リレー小説3
<Rel3.敷往路メイ3>

 

 

 

そして、約束の3日が過ぎ、
ネオス日本首相小泉の前に、
メイはディレイトと仁内の霧を連れて現れた。
「依頼の件、
 調査を終え、その首謀者を連れてきました」

 

「…………………………………………………」

 

仁内の霧を連れてきたという報告を受け、
小泉は一切の護衛や監視を外させ唯一人でメイ達を迎えた。
手には武器らしきものが握られていたが、
小泉はそれを構えもせず、暫くの間、険しい表情で口を結んでいた。
「久しぶりだな、ライオンハーティド
「…ディレイト…
 まだ生きていたのか…
 まさか、お前が仁内の霧だったとは…」
先に口を開いたのはディレイトの方だった。
暗殺者ギルドマスターであるディレイトをどう紹介しようか、
彼をここに連れてきたこの経緯をどう説明しようか、
と必死に言葉を考えていたメイの思考は、この二人の反応でかき乱された。
「……お知り合いだったのですか?」
「…まぁな」
「そ、それなら話は早いです。
 八姉妹の結晶の調査と探索をネオス日本政府と暗殺者ギルドが協力して行うというのは、
 できないでしょうか?」
メイは3日前にディレイトに約束した提案を切り出した。
しかし、小泉とディレイトが知り合いだと言っても、
例えば、『親友』『宿敵』知り合いと言えば知り合いだ。
メイはこの時、知り合いという言葉を良い意味でしか考えることが出来なかった。 
「暗殺者ギルドだと…?
 やはりそういう事か…
 人殺し集団と協力しろとでも言うのかね?」
「あ、暗殺者ギルドというのは、その……」
おまけに、口を滑らせてしまったことを咄嗟に否定できず、
ディレイトと暗殺者ギルドと仁内の霧の関係までバラしてしまった。
「何を言い出すかと思えば…
 兎に角、盗んだ物は返してもらわねばならない。
 そして、然るべき裁きを受けてもらう。
 結晶…
 カオス・エンテュメーシスを何処へやった?」
「隠したに決まっているだろう。
 大体、小泉、質問が違うぞ。
 そこは『いくらなら売ってもらえますか?』だろ?
 まぁ、お前には何兆円積まれても売ってやらんがな」
「当たり前だ。
 結晶を取り返すのに何故金を払う必要がある?
 私が人殺し集団の要求を受け入れると思うのかね?」
謎の集団仁内の霧であるならまだしも、
それが暗殺者ギルドとなると当然小泉がその要求を呑むはずはない。
その上、知り合いとはいってもこの二人は頗る仲が悪いようである。
もはやメイが口を挟む隙もない。
「人殺しか…
 殺した数では、俺とお前はそう変わらないと思うぞ?」
「…それは昔のことだ」
「それに、結晶を一方的に我物にしようとするのはお前も同じだろう?」
「私には責任がある!
 一刻も早く八姉妹の結晶の力を解明し、
 破滅現象に備えなければならないのだ」
「そういう話は国民の前でしてもらいたいもんだんな。
 せっかく偽物まで用意してやったのに、
 馬鹿正直に話して国民を失望させた。
 しかもだ、それ以前にお前は、
 偽物とは言え実際にセカイハから結晶を受け取っているんだ。
 元々セカイハを操っていたのもお前じゃないのか?」
「それだけは断じて違う!!」
小泉は一層声を荒げ、
睨みつけるようにメイに視線を送ってフォローを求めた。
執筆者…Gawie様
「は、はい…多分それはないと思います。
 あの人、苦し紛れに色々と喋りましたから」
「ヤツがダブルスパイと知っていたら、
 プロの手を借りるまでもなかった。
 恐らく、セカイハは最終的にはアメリカに売り込むつもりだったのだろう」
「フッ、メイに助けられた訳だな。
 メイがセカイハを捕らえたお陰で、
 そして我々が結晶を盗んだお陰で、
 アメリカの眼を逃れつつ、結晶を調べる事が出来るじゃないか」
「そこまでアメリカに気を使ったつもりはないし、
 お前達が思うほどアメリカを信用していない訳でもない。
 盗まれさえしなければ、結晶をどうするか議論する時間くらいはあった」
「あの…閣下…
 八姉妹の結晶は誰が持つべきなのでしょうか?
 私は誰の物でもないと思います」
「勿論だとも、
 八姉妹の結晶に本当に期待される力があるとすれば、
 それは誰かが所有するにはあまりに過ぎた代物だ。
 しかし、だからこそ政府が管理しなければならないだろう」
「しかし、閣下、
 今のネオス日本政府では管理は出来ても、
 調査までは無…時間がかかるのではないでしょうか」
「……確かに、
 我々が今から調査を始めるのでは時間がかかりすぎる。
 それは認める。
 だがお前達なら出来るというのか?」
「少なくとも政府に任せるよりはマシだ。
 勿論、俺達だけで調査が出来れば、
 態々お前の顔を見に来ることもなかった。
 なんせ、金がかかり過ぎるからな」
「…だからと言って暗殺者ギルドか。
 人選に問題があり過ぎるぞ」
「どうせ公には出来ないんだからいいじゃないか。
 四の五の言わずにさっさと金を出せ」
「閣下、お願いします。
 今出来る最善の決断、即断を」
このご時世、一国の首相ともなれば、多かれ少なかれマフィアや暗殺者等裏組織との繋がりを持っていた。
軍事力だけでなく、裏の力が必要なのだ。
ビンザーデリングなどがその最たる例である。
小泉も政治家としては決してクリーンではなかったが、
彼ほどそういう裏組織と関係を持とうとしなかった者は珍しかった。
この期に及んでも、首を縦に振る事はなかった。
「ダメなものはダメだ」と喉元まで言いかけた小泉に、その信念を曲げさせ、決断を迫ったのは一本の電話だった。
「何だね?
 今は緊急以外は連絡するなと………
 ………何…!?」
荒々しく受話器を取り上げた小泉は、
その緊急事態を聞き、数分間の間、口を開けたまま固まっていた。
「分った…詳細データを送ってくれ…」
手からこぼれるように受話器を落とし、
今までになく神妙に口を開いた。
リゼルハンク本社ビルが崩壊したそうだ
「まさか!?」
大げさなほどに反応したのはメイだ。
(まさか、ユーキンさん達が…)
真先に心当たりのあるメイだったが、先程と同じ失敗はすまいと直に冷静な表情を作った。
「リゼルハンクが崩壊…
 …それはつまり、SFESも、という事か?」
「そうらしい…
 全て消滅だそうだ」
「馬鹿な…あり得ん…」
「そうだ。あり得ない現象が起こった…
 報告では結晶の暴走という可能性が高いそうだ」
「またか…
 たしか火星の水位上昇の時もそうだったな。
 得体の知れない災害は全部結晶の所為にするのか。
 そうなると破滅現象も……」
聞きたい事も言いたい事も頭で整理出来ないほどあったが、
小泉は今決断を下すしかなかった。
「…………………
 君達の要求を聞こう…」
「…それでいいんだ。
 結晶の調査に必要な技術者、設備、情報…
 こっちが言うものを全部集めてくれ。
 まぁつまるところ、金だな」
「それで出来るんだな? お前達なら」
「それは分らんが、
 偶然だが、俺達は一度、
 カオス・エンテュメーシスの力を発動させた事がある。
 そのための器もあるしな」
「器…?
 器が必要だったのか。
 どれだけ巨大なものが必要なんだ!?」
「…人です…」
大それた事だとは思いながらも、不思議とメイに迷いや気負いはなかった。
「私が器になります」
執筆者…Gawie様
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