リレー小説3
<Rel3.LWOS3>

 

Living Weapon development Organizations…
即ちLWOSの所長であるバルハトロス・レスターは、
苛立ちを隠さないしかめっ面のまま端末をやや乱暴に操作していた。
リゼルハンクの支援もあり『箱舟』の修復は2割以上終了した。
だが肝心の「OX-96対策」については未だに解っていない。
SFESの態度からしても対策が存在する事は間違いない筈なのだが、
其の正体を掴めぬまま、既に10日が経過したのだった。
足止めを余儀なくされ一向に進展を見せない現状に辟易しつつ、
今、自分達が出来る事が情報収集程度しかない事も理解している。
これが一層バルハトロスを苛立たせている原因でもあった。
「で、どうだった?」
モニターに映ったLWOS生体兵器総指揮官ロネに尋ねる。
ベリオム、マリーエント、アレット、ロネ…
LWOS幹部でもあるオリジナルLWHの内、
3人は非常に自意識が強く、バルハトロスの命に背く事もしばしば、
マリーエントに至っては明らかな反抗心すら伺える。
故にオリジナルLWHの中では最も従順なロネを使ってSFES調査を進めていたのだ。
ベリオム達では最悪、SFESに寝返る危険性すらある。
洗脳すら受け付けないオリジナルLWH…
道具としては使い難い事この上ない代物なのだが、
これもバルハトロスの予想の範囲内。後少しの辛抱…
其の時こそ、ベリオム達オリジナルLWHが、己の真の役割を知る時なのだ。
《経過報告は以下の通りです》
  FEP…452T
  分布状況・現象速度…図を参照
同時に送られた、東日本・鉛雨街の地図を眺め、
バルハトロスは暫しの黙考に耽る。
鉛雨街とは旧東京・ヤマノテ放置区の通称であり、
世界的に有名なスラム街の事である。
其処の出身者には異能者が数多く存在し、
暗殺者ギルドやプロギルド…
そしてLWOSも人材発掘のメッカとして重宝して来た。
鉛雨街が特殊なエネルギーフィールドとなっており、
其の為、異能者が誕生するという事はバルハトロスも知っていた。
だが…
「この前言っていた…『プロジェクト・エンブリオ』については?」
ロネが探り出したというSFES最重要機密…
SFESの台頭にも関わるというこの計画は
台頭以前…そもそもの名を『プロジェクト・セイフォート』と言った。
言わずもがな、SFESの虎の子であるセイフォートシリーズとの関係は明らかである。
5年前に鉛雨街より採掘したセイフォートの原型…
其れによってヴァンフレムを中心とした少数集団でしかなかったSFESは、
今や世界に巣食う強大な闇組織と変貌したのだという。
発掘現場をたまたま支配していたというだけで、
SFES総裁の座に据えられたネークェリーハなど傀儡といって差し障り無い。
この第三次世界大戦以前より続けられていた計画の仔細を知る事が、
LWOSがSFESを出し抜く方法に繋がるとバルハトロスは見ていたのだった。
執筆者…is-lies
《オリジナルセイフォート…
 通称『セイフォート・エンブリオ』が鉛雨街に存在したという確証は未だにありません。
 現在、SFES幹部となっているライズの関係で、
 東日本の魔法学院を調べてはいますが、資料は粗方抹消された後のようです。
 逆に言えば魔法学院に、調べられては拙い資料が存在したという事です。
 以前、カンルーク様から伺った話では、
 去年に行方不明となった魔法学院の院長ヨノナ・カーネルは、
 本田宗太郎によって処刑されたと言いますし、
 生前のヨノナと蜜月の関係にあったという、
 軍部代表セカイハ・ボーリョクを当たろうと思っていましたが、
 5日前に逮捕されてしまい、接触はやや難航しそうです。
 其れと第三次世界大戦以前より続けられていた『プロジェクト・セイフォート』の方は、
 残念ながらマハコラ時代よりも遡るとなると、
 現時点では情報が少な過ぎ……》
「よい。SFESを台頭させたのは其の『プロジェクト・エンブリオ』なのだからな。
 『プロジェクト・セイフォート』などはどうでも良い。
 ……引き続きSFESの調査を頼む。以上だ」
頷き一礼してからロネは通信を切った。
LWOSとSFES…元々はマハコラと言う組織を源流とする兄弟の様なものである。
其の兄弟が争い合い腹の内を探り合う…これを皮肉と言う者も居よう。
だがLWOSの支配者バルハトロスと、SFESの支配者ヴァンフレムの、
マハコラ内での対立を知る者ならば必然と言うに違いない。
互いに生物学に関わる深い知識・技術を持っているというところは同じだが、
研究者として生体研究を推し進める狂科学者バルハトロスと、
学者にはならず経営者として組織を輔弼する裏役ヴァンフレムは、
犬猿の仲として組織内では有名であり、
時に議論で、時に謀略で争い合ったものである。
そして其の全てにバルハトロスは敗れて来た。
バルハトロス……彼の持つSFESへの異常な敵対心は、
この屈辱的な過去を薪とし、嫉妬の炎に投じて湧き出た黒煙であり、
黒一色に塗り潰された彼の頭の中では、LWOSの利害は思慮の余地すら与えられない。
端末をダウンさせ、直ぐ隣のベッドへと腰を下ろす。
今、バルハトロスが居るのはアテネ北部の豪華ホテルのVIPルームである。
アテネの公園で直々に話をしたいというヴァンフレムの話に乗り、
態々アテネまで出向かされた事は屈辱でもあるが、
其れ以上の収穫があった為か、バルハトロスの顔に怒りの色は無い。
「…マリーエント、2日前の話…信用に値すると思うか?」
「……現時点ではどうとも…
 諜報部で内偵を進めさせてはいますが…流石に……」
「だろうな、一筋縄では行くまい。
 近々…私直々に会って鎌を掛けてみる事にしよう…
 ところで…月基地のジェールウォントの方は変わり無しか?
 何か変なマネはしていないだろうな?」
執筆者…is-lies
inserted by FC2 system