リレー小説3
<Rel3.エーガ3>

 

 

…そう、スペースクルーザーを盗んだまでは良かったのだ。 
その後、エーガは直には遠くに逃げず、まずは仲間と合流するため、 
機体のステルス機能を活用して密かにクノッソス漁港に降り立った。
人気のない港を歩いていると、桟橋の方から釣竿を持った三人の若者が近付いてくるのが見えた。 
お互いに顔が確認出来る距離まで近付くと、 
三人の若者の一人が投網に包まれた白い発光物を掲げながら、徐々にその歩が早くなる。 
エーガがセレクタの集会場から飛ばした結晶を、漁船から拝借した投網で見事キャッチしたセート、 
そして、その後にいるのは何故か巨大なマグロを抱えているルキとバクヤであった。
「ナ〜イスキャッチ!!」 
エーガがガッツポーズをキメながら、セート、ルキ、バクヤとハイタッチを交わす。
「まさか結晶が飛んでくるとは思いませんでした。 
 何はともあれ、まずは一つ目ですね。 
 バクヤが釣った魚をルキが捌いたので、ここらで一杯やりたいところですが、 
 まずは現状報告を… 
 私、ルキ、バクヤでクノッソス港近辺で情報収集を行ったところ、 
 どうも漁師の間で、海底に沈む巨大な結晶の噂が流れているようです。 
 調べてみる価値はあります。 
 それから、 
 イオルコスにいるライハとレオンも 
 八姉妹の結晶の情報を掴んだようです。 
 イルヴという者の紹介で、リゼルハンクの人間から聞いたそうですが、 
 やはり信憑性に欠け、決定的な情報とは言えません。 
 アレクサンドリアに向かったイオリとカイトもこれと言った情報はなし。 
 少々気になるのは… 
 アテネにいるミレンとケイムとの連絡が取れなくなりました」
結晶を受取りながら、セートの説明を聞き終えると、 
エーガは直に決断を下す。 
「OK。 
 アレクサンドリアの方はいいや。 
 お前等三人は、その海底に沈む巨大な結晶ってのを当たってみてくれ。 
 俺はイオルコスに飛んで、ライハ達と合流する。 
 そのイルヴってのがちょっと知り合いなんでね。 
 あのおっさんなら結晶の解析も出来るかもしれねェし。 
 その後ついでにミレンとケイムに連絡を取って見る。 
 場合によっちゃ、アテネに行くかもしれないな」
別に四六時中一緒にいる訳ではないし、 
連絡が取れなくなることもよくある事だ。特にエーガ
「申し訳ありません。 
 私がもっと適切に指示を出していれば…」 
心配性で何かと自分の所為にするセート。 
責任感溢れる風紀委員の如き彼であったが、 
エーガ達もあまり口うるさいのは正直かなわない。
「まぁ、あの二人なら大丈夫だろ?」
「えぇケイムはともかく、ミレンが付いてますからね」 
と言いつつ、本当は一番心配なのはエーガであるのだが…
「あっと、そうだ。 
 コレやるよ。セレクタで貰った『本物の偽造身分証』だ。 
 テキトーに使っていいぜ」
「本物の偽造身分証? 
 ……なるほど、撹乱くらいには使えるかもしれませんね」
話を纏めながら、
四人はマグロの刺身を肴に、その場で簡単な祝盃を上げた。 
いつもなら、仕事の後は、海賊の酒盛り宛らに、全員で盛大に飲み明かすのだが、
今はそうもいかない。
おそらくは、セレクタも自分達を探しているだろう。 
あまり呑気にしてはいられない。 
エーガはマグロを頬張り、缶ビールを一気に飲み干すと、 
結晶を手に立ち上がった。
「んじゃ、そっちもよろしく頼むぜ。 
 全員揃ったらアテネでまた派手にやろう」 
そう言ってエーガは停めてあったスペースクルーザーへ向かった。
執筆者…Gawie様

海上から舞い上がるスターターブーストの光の軌跡が打上げ花火のように消えた。 
通常飛行に移ったクルーザーは夜空に溶け込んでその姿はもう見えない。
「私の悪い癖かもしれないが、 
 調子付いてる時というのは、どうも嫌な予感がする…」
セート達が、エーガを見送った空を見上げ、しばらくボーっとしていると、 
不意に携帯端末の着信音がセートを急かした。 
公衆電話からの着信のようだ。 
「…はい。 
 …ミレン!? 
 何をやっていたんだ。 
 え、ケータイ取られた!? 
 SFESに!? 
 それで、無事なのか? 
 …まったく…何と言う迂闊な… 
 エーガ様はイオルコスに向かった。そっちにも連絡があるはずだ。 
 それまでは、大人しくしてるように!」
セートは仲間が無事であったことに対する安堵と、 
その迂闊な行動に対する呆れの気持ちが混ざったような溜息漏らながら、 
一旦電話を切ると、直にその旨を伝えるため、エーガに連絡を入れた。 
だが…
「電波が届かない…? 
 火星のサテライトは全域をカバー出来てはいないのか」
仕方なくセートは電話を諦めた。 
電波が届かなかったのは圏外だったからではない。 
クルーザーに搭載されていたヴォイドステルス機能によるものである。 
唯、エーガはそんなことまではセートに伝えてはいなかったのだ。
執筆者…Gawie様

一方、イオルコスに向かったエーガは、
ステルス機能の有効時間を節約するために、
まずは上空に向かって真直ぐに飛行し、衛星の目の届かない大気圏外まで来ていた。
実はごとりん博士が開発したヴォイドステルスは一切のセンサー類に捕われないかわりに、
機体の冷却効率が極端に低下するのがその欠点だったのである。
ナビの目的座標をイオルコスにセットし、大気圏に再突入する準備を整え、
エーガはしばらく宇宙空間を漂いながら機体の冷却を待っていた。 
しかし、予想外の事態が起こったのはその時だった。
突然、後頭部に何かを押し当てられたかと思った瞬間。 
圧倒的な殺気がエーガの体を凍りつかせた。
「…目的地は変更… 
 アテネのリゼルハンク本社へ…」
後頭部に押し当てられたモノものは、その硬く冷たい感触から何であるかは想像が付く。 
聞き覚えのある声の主は、その体勢のままゆっくりとエーガの右側に回り込み、 
副操縦席に腰を下ろした。
「マ、マジ? 
 奇遇だね…こんなところで再会するとは… 
 こんな四人乗りのクルーザーをハイジャックかい?」
副操縦席からエーガに拳銃を向けているのは昨夜クノッソスに来る途中の船内で出会った少女。 
SFES…サリシェラ・リディナーツだ。
「黙って…質問に答えて… 
 セレクタから盗んだ…ワイズマンエメラルド、持ってるよね?」
(おいおいおいおい… 
  いくらなんでもそう来るのは早すぎだろ…? 
  セレクタが俺を売ったのか?いやそれならアイツ等が直接来るはず。 
  俺がセレクタから結晶を盗んだ事をSFESに報せた奴がいるのか。 
  …考えてみりゃ、俺がセレクタの情報を知ったのも、 
  直にユニバースと出会えたのも都合が良すぎる。 
  …にしても早すぎる!大体なんで俺の居場所がバレたんだ? 
  やっぱりSFESは最初からセレクタの集会を狙っていたのか。 
  いや確かにそんな風には見えなかった… 
  そもそも俺が集会で結晶を盗むなんて誰にも言ってない。 
  俺だって集会で結晶が出てくることは知らなかった。 
  …間違いない。情報が漏れたのは集会の後だ。 
  ってか、ワイズマンエメラルド? 俺が盗んだのは……)
エーガは頭の中でこの状況に至った経緯を必死に推測してみるが、 
やはり結論には至らない。
「…答えて、ワイズマンエメラルドは、何処?」 
唖然としているエーガをサリシェラが問い詰める。
「…隠した。この船内にはない」 
エーガは咄嗟に嘘をついた。
「…そう」 
サリシェラはそれ以上問い詰めることはなく、 
銃をエーガに向けたまま、操縦桿を足で前に倒した。 
クルーザーはゆっくりその機首を真下に向け、徐々に火星の地表に向かって加速を始めた。
「…進路を変更して。 
 アテネのリゼルハンク本社へ。 
 尋問はその後……」
エーガは大人しく言われたとおりにナビを操作するが、 
どうも機械が言う事を聞かない。 
そうこうやっている内に、機内が不自然に暖かくなってきた。 
明らかに暖房装置の設定温度を超えている。
「冷却の時間が足りなかったか。 
 こりゃオーバーヒートだな。元は旧式だし」
「………………」
突如、ボンッ!! 
っというイヤな爆発音と共に機体が激しく揺れ、回転し始める。 
乱反射する遠心力の嵐の中、 
流石の二人も機内の彼方此方に体をぶつけながら、 
どうにかシートにしがみ付く。 
フッと視界が晴れたかと思うと、目の前には火星の大地がグングンと迫っていた。 
エーガが必死に操縦桿を引くが、今更とても間に合いはしない。 
墜落、激突死――― 
そう思った時、 
突然頭上のキャノピーが吹き飛び、サリシェラのシートが機外に飛び出す。 
そう、脱出装置だ。 
エーガもそれに習って直にシート横のレバーを引く。 
シートがバタンと後に倒れた。 
間違った。
今度はシートの下にあったレバーを引く。 
なんとかエーガも脱出に成功したものの、後はジタバタしても始まらず、 
二人のパラシュートは風に任せ、崖の上の同じ場所に舞い降りた。
執筆者…Gawie様

どこまで飛んで来てしまったのだろうか。 
十数分前には確かに夜の側にいたのだが、 
空を見上げると、真上には太陽が輝いている。 
崖の上から周囲を見渡しても何もなく、 
ただ、無秩序に切立った渓谷が、荒野の地平線の彼方まで続いていた。
「…どこ?ここ? 
 なんつーか、アメリカのグランドキャニオンも目じゃねェって景色だぜ?」
「…携帯端末を落とした… 
 詳しい現在地は分らないけど…多分、火星の裏側…」
「俺のケータイもダメだ。電源入らないし壊れたみたいだ」
サリシェラはボソっと呟くと、エーガを相手にせずに歩き出した。 
エーガも何となく距離を開けてそれについて行き、 
暫く歩いていると崖の下に、さっきまで乗っていたクルーザーが見えた。 
二人が崖を滑り降り、近付いてみるが、 
やはり、機体は原型を留めてはおらず、この場での修復も不可能。 
最早ただの残骸、鉄屑である。 
幸いだったのは、 
結晶エンジンであったために機体は大破しても爆発炎上は免れていた事だ。
「これなら使えるものが残ってるかもな」 
とエーガが言うよりも先に、サリシェラは残骸を漁り始めていた。 
しかし、残念ながら通信機の類は全てアウト。 
結局、二人が残骸の中から探し出したのは、 
一組のサバイバルグッズに、節約すれば何とか三日は凌げそうな食料だけだった。 
サリシェラは使えそうなもの纏めると、再びエーガを無視して歩き出す。
「お〜い、どこ行くんだよ? 
 こういう時は、遭難現場から下手に動かないのが基本なんだぜ」
「私の仲間は…助けには来ない… 
 そっちの仲間が来ると…私が不利…」
「まぁ… 
 多分、こっちの助けも希望は薄いな。ステルス入ってたし。 
 ここは一時休戦して…… 
 ってオイ待てって!」
「…私は一人で…歩いてでも帰る… 
 ついて来るのは勝手だけど… 
 そうなれば貴方は…もしもの時の人質… 
 ……兼、非常食…」
「………ク、クールだねェ…」
黙々と歩き出すサリシェラに、エーガも仕方なく従う。 
何せ一組しかないサバイバルセットは彼女が肩に担いでいるのだ。 
奪い合っても勝ち取れる自信はないし、この状況ではそんな気も起こらない。 
そして無言のまま… 
…と言うよりエーガが一方的に話し掛けても全て無視されるまま、 
歩き始めて何時間が経っただろうか。 
どうやらサリシェラは太陽の位置から確認出来る方角だけを頼りに、 
唯真直ぐに西を目指している様だ。 
だが、真直ぐとは言っても、こんな起伏の激しい地形では思い通りの方角に進めるはずもなく、 
二人は何度も回り道を余儀なくされながら、とうとう最初の夜を迎えてしまった。
執筆者…Gawie様

視界も闇で閉ざされ、時折渓谷を吹き抜ける砂混じりの突風が二人の進路を遮る。 
そして何より、その身を切るような寒さ。 
テラフォーミングによって地球に近い環境になったとは言え、 
火星の未開地では夜ともなれば、その冷え込みは相当なものである。 
今日のところは二人も諦めるしかなく、 
岩場の陰を見つけて、そこに簡易テントを張った。
エーガにしてみれば、女の子と二人っきりの野宿である。 
テントの中には小さなランプが一つだけ、 
おまけに一組しかない防寒具に、不自然な距離を保ちながら一緒に包まっているのだ。 
相手がSEFSでなければ、もういつ欲望に身を投げ出してもおかしくない。 
さて、ここはどう切り出せば良いものか…
「そうそう、 
 サリシェラちゃんは、なんで俺のクルーザーに乗ってたんだ?」 
味のないビスケットを齧りながら、エーガはストレートに切り出した。
「…そういう情報が入った… 
 それ以上は言えない… 
 それに、自己紹介した覚えはないよ…」
言えない、と言っても、 
それが秘密であることを語ってくれただけでもまぁ進展と言えるだろう。
「けど、残念だったな。 
 俺がセレクタから盗んだのは、コレ。 
 ワイズマンエメラルドじゃないぜ」 
エーガは懐からエーデルヴァイスを取り出して見せる。 
サリシェラが身を寄せてそれを覗き込む。
「…セレクタから、盗んだ…? 
 ワイズマンエメラルドじゃなくて…? 
 …やっぱり、ネッパーの情報もアテにならない……」 
サリシェラは溜息を吐きながらエーガに寄りかかる。 
彼女にしてみれば、そんな事などまるで意識してはいないのだろうが、 
この極寒の中では人肌の温もりは媚薬であった。
「ネッパーって誰だ?」と聞き返そうとしたエーガもそこで思考が中断された。
サリシェラを見つめると、相変わらず視点の定まらない虚ろな目をしている。
エーガは今まで恋とか愛とか、そんなものを真面目に意識したことはない。 
それなりに女好き。 
年増は論外。処女も面倒。 
適度に遊び慣れた相手と刹那的な快楽を求め合えばそれで良かった。 
しかし、今はそんなことより… 
どうにもサリシェラの表情が気食わなかった。 
昨夜はその感情の所為で絞め殺されそうになったのだが、 
それもどうでも良い。 
頭の中が真っ白になって、サリシェラの瞳に吸い込まれていくのを感じ、 
後は覚えていない。 
我を忘れ、エーガは少女の体を貪った。 
其の時は何も感じられなかったし、何かを考える事もなかった。 
ただただサリシェラの… 
其の菫色の瞳が何よりも痛ましかった。 
サリシェラ自身ではない。彼女の瞳が哀れでならなかった。 
生気の無い死んだ魚の眼。 
だが本来なら何よりも輝いている筈の眼だ。 
エーガは自分自身でも気付かぬ内にそう強く確信していた。 
妹とサリシェラを混同していた訳ではないが、 
今は居ない妹の其の笑顔と美しい瞳が脳裏から離れず、 
其れを意識したのと同時にサリシェラの其の… 
死人同然の顔と濁った眼がどうしても許せなくなる。
魂が無い様なサリシェラの其の姿に、 
一種の諦めを感じたのを最後にエーガも其の眼を閉じた。
執筆者…Gawie様、is-lies
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