リレー小説3
<Rel3.ガトリングガンズ6>

 

   ガトリングガンズ2号店内

 

「ねぇねぇバンガスさぁん」 
ディスプレイ用の銃火器を立て掛けながらバイト少女のリエが、 
其の後ろで拳銃の手入れをしているバンガスに話し掛ける。
「ん…何です? 
 えーっと…」 
「もう忘れたんですか〜?リエですよ〜。 
 …で、バンガスさん。今度は何処に見回り行くんですか?」 
「……何処にって言うか…あれは御頭がやり始めた事だし… 
 今、其の御頭はタカチマンさん達と一緒に出掛けてるし…… 
 …今日はお店の方を手伝おうかなって思ってますけど… 
 あ、そうだ。おトメさんの散歩もしとかないと」 
思い出した様に手をポンと叩く。
「ん〜お手伝いは大丈夫だと思いますよ。だって仕事ないモン」 
リエの言う通り、現在の店でやる仕事はあまり無い。 
タカチ魔導研究所での一件で僅かな間、息を潜めた事もあってか、 
元々多くなかった客足が更に遠退いてしまったのだ。
「でも、ホントにバンガスさんって動物好きなんですね〜」
「…え〜、そうかな?」
「自分で気付かなかったんですか?」
「……正直、最近ちょっと自分でもそう思う…かな?」
「かな?じゃなくってぇ〜。 
 実際にバンガスさん、おトメさんの事になるとすっごいムキになりますよ。 
 何時もなら頭の上がらないユーキンさんにだって平気で口答えしますし」
「うーん、確かにちょびっとムキになる事もあるかも…」
実際にはちょびっとどころではなかったりする。 
本来気弱なバンガスだが、愛犬ならぬ愛狐であるおトメさんの事となると、 
普段ならバンガスをあれこれ振り回すガキ大将ユーキンに対しても、 
一歩も退く事無く、真正面から意見をぶつけて押し切ってしまうのだから。
「エヘヘ、実を言うとリエも動物結構好きなんですよ〜 
 バンガスさんと一緒ですね〜」
「へぇ…リエさんは何か飼っていた事とかあるんですか?」
「いえ、何も〜。ただ動物可愛いな〜…って。 
 そういうバンガスさんは?」
「僕も…今はおトメさんと一緒ってだけで… 
 前に何か飼っていた事はないですよ。 
 …本とか見て……動物とかって逞しいなって思ってただけで」
「逞しい?」
「あ、ほら…魔物とかになって生き延びてるってトコとか」
「……バンガスさんって魔物が好きなんですか?」 
微妙にリエの声のトーンが下がる。 
どうやら彼女が気に喰わないとする話題に入ってしまった様だ。 
バンガスも早々に気付き、すぐに言い訳をしようとするが…
「い…いや別に魔物自体が好きって訳じゃなくって…」
「魔物が好きなんてダメです!人を襲いますし街も壊します。 
 101便でだって散々苛めてくれましたし…」
「うー…だから別に魔物好きって事じゃなく… 
 …あ、もう散歩の時間だし……僕はこれでー!」 
珍しく怒ってしまったリエを見、これ以上話すのは時間の無駄と見たのだろう。 
逃げる様にして階段を上がり、出て行くバンガス。
「あー、待って下さ〜い!魔物好きなんてダメです!!」 
続いてリエも僅かな仕事を放ったらかしにしてバンガスの後を追う。
執筆者…is-lies
「ちょっとちょっとリエさーーん!? 
 お店の仕事が……って、もう行っちゃったか…… 
 うー、仕方無いなぁ〜」 
黙々と売り上げ計算をしていたナオキングは、 
溜め息混じりに残された仕事を片付けに掛かる。
(……はぁ…こんな事になっちゃって…… 
  先が不安だよぉ… 
  …父さん達や兄さん…心配してないかな……)
家出した時点で両親の事は考えない様にしていたものの、 
やはり血の繋がった親子。気にならない訳がなかった。 
タカチマンの許で居候を初め、又、 
101便の一件でこの地下銃火器店に入り… 
家出してから結構な日時が経過している。 
しばしば、肉親達の顔を見たくなる事もある。 
彼が家出をする原因の1つとして、 
出稼ぎをしていた兄からの手紙もあった。 
今は美容師の見習いをしているらしいが、 
彼の顔も今では良く思い出せなくなって来ている。
(……えーい、ダメだダメだ! 
  後悔なんてしてないぞー!籠の中の鳥のままで一生を終えるなんて真っ平だ! 
  こうして家出したからこそタカチマンさんにだって出会えたし… 
  …………其れに…今はタカチマンさんだって…支えが必要だろうし…)
タカチマンの過去… 
其れを知ると思われるSFESのゼペートレイネ女史… 
101便内で彼女と再会を果たしたタカチマンは、 
表面上では以前と変わり無く振舞ってはいるものの、 
何処か他のメンバーとも距離を置いている様、ナオキングには見えた。 
其れが彼自身の失われた過去とやらに起因する事は想像に難くない。 
ゼペートレイネとの再会により、 
以前に増してタカチマンは己の過去に目を向けてしまい、 
結果、今の己を肯定する心と、過去を暴こうとする心に板挟みされていた。
(…タカチマンさんはタカチマンさんに違いありません… 
  行き倒れそうになっていた僕を拾ってくれたタカチマンさんなんです… 
  今更、過去なんかに縛られないで下さい……!)
執筆者…is-lies

  アテネ、パーク・イマエー

 

リエに追い掛けられつつバンガスはおトメさんを連れ、公園へと辿り着けた。 
其の頃には既にリエの方も己の誤解を解し、折角だからと散策を共に楽しんでいた。 
パーク・イマエーは大企業である白海グループからの出資で成り立つ広大な自然公園だが、 
地球移民によって此処もホームレスの数が最近、異常に増えている。 
今のところはまだ何か事件が起こったなどという話は聞かないが、其れも時間の問題だろう。 
とはいえ近くにある自然公園はこのパーク・イマエーしか無く、 
バンガスは暗くならない内に此処でおトメさんの散歩を終わらせているのであった。 
もちろん其のままの9尾を備えた狐の姿のままでは、 
幾ら結晶到来時に異生物が増えたからと言っても少々目立つ。 
其処はおトメさん自身の変化能力で尾の数を誤魔化してはいるが、 
やはり元の姿で無いと完全にリラックスは出来ないらしい。
「…随分と人が多いんですねぇ〜」 
ペンキの剥げたベンチに座り、 
頭上からの木漏れ日を受けつつ公園を一眺めしてリエが言う。
「仕方ありませんよ、地球全体に破滅現象が起きてるっていうんですから… 
 ……北のイオルコス…でしたっけ?あそこでSeventhTrumpetが難民受け入れしているって言うけど、 
 何だかんだで此処も溢れ返りそうですね………はぁ」 
何だか陰鬱そうに溜息を吐くバンガス。
「…Seventh……何です其れ?」
「あー、僕も詳しくは知りませんけど良くTVのニュースにも出て来てますよ。 
 何かの宗教みたいですけど……」
「ふぅん、良い人達なんですね〜、其のセヴン・スタンプ・ペットって」
「セヴンス・トランペットですよ。 
 まあ確かに他にも慈善事業やってるって聞くし…… 
 …でも好きにはなれないなぁ…宗教って胡散臭いし。 
 ……さて、もうちょっと奥の方行きますよ」 
言いつつバンガスが整備された道を外れ、 
おトメさんと共に雑木林の奥へと突き進んでいく。
「あれ?この奥何かあるんですか?」
「何にも無いですよ。林があるだけで。 
 でも人気は無くっておトメさんは気に入ってるんです」
執筆者…is-lies
徐々に林の中へと入って行くバンガス達。 
数分歩いたと思った頃には既にホームレス達の姿も見えず、 
喧騒から離れた静謐さ漂う空間へと辿り着いていた。
「ふぁ〜…まだこんなトコロがあったんですねぇ〜」
「この辺りは未開発区域が近いから、あまり来る人も少ないんでしょうね。 
 だから静かで僕達もゆっくり出来るんですよ」 
おトメさんと会ってから自然主義者的な一面が大きくなって来たバンガスは、 
森林の息吹を満身に受けるかの様に両腕を広げ深呼吸する。 
話す口調も表情も心底から安らいでいるといった感じであった。 
寧ろおトメさんよりもバンガスの方が楽しんでいる様にすら見える。
「ふぅん…バンガスさん通ですね通」
「そーゆーものかなぁ?……あ」 
何気に照れた様に言いながら、 
不意にバンガスが素っ頓狂な声を出す。
「ついーん?」
「や…やっぱり今日はもう帰ろうよおトメさん。 
 ………先客居るし」
見ると奥の木陰で3人の男女が話し合っている。
「はぁ………此処もなんか人が増えて来たし……散歩コース変えようかな…?」
「バンガスさん重症ですねぇ…… 
 別に人が居たって良いじゃないですか〜。 
 此処空気良いですし、ちょっと居ましょ〜よ〜」
足取り重いバンガスを引き摺る様にしてリエがずんずんと奥へ向かった。 
すると木陰で話し合っていた3人…の内の1人… 
眼の下にクマのある中年が顔を顰めてバンガス達の方を向く。 
「ん?…誰……ああ、子供か。 
 ……この話は後でさせて貰うぞ。此方から連絡を入れる」
「ああ、構えわぬよ。 
 気を付けて帰る事だ、最近は火星も何かと物騒でね」
「私等には関係ないわ。行くぞ」 
恐らく先程まで話し合っていたであろう車椅子に乗った老人の言葉を鰾膠も無く遮り、 
中年は傍らに控えていた黒髪の少女と共に林から立ち去って行った。
残された老人は車椅子の背凭れに体を預け、林の木々を眺めつつ眼を閉じる。 
寝たのかと思ったリエ達が近付こうとすると静かに口を開いた。 
「……此処は騒がしくなくてとても落ち着けるね。 
 君等もリラックスしに来たクチか?」
「……まあ…一応」
「………珍しいペットだな…? 
 狼……いや、狐か。」 
すっと掌を差し出しておトメさんの頭を撫でる老人。
「…?……ついーん」
「あ…あの…」 
バンガスの頭の中では最初におトメさんと会った日… 
詰まりはおトメさんに噛み付かれた日の事がフラッシュバックしていた。 
老人も噛み付かれると思って注意しようとしたのだったが、 
普段はあまり他人に懐く事の無いおトメさんが、何故かこの老人に対しては、 
まるでバンガスと接しているかの様に大人しく頭を撫でさせていた。
執筆者…is-lies
「?…おお、済まん済まん。つい…な。 
 ……こんな所くらいしか自然は残っておらんし、 
 その子も慣れない空気で色々大変そうだな。 
 …まあ、この火星では木々の何を自然というのかは難しいか」
「………そう…ですねぇ……」 
おトメさんが懐いて意外だった為に少々呆けた顔を戻し、 
何となく親近感が沸いたこの老人の話に乗るのも悪くないとバンガスは思った。 
「…でも、文句ばかりは言えませんよ。 
 地球はあんなになっちゃいましたし……」
「破滅現象…か。いつ火星で起きるかも解らぬな。 
 …SeventhTrumpet等の宗教はこれを人の内に潜む悪の仕業とし、 
 最後の審判という日まで其の悲劇が続く宿命だと言うておるらしい。 
 君は…こんな宿命というものを信じるかね?」
宿命と聞いて苦笑するバンガス。 
いつも自分を振り回す強引なユーキンと共に居る彼は、 
昔から、弱気な自分はこの人に振り回される宿命なのだろうと考えながら、 
ユーキンに付き従って生活していた。 
其れは特にユーキンに従うのが苦になっていないという以上に、 
何を言ってもユーキンには通じないと諦めていたからでもある。
「……宿命…ですか? 
 ………僕は…無いと思います。 
 この世界って…皆が其々の意思で動いて構築しているんですから… 
 そんな胡散臭い宿命だとかって…無いと思います。 
 最初から全部決まってるなんて有り得ませんよ。 
 …そういう運命だとか宿命だとかっていう抗えない力が働いてるなんて思ってちゃ、 
 抗う事もしなくなって、絶対に今以上に成長も出来ないし…良い事ありません。 
 SeventhTrumpetとかが思っている以上に生き物って弱くないですよ。 
 だからもし宿命とかあっても、其れを引き千切る位、訳無いかな…って」 
ユーキンのパシリ同然だった彼が、そうユーキンにも反発する様になったのは最近の事。 
護るべき者…共なる者…おトメさんと出会った其の頃から彼は徐々に変わって来たのだ。
「……そうか。諦めずに自分達の強さを信じれるのならば、 
 君はきっと誰よりも強くなれるだろうね。 
 …ふむ、久々に外の人間と話をしたが…ワシはそろそろ戻るとするか」 
言って老人は電動の車椅子を動かして立ち去ろうとし、 
ふと思い出した様にバンガスの方へ振り返り… 
「ああ、そうだ少年。其の子を…彼女を大事にな」 
ニっと笑んでそう言った。
「な!?ななななななななななな……」
老人が「其の子」「彼女」と指したのが、 
リエだったのかおトメさんだったのか… 
其れを考える暇も無くただ混乱するバンガスを尻目に老人は去って行った。
「なななって、バンガスさん何ですか〜?」
「……はぁ、でも……まあ、言われるまでも無いよね。 
 …たまには……人と接するのも…悪くない…かな?」
「?」
「何でもないよ。さ、そろそろ僕達も帰ろっか」 
いつになく清々しい表情のバンガスを見て一瞬きょとんとする2名。 
彼女等を導く様にバンガスは林の出口を目指して歩き始める。
(そうとも。僕を今までの僕から変えてくれた。 
  いつまでも自分一人じゃ何も決められなかった僕を生まれ変わらせてくれた。 
  僕は其れに報いるんだ。 
  SFESだろうが宿命だろうが… 
  僕達はそんなのに負ける程弱くないんだもんね!)
執筆者…is-lies
林の茂みを抜けると公園が眩しく見えた。 
バンガスは小走りで助走をつけ、芝生の柵を飛び越えた。
「おーい!バンガス〜!」 
茂みから飛び出してきたバンガス達を見つけ、 
何者かが叫びながら駆け寄ってきた。 
ボロボロのマントで全身を覆っていたので一瞬誰かと思ったが、 
間違えようもないその聞き慣れた声の主はユーキンだった。
「公園にいないから、 
 どこに行ったのかと心配したぞ」
「大丈夫ですよ。 
 僕等も丁度今帰るところだったんで」
「そんなことより見てくれバンガス。 
 新しいボウガンの試射会だ」
心配して迎えに来てくれたのかと思えば、 
単に新兵器を見せたかっただけのようだ。 
ユーキンが颯爽とマントを脱ぎ捨てると、その中には、 
右肩に掛けたストラップに重火器のようなものが重そうにぶら下っていた。 
以前リュージがユーキン用に改造すると言っていたレールガンだ。 
確かにボウガンのような形に成っているが、弦はない。
「店長が戯れで作ってたヤツですね。 
 完成したんですかぁ」
「試作第一号。 
 どの位飛ぶか分からないから広い場所で試してこいってさ」
「広い場所って… 
 こんな所でそんな物騒なモノを…」
バンガスの心配を他所に、ユーキンはレールボウガンを構えると、 
遥か遠くに霞んで見えるアテネのランドマーク――― 
リゼルハンク本社ビルに照準を合わせ、引き金を引いた。
「ちょっとお頭…!
物凄い爆音、衝撃波があるのではないかと、 
バンガス達は耳を塞いで足を踏ん張ったが…… 
パシュっという弱々しい音と共に、 
矢はヒョロヒョロと弧を描いて約5メートル程飛んで地面に刺さった。
一体何事かと、周りで見ていた者達の目にも、 
単に子供がオモチャで遊んでいるようにしか見えなかったようで、 
何事もなかった様に通り過ぎていった。 
エネルギー出力不足か、構造上のミスか、 
またはレールガンの小型化自体そもそも無理があったのか、 
ユーキン達にはそれは解らなかったが、兎も角、完成にはまだ程遠いようだ。
「……さ、帰りましょう」
「そ、そんな事よりバンガス。 
 ジョイフルが復活しそうなんだ。 
 急いで帰るぞ」
執筆者…Gawie様

ユーキン達がガトリングガンズに戻ると、 
工房兼研究室ではジョイフルの結晶の移植作業が行われようとしていた。 
失敗作を見せられたばかりで多少の不安も残るが、 
嘗ての仲間の復活は素直に喜びたい。
「博士、ほんまに良いんですか? 
 ライブラ貰うて」
「構わん、これも研究の一つだからな」
「未解読の領域も含めてデータは全部こっちに移した。 
 失敗したらまた元に戻せばいい」 
ジードの確認とタカチマンの承諾を得て、 
ジョニーがジョイフルの頭部を開いた。 
結晶は予想以上に損傷が激しく、所々焼け焦げ、ひび割れている。 
ジョニーは慎重に結晶を取り出し、ジードに手渡すと、 
そこに新たなコアとなる結晶ライブラを納めた。
「立て、ジョイフル…! 
 ロバーブラザーズにはお前が必要なんだ」 
ユーキンがその光を失った瞳を覗き込む。
「何言ってんだ。お前にやるとは言ってねェって」 
勿論ここにいる誰に所有権がある訳ではない。 
リュージが一応釘を刺しておく。
「ユーキン、リュージ、離れてろ。額の石化光線もあるんだ。 
 暴走もあるかもしれないし、正直俺も自信がある訳じゃない」 
そう言ってジードが転送プログラムを走らせた。 
一同がジョイフルの反応を見守るが……
「あ、やべ…!」
突然、転送元のPCがシステムダウンし、 
起動に耐えられなかったのか、損傷していた結晶が粉々に砕け散ってしまった。
「失敗か……」
「ジョイフル〜〜!!」
ユーキンがジョイフルの体にしがみ付いて叫ぶ。 
…と、それに応えたかのように、 
フサフサの耳がピクリと動いたかと思うと、 
駆動音と共につぶらな瞳に光が蘇った。
「ゆーきんユーキンゆーきんゆゆゆゆゆーきんきききんきんきん」
「起動した!?」
「半魚人半魚人半魚人半魚人半魚人ゆーきん半魚人」
「なんか変やけど、一応相手を認識してるな」
起動はしても、 
既に結晶反応すらなくなっていたコアから、 
結晶同士の相性も解らないまま無理やりデータを転送したのだ。 
ユーキン達の記憶にあるジョイフルが復活出来たのかは疑問である。 
だが、兎も角、結晶の移植には成功したようだ。
「やはり人格構成が不完全か… 
 だが、時間をかければシステムの自己修復も可能だろう」
「しかし、流石はジードさんですね。 
 デジタルデータをコピーするような要領で… 
 上手くいくものですね」
「………さぁな。 
 結晶はまだ人類にとってはブラックボックスだ。 
 自信はなかった訳だし、偶々、偶然さ…」 
佐竹が犒うが、ジードはどこか腑に落ちない様子だ。
「きっとユーキンさんの願いが通じたんですね〜」 
メルヘンな感想を述べるリエ。
「願いか… 
 結晶の謎解く鍵は、案外そういう所にあるのかもしれんな…」
執筆者…Gawie様
「其れにしてもカワイイです〜ジョイフルさんって♪ 
 本当に兵器さんなんですか〜?」 
ジョイフルのフサフサした体を突付いたりして楽しんでいるリエ。 
一応、仲間とはいえ相手はネオス日本共和国の最新結晶兵器… 
はっきり言ってかなり危ない。
「兵器だよ!だからそんな軽々しく触っちゃダメ! 
 実際、コイツだって大名古屋国大戦の英雄になった程なんだし… 
 …ん?兵器………?あ、そうだバンガス!」 
何かを閃いたのか、ユーキンは急に手を叩くと一気に立ち上がる。
「ど…どうしました御頭?」
「大名古屋国大戦の結末だ! 
 ボクらが忘れててもジョイフルなら忘れる筈無いだろ? 
 ジョイフルから聞き出してみるのダ!」
「あ、そういえば…。……御頭が珍しく冴えてる!」 
一週間程前…ユーキン達が独自に情報収集をしていた時、 
ヴァルカレスタという男のガセネタに乗せられて窮地に陥った其の日、 
そう…大名古屋国大戦での強敵TAKEと出会った日だ。 
其の日、彼等は自分達が、 
大名古屋国大戦の最後の辺りを全く覚えていなかった事に気付く。 
其処だけが穴の開いた様にまるで思い出せない。 
だが、流石に結晶兵器ジョイフルであるなら忘れているなどという事は無いだろう。
「まあ確かに興味あるな。 
 今のコイツからマトモに聞き出せるかどうかは解らんが… 
 ……ダメモトで聞いてみるか?」
リュージに言われるまでも無く、 
ユーキンがリエの手からジョイフルを取る。
「ユーキン半魚人!半魚人ゆーきん!」
「なぁジョイフル!大名古屋国大戦… 
 ボク達が宗太郎を追い詰めた後、どうなっていた?」
「大名古屋国大戦…… 
 アマノトリフネ!宗太郎!TAKE!リリィ!強敵!」 
其れは恐らく、宗太郎達と戦っていた時の記録だろう。 
ならばユーキン達でも覚えている。宗太郎を追い詰めた其の後が解らないのだ。
「其の後、其の後」
「…………ダウン………再起動!獣人解放戦線!SFES! 
 ふるーつれいど!ワイヴァーン!脱出! 
 ごとりん博士!わいずまん・エメラルド!JHN!」
流石のユーキンも其処は聞き逃さない。 
他の全員も流石に驚きを隠せない様子で、 
先程までジョイフルの台詞に興味を示さなかったジード達まで、 
ジョイフルの前へと集まり其の言葉に耳を傾ける。 
リエだけはやはり何の事かも解っていない様であったが。
「ハァ!?何で其処でSFESが出て来るんだ? 
 ってゆーかJHN……って…確か宗太郎とかが言ってた…」 
何とか過去の細かい記憶を引き出すユーキンの呟きに、 
バンガスも覚えがある様でこう付け足す。 
「…記憶撹乱ウイルス…でしたよね…確か… 
 ………まさか…SFESが………」
大名古屋国大戦時、既にSFESが絡んでいた。 
しかも、もしかしたら自分達と顔を合わせていたのかも知れない。 
背に冷たいものを感じたユーキン達だったが、 
彼等の驚きは其れだけで終わらなかった。
宗太郎生存!ムキムキTAKE!」
「!!」
「宗太郎生存!ムキムキTAKE! 
 そうたろう生存!むきむきタケ! 
 宗太郎せーぞん!ムキムキたけ!………」 
壊れたCDプレーヤーよろしく、ジョイフルが繰り返す。 
執筆者…is-lies

半年前 
ネバダ州エリア51上空
辛くも脱出を果たした青達の眼下には、 
巨大戦艦アマノトリフネの巨体がゆっくりと雲海に沈んでゆくのが見えた。
「…なんか、スッキリしねェ終わり方だな。 
 結局俺達は何をやったんだ…?」
「…いや、これからさ… 
 青、エース、オレに雇われてみる気はないか?」
「ガウィー…お前は…」
「みさいる!! 
 前方、二時!!」
「ちッ、奴等か…!? 回避だ!」
「どうやって!? 
 この竜操縦桿もないぞ!」
「…仕方ない、飛び降りる」
「この高さから…!?」

 

 

 

―――その後、どうやって助かったのかは覚えていない。 
アマノトリフネでの死闘の記憶すら定かではない。 
ジョイフルの記憶もここまでで…、 
「SFESみさいるSFESみさいる… 
 …爆発………………………………」 
フリーズしてしまった。
執筆者…Gawie様
「大名古屋国大戦にSFESの介入… 
 本田宗太郎は生存… 
 いまいち掴めねェな…」
ユーキン、バンガス、キムラ、メイ、 
大名古屋国大戦に関わっていた者全員が
その時の記憶を失っているという現象はこれで説明が付いた。 
記憶撹乱ウイルスJHNと、SFESによる隠蔽工作があったということだ。
「JHNを何とか出来れば、何か思い出せば、 
 そうすればSFESの事も何か分かるかも…ねぇ博士」
「それはどうかな… 
 …忘れているだけなら思い出す事も出来るだろう。 
 だが、一度消えてしまった記憶は…二度と戻る事はない…」
「なるほど、記憶を忘れてるんじゃなくて、消されたって事もあるのか。 
 あ………………」
大名古屋国大戦の記憶を失っているバンガス達より、 
もっと深刻な記憶喪失者がここにいる事を忘れていた。
「…JHNか…」
タカチマンは紙コップにコーヒーを注ぎ足し、タバコに火を点ける。 
普段と変わらぬ表情だったが、他の者は妙な気不味さを感じて一瞬黙り込んでしまった。
「そ、そう言えば、リリィはどうなんだ? 
 名古屋国大戦の記憶…」
確かにリリィはジョイフルと同じく結晶技術で作られたアンドロイドだ。 
同じようにJHNの影響を受けずに大名古屋国大戦の記憶を残しているはずである。 
リュージが咄嗟にリリィに訊いてみるが、言いかけてから口篭る。 
やはり話を振る相手とタイミングを間違えた事に気付いたのだ。 
リリィにしてみれば、 
主であるミナが何故か連合議員としてテレビに出ていた事と、 
本田宗太郎の生存を知ったのだ。 
彼女の心境は容易に想像出来る。 
尤もアンドロイドにそんなシンパシーが通じるのかは疑問であるが、 
そういう事には気は回らなかった。
「…宗太郎様…」
「いや、すまん… 
 何か、マズい事訊いちまった…ような気がする」
「…いえ、記録ならあります。 
 役には立たないと思われますが…」
リリィはスっと立ち上がると、 
ジョイフルに接続されているケーブルを一本抜き取り、 
ジードの机の上からアダプタを一つ選び、 
それと繋いでケーブルを自分の耳の後ろ辺りに差し込んだ。
「映像をそちらに送ります」
パソコンの画面にリリィの記憶が映し出された。 
何故か画質は非常に悪く、 
暫くノイズだけの画像が流れた後、 
突然、全身血まみれの本田宗太郎の姿が映った。 
その表情に全員が息を呑み、画面に見入った。
執筆者…Gawie様

 

《……ミナを…脱出ポッドへ 
 ………… 
 次は…リ…お前だ… 
 良くぞ今迄……こんな男に…… 
 ……………ミナを………頼む…………》
《……宗太郎様を置いて…行けません…》
《………もう解るだろう?…私は…もう直ぐに…… 
 ……新たな主は………ミナだ……行け…リリィ… 
 リリィ!!命令だッ!!行けッ!!》
次の瞬間、画像に赤い液体が滴り、視界は闇に閉ざされた。 

 

「ど、どうなったんだ…?」
「この後、私達は脱出ポッドで脱出しました。 
 残念ながら、SFESに関する記録はありません。 
 それでも宜しければ続きはあります。 
 それとも、これより前の記録をご覧になりますか?」
リリィは相変わらずの無表情で訊き返す。
「い、いや…いい、やっぱ止めとくわ…」
「そ、そうですね。 
 他人の記憶を覗くみたいで趣味悪いですよ。 
 やめにしましょう。 
 あ、僕そろそろ夕飯の支度しないと」
暫くは記憶に関する話題はNGになりそうだ。 
折角のジョイフル復活祝いが気不味い雰囲気になってしまったが、 
何はともあれ、ガトリングガンズはジョイフルという新たな仲間を迎え入れた。
捨て犬、野良猫を、来る者拒まずで無考えに受け入れるが如く… 
タカチマン、ナオキング、ジョニー、リュージ、リエ、ジード、 
キムラ、カフュ、ユーキン、バンガス、おトメさん、リリィ、佐竹、 
そしてジョイフル。 
地球のガトリングガンズでやっていた時を考えれば、かなり大所帯になったものである。 
今ではこの2号店の工房も機能を取り戻し、 
以前ガウィーが譲ると言って放置していったパソコン3台もちゃっかり運び込まれ、 
設備も、充実しているとは言えないまでも、それらしくはなって来た。 
エーテル先駆三柱の1柱と言われる魔導科学研究者タカチマン。 
裏稼業御用達の一流の銃職人リュージ。 
ハッカーで情報屋のジード。 
名古屋国が残した最新結晶アンドロイドリリィ。 
超結晶ライブラを搭載して復活した結晶兵器ジョイフル。 
設備、資金面を除けば、そこらの企業の研究所などもう相手ではないだろう。 
メンバーがこんなアナーキーの寄せ集めでなければ…
執筆者…Gawie様
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