リレー小説3
<Rel3.ナナシ6>

 

 

 

 

「独立記念日?」
学び舎に登校したナナシとナナミを待っていたのは、 
黒板にでかでかと書かれた「火星独立記念祭準備」という文字だった。 
担任の黒澤先生はいつものラグビー選手の様な格好に加え、 
其の衣装に花やら紙リボンで装飾を施し、一層奇怪な姿となっていた。
「良いか?火星帝レオナルド・フォアレイ・シルバーフォーレストが、 
 大名古屋国大戦…詰まりは第四次世界大戦で火星独立が認められた際、 
 独立を掲げた其の日を火星独立記念日と定め、火星全域で祭りを行う事としたんだ。 
 …まあ、数日前に起こった地球からの大移民で、 
 この祭りもかなり混乱すると思うけどな…と、其れは其れとして。 
 本日から我々も火星独立記念祭の準備に取り掛かるぞ! 
 室内での花火は厳禁!喧嘩もフリだけにしとけ! 
 祭りの仮装については露出度が高くなければOKだ。 
 …だが先生は大事なのはハートだと思う。 
 ハートがあるのなら露出度高くても良いと思う!」
訳の解らぬ説明をして己のエロ振りを露呈する黒澤先生。 
だが呆気に取られているのはナナシとナナミだけであり、 
其の他の生徒は黒澤の発言にも何の関心も示さずに其の話を聞いている。
「…まあ併しアレだ。ナナミ・コールは転校して来たばっかだから、 
 もっと詳しい説明をじっくりとしてから作業に加わると良い! 
 皆、仲良くやってくれよー!! 
 さあナナミ。皆の邪魔になってはいけないから、 
 先生と一緒に体育館倉庫へ行こう。其処で詳しく説明を……… 
 ……あじゃぱっ!?
ごつい丸太の様な腕をナナミの肩へと回し、教室を出ようとした黒澤先生だが、 
其の後頭部をナナシの回し蹴りが見事に捉え、黒澤先生を教室の床とキスさせる。
「ははは、盛り上がってるねー。」
床に倒れてピクリとも動かない黒澤先生を完全に無視する形で、
いきなり現れて教室を眺め回す男が一人。
「あ、えぇっと…瀬戸先生。 
 どうなさったんですか?」 
教師が生徒に回し蹴りを喰らわせる場面に遭遇したにも関わらず、 
「盛り上がってるね」の一言で済ます瀬戸に多少の戸惑いを覚えつつも、 
ナナミが瀬戸へ話し掛ける。
「僕はクラス担任はしてないからね。少し暇ができたんで、見て回ってたんだよ。 
 いやー、学生時代を思い出すなぁ。」 
回し蹴りをしたことがあるんだろうか、などと一瞬考えるが、
すぐにそれが独立祭の準備のことを言っているのだと気付く。 
心配そうに横で失神している黒澤先生をチラと見てから、瀬戸のほうへ再び視線を戻す。 
相変わらずにこにこしているが、黒澤先生のことはどうでもいいんだろうか。
「えぇっと……瀬戸先生?」
「うん?なんだい?」 
困惑したような視線を向けられ、キョトンとした表情へ変わる。
ナナミは再び黒澤先生のほうへ視線を戻し…
…「死んだか?」などと不吉な事を言っているナナシはとりあえず気にしないことにして…
…瀬戸に言った。 
「あの……黒澤先生、どうやら気絶してるらしいんですけど……」
「ああ、そうだね。 
 ピクリとも動かないけど、呼吸は安定してるようだし。少し頭を打ったみたいだけど、まぁ心配はいらないよ。 
 もうそろそろ眼を覚ますんじゃないかな?」
執筆者…is-lies、you様
実際、黒澤先生はすぐに復活した。
「キィサァマァァッ!!教師に回し蹴りキメるとは何事かぁぁっ!! 
 貴様のような不良は超人間の…否!
 である私が鉄槌を下してくれるうううう!」
起きあがるとほぼ同時。物凄い剣幕でナナシへ掴みかかる黒澤先生。 
怒りのためか顔は真っ赤。湯気でも出そうな勢いだ。 
ナナシはその手をサッと避けようとするが、その前に黒澤先生の手が止まっている。
「な……せ、瀬戸先生?」
「まぁまぁ黒澤先生落ちついて。」 
にこにこしつつ、その細い腕で黒澤先生のスポーツマンらしい太い腕を横から軽々掴んで止めている。 
それ自体も驚きだが、そもそも教室の入り口からいつのまにここまで移動したのだろう。 
なによりも驚いたのが、先ほどまであれほど興奮していた黒澤先生の怒りが収まっているようである。 
怯えや畏怖でもって興奮が静まった訳ではなさそうだ。 
其れが証拠に黒澤先生は瀬戸先生に「んっ」とだけ言うと 
くるりと踵を返して教壇へとまた上った。 
流石は能力者の学校『選ばれし者達の学び舎』。 
教師陣も其れなりの能力を持っているのだろう。 
身体能力強化、鎮静能力…
「…まあ、祭まではもうちょいと時間がある。 
 各自、4つの班を作って仮装や催し物の案を話し合え! 
 後、今日の午後は法王様が見学にお越しになられる。 
 だから絶対に失礼なマネだけはするなよ」 
落ち着いた黒澤先生の言葉で生徒達が動き出し、 
各々仲の良い友人と話し合いを始める。
「さぁ、私達もどこかの班に入れて貰いましょう」
「……じゃあ…何処がいっかな…?」 
適当に溢れていた3人組と合流して話し合う。 
改造人間という肩書きで入学したナナシとナナミは、 
此処の生徒達に受け入れられるかどうか少々不安もあったが、 
一緒に班を作った3人の生徒は、 
寧ろ進んでナナシ達を受け入れようとしていた。 
どうもSeventhTrumpetの教えらしい。 
能力者や改造人間にすら寛容なキリスト教系宗教SeventhTrumpet。 
良く、能力者を敵対しているバチカンに睨まれなかったものだ。
「っかし、何でSeventhTrumpetなんて出来たんだ? 
 一応キリスト教系なんだろ、此処って? 
 だったらバチカンとかは煩くねぇの?」 
研究所に居た時に本で齧った知識を以って質問するナナシ。
「えっと聞いた話だと… 
 法王様御自身が取り成されたらしいですよ。 
 何でも法王様も能力者を認めていらっしゃるとか…」 
班員達から詳しい説明を受け、飾り作りに着手しながら答えるナナミ。
「ふぅん? 
 …確かさっきエロ教師が、今日の午後に法王が来るとかってったな」
最高位の聖職者・法王。 
一体、どんな人物なのか想像しつつ、ナナシもナナミの手伝いを始める。 
紙で拵えたリボンであるとか、花であるとか… 
兎も角、単純ながら数をこなす仕事が多いのでナナシも聊か退屈そうだ。
執筆者…you様、is-lies

  午後

 

或る程度、飾りの数は増えて来たが、其れでも飾り付けにはまだ早い。 
生徒達がワイワイと作業を進めるそんな中、 
教壇近くの扉が開き、黒澤先生と聖職者数名に護衛された法王が入って来た。
「…ふぅん、あれが法王ねぇ…」 
イメージと少々違ったのか、僅かに落胆の色を見せるナナシ。
青いマントと立派な帽子を付けた中年太りの男… 
即ち法王ラ・ルー・ヌースは、作業に勤しむ子供達を優しげな顔で見回しながら、 
隣で自クラスの自慢を始める黒澤先生の話を聞いている。 
流石に畏縮した生徒達が佇まいを直そうとするも、 
法王に「其の侭で宜しいですよ」と言われ、ぎこちなく作業を再開した。
「如何ですかな?法王様。 
 皆、健全で熱血な生徒達ばかりですよ!」
「ええ、活気に溢れた子供達を見るのは何よりも癒されます。 
 素晴らしい御仕事振りです、黒澤勇次郎先生。 
 ………ところで先生、あの彼は?」
「彼?ああ、新入生のナナシ・コールですね。 
 いやはや…やんちゃというか…まあ腕白な子という印象ですね。 
 …まだ私も、昨日会ったばかりなんで………」 
黒澤の其の説明は既に法王の耳には入っていなかった。 
法王は穏やかな其の顔のまま、ナナシを見て舌なめずりをしたが、 
其れに気付けたのは黒澤先生やナナシ達を含め、誰も居ない。

 

 

  数時間後

 

ナナシ達の班の作業もそこそこ区切りが良い所に来たし、 
もうそろそろで授業は終わり。ナナシ達は後片付けに勤しんでいた。
「取り敢えず、何事も無く終わって良かったですね」
「ん、そーかもな。 
 でもな〜…いつあの紅葉とかバカ(みつお)が、 
 嗅ぎ付けて来るかも解んねーし… 
 そろそろ実戦的な授業をさせて貰わねーと…」
ふとナナシは考える。 
何故、自分はこんな所に収まっている? 
リゼルハンクの演習場を抜け出した其の時は、 
彼は見下していた。脆弱な人間を、兵器を、能力者を。 
では今の己はどうか? 
人の学び舎で法だの常識だのを習いながら大人しく過ごしている。 
何が自分を此処まで堕落させたのか? 
其れは紛う事無くヨミ。 
どう考えても人間ではない其の力に捻じ伏せられ、 
ナナシは己の矜持を優越性を失っていた。 
…いや、良く思い返せば他にもある。 
リゼルハンク演習場で出会った2人… 
黒ずくめの異形トッパナ。サングラスを掛けた青年ライズ。 
彼等に出会った時点でナナシの自信は少なからず揺らいでいた。 
ライズ、トッパナ、ヨミ、紅葉、バカ(みつお)… 
次々と現れた彼等。そして彼等から感じた絶大な力… 
其れを前にしてナナシはすっかりと消沈してしまったのだ。 
強大な力を持ってはいるものの、其れ以上の力には流されるまま。 
考えてみて少々腹の立ったナナシは、直ぐ近くに黒澤先生が居た事にも気付かなかった。
「おい、ナナシ。 
 法王様がお前にちょっと話があるそうだ。 
 懺悔部屋で待っておられるとさ。 
 ……お前、何か妙な事でもやらかしたか? 
 兎も角、さっさと行って来い。待たせるなよ」
何か懺悔が必要な事… 
其れは身分を偽っている事だろう。バレたのだろうか? 
バレる様な事をした覚えはないが、 
法王が何を掴んでいるか調べてみる必要はあるだろう。
執筆者…is-lies

  選ばれし者達の学び舎、懺悔部屋前廊下

 

「君がナナシ・コール君ですね? 
 初めまして、私は法王ラ・ルー・ヌース」
教室で見せたのと同じ、 
穏やかで優しそうな笑みを見せる法王。 
だがナナシはそんなものどうでも良かった。 
問題なのは何故、自分が急に呼び出されたか…だ。
「………で、オレに何か用すか?」 
ガラにも無く下手に出て訊ねるナナシ。 
相手は法王。あまり目立っても良い事は無いだろうし、 
これはヨミの言い付けでもある。 
其れにまだまだ自分は力の使い方を良く解っていない。 
今はまだ大人しくして技術を身に付けるべき… 
又もや己の弱さを自覚する事となり、 
少々ムっとしてナナシは眼を細める。
「まあそう話を急がずに。 
 立ち話も難ですし…此方へどうぞ」
法王は懺悔部屋へ入り、ナナシを手招きする。 
予想とは違い、どうも懺悔というのではなさそうだ。 
相手から話を聞く為にも、取り敢えず頷きナナシも其れに続く。

 

懺悔部屋の中は非常に狭く、 
幾らナナシが小柄な少年とはいえ、 
中年太りの法王と一緒というのでは、 
流石に窮屈さを感じずにはいられない。
「君も改造人間という為に色々と… 
 其の…辛い思いをしてきたのでしょう? 
 でももう心配は要りませんよ。 
 此処では皆が優しく受け入れてくれます。 
 今まで辛かった分、此処で楽しむと良いでしょう」 
ナナシの感情の変化にも気付かず、 
法王は相変わらずの笑顔で話を続ける。 
まだナナシが改造人間ではないという事はバレていない様だ。 
だが知った上で言っているのかも知れないし油断は禁物である。
「………ところでナナシ君。 
 君は…私の小姓になってみる気はありませんか? 
 今よりもずっと裕福な暮らしを約束しますよ」 
一瞬、ナナシは目の前の男が何と言っているのか理解出来なかった。 
小姓というとアレである。貴人の身の回りの世話をする少年。 
だが何故、自分がそんなものに選ばれたのか。 
其処がナナシには理解出来ない。 
特に掃除や洗濯などが得意という訳でもないし、 
料理に至っては碌にした事すらないのだ。
「…何でオレが…… 
 ……っ!!」
ナナシが言い切る前に、法王の体がナナシに圧し掛かる。 
法王という最高位聖職者の黒い一面。 
笑顔の仮面のまま、ラ・ルー・ヌースは荒い息を吐きながら、 
ナナシの全身に其の大きな手を這わせ始めた。 
だが……
ボグッ!
懺悔室に響くやたらと生々しい音。
ぐぶっ!?
続けて、というよりほぼ同時に発せられる呻き声。 
ふらふらと揺れて後退る法王の巨体。 
まぁ、なんというか
――やっちまった。 
妙に冷静なコトを頭の片隅で思いながらも、口から出たのは、頭の大半を占めていた言葉だった。 
つまり、
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!?」 
言葉にならない叫び。 
指を差し腕をぶんぶん振りつつ、言葉が出てこない口をパクパクさせるナナシ。 
なんというか、容易に混乱しているのが見て取れる。
「い、いきなり何を……」
「そりゃこっちの台詞だっ!この……っ!!」 
法王の台詞をさえぎり、ナナシの罵声が狭苦しい部屋に響く。 
いつもなら続けて罵声を浴びせまくるところだが、何しろ相手は法王である。 
まぁ、殴ってしまったのだから今更という気もするが。
「ふむ、少々急すぎましたか。 
 心の準備というものが要りますからな。」
「いや、そーゆー問題じゃなくてだな……」 
ナナシが異論を唱えるが、
法王は聞こえなかったのか聞こえないフリをしているのか、きっぱりと無視して続ける。
「今日はもうあまり時間も無いことですし、返事はまた後日聞かせてもらいましょう。」 
言うと、法王は懺悔部屋を出ようと歩き出す。 
ナナシは色々言い返そうとするが、ぐっと堪え、部屋の端に寄って道を空けた。 
今はとりあえずこの空間を早く逃げ出したかったからである。
「それでは、いい返事を期待していますよ。」 
言い残して、法王はナナシの視界から消えた。
執筆者…is-lies、you様

  4時間目「魔術実習」

 

「良いかァ!?魔力ってのは 
 何も火を出したり水を出したりするのが全てじゃない! 
 ……よぉく見ていろ!」 
担任の黒澤先生が叫びながらサンドバッグに向き直る。
火星独立記念祭準備期間中でも魔術の勉強は続けられている。 
今、ナナシが居るのは学び舎地下… 
ミスリルでコーティングされたドーム状の大部屋だった。 
結晶能力…魔法とも呼ばれる力の媒介たるエーテル… 
其れを拡散させる性質を持ったレアメタル・ミスリルならば、 
このドーム内でどれだけ派手な魔法を放った所で地上には影響無いだろう。
これだけの大規模な施設は、各地の学び舎の中でもアテネ、タルシス、コリントスにしかないという。
純粋に経費の問題なのだろう。
ミスリルだけでも相当な金額になる。
「ぅうううあぁつぃいぉおおおおおおおぉおおおおうッ!!!」 
生徒達が見守る中、黒澤先生が奇声を上げつつ突きを繰り出し、 
サンドバッグが勢い良く吹き飛ばされる。
「…今のは普通の突きだ!面白みの無い唯の突きだ! 
 ………だが…!!」
黒澤先生が再びサンドバッグを突く。 
先程の様な気合は全く感じられない…だが其れでいて、 
サンドバッグは先程以上に大きな弧を描いて揺れた。
「拳に熱き魂…もといエーテルを込めればこの通りだ! 
 イメージ的には単純に腕に力を集める感じで良い。 
 実際、才能のある奴ってのは、 
 無意識で今みたいにエーテルの篭った一撃を出す事もあるが、 
 これにはちゃんとしたコツとかがあるんだ。知っておいて損は無いぞ。 
 ……後、拳全体にエーテルを集中するのが大切だ! 
 そうしないとインパクトの瞬間に拳が砕けたりする事もある。
 強力になると其の分、腕全体、体に至るまで強化しないとならなくなる。
 込める力と、其の反動から自分の身を守る力の匙加減は忘れるな。
 取り敢えず……1人ずつサンドバッグに攻撃してみろ」 
言い終えると黒澤先生は椅子にどっかりと腰を下ろし、 
生徒達1人1人の動きに注目を始める。 
ちょっと変態入っているが、普段は一応マジメな教師らしい。
「…ふぅん?腕に…ねぇ。 
 ……どれどれ」 
早速空いているサンドバッグへと向かい、 
腕に力が集中するイメージを練ってから拳を突き出す。
「だああああ!」 
サンドバックめがけナナシは拳を繰り出した。 
サンドバックは大きくゆれ鎖を引きちぎって何故か黒澤に命中した。
「…おい!お前!今のわざとだろ!?わざとやったべ!?」 
黒澤は当然大激怒して鼻血をだしながら涙目で 
ナナシの胸倉を掴んでガクガクゆらした
「わ…わざとじゃねーっす!」
「だってお前思いっきり俺みてたじゃん!目もあってたじゃん!」
「目なんか見てねえ!」

 

「あれわざとだな」 
「うん、わざとだね」 
他の生徒は密かに笑いながらひそひそ話をしていた 
ナナミはそれを見て呆れ返った様に様子をながめていた。
「つかなんで先生のとこに飛んだの?」 
「エーテルの力っしょ」 
あちこちでニヤニヤし始める生徒達の中、 
ナナミだけが真実を見抜く事が出来たのだった。
ナナシは単純な腕力だけで…しかし全力でサンドバッグを殴った。
恐らくナナシ自身も解っている筈だろう。 
自分自身にエーテル能力が備わっていないという事は。 
本来ならナナシが自分の力を振るう事は=正体が改造人間などより遥かに強靭な種であるという事の露呈に繋がりかねない。 
だがこの場で敢えて其の力を振るう事により、 
ナナシが身体能力強化に特化した能力者であると思わせられた。 
詰まり、これからはあまり気兼ね無く力を振るえるという事である。 
こういう事にはやけに頭の回るナナシであったが、 
其れが彼を注目の的にするという事には関知しなかった。 
己が強大過ぎる力を持っているという自覚が足らないのだろう。
(兄さん、あまり目立たない方が……)
ナナミがこっそりとナナシに話し掛ける。
(ったってもよ、息詰まるだろ)
(ヨミさんが何て言うか知りませんよ?)
(う゛……よ、ヨミ姉だってこの程度は大目に見てくれるだろ? 
  ………多分……)
ヨミには頭が上がらないナナシが自信無さげに言う。 
今のナナミの一言だけでもナナシにとっては結構な牽制になりそうだ。
執筆者…is-lies、R.S様

其の日の授業は一応、騙し抜いたものの、 
何時まで続けられるかはナナミにも解らなかった。 
肝心のナナシがどれだけ隠そうとしているかという事も疑問だし、 
其れ以上に本来ちゃんとした査定のある場所を、 
ヨミの知り合いである隆のコネで通らせて貰っているのだ。 
リゼルハンク側がまだ諦めていないとするならば、 
もうそろそろ嗅ぎ付けて来ても良い頃かも知れない。 
ナナミが下校するナナシの背中を見て歩きながらそう考えていた矢先…
「………なぁナナミ……」
「はい?」
「……どうやらバレたみてぇだぞ?」
ナナシが指をさした方に居たのは、 
SeventhTrumpet本部の周辺をうろうろしている2人組。 
どちらの顔にも見覚えがある。 
狐の様な耳と尾のある小柄な少女、 
01というロゴの入ったシャツを着ている緑髪の美形男、 
そう、追っ手の紅葉とみつお01であった。
「……き…気付かれていないみたいですし… 
 …早く帰りましょう!………ヨミさん達と相談すべきです」 
温い生活を余儀無くされていたナナシが、 
まるで遊び相手を見付けたかの様な笑みを浮かべているのを見、 
慌ててナナミが彼を引き摺る様にして其の場を去った。
執筆者…is-lies

  アテネ、マホン・マクマホン13階

 

「そうか……だが完全に割れた訳でもないだろう。 
 もしそうだとしたらお前が帰る前に確保しただろうしな。 
 其の場で戦わなかったのは良い判断だ。漸く頭を使える様になったか」 
食卓についたナナシの向かいで、ヨミが味噌汁を啜りながら言う。 
彼女も紅葉達がそろそろ来るという事は予想していた様で、 
狼狽えず、普段通りに落ち着いている様に見える。 
冷静沈着で恐ろしい程の実力を持ち、 
併し正体は全く明かさない謎の人物ヨミ。 
ナナシは改めて彼女への興味を強めたのであった。
(この女、何処まで知ってやがる?)
「だが、お前は半人前… 
 まだあの学校で習う事も多いだろう。 
 …そうだな、良い機会だ。 
 今夜、リゼルハンク演習場を襲う」
「え゛?」「はぁ?」 
ナナミとナナシが同時に素っ頓狂な声を上げた。
「良いか?連中はSeventhTrumpetを可能性の1つとして調べているだろうが、 
 俺達が実際にSeventhTrumpetに匿われている事まで掴んじゃいない。 
 バレたとしてもそうそう手荒な真似はしないだろうよ。 
 だが今のままじゃ時間の問題だ。多少は眼を逸らさせておかないとな。 
 其れにナナシ…演習所に何があるかは知らないが、 
 お前の目がそっちにいってるんじゃ学校でも集中出来ないんじゃないか? 
 …お前、ついさっきまでイライラしていたぞ。 
 良い機会だ。派手にやれ」
執筆者…is-lies
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