リレー小説3
<Rel3.ハウシンカ3>

 

火星、コリントス

 

「…何だか…呆気無く入れちゃったなぁ…」 
夜の波止場で、暗殺者ギルド・コリントス支部員達に保護され、 
さも詰まらなさそうにハウシンカが呟く。 
彼女としてはもう少し暴れた方が丁度良いのだろうが、 
ジップロックの方は一気に緊張の紐が解けた様、 
ズルリとよろけて背後の、積み重ねられた木箱に背を預ける。
「取り敢えずこれで依頼は終了ね。 
 …けれど、これ…間違いなく罠よ。 
 アテネを脱出出来たからといっても油断は禁物…気を付けなさい。 
 …流石にコリントスじゃ大げさな真似は出来ないでしょうけれど…」
コリントス…アテネ西部のポリスであり、 
流通の中心部である火星最大のポリス・アテネと並ぶ、 
政治的な中心部たる大ポリスである。 
規模や設備的にはアテネやスパルタに劣るものの、 
法王庁や火星帝の宮殿がある事で知られており、 
其の為か宗教関係者は、法王が住む此処こそが真の首都であるとしていた。 
法王庁周辺地域は一部、暗に様々な小教区へと分けられており、 
其の境界を侵害した角で私刑が公然と行われる事があったり、 
能力者を忌むバチカンに目を付けられた能力者の旅人が暴行を受ける等の事件も起きている。
「ま、そーだろーねー。 
 でも心配御無用。鬼が出ようと蛇が出ようと叩き潰すだけだからサ♪」
「ふぅ…本当に、貴女は何も怖くないみたいね。 
 まあ良いわ。新規の依頼でアタシ達をもうちょっと雇ってみる?」
だがハウシンカは暫し頭上の月を眺めながら黙考し、 
「んー止めとく。こっちもそう懐暖かい訳じゃねーしー」 
…と、正直に現在、先立つものに乏しいという事をバラす。
「そう。気が変わったら中央通のバー・リクラムに来なさい。 
 報酬次第で力を貸してあげるわ」
「…あの……仕事終わったのに、此処に居続けるんですか?」
「船内で夫から電話があってね。 
 何か近い内こっちで一仕事あるみたいなのよね」 
そう言ってスカーレットは夜のコリントスへと消えていった。
…ハウシンカ達がコリントス行きの依頼を出した其の日の内に、 
コリントスでの仕事が入る……果たして偶然なのだろうか? 
海上検問が無かった事とも併せ、不安を募らせたジップロックが考えを纏めようとするが、 
如何せん情報量が少な過ぎる。何を考えても裏付けが無い。
執筆者…is-lies
「おーし、んじゃ早速法王庁の方に行ってみますかー! 
 道案内頼むぜへっぽこレギオンちゃんw」 
スカーレットが去ったのを見、 
早速、法王庁へと向かおうとするハウシンカだったが…
「無理!絶対ッ!!」 
昨日と同じくジップロックが叫ぶ。
「なして?」
「いや…其の……今日もう暗いし… 
 身嗜みだってしっかりしないとマズいし… 
 バチカンの居そうな教区に入ると危険だし…」
「ぜんのーの神様も懐せまいよなぁ。 
 別にいーじゃん、のーりょく者だってよそ者だって。 
 あたしに言わせりゃ神さんほどしんよーできねーものもないんだよね、しょーじき言うと。」 
不満全開ハウシンカが漏らす。
港街の小さな雑貨屋で観光客になりすまし、
怪しまれないだけの姿格好を装った二人は、
ねぐらを探す為に人目を忍んでコリントスの街を徘徊していた。
「この辺の連中は能力者と見ると容赦ないからね。 
 ほんと、それこそSFESにやられる前にそっちに目をつけられかねないよ。」 
ジップロックが小声で囁く。
「別にかんけーねーさ。あたし人間だもん。」 
けろりと言ってのけるハウシンカ。
…ジップロックは溜息を吐いた。 
「とりあえずどうする?この辺は比較的安全とは言え、もっと奥に行くと途端に危険の連続だよ?」
「その辺は寝ながら考える。どーでも良いけど疲れた、眠みい。 
 と、おー!あったあった、民宿民宿。 
 早速飯食って風呂入ってビールビール♪」 
ジップロックの話など全く耳に入っていない様子で
ハウシンカは一件の民宿にいきなり上がり込んでいった。
「ちょ、ちょっと待ってよ!姐さん!」 
慌ててジップロックもそれに続いた。
その様子を影で見ている「狩人」の存在を、二人はまだ知らない。 
「み…見つけた…きひ、きひひ、廃棄品、殺すコロスコロス… 
 きひ……ひっ!?」 
ハウシンカの姿を捉えた其の眼が見開かれる。
(は…ハウシンカ!?何故、廃棄品と一緒に……!!??)
狩人…アールヴが知る由は無い。 
既に廃棄品としてレギオンからも追われる身となった彼女には…。 
社会的に抹殺され、今生命すら脅かされようとしているアールヴだが、 
命辛々追跡を振り切り、偶然にもコリントスでハウシンカ達を見付けた。 
今の彼女の壊れた頭の中に残っているのは、たった2つの記憶のみ… 
ジップロック抹殺の使命…そしてハウシンカに対する恐怖。
(…手負いの私じゃ…無理ですね… 
  焦らずに……ゆっくりと……回復を待って…そう…暗殺です…きひひ)
昨日の夜にハウシンカ達を襲撃した男と同じく、 
アールヴも又、機会を見ての暗殺を選択した。 
同じ闇に身を置く者同士、引き際というものは心得ていた訳だ。 
…もし、この時点でハウシンカ達がアールヴに気付く事が出来たのならば、 
後々の惨劇も未然に食い止められていたのかも知れなかった。
執筆者…is-lies、錆龍様

「HEY!アナタは神ヲ信じまスか〜!?」 
「ほりゃ!貴女は仏を信じますか〜!?」
「………」 
何だか奇妙な格好をしながら言い寄って来る男達を無視し、 
民宿の廊下を行くハウシンカ&ジップロック。
「其処の貴女!…貴女はアフラ・マズダ様を信じますか? 
 この光の戦士プリーシア・ディキアン……」 
訳の解らない電波を垂れ流し中の少女をこれまた押し退け、 
漸くハウシンカ達は自分達の部屋へと入る事が出来た。
「……あ〜、ウザい。何アレ?」
「んー…どうもこの宿…っていうかこの辺りって各宗教の激戦区みたい」
「か〜、ツイてねぇ…耳栓売ってない?どっかで? 
 …まあ良いや。ところでちょいと質問させて欲しいんだけどさ」
「へ?」
「ジップロックちゃん。オメーの能力ってどんなよ? 
 詳しく聞いた方が、後々こっちが有利になりそうなんでさ」
「あ…あたいの?けど…能力は…」
能力者にとって、己の能力を説明するという事は、 
自身の弱点を晒すという事とほぼ同じ。 
能力内容によって少数の例外などはあるが、バラさないのが基本である。 
況してやジップロックはごく最近まで能力者の軍隊に所属していたのだ。 
喋る事そのものにも抵抗があり、そう易々とは口に出せない。
「な〜んか文句でも?」 
「…いえ、喋らせて貰いますハイ…」 
釘バットをちらつかせながら笑顔で言うハウシンカに、 
舎弟ジップロックが逆らえる筈も無し。あっさりと折れた。 
根性無しである。
「ええっと…あたいよりもエーテル値の低いモノを、捕縛する空間… 
 あたいはテリトリーって呼んでるけど…まあ、其れを創り出せるんだ」
「ふーん。空間干渉系の能力かぁ… 
 あのナル野郎が止まったのも其の力のおかげって事な。 
 …つぅと、オマイってアイツよりもエーテル値高いって事?」 
影を介して自由自在に移動した昨日の追っ手は、 
其の特異な力もあって、かなりの能力の使い手という印象があったが、 
ジップロックの説明を聞くと、こと能力に関しては彼女の方が上手らしい。
「…一応…あたい…何たら領域接続用とかって… 
 良く解んないケド兎も角、能力の強化に重点置いたD-キメラだし」
「そうけそうけ。ま、中々使えそうな能力で安心安心と。 
 ンでもう一つ…真正面から法王ンとこ行って会わせて貰える算段あるん?」
「………え?姐さんが何か考えてたんじゃ…?」
「………」 
「………」
時が凍った。
執筆者…is-lies
「ま……何とかなるっしょ?」 
「……姐さ〜ん」
結局、取り敢えず明日、法王庁へ直行して、 
取り次いで貰える様にダメモトで話をしてみる事にした。 
ハウシンカは殺しもやる何でも屋、ジップロックに至っては社会的抹殺済みの改造人間。 
99%の確率で取り次ぎは却下となるだろうが、 
其の時は其の時として考えるというのがハウシンカの結論だ。 
いつも通りにビビるジップロックを適当にあしらい、ハウシンカは眠りに就いた。

 

ベッドに転がる度に見慣れぬ天井を眺める事となったのは、 
もう思い出せない程の昔…無力で幼かった頃に施設へ送られたのが最初だ。 
親からの虐待が無くなったのは其れは其れで良かったかも知れない。 
尤も、施設に入ってからも精神病院やらを何度も行き来しウザかったというのが、 
其の時代の記憶に残った2番目に大きな印象であった。 
だが其れをも良き日々へと塗り替える程に大きな存在があった事は忘れない。忘れられない。 
精神薄弱な自分を幾度と無く励まし勇気付けてくれた… 
血の繋がりは無い…併し実の妹同然な『妹』の存在。 
そして其の妹を奪った黒き影。 
あの日から自分には明確な目的が出来た。 
妹を助け出す事。 
己の命にすら執着薄い彼女が持つ、最大の目的であった。
執筆者…is-lies
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