リレー小説3
<Rel3.エーガ2>

 

 

  アトゥン・ワイラ号、客室

 

「……エーガさん、そろそろ降りましょう」
ライーダとエーガは既に荷物を纏め、 
後はもう船から出、集合場所に向うのみとなっている。 
だが、彼等は集会に向う前に、やらねばならない事があった。
「…ああ、なるべく早い方が良いか。 
 直ぐに身を隠して、船から出て来たサリシェラの後を追うぜ。 
 ……集合場所に近付く様なら…仲間に注意を呼び掛けて、 
 もしそうじゃないなら行き先を掴んで報告しておいた方が良いな」
「……………ええ……そうですね…」
ライーダは頷くが、彼自身も気付かない其の心の奥底では、 
サリシェラが集合場所に赴く事を期待していた。 
情報を持って敵を不意打ちする気で来た相手を、 
此方で逆に不意打ちしてしまえるからだ。 
流石のSFESも一気に畳み掛けられれば凌ぎ切れはしない。 
普段は温和なライーダ少年だが、 
恩人の仇を前に、どうしても血の気が多くなっている。 
エーガはそんなライーダにも気付いているのか、 
いつライーダが飛び出そうとしても掴める様に心掛ける。 
そして2人はサリシェラに先んじて船を降りた。
執筆者…is-lies、Gawie様

乗客の乗降に伴い、港の集荷場も慌しくなる。 
船から降ろされるのは主に農作物。 
逆に船に積み込まれていくのは海産物。 
ここクノッソスは火星における漁業の中心地だ。 
ライーダ達が集荷場で荷物を確認するフリをしながら待っていると、 
乗降時間ギリギリになってから漸くサリシェラが現われた。 
彼女は荷物の受け渡し手続きを素通りし、特に辺りを警戒する様子もなく、 
そのまま真直ぐ港の出口に向かった。 
手荷物は、彼女の雰囲気にはあまり似合わない手作り風の小さな布のポーチが一つだけだ。 
ライーダ達は距離を保ちつつ、見失わないように後を追った。 
タクシーを拾う事もなく、徒歩で約5分、
サリシェラが向かった先は港の近くにあった水族館だった。
「…観光、ですかね…?」
「さぁ、その割には全然楽しそうじゃねぇぞ? 
 かなりさすらい旅情ってカンジだ」
クノッソス水族館は地球の其れとは違い、 
珍しい魚がいる訳でもなく、イルカのショーがある訳でもない。 
展示されているのは精々マグロやハマチ、タイ、ヒラメ… 
普通に食卓に並ぶ魚だ。 
それでも火星生まれにとっては生きた魚は珍しいのものではある。
サリシェラは、館中央にある円形の大水槽の前で立ち尽くしたまま、 
グルグル回るマグロを2時間ボ〜ッと眺めていただけだった。 
結局、何がしたかったのかも分からず、 
次に向かったの町外れにある3階建ての古い建物…
「…漁協、ですね…」
「さっぱり解んね。何しに来たんだ?」
流石に建物の中まで追う事は出来ず、 
二人は外からサリシェラの行動を推測するしかなかった。
「セレクタの集会が狙いでないとすれば… 
 クノッソスは、テラフォーミング中期は海洋研究の中心地、 
 今は漁業と造船が主……」
「リゼルハンクは魚の卸でも始める気か?」
「だったら営業部の人間が来るでしょう。 
 可能性としては…… 
 漁協なら、近海を航行する船舶はすべて把握しているはず… 
 その辺りの調査ですかね…」
「お前何気に詳しいよな。 
 けど、仮にSFESがセレクタの集会を察知してたとしても、 
 その程度ってことか… 
 ちょっと考えすぎだったかな…?」
「そうですね。 
 あのユニバースさんがそう簡単に情報を漏らすとも思えませんし…」
エーガも確かにその通りだと思った。 
同時にそうとは言えないと、微かにほくそ笑んだ。 
だが、そのことがエーガの思考を縺れさせ、何かが喉元に引っ掛かる。 
ライーダの言葉への反応が遅れたが、無言で軽く相槌をうって誤魔化した。 
今日の集会は、知っているのはトップメンバーのみで、 
詳しい場所と日時も直前になってから知らされたものだ。 
ユニバースのやり方を考えれば、セレクタの情報が外部に漏れることは今のところ考え難い。 
ライーダ、エーガも含め、殆どのメンバーの加入は、ユニバース自らの勧誘によるものだ。 
これもセレクタの目的を考えれば当然のことである。
ユニバースの本当の目的などエーガにとっては知る由もない。 
寧ろ、興味もない。 
疑念を振り払い、今は余計な詮索はやめ、 
エーガは自分の目的に専念することに決めた。
それから1時間後、 
用事を済ませたサリシェラが建物から出てきた。 
別段変わった様子もなく、窓の向こうには漁協職員が事務作業に勤しんでいる姿が見える。 
この日はここまでだった。 
時間としては、まだ昼の2時を回ったくらいだが、 
サリシェラはその足でホテルにチェックインし、その後動く気配はなかった。
「そろそろこっちも時間だ。 
 今日のところは諦めようぜ」
「……そうですね。行きましょうか」
 双眼鏡をバッグにしまいながら、 
ライーダはもう一度口惜しそうにホテルを見上げる。 
(必ず追い詰める)
そんな想いを胸に、ライーダはマントを翻してその場を後にし、 
集合場所へと急いだ。
執筆者…Gawie様
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