リレー小説3
<Rel3.ガトリングガンズ10>

 

 

「一丁上がり!
 今度はどうだ? タカチマン博士」
「うむ……
 今一歩だな。皮が厚い」
「だがこれ以上具沢山にすると形が崩れるぜ?」
この日、朝から、
タカチマンとリュージは例のタコ焼き器のような物を手に、工房で何やら作っていた。
「形が崩れると暴発するな。エンハンサーの干渉値を下げるか」
「ニトロ弾だって実際にはグレイザーと大して変わらねェだ。
 結晶が上手く反応してくれないと折角のアダマンチウムとヒボタニウムが勿体無いぜ」
「エンハンサーの出力、結晶と弾の外殻の比重のバランスが問題だな。
 試行錯誤しかあるまい…」
作っていたのは弾丸に結晶を内包した魔法弾だった。
タカチマン博士のアイデアだが、どこでインスピレーションを得たかは言うまでもない。
SFESに関して齎された情報を整理したところで、
結局のところ謎が深まるだけで対抗策など見えてはこない。
なにより、SFESの強さは結晶能力云々だけではない事は彼等は身にしみて解っている。
ここはそんな情報よりも、101便で直接対峙した自分達の勘を信じるべきだろうということで意見は一致した。
そこで、安直ではあるが、まず彼等が取り掛かったのは武器の強化というわけだ。
判っているのは、SFESといえど、生身の生体には変わりはない。
普通の銃弾でも十分ダメージを与えることは出来た。
だが同時に、SFESが本気を出せば銃弾など全く通用しないと言う事も経験済みである。
効く効かないは兎も角、やれることはやっておくべきなのだ。
先の本田ミナの依頼、
ナオキングの決心もあってか、とりあえず引き受ける事にはしたのだが、
本田ミナ本人に会うまではとても信用出来るものではなかった。
しかし、こちらが依頼を断っても作戦は実行するというのだから、乗らない訳にもいかない。
また、『101便事件の陰の功労者である貴方方に』とも言っていた。
101便事件の証人というよりは、SFESとの実戦経験を買われたのだろう。
あの諜報員が言う作戦とは、唯のガサ入れなどではない。
これによりリゼルハンクグループがもしも黒なら、経済に与える影響は計り知れない。
とても公には出来ない、実戦もあり得る強行捜査。クーデターと言ってもいい。
それを見極めるためにも、こういう解り易いエサは喰らっても良いだろう。
「それにしても、アレから来ないよなぁ
 まさか火星政府に直接問い合わせる訳にもいかねェし」
ジードが呟いた。
彼の経験上、依頼されたまま依頼主と連絡が取れなくなる事も珍しくはない。
だが、こちらの返答も待たずに前金は貰っているのだ。
尤も相手が勝手に払ったのだから返金するつもりなかったが、
今回ばかりは、それがどうにも不気味だった。
店のドアの外に人の気配を感じる度に警戒の目を向ける。
その時、ドアベルが鳴った。
入ってきた客はやはりあの諜報員とは違った。
だが、その客を奇声を上げて迎えたのはユーキンだった。
「あぉあッ!! ツヨシン! !」
執筆者…Gawie様
「よぉ。腕無くしちまって、お前そんなに弱かったのか?相手が誰だろうと油断スんなよ」
「久しぶりの再会の第一声がそれかい!
 これは敵に捕らわれたジョイフルを助けるために…」
「敵に洗脳されちゃったジョイフルに石化ビーム喰らっちゃったんですよね」
バンガスがさらりと言った。
「本当ニゴメンネ、ユーキン!」
ジョイフルが頭を丁寧に下げる。
「ところで何その娘?」
ツヨシンが問い掛ける。
「ああ、おトメさん?彼女はボクらロバーブラザーズの資金げん…はうっっ!?」
よくよく見るとバンガスがユーキンに対して物凄い睨んでいる。
「御頭ぁ〜…おトメさんに犯罪やらせるなって言いませんでしたっけ…?」
「大名古屋大戦英雄の『青』にツヨシンか。
 私はタカチマンだ」
「タカチマン!?…も、もしかしてエーテル先駆三柱の?」
ツヨシンがおずおずと尋ねる。
「………こっちが助手のナオキングだ」
「よ、よろしくお願いします…」
ツヨシンの問いは無視された。
「俺はリュージ、ここの店長だ」
「私はリエ。ここのアルバイトです」
「わいはジョニーや」
「俺はジード。よろしく」
「佐竹だ。『青』とは前に会ったな?」
各々の自己紹介も終わった…が、
『青』が妙な発言をした。
「あれ?…そこの女は誰だよ?」
少し嫌そうに言う。
「え?それってリリィさんのこと…うわあああぁぁぁ!!」
ナオキングが後ろを振り向くと、そこには黒髪の少女と、少女を睨むリリィがいた。
「はじめまして『変化に拍車をかける鉄』さんと『不変の紅』さん♪私は『闇』っていうの♪よろしくね♪」
笑顔で言うが、発せられる気がその場の雰囲気を暗くしていた。
だが、ナオキングだけが少女に詰め寄り、言った。
「何で…ここにいるの?」
「遊びに来ただけだよ♪それじゃあ英雄さんたちにも挨拶したし、じゃあね♪」
そう言うと『闇』は何処かへ行ってしまった。
「なんだ今の?」
「い、いや、気にしないでくれ。(何しに来たんだ…?)
この場所はタカチマン達の本拠地。
ああも易々と侵入を許してしまい、
これでSFES相手にやっていけるのかという不安が沸き立つ。
『闇』という少女にしてもタカチマン達を露骨に…
寧ろこれ見よがしに監視しており、何らかの意図がある事は明白。
其れが何であるかまでは解らないが、
このままではSFESとの戦闘が終わっても…或いは戦闘中でも気が抜けない。
あの少女がSFESの味方でない事は何となく解る。
だからといってタカチマン達の味方であるとは言えない。
挑発的なまでの無断侵入が、対等な関係を到底思わせないというのも理由だ。
『闇』にとってはタカチマン達は唯の駒…
タカチマン達は直感からそう感じ取っていた。
「き…気にしないでくれって…そんな訳にもいかないだろ?
 仲間には見えなかったけど…?」
流石に瞬間移動能力を目の当たりにして動揺を隠せないツヨシン達。
タカチマン達としても其の質問に対し、
私達の本拠地は正体不明の人間に容易く侵入を許していますなどとは言えない。
一瞬、こうやって不信感を植え付けるのが目的かとも疑ったが、
其の手にしても回りくどい事に変わりは無い。
結局、あまり係わり合いになりたくない知人だとだけ告げる。
一応、各部屋にメンバーを配置して隙は作らない様にしているものの、
あの能力の前では一時凌ぎに過ぎないだろう。
無論、タカチマンとてこのまま『闇』の無断侵入を、
指を咥えたまま見過ごしている積もりは無いが。
「このタイミングで来たとなると…
 『青』さんとツヨシンさんも参戦って事でしょうか?」
「ん?何?何の話?」
執筆者…夜空屋様、is-lies

「リゼルハンクの武力制圧?
 …本田ミナがぁ?
 ………なぁる、其れがあの依頼の目的って訳か…」
話を聞いて何やら納得した様子の『青』。
依頼…どうも『青』が此処に訪れたのも偶然という訳では無いらしい。
「あの依頼?『青』君、其れは一体…?」
「ん?ああ…佐竹さん…ってか皆は知らなかったっけな。
 大戦の後、俺が何やってたかってのは。
 良い機会だし、ここらでちょういと整理しておこうぜ」

 

『青』と佐竹の出会いは101便事件よりも遡る。
佐竹が『青』に、暴走気味であった日本皇国の制止と破滅現象の調査を依頼したのが始まりだ。
佐竹は『青』に依頼をした直後、日本皇国の追っ手に捕まりそうになり、
其処で出会ったミナとリリィ、そしてカフュを破滅現象の調査仲間にし、
破滅現象情報の出所である情報屋ガウィーを目指して101便へと搭乗…其処でタカチマン達と出会う。
一方の『青』は…
「出会ったエースと一緒に日本皇国をぶっ潰して来たんだ。
 其処で…前支配者らしい奴と其の部下ストグラってのに出会った。
 どうも日本皇国の摂政…藤原だっけ?そいつと組んでたみたいだが……」
突然の前支配者の話題…タカチマン達に動揺が走る。
「……前支配者が日本皇国に?」
「藤原か……聞いた噂じゃ行方不明らしいな。
 日本皇国の機密情報を持ち逃げしたとも囁かれているが…。
 …前支配者………日本皇国に何かあったのか?」
「さあてな。其の前支配者ってのも今じゃ……
 あーー………待て、そういや…八姉妹の結晶が日本皇国にあったとか…
 カオス何たらってのが」
「?何だ其れ?知らないぞ……噂話か何かか?」
興味を示すもののソースは確実に確かめるジード。
八姉妹の結晶探しが公になってから、結晶関連のガセネタが特に蔓延している。
噂話程度であるなら正に掃いて捨てる程あるのだ。
「……ん、んんぅ…リゼルハンクの奴にちょっと聞いた」
「リゼルハンク?そいつの名前は?」
リゼルハンク…即ちSFESだ。信用に足る情報とは思えないが気にはなる。
だが『青』が既にSFESと接触しているとなると、
『青』自身にも少々気を払わなければならないかも知れない。
「いや、聞いてない。イルヴさんの伝だったからイルヴさんなら知ってるかも…。
 で、話を元に戻すぜ?
 其の後…変てこな宗教団体と戦ったりしている内に地球全域での破滅現象さ…
 忍者みたいなプロ達やセレクタって奴等と一緒に地球を脱出したよ」
「セレクタ? 何処かで聞いたな…其れで?」
「火星に着いた後、イルヴさんとエースと一緒にイオルコスに行って店を開いたんだ。
 イルヴ何でも屋ってな。今じゃ結構客来るんだぜ?
 店員だって2人雇って…つーかまあ居候みたいなもんか…。
 色んな事やったぜ。人探しだの、テロリストをやっつけたり、遺跡を探索したり…。
 で、其の中で本田ミナからの依頼があったんだ。
 大名古屋国大戦の英雄を集めろってな。今は其の真っ最中って訳。
 そんな中、ガウィーから連絡があったんだ」
「アイツに…ガウィーにどこまで話したんだ?」
「いや、どこまでって言うか、
 久しぶりに連絡が入ったんで、
 こっちが、名古屋の時の英雄を探してるっていったら
 ここを教えてくれたんだ。
 それだけだな」
「名古屋大戦の戦友のよしみか…
 それにしても、唯の情報屋にしては妙におせっかいだな」
「ツヨシンの方はどうなんだ?
 そういえばお前も…雰囲気変わった、かな?
 なんかこう、前より男らしくなったというか、
 そそられるものがある様になったというか…」
「なんだよ、そそられるって…
 俺だってこっちに来て色々あったからな。
 実はリゼルハンク絡みの仕事もあったし、
 そこで強いヤツにも出会ったし…
 今は、弟子の面倒も見てるしな。
 いやまぁ、それはそれで、
 俺の方は、昨日、ただ、ここに行けって言われただけだ。
 匿名の依頼でな」
「匿名って、それガウィーじゃないのか?」
ジードの考えの中で色々な事が符合した。
ガウィーに知らされた八姉妹と前支配者の情報、
それに八姉妹の結晶の捜索依頼、
これらは『青』が提供した情報との共通点も多い。
ガウィーから情報を得て遣って来た火星政府の諜報員。
タカチマン達が受けた依頼と、『青』達が受けた依頼を統合すれば、
今回の依頼の全容が見える。
火星政府の一派と本田ミナが軍を擁し、リゼルハンクを武力制圧。
大名古屋大戦の勇者達がこれに協力する。
今日、青とツヨシンを呼んだガウィーも間接的に協力した事になる。
「しかし、ガウィー殿はなぜ来ないのです?」
佐竹も情報源であり依頼主であるガウィーがこの場にいないのが腑に落ちない。
「勿論誘ったぜ。
 けど、『遠慮しておく』だってよ」
「それ一番怪しいじゃないか」
「しょうがないだろ。
 じゃあ、アンタ等はOKでいいんだな?」
101便事件、青と前支配者、リリィと本田ミナ、
そしてタカチマンとゼペートレイネ…
複雑な因縁がある。
これまでの事を考えれば、彼等が今回の依頼を無視する事は出来ない。
仮にこの作戦が成功すれば、
SFESが有するという八姉妹の結晶も誰かが手にし、
破滅現象の原因であるという前支配者も抑える事が出来る。
色んな問題が一遍に片付く。
「……………………」
「…やるんだな?」
一同は黙って頷いた。
「とりあえず、ガウィーにはまた連絡してみる。
 それとなく探ってやるさ」
「で、こっちは最初の依頼でしか聞いてないんだが、
 この作戦、いつやるんだ?」
「そういえば、1週間後とか言ってましたっけ?
 ならあと3、4日ですね」
「アバウトだな。
 具体的に何時にどこで何するんだよ」
「…聞き忘れた?
 いや、ワザと知らせなかったのかもな」
「では、その前に我々もどこかで合流しよう。
 場所と日時は、やはり直前になって互いに連絡を取り合うのがいいだろな」
執筆者…is-lies、Gawie様
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