リレー小説3
<Rel3.火星独立記念祭>

 

 

法王庁での式典を終え、記念祭は夜本番を迎えた。 
上空にはホログラムの万国旗をはためかせた戦闘機が飛び交い、 
対空砲から打上げられる花火が夜空を光の華で埋め尽す。 
その頃、火星帝の宮殿には、黒塗りの高級車が続々と到着していた。
「やれやれ… 
 世界が滅ぶかもしれんという時に、 
 なんという税金の無駄遣いをするものだ…」 
一台の高級車からぼやきながら降り立ったのは、
中世の貴族に扮したドイツ大統領ムーヴァイツレン・クーデルだ。 
一緒にいるのは護衛だろうか、これまた中世の甲冑を全身に纏った騎士が二人。
「死んで金余ってもしゃあないですしなぁ。 
 最後に派手に死花咲かすか…」 
ガチャガチャと金属音を鳴らしながらフルアーマーの一人が言った。
「はぁ、はぁ、ミスターユニバース… 
 え、縁起でもないことを…」 
もう一人のフルアーマーが息を切らせながら応えた。 
鎧の中に入っているのは女か子供だろうか、 
明らかにサイズの大きな鎧を重そうに引き摺っている。
「カタリナさん、 
 そんな無理して仮装に付き合わんでも…」
入口でムーヴァイツレンが衛兵に招待状を見せると、 
三人は簡単な身体検査を受け、パーティ会場に通された。 
既に会場内には多くの財界政界の大物が顔を揃えている。 
国際会議並であるが、その割には物々しい警備は見受けられない。
「意外と簡単な警備だな。 
 やはり君達に来てもらったのは正解だ」
「そうでもありませんよ旦那。 
 身体検査の時にX線とエーテル当てられてました。 
 尤も能力者なら能力で武器を隠せる者もいるでしょうし、 
 そもそも武器なんか必要なかったりもしますから、 
 そうなれば考えることは旦那と同じ。 
 警備の人数こそ少ないですけど、ごっついのが紛れとりますわ。 
 VIPの方々もそれぞれ最低二人は連れてますな。 
 ほとんどが、プロで言えばAランク以上や。 
 仮に無頼の徒が紛れ込んだとしても、そうそう荒事は出来まへんやろ」
ユニバースが兜のバイザーを少し持ち上げ、 
運ばれて来たマティーニをすすりながら辺りを見渡す。 
ふと、一際目立つピンクの服を着た少女が目に入った。
「おや、アレは…」
執筆者…Gawie様

手を振りながら歩いているのはタキシード姿のアメリカ大統領デリングだ。 
が、注目を集めているのはその後にいるピンクのナース服。 
会場に入ってきた本田ミナの衣装に好奇の視線が突き刺さる。 
見れば周りは中世の王侯貴族の格好をした者が殆ど。 
その他には道化師や魔女の姿が数人。 
昔の仮面舞踏会もこんな風だったのだろうと思わせる。 
そんな中、いくら仮装パーティとは言え、 
アニメのコスプレは場違いも甚だしかった。 
ミナは必死に帽子で顔を隠しながら、デリングの後で小さくなっていた。 
嘗て味わった事のない屈辱感に放心状態になりかけながらも、 
どうにか意識を正常に保ち、ミナは会場内を進む。 
すると、ホールの奥の方に、ミナに劣らず妙な異彩を放つ紳士が三人、 
イヤらしい笑い声を発しながら談笑しているのが見えた。 
遠目ではよく分からないが、 
どこか見覚えのある無意味にカラフルな衣装に身を包んでいる。
(よかった…仲間だ)
ミナは三人の紳士に、不覚にも親近感を抱いてしまった。 
デリングに連れられ、三人に近付くと…
「ブラザー! 
 お待ちしておりましたよデリング閣下」 
テレビで見たことがある。 
リゼルハンク社長、ネークェリーハ・ネルガルだ。
「お久しぶりですな。 
 デリング大統領閣下」 
この男も見たことがある。 
ジェールウォント財団代表、ジェールウォント・カディエンスだ。 
そしてもう一人…
「殿下、こちらがアメリカ大統領、ビンザー・デリング閣下です」 
デリングに紹介された若い男。 
顔は見たことはないが、殿下と呼ばれるからにはどこかの王族だろうか。
「そして………ん?」 
不意にネークェリーハの隻眼がギラリと光る。 
デリングの後にいるミナに気付いたのだ。
「ほほぅ、君が……デリング閣下の養子の… 
 こんばんわミナちゃん、私はネークェリーハと申します。 
 TVなどで見た事はありませんかね?」 
ネークェリーハはミナの前に跪き、 
彼女の手を取って其の甲に接吻をする。 
だがネークェリーハは眼帯にカラフルな着物、 
腰にサーベルを挿して頭にピストルを括り付けているという、 
昔の日本のサムライを激しく勘違いした様な仮装であり、 
紳士というよりは寧ろ道化の様に滑稽である。 
尤も其れはミナも同じな訳だが。 
リゼルハンクが非合法組織SFESの隠れ蓑である事は既に知っている。 
其の一員による接吻。殺意すら芽生えるが懸命に其れを抑えるミナ。
「ああ、麗しきプリンセス。 
 デリング閣下も羨ましい限りですなぁ。 
 こりゃ私が引き取るべきでしたかな、失敗失敗」
「はっはっは。いや其の件に関しましては… 
 リゼルハンクの皆様にも……お礼申し上げます。 
 …………生存者を助けてくれて…ね。 
 そういえばジェールウォント殿、 
 LWOSは今のところどうでしょうか?」
「ええ。建て直しは順調ですよ。 
 リゼルハンクからの協力という事で所長は不服そうでしたが… 
 まあこれがネークェリーハ殿と所長との格の違いなのでしょうな。 
 そうそうデリング閣下の御計らいにも感謝致しますぞ」 
派手な吟遊詩人っぽい格好をしたジェールウォントが愉快そうに笑う。
LWOS…Living Weapon development Organizations…生物兵器開発組織の最大手の名だ。 
そういえばとミナも思い出す。 
ジェールウォントはジェールウォント財団の代表であると共に、 
このLWOSの副所長というポストにも就いている。 
どうもアメリカ、リゼルハンク、LWOSは協力関係にあるらしい。 
既に敵だらけだ。 
となると残った3人目…若い紳士も同類なのかも知れない。
執筆者…Gawie様、is-lies

其の様を見ていたユニバースが、 
彼女等の奇妙な姿を白い眼で見ながら思慮に耽る。
(……何やありゃ……。併し…あの本田ミナ… 
  SFESに拉致られた後、デリングの許に渡ってたとはね…。 
  あのネークェリーハとデリング……完全につるんでますわな。 
  んでもって向こうに居るのは……確かLWOSの副所長…… 
  名前なんつーったか…こう喉まで出掛かっとるんだが… 
  まあ良い。LWOSは最近リゼルハンクに吸収されたと言うし、 
  多分、其の繋がりで来てるんだろう。…所長のバルハトロスでないのは謎だが…… 
  最後の1人はイスラム共栄圏…サウジアラビア皇太子のモハメト・シャーですか… 
  つーかあの人も変な格好しとりますなぁ…)
ボクサーのモハメド・アリと掛けているのか、 
ボクシンググローブを付け、短パン姿をしているモハメトは、 
ネークェリーハやジェールウォントの仮装にヒいているのか、 
少々この2人とは距離を取っている様にも見える。 
まあ、モハメトの仮装も場違いさでは負けていないが…。
(イスラムったら…あの101便のBIN☆らでぃん… 
  此処でもグルになってたって感じですかな。 
  ……アメリカ、LWOS、イスラム…………… 
  …SFESは着実に根を広げている……ドイツはまだでしょうが… 
  ………まあ、其の時は其の時ですわな。 
  さて、折角相手の総大将達が前で無防備に歓談している事だし、 
  ちょいとさり気無く近付いて聞き耳でも……)
幸いにも被っている兜で、向こうから此方の顔は見えない。 
適度に距離を取りながら自然を装ってネークェリーハ達へと近付く。
執筆者…is-lies
「そういえば…ネークェリーハ殿。 
 其方は細川財団と最近懇意であるそうですな。 
 白海なら兎も角、あの細川が今になってリゼルハンクと…」
「ああ、ジェールウォント殿は知りませんでしたかな? 
 今の細川財団は細川と、細川の孫娘の小桃た… 
 ……いえ、小桃嬢の発言力が随分とある派閥に割れていましてな。リゼルハンクは其方を抑えたのですよ」
「ほほぅ…左様で……。 
 お、噂をすれば影ですな」 
ジェールウォントが指差した方向に居たのは、 
中世の魔女を彷彿とさせる仮装をした少女… 
今しがたデリング達の話題に上がり、 
更に101便内でSFESに協力した細川小桃其の人だった。 
ミナは一層表情を険しくし(だがコスプレの所為で怖くはない)、 
デリング大統領は何故かハァハァと息を荒くしている。 
やがて向こうも気がついたのか、 
呑み掛けていたジュースを其のままにネークェリーハ達へと近付く。
「おお、こんばんわ小桃嬢」
「……こんばんわ、ネークェリーハさん」 
聞こえ難いぼそぼそとした声でネークェリーハに簡単に挨拶をし、 
次はビンザー・デリングへと会釈をする小桃。
「…こんばんわ、デリング大統領閣下… 
 昔、アメリカが発掘して所持していたビフレスト…… 
 ……まだ、見付かっていないんですか…?」
「ん?小桃嬢はビフレストに興味でも? 
 あれは十数年前…私が大統領になるずっと前からとんと消息が掴めず… 
 デカブツなんで直ぐ見付かっても不思議は無いと誰もが思っていたのですが…」
「……私のサーヴァント達から聞きました…… 
 …サーヴァント達や前支配者達の誕生の場……見てみたいんです」
(前支配者?)
小桃の前支配者という一言にユニバースが反応する。 
もっと良く聞こうと思った其の時…
「小桃嬢、社長、皆様。 
 其れに関してはわたくしから御説明させて頂きましょう」 
人の波を掻き分けてやって来たのは、 
緑色の長髪をした女性…そして彼女が押す車椅子に乗った白髪の老人である。 
其のどちらにもユニバースは見覚えがあった。
(げげっ…ヴァンフレム…!)
リゼルハンク副社長にしてSFES最高意思SLの一員… 
ヴァンフレム・ミクス・セージムである。 
そしてもう1人の女は彼の秘書であるフランソワ。 
「おお、これはヴァンフレム殿!御久し振りです。 
 ……そうだ、ビフレストで私も御報告したい事が…」 
ジェールウォントが言う。
「……ほぉ、まあ詳しい話は後で聞くとして、 
 今はこのパーティーを楽しもうじゃありませんか」
執筆者…is-lies
酒も入り、デリング達は益々上機嫌で、 
やたらスケールのデカい話題に華を咲かせている。 
そんな中で一人話についてけないのはミナだ。 
いや、別に話に加わりたい訳ではない。 
むしろ出来れば話し掛けらたくない。 
彼女なりにも大物との接触が理想実現のための良い機会にはなると思っていたのだが、 
いざ、その相手を前にして、平和的な理想論を伺う勇気はミナには到底なかった。 
ミナはネークェリーハ達とはなるべく目を合わせず、 
手持ち無沙汰を紛らわすようにテーブルの上の料理に手を伸ばした。
その時、突然パシャパシャとカメラのフラッシュが光った。 
ミナが振り返ると、 
ホール入口の方からカメラやマイクを持った数人がこちらに駆け寄ってきた。 
「(…テレビだけは勘弁して…)」とばかりに、 
ミナは慌ててデリングの後に身を隠す。 
それとは対照的に、ネークェリーハは衣服を締め直しながら、 
堂々とカメラの前に歩み出る。
「この私にアポなし取材など本来は不可能なのですが、 
 今宵は気分が良いので特別に…」 
ネークェリーハがマイクを受取ろうとすると、 
「すいません。邪魔です」 
と、テレビクルーはこの異様な集団の前を素通りして、 
更に会場の奥へと進み、そこへ撮影機材を並べた。
「な、この私をスルーするとは! どこの局だ!」 
「あの腕章、マーズインペリアルですね」 
「帝国放送か、 
 他のテレビ局が来ていないところを見ると、 
 独占取材でまた帝国万歳でもやるのでしょう」 
「まぁ、これからはそうも行かんがな…」 
「お、漸くお出ましだ」
オーケストラが曲を静かに中断し、 
奥の階段の上に張り出したバルコニーに照明が集中する。 
そして一瞬静まり返るのを待ってから、盛大にファンファーレが鳴り響いた。 
一瞬の間を置き、バルコニーに豪奢な装いの現火星帝… 
レオナルド・フォアレイ・シルバーフォーレストの姿が現れた。 
静寂に包まれた会場内にファンファーレの余韻が響き渡る。

 

「3年…余が独立宣言をしてから3年が経過した。 
 本日の独立記念式典を執り行うに当たり、 
 3年前の余の宣言に熱意と誠意でもって答えてくれた火星人民諸君に、 
 此処で再三、感謝の意を示す」
火星帝の其の言葉に、最前列に居たVIP達… 
東日本首相の小泉・純一郎や、フランス首相ラヴァルモット・プロヴォーネ等が唾を飲み込む。 
火星独立を反対していた彼等としては複雑な心境なのだろう。 
だが最も火星を拘束し続けたアメリカのデリング大統領は、 
はいはいとやる気なさそうに呟きながらコスプレ姿のミナに魅入っている。
「又、彼等の中には地球側の弾圧で命を落した者も少なくは無い。 
 犠牲となった其の者達の冥福を心から祈り深い哀悼を捧げる」
VIP達に混じってミナも其の表情を曇らせる。 
実際にミナが火星の民を殺した事など1度もありはしないが、 
本田グループのロボット兵器フルオーターは、 
火星の監視としても大量に投入され、反乱分子を狩り出し始末していた。 
父・本田宗太郎がグループを仕切るようになってからは、 
其の様な事も無くなったが、既に起こってしまった事は取り返しがつかない。 
ミナも其の辺りを気にしているのだろう。
「我が火星は開発以来、屈辱と泥濘に塗れた歴史を歩んで来た。 
 だが地球側の不当な搾取を耐え抜いた火星の民であるからこそ、 
 この独立を勝ち取り、今日の自由を得る事が出来たのだと余は信じている」
「ふん。火星政府の優位を示すか。 
 …まあ今は良い気になってるが良いさ。マヂで今は…ね」 
ミナの肩に手を回しながら、不愉快そうにデリングが吐き捨てる。 
だがミナの方はと言うとデリングの事は既に眼中に無く、 
現れたリゼルハンク副社長ヴァンフレムへちらちらと視線を送っている。 
以前、ミナに母・玲佳の事や資料室の事を教えたアメリカ側の老人… 
彼も又リゼルハンク=SFESの一員… 
予想していなかった訳ではないが流石にショックを隠し切れない。 
ヴァンフレムは其の視線に気付いているのかいないのか、 
蓄えた顎鬚を弄りながら火星帝の話を静聴している。
「…故に各国は協力し、 
 この火星を第二の故郷として……」
「ッ…!……火星帝も… 
 ……地球を……切り捨てるのか……」 
ムーヴァイツレンはまだ地球を救う気満々らしいが、 
兜越しに其れを見詰めるユニバースの眼は冷ややかだ。
「…又、破滅現象に対する確たる対処法を発見する事が、 
 我が火星帝国の…人類最後の砦の為すべき急務である。 
 人類の歴史を此処で終わらせる訳にはいかぬ。 
 破滅現象を駆逐した其の時こそが火星帝国が真の平和を得る時だ」
火星の民から沸き起こる拍手と歓声。 
各国のVIPも控えめながらも拍手を送る。 
だがムーヴァイツレンは其れもせず、 
静かに眼を瞑って手にしたワインを一気に飲み下した。
執筆者…Gawie様、is-lies
「ふぅむ…まあ気ィ落さんといて下さい。 
 火星帝が見捨てたからって……」
だがユニバースの其の科白を遮り、 
ムーヴァイツレンは溜息と共にこう吐き捨てる。 
「……君は随分と気楽そうに言うな…… 
 …そうだ…。君の方で何とかは出来ないのか? 
 こんな時の為に出資していたのだぞ?」
「い…いやそりゃまあそうですが…… 
 破滅現象だって完全に静まった訳でもありませんし、 
 まあちょいと長い眼で見て頂く必要はありますわ、ええ」
「……まあ仕方が無いか…。 
 だが一刻も早く破滅現象を何とかしてくれ。 
 地球は我々の故郷なのだ。私は火星に骨を埋める積りは無い」
「…やけに地球に固執しますなぁ。 
 こうして火星まで来れたっていうのに… 
 地球にはまだ何かあるんですかい?」
「そんな君みたいに割り切れるものではないというだけだよ」
勿論、地球に固執するのはムーヴァイツレンだけではない。 
人類の多くにとってもそうである。 
今は一部の者が破滅現象から逃れるために火星に渡って来てはいるが、 
人類が地球の大地を見捨ててしまうことなど出来るはずはない。 
ムーヴァイツレンが言うように故郷でもあるし、 
生産の基盤であり、一部の支配者にとっては未だ支配の対象である。 
嘗て虐げられた火星が今受け入れる側になった事で色んな面で優位にはなっていたが、 
地球の各国も感謝こそしても、火星帝の支配下に入るつもりなどありはしない。 
火星の優位は破滅現象の脅威を排除するまでの一時的なものでなければならないのだ。
「旦那もあそこへ上がって言ってやったらどうです? 
 あくまで対等なんやと」
「当然だ。独立して立場が逆転した訳ではない。 
 火星も連合の一国にすぎないのだ。 
 しかし、今は火星の国民感情を刺激するのは得策ではないだろう」
「弱腰ですなぁ。 
 あ、っと、言ってるうちに、ほら先を越された。 
 あちらさんは痺れを切らせたようですよ」
「む、あのでしゃばり…」
火星帝の演説の余韻が残る中、 
一人、予定にはない行動に出たのはデリング大統領だ。 
緩やかな半円状の階段を悠々と上り、壇上の火星帝に歩み寄ると、 
デリングはスッと手を差し伸べて笑顔で握手を求めた。 
少し間を置き、火星帝レオナルドは凛とした表情のまま、 
マントの下から煌びやかな装飾の手甲をした腕を現し、 
そして、ゆっくりとその手を握り返して握手に応えた。 
その光景に会場からは再び拍手が沸き起こった。
デリングはさらに両手でレオナルドの手を取り、 
勝者を称えるようにその手を大げさに掲げて歓声に応えて見せた。 
そして、壇上に上がってマイクを取り、軽く咳払いしてから語り始めた。
「…今宵はなんとすばらしい… 
 感激のあまり、ついついこの場に上がってしまいました。 
 無礼を承知で発言することをお許し願いたい。 
 まず最初に、私からも言っておかなければなりません。 
 以前の戦争、第三次世界大戦… 
 その最中の火星の独立紛争… 
 そして先の大名古屋大戦、第四次世界大戦… 
 尊い犠牲となった者達に哀悼を捧げるとともに、 
 嘗ての連合の行いに苦汁を強いられた火星の国民には、 
 各国を代表して、深く謝罪の意を表明致します」
各国を代表してと言いつつ、 
各国の代表はそんな発表は聞いてはいなかった。 
戸惑う各国代表者達を他所にデリングは続ける。
「そして今! 
 その苦難を乗り越え、火星帝国という新たな同志を迎え、 
 我々は、人類は、漸く一つになれた。 
 周知の通り、地球は今破滅の危機に瀕している。 
 火星の厚意により、避難民の受入れ準備が進んでいますが… 
 何時!火星でも破滅現象が起こるか分からない…」
そう、火星とて安泰とは言えないのだ。 
デリングの言葉がその不安を助長し、辺りは静まり返る。 
そこでデリングは自らの言葉にこう切り返す。
「だがしかし! 
 団結した我々に!人類に敵はない! 
 必ず破滅現象の脅威を打ち払うだろう! 
 先程…火星帝は、 
 『破滅現象に対する対処法を発見する事が急務である』と仰られたが、 
 …一つ訂正しよう。 
 我々は得ている!」
と、デリングは胸ポケットから携帯端末を取り出し、それを高々と掲げ、 
そこから壇上に、何かの立体映像が映し出された。
「ご覧頂きたい! 
 これが我々の英知の象徴、シークレット・ウィズダム! 
 嘗て、灰色の焦土と化したアフリカ大陸を花園に変え、 
 崩壊寸前の地球の環境を復活させた奇跡… 
 かの八姉妹の結晶の一つです。 
 これを我々の手で今一度集結させ、 
 再びあの奇跡を起こして見せましょう!」
会場から三度歓声が沸き起こった。 
八姉妹の結晶で何が出来るかも知らずに…
執筆者…is-lies、Gawie様
デリングは頭上に掲げたシークレットウィズダムの映像を消し、
端末をポケットにしまいながら、 
すぐ後ろの火星帝の表情を窺うようにチラリと視線を送り、 
そして歓声が治まるの待ってから、 
今度は螺旋階段をゆっくりと降りながら更に演説を続けた。
「人々よ。 
 我々はまもなく人類最大の脅威を払うだろう。 
 だがそれで平和は訪れるだろうか? 
 残念ながらその答えはNOである。 
 脅威は破滅現象のみならず。 
 先日火星で起こった謎の発光現象。 
 そして相次ぐテロ、一部の力を持った者の暴走、 
 その最たるが先の大名古屋大戦であり、 
 遡れば、あらゆるパラダイムを崩壊させた以前の戦争があった。 
 以来、人類は力の使い方を誤り、怨恨が怨恨を生み出している。 
 これでは永遠に傷を癒すことは出来ない。 
 もうこの辺で忘れようではないか。 
 我々は我々の正義を信じ、力を以って脅威を排除し、 
 今、辛うじて秩序を保っている。 
 それによって決して忘れることの出来ない尊い犠牲を払った。 
 これからも我々は脅威には力で対抗し、 
 そこにはやはり犠牲もあるだろう。 
 だがそれを乗越えると共に、新たな平和を創造しなければならないのだ!」 
熱弁を振るいながらデリングは階段を降りて、 
ミナ達の前までやってきた。
「脅威を排除するのは、力を持つ我々の使命です。 
 しかしながら、戦いの傷を癒し、新たな平和を築くのは… 
 それは我がアメリカの統治によるものではありません。 
 おそらくそれは火星帝でも不可能でしょう。 
 では、誰が? 
 言うまでもなく、それは人類全ての使命なのです。 
 そしてその新たなる平和の礎を築くため、 
 新たなる指導者をここに招きました。 
 紹介しましょう。 
 我々を導く平和の使徒本田ミナです!」 
デリングが指し示した先にいる一人の少女に、 
一斉に周囲の視線が注がれた。
「既にご存知の方もいらっしゃるでしょう。 
 その通り、彼女は大名古屋大戦の首謀者、本田宗太郎の息女、 
 本田ミナです。 
 私はアメリカ大統領及び連合議会議長の権限により、 
 彼女を大名古屋国代表として連合議会議員に推薦します」
会場がどよめいた。 
突然の発表に言葉もなく硬直しているミナに、 
デリングは歩み寄ってそっと彼女の肩に手を添える。
「我がアメリカは大名古屋国の復興を支援し、 
 そこに新たなる平和国家の建設を提案します。 
 複雑な心境でしょうか、そういう方も少なくはないでしょう。 
 我がアメリカも、大名古屋大戦では多大な被害を被りました。 
 ですがそれは忘れましょう。 
 彼女は真に平和を願っています。 
 無論、これは彼女一人に贖罪させるものではありません。 
 今、人類全てが忌まわしき戦争の歴史に懺悔するべき時なのです! 
 何を疑い、恐れるか!? 
 平和を求める者があれば、私がそれを守る騎士となりましょう!」
締めくくりにデリングはその拳を高々と突き上げ、演説を終えた。 
まだ訳も解らず固まっているミナの手にマイクを握らせると、 
そこへ帝国放送のテレビクルーがドッと押し寄せた。
「おめでとうございます! 
 本田議員、具体的にどのような方針で?」
「…え、あの……、 
 …能力者と、獣人の解放を…その…」
ミナは消え入りそうな声で何とか答えてはみたが、 
頭が真っ白になってその後は憶えていなかった。
執筆者…Gawie様

それから数時間後、 
深夜、午前0時を回ってもパーティは続いていた。 
デリングやネークェリーハ達は一層大盛り上がりで酒を浴びている。 
漸く取材陣から開放されたミナはホールの隅っこでグッタリしていた。 
もう恥ずかしい衣装などどうでも良かった。 
…と、いつからそこにいたのか、 
直ぐ横にいた黒いローブを纏った魔術師風の男が話しかけてきた。
「…貴女の理想は素晴らしい… 
 私も応援しますよ」
「…あ、はい、ありがとうございます…」 
ミナは疲れきった様子で、相手も見ずに生返事しか返せなかった。
「どうされました? 顔色が優れませんが」
「…すいません。今日は疲れたので…」
「それはいけませんね。 
 私が客室まで案内しましょう」

 

言われるがままにミナは客室に案内された。 
その豪華な装飾や調度品は目に入らなかった。 
ミナはそのまま倒れるようにベッドに横になった。
「連合の議員に風邪でも引かれては申し訳ない、さぁ」
「私が議員…そんなものが通るはずは…」
「通るでしょう。 
 いえ、通すでしょうね。 
 デリング閣下がどう思っているにせよ… 
 貴女はそれに十分値する… 
 …貴女の理想は素晴らしい…」
ミナをベッドに寝かせながら、ローブの男がそっと耳元で囁いた。 
「あのアメリカ大統領はダメです。 
 口ではどう言っても、あの醜い欲望のオーラは隠しきれない。 
 勿論、父上…いえ、火星帝も…貴女の騎士には役不足です」
「…貴方は一体…?」
「申し遅れました。 
 私、シュタインドルフ・フォン・シルバーフォーレストと申します」
「シルバーフォーレスト…? 
 私、勉強不足で… 
 まさか、シュタインドルフ殿下…」
「殿下だなんて、やめて下さい。 
 私は血で皇位を継承するつもりはありません。 
 火星の支配者には実力でなってみせます。 
 そして、貴女の理想を守るための騎士は、私が用意しましょう」
「でも、私は……」
「話はまた後日… 
 おやすみ、プリンセスミナ…」
執筆者…Gawie様
本田ミナは眠かった。
とにかく今は、眠りたかった。 
夢の中にいたい。 
ずっと夢の世界にいたい。 
何故そんなことを考えるのか、自分でもわからない。 
とにかく、何も考えずに眠っていたかった。
だが、会話のような声が聞こえて、どうしても完全に夢の中に浸ることが出来ない。
「これが貴方の望み?」
「他に何が?」
「…ふふ、貴方の望みはとても小さいね?
 『夢を望む小鳥』の騎士には貴方はなれない。だって貴方は…」 
「何が言いたい?」 
「自分のために小鳥を捕まえるのは感心しないよ?私は」
一人は…女の人だ。 
もう一人は、どこかで聞いた声。確か…シュタインドルフ…殿下…
「『夢を望む小鳥』は、水に飢えている。
 けど貴方は騎士。渇きを潤す水にはなれない。
 だって水になったら貴方の身を害するでしょ?自分の身体を与えなきゃならないから」 
「貴様、その『小鳥』というのはやめろ。彼女にはちゃんと本田ミナという名前が…」 
「私がそう呼んでいるだけ。
 名前はそのモノのカタチを明確にするものなの。
 私は彼女の願いを明確にしてあげているだけ」
意味がわからない… 
だんだん意識が遠のく…
「貴方にチカラを与えてあげる。自分の望みをかなえるための。貴方には…」

 

そこで、本田ミナは本当に夢の世界へと歩いた。
変な夢だったが、よく思い出せない。
執筆者…夜空屋様
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