リレー小説3
<Rel3.ハウシンカ5>

 

  アテネ北部オフィス街

 

「…あっさり入れたねぇ……」 
「うーん…レギオン連中諦めたのかな?」
海路でレギオンと遭遇しなかった昨夜と同じく、 
今回、電車を乗り継ぎしてアテネに入っても何の妨害も無かった。 
2日前に出会ったレギオン・モートソグニル等は、 
ジップロック確保よりも、逃げ出した仲間アールヴの確保を優先させていた節がある。 
其れがまだ続いているのだろうか? 
少なくとも今はノーマークらしい。
「ま、あれこれ考えても仕様が無いし、 
 さっさとターゲットの2人…ナナシ君とナナミちゃんに会いにいきましょーか♪」

 

 

  マンション『マホン・マクマホン』13F
一番奥にある表札の付いていない扉… 
資料によると其処がナナシとナナミの部屋らしい。 
「此処で間違いないよね。 
 どれどれピンポーンw」 
チャイムを一押し。やがてインターホンに中年らしき男が出た。 
《…はい、どちら様でしょうか?》
資料にあったのはナナシとナナミの事だけであり、 
この男の情報は一切無い。恐らく保護者か何かだろう。
「あー…んー…えーっと、ナナシ君とナナミちゃん居る? 
 ちょっと『学び舎』の事で話があってさ」 
因みに『学び舎』というのは、 
SeventhTrumpet能力者育成学校『選ばれし者達の学び舎』の事である。 
自分の力を上手く扱えない能力者に、 
能力の使い方を教えると共に、年少の能力者の精神的フォローを行っている。 
此処で力の使い方を学んだ者の殆どは、 
SeventhTrumpetの能力者チーム…アークエンジェルズに編入されるのである。
法王から貰った資料に、ナナシとナナミが『学び舎』通いとあった為、
この『学び舎』の事を先に出す事で或る程度警戒は解ける筈と見込んだ訳だ。
《ああ…申し訳ありませんが…今は出掛けておりまして…》
「ふぅん…ま、そんなら仕方ないか。出直させて貰うから」

 

 

「まさか不在だなんて…」 
「そゆ事もあるっしょ。でもまあ単に待つってのも性に合わねーし… 
 何よりこっちにゃ顔写真あるんだから、ちょいとこの辺探してみよーゼイ。 
 あたしはスラム付近探すから、オメーは繁華街付近な」
暫くの間、2人は北アテネを探し歩いてみるが、 
やはりそう簡単にはいかず、進展しないままに夕暮れ時を迎える。 
ジップロックからの連絡が入ったのはそんな時だった。
執筆者…is-lies

駆け出すハウシンカに、ジップロックが指差す方向にあるのは、 
緑豊かな自然公園…パーク・イマエーである。 
地球難民の数に比例し、此処に住み着くホームレスも増えて来たが、 
其れでも澄み切った空気はハウシンカ達の心を静かに癒してくれる。 
ハウシンカ達が求める人物の片割れ… 
ナナシ・コールは女と一緒にベンチに座っていた。 
一瞬、ナナミ・コールかと思ったが、写真に写るナナミの黒髪に対し、 
今、ナナシの横に座っている女の髪はスカーレット同様のピンク色だ。 
(彼女?ヒューヒュー。隅に置けないね〜)
2人は何かを話し合っている様だが、妙に重い雰囲気が漂っている。
全てがトントン拍子に進みすぎて気持ち悪い… 
そんな疑いの念がひたひたとジップロックの胸の中を満たす。 
そもそもこれは法王が裏から手を回している行動の一つであって、
なおかつ自分たちは上手く利用されているのに違いないのである。 
ジップロックは躊躇した。 
「このまま出てって良いのかな…ねえ、姐さ…」 
そんなジップロックの気持ちなど知るよしもなく、さっさとハウシンカは行動を起こしていた。
「よー、アンタがナナシ・コール君? 
 ハロー、ボンジュール、アニョハセヨ、 
 あたし学び舎の新入生でアリーナ・チャイコフスクってもんだけど、
 いや〜、アンタゆーめーだそうだからさ、 
 挨拶ついでになにげに話でもしたくなっちゃった訳なのよ。 
 な〜んか重い雰囲気だけどさ、ちょっと良い?」 
思いっきりずけずけ入っていったものである。
「ちょ、ちょっと姐さん!」 
ジップロックも慌てて後に続く。
「あ、それとね、こいつはあたしの舎弟で同じ学び舎のファニー・チャン。 
 ちなみに「ちょっと姐さん」は口癖ね。」 
「ど、どーも、ファニーです…」 
とっさにジップロックもそれに合わせる。
「な、なんだよお前ら!一体誰なんだよ!」 
当然の如く、ナナシは警戒の色を見せる。
「だーかーら、言ったべ?おめーと同じ学び舎のもんだって。」
「うそこけ!お前なんか知らないぞ、おい、行くぞ!」 
言って女の手を引っ張っていってしまった。

 

「ばか!ばかばかばか!だから言ったじゃないか! 
 第一なんだよ、ファニーって!聞いてない聞いてない!!」 
ちょっと横道に逸れた怒り方をしているが、ジップロックの言うことは的を射ている。 
が、
「ばーか、こんなとこでホントに人が真剣な話すると思うか? 
 するとしたらどっかもっと安全な場所。 
 テメーのテリトリー内でするはずだ。」 
鋭い目で言ったものである。
「ていうと?」
「おそらくこの辺りならてめーんちだな。 
 それにもうそろそろ時間も時間、キャストは揃うんじゃねーの?」
「あ、そうか!」 
ジップロックが気が付いたような声を上げる。
「さあさ、そいじゃ一路ナナシ君宅へGO! 
 うまくすりゃ、もー一人も帰って来てっかもしんねーし♪」
執筆者…is-lies、錆龍様
パークを出ようとしたハウシンカ達だが、 
其の目の前に予想外の人物が立ち塞がって来た。 
先程、ナナシと一緒に居たピンク髪の少女は、 
荒く息を吐き、胸を押さえながらハウシンカ達と対峙する。
(お…オイオイ、何で帰ってねーの?つーかコイツだけ?)
見回してみてもナナシの姿は何処にも無い。 
何故、ナナシと一緒に居ないのか、何の用があって戻って来たのか、 
推測させる暇も無く、件の少女が口を開いた。
「はぁ…はぁ………レギオンの…ジップ…ジップロック…さん…ですよね? 
 ……解ってました………直ぐ……こんな日が来るって…」 
呼吸を整え…併し今度は顔に自嘲染みた笑みを浮かべると、 
ピンク髪の少女はレギオンとジップロックの名を出す。 
不意の事だったのでハウシンカ達も少々訝しむ。
「私は…どうなっても良いんです。第7研究所にも戻ります… 
 で、でも…ナナシは……ナナシだけは……ッ!!」
何の事を言っているのか解らない。しかも何だか切羽詰った印象だ。 
耐え兼ね、指名を受けたジップロックが質問をしてみる。 
「……えーと…話が見えないんだけど… 
 一応、あたいは元レギオンであって今はレギオンじゃないよ。 
 んで…アンタって誰?」 
レギオンの事を恐れていた感じだったので、其の辺りの誤解は真っ先に解いておく。 
案の定、ピンク髪の少女は意外そうに聞き返して来た。 
「?あれ?レギオンじゃなくなったんですか?何で…… 
 あ!私の名前?す…スフレ……スフレ・ヒューゴ…えっと……知りませんか?」
「……アンタが…あのスフレ? 
 そうか……そういう事か……」 
少女の名前を聞いて、ジップロックには話が見えたらしいが、 
ハウシンカの方は依然として解らない。 
「オーイ、ジップロックちゃんやーい。 
 何に一人で納得してんのよ?説明プリーズ?」
「あ、ゴメン。えっと…どっから説明したら良いかな…取り敢えず… 
 アタイ、SFESから脱走する前はアテネ第7研究所ってトコに勤めてたの。 
 けど、或る日、2体のD-キメラが脱走したの。 
 数日後、其のD-キメラ達がお礼参りに第7研究所を襲撃し、 
 レギオン候補生の1人を攫っていった… 
 こんな事もあって研究所の守りが固められる話になっちゃったから、 
 3日後、急いでアタイ達も脱走した…まあ、アタイの方はギリギリで助かった感じだけど」 
ハウシンカと出会った日の事だ。
「おう、あたしの御蔭でね。 
 で?」 
親指で自分を指し示しながら更なる説明を求めるハウシンカ。
「…この娘、其の攫われたっていうレギオン候補生。 
 2体のD-キメラは…こりゃもうナナシ君とナナミちゃんで間違い無いと思う」
「ふぅーん、ナナシ君達はオメーのお仲間、脱走D-キメラだった訳な。 
 ……って待てよ… 
 (つーとアレだ。あたし等がナナシ君に法王の告発なんか頼むと、 
  …其れだけナナシ君が目立って捕まる可能性が高まるって事かぁ)
ハウシンカが作戦の見直しをしている間、 
少女…スフレが口を開いた。 
「…へぇ……ジップロックさんも脱走してたんだ」
「も?……ははぁん、攫われたって聞いたけど満更でもない感じ?」
「……そ…そんな事は…!私とナナシは……単に幼馴染みってだけで…!! 
 た…確かに攫われたっていうより助けて貰ったって感じで……」 
真っ赤になり慌てて否定するあまり聞いていない事まで喋るスフレ。可愛いものである。 
だが、落ち着いて来るに従って其の表情は暗くなってゆく。 
「……でも……私がナナシと一緒に居ると…… 
 私は……ナナシと一緒に居ちゃ……… 
 ………ねぇ、ジップロックさん…私を殺してくれませんか?
「は?」 
唐突な質問に一瞬思考停止するジップロック。
「………私はレギオン候補生として能力が与えられています… 
 私自身、どんな力か知りません…けど……危ないんです。 
 研究所での戦闘実験開始から…気を失って…気が付いたら辺り死体だらけで…… 
 ……私はナナシと一緒に居ちゃいけないんです。 
 私は……危険なんです… 
 だから、殺して下さい。お願いします」
ジップロックは自由を求めて脱走した。 
仲間は自由を得る事も出来ずに悉く始末されてしまった。 
併しこの少女は自由を得たにも拘らず自ら死を望んでいる。 
一瞬、頭に血が上る。 
スフレのまだあどけなさの残る顔に、ジップロックの平手が飛んだ。 
何が起こったか一瞬わからない様子で、スフレはジップロックを見上げた。 
「おふざけでないよ!殺してくれだって? 
 あたいやあたいの仲間達はね、死ぬ気で脱走してきて、
 それこそあたい以外は皆死んじまったんだよ。 
 これからまだまだ生きたい、自由になりたいって願いながらね。 
 それが何?アンタは他人様の手を借りて逃げてきたくせに殺してくれ? 
 それも仲間の無念を見てきたあたいに? 
 冗談じゃないよ!悲劇のヒロインぶるのもいい加減にしな!」 
珍しく大声を張り上げるジップロック。
…確かに彼女の言い分もわかる。 
彼女の仲間達は皆、自由を手にする為に、必死の思いだったのである。 
それで誰よりも仲間達の傍にいたジップロックが一番よくわかっていた。
スフレは黙り込んだ。 
…と。
「な〜に言ってんでぇ、このへっぽこレギオン!」 
突然いつもの調子でハウシンカがジップロックの頭をぶん殴る。 
今度はジップロックが何が起きたかわからない顔でハウシカを見上げる。 
「こんだけ本人が死にてーっつってんだったら殺してやりゃーいいじゃん。」 
言ったものである。
「ちょ、ちょっと姐さん!」 
「シャラ〜〜〜ップ!」
ジップロックの制止を振り切ってハウシンカがトカレフちらつかせた。 
「ま、これ一発ズドンであの世行きだから、そんな怖くねーよ。 
 さあさ、そいじゃ早速…」 
言って目にも止まらぬ早さでトカレフをスフレの額に押し当てた。 
スフレの顔が一瞬恐怖に凍り付く。
「やめるわ。」 
と、ハウシンカはトカレフを下ろした。 
「え?」 
スフレが不思議そうな顔でハウシンカを見上げる。 
「だっておめー怖がってんだもん。 
 怖がってるうちはそんなもん覚悟できてるって言わねーよ。」 
普通の人間が言っても納得できる一言ではない。 
だがジップロックは先のモートソグニルとの一件で
ハウシンカの驚くほどの生命への執着のなさに戦慄を覚えていただけに納得してしまう。
「そんならこうしようや、
 あたしら、今ちいと目的があって法王のじじいをハメてやろうと思ってんだよね。 
 それにゃあアンタの幼なじみのナナシ君の力が必要不可欠な訳よ。 
 だからさ、アンタが協力してくれりゃあ、後はあんたの希望を何でも叶えてやる。 
 生きるも死ぬも思いのままだよ?どうざんす?」
「そ、そうだよ!少し冷静に考えてご覧よ。 
 この作戦の最中に気が変わるかも知れないしさ。」 
ハウシンカとジップロックの話に、スフレは一瞬考え込むと、 
「わかりました…… 
 私がどれくらい力になれるかわからないけど…」 
うなずいて見せた。
「商談成立vさあて、そいじゃあスフレお嬢様をナナシぼっちゃまのもとへお連れしましょ♪」
執筆者…is-lies、錆龍様

  マンション『マホン・マクマホン』13F

 

ナナシ達の部屋の前まで来、思い出した様にジップロックが話を切り出す。 
「あ……ねぇ姐さん、ナナシ君の事だけどさ… 
 ……法王ハメる事が出来ても、其の後のナナシ君マズくならない?」 
流石に法王の告発という大事に彼を出すと、 
ナナシにスポットライトが当たるのは必然。 
逃亡中というナナシの身からすると相当キツいものがある。
「まーそーだね。でもSeventhTrumpetなんだし 
 SFES連中もそう簡単に手出しは出来ないっしょ」 
「そんな姐さん…気楽な……」 
「え?す…SFESに関係ある事なんですか? 
 其の…ジップロックさん達の計画って……」 
話を隣で聞いていたスフレの顔色が悪くなる。 
ナナシの事が本気で心配なのだろう。
「まーまー、落ち着いて。悪いよーにはしねーからさ♪」 
言いつつハウシンカがチャイムを鳴らすと… 
《どちら様でしょうか?》 
先程と同じ中年の声が出る。
「えっと…私です……スフレ…」 
《ああ、スフレちゃんかい!?何処に行ってたんだい? 
 ナナシ君がさっきまで探し回っていたんだよ》 
「…其の……ゴメンなさい…」 
《いや、謝るならナナシ君に…ね? 
 さあ外もそろそろ寒くなって来るだろうし、 
 今、鍵を開けるよ》 
カシャっという音と共にドアが開き、 
特徴的な髪型の男が夕食か何かの良い匂いを纏って出て来る。 
「おや?其の2人は?」
「こんばんわ〜。学び舎のアリーナ・チャイコフスクでーすw」 
「えっと…こんばんわ。ファニー・チャンです」
執筆者…is-lies

数軒離れたビルから望遠鏡で、部屋の中へと迎え入れられたハウシンカ達を眺めるのは、 
青髪にサングラスの男…ライズであった。
「ライズ〜、総員配置に付いたなの」 
彼の背後から、狐の獣人かキメラか…狐の耳と尻尾を備えた少女が声を掛けた。 
彼女の横手には十数人の男女が棒立ちになっている。 
どれも皆、目に生気が無く宛らマリオネットという感じだ。
「OK。これからそいつ等には死にに行って貰う。 
 僕達本隊が目標に接近するまでの時間を稼がせろ」
「解ったなの。えへへ…やっとナナシに会えるなの」 
無邪気に微笑む狐少女の口の端で、ナイフの様に鋭利な牙が光る。
「其れとアリフレンザ、ニューラーズに連絡を入れろ。 
 ヘーニルに山吹色の菓子折りでも送っとけってな」
ライズに呼ばれてアリフレンザと呼ばれた者… 
2日前にハウシンカ達を襲った男…がライズの影から現れた。 
「…良いでしょう。ですがハウシンカを切り刻めないとは残念至極。 
 わたくしの怒りは何処に向ければ宜しいのですか?」
「部屋の中に無関係なガキが数匹居るから適当に嬲ってろ。 
 派手にやればやる程良い」
「キククク…取り敢えず其れで我慢しましょう…」
執筆者…is-lies

「…一応……スフレを送ってくれた事は…まあ、ありがとよ。 
 で、お前等の言う話って何だよ?こう見えてもオレ、忙しいんだぜ」 
スフレを連れて来たという事から、取り付く島は出来たらしく、 
少々不貞腐れた態度ながらも此方側の話を聞こうと言う姿勢のナナシ。
「もう、兄さんったら。学び舎で居眠りとかしてるクセに」 
和服を着た黒い長髪の少女…ナナミ・コールが笑って言う。 
彼女が戻って来ているというのもタイミングが良い。 
だが、予定外なのは……
「そうだったのか…全くお前という奴は… 
 今の自分の立場と言うものがまだ解っていないらしいな…」 
「わ…解ってるってヨミ姉。ちょっと疲れて眠っちまっただけだよ」 
ヨミと呼ばれた緑髪の少女は、腕組みしてソファーに腰掛け、 
TVのニュースを眺めながらナナシを詰る。 
そして台所では大勢の子供達に囲まれながら、 
先の特徴的な髪型の男がシチューか何かを掻き混ぜている。
(だ…大所帯……)
流石にこれ程の人数が居るとは思わなかった。 
まるで孤児院か託児所といった有様である。 
これでは法王陥れの話し合いなど出来そうに無い。 
かといってナナシとナナミのみに話があると言っては警戒される。
「…んでお前等、オレに話あんだろ?手短にしてくれよ」
「あー…ナナシ君よ、法王って知ってる?」 
いきなり法王を陥れようと言っても、 
ナナシ達は法王の下…SeventhTrumpetに匿われている身なのだ。 
まずは法王の悪逆さなどを話しておいた方がやり易くなるだろう。
「法王?…思い出した!あの変態ジジイな!? 
 ……って、くそ…思い出したらムカついてきたぜ」 
ハウシンカの質問に、いきなり怒りを露わにするナナシ。 
どうやら説明の必要はなさそうだ。 
しかも法王には良い印象を持っていないらしい。 
話が早いとばかりにハウシンカが本題に入ろうとするが…
ピンポーン
チャイム音だ。直ぐに先の男がインターホンに出る。 
「もしもし? 
 …ああ、担任の…お世話になっています。 
 あ、は…はいはい。少々お待ち下さい」 
何やら焦った感じで男は玄関へと行った。来たのはどうもナナシ達の担任らしい。 
今までのナナシの言動を見るに、恐らく学び舎でも色々問題を起こしているのだろう。 
「(ちょいマズいかな?)」 
実際にはハウシンカ達は学び舎の生徒でも何でもない。 
もしかしたらバレるかも知れない。 
そして、まだナナシに話をしていない今、 
第三者に正体をバラされるというのは非常にマズい。 
ナナシの警戒心が一気に敵意に変わる可能性すらある。 
併し、そんな心配は無用だった。
ぐはッ!!?
いきなり玄関の方向から男が吹き飛ばされてきた。一気に殺気立つ室内。
「時田!?」 
ヨミが男こと時田に駆け寄る。 
どうやら殴り飛ばされただけらしく軽傷だ。
「ちょ…姐さん、これって……!?」 
「んー、SFES連中がナナシ君を見つけちゃったってトコかにゃ〜?」 
ハウシンカ達が玄関側の廊下を覗き込むと、 
開け放たれた扉からぞろぞろと人間が入り込んで来ているのが見える。 
彼等の眼は赤く輝き…併し知性の光は無く、ロボットの如く整列して此方へ向かって来る。
「馬鹿な…リゼルハンクめ…SeventhTrumpetと事を構える積もりか? 
 ……時田、スフレや他の子達をスマウグの部屋に連れて行け。 
 俺達が戻るまで一歩も出るな!」 
ヨミに言われ、時田は子供達を連れヨロヨロと奥の部屋へ向かう。 
一方のヨミ、ナナシ、ナナミは侵入者達を迎撃する積もりらしく武器を構える。 
ヨミは鉄で出来た棒状の武器、ナナシは十手の様な武器を両手に持ち、 
ナナミは重火器の様なゴツい武器を…… 
戦い慣れしている。 
超人兵器D-キメラであるナナシやナナミは解る。 
だが、このヨミという女は違う。 
何者だという疑念を募らせるジップロックに、 
ナナシが振り向いて怒鳴る。
「オイもしかしてお前等が連れて来たのか!?」
「いや、全然知らねーし。つーか前見れ前!」
ハウシンカに言われて目の前の敵を得物で打ち据えるナナシ。 
侵入者達も最低限の武装はしていたものの、相手は戦闘用D-キメラである。 
殆ど無抵抗でバッタバッタと倒されていった。 
たまに煙幕弾やらが投げ込まれてきたものの、 
ナナシの後衛であるところのナナミ等が慌てず騒がず拾っては投げ返す。 
何よりも侵入者達は馬鹿正直に通路から攻めて来るだけだ。 
実際にナナシが一度に相手取るのは先頭の1人… 
ナナシ一人で圧勝かと思いきや…
執筆者…is-lies

 

「ヒャーーーハハハハハハハハッ!!!」 
窓を割り、一行の居る居間へと入り込んで来た刺客は2人。 
1人は肩程迄の黒髪をした鋭い眼の男…意匠の凝った刀を抜き放ち、 
ナナシを背にしたヨミとナナミを睨み付ける。 
もう1人は肩にドクロの刺青を入れ、眼の下にクマのある男… 
そういえば此処に居る人間の中ではハウシンカだけがこの男を見た事がある。 
数日前、有名な魔導科学者であるタカチマンの依頼を受けてレギオンを相手取った時、 
共同して作戦に加わった仲間の1人がこの男と対峙していたのを見た。 
2人とも先程までの侵入者達とは違い、かなりの手練の様で隙が無い。 
更に玄関側からの侵入者達に気を取られたあまり、接近を許してしまう始末。
「ヒャハハ!何だよ、俺達が二番乗りかよ。 
 ライズ達が来る前にターゲット全部確保しちまおうぜ! 
 常盤、オメェはそいつら足止めしてな!俺はジップロックをとッ捕まえる!!」
やはりレギオンだ。併し解せない。何故に今更こんな強攻策を? 
SeventhTrumpet…如いては法王庁との交戦は、SFES程の組織であれリスクが高過ぎる。
「んのヤロー…人様ン家にゃ靴ぐらい脱いで入れっつーの!」 
「…姐さんが常識的な事言うのって意外……」 
「うるしゃい。其れよかホレ、この刺青野郎はオマイをご指名よん」 
刺青男を指差しながらジップロックを肘で小突くハウシンカ。 
ジップロックの表情が一気に恐怖と焦燥に彩られた。 
「え?……ちょ…姐さん?まさかあたい1人で闘れって!?」 
「我慢しろって、すぐ戻ってくっから其の間くらい持ち堪えろちゅーの」 
「あ…姐さ〜ん!!」 
奥の部屋に向かって走り去るハウシンカに手を伸ばそうとするも、 
刺青男の青龍刀が其れを阻む。否応無しに混戦の場となる居間。

 

剣戟の音を後に奥の部屋へとハウシンカは辿り着く。 
理由は1つ。 
先の刺青男の台詞…「俺達が2番乗り」… 
実際には彼等2人は相当後になってから登場した。2番目など有り得ない。 
だが、最初の侵入者達と、今の刺青男達は明らかに別格の存在だ。 
大した作戦も無く単に突き進んで来る最初の侵入者達を足止めとし、 
常盤と呼ばれた男と刺青男とを本隊とすれば…今度は1番目は誰かという疑問が挙がる。 
そして其の疑問には次の疑問も付随する事となる。 
1番目は何処に居るのか。
居間以外に人の気配がある所。 
詰まり、時田という男が子供達連れて行った奥の部屋しか無い。
執筆者…is-lies

「ふん、手を焼かせてくれましたね。 
 わたくしも冷や冷やしましたよ。こんなバケモノが居たとは…。 
 …しかぁ〜し、影から影へと自由自在に移動するわたくしを、 
 怪我人や大勢の子供達を護ったまま捉える事は不可能でしたねぇキククク」 
『影渡りのアリフレンザ』とも呼ばれる精鋭アリフレンザは、 
時田や子供達を背後に庇う様にして地に附す機械の竜を見下しながら嘲笑する。
「さあ無駄な抵抗はお止しなさい其処な異形よ。 
 わたくしには其の子供達を殺すという役目があるのですから。 
 …尤も、まだ邪魔立てするなら貴方も死んで貰いますが」
「くっ…スマウグ……!」 
何度もアリフレンザに間接を切り刻まれ、 
立つ事もままならぬ機械竜を庇う様、 
時田が機械竜スマウグとアリフレンザの間に立ち塞がり叫ぶ。 
「……何故だ貴様、孤児の…この子達まで…ッ!!」
「ほぅ、孤児だったとは初耳ですね。併し関係ありません。 
 何故という質問と併せてお答えしますが、 
 我々がやっているのはビジネスですからねぇ。 
 …まあ、あのライズとかいう男の命令は気に食わない点が多々あり、 
 わたくしの美学にはあまり合いそうにありませんがぁ… 
 其の分は報酬に反映させて貰う事で折り合いを付けております」
「貴様…其れでも人間か!? 
 …金の為に……命を奪うのか!高が紙切れの為に!」
「残念ながらぁ〜 
 モノの価値とは其れを扱う人間の主観によって決まるのです。 
 其れに貴方達と先程まで一緒に居たターバン女… 
 あれも実はわたくしと同類なのですよ?わたくしだけ酷いみたいじゃないですか」
「なっ……!?」 
何も知らない時田を鼻で笑ってアリフレンザが続ける。 
「フッ…キクククク、彼女が今まで何をやって来たか知りたいですか? 
 運び屋、殺人、恐喝、そして誘拐… 
 わたくしなど…まだまだ……」
「ハウシンカキーーーーーーック!!!」 
アリフレンザの台詞を遮り、叫び声と共に隣の扉が爆ぜた。 
次の瞬間、アリフレンザの横っ面へとハウシンカの蹴りが見事に決まる。
「き、き、き、貴様はッ!! 
 ま、またしてもこの私の美しい顔に汚らしい足で蹴りを!! 
 ハウシンカ、貴女は一体わたくしをなんだと思っているのですかっ!」 
声高に叫ぶアリフレンザ。 
そして全くそれにこれと言って興味を示さないハウシンカ。 
…なにげに着地したあと、小指で耳をほじくっている。 
「つーか、やっぱりおめーかよ。 
 来るな来るなと思ってはいたんだよなあ。 
 つーか、おめーってば執念深いってーかなんつーか陰険つーか、 
 まあ要するにそんな感じ。 
 それ以前に何しに来たの? 
 つーか、今思ったらおめー、誰?
…この言葉でアリフレンザの怒りは臨界点に達した。 
ここまで余裕ぶっこかれた上にさらに「おめー誰」。 
己の存在そのものに美意識を感じるアリフレンザにとってそれは美意識を傷つけられたも同様であり、
さらには己の存在そのものを否定されたことを意味する。
「キククク…ここであったが100年目! 
 我が名はアリフレンザ。 
 貴女を屠る者の名です、しかとその胸に刻みなさい。」 
「いんふるえんざ?」 
「ア・リ・フ・レ・ン・ザ!!!!!です!!! 
 そうまでしてこの私を愚弄しますか。良いでしょう。 
 この者達を始末するつもりでしたが…予定を変更しましょう。 
 まずは二度に渡りこの私の美しい顔を汚し、私の美意識を蹂躙した罪を償ってもらいますよ!」 
言うが早いか、アリフレンザの姿が再び影に溶けた。
「またそれ〜?別に良いけど。」 
しかしハウシンカの言葉が終わるとすぐにアリフレンザの剣撃の洗礼がハウシンカを襲う。 
しかしそこはハウシンカである、難なくかわして次の攻撃に備える。 
「ふふ、さすがは噂の鉛雨街の住人、これ位の攻撃をかわすのはわけないと?」 
「いや、別に鉛雨街の人間じゃなくてもこんくらいかわせて普通っしょ。」 
味気なく言ったものである。 
「ほう、ではその余裕が何処まで続くか試してますか?」 
再びアリフレンザの姿が影に溶けた。
執筆者…is-lies、錆龍様

 

 「仲間割れ…か?」 
アリフレンザがハウシンカをターゲットと定めたのを見、 
時田が恐る恐る出口へ近付こうとするも、 
機械竜スマウグが彼の襟を咥えて其の体を持ち上げる。
「な…?スマウグ…何を?」
そして時田を孤児達と共に自分の背中の上に乗せると… 
大木の様な尻尾の一振りで窓ガラスを付近の壁ごと吹き飛ばし、 
外への脱出口を作り出す。退避する積りなのだろう。 
彼等からしてみればハウシンカもアリフレンザも同類。 
未知の相手。闇の住人。関わらざるべき存在なのだ。 
折り畳んだ翼を展開し、空へと飛び出すスマウグ。
「な…何!?これは……くっ!」 
影の中に姿を消した筈のアリフレンザが出て来る。 
確か、彼が隠れていたのはスマウグの影… 
どうやら影が無くなると隠れていられなくなるらしい。
「ったく、オメーがくっだらねェ事ベラベラ喋ってたせーでビビられちまったじゃん。 
 にしてもタイミング悪過ぎ!ナナシ君と折角話出来てたのによー。 
 取り敢えずあの世逝って償ってちょーだいな♪」
「…小癪な……何も知らない羊風情が… 
 く…キクククク!教えてあげましょう! 
 タイミングも何も貴女は最初からわたくし達の手の中! 
 アテネに来てJK-112…ナナシ達と出会う事も予定通りなのです! 
 本来ならば貴女はナナシ達を襲い、我々の侵入を助けるデコイだったのですがぁ… 
 …全く、役に立たないものです!」
「…手の中じゃねーぢゃん」
痛いところを突かれて怒りを露わにするアリフレンザ。所謂逆ギレである。 
「ぐっ…も…もう堪忍袋の緒が切れました! 
 滅殺ですッ!!」
「ふーん、んじゃ狸が…海上臨検の事知らないつーったのは本当だった訳だ」 
だがハウシンカはアリフレンザの事など眼中に無い様、 
法王との会話を思い出して考え事に耽る。其の態度が更にアリフレンザを苛立たせるのだった。
「うぬぬぬ…癇に障りますね其の態度…! 
 …く…キクククク、ならば其の道化のマスクを外してあげましょう! 
 こう見えてもわたくし、色々と勉強熱心なのですよ。特にターゲットの事は」
「ん〜?」
「キククククククク… 
 知っていますよォ、貴女がエカチェリナを探している事…」 
言いながらアリフレンザの体が影の中へと還る。 
エカチェリナの名を出されてハウシンカも片眉を吊り上げ、 
姿無きアリフレンザへ集中する事にする。 
アリフレンザが、ハウシンカのエカチェリナ探しを知っている… 
情報が漏れそうな点は多々ある。 
ハウシンカ自身、エカチェリナ捜索依頼を所々で出していたので、 
其の内のいずこかから情報漏れしてしまったのだろう。
「でもねぇ、彼女と貴女はもう会わない方が良いと思いますよ?」 
影の中でアリフレンザが笑いを堪えた様ないやらしい声で言う。 
「貴女、今まで自分が何して来たか解ってますよね? 
 そんな穢れた身では聖女たるエカチェリナに近付く事すら叶わぬと知りませんでしたか?」
聖女…どういう事なのか解らない。今のエカチェリナがどんな立場というのだろうか。 
一瞬の隙を突き、ハウシンカの背後の影から突如、湾曲した刃が彼女に切り掛かる。 
直撃は避けたものの、僅かに掠り二の腕から血が滲む。
「キクク!失望しますよ!?失望しますよッ!? 
 今の貴女にはエカチェリナに会う資格はない! 
 彼女は絶対に貴女を拒絶します!もう住んでる世界が違うんですよォ!」
放たれた刃が天井の電灯を破壊し、部屋から光を奪う。
「なのに何故、まだ彼女に会おうとしているのです!? 
 そんなに彼女が心の支えになっていたのですか? 
 でも残念、会っても貴女は彼女に否定される運命なのです。 
 自ら絶望の地獄に落ち行こうとは愚か極まりッ!貴女レミングスですか!?」
四方八方から襲い掛かる猛攻撃がハウシンカに降り注ぐ。
「だから、彼女の心の中にある良き友ハウシンカを崩さない為に、 
 貴女は此処で死んでしまった方が良いと思いますよ。 
 其れがエカチェリナにとって最良なのです、キクク」
だが、ハウシンカは迫る刃を避けようともせず、 
逆に其の刃を掴んでアリフレンザを引き寄せる。 
刃を掴んだ掌から血が噴出すが其れも意に介さず、 
出て来たアリフレンザの脳天にトカレフ… 
そして鋭い視線を突き付けるハウシンカ。
「ぐッ!?…きさ……!?」 
アリフレンザの敵意に満ちた其の瞳が、 
徐々に驚愕…そして恐怖へと其の色彩を変貌させる。 
ハウシンカに気圧されたのだ。 
今の彼女はジップロックと出会った時の様、 
其の全身から抑えても溢れる程の殺気を放ち、 
目の前の獲物…アリフレンザを威圧している。
「うるせぇ雑魚。お前がチェリーを定義すんな。 
 チェリーがどう思うかどうするかはチェリーが決める。 
 あたしがどう思うかどうすっかもあたしが決める。 
 …其れよか…ッ!!」 
アリフレンザの放った不意打ちの一撃… 
だがハウシンカは彼の手に銃底を叩き付け、其の獲物を落とさせる。 
先程までハウシンカを翻弄していたかに見えたアリフレンザの攻撃も、 
ハウシンカにはまるで通用しない。攻守は完全に逆転していた。
「な…馬鹿な!?」 
認めないとばかりに叫ぶアリフレンザだったが、 
目前の女狩人は獲物の首を絞める手に更に力を込めて質問を続ける。 
「聖女ってなどーゆーこったよ? 
 SeventhTrumpet辺りでチェリーがそう呼ばれてたんか?」

 

数秒の沈黙。
「…キクク。あ…貴女は八姉妹を知っていますか?」 
ふっきれたかの様にアリフレンザが口を開く。
八姉妹とは『以前の戦争』…詰まり第三次世界大戦によって、 
危機的状況に陥った地球の環境を、己が命を以って正した8人の英雄的女性である。 
今ではこの話は絵本にすら載っており、子供だって知っている。
「八姉妹?知ってるけど其れが何だっつーのさ?」
「キクククク!!残念でしたねハウシンカ! 
 貴女が何をしようとも…八姉妹の力そのものを受け……」
気でも違ったかの様に笑い出したアリフレンザの頭部が消し飛ぶ。 
だが引き金を引いたのはハウシンカではない。
執筆者…is-lies
「ちっ…余計な事を…… 
 やはり幾ら手練といえ外部からの協力に頼るものじゃないな」
サングラスをした青髪の青年は、ベランダから部屋へと入って来、 
片手に持ったショットガンの銃口を下げて誰にともなく呟いた。 
口封じ…ともすればエカチェリナはまだSFESと関係があるという事か?
「……誰だよ?お前」 
ハウシンカの其の問いは黙殺された。 
カチンと来て銃口を向けようとするが、嫌な予感がする。 
何故だろうか…鉛雨街で培った其の経験が言う。 
動いてはいけないと。
「ライズさーん!もう時間デスよ!」 
居間の方から、女の妙なイントネーションの声が響いて来る。 
気が付けば、居間からの剣戟の音は全く無くなっていた。
「解った。トゥラドと常盤は?」 
青髪の青年ライズが聞き返す。
「両名とも任務完了でス。ケド、アンドロイドの人は逃がしちゃったそうです」 
其れは詰まり、ジップロックまで捕まったという事だ。
「当たってたのは常盤だったな?アイツが仕損じただと?」
「あ、後から紅葉さんも来て2人がかりデやりました」
「SSのツーマンセルでも仕留められなかったとはな… 
 ヴェリーヌヒルト如きでは相手にならなかったのも道理か。 
 ……確認されているどの組織のものでもないな…其れだけの代物なら。 
 …やはり……古代火星文明のもの…か……?」 
ハウシンカを眼中無いとばかりに無視して考察に耽溺するライズ。 
怒りが込み上げて来る。経験が動くなとは言うが、相手は一見して隙だらけ。 
トカレフの銃口をライズの足へと向ける。ライズは此方を見てすらいない。 
普通に考えて命中すると言う確信を以って放たれた銃弾だが、 
其れがライズの足を吹き飛ばす事は無かった。 
横に一歩移動…ライズは其の最低限の動きで銃弾を回避していた。 
此方を見ていないにも関わらず。 
普通に考えて在り得ない。 
(コイツ……どーゆー手品だぁ?)
「…ああ、お前はもう良いよ。ご苦労様。 
 ちょっと寝ててくれ」 
ライズが其のサングラスを取り、閉じた瞼の上に己の掌を宛がい、 
其のまま掌を上へとスライドさせて瞼を開いた。 
瞬間…ハウシンカは吹き飛ばされ、壁へと叩き付けられた。 
かはっ!
目が見えない。意識が朦朧としてゆく。 
(…の……野郎… 
  アンタのツラ……覚えたかんな… 
  …………ぜってぇ借りは返すッ! 
  ……絶対……な………)
ハウシンカは其の場に崩れ落ちる様にして倒れ伏す。
執筆者…is-lies

…それから一体どれくらいの時間が流れたのだろう。 
それがわかる手だては今のハウシンカにはなかった。 
ただ部屋の中はひどく荒れ果て、哀れな傀儡達の成れの果てが部屋中の至る所に転がっている。 
そう、先程までハウシンカとやり合っていたあの男の…アリフレンザもその中に混じっていた。
ハウシンカは溜息をついた。 
先程逃げた時田や機械龍はともかく、ナナシとナナミ、そしてヨミの姿も消えている。 
周りの子ども達もいないところを見ると、さしずめ彼らが連れて逃げたか、それぞれちりぢりになった、と言ったところか。 
…ジップロックの姿も見あたらない。 
どうやら完全に彼女は取り残されたようだ。
(なんでえ、あたしだけ仲間はずれにしちゃってさ。)
明かりのない部屋で、ハウシンカはふてくされたように呟いた。
まだ頭がずきずきと痛む。 
あの時の衝撃がまだ残っているようだ。
ハウシンカは一人、ベランダから外を眺めた。 
真夜中だろうか、月が高く昇っている。 
冷たい夜風が部屋の中の唯一の生存者であるハウシンカに吹き付けた。 
ハウシンカはもう一度溜息をつくと、腰からさげたポーチの中から何かを取りだした。 
…携帯電話である。 
それを耳に宛うと、たばこに火を点け、応答を待つ。
《もしもし、ハウシンカ? 
 こんな夜中にどうしたの?まあ、アンタには夜も昼も関係ないんだろうけど。》
電話から女性の声がした。 
「ああ、スカーレットさん、ちょっと用があってね。 
 法王の野郎のしっぽ掴む為にちょっと悪戯したんだけど、 
 ヘマぶっこいてさ、ジップロックも捕まっちった。 
 今一人なんだ。」 
《ちょ、ちょっと、それはまた急な展開じゃない! 
 一体どういう…》
「わりい、説明してる場合じゃないんだ。 
 それよか、すぐディレイトの旦那にアシ、チャーターするように伝えて。 
 あたしは一端地球に戻る。」 
《地球?そんなところに戻ってどうするの?》
「どうしても力貸してもらわないといけない奴がいるんだ。」 
ハウシンカは大きくたばこの煙を吐き出した。
「ロシアに飛ばしてくんないか。できれば明日にでも。」 
《随分と急な話なのね。 
 密航に便乗させる位ならあたしでも出来るけれど。 
 でも大丈夫?地球は…ほら……》
「ああ…破滅現象云々? 
 もう地球は滅んだとか言ってるバカも居るけど、 
 まだまだ大丈夫っしょ?ンな密航なんて出来るんなら。 
 向こうに残ってる奴だってかなり居るらしいし」
破滅現象とは近年、地球全国各地で発生した、 
急激な温度の変化や眩い光と共に、 
或る一定の空間内にある全てが消滅するという謎の現象である。 
2ヶ月程前、地球全土で一斉に起きた最大規模の破滅現象により、 
パニックに陥った一部の人々が挙って地球を見捨てて火星へと移民して来たのだ。
《そうね…じゃあ……》 
「……
 悪ィ、奥さん。後で掛け直す」 
返事を待たずしてハウシンカは携帯を切ってポンと放り投げ、 
トカレフで正確に射抜く。
「ふぅ……何だよ…5分も経ってねーじゃん」 
粉砕された携帯の残骸を見やる事も無く、部屋の天井を眺めるハウシンカ。 
部屋にSeventhTrumpetのアークエンジェルズが入り込んで来たのはそんな時だった。 
執筆者…錆龍様、is-lies

 

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