リレー小説3
<Rel3.サーヴァント1>

 

 コリントス、火星帝宮殿

 

「……古代異形逃走事件から2日…… 
 …いや、もう3日にもなるのか……… 
 ………未だに逃げ出した魔物は見付かっていないというではないか。 
 あの場に同行していた各国からの見学者に怪我人は無く、 
 まだ民草には気付かれていないという事は幸いだが、 
 いつまでも隠し通せるものではないぞ。大変な事だ」
火星帝、レオナルド・フォアレイ・シルバーフォーレストは 
深夜を指している柱時計の針を眺めつつ、
振り返る事無く、背後に屹立した黒スーツの男へと問う。
「ご尤も。一刻も早く事件を解決するべく、 
 対魔物戦のエキスパートである第3大隊を動かそうと考えております」
堂々とした声で答えるのは、保安総監である黒スーツの男。 
彼は発掘された異形の逃走…そして火星帝への核分裂異獣接近を許してしまい、 
火星帝の部屋に呼ばれた今、 この場で彼の今後の進退が決まるといっても過言ではない。 
だが其れでいても…保安総監は泰然自若とした態度を崩さなかった。 
不気味な程にまで其の顔は自信に満ち溢れている。
「……先程も言ったが…今回の一件は大変な事件だ。 
 よもや…又、いつかの様に部下を処分するだけか?」
明らかに不満といった感じに火星帝は眉を顰める。 
何故ならこの保安総監は以前も、 
発掘された異形竜を紛失してしまうという失態を犯しており、 
其の時も部下を処罰し自分だけは保身を図った様な男だ。
「今回の私や部下の処分保留は事件解決までの一時的なものに過ぎません。 
 全てが終わった其の時にこそ、如何な罰でも甘んじて受けましょう。 
 ですが今、保安総監である私を更迭してしまえば、 
 逃走した異形竜の捜索にも多大な支障を与える事になりかねません。 
 又、其の様な大きな動きになってしまえば我々の動きに感付かれる事も必至…。 
 地球に於ける破滅現象で地球各国が火星に集中した分、 
 今まで以上に事は水面下で行わなくてはならないでしょう」
この男、明らかに以前とは違う。 
自信に満ちた態度、全てを見透かした様な眼… 
少なくともあの遺跡から帰って来る前はこんな男ではなかった。
「……まあ良いだろう。 
 第三大隊を動かし、逃走した異形を捕縛し給え。 
 其の結果と…既に解決した様だが『守護者』紛失の件とを併せて、 
 保安総監、君の今後の進退を決めようではないか」
「はっ…守護者のマスターとなった少年… 
 クロノ・ファグルの親兄弟友人にも探りを入れ、 
 事後処理には万全を期します」
不気味な笑みを張り付かせたまま頭を垂れる保安総監。 
其の得体の知れない余裕を見てイラついたのか、 
火星帝は眉間に皺を寄せながら「宜しい」とだけ返す。 
だが何か思いついたのか、わざとらしく呟いてみせる。
「…そうそう、部下の処分で思い出したが…… 
 ………時田団子朗…惜しい事をしたものだ」
「時田?…ああ、あの考古学者の? 
 ……そうか…確か彼も古代異形竜と『守護者』を紛失した事で、 
 引責辞任…となったのでしたな… 
 いやはや…今の私とそっくりです。轍を踏まぬ様にしなければ」
笑いながら部屋を後にする保安総監を睨み付ける火星帝。 
其の時田を最も激しく非難していたのは何処の誰だと言いたかったが、 
軽くあしらわれる事は眼に見えている。
「…奴め………何があった………… 
 …………私と同じ…という事はあるまいな…?」
執筆者…is-lies

一方、部屋を後にした黒服の男は 
宮殿の屋上バルコニーへ一人足を運んだ。 
サーチライトが夜空に円を描き、その光が男を照らす度に異形のシルエットが浮び上がる。 
男が真直ぐに見上げる先には衛星ダイモスが幽かな光を放っていた。
「火星帝…ただの猿ではなさそうだな。 
 私と同じ…まさかな… 
 …だが、我等を封じたアウェルヌスゼムセイレスは何処へ消えた…? 
 それに猿共のこの変わり様… 
 まぁいい… 
 エンパイリアンも猿共も、いずれ一匹残らず焼き払ってくれよう…」
黒服の男は月夜に向かって独り言を呟きながら、携帯端末を手に取った。
「猿共の道具もなかなか便利なものだ。 
 さて、兄者の方もそろそろか…」
《もしもし。 
 あぁ、お前か…》
「兄者、ルビーウルグザハニルは如何でしょう?」
《お前が利用した猿共は作戦に失敗した。 
 だが、俺が直接手を下せば問題はない。今起動実験の用意をさせている》
「焦ってはなりませぬ。 
 猿共も力を付けたようで… 
 生意気にもエーテルを使う者がいるようです。 
 あれは我等の魔道に近いものがあります」
《…うむ、 
 まさかとは思うが、アウェルヌス等も猿共に倒されたのではあるまいな》
「いえ、確かに姿はありませんが、僅かに波動を感じます」
《ふん、何があったか知らんが好都合だ。 
 ウルグザハニルで猿共々なぎ払ってくれよう》
「ですが、猿共も侮れませぬ。 
 状況が解らぬ今は、同士討ちをさせ、様子を見るのがよろしいかと…」
《相変わらずお前は心配性だな。 
 まぁ見ていろ。 
 手始めに猿共の母星…地球を砕いてやろう》
執筆者…Gawie様

 

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