リレー小説3
<Rel3.ガトリングガンズ7>

 

翌日、店は定休日。 
リュージとリエは商品である武器弾薬の材料の買いだしに、 
ユーキン達はジョイフルを連れていつもの散歩に、 
他の者も何をするでもなく、街へ出かけていった。 
成り行き任せの居候集団、何もしないというのも酷だし、 
慣れてきたとは言え、まだ2週間だ。スラムを隈なく見て回るにはまだまだ時間は足りない。 
いつもは自室に篭っているタカチマンも、今日は朝からナオキングと二人で街へ出かけた。
昨夜の雨で、水滴を纏った街路樹が輝き、 
まだ乾ききらないアスファルトから湿気が湧き上がる。 
風はなく、少し蒸し暑い。 
珍しくタカチマンは黒いコートを脱いで、さっと肩に掛け、 
歩道の人の流れに合わせるように、いつもよりゆったりと歩いた。 
街は相変わらず平和そのもので、陰湿な気配などどこにも感じられない。
「…平和ですね。これが仮初の平和だなんて…」
「仮初ではない。馴染めない方がどうかしているのだ。我々も含めてな」
こんなにも平和な街で、タカチマンの戦いは始まっていた。 
ゼペートレイネは、「他の奴等にも手出しはさせない」と言った。 
予想通りに、潜伏を暴かれるのに時間は掛からなかったという事だ。 
こうなれば、いつ敵の強襲を受けてもおかしくないのだが、 
タカチマンには、ゼペートレイネの言ったその言葉だけは理由無しに信じることが出来た。 
受けて立とうと、その気になればいくらか気は楽だ。 
後は、強敵に対して…ゼペートレイネの期待に副い、且つそれを覆すような… 
如何なる奇策を講じるか、である。
途中、書店や雑貨屋に立ち寄りながら、タカチマンの足はいつの間にかある場所に向かっていた。 
石畳の広場に大きなリンゴのオブジェがあり、その向こうに市内で最も高い建物がそびえている。 
緩やかなスロープを登り、そのままの歩調で、開かれた自動ドアに踏み込んだ。
「ちょっと…博士?」 
ナオキングが立ち止まる。 
二人には場違いである上に、ここは敵の本拠地リゼルハンク本社ビルだ。
「どうした? 
 そこにレストランがある、コーヒーでも飲んでいこう」
自動ドアの前でオロオロしているナオキングを顎で促し、 
タカチマンは銜えタバコのまま、リゼルハンク本社ビルの1階にあるレストランの扉を引いた。
「コーヒー二つ、ブレンド、と」 
「あ、僕はアイスで」
店内を見渡すと、 
客はリゼルハンクの社員に、その関連会社、取引先と思われる者がほとんどで、 
ナオキングが心配するほどの事はなく、 
殺気どころか、スラムの喧騒とも無縁の落ち着いた空間で、 
SFESの気配などは全く感じられなかった。
コーヒーも美味かった。 
ナオキングが追加で頼んだケーキも絶品だった。 
タカチマンは途中で買った本を読み始め、 
タバコがなくなったからと言って席を立ったのは3時間後の事だった。
今日のタカチマンはどこか変だった。 
帰り際に… 
「む、社員割引があるのか、 
 じゃあ、SFESのゼペートレイネにツケといてくれ」 
「あの…お客様…?」 
「冗談だ」
そんな事を言ってまたナオキングをオロオロさせた。 
結局、コーヒー一杯でレストランに3時間ほど居座り、 
何事もなく今日は帰路についた。
帰る途中で、 
荷物が届いているから取って来てほしい、というリュージの依頼を思い出し、 
郵便局に立ち寄り、小包を受け取った。 
送り主はメイで、タカチマン宛になっていた。

 

店に戻ると、他の者もまだ誰も帰っていなかった。 
とりあえず、タカチマンはその自分宛の小包を開けてみた。
ダンボールとビニール袋の簡易包装の中から出てきたのは、 
刷毛のような物と千枚通し、 
それに、ゴルフボール大の半球の窪みが等間隔に並んでいる鉄板だった。
「博士、何ですか?これ」 
「うむ…」
外箱は唯の無地のダンボールで、 
箱の中を見ても取り扱い説明書のような物は見当たらなかった。
「…おそらく、 
 この穴で数種類の薬剤を調合、加熱し、球状に整形するものだろう。 
 メイが日本から送って来た物だ。 
 東洋魔術に用いる魔道具だろうな」
「な、なるほど…!」
「そうだ、 
 この形、結晶弾『ばくれつさん』の調合に丁度いいな。 
 ちょっとやってみるか」
早速、タカチマン達はその奇妙な鉄板を用いて、怪しげな実験を始めた。
執筆者…Gawie様

と、そこへ戻ってきたのはジョニー達だ。
「ジョニー、タコなんか買って何するつもりだ?」 
「決まっとるやんか。 
 けど、失敗や、まさか火星でアレが入手困難やとは思わんかったぁ。 
 わざわざスパルタまで取りに帰るのもナンやし」 
帰ってくるなり、ジョニーは何か不満げだった。
「別にいいだろ、そんなもん。 
 って、何だこの臭いは…?」
ふと、店の奥の工房から異様な臭いがするのに気付いた。
「何やってんだ博士?」 
「あぁ、ちょっとな」
見ると、例の鉄板の上で何やら怪しげな液体が煮込まれてる。
「あ…! それは!? 
 たこ焼き…!? 
 …って、博士アンタ何焼いてんねん!?」
「ああ、これか?」 
タカチマンはその異臭を放つ奇妙な液体が注ぎ込まれた、その鉄板を指差した。
「たこ焼きか?!いや、それにしては随分と変わった色のような・・・」
そう。その液体、緑色に黒っぽい赤色や薄い黄土色や淡い青色と、
まさに様々な絵の具を混ぜた生クリームのようになっているのだ。食べたら死ぬ。
「いや、たこ焼きじゃない。これは・・・」 
「ま、まさかそれは悪魔召喚?!サバト?!それとも何や?!」 
タカチマンの言葉を遮り、喚くジョニー。
その光景はまるでどこぞのギャグ漫画のようであったという。(byナオキング談 
「これは『ばくれつさん』といって・・・」 
「ばくれつさん?!花子さんの親戚?!学校の怪談かいな!!そういえば学校でこんな噂が・・・」 
またもやタカチマンを遮り、暴走するジョニー。
「学校は関係ない。『ばくれつさん』は結晶弾の一種だ。これは・・・」 
「でなぁ、その学校に行ったきりその子供は帰ってこなかったそうや。
 その子供は最後に見た奴は、その子は目隠しされて手を曳かれるように歩いてたそうやと。しかもその引っ張ってる奴が・・・」 
完璧に無視していた。しかもナオキングがその怪談を熱心に聞いている。 
タカチマンは、深い、とても深いため息を吐いた。
(・・・まぁ、いいか)
声に出さず、呟いた。

 

「ただいま。・・・何ですかこの臭い?!」 
「変ナ臭イ!変ナ臭イ!変ナ臭イ!変ナニオイ!」 
「ず、頭痛がするぅ〜〜!!何だこの臭い?!」 
ユーキン達が帰ってきたようだ。 
バンガスとユーキンは思わず後ずさりした。 
何故かジョイフルは妙な踊りを踊りながら「変ナ臭イ!」を連呼している。 
おトメさんはバンガスの背中で寝ている。起きたらどんな反応をするんだろうか?
ガトリングガンズ二号店は騒がしかった。
執筆者…Gawie様、夜空屋様

研究所から持ち出した資料をファイルに纏め直し、 
陰鬱な表情でもってベッドに転がり込むナオキング。 
「はぁ……何だかなぁ」
タカチマンが調合に使用していた機器を使い、 
ジョニーが料理か何かを作ってくれるらしく、 
其れが完成するまで、ナオキングは部屋で待っている事にしたのだった。
「あの板使ってタコの料理って……変なものが出来なきゃ良いけど…」
大の字になって天井をぼーっと見つめる。
最近になって漸くSFESの恐怖も薄れ、 
今の自分を冷静に見詰め直すだけの余裕も出て来た。 
101便内でも夢に見たが、自分は後悔してはいないだろうか。 
SFESと関わった事…いや、其れ以前に家出した事だ。 
いつまで経っても子離れ出来ない親は、確かに鬱陶しくもあった。 
其の過保護さ故にどれだけ幼年期の自由を奪われた事だろう。 
出稼ぎで美容師見習いとなった兄からの手紙。 
其れに触発されて家を出て…そしてタカチマンと出会った。 
彼に雇われて居候の身になってから少々経つが、 
此処最近、今度は次第に親の事が心配になって来た。 
あんなに煙たがった親に対してだ。 
自分はホームシックにでもなったのだろうか。 
たとえ其の時に忌々しいと感じた親であろうと、 
血の繋がった親子なのだ。心配にならない方がおかしい。
「……ダメ…だよね。今更………戻りたいかもなんて……」
今の自分達はSFESという敵をもっている。 
自分だけノコノコ抜けるなど、どの面して出来よう。 
結局、彼には決断を下す勇気が無かった。 
オロオロと助けが入るのを待つばかり。 
そんな自分に嫌悪すら催して来た其の時…
其れは現れた。 
ナオキングが望んだ助けが。
「自分が嫌になった?」 
あまりに唐突な声。 
思わず振り返った。
いつの間にか扉の前で座り込んでいたのは、黒髪の虚ろな眼の少女。 
いや、虚ろな眼は訂正しよう。その眼はナオキングを見ていた。あくまでナオキングの方向に。
まるでナオキングの後ろの壁・・・いや、その向こうの町を眺めるような眼で、ナオキングを見ていた。 
その口元は歪んでいた。笑っていた。
何かがおかしい。この少女は何かが変だ。 
不自然すぎる。 
この少女はこの部屋にいるのは不自然すぎる。 
ナオキングは心を落ち着かせ、冷静に考えてみた。 
この少女は何処から入って来た?扉が開く音は聞こえなかった。
それに正面から入れば誰かが見つける。窓はどうだ?鍵が閉まっている。 
なら…
「貴方は望んだ」
思考を無理矢理中断させられた。 
「大事なヒトたちが今どうしているのか」 
「え?…なんで、いや…それより君は一体…?」 
「私は貴方たちの隣にいるモノ。だけど貴方たちはソレを忌み嫌う。
 忌まわれし黒…つまり、『闇』。 
 …ねぇ。貴方は嫌い?」
何かが変だ。 
少女が言葉を発する度に神経が逆立つ。 
危険だ。 
彼女は危険だ。
「ねぇ、『ティミッド』さん・・・貴方は私を望んでいる」 
「ティ・・・?」 
「それが、貴方なの。臆病な『ティミッド』は助けを望んでいたんじゃない?」 
彼女が立ち上がり、ナオキングに近づく。
危険だ。 
彼女の異様に冷たい手が頬に触れる。 
怖い。 
怖い。 
怖い。
こわ…
「ナオキング!遊びにキタ!キタ!オヤジ!」 
「つい〜ん・・・れ?にんげん?」 
「あれ?お客さんですか?」
助かった! 
思わず安堵の息を吐いていた。
「あーあ・・・終わりかぁ。それじゃあ私は帰るね」 
おトメさんの頭を撫でて(何故かこの少女はおトメさんに噛まれなかった)、突然消えた。
「うわ?!・・・あ、瞬間移動!?お、驚いた・・・って誰ですか今の人?」 
「ナオキノこいびと?」 
「何で突然現れた人が僕の恋人になるんですか!」
もしかしたら、僕は負の感情を望んでいるのか? 
ジョイフルに言いながら、ナオキングはそんなことを思った。
執筆者…is-lies、夜空屋様
(何を……馬鹿な事を……!)
家族に会いたい。 
其の想いが負の感情だとでも言うのだろうか。 
血の繋がった親子…親を求めるのは当然ではないか? 
だが現実としてナオキングの前に現れた女性は『闇』と名乗った。 
そして彼女を呼び込んだのがナオキング自身であると言った。
(……唯の……唯の敵だよ。SFESに決まってる! 
  僕の心なんて何も知らないに決まってるのに……!)
言いつつもナオキング自身、認めていた。 
『闇』と名乗る其れが間違いなく己に呼応して現れたものであると。 
神か悪魔かは解らないが、少なくともSFES如きではない。 
そんなものなど比較にならない程、遥かに高次な何か… 
全てを見透かす、母の様な何かを感じ取っていた。
「まあ恋人云々は冗談としてだ」
ジョイフル達の後ろから話に割り込んできたのはタカチマン。 
既にゼペートレイネとの話も終えた彼にとって、
今回の事件による動揺はユーキン達の其れをも凌ぐ。 
併し其の感情の動きを周囲に匂わせないのは流石であろう。 
「まさかこれ程容易く侵入を許してしまうとはな… 
 ……瞬間移動能力…厄介なものだ。 
 (だがレイネめ……手は出させないと言っておいて…)
「……101便でも居ましたよね。 
 瞬間移動能力のあるゼロさん。 
 あ、後…テレビネオスに雇われていたって言う運び屋ルウ・ベイルスも」
「…SFES側なら……クリルとかいう奴や、 
 あの変なブサイク3人組もそうだったな〜 
 まああの3人はゼロや其のルウとかと比べると滅茶苦茶格下って感じだけど」
「確かにこれまでにも多くの瞬間移動能力者と会ってはいたが… 
 …瞬間移動は特Aのレア能力…SFESにもそうそう居ないと見縊っていた。 
 瞬間移動能力対策を考えておいた方が良いかもな。 
 ところで……ナオキ、侵入者は何をしていたんだ?何と言っていた?」
「………さぁ…自分が『闇』だとか訳の解らない事ばかり…」 
正直に言えなかった。 
『闇』と名乗る其の女が、ナオキングの心に反応して現れたらしいと言えば、 
何を思っていたのかと聞かれるのが当然。 
SFESと敵対している今、 
両親の姿を見に行きたいと考えているなど、言える訳が無い。 
自分だけ、そんな甘い考えが許される訳が無い。 
だが…
あの『闇』を名乗る女は自分のそんな心に呼応した。 
ならば彼女こそが、自分に救済を齎してくれるのではないか? 
危険と感じはしたが別段根拠は無く、敵という訳でもなさそうだ。 
ジョイフル達の登場で『闇』は退散してしまったが、 
もし今度会ったのならば……
(其の時は……話を…してみるかな……?)
負の感情であろうがなかろうが何でも良かった。 
自分の立場と臆病さを理解してくれた上で、 
この今の自分の心を導いてくれる中立の人間であるならば。
執筆者…is-lies
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