リレー小説3
<Rel3.紅葉1>
同刻 リゼルハンク演習場地下
「う…ひっく……ひっく……」
青白い灯火を受け爛々と輝く通路に、子供の悲しげな泣き声が響き渡る。 辺りを行き交う白衣を纏った男女達は、 其の泣き声にも全く反応せず黙々と己の仕事場へと足早に向かって行く。
この地下研究所に収容されている実験体の子供は300人を超す。 泣き声1つにいちいち反応していては身が持たないし、 何より、そういう神経の麻痺した人間が集う場所だ。 何年か前、此処に天才と言われた男が勤めていたが、 彼が施設に於ける子供達の扱いをもっと良くする様、上に訴えた時、 当時の研究員達は全員がこう思った程だ。 『コイツ、マークした方が良いな』
「紅葉…何を泣いてるのかしら?」
誰かに名を呼ばれ、 今まで俯いて泣いていた少女こと紅葉が顔を上げる。 見詰め返しているのは長髪の大女。 この施設でたまに見掛ける相手だ。 所長に平気で意見したりする事もあり、 かなり地位は高い様だが、そんな事は紅葉には関係ない。 大女は隣に貫頭衣を着た幼女を従えさせている。 茶色い髪とギラついた眼が印象的な新入り実験体の幼女だ。 この研究所で生産された紅葉達『Dキメラ』であるなら兎も角、 外からやって来た連中で此処まで幼い者も珍しい。 だが、其れもやはり紅葉にとってはどうでも良い事だ。 彼女の悩みはただ1つ…
「な…ナナシ……ナナシにフラれたなの……」
何だかとっても凄まじい解釈かましてる紅葉に、 大女が「?」と言いたそうな表情をしてみせる。
「母様、例のJK-112ですわ。 キーリの『楔』から聴いたでしょう? ナナシという名がJk-112に与えられた所」
「あー、確かにそうだったわね。 成程…紅葉はナナシ君が付いて来てくれなかったのが嫌な訳ね」
茶髪の幼女から聞いて、大女の方も合点がいった様だ。
「くすん……紅葉、嫌われちゃったなの……」
未だに落ち込む紅葉に、大女はしゃがみ込んで紅葉と視線を合わせ、 まるで母が愛し子に言う様、優しい声でこう言った。
「…くすくす…ナナシ君は外界に慣れちゃったからよ。 大丈夫…ちゃんと紅葉の事を知れば絶対に好きになってくれるわ」
「ほ…本当!?」
「ええ。でも其の為には貴方にもっと『力』が必要かもね…クスクス」
執筆者…is-lies