リレー小説3
<Rel3.鉛雨街3>

 

 

「メイ、何を迷う? 恐れず打ってみよ。
 手加減できるのと手加減してしまうのとでは大違いだ。
 それは優しさではなく恐れだ。
 魔術で攻撃するのと違い、己の手に刃を持って相手を撃つ時、
 肉を裂き、骨を砕く感触…
 そして相手の苦しみが直接手に伝わってくる。
 お前をそれを恐れているのだ」
「はい、おじい様」
「メイ、お前は優しい良い子だ。
 しかし、弱みを見せれば相手は容赦なくそこを突いて来るだろう。
 メイよ。鬼になれとは言わん。
 優しさ、恐怖、怒り、全て胸に抱き、乗り越えるのだ」
「はい、おじい様。
 おじい様…
 やっぱり、また、迷ってしまいました…」

 

嫌な夢は時に、忘れていたような己の弱さを掘り起こすことがある。
悪い癖はそう簡単に拭い去れるものではない。
自覚があればなおさらだ。
だが、覚悟さえあれば勝てたのか?
夢がメイに問う。
「いえ、全てにおいて、負けていました…」

 

 

夢から覚めると同時にメイは電飾騎士との戦闘の敗北を悟った。
負けて悔しいという感情はなかった。
それどころか、負けてなぜ生きているのか?ここはどこなのか?という疑問をさえ忘れていた。
「お目覚めですか?」
電飾騎士との戦いに敗れたメイ達を救ったのはゼロだった。
なんとも嫌な意味で頼もしい限りだ。
「ゼロさん…
 また変な所で助けられましたね」
「…礼より先に嫌味ですか。
 余程嫌われてしまったようですね」
「あ、いえ、すいません。ありがとうございました」
「それにしても惜しかったですねェ。
 ほんの一瞬…貴女の腕が僅かに緩んだ瞬間…
 貴女は薙刀を返され、そのまま地面に叩きつけられた。
 でもあれほどの相手を追い詰めたのですから、上出来です。上出来」
ゼロは少し興奮気味にその時を状況を解説しながら、
電飾騎士の強さとメイ達の健闘を称えた。
どこか厭味っぽい下手な褒め方だったが、
メイ自身も気付かなかった一瞬の緩みを、この傍観者ゼロにも見抜かれたという事だ。
メイは改めてその壁の大きさを実感した。
「あの、それより、ハチとタクヤは?
 それにあの黒猫の人は?」
「皆さん無事ですよ。
 しかし、あれはいけませんでしたね。
 精霊神ともあろうものが…
 貴女が倒された後はもう動揺して…目も当てられませんでしたよ」
「そうですか…
 やはり私の所為ですね、ハチとタクヤはそんなに弱くありません」
「……………………
 あ、それと黒猫の人、シャルードさんなら先に行きましたよ。
 このゲームもそろそろ期日です。
 我々も行って見ませんか? 皆さん合格のようですし」
執筆者…Gawie様

メイ達は髑髏金貨を手に、再び骨董店静水屋を訪れた。
集まった参加者と思しき人数はごく僅か。
ここにいるのがこの殺人ゲームの生き残りという訳だ。
メイ達の前にいるのは、ドス黒い大きな麻袋の束を担いだ男が一人、
戦利品が多すぎてドアに入れないと外から喚いている。
その凶悪な風貌といい、一番このゲームを楽しんだであろうと容易に想像できるような男だ。
「ジャング・マジガンだ!
 首、300、キッチリ数えてくれよ!」
ジャングと名乗った男が持つドス黒い大きな麻袋は腐臭を放っており、
その中身を想像しただけで吐き気を催す。
これでも、数え間違えさえなければ確かに合格の条件は満たしている。
成り行きとはいえ、とんでもなく場違いな世界に足踏み入れてしまったことに戸惑いながら、
メイ達も静水屋の入り口を跨いだ。
中に入ると、奥であの黒猫獣人がメイ達に気付いて軽く手を振った。
その隣には学ラン姿の男が一人ウンコ座りで首をカクカクさせている。
集まったのはメイ達を含め全部で6人。
「シャルード・ビフリアン。
 チャン・プロード。
 ジャング・マジガン。
 敷往路・メイ。
 ハチ。
 タクヤ。
 合格者以上6名」
静水屋店長、謎々婆さんの歯の抜けた口が合格者を読み上げる。
「歓迎するぞ。仁内の霧……
 …と、その前に、そこの部外者は出て行け」
何食わぬ顔でメイ達に付いて来ていたゼロを指差し、老婆は退出を命じる。
ところがゼロはそれには応じず、ポケットからジャラジャラと何かを掴んで老婆に差し出した。
「折角ですから、私も参加させてもらいます。
 髑髏銀貨30枚、ありますよ。
 これで300ポイントでしたよね?」
「コイツ、いつの間に…!?」
「…しかし、お前は一次審査に答えておらん。
 ワシの出すナゾナゾに答えてもらわねばならんぞ?」
「それは…
 お断りします」
「なに…?」
「その代わり…
 お婆さん、貴女の能力、当てて見せましょうか?」
(むぅ、こやつ……!?)
ゼロの余裕、老婆の動揺…
その気になれば、ゼロはあっさりと謎々婆さんの能力を言い当てただろう。
ただし、ゼロの読みが正しければ、ゼロに対してもリスクはあったと予想された。
これも戦いだ。
「そいつは合格でいいぜ。婆さん」
店の奥から出てきた男がゼロの合格をあっさりと認めさせた。
その男はメイも知っている人物だったが、
まさかゼロとも顔見知りだとは思わなかった。
「翡翠さん…」
「敷往路メイ…
 いろいろと言いたそうだが、そんなのは後だ。
 まずは、仁内の霧へようこそ、だな」
執筆者…Gawie様
「これで俺も仁内の霧か。
 でもよ7人となるとプロギルドの六色仙花よか1人多いよな?
 どうだ?此処で1人減るまで殺し合うってのは?」
とんでもない理屈でとんでもない提案を出すジャング。
まさかこれ程までに精神的な隔たりがあるとは思わず、
メイが一瞬だけ体を強張らせるが…
「はは、面白い奴だな。
 だが仁内の霧は仁内の霧だ。
 プロギルドの六色仙花と張り合う気はないぞ?」
翡翠はジャングの、凶暴性も露わな話を笑いながら一蹴する。
大名古屋国大戦でもメイ達に協力した翡翠の冷静さは健在の様だ。
(良かった…此処でまた殺し合いなんて事になったら……
  ……………あれ?)
何か…翡翠に対して引っ掛かるメイ。
其れが何であるか思い起こそうとするも、ジャングの荒々しい声が思考を掻き乱す。
「オイオイ何言ってんだ。
 引き抜きやらでプロギルド憎しの感情あるんだろーが。
 この催しだって暗殺者ギルド巻き返しの為なんだし、
 お高くとまってるプロギルドにビシッとキツい挑発かましてやるべきじゃねーか」
「勘違いは止せ。
 暗殺者ギルドの衰退は当時のギルマスの不甲斐無さ故のものだ。
 プロギルドなんかこれっぽっちも関係無いね。
 そんな事より、先ずは仁内の霧について説明しておくぞ」
メイははっとして話に意識を集中する。先ずはこれを聞いておかねばならない。
『仁内の霧』…其れが一体なんであるのか…
八姉妹の結晶を奪取した賊であるのか…
そして小泉の計画にとって有益なものか否か…
「暗殺者ギルド直属精鋭部隊…
 …といってもまあ特に他の暗殺者達と変わるところはそう無い。
 先にソイツが言った様、衰退した暗殺者ギルド復活の看板みたいなものだからな。
 ああ、依頼の報酬については他の連中とは一線を画すると思ってくれ。」
「其の暗殺者ギルドの看板が、
 並の報酬の依頼を受けられるとでも言うんかい?」
「…まぁ、そういう事。
 看板には看板なりの大きな仕事をして貰う事になる。
 精々、ギルドの顔に泥塗るようなマネはするな」
集まった全員が仁内の霧の詳しい話を聞くのはこれが初めてだ。
噂通りに『暗殺者ギルド精鋭部隊』『看板』と言われれば否応にも昂ぶる。
しかし『精鋭部隊』は兎も角、今日集まったばかりの集団に『看板』が務まるのだろうか?
そもそも堂々と看板を掲げる暗殺者など聞いたこともないし、
看板と言うからには、目立ち、名が通っていなければ意味をなさない。
考え様によってはそれこそ使い捨ての看板にされる可能性さえある。
執筆者…is-lies、Gawie様
下手に乗せられまいと、メイは相手の話を全て記憶するつもりで慎重に話を聞く。
その隣で、眉を顰め露骨に訝しげな顔をしているのはチャン・プロードだ。
彼も気付いてはいる様で、メイがチラリを視線を送ると、
チャンは見かけによらず可愛い声の変な口調で切り出した。
「なるほどォ、
 新人の俺達が直属の精鋭部隊ですか。
 ならァ、他の人は直属じゃないただのヒラ?
 やることは同じでもォ、報酬に差があるということはァ、
 こっちは依頼人と直接交渉しなくてもォ、
 仕事は貰えるしィ、報酬はギルドが保障してくれる訳ですか?
 異例ェ、ですね。
 同業者に気を付けないと…」
「お前見かけによらず頭いいな。
 その通りだ。
 暗殺者ギルドといっても協同体ではないからな。
 基本的にはほとんどが個人で動いている。
 その中にあって、お前達が唯一の直属部隊と言う訳だ。
 それに、たとえお前達が新人でも、
 仁内の霧の名にはちゃんと実績がある。
 あとはお前達が仁内の霧になりきればいい」
「そこなんですよねェ。
 報酬の話は待遇良くて当然。
 ちょっと確認したかっただけですよォ。
 それよりィ、本質的に協同体ではないギルドの直属ってェ、
 変じゃないですか?」
(血と金と名声を目当てに集まった奴等かと思ったら、
  意外と用心深いな…
  これじゃ、俺の計画も……)
説明するのも少し飽きたといった顔で一瞬沈黙した翡翠が、
ふと、メイ達の背後に視線を移した。
と同時に、
「それは俺が保障する。
 お前等は俺、ギルドマスターの直属だ」
突然背後から声がしてメイ達が振り返ると、
そこに立っていたのはあの電飾騎士だった。
「ギルド内でも俺の顔を知っている者はそう多くはない。
 サービスだ。俺の顔と声を忘れるなよ」
言いながらマスクを外し、ギルドマスターディレイトが素顔を見せた。
勿論、新人全員も初めて見るのだが、
直接戦ったメイ達でなくとも、只者ではない事は全員が直に理解し、
このディレイトがギルドマスターであることに疑いは持たなかった。
「…という訳だ。
 後は本人から直接聞いてくれ」
そう言って翡翠がその場を離れようとすると
「どこへ行く?隊長」
なぞなぞ婆さんが翡翠を呼び止めた。
「翡翠よ。SFES内偵、及びゲダイン氏の依頼の件、ご苦労じゃった。
 疲れとるとこ悪いが…
 仁内の霧の隊長として今一度ワシのなぞなぞに答えてみんか?」
「勘弁してくれ婆さん、明日な、明日」
「待て、翡翠」
「あの〜、そんな事より、
 話続けていただけませんか?」
「そうだそうだ。
 いや、話はもういい。
 誰を殺るんだ?」
「仕事の話ィ、何を盗るんです?」
流石ゼロだ。
変な方に流れかけた話を戻した。
まずは仕事の話を聞いておかないと話にならない。
メイも再びディレイトの発言に集中するが、
ディレイトの対応は、まだメイ達を試しているのか、
それとも単に豪放というのか、
簡単に言い捨てて終わった。
「まぁそう焦るな。
 お前等は俺の直属だ。
 難しい事は考えずに俺の命令を聞けばいい。
 今日は休め、向こうに酒を用意してある。
 新人同士で親睦を深めておけ」
ディレイトは二本指でピシっと敬礼みたいにキメて、
黒いマントを颯爽と翻したかと思うと、まるでコマ落ちした映像を見たように一瞬で姿を消してしまった。
これでは、仁内の霧について何も判った事にならない。
メイは焦った。
ジャング達他の者は仁内の霧の立場さえ分ればそれでいいのかもしれないが、
メイには任務がある。
上手く入り込めたものの、黙って様子を窺うだけではズルズルと相手のペースに引き込まれるだけだ。
解っていながら、この状況を解決する手段はメイの経験の中にはまだなかった。
執筆者…Gawie様

メイは言われるままに、用意された宴の席に足を運び、
ハチ、タクヤと三人でテーブルを囲み、夕食代わりに黙々とオードブルをつついていた。
少し離れた席では、ジャングとチャンが飲み比べに興じている。
ゼロとシャルードの姿はない。
三時間後、
やはりゼロとシャルードは現れず、
ジャングとチャンは仲良く酔い潰れ、床の上で大の字になってイビキを掻いている。
「はぁ…、やっぱり私、子供ですね…」
「人間界のシガラミってヤツか、黒いよなぁ…」
「全くだ、メフィストフェレスも人間には敵わない…」
精神的には人間よりも遥かに高位とされる精霊神ハチ、タクヤも、
流石に精霊神とまで云われる肩書きに恥ずかしさを思える。
そんな自信喪失の三人を見てか、現れたのは翡翠だ。
どう切り出そうかと構えているのが見え見えの三人に対して、
翡翠は、ゆらりとメイ達のテーブルまでやって来ると全て見透かしているような口ぶりで話しかけてきた。
「よぉ、作戦は決まったか?
 受けるか否か…
 安心しな、仁内の霧の当面の任務は八姉妹の結晶の収集だ。
 誰を殺せとかってもんじゃない」
「八姉妹の結晶を、盗む…
 なるほど、それで仁内の霧を騙ったのですか」
「そんなとこだ。
 八姉妹の結晶の一つ、カオス・エンテュメーシスを盗んだのも俺だ。
 ただ言っておくが仁内の霧はな、こっちが本家だぜ。
 以前の戦争中、仁内の霧って組織が確かに存在した。
 今の暗殺者ギルドの元でもある。
 恐らくお前が知っている噂の盗賊団も、
 何の因果か、仁内の霧と呼ばれているみたいだけどな…」
「殺すのが仕事の暗殺者ギルドが八姉妹の結晶を欲しがっていると?」
「一応、ボストロ・ゲダインって奴の依頼って事になってるが、
 恐らくゲダインは架空の人物だ」
「そういう事にした方が…
 同じ暗殺者からも狙われにくいって事か?」
「そういう事だ。実際に欲しがっているのはディレイト本人だろう。
 なぜギルマスが八姉妹の結晶を集めているか、それは俺も分らねェ。
 だが、どういう魔法を使ったか知らないが、
 ただのガラス細工みたいだったカオス・エンテュメーシスを復活させたんだ。
 次の狙いはアメリカのシークレット・ウィズダムあたりか…
 ありゃ結構本気だぜ。
 まぁ、お前等にしても、その方が好都合だろ?」
「…どういう事でしょうか?」
「…ババァの能力を教えてやろうか。
 アレは相手にナゾナゾを出す事で相手の心を読み取る。
 そうなれば、いくら精霊神といえど容易く術に落ちる。
 いつでも幻術をかけるくらいワケないし…
 お前等が小泉の依頼で結晶を取り戻しに来た事もお見通しだ」
「………………!」
「安心しろ、ババァの能力の有効期限は24時間、
 今後アイツの問い掛けに気を付けさえすれば問題ない。
 それよりもだ。
 奴等はそれを知っていながらお前をここまで泳がせた…
 そのお前なら、カオス・エンテュメーシスに近付くチャンスがあるんじゃないのか?
 俺も一度は盗んだ結晶を預けたものの、その後のガードがなかなか厳しくてな……
 …どうだ?
 俺と、組まないか?」
「貴方は………
 以前は私達を裏切り、SFESをも裏切り、
 今度は暗殺者ギルドを裏切るのですか…?」
「俺は俺だ。
 最初から誰も信用していない。
 だが、お前なら信用してもよさそうだ。
 まず裏切られる心配はないからな。ハハハ」
「馬鹿にしやがって!
 お嬢、こんな奴放っとこうぜ」
「馬鹿にもするさ。
 お前等、本気であの小泉に八姉妹の結晶をくれてやるつもりなのか?」
「…そ、それは……」
「だろ?
 かと言って、ディレイトも何考えてるか解りゃしない。
 まずは小泉の望みどおり、八姉妹の結晶はくれてやろうじゃないか。
 それで奴の本性が解る。
 そこで、俺達、仁内の霧の登場ってワケだ。
 悪いようにはしない。
 八姉妹の結晶を政治に利用されてたまるか…!」
「解りました。
 でも、今は返答はしません。
 その時が来たときに、行動で示します」
「OKだ。よろしく頼んだぜ」
執筆者…Gawie様
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