リレー小説3
<Rel3.ハウシンカ2>

 

 

「さあさ、そいじゃやさし〜いダンディのところに行きましょっかv」 
アテネの街に、ハーレーの爆音が響く。
「ダンディって………?」 
荷物に埋もれるようにしてサイドカーにおさまったジップロック問う。
「大事な大事な協力者さんとこだよん。 
 さ、まためんどくせー奴がこねえうちに出発進行〜☆」
執筆者…錆龍様、is-lies

  火星、アテネ 
  エステーンシスOEP貿易センタービル 75階

 

アテネポリスの摩天楼の中でも屈指の高層ビルの展望ラウンジにて、 
ハウシンカとジップロックは、目当ての人間と接触を果たす。 
元々は地球と火星との貿易を主に進めていたこの貿易センターも、 
地球そのものに起こった破滅現象による大規模な移民と流通の変化… 
そして火星にも起きた衛星異常などの事態に戸惑い、殆ど其の機能を麻痺させている。 
有料で一般開放されているこの展望ラウンジでも警備員等の姿はまるで無く、 
前衛彫刻染みたオブジェに腰掛けるハウシンカを咎める人間は居ない。 
「何でこの人はこうも傍若無人なのか」とか考えながら隅で縮こまっているジップロックと、 
2人の護衛を付き添わせた、迷彩柄のジャケットとジーパンという出で立ちの美女が、 
そんな彼女を静かに眺めている。
「中々洒落たランデブーポイントぢゃん。 
 でも此処ってリゼルハンク本社とも近いよん?レギオンとか居ねぇ?」 
きょろきょろと辺りを見回すハウシンカの質問に、 
暗殺者ギルドのエージェントである美女はピンク色の長髪を掻き上げながら答える。 
「安心して頂戴。チェックはアタシ達3人でちゃぁんと済ませてあるから。 
 …って、アンタだってそうなんでしょ?全く…大したもんね。 
 アンタに気配を悟られずに近付けそうなのって、ウチの旦那位かしら」
「ほほぅ、会った時からタダモンじゃねーとは思ってたけど、 
 ディレイトの旦那ってばンなすげーんだ。 
 で、旦那の方は今は仕事だっけ? 
 まー、奥さん自身が来てくれてるから話ゃ早いわな。 
 ……イオルコスの連中、どーだったよ?」
暫し、美女が顎に手をやり黙考に耽る。 
「イルヴ、『青』、エース…後、素人っぽい女の子が居たわね、 
 其の娘は知らないけれど、先の3人は使い物になりそうだわ。 
 ちょっと甘さを感じたけれど…余計な事には首を突っ込まず、能力もありそうだったし…」
「へー…あのシェリアって娘が?もしかして居候でもしてるんかな? 
 ま、いっか。んじゃ、まだまだお互いに良い関係でいられる為、 
 こっちからもお仕事出させて貰っちゃうよん♪」 
相手の反応を上々と見、漸くハウシンカが本題を切り出す。 
ジップロックの方は、ハウシンカとこの美女の間で何があったのか、 
其れどころか今、話されていた事の内容ですらまるで理解出来ない。 
戸惑うジップロックを置き去りにして美女達は話を続ける。
「あら?例のエカチェリナって娘に関する話とは別?」
「そー、全然別。 
 まずは…アタシ達をアテネから無事に逃がす事」
「…リゼルハンク…いえ、レギオンね。連中が検問を敷いてるけれど?」
「方法は玄人達に任せまーすw」
「そ、ならこっちで勝手にやらせて貰うわ。今夜中で大丈夫?」 
独断即決。流石のハウシンカも訝しむ。
「……大丈夫だけど…ディレイトの旦那に話しなくてOKなん?」
「其の程度でうだうだ言う夫じゃないわね。放任主義だし。 
 メアリーの面倒も見ないで…挙句に… 
 …ゴメンなさいね。話がそれたわ。 
 大丈夫なら、取り敢えずは…今夜決行ね。他に何かあるかしら?」
「ん〜、個人的にはディレイトの旦那に一言言っておきたかったんだけんど、
 いねーならしゃーないわな〜。 
 そんじゃね〜、買い物めんどくせーからべんとーいっぱいv 
 これっしょ。」 
まるでピクニック気分で言うハウシンカ。 
それを見たピンクの髪の美女は、 
「相変わらずね。」 
笑って答えた。
執筆者…is-lies、錆龍様
そんな二人のやりとりをジップロックは横目で眺めていた。 
もうそろそろジップロックの思考も限界なのだ。 
大体この女が誰で、一体ハウシンカとどういう関係なのか。 
そして自分の逃避行(?)に一体どのように関わってくるのか。 
(…あたいにだって、知る権利はある…)」
のである。
「さっきから聞いてるけどさ、あんたら一体どんな関係? 
 そしてアンタは一体何者なの?」 
ついに勇気を出して切り出した。 
「それ、アタシも聞こうと思ってたのよ、 
 ねえ、このコだれなの?」 
ピンクの髪の美女がハウシンカに問う。 
「あー、これがあれだよ、ほら、拾ってきたへっぽこレギオン。 
 こいつがへまこいたせいでちい、とやりずらい事になってんだよね、これが。」 
笑っていったものである。 
(人の気も知らないで…)
ジップロックは眉をひそめた。 
「で、このマダムはあたしがちょいと世話んなってる旦那のワイフ、
 スカーレット様でございますのよ。おわかり?」 
ハウシンカがジップロックに紹介した。 
「よろしくね、へっぽこレギオンさん。」 
「…ジップロックです!」 
引きつった表情でジップロックも名乗った。
「さて、それじゃ本題に入りましょう。 
 とりあえず出航は今夜、検問には引っかからないように 
 こっちでもある程度備えはするわ。 
 なんせリゼルハンクの連中も執念深いからね、 
 いくらアンタが反応良くても向こうはどんな手を使ってくるか分かったもんじゃない。 
 覚悟は、できてるわよね?」 
刹那、美女の…スカーレットの表情が変わる。 
「モチのロンでしょ♪」 
ハウシンカがウィンクで返す。 
と… 
「あ、あの…あたいはなんの事なのかさっぱり…」 
ジップロックが話に割り込む。 
つくづく鈍い女である。
「出航…海を使うって事よ。 
 アテネとコリントス自体はそう離れてもいないけれど、 
 陸路の場合、交戦にでもなったら直ぐに見付かって、 
 警察やSeventhTrumpetを其の場で敵に回す可能性が高いわ。 
 出来得るだけ穏便に…とは思うけれど、もうアテネは完全にレギオンに封鎖されている。 
 …ちょっと遠回りになるけれど、南のスニオン港から海路に出てレギオンだけを相手にするわ。 
 と言っても交戦は極力避けるのよ。 
 ダミーボートや幻術の使える暗殺者達を動員して逃げ一辺倒。 
 向こうは幾らでも替えがあるけれど、 
 私達はボートが攻撃食らったらもう終わりだから」 
スカーレットの説明を聞けば聞く程、危ない橋である事を痛感する。
「う…思った以上に危なそう…… 
 ねぇ姐さん、今からでも考え直…」「さねぇよw」 
「あぅう…やっぱり……」 
口から出し切る前に意見を瞬殺され、がっくりと項垂れるジップロックを他所に、 
暗殺者ギルド側の準備は滞りなく進んでいく。
執筆者…錆龍様、is-lies

  深夜 アテネ南部海上

 

漁船に扮した暗殺者ギルドの船は既にスニオン港を出発し、 
アテネの真南に当たる海上を移動中だった。 
だが、予定にある海上臨検は未だに其の姿を現さない。
「…変ね……情報通りならもう海上臨検と接触する筈……」 
双眼鏡を覗きながらスカーレットが呟く。 
レギオンを警戒し、暫く船の速度を落としてゆっくり移動する事にしたが、 
1時間経っても何かが現れる気配は無い。
「……なーんか嫌な予感」
レギオンどころか検問すらまるで見当たらない。 
一層警戒心を強め、一向は北西のコリントスに向かって行った。

 

 

 

「ムッシュ。マドモアゼル達はポイントD-25を通過しました。 
 ムッシュの命令通り、一切手出しはしていません」 
《結構。其のまま黙ってコリントスに入らせてやれ》 
「……ムッシュ、一つだけ……」 
《駒は言われた事だけやれ。以上》 
一方的な命令を押し付けて切られた電話。 
受話器を持ったオールバックの男は、 
眉間にシワを寄せ、咥えた葉巻を口で弄びながら、 
通信機のスイッチを入れる。
執筆者…is-lies
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