リレー小説3
<Rel3.サテライトキャノン1>

 

 

 クロノは夢を見ていた。何者かに追われる夢を。 
それらは、人のような姿をした2足で駆ける獣であり、
上から落下してくる粘った黒い物体であり、
複眼と毒々しい鱗粉をまとった翼を備えた巨大な昆虫であり、
すべての思いつく限りの恐怖であった。 
クロノはそれらの化け物から逃げていた。
本当ならば何が何でもこらえるはずの恐怖が
子供のような弱い悲鳴になって口からもれていた。
延々と逃げていくクロノだが、
それ達の追跡はすばやくついに追い詰められしまった、
さらに目の前には断崖絶壁。 
絶望して振り向いたクロノを、
白衣を着た黒いトカゲと人間の醜悪な合いの子が覗き込んでいた。
その化け物は口を開いて何かを言いかけた…。

 

 「うわぁあああ!!」
クロノはここで目を覚まし、
とっさに目の前にいたトカゲの化け物の無防備なアゴに綺麗なアッパーカットを入れていた。 
「うわぁ!クロノ何してんだよ!先生伸びちゃったぽん!」
横から馴染み深い清の、これは珍しい驚いている声が聞こえた。
「え?」 
クロノがあたりを見回すと、そこは小さいときからなじみの病院の診察室であり、
床に盛大に転がっているのは
獣人ながら医者の免許を取り開業医をしているところの南天先生であった。 
さらに清、ブー、あと白海、それから…
記憶がはっきりしないが何だか見たことのあるような顔の少女(それも豪く可愛い)が
ニコニコして狭い部屋の中にいた。
「クロノーーーーと、そのルビーちゃんだっけ?
 が気絶しちゃったから、しょうがないから僕らで運んだポン。
 すごく大変だったんだポン。しかもそのあと2日も眠りっぱなしだし…」 
ぽん吉が、椅子に腰掛けながら言う。 
「全くですよ。しかも、そこの2人ったら
 僕にそこの小娘を一人で任せて、先に行っちゃうし…」 
「だって白海、ホモだからクロノ任せたらどうなるか分からないし。
 ルビーちゃん軽そうだったからね」 
ブーが勝手にお見舞いのフルーツを剥きながら言う。
「ふーん…そっか、迷惑かけたな…っと、
 ところでその…あの娘は何なんだ!?」 
クロノは一区切り聞いてから、さっきから気になっていたことを単刀直入に聞くことにした。
「ボクは、ルビーだよぅ」 
クロノが自分のことを話していると気付いたらしいルビーは、
いきなりクロノの首っ玉にしがみついた。 
「ぐぇ…」
「ん〜、ルビーちゃん。守護者なんだってさ。
 そんで、クロノがマスターだとかなんとかだポン。」
清がルビーにまとわりつかれているクロノを微妙な目つきで見ながら言う。
「…なんだよそれ訳わかんねぇぞ…」
クロノ困惑 
「だって、本人がそういうんだから仕方ないよ」
ブーが最後のリンゴを口に放り込んでそういう。
「僕がクロノ君のために買ってきたお見舞いを食べてるんじゃない!!」
白海がブーを扇子でどつくがブーは全くこたえていない。
「このバカに代わって僕が解説させていただきます!
 そこの小娘!クロノ君から離れなさいっ! 
 小娘はおそらく火星古代文明の人造生命体。
 パパについて研究所に行ったときに見たことがあるよ。
 実際に動いてるのを見たのは初めてだけどね… 
 それから、これは憶測でしかないけど、その娘(こ)がバカになっちゃったのは、
 クロノ君ともども気絶したときのショックでデータが消えているせいだね。」 
これで話は終わりという調子で扇子をたたむ白海。 
「…ふーん。そっか。」 
説明を受けてもあまりにも穴だらけだったため納得がいかないクロノ。
しかもその間、ルビーが周りをひょこひょこ動くので気が気でない。
「そういえば、まだあった!」
白海が素っ頓狂な声を上げる。 
「なっ、何ポン!?」 
ニヤリと笑う白海 
「あの山は、白海グループの物、イコール僕のもの。
 だ・か・ら、そこで見つかったルビーも僕のものって訳。お分かり!?」 
「んな!むちゃくちゃなこと言うんじゃないポン!!」 
「そうだそうだ!」 
もちろん異議申し立てをする清とブーだったが…
白海はそれ以上にルビーが無言で見つめるのに恐怖を感じて、ついこう言ってしまった。 
「わっ、わかったよ。「それ」はクロノ君にあげるよ。ったく。」
ばつが悪いのか扇子で口元を隠しつつ白海。
「そろそろいいかな君たち?」
いつのまにか気絶から回復していた南天先生がメガネを嵌めなおしながら少年たちに声をかけた。 
あ゛、南天先生すいません」
謝るクロノ。 
「いやいや、元気があってよろしい。
 皆、クロノ君は怪我人だよ、刺激はあまりよくないから、今日はとりあえず帰ってくれないかな。
 それにクロノ君もとりあえず今日明日で精密検査をしてしまえば、
 後は退院だから、それまでここに居てもらえないかな」 
「「「は〜い」」」
清・ブー・白海は良い返事をして帰っていった。 
「あの、バイトがあるんで…家、稼げるのがオレだけだし」 
「あー、大丈夫。気にしなくて良いよ。
 電話入れたら店長怒ってたけど、事情を説明したら治るまでの間は有給ってことにしてくれるってさ」
そして部屋を出て行く南天。
「…あーっと、ルビー?だっけ。
 おま…君は、部屋出て行かないのか…」
ベッドに寝転がってクロノはルビーにたずねる。二人きりになって微妙に気まずい。 
「ルビーも、せーみつけんさ受けろって言われたから帰らない。
 それに…ルビー帰るところ知らない。」
そういったルビーはすこしだけ寂しそうだった。 
「ん…そっか。」
クロノはそういえばさっき話の流れ的に
ルビーが「自分の物」になったことを思い出して、えらいこっちゃと思っていた。
執筆者…Mr.Universe様

 一方、クロノ達の病室から出た南天は
辺りに誰も居ないことを確認して無線機をかけていた。
「南天です。大変です。守護者はすでに覚醒した模様です。
 …はい、すでに登録が終わってしまったようです。 
 大丈夫です、マスターはただの子供です。
 今晩連行していただければ問題ありません。 
 もし、落ちなかったら家族を元にゆすれば良いでしょう。 
 イエス、すべては世界の選択!すべてを我らの手に!」
敬礼して電話を切った南天は、
体中から沸きあがる喜びを抑えられずきちがいのように笑っていた。 
呪われ者として生れ落ちて、闇の道に足を踏み込むことで
やっと人並みになれたと思ったら、こんな僻地に飛ばされていた自分…
其れがここに来て幸運に恵まれている。
このチャンスをいかさずしてどうするかと自分を鼓舞した。
執筆者…Mr.Universe様

  夜 火星、アレクサンドリア病院

 

クロノとルビーが南天の検査を終えた頃には既に外は暗くなっていた。 
ルビーが検査で何か引っ掛からないかと不安であったが、 
南天は特に不自然そうな様子も見せずに、検査を進めていった。 
本来なら古代遺産の守護者を普通に検査する事等、有り得ないが… 
…守護者とはそんなに人間と区別が付かない様に出来ているのであろうか。 
確かにクロノの眼から見ても、ルビーは人間にしか見えないが、 
南天が検査しても全く見抜けないという程のものなのだろうか… 
ベッドの上であれこれ考えるが、病室を元気に駆け巡るルビーに思考を乱されるクロノ。
これからどうするかという不安を以って、窓の外…アレクサンドリアの町々を眺めていた。 
遠くに見える火星都心部の摩天楼が、 爛々とした輝きを放って、とても幻想的に見える。 
だが、クロノはそんな光景にも見惚れる事は無かった。 
火星迄もが開発されたという事は、 
人類が地球だけでは自分達の世界として狭過ぎると感じ始めたからだ。 
資源、土地、更に古代火星文明の技術も欲してるのだろう。 
地球を貪るだけ貪って、資源が尽きそうになると別の星へ… 
そして、其れを嫌っていながらも、 
結局はどうしようも出来ない自分にクロノは苛立つ。
「…(あ〜! 考えるの止め止め! 折角の有給休暇なんだ!)
気分転換の為にTVの電源を入れるが、最初に映ったのは、 
宇宙船であるところの『航宙機』の事件のニュースであった。 
テロリストがどうこう動いたとか言っているが、 
既にクロノは見る気を無くし、直ぐにチャンネルを変えた。

 

「……」 
消灯時間を過ぎ、外の街から差し込む明かりの中、
クロノはベッドの中で寝付けずにいた。
いきなり気を失ってその間に色々あったということを反芻し、
それからかわいい少女にしか見えない古代の人工生命体「ルビー」が
自分の所有物になった事に対して困惑していた。 
向かいのルビーが寝ているベッドに目を向けるクロノ。
(ルビーが同じ部屋にいるというのも寝付けない理由でもあるのだが) 
これから先のことを考えるためにとにかくこの良く分からない少女のことを知ろうと思った。
「ぁー、ぇっと…ルビー?起きてる…か?」 
それは半ば答えが返ってこないことを期待していた呼びかけだった。
答えが返ってこなければ先延ばしにすればよい。
答えが返ってくれば…今、彼女が何者かを聞けば良いという一種の賭けだった。
その声に対して、向かいのベッドの上でごそごそと動きがあったらしき音がした。
おそらくルビーが顔を出したのだろうが薄明かりのため良く見えない。 
「…クロ君、なに?」 
ルビーの嬉しそうな声がした。
「…あ、起きてたのか…(つーかクロ君って…)
さて、これで決断どおり聞かなくてはいけなくなった訳だ。
「?」
「気にしたのなら。あっと…ルビーはどこから来たんだ?」
単刀直入に質問することにしたらしい
「んー…エンパイア
ルビーがさも当然という顔で答える。
「エンパイア?」
「エンパイアはエンパイアだよ〜。
 …ボクたちは『時代に必要とされていなかった』から…眠ってなさいって…
 …でも…それはマスターにあうためだから、
 ずっと良い子にして待ってたからボクはマスターに会えてうれしいんだ。
 これからはボクがマスター…クロ君を護って上げるからね!」 
うれしそうに言うルビーだったが
クロノとしては何も分からなかったのと同じであるため、さらに質問を続ける事にした。 
「…っ、じゃぁ、昔の事でなにか憶えてないか?」
「っと…思い出せるのは、ボクとボクの姉妹が一杯いて、
 ひげの生えたおじさんがボク達をポッドにつめて眠らせるところだけかな…
 ねっ、クロ君はボクの仲間を知らない?」 
…埒があかん。とりあえず分かったのは彼女には姉妹(?)がいるということぐらいだった。 
「…それと、すごい光。
 遠くで何か光がドーンって広がって耳が壊れそうな音と、すごい風がぶわーっと吹いたの。
 でもボクはその時眠っていて…あれ?何か変だな」
「そっ、そうなのか…大変だったな」
ルビーの勢いに押されて面食らうクロノだったが… 
「じゃっ、今度はボクが質問を出してクロ君の答える番だよ♪」 
いつの間にかクロノのベッドの横に来ていたルビーの奇襲的な切り返しで調子を崩されてしまう。 
「えっ、なんでだよ!?」 
「だって、ボク、クロ君の聞いた事答えたよ。だから今度はクロ君の番♪ 
 まずは〜、マスターは食べ物で何がすき〜?」 
「バッ、バカどうだっていいだろっ!」 
会話の主導権を握られたクロノは
しばらくルビーの質問(割とどうでも良いことばっかり)に答えさせられる事になったのであった。
そのため、クロノは今ひとつ情報のつかめないまま
深夜1:15頃に疲れて眠ってしまったのであった。
執筆者…is-lies、Mr.Universe様

 深夜 アレクサンドリア病院付近

 

ゆっくりと病院の裏に停車した黒いトレーラー。 
運転席から1人の少年が降りて来る。こんな少年が運転出来るものなのだろうか? 
だが、此処は火星である。能力者の本拠地とも言える此処では外見で能力は窺い知れない。 
この少年も御多分に漏れず、カタギの者ではない。 
腰に携えられている真紅の銃の鈍い輝きが其れを物語っていた。
少年は後部コンテナのロックを解除し、其の扉をさっと開く。 
中の闇に浮かび上がるのは幾つもの鋭い眼光である。 
「皆、もう降りて来て良いぜ!」
『プロフェッショナル』…… 
プロと呼ばれる彼等は、能力者で構成された何でも屋の様なものであった。 
『プロギルド』という組合に属し、総じて戦闘に長ける。 
地球で起こった第四次世界大戦=『大名古屋国大戦』を解決したのも、このプロの活躍が大きい。 
又、彼等には能力別にランクが付けられており、 
Aクラスにもなると、軍隊にすら匹敵する戦闘能力を誇る。
コンテナからぞろぞろと出て来るプロ達に指示する少年。 
どうやら、この少年はプロの中でもかなりのランクに達しているのだろう。 
プロ達10人を整列させ、少年はトレーラーの助手席に向かって振り返る。 
「準備、完了しました」 
助手席から少年の報告を聞くのは、茶色いスーツを着た白髪の男だ。 
「よぉし…今回の仕事は何としてでも成功させるんだぞ? 
 火星の御偉方から、たっぷりと金が入るんだ。 
 最近、コレクションに加えたい剣が沢山見付かってなぁ…」 
「は…はぁ……。まあ、御安心下さい。 
 俺が付いている限り、失敗はありません」 
自信に満ちた少年に、白髪男も豪快に笑って応える。 
「あったりまぇよ!
 Bランクプロにして大名古屋国大戦の英雄『ツヨシン』が、 
 古代遺産とはいえ、小娘一人を回収出来なくってどーする? 
 其れに、万が一の場合にはワシが居る。 
 内部の情報では相手は眠ってるっていうしな。気配を感付かれるなよ〜!」
執筆者…is-lies

  アレクサンドリア病院付近の路地

 

男が携帯電話で話している。一見すると単なる民間人に見えるが、実はこの男、プロの一員である。 
≪…配備、終わったんだろうな?≫ 
「いえ、後数人配備が終わってないですが…」 
≪何ッ!?早く配備を終わらせろッ!!
  もし失敗したら東雲さんに何やられるか判らないぞッ!!
  今回は特に気合入ってんだから!!
  他の病院周辺に配備した奴等にも伝えてくれよ!≫ 
「は、はいッ!!」 
プロの男は電話の主の怒声に思わず叫んでしまう。
その声に周りを歩いていた数人の通行人が一瞬だけ彼を見るが、すぐに歩き去っていった。 
≪じゃ、俺は切るぜ。じゃあな。≫ 
電話を切ると、プロの男は呟いた。 
「…こっちはアンタになにやられるか判んねえって…」
執筆者…鋭殻様

  アレクサンドリア病院・ロビー

 

「ようこそ、皆さん。宜しく御願い致します」 
中へと音も無く入ったツヨシンと4名のプロを迎えたのは、 
アレクサンドリア病院の医師である南天桂馬である。
「病室の移動は無し。今はぐっすりと眠ってる…OKか?」 
「勿論。で、包囲の方は?」 
「問題無いぜ。6名のB+級プロに加え、 
 ギルドマスター自身も来てるからな。 
 おまけにプロは全員が捕獲用能力に優れ、 
 互いの状態を把握出来る配置だし、全員夜目が利く」 
話しながらもエレベータへさっさと乗り込む一同。 
クロノ達の病室のある4Fへと向かう最中、 
思い出したかの様にツヨシンが南天に質問する。 
「ん…アンタも来るんか?」 
「勿論。あのクロノ君…ああ、マスターとなった少年です。 
 彼とは昔からの顔馴染みでしてね。 
 万が一の場合は私の方で説得に当たる事も出来ますしね」 
「ふ…ん……まぁ、足手纏いにだけはなるなよ」
こうしてプロ達はクロノとルビーの病室前迄進んだ。 
ドアの向こうからは殺気も感じない。良く眠っている様だ。

 

病室のドアを、軋み音すら立てさせずに開き、 
油断無く部屋へと侵入を果たすプロ達。
予想通り、病室内はしんとしており、 
ベッドからは微かな寝息が聞こえて来る。 
(こりゃ思った程の仕事でもないな)
銃を抜いたツヨシンも、あまりに無防備なターゲット達を見、 
そう結論を出した。無論、長年の経験から油断する事は無いが。
「そちらの黒髪の方がマスターの少年です。 
 ああ…万が一の守護者暴走を想定し…彼も連行させる様にとの…」 
背後で説明する南天に、口の前で人差し指を立てて沈黙を促すと、 
プロ達は手際良く作業を開始した。
こうしてクロノとルビーは麻酔を打たれた上、 
電磁ネットで簀巻きにされて運び出されてしまった。
執筆者…is-lies

  アレクサンドリア病院付近某所

 

「はぁー。なんで俺がこんな事を…
 暗殺者を便利屋かなんかと勘違いしてねーか…?
 こういうことはプロに頼むモンだろ…」
呟いているのは、見るからに怪しいロングコートの男。
通称「D」。この世界では少しは名の知れた敏腕暗殺者である。
双眼鏡片手に、病院のほうを見ているようだ。
「特に異常ナシ…ん?」 
二人の子供が寝ている部屋、その周辺、病院の前の通りをざっと双眼鏡で見て、
双眼鏡を目から離そうとしたその瞬間、ふと違和感を感じ、再び双眼鏡を目に当て、病院の裏手を注意深く見る。 
「トレーラー…?まさか…」 
ふとある考えに行き着き、その周辺や付近の路地に視線を走らせる。 
「ちっ…やっぱか… 
 クソッ、プロが絡んでくるなんて聞いてねーぞ。 
 目的は俺と同じアレだろうな 
 …となると…ええい、のんびりできなくなっちまった。」 
舌打ちをし、 隠れていた場所から病院のほうへ足音も立てず駆け出したが、
彼が少し先に行った所で既にプロ達が確保を終えてしまった。
「くっそ、さすがプロだな手際よすぎだっつーの…」 
走り去る漆黒のトレーラーを見ながら、Dが呟く。 
悔しさと諦めが入り混じったような表情で舌打ちをし、携帯電話を取り出し、ボタンを押す。 
「…」 
《…Dか。どうした。》 
「ターゲット、及びマスターの子供がプロと思われる集団に連れ去られた。」 
《なんだと…?》
「おっと、俺に怒るのはお門違いっすぜ? 
 あくまで俺は「暗殺者」 こういう仕事は本来プロに頼むべきなんっすから。」 
《…》
怒りを押し殺したようなかすかな呻き声を聞き、さらに続ける。 
「まぁ落ちついて。 
 ターゲットとマスターのガキに発信機を取りつけましたから、位置は把握してます。 
 俺が作った特別製だから、プロでも早々見つけられません。 
 現在アレクサンドリアの3番通りを北上中。 
 とりあえず追いますけど、プロと戦り合う気はないですよ。」 
《…そのまま監視を続けろ。誰かそちらに送る》
「へいへい。せーぜー強いお方が来てくれるよう祈ってますよ」 
言い終わると同時、一方的に電話を切る。まだ何か言っていたようだったが、まぁ問題ないだろう。 
携帯をコートのポケットに入れると、近くに停めておいたバイクに乗り、ターゲットを追い始める。
執筆者…you様

 「………!?」
暗がりの中、クロノは目が覚めた。 
そして自分が拘束されてるのに気付き、一瞬驚いた。 
(…拘束されてるなあ…)
クロノは何とか冷静を保ちながら考え始める。
しばらくしてクロノはまず、何者かが自分を拘束した。 
そして自分たちは何処かに連れてかれているとの事を把握した。 
(ちくしょう…訳わかんねえ、一体なんだって…)
クロノの脳裏に一瞬、白海が言った言葉が過ぎった 
ルビーは火星古代文明の作り上げたものだと言うことを。 
(まさか…ルビーを狙ってきた奴に捕まっちまったって事か?)
中々鋭いクロノであった。
「う〜ん…クロノ…」 
ルビーの寝ぼけた声が聞えた。ルビーは近くにいるらしい、 
「寝てるのかね…」 
クロノはぼそりと呟いた。
(良くわかんねえけど… 
  ルビーを得体の知れない連中に渡してたまるか… 
  何とか逃げる方法を考えなくちゃな…)
クロノはとりあえず様子をうかがいながら 
逃げる手段を考え始めた。 
「おやぁ? クロノ君…もう起きちゃったのかい?」
ネットでグルグル巻きにされ、身動きの取れないクロノの頭上から、 
彼の顔を覗き込むのは、白衣を着、メガネを掛けたマツカサトカゲ。
「な…南天先生!?」
そう。クロノの馴染みでもある獣人医師…南天桂馬であった。
「ふふふ、随分と驚いてくれたねぇ。 
 そう! 開業医とは仮の姿! 
 火星政府のロボット技研に属する研究員こそが其の正体さ!」
数年間もクロノ達の前で被り続けた仮面を、 
今、漸くかなぐり捨てる南天。
「…ちょ…ちょっと南天先生? 何を……言って…」
南天が火星の研究員であるという事を聞き、 
流石のクロノも驚きを隠せないでいた。
「まあまあ、落ち付きなよクロノ君。 
 これは君にとっても耳寄りな話なんだ。 
 其のルビーちゃんはね…古代文明の遺産で、 
 クロノ君をマスターとして認識しているみたいなんだ。 
 そういう危ない力を、 
 政府としては放置する訳にも行かない…解るね? 
 だから…クロノ君… 
 君ごとルビーちゃんを召抱えさせようじゃないか… 
 …という事さ。どうだい? 悪い話じゃないだろ?」
自慢げに話す南天は、この車に接近者が居る事を知らなかった。
執筆者…R.S様、is-lies
「だからって、急に車に押し込めてどういうことなんですかっ!」 
横を見やるとルビーは未だ眠っている。
「考えても見なさい。これはチャンスなんだよ。
 君のようなC級市民がのし上がれるなんてことはそうそうあるもんじゃない。 
 それともあれ(とルビーを見やる)と縁を切って帰りたいのなら、
 今から行くところでしかるべき処置をすればプログラムの解除が出来ますよ。
 どうですか?偶然で拾っただけの人形にこだわる義理もないでしょう。 
 それから、これは君のためでもあるのですよ。
 あれを手許においておけば、
 あれを狙っていろいろと良くない連中のところから刺客が来るだろうからね。
 もちろんそういう輩は手段を選ばないから君の身の回りの人にも被害は及ぶでしょう。 
 …それに、あれが奪われて悪用されたりすれば多くの人命が損なわれるだろうね。 
 さぁ。私達と一緒に行くか、あれを我々に寄越すのの、どちらを選びますか?」 
そこまで演説して、クロノの返事を待つトカゲの化け物。
クロノしばし頭をたれて考えた後。
「分かりました…考えますから…その前にこの格好をどうにかしてくれませんか?」
「マスタ〜、どうするんですか?」
「ふむ、それもそうですね…白水さんよろしいでしょうか?」
後ろでやり取りを見ている白髪の男に意見を求める南天。
「ふむ、良かろう」
鷹揚にうなづく白水。が、手はベルトのフリントロックカトラスに伸ばし、他のプロにも目配せをする。 
       ※小剣に小型小銃の付いたもの。尚、名前では火打ち式銃だが実際は普通の拳銃と同じ機構
ツヨシンが手持ちのリモコンスィッチを押すと、
クロノの体を拘束していたネットの拘束ポイントが外れてバラバラに床に落ちる。
「さぁ、返答を聞かせてもらいましょうか?」
勝ち誇った顔の南天。
「では…言いますよ。俺の答えは…」
南天に突進し、押し倒すクロノ!
「これです!俺は人の言うとおりにスルのが嫌なんですよ!これでも喰らえ!」
さらに臭い靴を脱いで臭いをばら撒くクロノ。
効果てきめんでプロ達のうち数人は銃を構える暇もなく鼻を押えて悶える
…しかし、南天に馬乗りになって靴を前に出しているクロノの下から
南天の太い腕がぎゅんと突き出し、クロノの首を掴み、持ち上げる。
「私はききわけの無いこどもは嫌いだよ!
 道理を分からせるために折檻しなければいけないからね。 
 臭い靴を武器にするところまでは良かったが相手が悪かったな。
 私のようにゴミ山で育った獣人にはこの程度の臭いではなんとも感じないのだよ」
「うっ、ぐっ…」
首を絞められて、唯一の武器“臭い靴”を取り落とすクロノ。
さらに周りのプロ達も臭いによるショック状態から回復して銃を構えている。
「くっ…くっそぉー…」
やけになって叫ぼうとするも出てきたのはかすれた細い声。
もはやこれまで!という状況になって、
もう一つのネットが膨れ上がりすごい音を立てて千切れると中からルビーが現れた。 
彼女は今までに無い冷ややかな表情…
…どちらかといえば、遺跡で初めてであったときのような顔をしていた。
《緊急時プログラムsave your master起動。
 マスターに害をなすものを殲滅せよ》
クロノのかすれた叫び声はルビーの耳に届き、
緊急時プログラム“save your master”(汝の主を守れ)を起動させたのであった。
こうなれば守護者にかなうもの無し。
まず隣にいたプロのどてっぱらを右手の手刀で貫通し床に血だまりを作る、
左手は服のボタンを一つ毟り取ってあわてて刀を抜こうとするプロの眉間に正確に飛ばす。
「てめぇ、よくもマサを!!?ぐぁあああ!
名も無いプロが刀の柄から手を離し顔面を押える。
時速140km/時の礫と化したプラスティックのボタンは
プロの強化ゴーグルにヒビをいかせ、ついでに衝撃の痛覚によってうずくませる事に成功した。 
右手をブン!と一振りし、腹を貫通させたプロを壁に投げ捨てる守護者。
プロがぶつかったところの壁が血糊で赤く染まる。
守護者はそのまま進撃するかに見えたがそこは流石に相手もプロフェッショナル。
白水がためらいもなくフリントロックカトラスでルビーの肩を射抜く。
「……」
しかし、ルビーは一瞬よろめいたものの無傷な方の手を肩に添えると、肩の傷は消えていた。
取り出した、もしくは肉が盛り上がって転がり落ちた銃弾を見て不思議そうな顔をする。
「ほぅ!さすが守護者!銃撃さえ効かないとは恐るべき力だな! 
 しかし、貴様の大切なマスターは銃弾に耐えられるかな?」 
暗にクロノを人質にしろという白水の言葉に、
驚愕から立ち直ったツヨシンや南天たちが揃って銃をクロノに向ける。
「マスター…」 
さすがにこれでは動けないと判断したのか、ルビーはいつもの調子に戻ってクロノを見やる。
「さっ、さぁ、クロノ君、分かったでしょう。
 あれは子供のおもちゃではない危険な人殺しの道具です。」 
南天が右手でクロノの襟首を掴み上げ、左手でピストルを構えながら乾いた声で言う。 
たしかにいくらクロノを守るためといっても、
何の躊躇もなく人を殺そうとしたルビーはクロノにとって恐怖の対象であった。
「くっ、ルビー…戦うのはやめてくれ…」
「マスター…はい、分かりました…」 
手を下ろすルビー。
「ツヨシンさん!守護者のセーフモードボタンを探してください!」
急に前回報告した時に聞いた守護者の使用方法の安全な運搬の仕方を思い出し、
ツヨシンにそれをするように言う南天。
「おっ、おう。って、セーフモードボタンってどこだよ!!?」
先ほどの凶行にビクビクしながらルビーに近寄るツヨシン。それを胡乱そうな顔で見るルビー。
「うなじの辺りに他より少し硬い部分があるはずですからそこを押してください!」
「おっ、おう…こっ、ここか?」
ルビーは一瞬体を震わせると、次の瞬間には直立不動のポーズで静止していた。
目は開いたままだが瞳の色はどんよりと曇っている。
「…止まったようだな…まったく、冷や冷やさせおって…
 いくら貴方々火星政府研究所が依頼人だったとしても、このような行動は困りますなあ…」
ルビーが停止したのを確認し、白水が南天を睨みつける。
南天はその迫力に少々たじろぐが、それも一時の事であった。 
直ぐにクロノの方を向き、低い声で喋る。 
「……クロノ君、悪いが選択肢は一つに決定されてしまったよ。
 私達に同行してもらおうか。」
執筆者…Mr.Universe様、鋭殻様

 

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