リレー小説3
<Rel3.敷往路メイ1>

 

メイは久しぶりに大阪を訪れた。 
逮捕したセカイハをネオス日本に引き渡した後、 
祖父、敷往路進が入院している日本皇国立病院に向かう途中、 
買い物ついでにぶらりと街を歩いていた。
「はい、航宙便ね。 
 宛先は火星のアテネの… 
 あ、あかんわお嬢ちゃん、この区域は配達やってないから… 
 近くの局のボックス預かりになるけどそれでええか?」 
「はい、それでお願いします」 
「中身はタコ焼きセットっと… 
 ほな38000円になります。毎度!」
祖父の見舞いの花も買い、 
タカチマン達のお土産は先に航宙便で送る事にした。
それにしてもこの街も変わらない。 
大名古屋大戦の後もそうだったし、 
皇国が滅んで、地球全体も破滅現象で滅ぶかもしれないと言われている今でも、 
いつもどおりの賑わいを見せている。 
祖父の昔話では、以前の戦争後に日本が東西に分裂してしまった時もそうだったらしい。 
いつの時代もその独特のノリを保ち続けている街である。
破滅現象など一時の災害に過ぎない。 
むしろ早々に火星に逃げ出した者達の方がおかしい。 
これがこの街に人間の大半の考えであった。 
たとえ破滅現象の惨状を目の当たりにしても、 
地球で普通に生活していればそう思うのが自然だった。
多くの人間は知らないのだ。 
確かに破滅現象による被害はまだ局所的なものに過ぎなかった。 
だが、メイは感じていた。 
空と大地と風の違和感… 
地球の生命力のようなものが確実に衰弱している。
セカイハを追い詰めた際に、彼が口走った事が思い起こされた。 
メイは日本皇国立病院へ急いだ。
執筆者…Gawie様

日本皇国立病院。 
正確には、元日本皇国立病院だ。 
皇国が国家としての機能を失った今はネオス日本政府が管理しており、 
事実上、日本は再統一された事になった。
院内は予想通り、いや予想以上にごった返しており、
祖父がいる病室までの通路にも患者が溢れていた。
やはり京都の被害は軽くはなかったようだ。 
本来ならば怪我人病人を真先に火星に避難させるべきなのだが、 
宇宙旅行が一般的になったとは言え、それはあくまで健常者の場合。 
自力で歩けないような患者の搬送はそう容易くはないのである。 
つまり、もしもの事があったら、 
弱者は地球に置き去りにされるしかないのだ。 
メイは彼等と目を合わせる事が出来なかった。
祖父の病室の前まで来て、メイが室内を窺うと、 
花束を持った男がベッドの隣に座っていた。
「おじい様、ただいま戻りました」
「おお!メイ! 
 それにタクヤ、ハチ、お前達も無事だったか」
孫娘の顔をみて、敷往路進はベッドから転げ落ちそうな勢いで体を起こした。 
それを宥め、隣にいた男もメイ達の方を振り返った。
「そろそろ来る頃だろうと、 
 今貴女の話をしていたところですよ。メイ様」
「あ、貴方は矢部さん」
男はメイにセカイハ捕獲を依頼した元皇国軍の矢部だった。 
最初に出会った時と同じ軍服姿だったが、 
襟の階級章はネオス日本のものに変わっていた。
「依頼の件、お疲れ様でした。 
 …しかし… 
 我が皇国はもう… 
 ネオス日本政府から貴女に支払われた報酬も予定の半額… 
 不甲斐ないばかりです… 
 結局、今では私もネオス日本に拾われたようなもの… 
 ハハハ…これではあのセカイハとあまり変わりありませんね」
矢部は表情を曇らせながら自嘲した。
「せめて、と思って、 
 敷往路家をネオス日本に迎えようと思ったのですが… 
 それも先程、貴女のおじい様に断られてしまいました」
「祖父は見ての通りの頑固者ですからね。 
 それはもう気になさらないで下さい。 
 それよりも、日本政府は今後の事…どう考えているのでしょうか?」
「…と、言いますと?」
「政府からはまだ正式発表もありませんが… 
 日本が、いえ地球が破滅現象で滅びるかもしれません… 
 地球ではそれ程までは心配されてないようですが、 
 火星では、地球は既に崩壊したいう噂もあるほどです」
「えぇ、勿論それは最重要課題です。 
 ですからこれから…」
「火星の独立祭… 
 デリング大統領が言っていましたね。 
 『破滅現象の脅威を打ち払う』と… 
 その鍵となるのが八姉妹の結晶。 
 セカイハさんを捕まえたときに彼も言ってました。 
 『力を持つ者だけが生き残れる。それだけで人類は精一杯』なんだと。 
 それと、『その八姉妹の結晶の一つが皇国にあった』と…」
「…ふむ、 
 貴女も機密を知ってしまった訳ですね…」
「…そう言う事になりますね…」
「まぁ、A+プロに隠し事をするつもりはありません。 
 …確かに、八姉妹の結晶の一つは皇国にありました。 
 が、実は今はネオス日本にあります。 
 皇国が崩壊する前にセカイハがネオス日本に持ち込んだようです。 
 尤も、奴には別の狙いがあったようですがね。 
 それが機密の真相… 
 しかし、実はその真相も真実ではありません。 
 今、ネオス日本にある八姉妹の結晶はイミテーション… 
 本物はどうやら輸送中に盗まれたようなんです」
「盗まれた? 
 …一体誰がそんな事を…」
「それは分りません… 
 政府にとっては、都合の良いような悪いような、ですね」
「………?」
「ネオス日本が八姉妹の結晶の一つを有している事が分れば、 
 今の政府は、連合、アメリカにそれ差し出すしかありません。 
 地球が破滅現象で崩壊するかもしれないという事は、事実。 
 そして、それを防ぐ鍵が八姉妹の結晶にある事も、恐らく事実… 
 ですが…貴女は、あのアメリカ大統領を信用出来ますか? 
 出来ませんね? 我々も同じ考えです」
「そんなの解りません。 
 そんな事じゃなくて…! 今やるべき事は…!」
「解っています…それは… 
 …………… 
 …首相が近日中に地球に戻られる予定です。 
 これは依頼ではありませんが… 
 その気があるなら、東京までいらして下さい…」
矢部は真剣な眼差しで、どこか含みのある言葉を残し、 
メイ達に一礼して部屋を出て行った。
執筆者…Gawie様
「御嬢、どうします?」 
「依頼は達成出来たんだし、 
 オイラは東京行ってみても良いと思うよ」 
ダルメシア、猫丸ことハチとタクヤはピクニック程度の心構えの様だ。 
だが確かに興味がある。ネオス日本はこれからどうするのか。
「そうね。地球崩壊だけは何とかして食い止めたいもの。 
 私…私達にだって何か出来る事がある筈よ」
「メイは相変わらず優しいのだな」 
進はそう言って布団から其の老人とは思えない程に逞しい腕をすっと出し、 
メイの頭を優しく撫で擦る。
「お…おじい様、私はそんな…もう子供じゃ…… 
 其れにおじい様は安静に……」
「よい。其れよりメイ。 
 道中の話でも聞かせてくれんか?」 
「あ……はい」
日本皇国からの依頼…大怪我をして気絶していた進を発見した時の事… 
タカチマン博士達との邂逅…そして101便事件… 
謎の能力者ゼロ…ゼペートレイネとの遭遇…脱出。 
ほんの数日の出来事であったが其れはメイの記憶にもまだ鮮明に残っている。
「ふむ…あれと一戦を交えたか…… 
 良いかメイ。優しさはお前の武器だ。だが同時に弱みでもある。 
 あれはお前の弱みに付け込み、お前の心を蝕み、そしてお前を喰らわんとする。 
 …わしも悟るのが遅かった。あれは怒りでは滅ぼせぬ。 
 恐らく…あれと同じく人として大事なものを何か失わねばなるまい… 
 …だがお前が無事で帰って来てくれただけで、わしはもう十分だ。 
 ………併し……ゼロ…か……… 
 其れで他には?」
ゼロと聞いて顎に手をやる進だったが、すぐに先を促す。 
メイも深くは考えず、今は祖父に言われた様、話を進める。 
其れは祖父に言われたからという以上に、 
彼女自身が心の奥底で理解者を求めているからでもある。 
地球の存亡に関わる事件…あまりにも重過ぎるのだ。 
ガウィーから聞いた前支配者、そして八姉妹の結晶の事…。
「…前支配者……そして八姉妹の結晶…か」
「はい。矢部さんが仰った様、どうしても八姉妹の結晶が必要なんです。 
 其れにしても…皇国の…いえ、ネオス日本の結晶が盗まれていたなんて…」 
「うむ。わしも初耳だ。 
 併し…あれを盗んで何が出来る…?」 
「え?」 
まるで八姉妹の結晶に利用価値が無い様な事を言う進に、 
メイが困惑の表情を浮かべ、何故と言いたそうに進を見やる。
「いやな…敷往路家も皇国の守護者。 
 皇居の八姉妹の結晶も見た事くらいはある。 
 矢部殿とも其の件で話をしていたのだが… 
 皇国の持っていた八姉妹の結晶カオス・エンテュメーシスは、 
 どうもエーテル自体持っておらん様なんじゃ。 
 何をしても何の反応も無い…透明なガラスの様な結晶じゃった」
「そ…そんな……八姉妹の結晶なのでしょう? 
 …其処等にゴロゴロしている使い捨ての結晶じゃあるまいし」
「解らぬ。だがわしには…どうもあの結晶が役に立つとは思えんのじゃ」
「でも、八姉妹の結晶に名を連ねる結晶だったら、 
 ……其の…エーテル云々とは無関係に何かあるのかも知れませんし…」
大名古屋国大戦で使用された八姉妹の結晶『ワイズマン・エメラルド』は、 
其の無限のエーテルによって全生物抹消の危機まで齎した。 
が、他の八姉妹の結晶に関して…いや、ワイズマン・エメラルドも含め、 
八姉妹の結晶に関して解っている事は殆ど無い。 
過去、第三次世界大戦に於いて地球を護った8人の聖女、八姉妹… 
…其の彼女等に通ずるという八姉妹の結晶も、何がどう通じているのかすら不明であった。
「うむ。何せ未知の結晶だからな。 
 何にせよネオス日本としても奪われたものを捨て置く訳にもゆかんだろう。 
 だがメイよ、皇国無き今…ワシらは自由。 
 お前が再び其のようなキナ臭い事件に関わる事…ワシはあまり良いとは思わん。 
 話を聞くに…お前は既にマフィアのようなものと関わりを持ってしまった… 
 唯でさえそんなのに…… 
 ……メイ、お前の身にもし何かがあったら… 
 メイの母さんや父の墓前でワシは何と言えば良いのだ…?」 
進が顔の笑みを心配そうに歪める。 
ゼペートレイネの襲撃で従者もハチとタクヤを残し全員失った事で、 
進のメイに対する過保護さにも拍車が掛かった様だ。
「…大丈夫です。私だって引き際は心得ていますし無理はしません。 
 其れに…放ってはおけません……。…どの道、破滅現象とは戦う事になるでしょうから。 
 ほら、善は急げとも言うじゃないですか」
「そうか……ならば何も言うまい。 
 お前はお前の思うが侭の道を進み往くが良い。 
 …敷往路とは…そもそも皇国が我々守護役に付けた名でな、 
 皇国の往く路を敷く者…天皇の前にて障害を排し路を均す者の意だった。 
 …あの皇国が滅び、ワシ等の楔も外された… 
 ならばこれからは自身の路を敷き往く事としよう」
「はい。おじい様」
執筆者…is-lies
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