後の男をチラリとミラーで見る。 
と、同時に見えたのは、おそらく後ろのDと対峙しているだろう男。 
なんと、足でハンドルをコントロールし、空いている手にはショットガンを構えている。 
当然銃口はDに向けられているだろう。
高速で疾走しているバイクで、果たしてそれが避けられるのだろうか。
それらのことを一瞬で思い巡らせていたアリエスは、
後ろの男の「キヒヒッ」という下卑た笑いで
自分が他人の心配をしている場合でないことを思い出さされる。 
どうしたものかと思案して、再びミラーで背後を見ると、
さっきまで背後に居たはずの男の姿が無い。
「!?」
驚き、肩越しに振りかえると、
二人の男が盛大に転倒し、遥か後方へ流れていくのが目に映った。

 

Dは、男…ケビンがショットガンを構えているのを見ると、
懐からサイレンサーのついた拳銃をとりだし、
ケビンがトリガーを引くよりも早く、ケビンの左肩、バイクの前輪を撃ちぬいていた。
タイヤのパンクしたバイクは、
いかにケビンのバランス感覚をもってしても制御しきれず、あっさりと転倒した。 
と、アリエスの後ろについていた男も転倒する。 
ケビンを撃つと同時に放っていた銃弾が同じくタイヤに命中したのだ。 
実際は、4発撃ったうち、当たったのは1発だが。
2人のプロがあっさり倒されるのを見、
多少驚きの表情を見せていたアリエスとニヤッと不敵に微笑むDとの目が合う。
アリエスはDに同じような笑みを返すと、事を起こすべくさらにトラックに肉薄した。
相手にバレてしまっていた以上、既に隠れる意味は無い。 
発信機を見付けられるのも眼に見えている。 
一気にトレーラーを押さえてしまおうと考えるD。 
このアリエスという応援の登場以上に、 
トレーラーのプロ達が…少なくとも今、撃退したプロが、 
思っていた程の手練ではなかったと感じたからだ。
そうこう考えている間にアリエスがトレーラー後部にぴったりと張り付く。 
併し、だからといってトレーラーの扉が開かれる訳ではない。 
何をする積りだと訝しむDの目前で、 
アリエスが其の小さな脚でトレーラーのコンテナに蹴りを入れる。
Dは眼を疑った。 
アリエスの蹴りがコンテナに軽々と大穴を開けたからだ。 
穴の中で、Dとアリエスに驚愕の視線を向けるプロ2名。 
其の片割れが包帯を巻いていた。怪我人の様だ。
(………?中で…何かあったのか?)
Dが始終眼を離さずに、病院を監視していた時、 
トレーラーに戻っていったプロ連中が無傷であった事は確認出来ている。
「な…何だ、コイツ等!? 
 …は…発破でも仕掛けやがったのか!?」 
包帯を巻いたプロを看護していたと思われる、 
ヒゲゴーグルのプロが混乱して叫んで身構えようとするが、 
其れよりも早くDの放った銃弾が彼の両肩を貫通していた。
「ぐがぁ!?」 
何が起こったのかも解らずにのた打ち回るヒゲゴーグル。 
同時にDとアリエスはコンテナに開いた大穴からコンテナ内部へと侵入していた。
「この奥だな!行くぞ!」 
「随分と勢い付いてるじゃん」
アリエスという応援が、 
思っていたよりも遥かに強力な能力者であると知ったからだ。 
加えてD自身も裏の世界では名の知れた敏腕暗殺者。 
幾ら能力者で構成されたプロといえど、 
Dの精密且つ素早い射撃を回避出来る相手はそうそう居ないだろう。 
数で畳み掛けられたり、相手の結晶能力によっては返り討ちにあう可能性もあるが、 
コンテナの中はちょっとした基地の様になっており、 
一斉に襲い掛かられる様な場所は限られている様だ。 
十分、制圧可能と判断した訳である。
其の場に倒れているヒゲゴーグルのプロと包帯のプロを置いて、 
Dとアリエスは前の部屋へと進もうとする。 
所詮はコンテナ。そんなに広くはない筈だ。
執筆者…you様、is-lies
すぐに前部への扉が見えて来た。 
ずんずんと進むアリエスと、其の後ろで警戒しながら進むD。 
敵が出て来る気配も無く、すんなりと扉の前まで着く2人。 
アリエスが扉を開けようとした、次の瞬間… 
Dとアリエスは扉ごと爆風に吹き飛ばされた。
「なぬぅ?」 
「ぐっ!?」
飛ばされ、激しく壁に叩きつけられる2人。 
流石に今のダメージは軽くなく、立ち上がる事もままならぬD。 
併し、Dよりも扉に近付いていた筈のアリエスは、 
ぴょんと起き上がって扉があった方を見遣る。
其の場所には3人のプロが杖を構えて待ち受けていた。 
恐らく、先程の奇襲は、彼等の放った魔法だったのだろう。 
仲間を吹き飛ばすとは考えなかったのだろうか? 
否、仲間を吹き飛ばす心配など無いのだ。 
索敵能力で互いの位置は完全に把握出来ていた。
「こいつ…今の一撃でも無事だと……? 
 集中攻撃だ、気を付けろ!並みの能力者じゃねぇぞ!」
プロ達が魔力の攻撃をアリエスに集中する。 
通路ごと消し飛んでしまうのではないかと思える程の魔法弾の連発。 
最早、此処までとDが悔しそうに眼を瞑るが、 
何故かプロ達はけたたましく攻撃を続けている。
「くそっ!?き…効いてねぇのか!?」
プロの叫び声に驚き、Dもアリエスを見てみると、 
彼女は黄金のオーラを帯び、平然と其の場に佇んでいた。 
プロ達の放った魔法は其の全てがオーラに触れると同時に消滅していた。
「Dッ! 今の内に敵、片付けて! 
 この状態だと、あたし、動けないンだからね!!」
其れを聞き、慌てて体を無理矢理動かし、 
プロ達に狙いを定めようとするが、 
先程の衝撃の為か、照準が巧く合わせられない。 
銃を握る手が汗で濡れる。
「ちっ…魔法無効化…くそっ!! 
 あれを使え!」
直ぐに攻撃を切り替えようとするプロ達。 
急遽、持って来られたのは…ロケットランチャー。
「!??」
互いにプロ同士の戦い―― 
そこでは技量の差など微々たるものだ。 
引金に指を掛けたまま戸惑ってはいられない。 
勝負は、素早く冷静に引金を引いた方の勝ちなのだ。
咄嗟に体を捻り、倒れ込みながらDが引金を引く。 
同時に敵のロケットランチャーも発射されるが、 
弾道はアリエスの頭上を通過し、コンテナ後部の天井を吹き飛ばした。
「ハァ、ハァ… 
 アイツら正気か、トレーラーの中だぞ!?」
爆煙を掻き分けながら、Dとアリエスが前に進むと、 
三人いた敵の内、二人の姿はなく、 
残りの一人は仰向けでロケットランチャーを構えたまま絶命していた。 
Dの弾丸は見事に相手の眉間を撃ち抜いていたのだ。
「…やるわね。助かったわ」
「別に、助けたつもりはない。 
 俺の方がコンマ数秒速かっただけだ。 
 解ってると思うが相手もプロだ。 
 ナメてかかると…… ってオイ!」
Dの忠告も聞かずにアリエスはズカズカと歩を進める。 
アリエスが勢いよくドアの蹴り開けると…
「なぬぅ?」
そこには何もない通路が続いていた。 
ただ…
「どう考えても広すぎる…」
間違いなくここは走行中のトレーラーの中だ。 
外から確認した限りでは、車体の全長は50メートル程度。 
しかし、アリエス達の前方には、 
先も見通せないほどの長い通路が延々と続いていたのだ。 
間違いなく敵の能力によるものだろう。
「小癪な…」
「どうする? 敵に術中に嵌ったぜ」
「走破してブチ破る!」
「やれやれ… 
 (しかし、今回のターゲットはそんなに重要なのか…? 
  それとも…コイツが単にバカなだけか…?)
闇雲に走り出すアリエスに、Dも渋々と従う。
たとえ敵が能力者であったとしても、姿を見せて向かって来るうちは、 
異能力を持たないDでも対処のしようはいくらでもある。 
しかし逆に、姿を見せない相手というのは、 
狙撃を得意とするDにとっては、これ以上の脅威はないのである。
執筆者…is-lies、Gawie様
「ったく………行けども行けども何も見えてこない…」
しかも敵の気配もまるで感じられない。 
目の前に延々と続く通路は、間違いなく敵プロの能力によるものだろう。 
単に視覚のみを惑わすというのではなく、気配まで狂わしてしまっているのか… 
傍の壁を叩いたみるが、ちゃんと触れる。 
壁は幻覚ではない。だが通路は間違いなくまやかし。 
触感まで操作可能な能力だという可能性もある。
相方と己の軽率さを呪うD、だが突如、床が揺れる。 
同時に強風が通路の奥から吹いて来た。 
飛ばされない様、壁に掴まるDとアリエス。
「!?」
風に吹かれる様にして周囲の景色が流れ去っていった。 
通路の景色を映していた霧は、霧散して消えてゆく。 
恐らく、今の霧がプロの放った足止め用の能力なのだろう。
何故か敵の術中から解き放たれたDとアリエスは、 
直ぐに通路の先を確認しようとするが、

 

通路の先は……道路だった。 

 

先程、バイクでこのトレーラーを追っていた時、 
走っていた道路。
通路であったはずの其れは途中から無くなっていたのだ。 
そして目の前…道路を挟んだ所に通路の続きがあった。 
一瞬、これも幻術かとも思ったD達だが、これが現実である。
プロのトレーラーは切り離しが可能だったのだ。 
幻覚の霧で足止めされている間に、D達のいる後部ごと切り離された訳である。
唖然とするD達を嘲笑うかの様に、 
トレーラー前部は高速道路を下り、街の方へと向かっていった。
「ちぃ!こうなったら後部の連中を…」
…締め上げて情報収集と考えたのだが、 
後部に居たプロは既に脱出していた様で、影も形も無くなっていた。
アリエスも切り離されたトレーラーから高速道路に降りる。
「…まったく…脇役のクセに小賢しい奴らね。
 人の物を無断で持っていこうとは良い根性だわ。 
 あの車、ぶっ壊す事に決定!」 
アリエスがきっぱりと言う。
「おっ、おい、何言ってんだ?この位置からどうやって壊すってんだよ!?」 
アリエスの正気を疑うDがアリエスの肩に手を伸ばす。
「邪魔よ。そこで黙って見てなさい。 
 一撃で片を付けるから… 
 あぁ、もうどうしてこうこの世界の呪文ってややこしいのよ!
 さっさと私の言うことを聞きなさい!」 
Dの手を払いのけて、2,3歩進むアリエス。足を肩幅程度に開き、両手を突き出す。
深く息を吸い込んだアリエスの瞳が怪しく光る。アリエスの異容に息を呑むD。 
アリエスがくぐもった声で呪文を詠唱する。
それはDにとって理解できるものではなかった。言語的に異質のものであるが、
よしんばなじみのある言葉だったとしても
詠唱速度が尋常ではなかったために理解することは不可能であっただろう。
2本の腕は複雑な呪印をキャストしている。
………行けッ!!我が忠実なる雷獣よっ!
 彼の愚かなる者を汝が鋭き顎にて噛み砕け!!
どうやらそれが詠唱の完了を示していたようだ。
アリエスの手から青い閃光(大気を疾走する電気の流れ)がほとばしり、
天に向かって吼え上がりのち、トレーラーをめがけて襲い掛かる。

 

 

「ギルドマスター!後方で強力な魔力の集中です!おそらくは先ほどの刺客かと! 
 しかも、この規模…ウソだろ人間の出せる魔力じゃねぇ!?」 
アリエスの魔力を感知しうろたえるハグリン。
「ほぅ、どうやらまだあきらめてないようだな。
 こうまでして追いかけるとは、小僧お前は一体何者だ?」 
白水が手足を縛られたクロノを引っ張って立たせる。
「そんなこと知るわけ無いだろ!!縄をほどけっ!!」 
手足を縛られても強がるクロノ。
「ツヨシン、暫くこいつを預かってくれ。 
 ワシが出る!!」 
ツヨシンにクロノを投げ渡すと、トレーラー台座部分のせり出しに飛び出す。
執筆者…is-lies、Mr.Universe様
トレーラーをその牙にかけようとする雷は白水を視界に捕らえると
その脆弱な定命の者を最初の生け贄に定め突進していった。 
勝利を確信するアリエス。
白水はニヤリと不敵な笑みを浮かべると右の手で和風の拵えの長刀の柄を掴み、鞘から抜き放つ。
その時、紅の刃の表面に一瞬火花が走ったかのように見えたが、それは夢か現か!!?
雷撃の咆哮、それに対するプロフェッショナルギルド・ギルドマスター白水東雲は
抜き放ちたる刀を片手で右車に構え…
雷獣が剣士を打つその瞬間、白水は手首を返して無謀にも切り上げた。 
そして…電位差の化け物はその牙を振るう暇もなしに真っ二つに切り倒され霧散してしまったのであった。
白水が刀をぶんと振るって鞘に収め、破顔一笑して曰く
「これぞ、秘剣『鵺返し』!!名刀『暁太刀』に切れぬものなし!!」
読者諸氏に種明かしをするならば、
かの剣にはエーテル吸収能力があり、そのために魔法攻撃を無効化してしまったのである。
しかし、そうはいっても飛来してくる魔法を打ち落とすとなると相当な技能が必要となる。 
いわんや、相手はアリエスの全力を投じた一撃である。
中心点を見切れなければ減殺は出来ても完全に切り倒すことは出来なかっただろう。 
2激目がこないのを確認した白水は背を向けて、車の中に戻る。

 

「なっ、何よッ!
 ザコの分際で、私の魔法を打ち消すなんて生意気よぉッ!
 くっ、うっ…力を注ぎすぎたみたいね…。」 
高威力魔法を高速詠唱したせいで発生した急速なエーテルの減少によろめくアリエス。
急に髪が色合いを失っていく。 
「…、おい、アンタ、あんな派手な技使って大丈夫なのか!!?」 
アリエスを抱き起こすD。
「くっ…余計なことをするな…すぐ治るッ…。」 
Dの見ている前でアリエスの手が目をかたどったブローチに伸びる。
人差し指と中指で深い赤の色に輝く瞳の部分に当てる。 
およそ30秒ほどそうしている内にアリエスの荒い息が収まり、髪にも色が戻ってきた。
一方指が離れたブローチの瞳は濃い緑色に変化していた。
「…ん、よし、これでいいわね。」 
アリエスはDを押しのけて立ち上がる。
「…お前、すごいな…。 
 それはともかく、どうやらミッション不達成みたいだな。
 探知機の反応も旧市街に入ったら、あてにならないし…。」
「いや、まだだ。まだ追いつけるよ。」 
アリエスが無表情に言う。
「追いつくったって、車もバイクも無いんだぞ?いくらなんでも無理だろ!?」
「お前らだったらね。私は、魔法で飛べるからな。」 
そういい終わると、呪文をキャストし、浮かび始めるアリエス。
ただし左手はブローチに添えられている。
「お前は先に帰っていろ!
 私は奴らを仕留め、あるべきものをあるべき場所へと返す。
「おっ、おい!無理だろ!!距離が開きすぎてるぞ!!」 
そう叫ぶDを無視して飛び出すアリエス。
バイクよりは遅いが、相当なスピードである。
ずっと飛んでいけばいつか追いついたことであろう。 
ただ、よろしくないことに白水たちのトレーラーは、
すでにゲートを通ってモーロック区に入っていたのである。 
そして、ゲートでは“火星政府シークレットオフィサー”であるところの白水東雲の命によって、
不信人物を足止めする準備がしてあるのであった。 
ゲートガードの職員数名に、数十体のガードロイド(そのうち半数は飛行機能を持つ)と、
暴動鎮圧用のマシンタンク4車両が分厚いゲートの先で無言で待機していた。 
執筆者…Mr.Universe様

 アリエスの電撃をぶった切った白水は、ゆっくりと運転席の方へと戻る。
「ギルドマスター、何者かが追跡しているようですが、どうしましょう?」 
助手席のハグリンが白水に支持を乞う。
「いちいち、ワシに聞かないと何をすべきか分からんのか?
 すておけ、これだけ距離が開けば追いつけまい。」
そこで白水は視線を外に送る。
車がゲートが通り抜けて、分厚い鉄板が閉まっていくのが後ろに見える。
「ところで、そこなトカゲ殿、あなたは我々に説明無しに何をしているのですかな?」 
南天のごつい手から携帯モバイルを取り上げる白水。
「ああっ、こっ、これは…到着前に連絡を入れておくべきかと思いまして…その。」 
焦りながら答える南天。
「あんたは聞いたことがないかね?
 ワシ等のような者達の基本的なルールでこう言うのがあるのを。
 『弁解は罪悪』ってやつだ。 
 さぁ、モバイルを貸してもらおうか。ほほぅ、ドクトル・ウェッブか。 
 ドクトル、俺だ白水だ。依頼どおり“守護者”を届けに来たぞ。」 
南天から奪ったモバイルを壁掛けモニターのジャッキに接続する。
一瞬画像がぶれてのち、モニターには
両目を覆う形のスコープを付けた額の禿げ上がった巨大な鷲鼻をした老人と、
オフィスらしき清潔な部屋とブラインドのかかった窓が写る。
《むっ、白水君か、まぁ良かろう。 
 まずは、依頼達成おめでとう。口座に約束の金を振り込んでおこう。 
 …ところで、念の為だ“守護者”の顔を見せてもらいたい。》
ウェッブ博士の声が壁掛けモニターから聞こえる。
プロの一人がルビーを引きずってモニター前につれてくる。
あいかわらず視線が定まらない。
「ルビーを放せ!ぐっ!」 
クロノが叫ぶが、ツヨシンに口を抑えられる。
《ん?何だね、あの声は?》
クロノの声に興味を引かれたウェッブ博士。
「あれは、“守護者”が誤認識したマスターの少年だ」
《ふむ、それは厄介だな。まぁ、どうにかできるだろう。 
 それより私は“守護者”の方に興味を惹かれるね。
 ふむ、このジャッキ穴のタイプおそらくはD型だな
 …うーむ…動作停止状態ではなんとも判断しかねるが…
 よろしい到着後すぐに首実検をさせてもらおう。》
モニタ越しにルビーをじろじろと観察するウェッブ。
目の部分のスコープが鈍い音を立ててルビーの首筋をねめつける。
「首実検?一体何をするつもりだ?」 
すでに席についている白水が尋ねる。
《うむ、先日遺跡で発見されたこれだよ。》
ウェッブ博士が机のスイッチを押すと、窓のブラインドが上がり奥の工場が見える。
太い金属の筒のようなものがクレーンで吊り上げられ運ばれていく。
奥に何か巨大な物体があるが、影になって良くは見えない。
《あれは、星をも砕くと謳われた古代の兵器だ。
 我々はサテライトキャノンと呼んでいるがね。 
 文献どうりならば“守護者”との接続によってあれが動くはずだ。》
ニヤリと笑う博士。
「…そうか、そろそろ到着するから通信を切るぞ。」 
そう言ってモバイルのコードを抜く白水。
しかし、ほんの数秒後また着信が入る。
プロの一人がモニタのスイッチをさわり、起動させると、
ガードロイドやマシンタンクの残骸から煙がもうもうと立ち上る景色を背にして血まみれの男が映っている。
《うっ…ぐっ…すいません。ゲートを突破されました。
 相手は…奇妙な仮面を被った女性一人、です。 
 不意の一撃で大半が…吹き、飛ばされました。 
 しかしっ、援軍に…
 援軍に、よって撃退する事に成功…やつは退却しました。 
 以上…通信を終了します。》
そこまで言って意識を失いガクッと倒れる門番。
「ふむ…突破されたが退却か。 
 まぁ、雑兵にしてはやってくれたな。これで依頼も終了だな。」 
ほくそえむ白水。
執筆者…Mr.Universe様

 

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