リレー小説3
<Rel3.エース編1>

 

「ここが、ねぇ・・・。」
いきなりエースが言った。
ここはイオルコスに最も近いオリュンポス山脈の山の一つ。
今、其の麓にエースは居た。傍らには獣人の少年が居る。
なんでこんな外れた場所に彼が居るのかというと、「依頼」の一言である。
数時間前、
『青』が前の依頼主に会うと言って店を出て行ってからしばらくして、新たな依頼人がやって来た。
其れは犬系獣人の中年男性で、息子と思しき少年を連れていた。
其の依頼とは、こうだった。
「息子を『仙人』様のところまで連れて行ってほしい」
最近イオルコスに住み始めたエースたちは知らなかったが、
イオルコスに最も近いオリュンポス山脈の山には『仙人』と呼ばれる者が住んでいるらしい。
そして、其の『仙人』とやらは、イオルコスを開拓するに当たって目に見えない形で援助してくれていたのだと。
息子を其処まで連れて行きたいが、生憎引退寸前の自分では万が一の時息子を守れそうにない。
車は貸すから山まで護衛を、というのが依頼の内容であった。
報酬は250UD。まあ妥当な所であろう。
「なんでそんなところに息子を連れてかなきゃなんねーんだ。」
と言ったのはエドワードであるが、其れには深いわけがあるのだという。
「別に連れてくだけやったらお父さんが運転してエイスさんが護衛って風でいいんやないの?」
と言ったのは普段ボケをかますことの多いシェリアであるが、これにも深い理由があると言う。
まあ、其の二つの疑問は後々語るとして、今は話を進めよう。
そんなこんなで「仙人が住まう山」と呼ばれるこの山の麓まで辿り着いて
そのほぼ直後にエースは冒頭の言葉を言ったのである。
なお、車は最新技術自動操縦搭載型であった。
「ホントにこんな所に『仙人』様がいるの?」
エースは何度目かの質問を少年にした。
「ホントだよ!ボク何回も会ってるもん。」
この犬系獣人の少年、名前はという。依頼主の男の息子である。
未だにエースは其の『仙人』とやらを信じられないで居た。
確かにこの山は2合目付近から頂上まで霧――――らしきもの――――に覆われており、
どんな風になっているのか外から判別することは出来ない。
『仙人』が住むにはそれらしい雰囲気を持ってはいるが、
結晶が齎されて以降のこの世界で、『仙人』とはまた随分レトロである。
「まあ、とにかく登ろうか。」
エースは暁を促すと、暁は先頭に立って歩き出した。
元々、この山の標高は1000mに満たないくらいの小さな山だったと言われている、
だから、霧らしきものがかかり始めている2合目あたりまで行くのはさして時間もかからず、
あっという間に二人は霧らしきものの中に突入することになった。
執筆者…ぽぴゅら〜様
「うわぁ・・・あたり一面真っ白・・・。これでホントに『仙人』様のところまで辿り着けるのかい?」
すぐ目の前を歩いている暁の姿ですら、もうほとんどかすんでしまっている。
エースの質問に、暁は振り返らずぐんぐん歩きながら明るく答えた。
「大丈夫だよ。こうやって歩いてれば『仙人』様のしもべって人が出てきて連れてってくれるんだよ。」
其の答えに、エースは顔をしかめた。話がどうも見えてこない。
聞いた話では『仙人』とやらは一人で住んでいるらしい。なのにしもべとは・・・?
矛盾点が多い『仙人』とやらに、エースは懐疑心を捨て切れなかった。
懐疑心を捨てきれないと言えば、『仙人』とやらの考え(適当な表現が彼には思いつかなかった)もかなり理解できない。
シェリアに問われて、暁の父親はこう答えたのだ。
「『仙人』様は大人には1回しか会わないのだ。」
と。
初対面の時は会ってくれるが、それ以降大人には一切顔を見せず、
無理やり登ろうとしてもこのもうもうと立ち込める霧らしきもののおかげなのか、
いつの間にか麓まで戻ってきてしまっているのだと言う。
子供にしか会わない『仙人』。事実、暁を初めとする子供達は何度も『仙人』に会っていると言う。
そんなこともあって、イルヴ何でも屋では最年少のエースがこの依頼を遂行することになったのだが、
プロとして常に修羅場を潜って来た自分は其の『仙人』にはどちらに映るのかは彼も判らなかった。
いい加減にエースも痺れを切らして、
本当にこんなところに居るのかと聞こうとした時、前方から何者かが出し抜けに現れた。
整った顔立ちをした青年で、頭には聖職者の其れとよく似た帽子を被っている。
法衣のようなものに身を包んでいるが、其の男の身体は幽霊のように透き通っていて実体がなかった。
だがそれでいて、其の存在感はしっかりしている。
「・・・あなたが・・・『仙人』様のしもべ、ですか?」
敵意はかけらも見られない其の男性に、エースは思わず尋ねた。
「はい。ようこそいらっしゃいました。わたくしはあの御方のしもべ・・・。
 どうぞわたくしめの後ろをついてきてください・・・。」
『仙人』のしもべと名乗る其の男性は、
エースの其れ以上の質問を拒むかのように踵を返すと、ゆっくりと歩き始めた。
暁が其れに従い、エースも慌てて後を追う。
しもべの後に続いて二人は歩く。其の速度はかなりゆっくりであった。
どうも、子供のペースに合わせているとしか思えない。
暇をもてあます形でエースは思わずあたりを見回した。相変わらず凄まじい霧らしきものである。
ふと其の中に、エースは見知った顔があるように見えた。
どこかで見た顔だ。見覚えのある青いジャケットを着ている。
もう少し近づいて確かめようとした其の時、突然周りの霧らしきものが一斉に晴れた。
そして、明るい日差しがエースの瞳を刺激して、思わずエースは目を細めた。
楽園。正にそう形容するしかなかった。
無数の花が咲き乱れ、多くの樹木が生を謳歌し、風に乗って蝶が飛び回る。そして、彼方からは水のせせらぎ。
エースたちは、そんな楽園に居た。
突然の景色の変わりように、エースは唯うろたえることしか出来なかった。
「・・・あの御方はここに住んでいらっしゃいます。それでは、わたくしはこれで・・・。」
しもべは、それだけ言うとエースたちには目もくれず元来た道へ足を踏み入れた。
「あ、ちょっ・・・?!」
思わず引き止めようと一歩足を踏み出して、エースは目を疑った。
あのしもべが居ない。現れた時の様に出し抜けに消えたのだ。エースの目の前で。
だが、エースが驚いたのは其れだけではない。
其のしもべが消えた道・・・即ち自分たちの歩いてきたはずの道が忽然と消えていたのだ。
「・・・な・・・これって・・・どういう・・・?」
執筆者…ぽぴゅら〜様
「お兄ちゃん、早く行こうよ!」
呆然としているエースに、暁が声をかける。
エースは、これはひとまず棚にあげることにして、目的の『仙人』とやらと会うことにして楽園に足を踏み入れた。
外観も楽園と形容するほかなかったが、中も楽園そのものだった。
中央にさらさらと清らかな水で辺りを潤す泉がある。その周りは美しい花々、木々、鳥や昆虫達。
ふと、エースは天国というのはこういうところなんじゃないだろうかと思う。
だが、其の思考は直ぐに止める。視界に、人間の姿が目に入ったからだ。
『仙人』とやらは、泉にせり出した小高い場所に胡坐を掻いて座っていた。
背中越しではよく判らないが、視線は真っ直ぐ泉に向けられているようだ。
「『仙人』様ー、ボク来たよーっ!」
暁が突然其の『仙人』の背中に飛び掛る。
「・・・こいつ、いきなり後ろから飛びついてくるヤツがあるか!」
暁をするりと前に引き寄せて、『仙人』はそう言いつつ暁の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「・・・えー・・・っと・・・。」
どう言っていいか判らず、エースはその場に立ち尽くしていたが、
『仙人』はすっくと立ち上がり暁を傍らに立たせると、くるりとエースに向き直った。
其処で初めて、エースは『仙人』の顔を見た。
髪は紫がかった青で、正面から見て左側の髪が右のそれより長く、左の耳は完全に隠れてしまっている。
そして、クセ毛なのかピンと立った部分が一箇所。
瞳は透き通るような翠緑で、其処にはエースの顔が映っているだろう。
水色の服をまとい、深い青のスラックスをはいている。
足には赤いブーツが見え、首からは漆黒の宝石がはめ込まれたペンダントを下げている。
口元に優しげな微笑を浮かべつつ、『仙人』はゆっくりと言った。
「ようこそ、フライフラット・エース君。立ち話もなんだから、向こうでお茶でもどうかな?」
高くもなく低くもない、しかしどちらかと言うと低めの声と共に、『仙人』は泉の向かい側にあるテーブルを指した。 
「…っ!…何で僕の名前を?
 ……いや、愚問ですね。仮にも『仙人』と呼ばれる者…」
能力者を誕生させた結晶の恩恵。
だがこれは元々人間が備え持っていた力を強めただけに過ぎない。
唯の一般人ですらも力を発現させるに至ったのだ。
元々魔性を持っていた人間はより一層力を増す事となった。
前時代的な術士儀式などが復活したのも時同じく。
能力開花で儀式の持つ力が無視出来ないものと認識されたからだ。
とはいえ儀式的な能力強化はあまり知られているものではない。
大凡の能力者は能力の仕組みを結晶学的見地から学び、
SeventhTrumpetの擁する『選ばれし者達の学び舎』などの施設で、
効率的な能力習得を行おうとするからだ。
実際、山に篭って能力を研鑚しようとする能力者は少なくないが、
未だにレトロなイメージが払拭出来ないのは其の為であった。
この『仙人』も能力者であると見るのが妥当なところであろう。
人間の情報を読むなどという極めて高度な力を行使出来る辺り、
成程。伊達に仙人などと呼ばれている訳ではないという事か。
然し其れでもエースは腑に落ちない。
この『仙人』から感じる気配がどうにも超然とし過ぎている。
(………もしかしてこの人は…あのシヴァと同じ…)
『精霊神』…
桁外れの信仰心を得て神と称されるに相応しい力を得た超存在。
仙人として畏敬の念を集めているならば有り得ない話でもない。
というよりも現状ではそう考えるのが自然であるとエースは見ていた。
「…まぁ、どう思われようが構わないけどな」
「……失礼しました。…でも其れなら解りますよね?
 僕も仕事でやっているんで時間はそうそう無駄には…」
「そう繁盛してるか?」
「…………」
「…と、失敬。踏み込み過ぎたな。
 こんな場所にいるからか、どうも人恋しくなる時があってな。
 デリカシーが無かった。許せ」
謙る様子も無く泰然とした佇まいを崩さずに謝辞を述べる仙人。
飾り付けの無い朴訥さ故に其の態度は信用が置ける。
「いえ…確かに少しはゆっくりする時間もありましたね…
 …お言葉に甘えさせて貰います」
指し示されたテーブルに掛け、暫し足を休める。
楽園の澄んだ空気を吸う内、思考を読まれたという怒りもすぐに収まった。
執筆者…ぽぴゅら〜様、is-lies
「そうそう、さっきは中途半端に驚かせてしまったかな?
 此処に来るまでの道程にあった霧の中に君縁の者が映っていただろうが…
 あれは本来、此処に来る者を試す為のもの。
 君は暁と共に居たのでな、試験は不要と判断して早々に消した」
ともすればこの山の二合目付近まで立ち入った時点で、
『仙人』の術中にあったという事であろうか。
益々持って常人離れした其の力を再認識するエース。
其処へ悪戯な笑みを浮かべつつ暁少年が口を出す。
「仙人様、まぁたナンパしてるー」
理解に数秒を要するであろう爆弾発言でもって、
エースの表情が一瞬で凍結した。
そもそも危険な香りはしていたのだ、この依頼。
大人達には最初の一回しか会わないという仙人…
俗世離れしているという事は詰まり俗人との精神的な格差も大きいという事。
そして外界から隔離された山というロケーション、
子供にしか会わないという特異性。
(これはもしかして……ピンチ?)
未成年ながらも男相手に貞操の危機を感じるという
非常に怪しい体験をしてしまうエース。
「ナンパ言うな。これはだな、
 態々こんな僻地に足を運んで来てくれた来客への最低限の礼節…」
「あはは!大人だったら2回目問答無用で帰すクセにー」
エースが落ち着き払って席を立つ。
「……あー、やっぱり心配されると難ですし早々に御暇させて頂きます」
「いや、待て待て。別にとって食いやしない!
 暁、お前も変な事言うな!
 …ところでお前、何でこんなトコに?」
思考を読める立場でありながらも口に出して質問をする。
単に自重しているだけなのか、其れとも話題を変えたいのか…
訝しむエースを他所に、暁少年は少し伏目がちになって答える。
「あのね、お母さんからの遺言なんだ。
 仙人様への弟子入り…」
暁の言葉に、『仙人』もエースも一瞬固まった。
そして、先に動き始めたのは『仙人』だった。
「・・・そうか・・・そういえばお袋さん、この間亡くなられたんだっけか。」
先ほどとは打って変わって真面目な顔をして『仙人』は呟く。
呟きつつ、テーブルの上で手を組んでそこに顎をのせた。
(・・・とりあえず・・・この辺りも報告には含めるべき・・・だろうなぁ。
  ・・・嫌な予感がするけど仕方ない、か。)
依頼であるが故の拘束である。エースはそう結論を下すと再び椅子へと腰を下ろした。
何はともあれ、『仙人』がエースに何かするという気配は今の所、無い。
執筆者…is-lies、ぽぴゅら〜様
「俺に弟子入りってな・・・どんな遺言だよそれ・・・。詳しく言ってみな?」
『仙人』は身じろぎもせず言う。
それを受けて、暁はそのままうつむいたままでポツリポツリと喋り始めた。
「お母さんね・・・言ってたんだ。
 今は平和だけど将来どうなるかわからないって。・・・口癖みたいに最近毎日。
 もし大変なことが起こっても生きていけるように・・・強くなりなさいって・・・。
 仙人様の弟子になって、何があっても生きていけるようになりなさいって・・・。」
その言葉にエースは内心確かにと頷いた。
将来何が起こるのかわからないのはまさに其の通りである。
事実、リゼンハルクことSFESが何をしでかすか判らないし、
イオルコスでもついこの間電波系サイエンティスト、ラムノーバが一悶着起こしたばかりである。
かつての中世などでは無いが、現在は今というこの瞬間に死んでもおかしくなかったりする。
「強くなりなさい・・・それで、俺に弟子入りか・・・。」
『仙人』も其れは判っているだろう。そう言うと頬杖をつく。すうっと、その瞳が細くなった。
いささか怪しい部分もあるが、この『仙人』が相当な実力者であることはエースの眼に見ても間違いない。
この人の元にいれば確かにすぐさま命を落とすことは無いだろう。
・・・『仙人』から何かされる、ということもあるかもしれないが・・・。
「お願い仙人様、ボクを弟子にしてください!」
暁はそういって立ち上がり、頭を下げた。其れを見て、『仙人』はふー・・・っと息を大きく吐き出した。
子供好きらしい『仙人』のこと、
これはすぐにオーケーするだろうと踏んでいたエースは、次の『仙人』の言葉に、耳を疑った。
「悪いが、お前を弟子にすることはできん。」
「えぇっ・・・?!」
「え・・・?」
暁とエースは、ほぼ同時に『仙人』の顔を見上げていた。
「なんで?!どうして仙人様!」
テーブルに乗り出す暁を、『仙人』は押しとどめてゆっくりと言う。
「・・・俺の力は誰かに伝えるようなものじゃない。
 それに、この力を学ぶにはお前は歳をとりすぎている。」
淡々と言う『仙人』の言葉を、エースは半分納得したような、半分理解できないような気持ちで聞いていた。
恐らく、暁は半分どころか4分の3・・・いや、全て理解できていないだろう。それだけ彼はまだ若すぎた。
「なんで?!ボクまだ9歳なのに!なんで遅いの?!」
「なんでと聞くことがダメなのだ。疑問は疑念になり、疑心暗鬼から邪念へと変わっていく。
 ・・・生兵法では暗黒面の誘いに抗うことは出来ん。」
『仙人』の言葉は、何か意味のあることである。
しかし、その意味は理屈であり、幼い少年暁に其れが通用することは無かった。
彼はそのまま『仙人』の服を掴んで其の顔を見上げながら叫び続ける。
「・・・あの・・・、いくらなんでもそれは無いんじゃないですか?」
エースは我慢出来なくなって口を挟んだ。
「・・・気持ちはわからなくも無いが・・・
 俺は10歳くらいでこの力を学び始め其の後暗黒面へと堕ちた人間を見ているんでな。
 ・・・俺は己の蒔いた種を自らの手で刈り取りたくは無い。」
ざっくり斬り捨てる『仙人』の冷たい言葉に、エースの中の何かが反応した。
其れは本人でも認知できないような僅かだが、強い奔流となって彼の中を駆け巡る。
「貴方を頼ってきた子供ですよ?
 それでも貴方は『仙人』と呼ばれる人なのですか?!
 いくらなんでも・・・それは・・・ないでしょう!」
言うエースの顔を凝視していた『仙人』の顔色が変わった。
そう、エースの其れは丁度蒼きイノセントの騒ぎの時、白水を怯ませた顔だった。
何かの力を秘めた、意志を持つ瞳。
(これ・・・は・・・まさか・・・。)
僅かな沈黙の間に相当量の思考を巡らせると、『仙人』は再びゆっくりと口を開いた。
「ふ・・・わかった、君には負けたよ・・・。君に免じてここは退こう。」
うっすらと笑みを浮かべて、『仙人』は両手を開いて宙に上げた。お手上げ、のポーズのつもりだろうか。
「・・・暁、彼に感謝しろよ。」
まだしがみついている暁の頭に手をのせると、『仙人』はエースに微笑みかけた。
「・・・あ・・・いえ、別にそういうつもりでは・・・。」
そういって手を左右に振るエースからは、先ほどのような気配は微塵も感じられなかった。
一瞬だけ、暁にもエースにも気付かれないような刹那、『仙人』は遠い彼方に目をやった。

執筆者…ぽぴゅら〜様

それから数十分会話が続いたが、
やがて暁は楽園へ残ることとなり、エースは父親への報告と帰宅のため下山の旨を伝えた。
「そうか・・・。・・・だけどこっから歩いて下りると時間かかるぞ。
 イオルコスへの移動装置を置いてるから、それを使うといい。」
エースも視界の悪い中を下っていくのは流石に疲れるらしく、この申し出には直ぐにイエスと答えた。
楽園の奥へと足を踏み入れると、
そこにはおおよそ楽園には似つかわしくない遺跡のような趣の小屋が静かに佇んでいた。
周りには淡い光の放つ不思議な花が咲いている。
「・・・なんですかこの花・・・。」
小屋も気にはなるが、それ以上にこの見たことの無い花は好奇心をくすぐった。
「ん・・・ああこれか?これは『トーンチアド』って花だ。
 結晶に反応した植物で・・・蜜がな、甘くて飲用に使えるくらい取れる上に
 主に神経性の毒に強い解毒作用を持つんだよ。
 常飲してると毒への耐性もつく。・・・持ってくか?」
小屋に備え付けられた重々しい扉を開けつつの言葉に、エースはやや引きつつ答える。
「え・・・えーっと・・・いえ、とりあえずは結構です。」
「そうか?まあ欲しくなったらいつでも来いよな。」
内心あまり来たくないと考えたが、もしかしたらこれも読まれてるかもしれないとエースは表情を固くした。
一方口を開けた小屋の中では青い光を放つ渦のようなものがゆっくりと横に回っている。
「この中に入りな。」
『仙人』は言うが、その見たことも無い「移動装置」に、エースは思わず懐疑の視線を向ける。
「・・・いや。そんな眼で見るなよ。気持ちはわかるけどな。
 大丈夫だって、別に壁の中に飛ぶとかそんなことはないから。」
「・・・其の言葉・・・信じますからね。」
言うと、エースは恐る恐る其の青い渦に身を任せた。
すると、渦は徐々に広がっていき、エースを包み込んだ。
そのまま更に渦は大きくなっていき、
エースの意識は一瞬遠くへ放り投げられたように遠のきかけるが、直ぐに同じ感覚と共に意識が戻ってくる。
そうなる頃には、渦の中にエースの姿は無かった。
「・・・やれやれ・・・とんでもない客が来たもんだ。
 言うんならアレが『動きしトル・フュール』みたいな感じか?そりゃほとんど心も読めないわけだな。」
『仙人』はエースの消えた渦を見つめながらひとりごちる。
踵を返すと、彼は楽園へと戻っていく。と、一瞬だけ足を止め後ろを振り返ると。
「・・・宿っているのは本人か武器か・・・それが全部か一部か・・・。」
それだけこぼすと、『仙人』は弟子の待つ楽園へと今度は振り返ることなく戻っていった。
執筆者…ぽぴゅら〜様
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