リレー小説3
<Rel3.本田ミナ2>

 

  1日後

 

昼食を終え、直ぐに資料室へと向かうミナ。 
あれから此処で過ごす時間は常に資料室とした。 
前支配者、本田宗太郎、玲佳、八姉妹…知りたい事は山程ある。 
資料室に着くなり、昼食前に見ていた資料の続きを読み進める。 
今、彼女が見ているのは古代火星神話の一部… 
何故そんなものを見ているのかと言うと、 
どうも前支配者というのは、火星の神話に由来するものらしいからだ。
《原初、世界は漆黒の闇の中にあった。 
 其の闇の世界には『7つ首の前支配者』という怪物が、 
 蟻達を支配して君臨していた。この怪物には、 
 『ゼムセイレス』『アウェルヌス』『アゼラル』 
 『カンルーク』『プロノズム』『モイシス・トコアル』 
 『ヘルル・アデゥス』の7つの首があり、 
 全てに打ち勝つ強大な力を持っていた。 
 闇の世界の上部から現れた『甘露を求める鷲』は、 
 光を放つ魂の剣で『七つ首の前支配者』を倒し、 
 これを深く、冥界へと閉じ込めた。
 次に『甘露を求める鷲』は白い秤、赤い土、紫の石を食べ、 
 8人の娘を出産したが、7番目の娘ルチナハトは闇の世界に酷く怯え 
 『甘露を求める鷲』にこう言った。 
 「私は光の世界を創ります。どうか手助けをして下さい」。 
 『甘露を求める鷲』はルチナハトの補佐として『動かざるトル・フュール』を任命した。 
 『動かざるトル・フュール』は、幽閉した『七つ首の前支配者』の魂の一部を切り取り、 
 これを蟻に入れて『黒き奴隷』を創造し、彼等に世界創造の手伝いをさせた。 
 見よ光輝く天と地を。見よたわわに実る果実の山を。 
 其れは全てルチナハトが望んだが為に誕生した。
 ルチナハトは光の世界に歓喜し、其の中で無邪気に戯れていた。 
 併し其れを見た黒き奴隷達はルチナハトに欲情し、彼女を陵辱した。 
 『動かざるトル・フュール』は黒き奴隷達のこの行いを良しとせず、 
 『七つ首の前支配者』を使い黒き奴隷達を捕まえ処刑しようとしたが、 
 黒き奴隷の1人であり、ルチナハトの陵辱に加わらなかったサタンは… 
 (以下、石版破損の為解らず)》
執筆者…is-lies
「……『七つ首の前支配者』…… 
 ゼムセイレス、アウェルヌス、アゼラル、カンルーク、プロノズム、 
 モイシス・トコアル、ヘルル・アデゥス……これが前支配者………」
《原初の世界を支配していた『七つ首の前支配者』とは、 
 7人の権力者、王族を指しているものと思われる。 
 これが異邦人である『甘露を求める鷲』に打ち倒されたのだろう。 
 蟻というのは火星土着の原住民達と見て間違いは無い。 
 と言うのも火星原住民は元々地下に住んでいたからだ。 
 『前支配者』の支配していた世界というのが、 
 石版に代表される…言ってしまえば原始的な部分の世界であり、 
 『甘露を求める鷲』の娘である『ルチナハト』と『動かざるトル・フュール』、 
 及び『黒き奴隷』の創造した世界というのが、 
 『守護者』に代表される超高度文明の世界だったのだろう。 
 異邦人の正体は今現在、宇宙人説が最有力候補だ。 
 ルチナハトを含む8人の娘は王女の事で、 
 『動かざるトル・フュール』は摂政の類であったと言われる。 
 7人の権力者の部下を奴隷にし、遺跡の建造を命じ、 
 其の反乱で王女を襲われたという流れらしいが、 
 話の中の最後に出現するサタンという名を見ると、 
 『黒き奴隷』=『悪魔(堕天使)』と容易に思い浮かべられる事だろう。 
 大勢の御使いの中の1人だけが背く…しかも其の名はサタン。 
 これを偶然とは…………》
他には前支配者に関連する情報は無い様だ。 
ミナは疲れた眼を擦り、神話の表示されるモニターをぼーっと眺めつつ思考に耽る。
前支配者は古代火星の王族… 
今日の朝にミナが調べて得た情報では、 
前支配者とは第3次世界大戦で召還された魔物の事であるとされている。 
第3次世界大戦中では多くの魔物が兵器として召喚されたのだが、 
其の中でも最強の力を誇る魔物として前支配者は舞台に上がったらしい。 
……何故、王族が魔物として召喚されたのか。 
………何故、召喚者である魔術集団が前支配者に殺されたと言われるのか。 
…………何故、父・本田宗太郎が、前支配者なんかを召還してしまったのか。
時の経つのも忘れてミナは書物を読み漁った。 
今まで大名古屋国内の事しか知らず、 
籠の鳥に過ぎなかったミナにとっては、ここにある情報はその真偽を問わず、 
殊の外、彼女の探究心を掻き立てた。
執筆者…is-lies、Gawie様
それから数時間後、 
ミナは微かな雨音で目を覚ました。
「…雨…? 
 火星にも雨が降るんだ… 
 …テラフォーミングは…成功ね…」
いつの間にか眠ってしまったのだろうか。 
辺りは既に暗く、点けっ放しだったモニターの明りと、 
時折起る稲光が室内を青白く照らす。
「…もうこんな時間。 
 あ…そう言えば…」
そう言えば明日は火星独立記念パーティだ。 
既に正式に自分宛にも招待状が届いおり、ミナにとっては火星に来て初の予定である。 
火星帝が『本田ミナ』を知っているかどうかは分からないが、 
火星の権力者との接触は、ミナにとっては理想を実現するための千載一遇のチャンスでもある。 
不思議と不安はない。ただ一つあるとすれば、 
『自由な服装で御越し下さい』という項目――― 
これはつまり、ノーネクタイという意味ではなく、 
仮装パーティであることを意味している。
一抹の不安を残しながら、ミナは資料室の閲覧システムの電源を落し、 
暗い部屋の中を手探りで出口に向かった。
ふと、一際強い雷鳴に、ミナが振り返った時だ。 
突然資料室の窓が開き、雨混じりの風が吹き込んできた。 
ゾクっとした気配に目を凝らすと、雷の残光の中に幽かに人影が見えた。
「だ、誰…ですか…?」
「やはり…ミナ…か」
「貴方は…TAKE…!? 
 生きていたのですか… よくここまで来れましたね」
「……空の警備は手薄だったのでな…」
「…そういう意味ではないのですが… 
 それより、何の用でしょう?」
「何の用? 
 お前が呼んだのではないのか?」
「…私が呼んだ? 
 いいえ、違います。 
 それに私はもう大名古屋国の本田ミナではありません。 
 どうか御引取り下さい」
「…そうか… 
 以前とは違うと言うのか。 
 それで、お前は何ヲ望ムトイウノダ?」
「…獣人と能力者の解放を…」
「反乱か?」
「違います! 
 争いでは何も解決しません。 
 対等に話し合う事が出来れば、解り合えるはずです。 
 貴方も戦争のことはもう忘れてください。 
 これからは人として生きてくれる事を望みます」
「人として…?」
言ってしまってからミナは自分の発言を後悔した。 
ミナの理想は能力者や獣人の解放であり、皆が共存できる世界の構築だ。 
しかし、ここにいるTAKEも、獣人、キメラ、生体兵器も同じ… 
人間が自分の都合で創り出してしまった命だ。 
「人として生きる」など、今更そんな勝手な事が言えるだろうか… 
残念ながらその答えはなく、 
今のミナにとってはTAKEを受け入れる術もなかった。
「…すいません。 
 私に言う資格はありませんね…」
「オレを哀れむト言ウノカ…面白い。 
 だが、争いがなくなることはアリエナイゾ」
「解っています。 
 でも、父のためにも、 
 そして私を助けるために命を落したユーキンさんやキムラさん、 
 皆さんのためにも、私はもう二度と…」
ここで突然鳴り響いた警報にミナの言葉は遮られた。
「…気付いたか」
「行ってください」
TAKEが本気になれば、ここの警備など物ともせず、 
建物を破壊し、ミナを連れ出す事も可能だろう。 
いや、以前ならそうしたかもしれない。 
だが、TAKEは素直にミナの言葉に従った。
「…そうだ。 
 以前に俺を退けた奴等、今はお前の仲間か… 
 生きているぞ」
「それは本当ですか!? 
 …………よかった… 
 …あ、ありがとうございます…」

 

 その夜、 
戦闘ヘリが上空を旋回し、ローターの音が一晩中鳴り響いていた。 
レーダーに引っかかったのがあのTAKEである事を知る者はいなかったが、 
警備隊の慌て様をみる限り、相当のバケモノが侵入したことを察知したようである。
明日の火星独立記念パーティ… 
突如自分の前に現れたTAKE… 
ユーキン達の生存の報せ…
複雑な想いも警備の騒音と悪夢でかき乱され、ミナは眠れなかった。 
夜明け前になってから漸く睡魔に身を預け、 
結局その日は昼過ぎまで爆睡してしまった。
執筆者…Gawie様

「おはよう。 
 珍しく寝坊かい?」
寝室内の妙な慌しさにミナが目を覚ますと、 
そこにいたのは世話役の老婆だった。
「何度か起そうとしたんだけど、 
 今日はこっちも準備で忙しくてね」
辺りを見渡すと、既に室内は
ファッションというには程遠いピンクでキラキラのアクセサリで埋め尽くされており、 
まるでオモチャ売り場のようである。 
さらに、次々にハンガーラックが搬入され、
そこには、これまた着心地などまるで無視したような原色系で奇抜なデザインの衣装がズラリと並んでいる。
「…あの、コレは…?」
「大統領の命令でね。 
 趣味じゃないかもしれないけど、我慢しておくれ」
今やデリングの着せ替え人形にされている事実には、 
ミナの価値観では知る由もなかった。 
ただ、いくら仮装パーティとは言え、 
こんな格好で宮殿に入れてもらえるのかという不安は流石に拭い去れない。 
苦し紛れに、ミナは作り笑いというものを覚えた。
いや、そんなことより、 
ミナには聞いておきたい事が山ほどある。 
資料室では前支配者や八姉妹など、古代文明や第3次大戦に関して調べたが、 
新聞やテレビなどは見ていないので、今の火星の状況はよく分からないのだ。
「…あの、下らない質問かもしれませんが、 
 今日の独立記念日はどういう意味があるのでしょうか? 
 火星が独立したのは、たしか半年前、正確には7ヶ月と16日。 
 一周年でもないのに中途半端な気がするのですが…?」
「…火星人の前でそれは言っちゃいけないよ… 
 3年前の今日が、火星が独立宣言をした日。 
 レオナルドの暫定政権、現火星帝がなぜか突然独立を宣言した日さ。 
 勿論、地球連合は認めなかったけど、当時の火星の民は皆賛成した。 
 そして、第4次大戦後、正式に独立が認められ、 
 今日は火星にとっては名実ともに独立記念日って訳さね」
「…そうだったんですか、すいません…」
「私はアメリカの人間だから別に気にしなくていいよ。 
 ただ、火星の人間にとっては感情的な問題もあるからね。 
 尤も、火星帝にとっては 
 移民計画の前に自分が火星の支配者だって事をアピールしたいってのもあるだろうけど」
「その、火星帝というのはどんな人なんですか?」
「革命家だったねぇ、仁君と謳われたこともあった。 
 けど今は、ウチの大統領とあまり変わらんかもしれないね。 
 おっと、噂をすれば…」
バタバタと足音が近付いてくる。 
息を切らせながら部屋に入ってきたのはデリングだった。
執筆者…Gawie様
「ぜぇぜぇ……や…やあ、おはようミナ君。 
 適当に衣装を運ばせたが……気に入ったものはあったかな?」
マジメに相手をしても疲れるだけだから 
ミナは適当に何も無いとだけ言ったものの、 
もう彼女は少し慎重に考えるべきだった。 
何故、デリングが急いで此処に来たのか。 
そしてもっと注意深く観察していれば、 
大統領が何かを隠すように手を後ろにやっている事にも気付けただろう。
「そうかね。いや残念。だがこれはどうかな? 
 私はこれが一番、君に似合っていると思うのだが…」
デリングがミナの眼の前に出したのは、 
何やらゴチャゴチャしたピンク色のナース服の様な衣装で、 
信じられない程に丈が短く、これを着てから椅子などに座ると、 
ほぼ100%下着が丸見えになるであろうという代物だった。 
ウサギの耳を模した飾りのあるナースキャップや、 
小物と思しき救急箱、羽の飾りが付いた靴にニーソックスまである。
まじかるナース大麦たんの衣装だ。 
 ナースにウサミミに魔女っ娘というコンボが萌え萌えだな。 
 東日本の小泉はこの…魔女の魅力というものを解さぬから困る。 
 新コスも中々なのだが、やはりニーソックスは外せん。 
 着替えたら正面ホールまで来なさい。 
 コリントスの火星帝宮殿へと向かうからね。 
 ああ、救急箱はちゃんと肩に掛けて来る様に。 
 帽子も…忘れ易いと思うがしっかりと被るんだよ」
衣装を見て絶句しているミナをまるっきり無視し、 
ビンザー・デリング大統領は部屋を後にする。 
我に返ったミナが不服を訴えようとするが、 
既にデリングの姿は廊下からも消え失せていた。 
だがもし見付けて怒りを吐き出したとしても無意味。 
何故ならあの男は、 
遊戯王のブラックマジシャンガールのカードが欲しいが為、 
カード全てを纏め買いしてコンプリートした程の魔女っ娘フェチだからだ。
(…はぁ、何か不安になって来る…… 
  ………でも…コリントス……か…)
アテネ西部コリントス。 
法王庁や火星帝の宮殿がある事でも知られており、 
規模や設備的にはアテネやスパルタには劣るものの、 
火星の政治的な中心部といって良い大都市である。 
そんな所にこの衣装で行かなければならず、 
更に火星独立記念パーティーに出席しなければならない。 
せめて他の出席者が、デリングの趣味であると理解してくれれば良いが…
執筆者…is-lies
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