リレー小説3
<Rel3.『青』編8>

 

 

それは数日後のことだった。 
新たな仕事の依頼人として店にやってきたのは、 
赤いネクタイの男と、青いネクタイの女だった。
「青殿はこちらでしょうか?」 
「エース殿はこちらでしょうか?」
男と女は同時に尋ねた。
「あ、お先にどうぞ」 
「いえいえ、お構いなく」 
男と女は顔を見合わせる。
「そっちがエース、そっちが青、 
 で、私が店主のイルヴ・ロッド・ヴェインスニークです。 
 何の御用でしょうか? 
 えー、ではそちら方から」
一応マネージャーであるイルヴが促すと、 
レディファーストでまず女の方が応えた。
「この子がエース…? 
 噂とはまるで…いえ失礼… 
 エース殿、プロギルドマスターからの伝令です。 
 ここではナンなので…」
と言って、女はエースを連れて出て行った。
「…で、其方は?」
「あ、はぁ、今の少年がエース殿? 
 貴方が青殿…そしてイルヴ殿…? 
 うむぅ…想像してたのとはまるで…いえ失礼… 
 実は、今日は大名古屋大戦の勇者殿にお話があって参りました」 
相手は、イルヴの店ではなく、 大名古屋大戦の勇者を指名している。 
唯の客ではないようだ。
「…で、俺に何の用?」
「はい、大名古屋大戦の勇者青殿…というより、 
 実は、大名古屋大戦の勇者全員にです。 
 それでまずはリーダーの青殿にお話をと思いまして…」
「はぁ?俺がリーダー?」
「…?違うのですか?」 
訳が解らないといった『青』の顔を見、赤ネクタイの男も眉を顰める。
「いや…別に俺がリーダーって訳じゃ… 
 つーか俺ってあの戦争じゃ大層な事してねェし…」 
確かに彼は大名古屋国大戦の英雄でもあるし、 
大戦以前からも本人の意思とは別に、其れなりに名は売れていたらしい。 
反政府的な行動が多く、日本皇国やネオス日本共和国、 
そして大名古屋国すらも相手取って其の度に圧勝で戦績を飾っていた。 
併し、大名古屋国大戦そのものには単に参加しただけと言っても良いかも知れない。 
宗太郎を倒した訳でも無いし、何か特別に大きな仕事をした訳でもない。 
そんな『青』を大名古屋国大戦英雄のリーダーと見るとはこれ如何に。
(ふむ…『青』か…… 
  確かに大戦での戦績がそう良いと言う訳でも無く、 
  自ら名乗りを上げた事も無いのにリーダーと看做されるのは… 
  …やはり『日本最強の男』という肩書きか…。 
  確か…以前、『青』とユニバースとで旅をしていた時に聞いたが… 
  『青』は純粋な人間というよりも、最早改造人間に近いらしいからな。 
  ……待て、だからといって依頼人…この男の耳に届く様な情報でもないな。 
  肩書きや戦績で『青』をリーダーと見ている訳ではないかも知れん。 
  『青』……他に何かあったか…? 
  ……其れにしても大名古屋国大戦の英雄全員への話とは… 
  宗太郎めの信奉者辺りが仇討ちに来た…という訳でもあるまい。 
  取材と言うのも今更だ。地球の破滅現象、移民、衛星の光…ネタには困らん。 
  …そうだ。そう言えば昨日は本田ミナがTVの火星独立記念式典に出ていたな。 
  ……本田ミナ議員……か、アメリカ大統領も人の熱に訴えて来るものだ。 
  …大戦中では特に問題は無かった様だが… 
  本田ミナはワシ等に父親を殺された訳だからな… 
  しかも掲げているのが大名古屋国の復興とは…。 
  …そんな彼女がアメリカの許で連合議会の議員となる…… 
  待てよ…この男…其の可能性もあるという事か…)
服装、言動からはこの男の正体は分らない。 
自分から名乗らない以上、 
何者かと問えば、偽名を使うか、言えない、と言われる可能性もある。 
態度を見るに、心理戦を含んで交渉を持ちかけてくるような相手でもなさそうだ。 
イルヴは疑いの目を顕わに、男を見据えた。
執筆者…Gawie様、is-lies
「あ…あの… 
 何か失礼でもありましたでしょうか?」 
男は新人営業マンが難しい客を相手にしているかのようにうろたえている。
「あ、もしや、そちらの女性の方はメイ殿?」 
男は言葉に困って、ふと目に入ったシェリアに問いかけた。
「うちはシェリアや。 
 それよりおじさんまずは自分から名乗らなぁ。 
 イルヴさんは礼儀にうるさいで」
「あ、こここここれは失礼しました!」
まぁシェリアは関係ないとして、 
この男の態度は、演技などではなく、本当によく知らないようだ。
「私、こういう者です」 
と、男は名刺を差し出した。
「火星政府の…諜報員…!?」 
青は名刺を見て驚いたが… 
「…アンタが…?」 
男の顔を見てそれを疑った。
「で、話ってなんだ?」
「えぇ、連合議会議員本田ミナ様が、 
 お世話になった貴方方勇者に是非会ってお話がしたいと…」
「話がさっぱり見えて来ませんな。 
 会って話すだけなら時間と場所を言えば都合をつける。 
 そうではなく、何か依頼があるのでしょう?」
「あ、はい! 
 詳しい事は今はまだ申し上げる事は出来ません。 
 まずは、大名古屋大戦の勇者全員、いえ全員は無理かもしれませんが… 
 集めて頂きたいのです。いつでも連絡が取れる形で。 
 依頼と言えば、これがまず最初の依頼になります」 
そこだけ暗記して来たような半分棒読みな依頼であった。 
この男は兎も角、 
本田ミナが火星政府を通じてコンタクトを求めて来たのは気にはなるところだ。
「ふむ…最初の依頼というと 
 …別の依頼もある訳ですな?」
「ええ。併し…其の依頼は……まあ、 
 第一の依頼を受けるという事が前提になるのですが…」
大名古屋国大戦英雄を一堂に集めてからの依頼… 
普通に考えても只事ではなさそうだ。 
本田ミナが復讐を企てている…或いは英雄達が必要な程の仕事を齎そうとしている… 
どちらにせよ良い予感はしない。 
だが断る余裕など無いし、イルヴにも多少の興味がある。 
英雄達が必要な依頼…或いは大名古屋国関連の依頼…… 
前支配者に繋がる何かが其処から得られれば…。
「なぁなぁ、ちょっと前にSeventhTrumpetだっけ?の子が言っとったけど、 
 イルヴさん達ってもしかして大名古屋国大戦の?」 
今更か!?
併しそう言われればシェリアにはまだキチンと言ってはいなかった。 
シェリアの方から何も言っては来なかったので、 
自分達が英雄であるという事を特に意識していないイルヴ達が、 
説明を忘れたというのは仕方が無いところだろう。
「ああ。そうだ、過去に大戦に参加した者だ。 
 別に隠していた訳ではなかったのだが……」
「はわ〜、そんな凄い人だったなんて思わへんかったわ。 
 有難や有難や」 
取り敢えず側に居た『青』へ合掌し拝み始めるシェリア。
「祈るな。と、其れは置いといてだ。 
 集めるっても何日以内なんだ?今日中なんて無茶な事言わねーよな?」 
言ったのは『青』だ。 
やはり乱暴な言葉遣いはそうそう直せるものではない。直後、イルヴの肘鉄が入る。
「其れは勿論。無期限と思って頂ければ…」 
目の前の茶番も何の其の。男が冷静に返す。 
期限が無いとなれば片手間にでも出来るという事だ。 
中々おいしい依頼にも思えてくるが報酬の方はどうなのだろうか。
「ふむ……良いでしょう。 
 ですが全員はまず無理でしょう、破滅現象云々もありますしな。 
 我々が出来る範囲でやらせて頂く事になりますが。 
 後、報酬の方は…?」
「そうですね…1人につき2万UDでどうでしょう?」 
幾ら議会の議員になったからといっても、最初にしては大きく出たものだ。 
どうやら真の依頼の重要さは相当なものらしい。
「……解りました。交渉成立としましょう」
執筆者…Gawie様、is-lies

簡単な手続きを終えて帰る男の背を見やりながら、 
カウンターで書類を眺めているイルヴに耳打ちする『青』。 
「イルヴさん、大丈夫か? 
 大名古屋国大戦の英雄ったら…確か 
 俺、イルヴさん、ユニバースさん、エース、 
 ダルメシア、猫丸、ユーキン、バンガス、ガウィー、 
 ビタミンN、ジョイフル、ツヨシン、ポーザ、 
 ごとりん博士…14人も居るぜ?」 
指折り数えて言った『青』だが直後にイルヴからの訂正が入る。 
「メイとフルーツレイドもそうだろうが。16人だ。 
 兎も角、無期限というなら其れで良いではないか。 
 暇な時にでも適当にやっておけ」
イルヴの真意を量れず『青』が僅かに口篭り、何か言おうとするも、 
店の中へ戻って来たエースの台詞が其れを遮った。 
「済みません、プロギルドからの仕事が来て… 
 僕、今からクノッソスへ行って来ます。 
 多分…暫くは帰って来れないと思いますけど…平気ですか?」
「ふむ、解った。 
 では…次の依頼はワシと『青』とでやるか」
「へ、次?」 
イルヴが顎で指し示す方向… 
店の入り口辺りに3人の男が佇んでいた。早速次の客という訳である。
「よう、話は済んだか? 
 早速だが…大戦の勇者様達が経営する店ってのは此処で良いんだよな?」 
茶色いベストを着た黒髪の男が不敵に笑いながら言う。 
だが彼の問いに答えようとする前に、エース達は男達の内1人に話し掛けていた。 
「あ…デルキュリオスさん!また来てくれたんですか?」 
そう、地球で『青』達と共に戦ってくれたデルキュリオスである。
「ああ。3日前は大変な事があったらしいな。外が瓦礫だらけだ」
「さて、取り敢えずは自己紹介をさせて貰おうか。 
 俺はシュリス・キリウ。火星帝国立ロボット技術研究所の所員だ。 
 デルキュノの紹介は要らないよな? 
 で、こっちの黒いのがアルベルト・ジーン
茶色ベストことシュリスに紹介されたのは、顔中に傷のある黒衣の男であった。 
会釈もせず、『青』達の事を如何にも疑わしそうだと言いたげな眼で見ている。
「はぁ…其のロボット技研の人が…どんな御用で?」 
アルベルトからは眼を逸らし、話の出来そうなシュリスへと問うが、 
其れに対して逆にシュリスの方から質問が来た。 
「其の前に…一つ確認をしたいんだけど良いか? 
 3日前…イオルコスで起きたテロの鎮圧に貢献したのってお前達だよな?」
電波博士ラムノーバ捕縛の件だろう。 
実際にはシェリアの歌で偶然、勝利を拾ったに過ぎず、 
『青』やエースがどれだけ貢献したかというと極めて微妙なところだ。 
取り敢えずは「まあ一応そうだ」とだけ言っておく『青』。
「そうかそうか。ならOKだ。 
 お前達に依頼したい。遺跡の調査だ。前金は6万UD」 
ハイリターン…詰まりはハイリスクという事だ。 
遺跡の調査というと火星ならば火星古代文明の遺跡なのだろう。
「危険みたいですね?」
「まぁ異形共が住み着いてるしな。遺跡そのものも生きている」
「?遺跡が生きてる?」
「あ、別に遺跡が生命体とかそーゆーんじゃない。 
 遺跡が機能停止していないって事だ。詰まり仕掛けがまだ作動する可能性が高い」 
圧倒的な科学力を備えた火星古代文明… 
其れが何故滅んでしまったのかを伝えるものは無い。 
ただ遺跡から発掘される遺産や仕掛けられた罠の数々が、 
文明の凄まじい技術を物語っていた。
「…成程……確かに危険そうですね。 
 でも何でロボット技研の人が…遺跡なんか……」
「エース、止めろ」 
好奇心からか深入りしそうになるエースを止めようとするイルヴだが、 
シュリス・キリウ…依頼人の男は笑ってこう答えた。 
「いや、良いよ。俺はこう見えても火星古代文明の方に興味があってな… 
 ロボット技研に入ったのも、火星古代文明の『守護者』に魅せられたからだ」
「『守護者』?」
「…確か火星古代文明の遺産……人型の戦闘ロボットでしたな」
「ああ。アンタよく知ってんな。 
 だが…ロボットつーかアンドロイドって呼んで欲しい。 
 ロボットと言うとゴツくて四角く無骨なイメージで誤解されそうだからな。 
 実際の『守護者』は、人間そっくりなんだぜ? 
 まあ受けるか受けないか早く決めてくれよ」
「保安部が直接動けば良いものを… 
 何故ワシ等に依頼しますかな?」
「そりゃ、出来ない理由があるから…って、あ…」
「…なるほど、やはり大元はロボット技研ではなく、もっと中枢…」
「おっと、それ以上は勘弁してくれ。 
 まぁ大体察しの通りだ。 
 それと、この件、レオナルド帝にも知らせてはいない… 
 言えるのはここまでだ。これ以上余計な事は言わないぜ。 
 さ、やるか、やないか、どっちだ?」
「…いいでしょう」
イルヴの返答を受け、その気が変わらない内にとばかりに、 
シュリスはカウンターの上に前金は6万UDの札束をドサっと積み上げた。
「現金か、そんなに急かさんでも逃げはしません。 
 シェリア、銀行の人を呼んでおいてくれ。 
 遺跡にはワシとこの青で行くが、いいのですか?」
「こっちからもデルキュリオスとアルベルトを同行させる」
「解った。 
 ところで、アルベルト、殿、か? 彼はどういう関係なんです?」
自己紹介もせずに唯黙っているだけのアルベルトに一同が改めて目を向ける。 
いかにも腕に自身アリな雰囲気たっぷりではあるが、 
危険な仕事に付き合うからには、流石に訊かない訳にはいかない。
「いや、それがな、途中でスカウトしたのはいいんだが…」
「…命令は聞く。だが俺に何も訊くな…」
「これなんだよ。すげー無口」
「だ…大丈夫かコイツ… 
 てかよくこんなのスカウトしたな」
執筆者…is-lies、Gawie様
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