リレー小説3
<Rel3.クノッソス港2>

 

 

空と海が薄紫に染まる夜明け前、
東の彼方から射す朝日が雲と波の輪郭に赤みを与える。 
その光を反射させながら、一機のヘリコプターが上空を旋回していた。
「〜ビーム輝くフラッシュバッグに奴の影♪ 
 ツャア♪ツャア♪ツャア♪ 
 ツャア♪ツャア♪ツャア♪」
操縦席で、赤い水兵服を着た男が自分のテーマだと称する曲を口ずさんでいる。
「ふふふ、プロギルドは大型潜水艇を発進させたか、 
 随分と大掛かりな作戦に出たな。 
 しかし、させるかッ…!」
「……………………」
「どうしたシルシュレイ? 浮かないな」
「あぁ… 
 クノッソスに入ってから、 
 サリスから連絡がねェ… 
 クリルも心配してるってのに…どこいきやがったんだ… 
 黙っていなくなるような子じゃねェんだが…」
「過保護だな。 
 ネッパーは問題ないと言っていたが?」
「そのネッパーも、定期連絡だけでこっちの呼び出しには応じようとしねェ… 
 まさかとは思うが… 
 二人ともセレクタに…」
「うむ、セレクタか、私のプライドを傷つけた… 
 何にしても看過出来んな。 
 奴等…ここにも来ると思うか?」
「来るさ。 
 だから先手を打つ。 
 …碧きイノセント…八姉妹の結晶であろうとなかろうと、 
 その力が人々の畏怖の対象になる… 
 トレジャーハンター気取りはこれで一掃。 
 半端な奴等は手出し出来なくなるさ」
八姉妹のコピー…そのプロトタイプか… 
 その気になれば…… 
 我ながら、怖いとすら感じるな…」
「…それも良し… 
 まぁ、上手くいけばな… 
 よし、そろそろ目的のポイントだ。 
 実験体の準備、いいな」 
ツャアの操縦するヘリは海面スレスレまで急降下し、 
カプセルのような球体を投下すると、直ぐにその海域から飛び去った。 
SFESにしてみれば、釣りに近い感覚の作戦である。 
餌はシルシュレイが言った実験体。 
獲物はプロでも、セレクタでも、どちらでもなくても良かった。 
打算的な作戦のようで、そうではない。 
それが、他の想像を遥かに凌駕するものであることを知るものはいなかった。

 

SFESがさっさと姿を消した後、間もなくして、その餌に大物が食らいついた。 
海面を割って悠々と現れたのは、島と見間違えるほどの巨大な黒い船体だった。
執筆者…Gawie様

「ギルマス、救命カプセルの収容、終わりました。 
 漂流者は…少女が一人…」
「…それで?」
「推定年齢は12歳、データは照合ありません。 
 ショック症状が見られ、記憶を失っています。 
 テレパシーにも応じません…」
「…敵の罠、という事もあり得るな… 
 …むしろワザとらしいくらいだ。 
 よし、六色仙花をその少女の見張りにつけておけ。 
 予定のポイントを過ぎてしまったな、 
 旋回しつつ急速潜行!」
火星軍から急遽調達した、バハムート級大型潜水艦。 
全長150mの巨体を揺らし、豪快に水柱を上げて船体は潜行していく。

 

 

「例の救命カプセルの中、無事なんだとよA+」 
潜水艦内の通路で鉢合わせになったエースに、 
何か含みのある目をしながらカフュは話し掛けた。 
A+…プロのランクでは最上級のもの。 
この英雄エースという少年は果たして其れ程の器なのであろうか。 
ギルドマスター白水が言った様、妬みなのかも知れない。 
カフュとて101便の事件の戦闘に参加した程の腕前。 
少なくとも其の辺のB級プロには負けない自信がある。 
にも関わらず未だにランク外という扱いに多少イラついていたのも事実。 
だがそんなカフュの目も気にせず、エースは素直に話題に食らい付いた。 
「あ、僕もさっき聞きました。良かったですよね…」
「……何つーかメチャクチャ怪しくねぇか?」
「何がですか?」
「だから怪しいんだよ。 
 何でこんな時期、こんなトコで遭難してたんだって事だ。 
 おまけに聞いた話だと記憶喪失らしいぜ?怪し過ぎ。 
 招かれざる第三者が仕掛けた罠か…そいつ等の遭難者か… 
 何にせよ有難いもんじゃない事は確かだよな」
其れに対し、ムっとした表情で返すエース。 
遭難者を哀れんでいた故の反応なのだろうが。 
「……決まった訳じゃないでしょう? 
 全然無関係な人かも……」
「どっちにしろ厄介モンだろ。 
 つーかA+、お前ンな考えでよく生きてこれたな。 
 罠に引っ掛かりまくってねぇ?」
図星だったのか、エースの顔が一気に弱気そうになった。 
何と言うか見ていて解り易い少年ではある。 
「まあ確かにあった事はありますけど… 
 だからといってそんな疑心暗鬼になったりはしませんよ。 
 後、僕の名前はエースですからね」
「…別に良いけどな。けど、ちょいと意外だったぜ。 
 A+つーともっとクールな奴かと思ったけど…」
「大体、其の遭難者って六色仙花が見張ってるんでしょう? 
 あの人達なら万が一何かあっても心配ありませんし」
ほうとカフュが意外に思う。 
プロギルドの誇る、忍者プロによる精鋭集団『六色仙花』については、 
其の名こそプロ内では有名だが、実体は殆ど透明で正に影の様な存在であった。 
「お前、連中を知ってるのか?」
「ええ、空竜さん、雷光さん、花憐さんの3人とは、 
 地球の方に居た時、一緒に仕事をした事があります。 
 後の3人は知りませんけど…でも凄い人達でした」
「ふぅん……プロ中のプロは伊達じゃないってか」
そう言いつつも、 
プロとしての優劣を決めるのは戦闘能力だけではない、と、 
心の中で反論し、カフュは自分を納得させた。
「さて、今度の仕事は結晶の回収だ。 
 道具と人員は大層なもんだが、 
 肝心の結晶の事はあんまり分ってないんだろ? 
 どうするよ? 
 A+…いやエース殿」
「…エースでいいです。 
 どうするといっても… 
 僕もプロですし、やはり、まずは任務の完遂を…」
「おいおい遠慮するなよ。 
 実を言うと、俺もお前の考えには半分賛成だ。 
 金で雇われて、結晶を政府にくれてやっても碌な事にならないぜ、多分。 
 A+の先見ってか、直感ってか、そういうのないのか?」
「それなんですよ。 
 …でも、 
 だからと言ってどうすればいいか、僕分らないし…」 
本音半分のその一言で、エースはカフュに親近感を抱き、 
分りやすい表情で、本音とその疑問を顕にした。
「それに、何か…嫌な予感が…」
「予感…?」 
A+が言う事だけに、予知能力の類かとも考えた。 
その直後――― 
予感が的中した。

 

ドォォォォン!! 
と船体全体に響く爆発音と、足元から突き上げるような衝撃が二人を襲った。

 

即座に艦内に白水の怒鳴り声が響き、 
ブリッジの慌てようが伝わる。
《なんだ! 
 今の爆発は!?》 
《Eブロック浸水しています》 
《Eブロック…例の少女か!?》 
《いえ、E-202船室、異常ありません。 
 船底直下からの爆雷攻撃です! 
 例のイルカの群れです!》 
《やはり唯のイルカではないか、 
 已むを得ん!急速浮上!》 
《了解、バラスト放出、急速浮上! 
 …ギルマス!直上に小型船舶が! ぶつかります!》 
《素人め、レーダー何やっとるか!! 
 えぇい、仕方ない救助を優先しろ》
執筆者…Gawie様、is-lies

海上に、突如盛り上がった海面から巨大潜水艦が現われ、 
直ぐ上を航行していた一隻の漁船が、その艦首に突き上げられ、船体を砕かれながら海面に舞った。 
乗っていた数人の漁師が海に投げ出されたが、 
直ぐに艦首ハッチが開き、漁師達を飲み込むように収容した。

 

 

「おーい! 大丈夫か!?」
「な、なんとか… 
 …ひどいですねぇ。今のはこちらが優先でしたよ。 
 船、弁償してもらいますからね」 
クジラに飲み込まれるように、海水ごと収容された漁師達が青ざめた顔でよろよろと立ち上がる。
「悪い悪い、緊急だったんでな。ギルドに請求してくれ」
「はいはい、そうさせて貰います。 
 …ただ、高くつきますけどね」
その瞬間。 
救助に駆けつけた船員が、何故かいきなり不意打ちを食らってその場に倒れた。
(…まったく… 
  プロギルドがこちらに気付いてくれなければ死ぬところでした… 
  なんて行き当たりばったりな作戦… 
  巨大結晶を奪取するために、この巨大潜水艦を奪取するなんて… 
  セレクタも大胆な作戦を考える……)
 不信は明らかですが、 
 一応、形だけでも協力はしておきましょう。今は。 
 ……併し…やはり無茶がありますね」
「まあそう言いなさんなって 
 ギルドも此処まで動いたんだし便乗させて貰わなきゃ損だよ」
船員を壊れた船の中へと引き摺り入れて隠しながら言うルキに、 
セートは口を動かす暇があるのかと、 
先程船員が入って来るのに使った、開きっ放しの円形ドアを目線で示す。 
其の奥…金属の廊下に響く足音はセート達にもはっきりと聞き取る事が出来る。
「さて、身を隠す場所を探さなくてはいけませんね。 
 ルキ、バクヤ、イオリ、カイト。反対側のドアから出ますよ」

 

 

《ギルマス、誰も発見出来ません》
ギルドマスター白水はブリッジにて、 
艦首ハッチに向かったプロ達からの報告を無線で聞き眉を顰める。 
「……漁師達はちゃんと収納出来ていたのか? 
 船だけ入れても意味はないのだぞ」
《申し訳ありません。確認出来ておらず… 
 現在、付近の水面を調査中です》 
白水に声を掛けられたオペレーターが申し訳なさそうな声を上げるのと同時に、 
先のプロ達から更に追加報告が入る。 
《そうだ後、先行した筈のビショップも姿が見えず…》
「其れを先に言わんか。 
 ふむ…………総員LV3警戒体制に入れ。 
 駐機中のフルオーターも動かして構わん」 
白水の怒号が艦内に響く。 
それを受け、その場にいた数人も直ぐに行動に移ろうと、 
ブリッジのドアを開けた、その時だった。
「責任者はいますか!」 
出口で見知らぬ数人と鉢合わせた。 
リーダーと思しき色白の男、肩に人を担いでいる眼鏡の男、眠そうな大柄の男。 
堂々とブリッジまで乗り込んできたセート、ルキ、バクヤである。
「何だお前等、ここは立入禁止…」 
「責任者はいるかと訊いています!」
その声に白水が振り返って睨みつける。 
どうやら先程衝突してしまった船に乗っていた者達のようだ。 
3人ともどこか不自然さを感じるが、見た目で直ぐに漁師だと分る格好をしている。
「…私がプロギルドのマスター、白水東雲だ。 
 収容したのは君達か、怪我はないかね?」
「こちらの乗組員3名はお蔭様で無事です。しかし…」 
「この人そっちの仲間?」
「…む、ビショップ」
「足滑らせて転んだみたい。気を失ってるだけみたいだけど。 
 (薬で3日は起きないけどね)」 
「まったく、海に不慣れな人間に我々の漁場を荒らしてほしくありませんね」
「許可はとってあるし、漁協を通じて注意勧告も出ていたはずだ。 
 それに今回は政府の…いや…」
「それはそれ、しかしぶつかって来たのは其方です」
「うむ、出来る限りの補償はするつもりだ。 
 だが、我々も今任務を中断する訳にはいかん。 
 先に此方の仕事を優先されて頂くが、宜しいか?」
「はいはい、どうぞ、さっさと終わらせてください」
「ケビン、適当な空き部屋へ案内して差し上げろ」 
「了解。さぁ…此方へどうぞ」
居合わせたプロの1人が、セート達を部屋へと案内しに行く。 
ちらりと向けられたセートの視線に気付いているのか、 
プロギルドマスター・白水東雲は漁師達が連れ出されるや否や其の表情を硬くする。
(…警備はLV3現状維持という事で良いだろう。 
  …此方のミスとはいえ…部外者が入るのだからな……)
執筆者…Gawie様、is-lies

  海上・セレクタのクルーザー 

 

「連中、巧くやってるかな…」
「大丈夫?いきなり結構な扱いしてない?あたし達」
「構うもんか。どうせアイツ等…長くは使えない。 
 今の内にコキ使うのが巧いやり方だぜ」
「…ひど……」
ビタミンNとシストライテのやり取りを眺めている内に、 
どうやら例のセート達は既に情報を掴んでいた様だ。 
ライーダの持つ通信機からセートの声が流れ出る。 
《もしもし?聞こえますか? 
 再び潜り始めるそうです。今度は超音波でイルカを追い払うとか…》
「OK。ご苦労様です。 
 グレートブリテンさん、プロが今度は超音波使ってイルカどかすそうです。 
 適当に切り上げて来て下さい」 
ライーダがチャンネルをグレートブリテンに変更して通信を送る。 
現在、このクルーザーに乗っているのはライーダ、ビタミンN、フェイレイ、シストライテの4名のみ。 
残る1人であるところのグレートブリテンはというと…海中に居た。
《解った。撤退時にはオレから連絡するから、 
 ビタミンNにも本物のイルカ共を解放しろって言っとけ》
「……さぁて……今度の潜水艦なら……あの渦潮にも対抗出来る筈。 
 ………巧く回収してくれよプロギルド」
「あのぉ…あの人達が失敗した場合は? 
 というか、上手くいく確率は極めて低いような気がしますけど…」
「その時はその時。 
 結晶のデータだけは取ってあるんだ。 
 俺達だけ逃げればいいんじゃねェか? 
 アイツ等もそれは解っての事だろうしな」 
「それはどうかな。
 アイツ等がプロの方に寝返るってことも考えられる。 
 やはり、俺一人だけでも一緒に行った方が良かったか…」
「そろそろ時間です。 
 …けど、静かですね、波…」
プロの潜水艦が再び潜航してから、そろそろ結晶のある場所に到達する予想時間に至った。 
先の、近付く者を拒むかのような激しい潮流もない。 
八姉妹の結晶の一つワンオブミリオンがそうであるように、 
近付く者に無差別にその効果を発揮するものとも考えれたが、 
今はまだ、いかにも嵐の前の静けさと言わんばかりに、海は不気味な静寂を保っていた。
執筆者…is-lies、Gawie様

その頃、
プロの潜水艦、バハムート艦内では―――

 

「アーム正常。 
 結晶、固定完了しました」
「…今度はあっさり…何もなしか… 
 …よし、クノッソスに帰港する。 
 引き続き、艦内の警戒は怠るなよ」
結晶回収は何事もなくスムーズに行われ、 
金属がぶつかるような鈍い音が何度か聞こえた後、 
潜水艦のスクリューが重々しく逆回転を始める音が響いた。

 

(引き上げか…回収に成功したのか… 
  さて、ここからだ… 
  思ったより人員は少数… 
  虚を衝けばどうにかなるか… 
  それならばセレクタに協力する必要もない。 
  このまま我々が結晶を持ち逃げしてもいい訳だ。 
  しかし問題は、あの白水という男… 
  やはり警戒している。それに相当使うと見える… 
  セレクタもプロも、どちらも一筋縄ではいかないか…)
「何をぶつぶつ言ってる?」
「いえ、別に…」
プロの一人に案内され、階段を何度もジグザグに下りた後、セート達は船底に近い船室に案内された。
「港に着くまではこの部屋で大人しくしててもらう。いいな。 
 因みにここには…六… 
 あれ……?」
「…人が倒れてますけど…」
「な!…六色仙花…何があった? 
 あの少女がいない…どこに行った!?」
船室の扉を開くと同時に目に入ったのは、 
男女6人が折り重なるように倒れている姿だった。
(まさか…イオリ達の仕業か…?)
うろたえているプロの男の脇をすり抜け、 
ルキが咄嗟に駆け寄った。
「…大丈夫、息はある」 
目立った外傷はなく、命に別状はなさそうだが、 
話すこともままならないくらい衰弱しきった様子で、 
おまけに何故か6人とも全身びしょ濡れになっていた。
「とにかく、医務室にでも運びませんか?」 
「そ、そうだな。 
 しかし、肝心の医者がいないんだが…」 
「それなら彼が。 
 もぐりですが、一応我々の船医です。腕も確かですよ」 
「そうか、すまん。 
 後一時間ほどでクノッソスだ。それまで頼む」
(…一時間か…) 
 ルキ、いいですね?」 
「ああ、任せといて」
セートも六色仙花の名前くらいは聞いたことはあった。 
プロの中でもかなりの精鋭である。 
何があったのかは解らないが、その6人が何故か戦闘不能。 
セート達にとっては思いがけない幸運だった。 
一つ気がかりなのは、さっき男が言った「あの少女は」という事だ。 
六色仙花を戦闘不能にしたのがその少女の仕業だとしたら、 
彼等はまた訳のわからないモノを相手にしなければならなくなりそうだ。 
ふと、101便での出来事が脳裏を過ぎった。 
冗談ではない。 
背中に氷柱を差し込まれたかの様な肌寒さを感じたと同時に、 
一刻も早く仕事を終わらせねばという焦燥感が膨らんでゆく。 
101便の事件は未だに団員達の心に深い傷痕を残していたのだった。
兎にも角にも先ずは潜水艦が無事に地上まで行かない事にはどうしようもない。 
其の後、自分達で潜水艦内を混乱させ、セレクタに引き渡すという作戦… 
だが上級プロが倒れた事で早くもエーガ盗賊団の作戦が現実味を帯びて来た。 
即ち…自分達で潜水艦を制圧して結晶を奪い去るという作戦だ。
件の少女とやらがプロを混乱させてくれているのならば、其の隙に乗じる事も出来る。 
併しこの潜水艦は1時間程しなければクノッソスに着かないし、 
セレクタに先んじて結晶を奪取するならば潜水艦ごとが手っ取り早い。 
プロが問題の少女を何とかするまで動かずにいるのも1つの手である。 
少女をプロが排して疲弊した其の時に事を起しても遅くはあるまい。
「取り敢えず此処に其の侭…っていうのは危険だな。 
 一応、あんた等も俺と一緒にブリッジまで又来てくれ。 
 …六色仙花がこのザマだからな…襲われでもしたら一溜まりもない」
「ええ、私達もプロの方と一緒の方が安心できますし」
執筆者…Gawie様、is-lies

  バハムート級大型潜水艦 
  ブリッジ

 

「エース、お前はあの連中どう思う?」 
再びエースの意見を求めるギルドマスター白水を見て、 
少々不機嫌そうな顔をするカフュだが、解らない事も無い。 
事実、先程エースの予感は的中し、漁師を潜水艦内に乗せる事になってしまった。 
やはりA+と評される程、使い物になるものを持っているという事か。
「そう…ですね。 
 …どうも唯の漁師とは思えないです。妙に落ち着いた印象でしたし」
「ふむ……お前もそう見るか。 
 …六色仙花から3名程……」
扉の開く音が白水の科白を遮った。 
「がは…ッ!! 
 はぁ…はぁ…はぁ… 
 浸……水……敵………」 
同時に転げながらブリッジに雪崩れ込んできたのは、 
顔面蒼白のハグリンと、見覚えのない男数人だ。
「何事だ!?」
振り返って見て白水も直ぐにその異常を知った。 
全員何故か全身びしょ濡れで、今そこで溺れていたかのような様子だった。
「て、敵襲、機関部に浸水…」
「敵襲?浸水だと? 
 センサーには何も… 
 …待て、そっちの貴様等…何者だ…?」
「いや、それはその… 
 話せば長くなるけど、今それどころじゃない!」 
「あれはヤバイ、逃げたほうがいいぜ、旦那」
見覚えのない男達が口々に訴える。 
それを問質そうとする白水より先に、 
ブリッジのオペレーターがその緊急事態が事実である事を知らせた。
「…ギルマス… 
 結晶、碧きイノセントの…エーテル値が増大しています… 
 700%…あり得ません…」
「何が起こっているんだ…」
白水もモニターでその異常を確認する。 
そして、振り返ろうとしたその時、 
―――ピチャ――― 
足元に水の感触を感じた。
「…浸水…」
「…く、来る……」
妙な気配がエース達を包んだ。 
殺気とも違う。通常、気配には感情の色を感じるものだが、 
この感触は何れの感情にも当てはまらない。 
ただ、否応なしに抗うことの出来ない何か――― 
絶対的な畏怖のようで、全てを包む慈愛のようにも感じられた。
一同が息を呑む。 
一瞬、視界が闇に覆われたかと思うと、直ぐに予備電源で非常灯が点灯する。 
駆動音、振動音もなく、辺りには滴る水音だけが静かに聞こえた。
「…機関停止、予備電源入りました…」
「いかんな…」 
白水がマイクを取る。 
「総員、ブリッジに退避。 
 場合によってはブリッジだけ切り離しもあり得る。 
 繰り返す、総員、ブリッジに――――」
突然、白水の声が途切れた。 
艦内放送だけではない。 
ブリッジでも、目の前にいる白水の口からその声が聞こえなくなった。 
直後に、呼吸の自由を奪われたことにも気付く。
ッが…………………!
ブリッジ内に居た者の叫び声が泡となって弾ける。 
そう、ブリッジ内が突然「水中」になったのだ。
「(…水…!!!)
(皆さん、落ち着いてください!)
(うろたえるな! 
  一人ずつ酸素ボンベを装着。 
  手動で圧搾空気を放出しろ)
エースが宥め、 
白水も適切な指示を出すも、その声は届かず。 
一同は慄き慌て、出口に殺到する。 
そこに、例の少女は現れた。
(出たぁ……!!)
歳はエースと同じ、12,3歳くらいだが、その割には、表情は落ち着いた印象がある。 
真っ白な長い髪を揺らめかせながら、ゆっくりとエース達に近付いてきた。
(お前…君は一体………)
(……帰ろう…?)
(…帰る?どこに?)

 

(エース!!馴れ合うな!!)
咄嗟に白水が剣を振るうが、そのエーテル吸収能力もまるで効果を発揮することはなく、 
刃は少女の体をすり抜ける。 
そんな事はまるで気にする様子もなく、少女はブリッジ奥の操舵席まで進むと、 
そこで一度エースの方を振り返った。
「……………」
「(違う!! 僕は…!!)
エースは何かを訴えようとしたが、それを言葉にすることは出来なかった。 
少女は静かに微笑み返すと、 
次の瞬間、少女の体は光に包まれ、
一同の意識を連れ去りながら水の中溶けるように消えてしまった。
執筆者…is-lies、Gawie様

その後、エース達が意識を取り戻したのは、海上を漂う救命ボートの上だった。

 

「これは…一体、何が…?」
「あの少女と共に、結晶も消えてしまった… 
 そして、この現象…」
目の前には天にも届くような巨大な水柱…いや、もはや山だ。 
遥か山頂には幽かに発光物が見える。
「これが、碧きイノセントの本当の力…」
「落ちてくる… 
 これじゃ、津波どころじゃねェぞ…」
「警報は出しておいた。 
 が…アテネならともかく、 
 クノッソスは、あそこにはまともな設備がない… 
 沿岸の町は、沈むな……」
どうする事も出来ず、半ば放心状態で目前の超常現象を唯眺める白水。 
と、その時、何を思ったか、エースが槍を構えて立ち上がった。
「おい、エース、何をするつもりだ…?」
「このままあれを放って置く訳にはいきません。 
 イチかバチか、あれに技をぶつけます。」
「馬鹿いうな!お前如き若造にそんな芸当は…」
「じゃあこのまま何もせずに見ている気ですか?! 
 僕は嫌ですよ。止められてもやります!」
その時のエースの表情に、白水は一瞬怯んだ。
その瞳が秘めた意思の強さ……穴だらけの主張であったのに、 
何故か反論する気になれなかった。
エースがボートの先端に立つ。 
その手には彼の愛用の槍。 
エースは槍を構えると、眼を閉じ、両手に力を込める。 
数秒の空白。そして。
「……行くぞッ!!」 
眼を見開き、辺りに響き渡る大きな声で叫ぶと、彼は槍を構えた。 
白水はその時感じた。只ならぬ力の波動がエースから滲み出ている事を。 
(こいつ……これほどの力がッ……!!)
やがてその力の波動は目に見える程に具現化していき、彼を包み込んだ。 
「……はあああああっ!!」 
彼は叫び声と共に、渾身の力を込めて槍を空中に浮かぶ巨大な水柱に向けて突き出した。
(馬鹿者が… 
  これほどのエネルギーに力でぶつけて何になる… 
  コイツ等には物理学の基礎から教えねばならんのか…やれやれ…)
白水は部下の短絡的な行動に落胆しながらも、 
その尋常ならざる衝撃に備え、救難艇の甲板に身を伏せた。 
最初は予想したとおりに大波が白水達の乗る船を突き上げた。 
だがその後は―――
「…………!?」
更に大きな波に備えて甲板に噛り付いている白水達に塩辛い霧雨がサラサラと静かに降り注いだ。 
迫り来る大波は消え失せ、静かな細波が救難艇をゆったりと揺らしていた。 
ゆっくりと顔を上げた白水の前に、船首で槍を振りかざし、ハイフィニッシュでキメているエースの姿があった。
「……波が…? 
 まさか、打ち消したというのか…?」
「…エース… 
 これが…A+の力なのか…」
このエース少年を8割方なめて見ていたカフュも、 
その圧倒的な力量、いや、単なる力量差では説明のつかない次元の違いのようなものを初めて理解した。
「や、やりました! 
 一か八かのタイミングだったんですけど、上手く相殺できましたよ!」
カフュ達の驚きを他所に、エースは無邪気に笑顔を見せた。
「…む… 
 まぁ、沿岸部には多少の被害はあるだろうが、 
 予想された被害は回避できただろう…… 
 …よくやった、エース…」
「…でも、結晶と、あの子は……?」
「結晶も、あの少女も消滅…… 
 結局…何だったんだ…?」
「…八姉妹… いや、まさかな… 
 あんなものを遣す奴等は… 
 …SFES…他には居るまい……」

 

 

 ―――そして、真相はまたしても覆い隠された。
火星の海の水位は1mほど上昇したものの、津波による被害自体は軽微であった。 
だが、これがエースの功績である事は固より、その災害の元凶が、 
政府がプロギルドを使って結晶碧きイノセントを回収しようとした作戦が失敗した事にあったにという事実は、 
公表されることはなかった。 
先のアレクサンドリアでの発光現象とモーロック消滅に関係があると思われるフォボス、ダイモスの衛星の再調査が急がれる中、 
今度は突然の海面上昇――― 
安っぽい三流オカルト番組でなくとも、 
何か得体の知れないものが動き出そうとしている事は、 
誰もが口には出さないまでも、予感させるのは十分であった。
執筆者…Gawie様、鋭殻様

《謎の少女と、結晶碧きイノセントの消滅…確かなんじゃな?》
「多分ね。 
 もう死ぬかと思ったわよ、いきなり大波ザバ〜ンって! 
 思ったより被害は少ないみたいだけど、クノッソス港は今大騒ぎよ。 
 以上、津波中継シストライテでした」
《消滅…か。 
 …やはり、碧きイノセントは、おそらく超結晶アクエリアスじゃな》
「くたびれ損?」
《そう言うな。ワシもそう簡単に本物が見つかるとは思ってはおらん。 
 しかし、これはまるで結晶の共鳴現象… 
 超結晶を暴走させるとは…その謎の少女とは一体… 
 いや、ワシら以外にいるとすれば、大方見当は付く。 
 (ヴァンフレム…、もしくは、アズ・リアン…奴も動き始めたか……?)
「やっぱ… 
 SFES………よね?」
良かったのか悪かったのか、目当ての結晶は、八姉妹の結晶ではなかったようだ。 
SFES…いや、おそらくSFESであろう何者かも、そこまでは特定してはいなかったものと推測された。 
シストライテには良く理解出来なかったが、ごとりん博士は話の中でそう断言していた。 
八姉妹の呪縛がどうとかで、博士にしては珍しく感情論を含んだ解説だったようにも感じられた。 
兎も角イレギュラーな事件だと言って、博士は口を濁したまま通信を切った。
と、まぁ、良く解らないものを考察するよりも先に、シストライテ達は別の問題を抱えていた。 
首を突っ込んだまま、何もしなかったのか何も出来なかったか分らないシストライテ達と、 
この状況に逃げるに逃げられないセート達。 
そして、待ち合わせの場所に、情報を携えて戻って来たのは、レシル。
「………な… 
 何故、貴方たちが一緒にいるのですか?」
「それは何と言うか、なりゆき?」 
「…そう、偶然ですね」 
シストライテがレシルに下手なアイコンタクトを送ると、 
それを見たセートが咄嗟にとぼけて合わせる。
「………………」
「それより、レシル、ガウィー達から何か情報でも入ったのか?」
「はい。 
 ………エーガさんの居場所が判りました。 
 既に足も用意しています、が………」
「…が?」
「……火星の裏側なんです。 
 どうもスペースクルーザーが墜落してしまったみたいでして…」
「…なッ!?」 
普段は冷静そのもののセートも、 
其の時ばかりは表情を崩さざるをえなかった。
「ちょ…ちょっとちょっと……大丈夫なん其れって?」
「……其れを今から確かめに行くのです。 
 皆さんもしっかりと準備をして来て下さいね。 
 後…シストライテさんとライーダさんは至急ナクソスまで来て下さい」
「どういう意味?」 
「何か別の用事でも?」
「…今、ユニバースさんの所に客が来ています。 
 SFESでありながらSFESの崩壊を望む者……達……」
執筆者…Gawie様、is-lies
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