リレー小説3
<Rel3.ハウシンカ6>

 

 

「もう一度聞くが、お前がやったんだろ!?」 
「もう一度だろーが二度だろーがやってねーつーの」 
「じゃあこの書類は何なんだ!?」 
「法王に依頼された。でもアタシはやってない」 
「もーちょっとマシな嘘を吐け! 
 100歩譲って法王が誘拐を企んでいたとしよう。 
 で、何で法王程の人物が態々お前を使って誘拐なんぞを?」 
「しんねー。いざって時に切り捨てる為なんじゃねーの?」 
「質問を変えよう。 
 其れで誰かから命令を受けて誘拐に来て… 
 やはりお前が犯人としか考えられんではないか!」 
「だーかーらーSFESが…リゼルハンクが横から掻っ攫って来たんだってば!」 
「だから何だ其のSFESとは!?闇組織? 
 反リゼルハンクの人間だってもっと捻りのある誹謗中傷をするぞ!」
執筆者…is-lies

北アテネ警察署で、最早話にすらならない取調べを受け、 
殆ど反論の余地も無く留置場に放り込まれていたハウシンカの許へ、 
其の男が来訪したのは丸1日後であった。
「やつれていないか?」 
「飯マジぃ、部屋汚ェ、看守煩ェ、退屈! 
 ったく、此処わ何処ぞの精神病院かっちゅーの」 
かの男のいきなりな最初の一言にも動じずにハウシンカが返す。
「…聞けば容疑は否認しているそうじゃないか。 
 しかも法王の名まで出すとはな… 
 ま、其の御蔭でヨミがお前への嫌疑を多少なりとも晴らし、 
 確認の為にこのオレ様が寄越された訳だ。運が良かったな」 
どうやらこの男…ヨミからの遣いらしい。 
そして彼女もナナシ同様、法王への信用やらはあまり無い様だ。
「で、アンタ誰?」 
「……そーゆー事ぁ最初に聞けよなぁ… 
 ヨミとは腐れ縁の男…ま、とでも呼んでくれや」 
「隆?もしかして細川?」
細川財団の細川一族ならば有名だ。 
ジェールウォント財団と同等か其れ以上とまで囁かれている。
「……良く知ってんな。 
 ま、御察しの通り、細川隆だ」 
「ふぅん…あのヨミってンなコネあったんな。 
 ……そうか…だからナナシ君とかがあんな巧く隠れられていた訳だ。 
 んで、話し付けたのはSeventhTrumpet?其れとも法王庁?」 
「後者だ」 
「でも解せないにゃー。何で今更法王庁が掌返すのさ?」
細川財団からの交渉を受け、法王庁がナナシが引き取ったのならば、 
何ゆえ、こうも易々とSFESの言う通りにナナシを引き渡してしまったのか。
「まあ…其の辺りはちょいとヘマしちまってな。 
 オレの妹がSFESと懇意だったみてーで、法王庁との接触を許しちまった」 
細川隆の妹というと、細川小桃だろう。 
どちらも財団の長である祖父・春栄とは険悪な仲らしいが、
兄妹間でも、あまり連携は巧くいっていないようだ。
「ふーん。ま、細川一族の家庭内事情はどーでもいーや。 
 アンタ直々に来てくれたって事ぁ、あたしに有利に動いてくれるって事?どーなんよ其処?」 
「おう。ヨミもお前から色々聞きたい事があるつーてたし、 
 …一応、保釈金払って出れる様にはしてやろうと思ってる。 
 後、法王嫌いな奴が居て…そいつ弁護士なんだが…お前の弁護を頼む積もりだ。 
 お前の言う法王黒幕説を支持しているみたいだし…ま、力になってくれるだろうよ」
「ん?保釈つーと…アレ?地球とかには行けない?」
「当たり前だ。序でに火星内での旅行にも報告は必要だ」
だが外に出る事さえ出来れば、後は密航なりで簡単に地球へ行ける。 
併し、そうすると今度は細川隆やヨミを敵に回しかねない。
一瞬、頭のなかで悪巧みが閃いたハウシンカ。 
「いいよ、やろうさ。」 
いつものノリで軽く太股をぽんとたたいた。 
「そのかわり、この裁判終わったらあたしの自由は保障されんだよね?」 
「まあ、そこまでは保証しかねるが…」 
「そこをなんとかさ、どーしても急ぎ地球に行かなきゃ行けないんだよ。 
 おねが〜い。」
隆は一瞬考え込んだ。 
「まあ、できるだけのことはする。 
 その代わりお前にも一働きしてもらうぞ。」
ハウシンカはウィンクして見せた。 
「ギブアンドテイ〜〜〜ック! 
 ったりめーじゃん。 
 ま、お互いうまくやってきましょ♪」

 

 

細川・隆が帰路についた頃、斜陽眩しい橙色の留置所のなか、 
ハウシンカは硬いベッドに寝そべりながら、目を閉じた。
「さ〜て、とりあえずこの裁判であのジジイをある程度痛め付けといて、 
 そのあと地球に行ってパパ連れてきて殺っちゃえばいいや。 
 その後は…」 
ハウシンカの頭の中に描き出された航路は前途洋々だった。
だが、社会と権力の荒波は、そう簡単に航海を許さなかったのである。
執筆者…is-lies、錆龍様

「初めましてハウシンカ・ドラグスクさん。 
 私、弁護をさせて頂くルークフェイド・リディナーツと申します」 
保釈されたハウシンカを留置所の出口で待っていたのは、 
外ハネの金髪が印象的な長身の青年だった。 
其の赤い瞳にはハウシンカに対するものか期待の色が窺える。 
隆から聞いた様、法王を良く思っていない人間だからだろうか。 
本来、期待すべきは自分の方だとハウシンカは内心で苦笑する。
「おいおいおいおいおーい。若ぇぢゃん。腕ぁ確か?」
「…好評を頂戴してはいますが… 
 併し、ハウシンカさんの場合は……少々難しいかも知れません」
「?何?どったん?」
「……余罪の問題ですよ」
確かに彼女の様なイリーガルな人間ならば告発のネタには困らない。 
一朝一夕でそんなに解ってしまうものではなさそうだが、 
これに用意周到な法王が関わってくるとするなら話は別だ。 
法王がハウシンカに依頼を出したのも、 
彼女をはなから使い捨てにする積もりだったからだろう。
「…へーへー、どうせあたしゃ悪党ですよーだ。 
 んで、大丈夫なの?大丈夫じゃないの?もうダメそう?逃げるしかなさそう?」
「其の件に関しては、私や隆さんがどうにかします。 
 取り敢えず今は裁判で少しでも有利になる様にしましょう。 
 …事件の事を細かに正直に話して下さい」

 

 

「っと、まあ、こんなかんじ。 
 要は人の足元見てきた上に、あたしを罠にかけて罪を着せる気でいたんだろうよ。
 それもSFESと組んだ上でね。」
ルークフェイドはハンカチで汗をぬぐった。 
まさかここまで洗いざらい話してくれるとは。
「だって、そっちが至れり尽くせりしてくれるっていうなら 
 こっちも誠意ってもんを見せないと。 
 何か不服?」 
「いいえ、思った以上にあっさり全部話してくれたものだから…」 
どうやらルークフェイドはもう少しハウシンカという人間を狡猾だと思っていたらしい。 
「これだけ協力的で正直安心しました。 
 その調子で裁判の時も宜しくお願い致します。」 
「任してとけって!あの狸の生皮ひんむいて鍋に突っ込むくらいの勢いで行くから。」 
ははは、と乾いた笑いを浮かべるルークフェイドであった。 
執筆者…is-lies、錆龍様

それから数時間後…

 

「わ〜、しっかしいい車乗ってんなあ、おい。 
 さすがは弁護士の先生って感じ?」 
ハウシンカを乗せたルークフェイドの車がハイウェイを走る。 
豚箱から一変、華やかなネオン街にハウシンカも目を奪われているようだった。
「これからホテルに向かいます。 
 ハウシンカさんはこちらにいらしてから塒(ねぐら)がないとお聞きしましたし、
 ホテルのロビーではヨミさんと隆さんもお待ちです。 
 今夜はそこでディナーをすませてからミーティングをしましょう。」 
「んで?あたしが泊まる部屋って?」 
「もちろん最上階のスウィートを取らせました。」 
「わかってんじゃん♪」
かくして、二人を乗せた車はとある巨大なホテルの前で停車した。

 

 

ベルボーイ達が重厚な扉を引き、 
深々と頭を下げて二人を中へ導く。
「ルークフェイド・リディナーツ様ですね。 
 お連れ様は既にお部屋の方でお待ちです」
フロントで出迎えたのはホテルの支配人だ。 
支配人は直々に二人の荷物を抱え、部屋へと案内した。
最上階のエレベーターを降りたところで、 
支配人はルークフェイドに部屋の鍵を手渡した。
「この先のフロア全てが当ホテルのスウィートとなっております。 
 では…ごゆっくりどうぞ…」
ルークフェイドは支配人にチップを手渡すと、 
無言のまま手の甲を扇いで退出を促す。
最上階ホール中央には、石造りの噴水が涼しげな湿度を保ち、 
熱帯雨林を模した観葉植物と猛獣の剥製が彼等を迎えた。 
小川の上に掛けられたアーチ橋を越えると、 
更に奥の部屋へと続く真赤な絨毯が二人を誘った。
「さ、どうぞ」 
部屋の鍵を開け、ルークフェイドが手を差し伸べてハウシンカを先に中へ通す。 
マフィアの大ボスでも待ち構えていそうな雰囲気の中、ハウシンカが部屋に入ると、 
一人の男が奥のソファーで背を向けて座ったまま、「よぉ」と軽い一言で出迎えた。 
タバコを挟んだ指をピシッと挙げ、振り向かずに手招きするのは細川隆だった。
「はぁい」 
…と、ハウシンカが軽く返しながら、 
部屋に一歩を踏み込んだ瞬間――― 
クローゼットの中やソファーの影から銃を構えた機動隊数十人が一斉に踊り出た。 
気付くと、直ぐ隣のドアの裏からも銃口が伸び、首筋に冷たい鉄の感触を宛がわれていた。
「……!?」
「…硝煙の臭い…なかっただろ? 
 ガンメタルが空気を冷やす味…しなかっただろ? 
 殺気…感じなかっただろ? 
 無理もねェ。金賭けたもんなぁ、この作戦
「…ど、どゆこと…?」
ハウシンカがルークフェイドの方を振り返ろうとしたが、 
今度はハッキリとした殺気を背中に衝き立てられた。 
更に後ろにも数十人が背後で銃を構えている。
「…貴女の話を聞いて、予定を変更しました。 
 こうでもしなければ、二度も大人しく捕まってはくれないと思ったので…」
「…もう一働き… 
 …って言ったろ? いいな? 
 そうそう、地球行きたいって言ったっけ? 
 良かったなぁ、次の行先はアルカトラスだ。 
 あ、でも地球のサンフランシスコじゃねェぜ。 
 月のアルカトラス刑務所だ。近いっちゃ近いだろ?」
「…なるほど… 
 どいつもこいつも…」 
解らなくはなかった。 
自分如きを陥れるためのものでない事は。 
解らなくはなかったが、ハウシンカはこういう作為的なものは生理的に嫌だった。 
納得は出来ない。 
だが、反論も反撃も、何の抵抗もする間もなかった。
「キャ!!?」 
悲鳴と共にハウシンカは崩れ落ちた。 
女性らしい悲鳴を上げてしまった事が我ながら意外に思えた。 
不意に、背後から脊髄を握り潰されるような激痛を感じ、瞬時に意識を奪われた。
(…思ったより、効いてしまったようですね… 
  貴女に圧し掛かっている十字架の重さ…その痛み…)
 併し…彼女がエカチェリナ様と幼馴染みだったとは…」 
屈み込んで倒れたハウシンカを静かに見やり呟くルークフェイド。
「ん?エカチェリナ…?誰だ?」
「……以前、ロシアに居られた頃から、家族で仕えていました。 
 まあ貴族と従者の関係ですね……」
「貴族ぅ?」
「…とっくに没落しています。 
 日本に渡ってから行方不明になっていましたが… 
 まさか法王の手に落ちていたとは… 
 サリス…クリル……これも何かの運命なのでしょうかね…」
「オイオイ、マジな顔してウンメーなんざキザ過ぎるぜ? 
 其れよりさっさとコイツ連れてくぜ」 
隆が指をパチンと鳴らすと、控えていた機動隊がハウシンカを部屋から連れ出していった。
執筆者…錆龍様、Gawie様

 「きっと、手紙書くね。 
 きっと、また遊びに行くね。 
 だからお姉ちゃん、負けちゃダメだよ。 
 絶対、絶対負けちゃダメだよ。」
あの子の声がした。
真っ暗によどんだ雲から、しとしと、それこそ泣くみたいに雨が降ってた。 
あの子はおっきな黒い車に乗って、あたしを置いて走り出した。 
あたしはずぶぬれになってそれを追っかけて。 
おかしな話だよね。 
走っても走っても追いつけるわけないのに。
走っても走っても。 
まるで空に浮かんだ月みたいに、 
走っても走っても、アンタには追いつけなかった。
それはきっと、今も同じなんだよね。

 

ハウシンカは目を覚ました。 
…そこは見覚えのない場所だった。 
どこかはわからない。 
だがどうやら手厚くもてなされては…いないようである。 
硬く冷たい床から振動と共に伝わってくる機械音。 
(ロケット…?)
心の中で呟くと、
ふう。
溜息を吐いた。 
(また…まんまとやられたか。)
…だが、さほど精神的なショックはない。 
どうせこんなこったろうと思っていたから。 
元々心の底から、信用なんてしていなかった。 
彼らだけではない。 
基本的にハウシンカはそう言うスタンスで生きてきた。 
だから別にこれと言って、 
(驚くこともないか…)
ハウシンカは寝っ転がったまま天井を見上げ、 
ポーチから取り出したタバコに火をつけた。
(おかしいよね。 
  あたしはアンタ以外の人間なんて、誰一人信用してないのにね。)
執筆者…錆龍様

 

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