リレー小説3
<Rel3.クノッソス港1>

 

  クノッソス港第7倉庫前
本来ならば荷物を収納するフォークリフトの駆動音しか聞こえない筈なのだが、 
現在、此処クノッソス港倉庫前には大勢のプロ達が集まっており、 
港を普段に無い喧騒と熱気に包んでいるのであった。 
火星政府を含めた各国が八姉妹の結晶の捜索に動き出した今、 
各国を或る時は表から、或る時は裏から支えたプロギルドも投入される事となった。
「ハグリン、全員揃ったか?」 
茶色のスーツでキメた白髪の男が、 
倉庫の影でノートパソコンを弄っている男に問う。
「はい、総員配置に付きました。 
 併しギルマス。六色仙花まで呼び出すとは……随分と大きく出ましたね」 
其れを聞き、白髪の男… 
其の実、プロギルドマスターである白水東雲は、 
何を今更と言った感じに眉を顰める。 
「TVを見ていない訳でも無いだろう? 
 火星政府直々のご命令だ。 
 この儲け話に乗らなくてどうする?」
「いや、そうじゃなくて… 
 あの噂を良く其処まで信じられるなって事です」
「ふふン、ワシが何の確認もしていなかったと思うか? 
 地元の漁師達から話を聞いているし、探査系の能力者にも結晶反応を探らせた。 
 ……噂…か。最近急に広まったな…八姉妹の結晶の噂……。 
 問題は………噂の組織だろう。 
 だが誰にも先駆けさせはせん。ブロックだブロック。 
 六色仙花ならこの場に居るというだけで抑止になる 
 迅速に行動あるのみ。さすれば八姉妹の結晶とて手に入らぬものではない 
 失敗は許されんぞ?」
執筆者…is-lies

「用心棒達には誰も近付けない様に伝えておけ。 
 橋渡しはルークフェイドに任せてある。後、中央部の……」 
「探査艇の機嫌はどうです?」 
「良い塩梅だ。いつでも出せるぜ」 
「グレムリン!?其処、グレムリンは居るか?」 
「おーいジイさん、こっち手伝ってくれ」

 

「豪い事になってんなぁ……」 
木箱に腰掛け、慌しく周囲を行き交うプロ達を眺めつつ、 
緑色の髪と、其の髪と同じ色のマントを持つ少年プロ…カフュ・トライが呟く。 
情報を入手してクノッソス港に来たまでは良かったが、 
既に其処はプロギルドによって仕切られていた。 
カフュの情報の出所からしてプロギルドなのだから、 
ギルドに先手を取られるのは仕方の無い事だろう。 
取り敢えず召集を受けたプロという事で港に入る事は出来たが、 
流石に此処まで厳重だと、ヒョイと横から奪うなど出来そうにも無い。
(…まあ良いぜ。国が動く程の仕事…… 
  どうせ俺と同じ考えの奴も1人2人じゃねぇだろうし。 
  他の連中が動いた時に掻っ攫うのが一番か。 
  ギルドに気付かれない様にしなきゃな)

 

プロギルドマスター・白水の号令と同時に、 
数機の探査艇、数十人のダイバーが一斉に調査を開始した。 
反応力判定でラインクリアーしたカフュも探索班に回されている。 
ダイバーの殆どは潜水能力や探査能力を持つプロによって構成されていた。 
地元の漁師達から情報を入念に仕入れていたプロギルドは、 
既に結晶の位置にも大体の目星を付けてプロ達に包囲させている。 
流石に国からの依頼という事もあって包囲にも力が入っており、 
プロギルドが誇る精鋭集団『六色仙花』や、其れなりに名のあるプロ達が集っていた。 
この中で盗みを働くというのは余程神経が図太い者でないと無理だろう。 
そう、たとえばカフュ・トライの様な。
「…あれ?あいつ等は居ないのかな。大戦の勇者達」
大名古屋国大戦…即ち第四次世界大戦に於いて活躍した勇者達… 
其の中にはプロギルドのプロ達も多く含まれており、 
結果、プロギルドの一層の興隆を齎した一因になったと言っても過言ではない。
幼くしてプロ最強クラスの『フライフラット・エース』。 
獣人という身でありながらも熟練のプロ『ビタミンN』。 
勇者の中では唯一の女性プロである『敷往路メイ』。 
魔銃ヴァーミリオンを持つ少年プロ『ツヨシン』。 
ネオス日本共和国の最新結晶兵器『ジョイフル』
これだけ大規模にギルドを動かしたとなると、 
大名古屋国大戦の英雄達を此処に連れて来ているかも知れない。 
そう思っていた矢先、視界の端に早速英雄の1人が其の姿を現す。
(……フライフラット・エース…。A+…最強が来るか……。 
  序に他の大名古屋国大戦勇者も居るな。…スカウトしてやがったのか。 
  くそっ…大戦中のデータも揃えとくんだったぜ)
結晶探索の方に気が回っていた為か、 
大戦の勇者達の持つ手札などについては碌に把握出来ていないカフュ。 
能力者集団であるプロ達と渡り合うには、相手の能力は把握したいところだ。 
其れが最強ランクプロであるなら尚更の事。
(…でもまぁ…何も全員の目の前で堂々と盗まなくても良いんだし) 
 ……取り敢えずは結晶発見が大前提だな」
執筆者…is-lies

カフュはダイビングスーツを着込み、水中に潜り始めていた。 
まるで羊水に包まれているかのような心地良さと安堵感を覚え、 
全身の力を抜いて暫く沈むがままにさせておくカフュ。
(……何か…落ち着くな……こうして体を水中に任せていると。 
  …そういや、前にもこんな事あったっけか。 
  ………いつの事だかもう思い出せねぇけど…… 
  ……じっちゃん。アンタが紹介してくれた宗太郎さんも何故かイカれて死んじまったし、 
  地球は前支配者とかの所為で破滅現象が起こってパニクってるし…… 
  …いつになったら俺達、獣人が安心して過ごせる様になるんだろうな…)
そんな事を考えながら、カフュは海底を目指す。 
間もなく水深50メートル… 
目的のポイント付近まで潜行したところで、 
探索班の前に仄かな光が見えてきた。 
進むにつれてその光源は増え、 
いつの間にかカフュ達を包み込むように、海底全体を覆っていた。
「おお……」
「これは…珊瑚礁……」
光源の正体は珊瑚礁だった。 
現在の火星の環境から考えれば、 
水深50メートルの海底に自然に珊瑚が育つ事は考え難い。 
戸惑いながらも、探索班一同その幻想的な光景に暫し目を奪われた。
「発光しているのは恐らくプランクトンだな。 
 しかし火星の海に珊瑚礁とは… 
 これが結晶の効果だとすれば、今回はアタリか…? 
 先を急ぐぜ」
プロの一人がそう言って先行する。 
と、その時だ。 
突然黒い影が猛スピードで先行するプロの一人を襲った。
「………! 
 サメ!? いや、イルカだ!?」
いくらプロとは言え、水中でイルカの機動力に敵うはずなく、 
不意打ち食らった一人は酸素ボンベをもぎ取られて、慌てて海上に逃げ出した。 
見れば、イルカは1頭や2頭ではない。 
少なくとも20頭、いや30頭以上… 
まるで何かを守っているようにカフュ達に前に立ちふさがっている。
(イルカか… 
  落ち着いて対処すれば問題はないが… 
  ここはA+さんのお手並み拝見といくか…)
そう考え、カフュは後方に回ったが、
「ビビるな。俺がやる。 
 2,3匹殺せば逃げるさ」
先に別のもう一人のプロが水中銃を構えて先行した。 
ところがそれに対してエースの… 
A+…プロ最強と噂された男の行動はカフュ達にとっては意外なものだった。 
エースは両手を広げ、水中銃を構えた男を制すように前に出た。
「待ってください! 
 嘗て不毛の荒野だったこの惑星に… 
 こんな珊瑚礁と、イルカまで… 
 これを見て何も感じないんですか? 
 邪魔なら即殺すなんて、プロの仕事じゃないです!」
「ならどうすんだよ!?」
「一度戻りましょう」
「おいおい勘弁しろよ。 
 ダイビングツアーじゃねェんだ! 
 イルカに同情するなんざ、それこそプロじゃねェだろ!」
男の言うことも尤もだ。 
カフュもそう思った。
(…確かに……、 
  俺だってちょっとは感動したけど、 
  今はそんな事を言ってる場合じゃない。 
  最強エース…A+と言ってもやっぱりガキか……? 
  ………………… 
  いや、でもやっぱり……)
「…プロと呼ばれなくなったっても良い。」 
「はぁ?!」 
「自分達の利益の為に、何の罪も無い生き物を殺す事なんて…!」
エースの言葉に男は両手を広げ、呆れたような態度をとる。 
「…はぁ、お前、やっぱA+っつてもガキだな。 
 自分の職業判っててその台詞吐いてんのかぁ?」
「あ……」 
エースは言われるまで忘れていた。自分がプロである事を。
「散々人の命を奪っておいて、
 そんな人間様一人の命の価値にも満たない魚もどきの命を奪うのを躊躇うってかァ?! 
 ははん、とんだ偽善だなぁ?」 
「第一、ガキのクセに生意気なんだよ、テメェ!!」 
男の言葉に、他のプロも影響されてか、口を開き始めた。
「お、おい……お前等、何仲間割れしてんだ……!」 
カフュが止めようとするが、それも無駄に終わった。
(理想…? 偽善…? 仲間割れ…? 
  プロとしての心構え…? 
  なんか違う…そうじゃねェだろ… 
  ズレてるぞコイツ等…レベル低い…? 
  何にしてもチャンス! 今のうちに…!)
内輪もめを始めた探索班の隙を突いて、 
カフュは一人珊瑚の隙間に潜り込んで密かに目的ポイントに向かう。 
目的の結晶を目の前にして、些細な一言から穏健派と強行派の内輪もめ。 
その隙に漁夫の利を得んとするカフュ。 
だが、何れの選択も間違いだった。
(………?  
  いつの間にかイルカ達がいなくなった?  
  どこ行った?逃げたのか? 
  ん? 前方が霞んで…濁って…? 
  いや、これは渦巻…!? デカい!? マズイ…!!!)
気付いたときには既に遅く、 
カフュ達は逃げる間もなく巨大な渦潮に巻き込まれた。
どうにか海面まで逃れたものの、 
見渡せば、助かったのはカフュ、エース、他数名… 
探査艇2隻と探索班に参加していたプロの半数が海の藻屑と消えてしまった。
執筆者…is-lies、Gawie様、鋭殻様

作戦失敗の報せを聞いたプロギルドマスター白水は、 
部下達の不甲斐なさに怒るでもなく、落胆するでもなく、 
直ぐに次の手を打った。
「どうだ? 教授殿」 
相手がイルカだと聞いて、直ぐに海洋生物の専門家に連絡を取ったようだ。 
探査艇が残した録画映像を見ながら、TV電話のモニター越しにその意見を仰いでいる。
《バンドウイルカです。 
 実験用に火星に連れて来たものが自然繁殖したようですね。 
 しかし、ここまで統率の執れた群れの動き、実に興味深い… 
 これも結晶の影響によるものなのでしょうか…》 
「操作系能力者の仕業である可能性は?」 
《さぁ、 
 それに関しては専門ではないのでなんとも…》 
「うむ、映像は今送ったもので全部だ。 
 何か解ったら連絡してくれ」
通信を終え、 
白水はモニターの脇に挿んであったファイルに目を通す。 
本件の依頼内容の再確認だ。
依頼内容は海底に沈んだ超結晶の捜索、及び連合指定の研究所までの輸送である。 
勿論、結晶の横取りを狙ってくるであろう第三者に対する警戒もそれに含まれている。 
この時点でのプロギルドマスターとしての選択としては、 
何が何でも結晶を引き上げるか、 
もしくは八姉妹の結晶ワンオブミリオンのように移動は諦めて、 
研究所の方を付近の海上に移す事を提案するかだ。 
ただ、能力者にとっては結晶とは単なる研究対象、お宝などではなく、 
漠然ながらも…深層意識の中に刷り込まれた偶像のような… 
何か特別な存在のようでもあった。
白水は顎鬚をもそもそと掻きながら暫く考え込んだ後、 
くるりとエース達の方に向き直った。
「エース、お前はどう考える? 率直な意見として…」
「…何もしないのがいいと思います。 
 破滅現象に対抗するためと言ってもまだ何もわかってないんですよね。 
 そもそも人間の都合のいいようにコントロールして、利用して… 
 そうするべきだという考えが間違っているのかもしれません。 
 何もしなくても… 
 何もしない方が、いいんじゃないかと……」
「ふむ、尤もだな。 
 自然保護団体の目も無視は出来んし、 
 そういう路線もありではあるな…」
「………とにかく。 
 手段を選ばない強行作戦なら、 
 ボクは今回は降りさせてもらいます」
エースはギルドマスターに対してキッパリ言いのけると、 
ダイビングスーツを脱ぎ捨て、休憩室の方に去ってしまった。
「ギルドマスター、いいんスかアレ? 
 ガキ臭い理想論だぜ」 
ギルドマスターがエース少年に意見を仰ぎ、 
それに理解を示した事にはカフュも流石に納得は出来なかった。
「言ったとおりだ。 
 ワシ等は公の能力者組織だ(表向きはな) 
 目的のためなら何でもアリという訳にはいかん。 
 世間に対しては常にクリーンであることをアピールする必要がある」
「それは解りますけど、 
 …それで、アレがA+ですか?」
「……妬みか? ランク外」
「そんなんじゃねェッスよ」
「フ…、ヤツは…そうせざるを得なかった。 
 色んな意味でな…… 
 まぁ、兎も角、このくらいで諦める訳にもいかん。 
 大型潜水艇を手配した。10時間後、明日早朝に作戦を再開する。 
 これでダメなら作戦は一時中止だ。 
 我々がいつまでもここに居座るとクノッソスの漁協も煩いからな」
「それに、結晶を狙っているのは俺達だけじゃないでしょうし…」
よもやカフュ自身がそうであるとは、白水も思いはしなかったが、 
そこは抜かりはない。 
港も封鎖し、精鋭集団『六色仙花』も周辺を警戒しており、 
現に既に、結晶を狙ってきたと疑われる不審者も数名捕らえていた。 
しかし、プロギルドよりも先に結晶に目を付けた者達の存在にはまだ気付いてはいなかったようだ。
執筆者…Gawie様

日も暮れ、プロギルドの探索班が引き上げた後、 
激しい渦潮も治まり、静まり返った海域に、一隻のクルーザーがライトも点けずに漂っていた。
「…流石のプロも引き上げたようね…」
「こっちも危なかったぜ。 
 イルカじゃなかったら巻き込まれてたな。 
 突然巻き起こる渦、 
 おまけに目的の結晶は馬鹿デカい、直径約20メートル。 
 手が出せねェ…」
クルーザーの甲板にはアロハシャツに防寒服を羽織った男女数人… 
プロギルドよりも先に結晶探索に乗り出したセレクタの探索班、 
グレートブリテン、ビタミンN、ライーダ、 
そして、エーガを探していたシストライテとフェイレイだ。
「ビタミンN、シロナガスクジラでも連れて来れないか?」
「火星にいるのはイルカやアザラシが数種だけだ。無理言うな」
「サンプルデータだけ採って一回帰らない? 
 アタシ等エーガの捜索もあるんだし、 
 手伝うのはレシルがアテネから戻って来るまでだからね」
エーガ捜索中にレシルだけが呼び出されたために、 
その間ただ待つよりはと思って結晶探索に加わったシストライテとフェイレイだったが、 
やはり同じく、思うように進まない任務にそろそろ飽きてきていた。
「結晶がハズレならまだ良いが、 
 もしもこれが碧きイノセントで、 
 そして八姉妹の結晶である可能性がある以上、目を離す訳にはいかない」 
やる気なさそうなシストライテにビタミンNが説く。 
先に結晶を見つけておいて、可能性を議論している内に、 
プロギルドに先を越されたのでは元も子もないのだ。
「データを博士に送って、結果が分るまではプロを牽制ですか、 
 相変わらずスッキリしない作戦ばっかりで…… 
 …あ、何か来ますよ」 
と、ぼやいていたライーダが何かに気付いて双眼鏡を覗き込んだ。 
距離を保ったまますれ違うように近付く一隻の船、どうやら漁船のようだが。
「よせ、ライーダ。 
 手筈通りに観光客を装えば問題ない。 
 シスト、手を振ってみろ」
シストライテが手を振ってみると、 
漁船はライトを点滅させてそれに応え、船首をこちらに向けてゆっくりと近付いてきた。 
乗っていたのは4,5人の男だ。
「こんばんは〜! 釣れますか〜?」
「まあまあですね」
投網を持った男が応えた。 
漁師にしては色白で華奢に見えた。 
まさかこんな所で再会するとは思うはずもなく。
「そちらは? 
 クルージングにしては、明かりも点けずに…」
「星を眺めて…た…の…」
お互いに言葉を詰らせて固まってしまった。 
漁師に扮していたのは、101便で出会った協力者、エーガの部下、セートだった。 
セートもシストライテの顔は忘れてはいなかったようだ。
(セート…!それに他のヤツら…名前何だっけ… 
  エーガの事は知ってるはずよね… 
  それに、ここにいるのはやっぱり結晶を狙ってる…?)
(たしか、シストライテ…セレクタか… 
  エーガ様の連絡が途絶えてもう4,5日… 
  セレクタ…関係がないはずはない… 
  それに、やはり彼等も結晶を狙っているのか…?)
行方不明のエーガと結晶の捜索、図らずも目的は同じだ。 
だが、お互い言葉を詰らせて戸惑った表情を見せた事が状況を少しややこしくさせた。
(………? 
  てっきり逃げるか、襲ってくるかと思ったけど…)
(なんだ…? 
  まさか、セレクタも知らないのか…?)
執筆者…Gawie様
互いに互いを慎重に見極めようとするも、 
黙っていたところで確たるものは何も掴めない。 
沈黙に耐えかねて口を開いたのはシストライテの方だった。
「…ええと………セート…だったよね?エーガの仲間の…… 
 ………エーガさ……見なかった?」 
まずは無難なところだ。 
エーガが裏切った事実に関しては触れず、其の状況のみを聞く。 
相手の反応次第ではそこそこ推測の材料が出てくるだろう。 
だがセートもそうホイホイと乗らされはしない。
(真っ先に其れを聞くとは… 
 やはりセレクタはエーガ様の行方までは知らない… 
 併し、エーガ様を探し出そうと動いてはいる… 
 ……まさかこの辺りに手掛かりがあるとは思えないが…) 
 …良く憶えていてくれましたね。 
 併し…セレクタは知らないのですか? 
 エーガ様は此処数ヶ月、セレクタの監視下に居たそうですが」
「うー…ちょっと問題あってさ… 
 で、知ってるの?知らないの?」 
早速、馬脚を現すシストライテ。 
エーガ一味を警戒している事を一秒でバラしてしまった。
(問題…か。成程…明かしませんでしたか。此方を警戒している。 
  ……併し…エーガ様を完全に敵視している訳でもないみたいですね。 
  疑っている……もしくは………) 
 ……そうですね。最近、全く見ていません」 
嘘は言っていない。 
少なくともセレクタ逃亡後に合流してからはエーガの影も形も見てはいない。 
セレクタもエーガの行方を知らないとなると、 
エーガに関しては知らぬ存ぜぬで通した方が恙無い事だろう。 
以前、彼女に自己紹介した時にも、セートは己の事をエーガの部下としか言っておらず、 
しらばっくれようと思えば幾らでもしらばっくれられる。 
だが併し、セレクタはエーガ一味に対して敵意を剥き出しにはしていない。 
盗人である筈のエーガと、其の一味に対してだ。 
まだエーガを許容している…或いは価値を感じている。 
さもなくばこうやって向き合い、対等に話などしはしない。 
ともすればセート達にとってもセレクタには利用価値が生じる。
「そういえば…エーガ様は以前、私達の事を貴女方に紹介すると仰っていました。 
 エーガ様からは何か伺っていないでしょうか?」
セートの言葉に、一瞬呆けた様な表情になるシストライテ。 
「……アンタさ……何も知らないの?」
「?何の事ですか?」 
解り切っている。だが敢えて無知を装う。 
これで巧く動くまではいかずとも、有利に傾いてくれる筈だ。 
案の定、シストライテは困惑し「ちょっと待っててくれる?」と言い、 
仲間達の許へと走る。相談という訳だ。
執筆者…is-lies
「ねぇねぇ、アレ…どう思う?」 
シストライテ自身は半信半疑で何も言えないといった感じだが… 
ビタミンNとグレートブリテンはエーガの件に関しても疑っている様だ。
「そうだな、本当に何も知らない使い捨てのエージェントか… 
 俺達とは事を荒げない様に何も知らないと言ってる元エージェントか… 
 …或いは未だにエーガともやりとりしている現役エージェントか…」
「……食えねぇな。尻尾を見せねぇ。 
 てか、やっぱオマエは話し合いとかに出るべきじゃねぇわ…」 
早速グレートブリテンが、下手を打ちまくったシストライテを詰る。
「う゛…しゃーないっしょ? 
 小難しい事とかって苦手なんだもん」
「…まあ…今はあの人達の手でも借りたらどうでしょう? 
 未だにエーガさんの行方は解らないんですし、 
 あの人達もエーガさんを探している…共同して……」 
其処でフェイレイがライーダの発言を遮る 
「でもちょっと待って。あのセートって人達、此処に居るのよ? 
 目当ては…私達と同じ…詰まり敵って見て良くない? 
 エーガのエージェント達が偶然、此処の漁師だったなんて事でも無い限り」
「そんなことは解ってる。 
 エーガのあの様子を見るに、唯のエージェントじゃあない」
「…言葉通り、部下?」
「知らん。 
 何にしても小事だ。事を大きくするな。 
 …心配ない。『鍵は我々の手にある』ユニバースがそう言った… 
 それが何にせよ………」
「わかんない。ビタミンNにタッチ」
「ダメだ、話し合いはお前に任せる。 
 その方が相手も油断する。いけ」
「酷…! 
 分ったわよ。フォローよろしく」
仲間内での相談事が長すぎては難だ。 
ビタミンNは追い払うようにシストライテを再びセートの所に向かわせた。
執筆者…is-lies、Gawie様
「話し合い、終わりましたか?」 
セートはとぼけたような口調で言った。 
こういう交渉は自信ありといったところだろうか。
「うん。 
 ところでさぁ、アンタらこんな所で何してたの?」 
シストライテがストレートに切り出した。 
それに対して、
「それは貴女方と同じ。 
 海底に沈んだ結晶、『碧きイノセント』を探していました」 
セートは正直に即答した。 
意外に思えたが、この場にいる以上、隠しても意味はない事だ。
「…ですが、 
 困りましたね…」
「目的同じね。それは困った。 
 でもいいわ。 
 アンタらとやり合うつもりないし、アタシ達休憩中だから、お先にどうぞ。 
 結晶は、その辺も真下よ」 
シストライテの下手なりの嘘だった。 
そんなものをセートが見過ごすはずはなかった。
「…なるほど。 
 それは本当に困りました。 
 現状では、貴女方でも結晶の回収は困難だということですね? 
 ならば、私達ではまず不可能…」
「う…… 
 じ、じゃあさ、協力しない?」
「メリットがありません」
それもそうだ。 
提案するにはまずその説明がなければならない。 
彼女の話術ではここが限界だった。 
数秒間の後、 
お互いに打つ手なしと気付いた。
「じゃあ、アンタら、 
 なんで結晶探してるの?」 
突然シストライテが質問を変えた。
「…それは…」 
セートが初めて言葉に詰った。 
金のため、力を得るため、それらしい理由はいくらでもあったが、 
考え付くものはどれも嘘臭く感じられた。 
根本的な動機は感情的なものだ。 
それを言語化することが理論派のセートは苦手だった。 
咄嗟に、 
「貴女は? なぜ結晶を?」 
と質問を質問で返した。
「あ、何でだっけ?」
天然だ。 
シストライテは仲間達の方を振り返ってフォローを求めたが、 
ビタミンNが『適当に誤魔化せ』と言うように顎で指図した。
(…確かに、 
  私はエーガ様の本当の目的は知らない… 
  彼女も同じか… 
  いや、むしろ知らないというよりも…)
知らされていない… 
そう。セート達は首領であるエーガから其の真の目的は告げられていない。 
これはセート自身も気にしている事でもある。 
其れまで彼が見て来たエーガの言動を顧みても、 
異常に固執した感じは無く、併し無視もしておらずという微妙なもので、 
其の真意は決して曝け出したりはしなかった。 
セレクタから奪取したエーデルヴァイスにしても、 
酷く懐かしそうな眼で結晶…いや、其の向こう側に在る何かを眺めていただけだった。 
目の前のシストライテも恐らくは何も知らない単なる末端構成員なのだろう。 
互いに互いが何故、八姉妹の結晶を求めているかも解らずに戸惑う。 
地球崩壊を食い止める為に…などであってもプロ達に隠れてまで行うのはやはり解せない。
(…まあ……何をおいても今は…) 
 …良いでしょう。共同戦線といきましょう」
「は…はへ?」 
適当な言い訳を考えていたシストライテが、 
セートの台詞を聞いて間の抜けた声を出す。
「貴女方も結晶回収に決定的な手段を持っていなさそうですし、 
 猫の手も何とやら。我々も微力ながらお手伝いさせて頂きましょう。 
 何より此方はエーガ様からセレクタへの斡旋をして頂いた身ですしね。 
 其れでは宜しくお願いします」 
微笑んで手を差し伸べるセート。
「え?あ…よ……ヨロシク……」 
反射的にシストライテは握手する。握手してしまった。
執筆者…Gawie様、is-lies
inserted by FC2 system