リレー小説3
<Rel3.敷往路メイ2>

 

  2日後  
  ネオス日本共和国首都 東京

 

敷往路メイ達が駅のホームから降りたと同時に声を掛けて来た男は2人。 
どうやら矢部はメイが来る事を確実と見抜いていた様だ。 
矢部の遣いである彼等と共に、用意された車で東京の街を進むメイ一行の視界に入るのは、 
未だに第4次世界大戦の傷跡残る荒廃した都市群である。 
大戦中にアメリカ合衆国…前大統領のトールマンが放った核ミサイルが、 
大名古屋国に操作されたSOLの一撃で撃墜された際、 
東京は巻き添えを食う形で核の炎に包まれたのであった。
「……復旧には…どのくらい掛かりそうですか?」
「…そうですね。4〜5年は掛かると見ておくべきだという意見もあります」
「そんなに…!?」
「そもそも第三次世界大戦で傷付き、東西の分裂で弱体化し、 
 引き続き起きた第四次世界大戦…そしてやっと東西統合となったと思いきや、 
 今度は破滅現象ですからね。火星へと人々が逃げ出して人手が少なくなったという理由もあります。 
 まあ、第四次世界大戦後、結晶技術もあって放射能汚染を早々に抑えられたというのが救いですか」
大名古屋国大戦の英雄として日本内では過分に敬われたメイだが、 
今はこの町の暗澹たる光景を眺める他に術を持たない。 
其の手で宗太郎を止める事が出来たと言う誇りよりも、 
後もう少し迅速に行動出来れば、この町も救えたのではないかという思いの方が上だった。 
この気持ちを傲慢というならば、其れは彼女の優しさ故のものであった。
執筆者…is-lies

やがてネオス日本共和国国会議事堂へと到着したメイ達は小さな個室で待たされる事になった。 
中世の城にでもありそうな豪華な椅子に座り、机の上の茶を啜る事数分、 
嫌に響くノック音の後に入室して来た男の顔を見て流石のメイも驚きのあまりつい叫ぶ。 
「こ…小泉首相!?」
「へー、大物出て来たね」 
「手っ取り早くて助かるよ」 
対照的に落ち着いているハチとタクヤ。 
精霊神というのは人間の権力者云々には無関心なのだろうか。
「こんにちわ、敷往路メイ殿。そしてダルメシア殿に猫丸殿。 
 つい先程、ネオス日本共和国が所有する八姉妹の結晶… 
 カオス・エンテュメーシスが、偽物であったという事を大々的に発表する方針を示した」
「…アメリカの眼は逃れられる訳ですね」
「ああ、其の間…我々で密かに八姉妹の結晶を抑えて回る。 
 この破滅現象を鎮める為、本当に八姉妹の結晶が必要と判断するまでは… 
 デリング大統領に八姉妹の結晶を渡す訳にはいかない」
「……信用出来ていないんですね。 
 今はやれる事を……」
「そうしたいのは山々なのだがね。 
 ……メイ殿は犯罪組織と共謀しているかも知れん国を100%信用出来るかね?」
「……リゼルハンクですか」
「101便での君達からSFESの話を聞かせて貰っただろう? 
 リゼルハンク本社へ、アメリカ…イスラムもか… 
 101便事件発生の数日前に兵器お披露目に招待されていたらしい」
「…確か101便への攻撃を特に推していたのも…其の2国でしたね」
「そう… 
 …私も実は戦時中は非能力者側で戦っていてね。 
 その時の経験と、今の立場で、少なからず知っている。 
 結晶というものが初めて齎されてより今に至る災厄… 
 奴等の関与は…十中八九、クロだ」
「十中八九というか、100%だろ? 
 判っててなんで動かないだよ?」
「君等に納得のいく説明は出来ない。 事はそんなに単純ではない。 
 合理的に考えるのは良いが、 
 今、それを実行する者がいるなら、それは非常に浅はかだと言わざるを得ない…」
「そうですか…解りました… 
 では、まず出来ることからやりましょう。 
 失礼ながら、閣下が態々御出でになったのは私達に用があったからなのですよね?」
「ふ、助かるよ」
「いえ、そのつもりでしたから」
小泉とメイ達は、互い何かを察し、自然と小声で話を進める。
「まずは、今の世界を支配している力の正体、その根源を知らなくてはならない」
「盗まれたカオス・エンテュメーシス…」
「そうだ。なんとしても取り戻したい」
「盗んだ犯人は? 何か手がかりはあるのでしょうか? 
 まさかSFESだなんて事はないですよね?」
「いや、それに関しては幸いというか… 
 盗んだのは、唯の賊だ」
「唯の賊?」
「いや、こちら警備をモノともせず、結晶を奪って霧のように消えてしまったのだから… 
 うむ、唯の賊ではないな…」
「特徴は?」
「残念ながら姿を見たものがいない。 
 ただ去り際に、『仁内の霧』と名乗ったそうだ」
「…仁内の霧…? 
 そう名乗ったのですか…?」
仁内の霧・・・ 
メイはその言葉を自分の記憶から検索してみた。 
どこかでその言葉を聞いたような気がするのだ。 
何気ない人々の会話をたまたま聞いただけかもしれない。 
知り合いのプロ達から聞いたかもしれない。 
・・・とにかく、何処かで聞いたハズなのだ。
「あと、奇妙な噂があるんだが・・・」 
小泉の声でメイは我に帰った。
仁内の霧についてはいつか思い出すだろう。気長に待てばいつかは思い出す。
「奇妙な・・・噂?」
「何でもSFESに情報提供している黒服の男がいるそうだ。
 まぁ、ただの噂だから気にする程では無いだろう」 
小泉は言葉を切り、いつの間にか机に置いてあった茶を啜った。
「…それはまぁ、そういう情報提供者はいくらでもいるでしょう… 
 私も何人か知ってますし、そういう人って何故か大体黒い服を着ていますよね。 
 それとも、それが今回の件と何か関係があるのでしょうか?」
「いや、そういう訳ではないんだが… 
 うむ、君がそう言うなら、まぁ取るに足らない事だろう」
小泉は言葉を濁した。 
メイの言うように情報屋などピンからキリまでいる。 
小泉は誘導尋問のつもりであったが、それにしてはネタとその重要性に欠けていた。
執筆者…is-lies、Gawie様、夜空屋様
「話を戻しますが、 
 結晶を盗んだ犯人の事は、よく判らないとして、 
 結晶が盗まれた経緯、場所、状況を詳しく教えて頂けますでしょうか?」
「盗まれたのは名古屋大戦後、間もなくだな。一週間後だったか…? 
 今、我々の手元にある偽物は、盗んだ犯人が摩り替えたものだ。 
 セカイハはそれで誤魔化すつもりだったらしい。 
 セカイハも共犯と考えられたが、どうやらそれはなさそうだ。 
 単に奴の計画が利用されただけのようだな」
「と言う事は、
 犯人はセカイハが結晶を持ち出すことを予め知っていた… 
 内部の犯行の可能性もありますね。 
 しかし…彼がもしも………」
彼がもしも――― 
セカイハがもしも、結晶を盗まれずに無事にネオス日本に持ち込んでいたら、 
小泉の対応は今と全く違うものになっていたかもしれない。 
考え様によっては、小泉が裏で糸を引いていたとも考えられなくもない。 
メイは言いかけた言葉を喉元で押し留めた。
「ん? 
 セカイハがまだ何か?」
「いえ、何でもないです。 
 それより、盗まれた場所は?」
「それが厄介なところなんだ。 
 国内に持ち込まれてから、受け渡しの所を狙われたらしい。 
 その場所は… 
 今の東京がまだサイタマだった頃、旧東京の中心地だった場所…」
「旧東京…ヤマノテ放置区…」
「そう、今、鉛雨街と呼ばれている場所だ」
「そう…鉛雨街に… 
 確かにあそこは一般の人は怖がって近付こうとしませんしね」
「ああ。無論、そんな場所だから警戒はし過ぎる程のものにしたが… 
 ……其れをも呆気なく掻い潜られてしまったよ」
鉛雨街とは東日本側に存在するスラム街であり、 
マフィアの各組織が抗争を起したりするなどして普通の人々は入る事が無い。 
そんな殆ど隔離された街だからか外部での噂が一人歩きし、 
常人が入ると平均7秒で屍となってしまうとか、 
一日、大体千単位の銃弾が飛び交うとか言われている。 
流石に誇張した部分は大きいだろうが、其れでも危険な場所には変わりない。 
唯、噂というのは全くのデタラメばかりというものでもない。 
火の無い所に煙は立たないのだ。 
デタラメで塗り潰された噂の中でも、真実は確かに存在する。
「そうだ…鉛雨街には、 
 異能の人間が存在するという話を聞いた事が…。 
 プロギルドも鉛雨街の人間を重要視していた節がありますし」
「ああ知っているとも。 
 あの場所に特別な力場でもあるのか、 
 単に危険な場所であるから…という訳か、 
 ……鉛雨街で育った人間は優秀な戦士となる…。 
 以前の暗殺者ギルドでも、 
 鉛雨街の人間は重宝されたというからな」
「暗殺者ギルド……」
ふと… 
以前、キムラと共に、 
東日本のガトリングガンズを訪れた日のやり取りを思い出す。

 

「相変わらずだ。いざとなれば弾丸も回避するからな。」 
「弾丸を回避!?そんなの人間技じゃない・・・ 」 
「育ってきた環境が違うからな・・・ん?終わったか」
「あの・・・お話の途中すいませんが・・・。 
 で、2人の育ってきた環境が違うというのはどういうことでしょうか?」
「おっと、言いかけてたんだっけな?」 
「俺の過去ばらして何になるってんだ。 
 素人が聞いても100%信じないと思うぜ。」 
「その通り。俺の場合真似する奴が出てきたらたまんねえ。」

 

そう。もしかしたら、 
驚異的な反応速度や素早さを持つ暗殺者キムラやジードは、 
この鉛雨街の出身者だったのかもしれない。
「…其の仁内の霧という人達が、鉛雨街の人間という可能性は?」
「…幾つかの組織と接触してはみたが…。 
 鉛雨街にそんな連中は居ないと返って来たよ。見事に全組織から。 
 だが、別の有益な情報が手に入った。 
 仁内の霧というのは…数年前から東西日本で動いていた盗賊団の事だ。 
 調べてみたところ、宝石やらを良く奪っているらしい。 
 活動回数自体は然程多くはないが… 
 少数精鋭の能力者達で構成され、其の姿も殆ど見せた事が無い。 
 そして…自分達から団名を名乗る事も無かったらしい」
「え?…でも……其れじゃ」
「ああ。『仁内の霧』というのは… 
 ……何処かの誰かが便宜上付けた呼称に過ぎんという事だ。 
 此度の事件の犯人である仁内の霧が本物か偽物かは知らん。 
 …先程も言ったが…唯の賊ではないから、前者かも知れん。 
 そして…自らの団名を態々名乗った事から後者かも知れん」
自分達から団名を名乗る事を無かったとしても、 
『仁内の霧』が現れたという報告自体それほど多くはなかったし、 
今回はたまたま名乗ったのかも知れない。 
結晶を盗まれた場所が場所なだけに、これ以上の議論は憶測にしかならなかった。 
鉛雨街――― 
政府からも見放され、ライフラインを断ち切られても尚、街として在り続けている。 
混沌によって秩序を保っている特異な街。 
噂だけが囁かれ、外からは全く情報らしい情報を得ることは出来ない。 
好き好んで見に行くものもいない。用もないし、メリットもないのだ。
執筆者…Gawie様、is-lies

小泉との面会を終えたその足で、メイはその人工の秘境へと向かった。
崩れかけた線路の高架橋から、むき出しのレールが垂れ下がっている。 
放置されたままの瓦礫の上を歩くと、時折、脆くなったコンクリート片がパラパラと舞い落ちる。
「戦前にあった環状線の跡ね。 
 ここから先が、鉛雨街………」 
「一日に千単位の銃弾が飛び交い、常人が入ると平均7秒で屍となる、ってか?」 
「さすがにそりゃねェだろって」
「でしょうね。 
 …けど、要するに戦場だと思えば良いのよ。 
 気を引き締めていきましょう」
執筆者…Gawie様
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