リレー小説3
<Rel3.鉛雨街4>

 

 

相手が自分を利用するのなら、こちらもそれを利用すればいい。
メイもそのくらいの事は考えたが、
子供ゆえにそれが出来たのだという自覚はなかったし、
僅かながら暗殺者ギルドに情が移り始めている事に危機感も感じていなかった。
とりあえず翡翠の話を信用するならば、悪い流れではない。
カオス・エンテュメーシスはディレイトが持っている事が分かっただけでも、
依頼は半分達成したようなものだ。
後はどうやってディレイトに近付き、結晶を奪うか…?
メイは一晩中考えたが、それは無駄な徹夜であった。
翌朝、早くも翡翠の読みが当たったのだ。
メイはディレイトに呼び出されてある場所に向かった。
遠くからでも目立つ建物だったのでそう迷う事はなかった。
方角を頼りに迷宮のような廃墟の地下道を二時間ほど歩くと、
丁度地下道を抜けた所でその建物の真下に出た。
「近くで見ると結構崩れてるな」
「お嬢、上まで飛びますか?」
「いえ、階段をさがしましょう」
優に200メートルはあろうかという瓦礫の巨塔―――
嘗ては華の都の象徴であったこの超高層ビルも、
今では崩壊した街を弔う墓標のように悲しくそそり立っている。
崩れた非常階段を上り、上に行けそうな所を探しては、ひたすら最上階を目指して攀じ登った。
見渡せば鉛雨街を一望できる。遥か西の方には幽かに富士山も見える。
そろそろ最上階だろうという所でメイの足が止まった。
「お嬢、このエレベーターだけは生きてるみたいだぜ」
「ここで間違いなさそうですね。行きましょう」
メイ達が乗り込むと、エレベーターはボタンを押さなくても上に動き始めた。
着いた部屋には電気も通っており、結晶関連の装置が並んでいた。
やはり、ディレイトがメイを呼んだのはカオス・エンテュメーシスに関係する事だろう。
この部屋にその八姉妹の結晶があると見てよさそうだ。
「よく来た、敷往路メイ」
待っていたのはディレイトとなぞなぞ婆さんだった。
ディレイトの手には菫色の小さな結晶が握られている。
聞いた情報と色は異なるが、形は一致する。
何より、結晶から発せられる例えようもない波動―――
これが何の反応もない透明なガラスだったとはとても思えない。
翡翠が言っていた「復活させた」というのはこの事だろう。
これが本当のカオス・エンテュメーシスに間違いない。
ディレイトの強さを考えると、ここで結晶を奪うのは至難の業だ。
ところが、予想に反し、何故かディレイトはあっさりとメイに結晶を手渡した。
「感じるか?
 これが八姉妹の結晶の一つ、カオス・エンテュメーシスだ」
「ギルドマスター、この結晶、何に使おうと言うのですか?」
「もちろん金だ。
 このまま売っても十分過ぎるほどの金になるだろうが、
 正しい使い方を知っておいた方がより金になる。
 敷往路メイ、お前はワイズマン・エメラルドも見たことがあるだろう?」
「……はい」
「大名古屋大戦、
 本田宗太郎はワイズマン・エメラルドを起動させようとした。
 敷往路メイ、お前を器として…
 何か知っているだろう?」
「…知りません。
 あの時の記憶がないんです」
「ほっほっほ、記憶がないか、
 ならばワシが思い出させてやろうか?
 なぁに、痛くはせんて」
老婆の怪しい手つきにメイは思わず後退りした。
とその時だ。ディレイトが何かに気付いて周囲を警戒する。
「ロケット弾か!?」
突然の爆音とともに、部屋全体が大きく揺れ、
爆風が部屋の壁に大穴を空ける。
ディレイトが着弾より先に気付いたので、全員被害はなかったが、
安心する間も無く、その穴から大量のエネミーがなだれ込んで来て、
一斉にディレイトに襲い掛かった。
「小癪な…」
大量のエネミーもディレイトの前にはカラスの群れ程度に過ぎない。
だが……
(私達には攻撃してこない…?まさか……)
 ハチ!タクヤ!逃げます!!」
エネミーは恐らく翡翠の援護。
チャンスと見て、メイ達は壁の穴から勢いよく外へ飛び降りた。
「あ!こら待て!
 そうか、犬の方の能力ならここから飛び降りることも可能か。
 婆、下で待機しているジャングとチャンに伝えてくれ。
 メイは殺さずに結晶を取り返せとな」
執筆者…Gawie様

メイ達が地上に降り立つと同時に翡翠が駆け寄ってきた。
「よくやった。
 急げ、地下へ逃げるぞ」
翡翠の裏切りは完璧だった。
メイも自分なりに色々作戦は考えていたが、
それが馬鹿らしく思えるほど、作戦は簡単に成功した。
裏切られる事はあったが、裏切りに加担する事でメイはその怖さを知った。
「よし、地下に潜ればこっちのものだ。
 結晶を見せてみろ。一応調べる」
「…………………」
「ほら、早くよこせ」
「…まだ渡せません」
「……分った分った。
 鉛雨街を脱出するまではお前に預けておく」
「翡翠さん、私…やっぱり……」
メイは突然立ち止まった。
いまいち翡翠を信用出来ていないのと、妙な後ろめたさを感じていた。
この結晶は誰が持つべきなのか……?
それが見極められない。
何も奪い合わなくとも、小泉とディレイトを交渉の席に着かせる事も、
メイには不可能ではない。
「…オイ、何やってる。
 今戻っても殺されるだけだぞ」
「返して謝ります」
「チッ、バカが、結局こうか…
 さっさと殺っとけば良かったぜ…」
メイの甘さに耐え切れず、ついに翡翠は本性を現した。
そこへ後からジャングとチャンが追いついてきた。
ディレイトも流石にこのくらいの警戒はしていたようだ。
「やっぱりィ、この隊長は怪しいと思ったねェ」
「命令だからメイは殺さねェけど、
 翡翠は殺っていんだろ?てかもう隊長じゃねェし。
 コイツを仕留めた奴が次の隊長でいいな」
「この場合ィ、問題ないんじゃねェ」

 

「翡翠、お前やっぱり…」
「お前等もいい加減学べよ。プロの仕事を…
 悪いが、SFESとは年間契約なんでな。
 お前等殺して結晶は貰っていく」
「どっちもさせません。
 ソコルディ!!」
メイの呪文の詠唱により、
地下道の闇が黒く滲み、中からうようよとグレーターデーモンが這い出してきた。
「グレーターデーモン達!敵を捕らえなさい!」
「ほう、悪魔召喚か。
 精霊神を2体従えていながら、何を今更…
 見せてやる。召喚術ってのは…こうやるんだ。
 出ろ! 雷光の破壊神!!」
翡翠の背後に神々しく光る三つの眼が浮かび上がり、
そこから放たれた雷の一閃でメイのグレーターデーモン達が消し飛んだ。
「シヴァ!? ウソだろ!?」
「そして…我が身に宿れ!!」
翡翠が大物精霊神を召喚したかと思えば、
今度はその絶大なオーラが翡翠の体に流れ込んでいく。
「そんな! 精霊神の力を吸収した!?」
「精霊神魔魂!
 人の身で使える奴がいるなんて…!?」
執筆者…Gawie様
空より齎された結晶によって、
一部の人間や動植物、鉱物が特殊な力を開花させた。
其れが結晶能力と呼ばれる事は広く知られているが、
ハチやタクヤ…即ちダルメシアや猫丸など精霊の表面化はあまり知られていない。
人間の信仰心を糧として誕生したとも言われる精霊…
そして桁外れの信仰心を得て『神』と呼ばれるまでに至った精霊神…
何れも普通の人間が正攻法でどうこう出来る相手でない事は明白。
翡翠が卓越した呪術師である事はメイ達にも理解出来ている。
だがそんな彼女達ですらも…
極めて強大な精霊神シヴァの神力を其の身に移せる
…などと言われれば笑い飛ばすしかなかったであろう。
この信じ難い光景を目の当たりにするまでは。
「ちぃ…冗談じゃねぇぞ!
 こんなバケモン、マトモに相手なんかしてられっか!
 オイ、ギルマスへ連絡だ!指示を請うぞ」
自分と相手の格差を一瞬で看破し、
素早く廃車の陰へと転がり込むジャングとチャン。
メイやタクヤもハチの起す風の協力を得て後退、距離を取る。
「雑魚に用は無いぜ。
 大人しく結晶を寄越した方が身の為だぞ?
 俺はお前のそっ首にはこれっぽちの興味も無いんだ」
禍々しいオーラをひけらかしながら翡翠が無造作に距離を詰める。
其の一歩一歩がメイ達の心に警鐘をガンガンと鳴らすも、既に遅し。
逃げ出す素振りを見せた瞬間、
消し飛ばされてしまうのではないかという恐怖が其の場の全員を汚染する。
「こ……こんな……」
「動けないだろう?
 まあ…シヴァの恐怖に打ち勝てる人間なんざそういないだろうがな」
動けない。いつぞや経験した様、金縛りにされてしまっている。
あまりに格差があり過ぎる。瞬時に交戦という選択肢が消し飛ぶ。
翡翠が後2、3歩も詰め寄れば、逃亡の選択肢までもが無くなってしまう。
そうなってしまえば完全な詰み。
「ッ…(動け!動けッ!呑まれたら負けだッ!!)
恐怖で支離滅裂になろうとする感情を纏め上げ、
何とか金縛りを打ち破り、呼吸を整えるメイ達だが、
圧倒的な力を見せ付ける事で心を挫かせ、
戦わずして勝利を収めようと目論んでいた翡翠は軽く舌打ちし苦い顔を浮かべる。
「…死ななきゃ解らないか?
 俺はこの力を持ってから日が浅い。
 ちいとばかし地形変っちまうかも知れないぞ」
執筆者…is-lies
真剣勝負において相手との力量差が計れないようでは話にならないが、
メイやジャング達は瞬時にそれを悟り、そして気圧される事無くそのプレッシャーを克服した。
問題は次にどう行動するかだ。
「…ギルマスの返事ィ、
 結晶は絶対に死守、だとよォ」
「…そりゃそうだ。
 まぁ、初っ端ならナメられる訳にもいかねェな」
「じゃ、
 基本からァ、いくか…」
チャンは大まかな選択肢を頭に浮かべた。
1.果敢に立ち向かう
2.隙をみて逃げる
3.負けを認め相手の要求に従う
1は論外、この場合、現実的なのは2だ。
同時に、それは翡翠が最も警戒する事でもある。
突然、何を思ったか、チャンが飛び出してメイに掴みかかった。
「どう見てもォ、勝ち目はねェ。
 結晶は捨てて逃げるぜェ」
「え、いいんですか?」
翡翠の視線が結晶の方に泳ぐ。
それでいいんだ、とその殺気が揺らぐ一瞬!
翡翠の背後からジャングが一撃を放つ!
凄まじい剛拳が地下空間をドォォォンと轟かせ、翡翠の体は地面に叩きつけられる。
チャンも即座にメイを突き飛ばし、翡翠に向かって手刀の連続攻撃を浴びせる。
巨大な丸太で打つようなジャングの拳と、大木も薙ぎ倒す鋭利な斧のようなチャンの手刀は、精霊神シヴァのオーラをも貫き、
翡翠の体に鮮血が迸る。
「す、すごい…
 ジャングさんも、チャンさんも…」
圧倒的な力量差を前にしながらも、
投降するように見せかけ、相手に一瞬の油断を与え、
その一瞬を逃がさず捉え、勝利の可能性をこじ開けたジャングとチャン。
その間、時間にすれば僅か数秒にも満たなかったが、
その数秒間、メイはあろうことか、彼等の攻防に見とれて立ち尽くしてしまった。
最初に感じた圧倒的な力量差に間違いはない。不意打ちが成功したとしても、一秒たりとも油断は出来ないのだ。
メイがハッとそれに気付いた時―――
メイの目に映ったのは、ボロ布の様に薙ぎ払われたジャングの姿だった。
「…バ、馬鹿ガキ……
 3秒は…隙…作ってやっただろうがよ……
 な、何突っ立ってやがった…ん……」
「ジ、ジャング…さん……」
「流石…見込んだだけの事はあった、いや予想以上だったぜ」
地面に転がったジャングの亡骸に一瞥を与え、
メイ達の方向き直ると、翡翠は無言で襲い掛かった。
避ける隙も、覚悟を決める暇もなく、
翡翠の一撃の圧力がメイを貫いた。
「…………………」
「…な、何だ…?」
メイにとっては、暖かく力強い何か…
翡翠にとっては、毒虫の群れに手を入れたようなおぞましい何かを感じた。
何が起こったのか、翡翠にもメイにも解らない。
メイの手の中のカオス・エンテュメーシスが鼓動するように光を放っていた。
執筆者…Gawie様
「……八姉妹の……結晶が…」
「ッ…これは………まさか!」
思考するまでもなく反射的にメイから飛び退きつつ翡翠が叫ぶ。
メイへの一撃は十分致命傷足り得るものだった。
にも関わらず敷往路メイは結晶の光の中、
血の一滴も流さず困惑気味にカオス・エンテュメーシスを眺めている。
信じられない…否、信じたくない。
認められない…否、認めたくない。
精霊神シヴァの力をも得た翡翠であっても動揺を隠せない存在…
以前の大戦での英雄的女性「八姉妹」。
其の結晶が今、翡翠の前に立ちはだかっているのだ。
「バカな…八姉妹の結晶が呼応している!?
 …ッ!疎漏、敷往路の魂か!!」
「敷往路の…魂?………あッ!」
メイ自身忘れ掛けていた事…否、努めて忘れようとしていた事…である。
大名古屋国大戦の直前、大戦首謀者・本田宗太郎に拉致された忌まわしい記憶の中、
今の翡翠の叫び、そして八姉妹の結晶とを符合させる情報があった。
そもそも宗太郎は何故、メイを攫ったのか…
八姉妹の結晶であるワイズマンエメラルドを起動させる為である。
即ち、メイ…敷往路の魂には八姉妹と何らかの因縁が存在し、
其の関係がカオス・エンテュメーシスにも作用し、
この超常現象を引き起こしているのであるという仮定が立てられた。
そして其の力は間違いなくメイを守護している。
(…くっ、だが八姉妹が何だ!
  今の俺は破壊神シヴァ!人間を超越した存在だ!
  人間の小娘の絞り粕如きに何を恐れる事がある!)
自らを鼓舞し立ち向かおうとする翡翠。
だが其の意思には反し、翡翠の足は一歩も踏み出す事が出来ないでいた。
地球の救済者である八姉妹に対する畏怖の念か…
シヴァの力が其れに怯えているのか…
或いはこれこそが八姉妹の持つ力なのか…
何にせよ翡翠が手出し出来ないという現実は覆し難い。
いつの間にやら翡翠の額は冷や汗でべっとりとし、呼吸も徐々に増え、
傍目から見ても八姉妹の力に気圧されていると理解出来る状態となっていた。
「……運が良かったみたいだなメイ、
 どうやらソイツはお前がお気に入りみたいだぜ?」
「…………そうですか。で、どうします?」
「…日を改めさせて貰うさ。
 どうやら今は姫君もお冠な御様子だ。
 変に手出しして本格的に怒らせてもおっかないんでな」
どういう訳か、八姉妹の結晶がメイを守った。
この不可解な現象の正体は、どうやらメイよりも翡翠の方がよく理解しているようだ。
翡翠は恨めしそうにメイ達を睨みながら、ゆっくり後退りし、地下の闇の中に消えていった。
同時に、カオス・エンテュメーシスも静かにその眩い光を失い、
再び元の淡い菫色に戻った。
「…お、お嬢…大丈夫ですか…?」
「…す、すいません。
 俺達はヤツのオーラにすっかり飲まれてた…」
ハチとタクヤも漸く金縛りから開放された。
自分たちよりも高位の精霊神と遭遇し、さらにその力を使役する敵を目にしたのだ。
むしろ、彼等の精神的なショックも大きい。
「…お嬢……
 お嬢があの精霊神魔魂を使えるようになれば、俺達だって…」
「そんな事は考えてません。もういいんです。
 さぁ、戻りましょう」
「戻るって、ギルドの方ですか?
 今なら逃げてもいいじゃないの?
 あのジャングやチャンってヤツもやられたみたいだし」
「……に、逃げるなァ…
 俺は、生きてるしィ……」
「チャンさん!」
ズタボロながら、瓦礫の隙間で微かに息をしているチャンを見つけた。
メイ達は直にチャンを抱え、ディレイトの元へ帰った。
執筆者…is-lies、Gawie様

「…ジャングが死亡、チャンが負傷。
 最も即戦力と期待していた二人だ。
 お前のせいで大損害だ」
「…すいません…」
「まぁ、お前が結晶を盗むつもりでいるのは知ってたのだから、
 甘かったのは俺の方だな。
 翡翠を甘く見すぎた。
 それにあのゼロという男、あれから全く姿を見せん。
 おそらくアレもグルだろう。
 疑ってはいたが、直に問い詰めなかった俺が甘かった」
「…すいません。
 まず、結晶はお返しします」
「話はチャンから聞いた。
 今更咎めはしない…
 だが、何故だ!!
 何故カオス・エンテュメーシスが発動した!?」
ディレイトはカオス・エンテュメーシスをメイの顔に突きつけて問う。
「心の昂ぶりか!?
 ジャングはお前が殺したようなものだ!」
そう言われてメイも動揺はしたが、結晶に変化は全くない。
「…それとも、命の危機か!?」
ディレイトがメイの喉元にナイフを突きつける。
しかし、やはり、結晶に変化はない。
翡翠との戦いでメイを守ったのも唯の偶然だったのだろうか。
「チィ…埒があかん」
偶然かもしれないが、
カオス・エンテュメーシスが一度はメイに呼応したのは事実だ。
ディレイトとしても、その事実はやはり無視は出来ない。
「ギルドマスター、どうでしょう?
 ギルドと、ネオス日本政府が共同で結晶の調査をするというのは?
 それならば、私も全面的に協力できるのですが」
「ガキがそんな遠慮なく馬鹿を言うのか。
 我々になんのメリットもないだろう」
「いえ、結晶の所有権はギルドのものです。
 小泉閣下は、私が説得してみせます」
「小泉か、今のヤツがどれほどのものか…
 いいだろう。敷往路メイ、お前に任せる。
 だが、結晶は渡さん」
そう言うと、
ディレイトはいきなり持っていたナイフで自分の脇腹を突き刺した
「知っているか?
 ミスリルよりもエーテル波を遮断するもの…
 それは生命体だ」
なんとディレイトはその脇腹の傷に結晶をグイと押し込み、自らの腹の中に結晶を入れたまま傷を縫合してしまった。
これではもう流石に、実力に関係なくメイが結晶を手にする事は出来ない。
とんでもない隠し方にメイは言葉を失ったが、
よく見れば出血は非常に少なく、縫合するのも一瞬だった。
暗殺術を熟知しているディレイトにしてみれば、
内臓を傷つけず、出血を最小限に留めながら肉を切ることも、考えて見れば容易いことなのかもしれない。
「3日もあれば傷は塞がる。
 その頃にはチャンも少しは回復するだろう。
 いいな3日後だぞ。
 お前と小泉の話、聞かせてもらおう。
 直接、官邸でな」
メイは予定にない約束をしてしまった。
いや、ディレイトにそうさせたのだ。
メイは気付いてはいなかったが、メイ自身がこの暗殺者ギルドマスターディレイトを変えたのだ。
あとは小泉がどう考えているか、もうメイには想像も付かない。
ただ、争いのない解決を望むだけである。
ディレイトが先に官邸で待っていてもいいというのも断り、メイはギルドの同伴を申し出て、
それまでの3日間、チャンの介抱に尽くすことにした。

 

結局、
暗殺者ギルドの『仁内の霧』の計画は…
翡翠はギルドを裏切り、
ゼロはそのまま行方をくらまし、
ジャングが死亡。
メイ、ハチ、タクヤも最初から計画がバレていたので、今更隊員とは言い難い。
残ったのは負傷したチャンと、
運が良かったのか、その時居合わせていなかったシャルードの二人だけとなった。
部隊結成の翌日にその存在を失ってしまったようなものである。
鉛雨街でも仁内の霧は生きて合格した者は誰もいなかったと噂されるようになり、
まさに霧のような伝説となってしまったのであった。
小泉には、この噂を証拠に、
やはり「ただのウワサ」だったとでもそれらしく説明しようかと思いつつも、
メイは約束までの3日間、ネオス政府と鉛雨街を律儀に往復していた。
そして、その事とは別に、メイはもう一つの問題を抱えていた。
「アンタ何そわそわしてんのよ」
「え? いえ、別に」
頻りにカレンダーを気にしているメイをシャルードが覗き込んだ。
彼女だけには絶対に言えない事である。
「こんなのさっさと終わらせてアタシはSFESをブッ倒しに行きたいのよ。
 あの翡翠もSFESだったんでしょ? 
 暗殺者ギルドってやられっぱなし集団じゃん」
彼女のSFESに対する恨みは異常なものがあった。
これもシャルードが仁内の霧に選ばれた理由の一つなのかも知れないが、
その動機はなぞなぞ婆さんも、よく解っていない様子だった。
何にしても、彼女に話せばかなり面倒な事になるのは確かだ。
その、メイのもう一つの問題とは、ユーキンからのメールにあった。
タカチマン達が名古屋大戦の英雄を集い、近日中にもリゼルハンクを武力制圧するというものだ。
直接火星政府のエージェントから話を聞いていない上に、
ユーキンからのメールということもあり、信憑性には欠けるが、あり得ない事ではない。
小泉とディレイトの交渉が終り次第、直に確認するつもりでメイは返事を保留にしていた。
執筆者…Gawie様
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