リレー小説3
<Rel3.LWOS2>

 

 

  LWOS月基地

 

 

LWOS月面基地――円形の建物の周りには無機質な研究施設が建ち並び、 
それらを結ぶエネルギーパイプラインや、 
ガラス張りの筒状の通路が奇妙な幾何学模様を形成している。 
開閉式のセンタードームはポッカリと大きな口を開け、 
その中に、一際巨大な建造物が不自然な形で横たわっている。
SFESとの戦闘で大きな被害を受けてしまったLWOS本部… 
コロニー箱舟の修復作業が急ピッチで行われていた。 
その船体外観は、ホログラムで偽装されてはいるものの、 
突如現れた巨大なハリボテはとても隠しきれるものではなく、 
各国からも疑惑の声が上がっていた。 
しかしそこは、先の戦闘でLWOSを傘下に取り込んだリゼルハンクと、 
事実上連盟の実権の多くを握っているアメリカの計らいもあり、 
単なるコロニーのメンテナンスと、月面基地からの発射実験という形で公表され、 
SFESとLWOSの戦闘も、小規模の戦闘訓練が行われたという程度で、事実は隠蔽された。
「…予想以上の被害だな。 
 修復にはどのくらいの時間がかかりそうか?」
「工期は約2ヶ月の予定です」
「そんなにか、短縮は出来んのか?」
「いえ、我が月面基地だからこそ2ヶ月で済むのです。 
 あのまま宇宙空間で修理していれば、 
 時間もコストもその倍はかかりますでしょうな」
研究室の窓から破壊された箱舟を見上げながら話をしているのは、 
バルハトロスと副所長のジェールウォントだ。
「幸いな事にリゼルハンクが修理費の一部を負担し、 
 SFESからも既に技術者が派遣されております。 
 全てにおいて以前よりも改善されることは間違いないでしょう」
「ふん…忌々しいことだ。 
 SFESによって破壊された我等の箱舟を、SFESが修理するというのか… 
 まぁいい、くれぐれも機密の保持だけは抜かりないようにな」
「分っております。 
 SFESとて、我々の手札の重要性を知っているからこそ、 
 こうして協力を申し出ているのでしょう」
もはや彼等にとっては、 
利用できる価値さえあれば、戦争責任など取るに足らない問題なのだろう。 
今回、クーデターとも言える行動を起したバルハトロスも、 
その罪責を問われる事はなく、 
SFESは現行のまま、LWOS所長の立場をバルハトロスに預けたのだった。
「フ…精々利用するがいい」
「あぁ…それと、発言には気を付けた方がよろしいかと… 
 本来ならば、我々の行動は極刑も免れないところでしたし」
「それがどうした…?」
「い、いえ、何でもありません。 
 あ、では私は用がありますので、これで…」
立場上、SFESと白き翼に板挟みにされる事となったバルハトロスだったが、 
どうやら、そんなことを気にする様子は微塵もないようだ。 
新生物工学の先駆者として、LWOSを立ち上げた彼に、嘗ての科学者の面影はない。 
もはや、科学者の探究心の域を越えた其れは、 
まるで何かに取り憑かれたような…暴走と言ってもいいだろう。
(この男も…時間の問題だな…)
狂気にも似た不気味な笑みを浮かべるバルハトロスを横目で見ながら、 
ジェールウォントはそそくさと部屋を後にした。
執筆者…Gawie様
と、そこへ入れ替わるように部屋に入ってきたのは、 
仮面を被った男、白き翼総帥リヴァンケ、 
そして白衣を着た女性、同研究室長のクレージェ・ライデラルだった。
「お前達か、何の用だ?」
「フフフ、悪巧みが部屋の外まで聞えましたよ。所長」
「何がだ? 三日前の会議で決まった事だろう」
「露骨な狡猾さは、狡猾とは言いません。 
 折角こちらに都合がよく事が運んだのです。 
 状況はもっと上手く利用した方が良いですね」
「言われなくとも…」
「そうですか? 
 ならば、もう少し部下を大切にした方がよろしいかと… 
 情や絆というものは、貴方が考えている以上に力があるものですよ。 
 …尤も、先程のジェールウォントという男は…」
「そんなものは私には無縁だ。 
 で? 今日は厭味を言いに来たのか?」
「これは失礼。 
 いえ、実は今日は例の調査班の事でお話がありまして」
「あぁ、あの名古屋大戦の英雄とかいう奴らの監視か。 
 すまんな、失敗して逃げ帰ったそうだが、どうする?」
「こちらも報告は聞いています。 
 寧ろ、失敗ではなく、十分過ぎるほどの収穫がありました。 
 調査の方は引き続きお願いしますが、 
 今後は、戦闘行為は勿論、ターゲットとの会話も厳禁とさせて頂きます。 
 彼らの動向を探るだけで結構です」
「…何? どういうことだ?」
バルハトロスが疑問に思うのも当然だ。 
LWOSは白き翼の依頼により、数日前から、『青』達―― 
つまり名古屋大戦の英雄を監視するための調査班を派遣していたのだが、 
いかに名古屋大戦の英雄と言えど、たかが数名の能力者を監視したところで 
到底メリットなどありはしない。
現状で敵対している訳でもないし、
彼らの能力が必要ならば、まずは金を払って交渉するのが普通だろう。 
いや、それ以前に、素性の知れない英雄などに頼るほど、戦力に困ってはいないのだ。
「…総帥…」
バルハトロスの問いは、思いがけず核心に触れたと言ったところだろうか。 
これには隣で聞いていたクレージェも、 
ちらりとリヴァンケに視線を送りながら、心配そうに呟く。 
だが…
「…いいでしょう。 
 情報、技術面においては、 
 我々も協力は惜しまないという事も会議で決まったことですからね…」
リヴァンケはそう言いながら、バルハトロスにそっと資料を手渡した。
「…ルーラー…」
「そう、ルーラーに関しては、以前に貴方だけにお話した事がありましたが、
 実はルーラーの観測をする際に、我々にはある推論がありました。 
 そして、今回の調査によって、それがより確実なものとなりました。 
 当初のターゲットではありませんでしたがね… 
 まさに、僥倖と言えるでしょう…」
「このエーテル波形…まさか… 
 奴等の中にルーラーのセンサーがいるというのか?」
「その通り、フライフラット・エース… 
 あの少年こそがルーラーのセンサーなのです。 
 これで、お判りでしょう? 
 あの少年と、それと関わりのある人物には近付いてはいけません。 
 そして、この事実を知るのは、我々だけです…」
「フフフ… 
 なるほど…そういうことか…!」
「…くれぐれも気を付けて下さい。 
 我々も、依然としてルーラーの実体までは掴めてはいないのですからね…」
執筆者…Gawie様

「動きはあったのか?」
「あ、これは所長。 
 …今のところはこれといって……」
予想通りの詰まらない答えは耳に入れるまでも無い。 
だが其れでもバルハトロスは警戒を怠る訳にはいかなかった。 
SFESから派遣された技術者連中には、 
最重要機密に触れさせずに『箱舟』の修理を行わせている。 
相手側も無理に事を荒立てたくは無いのか、 
ただ単に今更LWOSの情報を奪取するという気が無いのか… 
報告通り、今の所は怪しい素振りを見せてはいない。
しかしバルハトロスが最も用心しているのは其れですらない。
「……向こうから提供されたデータに偽りが無ければ…」
派遣された技術者や其の付き添いに関する資料を片手に、 
此処、監視室のモニター…其の一角を凝視するバルハトロス。 
彼の見ているモニターには、 
『箱舟』の1ブロック…そして其処を歩く2人の男女が映っている。 
男の方は、サングラスを掛けて白衣を着た青髪の青年だ。
「…SFES最高意思…SLと呼ばれる連中の1人… 
 ライズ・ゲットリック………襲撃時の奴に間違いありませんよ。 
 SFES最大の研究施設SFELの研究員でもあり、 
 今回は技術者達の指導員として派遣されたそうです」
「…もう片方の女は誰だ? 
 さっき見に来た時は居なかったが……」
次にバルハトロスが興味を示したのは女性の方… 
赤いロングコートを着た金髪の少女である。 
ライズの隣を歩きながら、彼と何か話をしているようだ。
「ああ、少々お待ち下さい……… 
 …これだ。 
 サリシェラ・リディナーツ。SFES最大戦力レギオン所属。 
 ライズ・ゲットリックの護衛として来たみたいですが… 
 ………若い…というか子供ですね。 
 …連中お得意の生体兵器と見て良さそうです」
手早くデータを表示させて読み上げる監視員。 
だが其の報告に対してもバルハトロスは苛立ちを募らせる。 
今、この監視員は『連中お得意の生体兵器』と言った。 
だがLWOSも専攻は生体兵器。
LWOSが生体兵器でSFESに劣っているとでも言うのか?
先の敗戦、更に己が不治の病で侵されたという事実もあり、 
こんな瑣末な事にすら怒りの焔を燃やしてしまっていた。
「………何を話している? 
 …おい、音声を回せ」
「了解」
敵を中に入れているという不安に駆られたバルハトロスの命令を受け、 
指定されたモニターの映像に加え、音声も監視室に回す監視員。
《……に頼むぞ?》
《…………支配は大丈夫なの?》
《其れは気にしなくて良い。 
 スルトの日までの数日間はアイツ、教会へ行ってる予定だ。 
 警備の方も僕が何とかしてやる》
《…………………》
《そう怖い眼で見るな。 
 此処なら十分話せると思って連れて来たんだぜ? 
 …まあ乗るも反るもお前の自由さ。 
 だがスルトの日までには何とかしておくんだな》
「………?…まあ良い。 
 ちゃんと記録は取っておけ。後…OX-96反応も調べろ」
OX-96に侵された『箱舟』の修理を買って出たのだ、 
SFESの持つ『OX-96対策』が既に技術者達に施されている可能性はある。
そう踏んでいた。 
だが現実は違ったのだ。 
数時間後に出された結果は…
SFES技術者は何のOX-96対策もなされていない。
飽く迄、生物学の観点で見た結果に過ぎず、 
エーテル学、霊魂学から見たらどうだかは解らない。 
だが、これはバルハトロス等の不安を一層募らせるのには十分だった。
執筆者…is-lies

  所長室

 

「どう見る?」
《そうですなぁ…OX-96対策が無い状況に… 
 あのライズを連れて来たのは… 
 ……一種のデモンストレーションなのでは? 
 自分達はこんな事をしても平気であると…。 
 連中も最高級幹部を犠牲にする気は無いでしょうし》
「……余程、効果に自信があるのか…… 
 だが其れでも…疑わしいものだ…本当に治療法があるのか…? 
 ……ああ、もう良いぞ。仕事に戻ると良い」
《……畏まりました》
ジェールウォントとの通信を終え、椅子に深く腰掛けるバルハトロス。 
SFESがOX-96の治療法を持っているのか怪しくなって来た。 
精神的な疲労も軽くなく、其のまま暫しうとうととする。 
バルハトロスの意識はまどろみの中に沈んで行った。

 

 

何人かの人影が研究室と思しき一室にて 
巨大な鉄の塊を囲んで何やら話し合っている。
「やっと…召喚まで漕ぎ着けたな……」
「…エンパイア…カルナヴァル…… 
 随分と遅くなったが……まあこれで一段落か」
「其れはどうでしょうか…所詮は相容れぬ者共… 
 我々に従わない場合は相応の処置が必要でしょう」
「始めるぜ?」
「ああ、やってくれ」
人影の1人が鉄の塊…何らかの装置を弄くると同時に、 
装置上部にある透明なドームの中に煙の様なものが生じた。 
其れを見て人影の何人かが「おぉ」と小声で呟く。
「……触媒に喰らい付いた………顕現するぞ!」
「さぁ……この世に再臨せよ…… 
 …………前支配者!!

 

視界が一気にフェードアウトし、バルハトロスは眼を覚ます。 
自分が寝て夢を見ていたという事に気付くのに数秒を要した。
「…ふん……あの時のか…」
前支配者に対する忠誠心は今も昔も変わっていない。 
変わらずに心からの忠誠は今も昔も無い。 
だが前支配者に従う事で力を得、野望に向かって邁進している。 
言わば前支配者を利用する側にいるバルハトロスだが、 
今の夢には嫌な続きがある。
「…今更……諦めろとでも言うのか? 
 ……下らん……」
自ら努めて雑念を振り払い、其のまま執務室を後にする。
執筆者…is-lies

過去を思い出せば、今の混沌には嫌気が差す。
LWOS研究施設・中庭

 

 

少女は花の中でじっとしていた。
花を摘むわけでも無く、その匂いを嗅ぐ訳でも無く。
只眼を瞑って、生命を感じるばかりであった。
と。
「何してるの?」
「!」
目を開けると、其処に立っていたのは一人の女性であった。
「へえ…殺風景だと思ってたこの研究所にも、
 こんな場所があったのね…」
女性は少女の隣に座りながら呟く。
「うん。前にベリオム達とかくれんぼしてた時に見つけたの。」
「へえ…」
女性は空を見上げる。
「ねえ、マリエル。貴女は此処以外にも色んな綺麗な場所があったら、言ってみたいと思う?」
「うん!」
「そう……」
その返事を聞くと、何故か女性は悲しそうな顔をする。
「…?どうかしたの?」
「…ううん、何でも無い。さて、そろそろ自由時間も終わりだし、戻りましょ?」
「うん。」

 

頬を伝う涙の雫が掌に零れ落ち、マリーエントは目を覚ました。
「…また…あの夢…」
涙を拭いと、周りを見渡す。
其処は暗く狭い部屋であった。
(そうだった…私はバルハトロスの部屋に忍び込んで…)
そして暫く黙りこんだ後、俯く。
(あの時、マリーさんが悲しそうな顔をしていた意味、
  今なら判る…)
あの頃には、もう戻れない。
執筆者…鋭殻様

視点は中央司令タワー内のとある一室へと移る。

 

「…で、バルハトロスは
 「動向を探るだけで十分」と命令してきた訳ですね?」
男は椅子に座り、前のモニターを見たまま後ろにいる機関員に確認する。
「はっ。確かにそう仰られていました。」
「…判りました。もう下がって結構です。」
機関員が去った後、男は思索し始める。
まず、命令を行った者達の意図。 
所長であるバルハトロスは
「大名古屋国大戦英雄の生体データを採取せよ」と言う内容の命令を下した。 
しかし、部下の一隊が対象と戦闘になりかけたのを知った途端、
「動向を調査するに留めよ」と命令を変更してきた。
何故か? 
あの男の性格は知っている。自らの目的の為になら
外聞すら無視して人体実験も躊躇せず行う男だ。 
警察を買収して拉致を揉み消した事など日常茶飯事。
それが何故、突然命令を変更したりしたのだろうか?
少なくとも大事にしたくないとかいう可愛らしい理由ではない。
そもそも何故今更、大名古屋国大戦の英雄達を調査しなくてはならないのか。
これまでにも調べる機会は何度もあったが、
バルハトロスは興味が無い様で今の今迄、一切の手出しをしていなかった。
別に大名古屋国大戦の英雄に固執する理由は全く無いのだ。
思い当たらない節が無い訳でも無い。
『箱舟』がSFESの襲撃を受けた以後、時々来る所属不明の者達である。
彼等はバルハトロスから直々に、LWOS内部に於ける独立権限を与えられており、
LWOS下部機関員による一切の尋問にも答える必要無く、
バルハトロスへの面会すら可能とされていた。
以前彼等の素性を調べるべく、
部下を数人彼等につけ、尾行させたが、誰一人として戻ってこなかった。 
バルハトロスの命令変更の前後にも彼等が来訪していた事は調査済み。
怪しい。バルハトロスの命令に彼等の意思が含まれているのかも知れない。
では、彼等は何者なのか? 
仮に部下達が彼等によって倒されたとして、実力はどれ程なのか? 
目的は? 
男の頭の中に次々と疑問が浮かんでくる。
「…もう止めておきましょう。データが少なすぎる。」 
男は呟く。 
精鋭の部下達が倒されてしまう程強力な力を持る可能性がある者達だ。 
下手に首を突っ込んで何か厄介な事に巻き込まれるのは御免である。 
そう考え、彼は考えるのを止めた。
執筆者…鋭殻様
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