リレー小説3
<Rel3.獣人村1>

 

ユニバースが無責任なハッタリをかましている頃。 
そのハッタリを実現させるべく、 
セレクタの別働隊ビタミンN達はセート達を伴って 
プラネットクルーザーで火星の裏側の荒野上空を旋回していた。

 

  火星裏側 上空

 

「何か見えてきましたね…」
「ああ」
「あれは……101便か」
セートが手にした双眼鏡に映るのは、 
テロリスト…其の実組織SFESによってにジャックされ、 
遂には連盟艦隊特殊部隊によって火星の裏側へ墜とされた航宙機だ。 
無論、極一部を残してズタボロになっており、 
剥き出しになり歪に歪んだ鉄骨が、無残な骸を思わせて不気味である。 
セレクタ・アルベルトの救出活動によって犠牲者は少数で済んだらしかったが、 
其れでも大惨事には違いない。 
今尚、報われぬ犠牲者達の魂は、残骸で出来た巨大な墓石に宿り、 
この不毛の地に縛り付けられているのだろうか。
「ねぇ、本当にこんな所で…」
「………」
今も生きているのか? 
そう質問したかったであろうフェイレイだが、 
他メンバーの沈黙によって其の口を噤む。 
確かにこの様な場所に落ちてしまえば、助かる望みは果てしなく低い。 
火星の裏側は全くの未開発地域なのだ。 
テラフォーミング計画で地球と同じ環境になったとはいえ、 
此処は地球から何も持ち込まれていない死の大地。 
エーガが携帯食か何かを持っていたとしても限度というものがある。 
一刻も早く救出せねばという気持ちがセートの頭を覆い尽くし焦らせるが、 
まるで彼のそんな気持ちをも嘲笑うかの様、 
荒野は全く変わらずに赤い大地を地平線の果てまで続かせている。
「……随分と根気の要る仕事よね。嫌んなっちゃう」
「だからこそ、こっちに人数割いてるんだろ。 
 ぼやいてないでホレ探せ探せ」 
望遠の為か、試行錯誤する様、 
眼を色々と変形させながらグレートブリテンがフェイレイに言う。
「ねぇビタミンN、動物を使って何とか……あ…」
「…何とか…?出来るか。こんなトコにどんな動物が住んでるよ? 
 まぁ、地道にやるしかないって事だな」
「……………そうですね…… 
 とりあえず、着陸しませんか? 
 エーガ様がこの辺りに不時着していれば、何か手がかりがあるかもしれませんから」 
セートは思考を巡らせるように口元に手を当てたまま、一旦着陸を提案した。 
尤もだと、一同もそれに賛成した。
クルーザーから降り立ち、グンと背伸びをしながら、大地に突き刺さっている101便の残骸を見上げた。 
船の形をどうにか保っているのはアダマンチウム製のフレームのみで、それ以外は完全に燃え尽きてしまったようだ。 
持ち帰ることが出来れば相当の金にもなるレアメタルのオブジェ。 
エーガがこれを見つけたら、どう思っていただろうか?
「やっぱ、手がかりなんかなさそうね。 
 エーガには悪いけど、捜索打ち切りかな。 
 ご冥福をお祈りするわ」 
フェイレイは残骸を見上げ、荒野をザクザクと歩きながら言い捨てた。
「待って」 
と、セートに呼び止められ、その視線を追って足元に目を向けると… 
手がかりはあっさり見つかった。
「あ、足跡…?」
「…はい、この風でも形跡が残っているから、結構新しい… 
 それも複数。 
 なにか、争ったような感じにも見えますね…」
セートは足元の足跡と、乗ってきたクルーザーを指差し確認するように何度も目線を往復させながら呟き、 
そして、暫く考えこんでから、にやりと探偵のように口を切った。
「…このクルーザーに乗る前に、尾翼のシールを剥がし、 
 そこにはリゼルハンク社のリンゴのロゴ… 
 そして、無人であるはずのこの地に何かがいる… 
 そろそろ説明してもらえませんか? 
 エーガ様は何に巻き込まれたんです?」
「……俺もまさかとは思ったが、やっぱりそう思うよなぁ」 
セートの問いにビタミンNが勿体付けるように答えた。 
「お前はエーガよりもセレクタ向きだな。 
 いや、俺も詳しくは知らない。と言うより知らされていないのかもしれない。 
 恐らくセレクタも確信がある訳じゃない。 
 ここにある足跡は新事実だ。 
 関連性があるかは分からないが…… 
 分かっているのは、エーガは今、SFESのサリシェラという女と行動を共にしているという事だ」
「な………!」
「なんだそりゃぁ。 
 行方不明になったかと思ったら女と一緒だ? 
 あの大将… 
 ガキが… 
 役不足が… 
 調子に乗るから、この様かぁ!?」 
イオリが眉間をくねらせながら毒吐く。
「…口を慎みなさいイオリ。 
 ……それはそうと、 
 セレクタはそこまで分かっていながら、場所までは掴めていないと?」
「あぁ、そうだ。 
 それにSFES以外に何が出てくるかも分からない」
「そうですか… 
 しかし、時間の問題ですね」
そう言ってセートが地面をなぞって指差したその方向には、 
車輪の跡が確かに見て取れた。

執筆者…is-lies、Gawie様


一方、今まで他の進入を拒み続けていた獣人村のジュネーヴァ達も、
知らずに接近してくるセート達に気付かないはずはなかった。
「…お粗末だぜ… 
 昨日の夜、確かに何者かが村に進入した。 
 かと思えば、もう新手か……? 
 あの船…リゼルハンクの奴等だな… 
 ってことは……」
「待て、昨夜のあの反応… 
 総帥は手出し無用だと…言われた。 
 昨夜のは3番目の例外だ。 
 1番目、2番目も同様に手出しは出来ない…」
「リツィエル…最初に手を出したクセによく言うぜ…」
「確信はないが、無視出来ない推論はある。 
 お前と違って私は状況で判断しているのだジュネーヴァ。 
 何より、私の勘が…言っている。 
 慎重に行くべきだと」
「ハッハッハ、同じだよ」
「……違う」
「同じだ。 
 ともかくよぉ。 
 総帥が何と言おうと、あの村には、もう入れたくないんだ。 
 例の勇者とその仲間、原初の能力者関係、それに第3の例外。 
 それ以外は…プロだろうとSFESだろうと必ず抹殺……!」
「お前がそれをどう判断出来る? 
 無理するな……」
糸は解れていた。 
完璧な修復は容易ではない。 
一度解いて、紡ぎ直し、編み直しでもしない限り、必ず痕は残る。 
誰にも知られていない獣人達だけの村。 
火星政府には勿論、SFESやセレクタ、協力するLWOSにすらその実体を掴ませない組織、 
『白き翼』の計画の一部である。 
村の外見はクレーターにカモフラージュし、 
近々政府から墜落現場に派遣される予定の101便事件の調査班にも、 
班の移動ルートの指定や、調査は墜落現場のみに限定させ、周辺の調査まではさせない等、 
政府内部への根回しも完璧であった。 
偶然近くに墜落して来たクルーザーがヴォイドステルス仕様であったために事前に察知する事も出来ず、 
それに乗っていたエーガとサリシェラが調査班よりも先に101便墜落現場に来てしまい、 
更に不用意にエーガ達に接触してしまった事、予想外だったが、迅速に対処出来たハズだった。 
にも関わらず、昨夜何者かの侵入を許してしまった事、 
そしてそのために警戒を強めた矢先に、 
やって来たセート達に足跡を発見されてしまうというミス。 
完璧で大掛かりな偽装が、小さな足跡から手掛りを捉まれてしまったのだ。 
致命的な解れだった。
「しかし、このままじゃ村を発見されるのも時間の問題だな」 
身を伏せたまま、ジュネーヴァがタイヤの痕を均しながら言った。 
タイヤ痕を追って後ろを振り返ると、ここまで歩いて来た自分達の足跡もしっかり残っていた。 
リツィエルが小さく溜息を吐いた。 
「組織力による偽装のみに集中してしまったか、 
 こんな足跡に気が回らなかったとは………」
「やはり始末するしかないか……」
「そうだが… 
 いや、ダメだ。 
 あのリゼルハンクの機体、恐らくSFESだ。 
 サリシェラとか言う娘を探しに来たのだろう。 
 能力も分らない者を8人も相手にするのは得策ではない。 
 それに、総帥の言われたことも気になる……」
「おっしゃ、俺行ってみるわ」 
ジュネーヴァが意を決した。というより膠着に耐えられなくなった。
「待て…! 
 無理はするなと言っただろう」
「話せば解る。無理じゃねェ」
「話すだと? 
 プロだろうとSFESだろうと必ず抹殺、そう言ったのはお前だろう? 」
「話して解らないような輩ならそうするさ。 
 リツィエル、お前は理屈で片付け過ぎる。 
 まぁ、俺に任せとけって。 
 もし戦闘になったら、お前は敵の分析に集中するんだ。 
 それで不利と見たら、俺には構わず村の方を頼む。 
 任せたぜ」
リツィエルが言うのも聞かず、ジュネーヴァは双眼鏡を捨て、立ち上がった。 
執筆者…Gawie様

徐に口笛を吹きながら歩き出した彼が、 
セート達に見つかるのに時間はかからなかった。 
警戒色丸出しのセート達の間合いに、ジュネーヴァは大らかな笑顔で踏み込んだ。
「よ、こんちわッ」 
人外の荒野の先に現れた男が、 
こんなにも爽やかに挨拶してくるその様は異様なものがあった。
「……………………こ、こんにちは…」 
セートは後ずさりはまではしなかったが、 
見た事もない魔球を喰らったような顔で返事をしてしまった。 
同時にデジャヴも感じた。それがエーガと最初に出会った時に似ていると直に気付いた。
「誰だか知らないが、解りやすいぜ、そのリアクション。 
 意外…だが、何も知らずに迷い込んだって訳じゃなさそうだな。 
 こんなところに何の用だ?」
ジュネーヴァはセートの動揺を読み取り、直にそこを衝いてきた。 
間違いなく、この男は何かを知っている。 
セートは確信した。 
セレクタがクルーザーにリゼルハンクのロゴをペイントしていたのも、 
単なる偽装ではなく、この男を誘き出すためのもの。 
エーガ捜索のついでに、という訳ではなく、関連はあると見てよいだろう。 
恐らくこの男はセート達をSFESだと思っている。 
エーガの事か、サリシェラの事か、どう応えるべきか?
 「…エーガという人を…探しています」 
セートは計算なしに、率直に応えた。
「あ、アイツの方か、 
 てことは、アイツもやっぱりSEFSだったんじゃねーか」 
この男はやはり知っていた。 
SFESの事も、エーガの事も、
「いえ、エーガ様も、私達もSFESではありません。 
 名乗る訳には行きませんし、名乗ほどの者でもありません。貴方が何者かも聞きません。 
 ですが、エーガ様を知っているのなら教えてもらえませんか?」
「プッ、エーガ様か。 
 様って感じじゃねーだろ? 
 どーしよーかなー?」 
ジュネーヴァは爽やかで不気味な笑顔でワザとらしくセート達を焦らし、 
そして、意外な質問で返して来た。 
「もしかして、お前等… 
 訊いてみるけどひょっとして…セレクタか?」 
これに動揺を隠せなかったのはビタミンN達だ。 
相手はカマ掛けて来ただけだったのかもしれないが、 
思わずビクッと反応してしまったのは流石に隠しようがなかった。
「やっぱりな。 
 俺の勘は良く当たるぜ」
「何者なんだお前は?」
「俺は、ジュネーヴァだ。 
 お前も獣人なのに……いやそれはいいや。 
 セレクタなら腕試しをさせてもらうぜ」
「なんだと…!?」
一人で8人を相手に腕試しとは、余程の使い手なのか?ナメられているのか? 
いや、熟練の使い手ほど、相手をナメてかかることはしない。 
むしろ臆病なほどに戦いを避けようとするものだ。 
どちらにせよ、已む無しと、ビタミンN達はジュネーヴァを取り囲むように戦闘態勢をとった。

 

ところが、事態は二転三転する。

 

「ジュネーヴァ!」 
と、前方で叫ぶ声が聞こえ、もう一人の男が現れたかと思うと、 
ほぼ同時にその先から爆音のような音が響き、煙が立ち上るのが見えた。
「リツィエル!? 
 なんだ…村の方だ…?」
執筆者…Gawie様
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