リレー小説3
<Rel3.鉛雨街1>

 

今、三人は離れ離れになっていた。 
突然の銃撃とミサイルによって封印が解けてしまったついでに、爆風で吹き飛ばされてしまったのだ。
敷往路メイは今の状況を頭の中で整理した。
1・ハチとタクヤ・・・ダルメシアと猫丸は別の場所にいること。 
2・二人の封印が解けていること。 
3・目の前に男がいること。 
4・目の前の男は、見覚えがあるということ。
「クックックッ・・・お久しぶりですね!敷往路メイ!」 
ボロボロの服を着ているが、その服は結構立派な作りらしい。 
笑っているような目と、笑っていない口元が妙に合っている。 
「貴方は・・・!」
そう、その男は・・・
「誰でしたっけ?」 
ズゴッ(効果音
「貴女の頭は蛆虫以下ですか?!私を何十回も殺しておいて!!何忘れてるんですか!!」
「え?何十回も殺して・・・ってゾンビですか?!」
「生きてます!本気で忘れたんですか?!この『不滅』の能力を持つ私を!!」
メイ、脳内検索中。
「ああ、ウニさん」
「ウニじゃないっ!!ヒュグノアです!!」 
そう、ごとりん研究所での戦いで、瓦礫に潰され放置されていたヒュグノアである。
「あの時瓦礫に埋もれて、やっと這い上がったと思ったらごとりん研究所は壊滅!
 やっと手頃な町に来たと思ったらここは鉛雨街!
 (八つ当たりで)今度こそ貴女を抹殺させていただきます!」 
「ごちそうさま」 
「お粗末さまです・・・って違ーう!!」
執筆者…夜空屋様

メイとヒュグノアがコントをしている時、ダルメシア・ヌマ・ブフリヌスはピンチだった。 
ほぼ全方向から、銃口を向けられている。 
ハチの姿から精霊の姿に戻っているのはいいが、これでは流石にキツイ。 
風のバリアで防げるだろうか?それはやってみないと分からない。
聞きしに勝る無法ぶりだ。 
何の前置きも無しに攻撃してくるとは思わなかった。 
ダルメシアが瓦礫の隙間に身を伏せる。 
そこへ容赦のない銃弾の雨が降り注ぎ、ダルメシアが隠れている瓦礫は削られていく。
「なるほど、戦場って訳か。 
 でも敵はちゃんと認識しないと。 
 こいつ等ただ撃ってくるだけだ… 
 ならこっちも遠慮はいらないな」
舞上がった粉塵が一陣の風に乗って渦を巻く。 
その渦はダルメシアを中心に収束したかと思うと、 
突然、巨大な竜巻となって、瓦礫を巻上げながら辺り一帯を蹴散らした。
銃声は止み、周囲の瓦礫が吹き払われた、そこは宛ら円形の闘技場のようになった。 
そこへ、今度は黒のスーツに鉢巻を巻いた男が降り立ち、ダルメシアに銃口を向けた。
「流石だな。そこらの雑魚じゃ相手にはならないか」
「やっとまともに話せる奴が出てきたか、誰なんだ?アンタ」
「俺はウェルン・パーソンと言う。 
 お前ダルメシア・ヌマ・ブフリヌスだろ? 
 ならもう一人と、敷往路メイも近くにいるはずだな。 
 精霊神2体とA+プロライセンス… 
 これなら合計200ポイントは固いな。 
 これで俺も『仁内の霧』だ」
「…ポイント?何の話だ? 
 いやそれより、仁内の霧!お前知ってるのか!?」
「話はここまでだ!決闘を受けてもらう!」
執筆者…夜空屋様、Gawie様

その頃メイは……
「効きませんねェ。貴女の攻撃など。 
 せいぜいちょっと痛いくらいで」
ボロ服の男ヒュグノアとの戦いは続いていた。 
戦況は、メイが未だ無傷で圧倒的に優勢。 
しかし、ヒュグノアもボロ服を更にボロボロにされながらも全く疲弊している様子はない。 
さすが不滅と自慢するだけの事はあるということか。
「…あの、いい加減止めにしませんか?」
「ほぉ、負けを認めますか?」
「いや、多分私の判定勝ちだと思いますけど」
「黙りなさい小娘! 
 私にはこの不死身の体と、実はまだ切り札があります」
「じゃあ負けでも何でもいいですから、もう行ってもいいですか? 
 謝りますから」
「フフフ、ならば死んで詫びなさい」
「いや…それは出来ません。 
 あ、そうだ。 
 そんなことより私達『仁内の霧』というのを探しているのですが、ご存じありませんか?」
「仁内の霧?私はあんなゲームなどに興味はない。 
 復讐…貴女を殺す…それだけです!」 
異形の姿を顕わにしたヒュグノアがメイに迫る。 
メイも今、漸く思い出すことが出来た。 
確かに以前にこの男と戦った時は、101便で相対したSFESとも同質の何かがあった。 
だが、今のヒュグノアには、あの圧倒的な殺気や威圧感はなく、 
唯のウニの化け物でしかなかった。
突進するウニの化け物をかわし、メイは氷の刃で応戦する。
「無駄です。どんな攻撃もこの私の……」 
メイの攻撃は足止めのつもりで勿論手応えもなかった。 
しかし、今まで攻撃が今になって効いてきたとでも言うのか、 
突然ヒュグノアは全身から紫色の血を噴出し、苦しみ始めた。
「え?私そんなには…」
「そんな…何故だ…この不死身の私が…? 
 まさか…翡翠ぐぉ…… 
 何で裏切ったんですかァァ!?」 
ヒュグノアは苦しみのたうちまわり、 
物凄い形相で顔面を歪ませたまま、静かに動かなくなった。
「…今のは呪殺…」 
崩れ落ちた砂の像の様になったその躯を哀れみ、メイは暫くその場に佇んだ。
執筆者…Gawie様
「御嬢ーーー!!」
突然の襲撃で離れ離れになっていた猫丸とダルメシアが戻って来た。
「無事でしたか。 
 うッ、コ、コイツは…ヒュグノア…?(久しぶり、いや…) 
 死んでるのか、何でこんな所に……」
「うん、この人、仁内の霧の事を何か知っていたみたい。 
 それに翡翠さんの名前も……」
「やっぱりか、俺もウェルンとか言う奴に聞いた」
「本当ですか?それで?」
「いやそれが…… 
 そいつ、馬鹿っぽかったけど、結構強くて、手加減出来なくて…殺っちまいました。 
 仁内の霧の事もポイントがなんとかって事しか聞いてなくて…」
「そうですか。兎も角… 
 …………!?」
「シッ………まだ誰かいる…」 
メイ達はいつも以上に周囲の気配に敏感になっていた。 
三人とも直に背後の気配に注意するようにと、互いに目で合図を送った。
「いやぁ〜 
 いいものを見せて頂きました〜」 
聞き覚えのある声が抜けた口調で話しかけてきた。
「貴女は…ゼロさん!?」
やはりこの街には何かあるのだろうか? 
こうも次から次に奇妙な相手に出くわすとは。
「お久しぶりですメイさんハチさんタクヤさん」
「何でお前がこんな所にいんだよ?」
「あれ? 
 言ってませんでしたっけ? 
 私は戦いを見るのが大好きなんです。 
 そして、この街、鉛雨街には、雄々しい闘争心が渦巻いている… 
 お気に入りの店がある街にはよく行くでしょう?それと同じです。 
 私はこの街が好きなんですよ」
「…………そうですか…」
「ところで、貴女達こそ何故こんな所に?」
「それはちょっと…」 
「教えられる訳ねェだろ」 
一応機密もあり、メイは言葉を濁し、 
ハチとタクヤは睨み返すように返答を拒否した。
「あれ? 
 ひょっとして私、嫌われちゃいました?」 
問いに対する返事は無い。 
ただ変わらず睨み続けるハチ、タクヤの視線と、気まずそうなメイの視線がその答えだ。 
対し、ゼロは小さく苦笑して肩をすくめた。
「ま、仕方ないと言えば、仕方ないですね……」 
言いながら、ゼロは右手の人差し指を立てて、一つの方向を指し示した。
「……?」 
メイ達が訝っていると、ゼロはクスリ、と笑みを零した。
「この方向に真っ直ぐ。 
 それで多分、何か情報は得られますよ。『仁内の霧』に関する、ね」
「!」 
メイ達の一瞬の驚きを感じとったのだろう、笑みに僅かばかり得意気な雰囲気が加わる。
「解りますよ。 
 今鉛雨街でプロの方が来るような理由なんて、それくらいのものでしょう」
「と、いうか」 
黙り続けていたタクヤが急に会話に割り込み、自然、視線がそちらに集まる。 
「なんでアンタが俺達にそんな事を教える? 
 罠にでも嵌めようってのか?」
「……徹底的に嫌われていますね。 
 罠なんて、そんなコトしませんよ。勿論、信じる信じないは自由ですけれど」
「じゃあなんでだ? 
 俺達に情報を流して、アンタに何の得がある?」
「そうですね、好感度アップ、とかですか」 
ゼロの言葉に、ハチ、タクヤの眼がさらに険しく、訝しむようなモノになる。
「そう睨まないでくださいよ。 
 私は貴女方と敵対する気はありませんし、寧ろ仲良くしたいと思っているんですけれど」
「……何のために、ですか?」
メイの問い掛けに、ゼロは笑顔を作る。 
『答え』を見つける――いえ、得る、ために」
「答え?」
「ええ、世界に――」 
其処で唐突に、言葉が途切れた。 
「少し、喋りすぎましたね…… 
 連れと合流しなければならないことですし、私はそろそろ失礼します」 
そう言うと、その白髪の魔術師はメイ達にあっさり背を向けて、廃墟の街を歩き始めた。
「ああ、最後に一つ―― 
 『闇』というモノを知っていますか?」
「……は?」
「いえ、忘れてください。 
 それでは、また」

 

 

 

 

「ゼロ、あれでよかったの?」
「うーん…大丈夫だとは思いますけど…」
「…どういうこと?」
「あの人はタチが悪いからなぁ…」
「え?」
執筆者…Gawie様、you様、夜空屋様

その暗い道の先には、扉があった。 
扉は木製で、扉の上に「骨董 静水屋」の文字。 
ドアノブを回し、扉を開ける。 
中は棚や壷や彫刻、様々な雑品で埋め尽くされていた。 
スラム街のような風景が一変して、賑わう街に埋もれた静かな骨董屋になっていた。 
部屋は様々な物で溢れ、一つの道を作っている。 
その道の先には、階段があった。 
扉と同じ木で出来ており、一歩踏むごとに今にも折れそうな木の軋む音がする。
彼女はこの雰囲気を嫌わなかった。 
むしろ、子供の頃によく忍び込んだ家の倉によく似ていた。 
ほこりを含んだ木の匂いが鼻をつく。 
その度、何故か涙が溢れそうになる。

 

階段を昇りきると、そこは小さな部屋だった。 
生活できるだけの道具がそろっている。 
その小さな部屋の中心で、老婆が座っていた。
「…お客さんかい?それとも泥棒かい?」
「多分…私達はどちらにも当てはまりません」
老婆が彼女達の方を向き、微笑んだ。 
彼女もそれに答え、微笑んだ。
「…質問があります」
「ほぉ?この老いぼれに何を聞きたいんじゃ?」
「『仁内の霧』についt…」
「嫌じゃ」 
老婆はニヤリ、と嫌な顔で微笑んだ。 
彼女もそれに答え、微笑んだ。同時に、殺気も放った。
「もちろんわしは『仁内の霧』について知っておる。
 教えてやってもいいが…お穣ちゃん達が何者かわからんしのォ」
「プロです」
「ほォ?それで『仁内の霧』について…か。
 じゃがそれにはこの老いぼれの道楽に付き合わなければならんぞ?」
「ど、道楽?」
再び老婆は誰が見ても嫌な微笑みを見せ、 
「わしの出す謎々に答えればいいんじゃ」
「………なぞなぞ?」
「もちろん答えられれば教えよう。
 じゃが…一人が答えられれば三人が知る権利を持つというワケじゃないぞ?」 
メイの後ろにいた精霊二人が「え?!」と声を出す。
「間違えたらこの店から出て行ってもらう。
 もちろん盗み聞きなんてしようとは思うんじゃないぞ?
 わしの術でちょいと苦しいことになるからねェ…」
「なるほど…間違えればそこでアウトか…」
「だがこの中で一人でも正解になれば…」
「他の者に聞いたりすることも禁止じゃ♪そうしたら…忘れてもらうことになる」
どうやら老婆の術とやらはかなり強力らしい。 
また老婆は微笑み、 
「それでは言うぞ? 
 では…そこの猫!」
「な、猫?!」
「三匹の獣が草を持っておる。 
 一匹は勇者の冠を持つ虫をくわえた雀。 
 一匹は鳥の名を持つ蜂を連れる虎。 
 一匹は人を殺める道具の名を持つ魚。 
 さぁ、毒はどれかな?」
猫…つまり猫丸は考えた。 
虫はヘラクレスカブトムシ。かなり大きな虫だ。 
魚は恐らくテッポウウオ。口から水を吹いて虫を落とす魚だ。 
蜂はスズメバチだろう。答えはこれだ。
「毒は…鳥の名を持つ蜂を連れる虎、だ!」
「違う」 
「何?!」
「別に連れている蜂が毒だからといって草が毒とは限らんじゃろ?
 答えは雀じゃ。トリカブトという草は知っているかの?」
「な…!」
「ほら、帰った帰った!盗み聞きしようものなら溺れさすぞ!」 
がっくりと肩を落とし、立ち去る猫丸。
「それでは次はそこの犬じゃ!」
「い…!!」
「一郎と次郎、太助とお鶴がおる。 
 四人は白い珠二つと黒い珠二つを体の中に持っておっての、 
 太郎は白い珠、次郎は黒い珠、太助は白い珠、お鶴は黒い珠を持っておるのじゃが、
 それぞれ自分の珠が何か分からん。
 じゃが、全員白い珠と黒い珠が二つずつあることは知っておる。 
 そして太郎は次郎の、お鶴は太郎と次郎の珠が何か分かる。 
 ある日物の怪が現れてのォ、
 己の珠が何か分かれば誰も喰わないが分からなかったら全員喰うと言い出したんじゃ。 
 さて、自分の珠が何か分かったのは誰かな?」
これは難問だ。 
誰の珠も分からない太助と次郎は除くと太郎かお鶴になる。 
だが…
「…太郎か?」
「理由は?何故太郎なのかな?」
「う…そ、それは…」
「答えられないようじゃな?それでは帰った帰った!」
「く…」 
犬ことダルメシアも肩を落として店を出る。 
その部屋に残ったのは老婆と彼女…メイだけになった。
「それでは穣ちゃんじゃな… 
 一匹の悪い龍を退治するため、三人の若者が名乗りをあげた。 
 一人は剣を持ち、一人は鎧を纏い、一人は何も持たずに龍退治に出かけた。 
 龍は槍を通さぬ鱗を持ち、盾を貫く牙を持つ。 
 さて、帰ってきたのはどの若者かな?」 
メイは迷わなかった。 
すぐに答えは出た。
「何も持たない…若者ですね?」
「………」 
「………」
「正解じゃ」
今までの嫌な微笑みが、優しい微笑みに変わっていた。
「それでは教えてあげようかの。 
 『仁内の霧』について、な」 
老婆はよいしょと立ち上がると、足元にあった小袋から何かを取り出し、メイ達に投げ渡した。 
それは髑髏のような模様の入った小さな銀貨だった。
「まず、それが挑戦者の証じゃ」
「挑戦者?」
「簡単に言えば、暗殺者ギルドの人員補強のための試験じゃな。 
 挑戦者は他者から何かを奪い、それを持ち寄る。 
 主催者がそれを査定し、合計300ポイントを稼いだ者が、 
 ギルドの精鋭部隊『仁内の霧』として迎入れられる」
「ポイント?何が何ポイントかはそっちの査定次第ってことですか」
「まぁそうじゃな、参考までに…… 
 首一つにつき1ポイント。 
 さっき渡した銀貨が10ポイント。 
 プロのライセンス、Aなら200、Bなら50。 
 暗殺者ギルドマスターの首が300ポイントじゃ。 
 地道に300人殺るもよし、大物狙いもよし。 
 ただし、借りたり、買ったりしたモノにはポイントはやらん。 
 奪い取ったモノでなくてはならない。 
 説明は以上じゃ」
「あ、あの… 
 私達はただ仁内の霧の事を調べているだけで、 
 そんな無茶な試験に挑戦するつもりはありません。 
 それに、噂では仁内の霧というは……」
「噂は知っておる。だが誰が何と名乗ろうと勝手じゃろう? 
 やるやらんは自由じゃ。 
 さ、解ったらさっさとお行き。 
 愚図愚図しておると他の挑戦者が来るぞ。 
 お嬢ちゃん達の首が高ポイントだという事を忘れたか?」
メイ達は一旦、謎々老婆の許を後にした。
執筆者…夜空屋様、Gawie様

漸く仁内の霧の手掛りを掴んだかと思えば、 
最初の予想からはかなりかけ離れたものになってしまった。 
仁内の霧の噂は数年前から囁かれていたものであり、 
このイカレた試験はその名を騙っただけのものだろう。
「変なことになっちまったなぁ。 
 どうします? お嬢?」
「結局、暗殺者ギルドに仁内の霧の偽者がいるってことよね…」
しかし、仁内の霧を名乗った者がこの鉛雨街で結晶カオス・エンテュメーシスを盗んだのは事実だ。 
噂の仁内の霧、暗殺者の仁内の霧、どちらかが偽者、或いは同一。 
老婆は答えてはくれなかった。あの場で問い詰めても無駄だっただろう。 
後は、誰か仁内の霧を名乗るものに接触して突き詰めていくしかなさそうだ。
「あー、それにしても納得いかねェー!」 
小石を蹴りながら不貞腐れているのはタクヤだ。 
先程のなぞなぞがまだ頭から離れないようだ。
「お嬢はよく答えられたよなぁ。あのなぞなぞ」
「あれはなぞなぞと言うよりは、心理テストじゃないかな… 
 真面目に考えても問題に不備があることに気付いて余計に悩む。 
 一問目は私も答えを聞くまで解らなかったわ。 
 トリカブトの別名なんて、そう思いつくものじゃないし。 
 でも二問目は太郎で正解よ」
「ですよね。次郎が黒なら、残りは白二つ、黒一つ 
 確率的に二つ残ってる白の太郎が……」
「いや、それ違う。 
 間違ってるし、確率じゃ答えにならないわ。 
 これは直に答えられないのがヒントよ。 
 太郎は次郎が黒という事、お鶴は太郎が白で、次郎が黒だと知っている。 
 もしも太郎が黒だったら残りは白が二つだからお鶴は直に答えられる。 
 でもお鶴が直に答えられないということは、太郎は……」
「あ、そういう事かぁ」
「でもこの二問目、単に太郎かお鶴が教えてあげる、というもの正解だと思うわ。 
 そういう意地悪な答えも用意してそうだったし。 
 だから、三問目は考える気にもならなかったわ」
「お嬢のはどんな問題だったんスか?」
「ヒミツです。 
 さっき言ったけど、 
 多分なぞなぞじゃなくて心理テストとか適性検査みたいなものだった思うから。 
 信念に基づいた選択肢を貫く…そんなカンジかな。 
 悩んで考え込んでたらアウトだったと思うわ…」
殺し合い、奪い合いを競わせるような試験には同意は出来なかったが、 
メイは謎々老婆にどこか高尚なものを感じ、 
『偽者かもしれない仁内の霧』をそう評価したのだった。 

 

 

其の時…
「静!乱!水!喘!」
急にメイの視界にある世界が色彩を失う。
地も空も白一色となり、側に居た筈のハチ達も其の姿を消していた。
「!?」
「よォ、ちょいお待ちな。お嬢さん」
先程の老婆がいつの間にかメイの後ろに立っていた。
「貴方は?これは一体?」
「安心せい、唯の幻術じゃ。…もうちょっと話をしたくてのお…。
 嬢さん、まだ名を聞いてなかったね」
「え?…敷往路、メイです…」 
「メイ、か。いい名だ。『ゼノ様』に…」
「え?ゼノ?」 
「いや、老いぼれの戯言じゃ。
 本題に入ろう。これを見ぃ」
老婆が取り出したのは、綺麗な石だった。
「お嬢さんにこれをやろう。綺麗な石じゃろ?」 
「え?でも…」 
無理矢理老婆はそれをメイに押し付け、笑った。
「お嬢さんに出したなぞなぞがあったじゃろ? 
 お嬢さんは剣を持たず、鎧も身に付けんと言った」 
「え、ええ…」 
「それは昔わしが貰ったお守りじゃ。
 お嬢さんの『悪』を断ち切り、己の道を進ませるお守りじゃ」 
老婆は嬉しそうな顔で笑った。 
「自分の道を信じて進みな。
 …『仁内の霧』の本当の姿を知りたいのなら、己の知る者に聞け。
 己と…己に通ずる者を信じな」
メイは老婆に微笑み、 
「お婆ちゃん、貴女は…一体何者なんですか?」 
「さぁのォ?ただの老いぼれじゃ♪
 …さて、もうやるものも済んだし…ゲームスタートじゃ。
 ………犬と猫を、早く探し出してやる事じゃな」
「ゲーム?」
メイの問いに答える事無く、老婆の姿は掻き消え、
白い世界に再び色が戻って来た。が…其処にハチとタクヤの姿は無い。
「これは……ハチ!!タクヤ!!
 ……幻術見せられている間に…攫われた…?
 と…兎も角、探さなきゃ!」 
走り出して2人を探し出そうとするメイ。
ふと、手にしっかりと握っているものに気付く。
「……石……ちゃんと渡されてる……
 少なくとも…あの人は敵じゃない……気がする…。
 其れにしても…ゲームって……
 …しかも最初に会った時は二人とも仮の姿だったハズだけど…何で犬と猫って…」

 

 

持っていた数珠を静かに膝元へ置き、老婆が呟いた。 
「本当に…ゼノキラ様によう似とる…」

執筆者…Gawie様、夜空屋様


タクヤは水の中にいた。 
突然よくわからない場所に放り込まれ、今は水の中でもがいている。
瞬間移動させられたのだろうか?苦しい。とにかく苦しい。 
路地裏のようなのだが、なかなか出られない。 
泳ごうとしても、何故か泳ぐことが出来ない。 
御主人やハチは大丈夫だろうか?
とまぁ、ぶっちゃけハチもタクヤも幻術にかかってしまっていたのだが。 
別に瞬間移動させられたワケではない。 
視覚や触覚をムチャクチャにされ、まるで水の中にいるような感覚にされているだけなのだ。 
術で感覚を狂わされたといえども、もがけば体は動く。
メイが老婆と交信していた間、老婆の術で混乱させられていたタクヤ達は、
我武者羅に走って全く別々の方向に向かっていってしまっていたのだった。
そして術は解ける。
執筆者…夜空屋様
「あ……あんの婆さん! 
 幾ら幻術だからって…溺れさすのはねぇだろ!」
堪忍袋の緒が切れたとばかりに憤慨しているのはタクヤ。 
確かに其の恐怖と苦痛は並大抵のものではあるまい。 
怒りに我を忘れそうになるが、其れよりも先に、 
今、自分が何処に居るのかと言う疑問が頭を擡げる。
「……何か… 
 随分と御嬢達から逸れちまったみたいだなぁ…」
高々5分少々の幻惑…だが併し焦ってデタラメにもがいていた為か、 
メイ達の姿もまるで見えない程、遠くにまで来てしまっていた。 
仕方無く、其の聴覚でもって人の居そうな喧騒のある場所を探り、 
取り敢えずは其処を目指して歩いてみる事にしたのだった。
やがて見えて来たのは巨大なクレーターである。 
第三次世界大戦による破壊で見捨てられた旧東京に於いて、 
そうそう珍しくも無い爆撃の傷痕が此処にもあったのだ。 
此処のものは直径数百メートルに渡るかという程の巨大擂鉢となっている。
「こりゃ凄いな…… 
 大戦中にこんな被害まで出てたんか…… 
 …随分と…ド派手な事やってたんだな… 
 ………ん?」
物珍しさもあってクレーターに近付くと、 
クレーターの中央部に「LWOS」と書かれた巨大なプレハブ群と、 
其の周囲で犇めき合う白衣の男達… 
そして彼等を警護する様に周辺で静かに佇む者達の姿が見える。
「んー…工事現場………? 
 …いや………これは…………」 
微かに…ほんの僅かに、プレハブ横のテントから魔力を感じ取れる。 
恐らくタクヤが精霊神でなければ気付く事など出来なかっただろう。 
耳を澄ませば白衣の男達の言葉が聞き取れる。

 

「……という訳で、鉛雨街の持つ力場は次第に弱まり、 
 恐らく、後数年で完全に流れ出てしまって無くなるでしょう」
「…神明9年…5年前に取った後の残り香だけで尚、後数年か…… 
 そんな物を先に入手されたというのならば、 
 我々が負けたのも当然だったのかもな…… 
 ……『プロジェクト・エンブリオ』…… 
 まだまだ厚いベールに包まれたまま……か… 
 ……そもそも何故そんなものが此処に……」
「ライズ・ゲットリックの話では、 
 此処が発生場所になったのは偶然であったと…。 
 又、付近がネークェリーハ・ネルガルのシマであった為、 
 即座に確保する事が出来たと言います」
「御蔭であのチンピラ紛いが世界の覇者気取りか。 
 ………だが何か引っ掛かる…もっと詳しい情報が必要だ。 
 …ライズは確か魔法学院の所属だったな?」
「父親のグレイス・ゲットリックもです。 
 此方は5年前に事故死していますね。 
 まあ時期が時期だけに謀殺と見るのが妥当でしょうが」
「…魔法学院をもっと調べてみるぞ。 
 もしかしたらプロジェクト・エンブリオのデータが残っているかも知れない。 
 …そうだ……其れと…暗殺者ギルドのゲームだが… 
 あれ、まだ終わらないのか?落ち着いて調査も出来やしないぞ」
執筆者…is-lies
「ふぅん?調査か何かか…。 
 まあ確かにあんな試練があっちゃ堪らんなぁ。 
 …でも……鉛雨街の力場…ねぇ… 
 此処で生まれる奴等が異能者ってのはこれが原因なんかな。 
 ………っと、其れより御嬢だ御嬢!」
直ぐに他の喧騒を探そうと意識を集中した矢先、 
タクヤの存在に気付いたらしい男が近付いて来た。
「おい、其処で何してる?」
白いローブを纏った其の赤い短髪の男は、 
金色の瞳でタクヤを凝視し、有無を言わせぬ威圧で以て彼の足を止める。
「立て札が見えなかったか?この辺りは立ち入り禁止だぞ」
「え?そうだったん?」 
タクヤ自身、自分はあまり周囲を見ない方だと感じてはいたが、 
流石に、其の様な立て札があれば直ぐに気付く。 
反論しようとした寸前、或る事に気付き、 
口まで出掛かった其れを一気に飲み込む。 
そう、老婆の掛けた幻術である。 
あの途中に何かあったとしたら気付かなかったのも頷ける。
「…困るな。 
 お前、暗殺者ギルドのゲームのプレイヤーか? 
 其れとも連中に襲われてたクチか?」
「んー…一応、後者だね。街に入って10分しない内に攻撃されたよ」
「成程、逃げ回ってる内に此処来てしまったという感じか?」
「ま、そんなとこかな」
「ふん、やってられないな。 
 というより時期も悪過ぎだ。 
 お前もこんな所からは早々に出て行くと良い。 
 百害あって一利無しだぞ」
(つーか、そんなトコで調査だか何だかやってるアンタ達もな) 
 なぁ、所でさ…あんなのが罷り通って良いんか? 
 堂々と人殺しだの強盗だなんて……仁内の霧だか何だか知らないけど、 
 そんな価値があるものなのか?」
「ん…?ゲームについては少し知ってるみたいだな。 
 何だかんだ言って、お前もやはりプレイヤーではないのか? 
 言っておくがウチには手を出さない方が賢明だぞ」 
男の周囲の空気が一瞬だけ変わった。 
これ見よがしに仰々しく示された威圧である。
「まあ…暗殺者ギルドだからな……殺して何ぼなのだろう。 
 プロギルドのプロも、ライセンス盗まれたりしてる辺り、かなりキナ臭いがな。 
 仁内の霧というと、プロギルドでいう六色仙花みたいなものになるのだろうが…。 
 今の暗殺者ギルドマスターは実力優先で成り上がった輩らしいし、 
 こんなゲームを思い付くのも…まぁ或る意味、自然な流れかも知れないな」
「物騒な世の中になったもんだな。 
 こりゃ確かに長居は無用か。そんじゃ俺はもう行かせて貰うよ」
執筆者…is-lies

男と別れ、タクヤは来た道を戻ってメイ達を探し始めた。 
途中、幾つかの立て札が目に入る。
 『Living Weapon development Organizations 
  結晶地質検査中 関係者以外立ち入り禁止 
               管理責任者 ロネ・ウィルコット 
               連絡先   XXX-XXXX-XXXX』
「やっぱりあったな、立て札。 
 ……つーかマジで勘弁してくれよ婆さん……」
こんな無法地帯で幻術を掛けられ放浪していたのだ。 
何時何処で襲われ殺されていてもおかしくは無い。 
寧ろ、幻術が解けるまで生きていられたのが幸運である。
「おーーーい」
「んあ?ハチか」
手を振りながら走って来たのはハチ。 
見たところ外傷は無く、此方も無事といって良い状態だ。
「どうやら無事だったみたいだな。 
 ……お前も幻術に?」
「ああ……あの溺れる幻術さ……… 
 …婆さんの店に戻ってみようぜ。 
 もしかしたら御嬢がまだいるかも知れない」 
謎々をする際、老婆は溺れさせるぞと脅しを掛けていた。 
故に先程の術は老婆のものであると見ての提案であった。
「…そうだな。………で場所は?」
「………… 
 ………手当たり次第探してみるぞ」
「…其れしか無いか」 
一瞬期待したのが馬鹿だったとばかりに深い溜息を吐くハチ。
「あー、ボヤくなよ! 
 意識失ってた時間からしてもそう遠くにゃ行ってない筈だよ」
「……確かに。だが急ぐべきだ。 
 私達が攻撃を受けていなかったのならば、 
 危険なのは寧ろ……」
突如、四方八方から突き付けられる殺気。 
暗殺者ギルドの『仁内の霧』試験参加者達である事は言うまでも無い。 
彼等が出てくるのが十数分早ければ、 
恐らくハチ達は出会う事無く敢え無い最後を遂げていた事であろう。
「……危険なのは寧ろ……誰よ?」
「……やっぱり私達…か? 
 まあ良いさ。虎穴に入らずんば虎児を得ず。 
 仁内の霧に御近付きする為には…多少手荒になっても仕方が無い」
「……封印さえ無けりゃね」
一目散に逃げ出す2人を、参加者達が追い回す。 
其の騒ぎを聞き付けて更に増加する鬼ごっこ参加者。 
鬼同士で争い合ったりと混沌のパレードは一層その喧騒を増してゆき… 
…其れに敷往路メイが気付かない訳は無かった。
執筆者…is-lies
前置き無しに、二人の封印は解かれた。 
本来の姿を現したダルメシアと猫丸。 
彼等を追っていた者達の一部はその溢れ出す力に気付き、即座に反転し撤退を図る。 
そして、少女の声で、破壊を齎す言葉が響いた。
「パンデモニウム!!」
周囲を飲み込み、破壊の波動が縦横に駆け巡る。 
標的も定めず、魔力のタメもなしに放たれたメイの魔法は、 
それでもその威力は十分であった。
「イキナリかよ…」
「御嬢もやるときゃ容赦ねェよなぁ…」
巨大な落雷のような破壊音が轟き、修羅の暴徒達は一瞬で平伏した。
「1…2…3… 
 髑髏銀貨7枚、70ポイントですね」
「7枚…30人くらいはいたような気がするが、他はただの野次馬か… 
 値打ちありそうな装備品は貰っとこうぜ」
「あと、首もポイントになるけど…」
「いえ、命までとることはないでしょう」
執筆者…Gawie様
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