リレー小説3
<Rel3.H・F4>

 

「……やけに……静かですね」
夕暮れ時も終わりを告げ、本格的に夜の帳が下りて来た。
色々あったが結局は『骨』を見失い、
又、SFESがお情けで与えたという指令もこなせてはいない。
とはいえSFES程度であれば力づくで抑え付けられると考えている彼からすれば、
これもどうという事の無い瑣事。
などと考えていたからか、気付くのが妙に遅れてしまった。
辺りから風と自分の足音以外の音がしない。
この辺りの道路は少々寂れており、
夜になると物騒だからと言われあまり寄り付く人間は居ない。
だが夜は始まったばかり。まだまだ人通りは多い筈。
にも関わらず、この静寂は一体どうした事か。
嫌な予感に駆られ、耳を澄ませる樹川。
其の時、背後から…
「…おやおや、貴方は………」
浅黒い顔をした男が呟く。
「樹川。SFESは貴様に対し完全に失望した。
 好奇心は猫をも殺すという言葉を知っているか?
 今日まで生き永らえた事を神とやらに感謝するが良い。
 そして懺悔しろ。私が我が主に代わって聞き届けてやろう」
男の姿が巨大な光に包まれる。
光は男を包み込んだまま数秒留まり、一気に膨張して消え失せた。
樹川の前に姿を現したのはデタラメを絵に描いた様な異形。
蛇の様な体の上に、鋭利な刃の如き頭と、其々4つの獣の頭部を備えた4腕。
其の腕が一気に振り上げられ、樹川へと殺到する。
「おやおや…嫌われたものですね。
 併しセイフォートの角の力は知っているのですよ、ヘイルシュメルさん」
軽々と回避する樹川に追い縋り、
又もや彼を上から押し潰そうと仕掛ける異形。 
執筆者…is-lies

緑髪の少年は遠くに見える幾つかの影を眺めた。
「セイフォートが…二匹もいるとはな」
少年はそう言うと、町の方向に視線を向けた。
「あれは…ヘイルシュメルかな」

 

 

樹川が剣を構える。
「その程度の武器で私に勝てるとでも思っているのか?」
「ええ、もちろん」
言うや否や、樹川の姿が消える。
だが、そのスピードもヘイルシュメルにとっては蝿が飛ぶ程度のスピードだった。
「空中では逃げられん!!」
異形の角が輝く。
「例のレーザーですか…」
そう言うと、手をヘイルシュメルの方に向けた。
「そこ、ストップ。黒い奴もヘイルシュメルも」
緑髪の少年が廃墟と化した家の屋根から言った。
リヴン…!何故貴様がここにいる!」
(リヴン…?)
リヴンと呼ばれた緑髪の少年が屋根から下りる。
「ヘイルシュメル、俺の能力は知ってるでしょ?だからもう終わり。
 …そこの黒いの、『今後リゼルハンク社の出入りを禁ず』ってさ、ライズさんからの伝言」
無表情で言い放った。
「そうはいきませんよ。せめて今日中は…」
「今日でも明日でも『入ったら殺す』…それとセイフォートの骨はこっちで管理することになったから。
 つまり君はもう用済み。…ヘイルシュメル、ライズさんが呼んでたよ。
 『仕事をやるのもいいがこっちも手伝ってくれ。樹川はもうどうでもいいから』ってさ」

「そうか…」
ヘイルシュメルの姿が異形から人間に戻る。

「おっと、簡単には行かせられませんよ。こっちもやらなきゃいけないことがあるので」
樹川が剣を構えなおす。
だが、
(…能力が発動できない!?)
少年とヘイルシュメルが立ち去っていく。
樹川は、呆然と立ち尽くした。

 

「・・・どうやら、こいつも限界か・・・。
 まぁ、戦闘中に寿命が来なかっただけ良しとしましょうか。」
剣をしまい、袖をめくり腕輪を見やる樹川。
腕輪に嵌っている宝石――瞳を象った銀のフレームで囲った赤石――にひびが入っていた。
ため息をついた。こいつは便利ではあるのだが、どうにも持久力が無い。
特にセイフォートの力をエミュレートするとなると予想以上に消耗が激しい。
と、そうこうしているうちに携帯電話がなる。
「はい、樹川ですが?」
《追い出されるとは下手を打った様だな》
くぐもった無機質な声。ボイスチェンジャーを通した声だ。
「おや、あなたですか?相変わらず耳ざといですね。」
《我々の目がどこにでもあるのは知っているだろうに。
 それより、これからどうするつもりだ?プランの修正が必要になるでは無いか》
合成音声からでも苛立ちが感じられる声。
「まぁ、どうにかしますよ。
 ・・・それに、アレは本物のセイフォートですよ。それだけ分かれば十分でしょう?
 それよりも、あの石、限界が来ちゃいましたよ。
 新しいのをお願いします。できれば、何個かもらえませんか?」
《なに・・・またか?アレは貴重なものなのだぞ、分かっているのか!?
 それから、前からも言っているように一度に渡せるのは一個だけだ。
 いつ裏切るとも知れんからな》
「ひどいなぁ、信用してくださいよ。で、どこで待てばいいんですか?」
おっと、どうやら気付かれていたようだと、心のうちで舌をだす。
《ふん・・・勝手にどこかホテルを取れ、届けさせる》
「ありがとう。それじゃあ、さようなら。」
《待て!》
「?まだ何か?」
こっちの用事は終ったというのに、まだ何かあるのか?
《戯れにセイフォートを刺激するのはやめろ。
 アレはお前が思う以上に危険だ。
 これは、お前の身を案じて言うのではないぞ、アレを起こすことは我々全員にとってのリスクだ》
「はいはい分かりましたって。じゃ、今度こそさようなら。」
電話を切る樹川。
しかし、口で言ったのとは裏腹に腹の中では
禁止されると逆に手を出してみたくなるものと言う気持ちが渦巻いていた。
だが腕輪が使い物にならない以上、
今日はおとなしくしておくことにしておくことにしようと思う樹川であった。
なに、たまの休みも悪くはない。 
執筆者…夜空屋様、Mr.Universe様

暫く無言で歩き続けていたヘイルシュメルが口を開く。
「何の積もりだリヴン?
 …樹川を放って置くのか?
 あれは用済みどころか百害あって一利無しの害虫だ。
 本部への出入り禁止など当たり前だ。
 奴がどれだけの違約を犯していたと思っている?
 おまけに…我々の話すら聞いている。
 ………スルトの日までに漏らされてみろ?」
「アヤコ嬢も声を落としていたし簡易結界もあった。
 碌に聞こえてすら居ないよ。
 其れに万が一聞かれていたとしても……
 あの黒いの…樹川…だっけ?
 アイツもう信用ガタガタだし何言っても意味無いよ。
 其れに本部への立ち入りも禁止…
 もうAMF防御システムの面倒臭い部分解除なんてのも必要無い。
 後、SFES本部が言うには社会的にも抹殺する予定だし問題無いさ。
 ライズさんはこれで全て解決って言ってるよ。
 あのまま派手な戦いが長引く方が危険だってさ」
「……アヤコ嬢には殺せと命じられた。何時の間にプランの変更があった?
 其れに……殺した方が手っ取り早くはないのか?
 あれは人間の分際ながらも私達に対抗出来る程の力がある」
報道操作によって戦場を作り上げ、其処に用意した戦力は、
セイフォートシリーズ・ヘイルシュメル及びアヤコを主力としたレギオン15名。
如何な樹川といえどこの物量を前にそう易々と抗せるものではない。
「んー、最初はね。
 唯…ついさっき例のI-ショゴスから面白い情報が入ったんだ。
 あ、睨まないでよ。本当についさっきなんだから。
 まだ彼は泳がせておいた方が良いよ。
 今回の事でもう彼はSFESに立ち入れない。今は其れで十分だよ。
 どうせスルトの日に入れば彼からは何も出来はしないだろうし、
 精々、彼自身の目的とやらに邁進して貰うさ。
 さあ…早く帰還しよう。『俺達の側の』本部へ」
執筆者…is-lies

SFESの某研究所

 

ペンギン太郎が鞭を振り回していた。
「くぺーっぺっぺっぺ!…ぺ?」
自分の携帯電話が震えてるのに気付き、電話を見た。
H・Fからだ。
「はいもしもし樹川ペン?さっさと用件言って死んじゃえペン」
すでにH・Fの本名は知れ渡っている。
《まだ死ねませんよ。
 …ところで、セイフォートの血とやらにD-キメラの双子の兄を起用したそうですね?》
「…!?、貴様何処からその情報盗んだペン!?」
《秘密です。
 いやあ、自身の血液を自由に操作できるセイフォートの血の能力を双子の兄に与えるとは》
「ぐ…、また審問会にかけるペンよ!?」
《安心して下さい、負ける自信はありません。それにしても双子の兄とは…》
ペンギン太郎が携帯電話を握り締める。
「さっきから双子の兄双子の兄って、
 あの生意気シスコン餓鬼が何だっていうペン!僕アイツ嫌いペン!」
《いえ、彼自身はそんなに重要じゃありませんよ。双子だってそんなに珍しくありません。
 …ですが火星で双子にセイフォートは危険だと思いますよ。
 どういう意味か知りたかったら…『火星童話全集』をご覧下さい》
火星童話全集といえば火星から採掘された童話染みた記録を集めたものだ。
「意味わからんペン。つーか双子の妹の方はこっちのものだペン♪
 だからアイツはこっちの言いなりだペ…」
《火星では力を持った双子は災厄を齎す…このテの童話が大量にありますから》
「へ?」
《14ページの「瓜童子」では苛められた双子は村に飢饉を齎し、
 39ページの「プリュクとクリュク」では海王の息子の双子が死んだ時、津波が村を襲います。
 106ページの「歌姫姉妹」では双子の姉妹の歌が国を滅ぼしかけます。
 …まぁ、信じるかどうかは知りませんが》
「…童話が何だペン!そんなもん関係無いペン!不愉快だから切るペン!」
《せめて妹の方を人質にするのはやめた方がいいとお》
ペンギン太郎はその携帯電話を叩き折った。
「どうしたのペンちゃん?」
ゼペートレイネが床に落ちた携帯の残骸を見ながら言った。
「何が双子が厄災だペン!ゼッテー樹川殺すペン!!」
ゼペートレイネが少し考え、少し理解し、
「何であの男がペンちゃんにいろいろ言うの、わかる?」
「知らないペン!」
「おしゃべりだからだと思うわよ?もしかして誘導尋問されてない?」
「…………(絶句」
「ま、アイツついさっき出入り禁食らったから今度来たら遠慮なく殺れるわよ〜。
 ……電話もう出ないよーにね」
執筆者…夜空屋様
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