リレー小説3
<Rel3.ハウシンカ7>

 

 

「こほん。初めまして新入りの諸君。 
 私は月アルカトラス刑務所の所長ダーイン・ヘル
如何にもキザそうな長髪眼鏡の男が、 
片手で少女フィギュアを、もう片手でマイクを持ちながら、 
今日、入所したハウシンカ他4名を前にして簡単に挨拶をする。
「同じく副所長のリーヴ・ヘル。 
 皆様の入所を心から歓迎致しますわ」 
顔立ちや長髪などはダーインと似ているものの、 
少々赤みがかった白髪のダーインに対し、リーヴは青い長髪だ。 
膝の上に、手足を縛り口枷を付けた黒猫を転がし、 
嫌がる猫の背を優しく撫で擦りつつ、 
微笑を以ってハウシンカ達に歓迎の意を示す。
「まずはこの月アルカトラス刑務所について簡単に説明させて貰おう。 
 …結晶が世界に齎された事により、人類は様々な恩恵を受けた。 
 諸君等を此処へ護送するのに使用された航宙機も其の無数の恩恵の1つだ。 
 …が、やはり光ある所には影がある」
「其れは表があれば裏があるという事ですわ。 
 詰まり、凶悪な能力を得てしまった者達の誕生… 
 …即ち能力者、魔物の誕生ですわ」
「併し、能力の誕生により防犯設備も大きく変化を遂げた。 
 我が刑務所も例外ではなく、其の様な、能力者の収容を第一に考えており、 
 最新の結晶防護システムを導入している。
 この広大な敷地内に収容されている能力者達が、
 我が刑務所の優秀さを身を以って表している」
「其の数、1万5千人余り。
 又、能力者反応が陰性であっても、 
 通常刑務所では手に余ると認識された方々も含まれます。 
 たとえば其処の囚人番号GDS-0387ハウシンカ・ドラグスクさん。 
 鉛雨街出身の貴女の様な方もこのカテゴリーに分類されますわ」
名指しを受けたハウシンカに周囲の視線が突き刺さる。 
流石に鉛雨街ともなると其れなりに警戒されるものなのだろう。
「此処は諸君等… 
 善良な一般市民の皆様に害を為す、肥溜めのウジ虫を、 
 徹底した矯正教育により改善更生させ、 
 有用な人材として社会復帰させてくれる有難い施設なのだ。 
 無論、中にはこの崇高な目的を解さず、 
 脱走を企てる超ド級のアフォ猿がいる訳だが…」
「そんな脳の発達が類人猿止まりの下等動物に対しては、 
 所員の皆様、問答無用で発砲する許可がありますわ。 
 死んでいたらお兄様のお人形… 
 万が一生きていても私のペットとなるか… 
 …まあどちらもお勧めしかねますから、 
 大人しくしていた方が皆様の為になるとだけ申し上げますわ」 
辺りの所員、そしてダーイン、リーヴが手帳のような物を掲げる。 
其れはプロフェッショナル手帳…詰まりは殺人許可証であった。
プロ…正式にはプロフェッショナルだが、其れすらも隠語である。 
其れはハウシンカと同じく何でも屋的な仕事を営む能力者達の事だ。 
剣豪と名高い白水・東雲なる男がギルドマスターを務めるプロギルドで纏められており、 
こういった仕事の中では最大手といっても良い規模を誇る。 
大名古屋国大戦…詰まり第四次世界大戦前は、 
暗殺者ギルドがプロギルドと規模的に並んではいたが、 
大戦中に暗殺者ギルドがSFES殲滅の依頼を請け負い、 
当時のSFESの潜伏地イスラムに攻め入り…返り討ちに遭った。 
大勢の上級暗殺者に加え当時のギルドマスターまでも討ち死にとなり、 
其の為に暗殺者ギルドが弱体化し、現在はプロギルドが其の手の仕事にも着手している。 
暗殺者ギルド側からプロギルド側へと移籍する者も少なくない。 
其れ以前…プロギルドは第三次大戦直後から能力者達を地道に纏めあげ、 
一部の認められたプロに対して国家間に於けるあらゆる行動規定の緩和、 
更に、活動理由によっては殺人許可までをも暗黙の了解として認めさせる事に成功していた。 
そもそも第三次大戦は能力者と非能力者との戦争であったのだが、 
実際に結晶能力をより戦争に使用したのは非能力者の方だった。 
新たな力に対する畏怖…其れを乗り越え非能力者は其の力を我が物にしたのである。 
本末転倒とは正にこの事だろう。 
非能力者にとって、能力者を忌み嫌って起きた筈の戦争が、 
其の戦争に勝利する為、事の発端である結晶能力を迎え入れたのだから。 
敗戦者である能力者達…プロギルドの優遇もこの為だろう。 
手にして振るい…初めて知った。新たな力は思いの他、非能力者にとって魅力的だったのだ。
「おーおー、物騒なこって。 
 (にしてもプロかぁ…こりゃ正攻法で逃げるってのは難しいかな。 
  …ま、隆は「もう一働き」つーたし…やりたいよーにやればあちらさんのご希望にゃ沿うんだろーし、 
  精々、脱獄の方法でも考えさせて貰うかにゃー。 
  でも…プロの殺人許可証……便利かもね)
「さぁて、説明はざっと終えた。 
 さぁ、犯罪者諸君を監獄へと案内し給え!」
「皆さん、看守さんや隣人さんとは仲良くして下さいな。 
 仲が宜しくない場合は新たなペナルティーが加わりますからね」 
所長達の説明も終わり、ハウシンカ含む入所者達は看守服の男達に連行され、 
これから過ごす事となる監獄へと向かったのだった。
執筆者…is-lies

アルカトラスの監獄…其れは最早人の住む場とは思えない程の空間である。 
狭い汚い臭い其のクセ、造りだけはしっかりしている。正に人外魔境。
(わーい、きったねー☆ 
  ……今日脱獄しちゃおーかな)
そんなハウシンカの表情を見て、
「…今日にも脱獄してやろう、って顔だな…?」 
独房に案内しながら、担当の看守が話しかけた。
「へへ、分る?」
「ここに来る奴は皆そうだからな。 
 …向こうに非常用ハッチが見えるだろ。 
 あそこからに出られるぜ。 
 …て、外って言っても月面だけどな。 
 やめてくれよ、開けた途端、ここのエリアの人間は全員窒息死だ。 
 旧世紀、アル・カポネって大悪党もぶち込まれたっていう 
 地球のアルカトラスは海に隔てられてた孤島にあったと言うけど、 
 ここは無酸素の宇宙空間で隔てられてた月にあるからな」
話を聞いているうちに、ハウシンカに与えられた独房の前まで来た。 
個室だった。
「ここだ。 
 じゃ、俺は自分の部屋に戻るから」
「え、ちょっと待って、これ…」
「ん? 
 あぁ、寝るときはちゃんと鍵掛けとけよ。 
 他に分らない事があったらいつでも聞いてくれ。 
 俺の名はフォノゥ。部屋はB-305。 
 ここの看守、兼、囚人さ」
三畳ほどの個室には折畳式のベッドに、外から丸見えの簡易トイレ。 
それはまだ分るとして、ハウシンカが気になったのは部屋の錠前。 
内側からも開閉出来るようになっているのだ。 
これは、独房棟内は基本的に出入り自由という事。 
それだけに警備は万全だという事を裏付けている。 
囚人に看守をやらせているあたり、 
万が一に何かあっても、収容エリアの空気を抜けばそれで済む。 
維持するだけでも通常の数倍の費用がかかる月面施設に罪人を収容するのは… 
つまりそういう事なのだ。 
ハウシンカはそう理解し、言いかけた質問を取り下げた。
僅かに支給された私物を部屋の隅に置き、 
ハウシンカはベッドに落ち着いた。 
ここに来たときから感じてはいたが、 
改めて見ると、周囲の視線が容赦なく彼女に集中しているのが良く分る。 
そんなに有名人になった覚えはない。 
ここに収容されている者達と比べればツートンカラーアイズデスなどは、 
名もないチンピラも同然なのだ。 
その彼女が注目を浴びている、その理由は単純。 
女だからだ。
(もしかして、逆ハーレム… 
  …ってカンジじゃないんだよね〜 
  退屈しなくて済みそうv)
周囲に感じる舐め回すような視線は気にせず、 
火星から月までの旅疲れもあってか、 
ハウシンカは眠気に誘われるままベッドに横になった。 
思えば、これほど落ち着いて寝られるのは物心付いてから初めての事だったかもしれない。 
いつもの習慣で、感覚の一部は覚醒させたまま、ハウシンカは静かに寝息を立てた。
執筆者…is-lies、Gawie様
それから何時間かが経過した頃、 
突然、首筋に生暖かい吐息を感じて、目覚めると同時に鳥肌が立った。 
油断していた訳ではない。 
むしろ、密かに這い寄ってくる者があれば、即殴り殺す気構えでいた。 
それにも関わらず、こんなにも接近を許してしまったのだ。
「……………ッ!」
咄嗟に拳で振り払い、両足で蹴り上げる。 
だが手ごたえはなかった。
「騒ぐな… 
 …寝てる時は結構可愛いのになぁ…」 
直ぐ背後で何者かが彼女につぶやいた。 
聞き覚えのある声だ。
「…ディレイト…なんで…?」
いきなり背後に登場したのは、タカチ魔道研究所の件で、 
ハウシンカに依頼を持ちかけた張本人、暗殺者ギルドマスターのディレイトだった。 
尤も最初にアプローチを仕掛けたのはハウシンカの方からだったが、 
それはそうと、この普通でないクライアントの突然の面会は予想外だった。
「まさか、旦那も捕まったとか?」
「お前と一緒にするな。 
 俺がそんなヘマをするか」 
と言っても、囚人でもない部外者がそう簡単にここに入れるはずはない。
「じゃ、なんでここにいんのよ?」
「お前がここにいるって聞いて、ちょっと様子を見に来ただけだ。 
 俺が鉄砲玉に選んで生きてる奴はそうはいないからな。 
 なかなか見所がある…」
「へぇ、認めてもらえた?」
「うむ、俺の倅といい勝負くらいだろう。 
 下から2,3番目ってとこだ」 
良いのか悪いのかハッキリしない評価にハウシンカは少しムッとする。
「見…」 
「見なくても判る。 
 ジルケットやブラスト姉妹と比べても、お前はまだまだ…」
「……………」 
いつもの軽口も、何故かここでは言い返せなかった。 
彼女にとってディレイトは苦手な誰かに、どこか似ているタイプだった。
「おぉ、そうだ! 
 ジルケットの奴がお前の事を気に掛けていたそうだぞ、…」
「つまんねェって。 
 それより…」
「あぁ、約束の金は振り込んでおいた。 
 受け取る奴…いないのになぁ…」
「いるって、 
 見つけたもん。 
 兎も角、こうしちゃいられない訳で… 
 旦那ぁ、脱獄手伝ってくれるよね♪」 
たとえ僅か一片でもハウシンカその希望は失わなかった。 
いかなる状況も鑑みない。ただ前向きに。 
しかし、それに対して…
「無理」 
ディレイトは真面目に即答した。
「やってみなきゃ…」 
「やって見なくてもそれくらい判る100%!」
「…じゃ、何しに来たの?嫌がらせ?」
「さっき言っただろう? 
 お前の方はただ様子を見に来ただけだ。ついでにな」
「ついで?」
「あぁ、今日は昔の友人に会いに来た… 
 まぁお前には関係ない事だ」 
話している間、ディレイトはずっと直ぐ背後にいたように感じていたが、 
気付くと、いつの間にか独房の格子越しにハウシンカを見据えていた。
「お前はお前で、 
 ここでやることがあるんじゃないのか? 
 見てれば判る、そんな感じがするぞ…
 あ…そうだ、俺の友達がな、お前に会いたいそうだ。 
 一目見たら挨拶ぐらいしてやってくれ。」 
ハウシンカに目を向ける事もしないで、背中越しでディレイトが言った。
「へえ、そう。 
 ま、あたしには関係ない事だしにゃあ。 
 それよか旦那、一つお願い。」
「?」
パパに手紙送っといてくんない? 
 『可愛い娘が久しぶりに会いたがってるゾ☆』ってね。」
「残念だがあいつが今どこにいるかはしらん。」
ちぇ、とハウシンカは小さく舌打ちした。
「そいじゃそう言う事だ、気が向いたらジルケットに手紙でも書いてやってくれ。」 
言った時には既にディレイトの姿はなかった。
「なんだよなんだよ、急に出てきてすぐドロンだもんなぁ。 
 おめーは北風小僧のカンタロウかってんだよ。」 
ふくれっ面で言ったものである。
しかしすぐに… 
「さあて、そいじゃあ偵察がてら、この辺でもウロウロしてみるかニャぁ。 
 眠れぬ夜はやっぱり深夜徘徊に限るぞっと♪」
執筆者…Gawie様、錆龍様

よもやハウシンカほどの手練れがこの気配に気付いていないわけはなかった。 
周りから放たれる視線、視線、視線… 
まさかここまでとは。
鉛雨街出身のギャングであることはもちろん、先にも述べたがハウシンカは女である。 
圧倒的に男性収容数が女性収容数を上回るアルカトラスでは彼女の存在は「華」。転じて「獲物」である。
(あ〜あ、それにしても顔もレベルもカスばっかじゃん。 
 掃き溜めに鶴ってのぁ、まさにこのことってか?)
溜息混じりのハウシンカである。
………
(?)
ふと、ハウシンカは後ろを振り返った。 
しかしそこには当然誰もいない。 
しかし確かに感じた。否、今もなお感じ続けている。 
他の視線とは違う「何か」を。
(なるほどねぇ、やっぱりそう来なくっちゃ。)
多分相手は今時分、ハウシンカの思いついた目論見にも気付いていよう。 
そのことをわかった上でハウシンカはあえて知らぬ顔をして再び歩き出した。
さて、ハウシンカ(とその奇妙な「連れ」がやってきたのは深夜の回廊である。 
幸い、彼女達以外は誰もいない。
「そろそろ二人っきりだもん、出て来てくれても良いんじゃないの? 
 あたしが誘導してたって、アンタもわかってんでしょ?」 
後ろを振り返ることもなく、淡々とハウシンカが言った。 
…と。
パシャ! 
突然のフラッシュに一瞬目が眩む。
「?!」 
さすがにこれは予想し得ないようでハウシンカは硬く目を閉じた。
「へえ、ディレイトの秘蔵っ子って聞いたからどんなのかと思えば。 
 意外とイケてるお嬢さんだな、実力は別として。」 
ゆっくりと暗闇から人影が一歩、ハウシンカに近づいた。
「へえ、アンタが旦那の? 
 意外とフツーの面で安心したよ。」
ハウシンカの前に現れたのは長い金髪を無造作にかき上げた、30がらみの男だった。 
その手には高価そうな…だが古めかしいアナログのカメラが握られている。
「レディの前なんだからさ、てめえから名乗るのが礼儀じゃん?」
「そいつぁ失礼、レディ・ハウシンカ。 
 俺はグレン。グレナレフ・オールブラン。 
 ディレイトと君のパパのお友達、とでも言っておこうかな。」 
グレナレフと名乗った男は、カメラのファインダーを覗きながら、 
ハウシンカの足元から頭までゆっくりと眺める。
執筆者…錆龍様、Gawie様
「なるほど、ディレイト好みだ。 
 あ、今度は変な意味じゃないぜ。ま、実力は別として。 
 しっかし、ドルの奴が親をやるとは、よっぽどこっちが気に入ったんだな。 
 俺達が無理に呼び出したのをぼやいてたクセに」
「聞いてないし、そんなの知らないし。 
 アンタもパパのお友達? 
 あの親父の趣味分かんねェ〜。 
 絶対友達とかいないと思ったのに」
「ん、ドルからは何も聞かされてないようだな。 
 というか教育もなってねぇなぁ。ま、無理もないか」
「あ、それに関してはアタシが悪い。うん、多分悪いと思ってる」
普通なら、ここで昔話に花が咲くところだったが、 
いや、グレナレフもそのつもりでいたように見えたが、 
途端に彼は真面目な顔になって上目遣いでハウシンカを見据えた。
「それはそうと… 
 お前ここに何しに来た?」
「へ? 
 何しに来たって…」
「元、鉛雨街のチンピラのヘッド、ツートンカラーアイズデス。 
 一応そのくらいは知ってるが、ここにブチ込まれるほどじゃない… 
 大方、どこぞの誰かの差し金で、俺をここから出す気だろ? 
 無駄だぜ。俺はここを出る気はない」
「あ、そう。 
 てか思いっきりハズレ。 
 なんでアンタの脱走手伝わにゃならんの?読みすぎ読みすぎ。 
 むしろ今すぐここを出たいのはアタシの方なんだっての」
「なに… 
 うん、まぁどっちにしろ無理だ」
グレナレフの読みには自信があった。 
ハズレと言われて少し動揺を見せたが、 
ハズレではなく、ハウシンカもまだ知らない事まで先読みしていたのだ。

 

 

その答えの方が後から追いついて来た。 
ハウシンカが自分の独房に戻ると、 
そこに駆け寄ってきたのは囚人服の看守、フォノゥだった。
「GDS-0387ハウシンカ・ドラグスク! 
 いきなりいなくなるからから死体置き場を探したぞ。 
 …手紙だ。読んだら処分したほうがいいぞ」
そう言うと、 
手紙をハウシンカに手渡し、フォノゥはそそくさと退散していった。 
ハウシンカはここの規則などは真面目に聞いていなかったが、 
本来、ここでは差し入れはおろか、手紙すらも認められてはいないのだ。 
相応の裏金を積まない限りは…
そんな事は気にせず、ハウシンカはその場で乱雑に封を切る。 
手紙はルークフェイドからのものだった。 
ざっと目を通した後、ハウシンカが軽く溜息を吐いた。
(アイツの読み、当たってたよ… 
  にしても、脱獄は難しそうだし、 
  出たくないとか言ってる奴を連れ出すって… 
  どうするアタシ?)
執筆者…Gawie様

 

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