リレー小説3
<Rel3.『青』4>

 

 昨日、謎の集団が放った煙幕弾で、 近所に要らぬ警戒を抱かれてしまった所為もあり、 
イルヴの店には未だに客が来ない状態だった。 
だが其れでも迫害を受けるよりは遥かにマシだ。
「あー、くそ…誰も来やしねぇじゃんかよ…… 
 昨日の連中…イルヴさんは、あー言ってたけど… 
 やっぱ今度会ったらメッタメタの……」 
「落ち着いて下さいよ『青』さん。 
 変に向こうを刺激しちゃった僕達も悪いんですし」 
「其れを言ったら、俺達を刺激したあいつ等も同罪だろ?」
今、イルヴは買い物に向かっており、 
カウンターで店番をしているのは『青』とエースであった。 
昨日の不可解な相手(しかもかなりの手練と思われる)の事が、 
未だに頭から離れておらず、あれこれ進展の無い話を続けている。
「日本宇宙ステーションの追っ手って事は無いだろうし… 
 何だ、あのセレクタとかいう胡散臭い組織なんじゃないか?」 
「でも昨日のは敵意をバリバリ感じましたよ… 
 やっぱり関係無いと思います… 
 其れにセレクタは別に僕達………」
ガチャ…
エースと『青』が口を噤む。 
イルヴが帰って来たに違いないと思ったからなのだが、 
果たして、目の前の人物はイルヴではなかった。
客は2人の女性であった。 
年齢はどちらも20いっては居ないだろが身長は全然違う。 
長身の方の女性は頭にターバンを巻いており其の上にゴーグルを掛けている。 
服装もノースリーブのシャツに黒のスパッツと動き易そうなものを着ているが、 
其の装い以上に奇異なのは、眼の色が左右で違っているという事だ。 
品定めするかの様な表情で店内を見回しながら爪を齧っている。 
もう片方の小柄な女性は茶髪を後ろのみ纏めた少女で、 
此方もスタイルは良さそうだが、服装は動き難そうなローブであり、 
十字架を象ったネックレスとイアリングをしている。 
長身の女性とは違い、落ち着かない様子で、 
『青』とエース…そして長身の女性の顔を順々に見遣っている。
ぱっと見は保護者と迷子といった感じの2人だが、 
小柄な少女の態度や外見的にも姉と妹という事はないだろう。
「あ…っと、いらっしゃいませ〜」 
「え?あ…い…いらっしゃ〜い!」
エースを見て、『青』も遅れて客に挨拶する。 
気を抜いている時に現われた来客に、 
己の素人振りを露呈する事になってしまい。 
しまったと内心舌打ちする『青』であったものの、 
長身の女はニッと笑ってエース達の方へと歩み寄る。
「看板見た時、まさかって思ったけど…こりゃ思わぬ発見。 
 あー、こっちの事こっちの事。
 其れよか依頼。オーケィ?」
「へ?……あ、ああ… 
 …じゃなかった、はい」
冒険者を自称するフリーランサーでやってきた期間が長かった為、 
どうもこういう接客に於いてぎこちない『青』。 
併し…
「依頼は『このコの道案内』。 
 お金はハイこれ」
長身の女が、小柄な少女を指差して言った依頼は、 
エース達の想像していた内容とは全く異なっていた。 
確かに「何でも屋」という看板を掲げているからには、 想定されていない仕事も来て当然だろう。 
だが道案内というのには流石に脱力する『青』&エース。 
大名古屋国大戦を生き延びた勇者の仕事にしては、あまりにも不釣合い。 
だが長身の女の差し出した依頼金は、 
はした金ではあるものの道案内で貰える金としては儲けものだ。
「あ、道案内…ですね。 
 っと、何処へ行…………」
何処へ行くのかと尋ね掛けたエースの耳元へ、長身の女が密やかに囁く。
(えー、取り扱いには細心の御注意を。 
  歌わせない事。何が起きても知らないかんね?)
「へ?あの…其れって………」
エースが問い掛けるものの、 
長身の女は少女を置いてそそくさと出て行ってしまった。 
残された少女はキョトンとした感じで、 
此方にも何が起きたのか解っていない様だ。 
一瞬、『青』とエースの脳内に最悪の予想が浮かび上がる。
この娘、捨て子か何かじゃないのか?
冗談ではない。
此処は確かに何でも屋ではあるが、託児所でもなければ孤児院でもない。 
直ぐに店を出て辺りを見回す『青』であったが、 
小柄な少女を置いていった女の姿は既に無く、 
イオルコスの町を行き交う移民達の視線が、慌てて店から出て来た『青』に突き刺さるのみ。
「……いねぇ……」
「…ま、まぁ…別に…… 
 捨て…ゴニョゴニョ…って決まった訳でもありませんし… 
 其れに頼まれたのは……そうだ!道案内! 
 えっと…何処へ行きたいんです?」
さっきから困った感じの表情でエース達を見ていた小柄な少女は、 
急に話を振られ、あたふたしている。 
もじもじしながら落ち着き無く「あーうー」と言う様が何ともいじらしい。 
其のまま顔を見合わせ、様子を見る事にする『青』とエース。
「え…えっと、其の……う…うち……… 
 …雑誌で見た……アプリコットプロダクションの… 
 ……お、アイドルのオーディション受けに………」
アプリコット? 
 …エース、知ってるか?」
「えっと………僕もちょっと……」
最強クラスのプロだの冒険者だのと言っても、 
いや、だからこそ彼等は世間のアイドル云々には無縁であり、 
更には少女の科白そのものが要領を得ない。 
簡単と思われた道案内だが、早くも雲行きが怪しくなって来た。
「其の…アプリコットのオーディションって、 
 何処でやってるって聞いたんですか?」
「あ、この雑誌に載ってたんやけどぉ…… 
 アテネをずっと北に行くって… 
 でもずっとずっと行っても何も無くって…」
やはり少女自身、良く解っていない様だ。 
取り敢えず少女がリュックサックから出した雑誌を確認してみる『青』。 
だが………
アプリコットじゃなくてアプリットだぞ? 
 …其れに北って……アテネ駅から徒歩10分… 
 アテネ市内じゃないかよ!! 
 ……って、開始日時ずっと先だし!」
『青』が声を荒げるのも当然の事。 
確かにイオルコスはアテネの北方ではあるが… 
ずっと気付かずに此処まで来てしまったと言うのなら、 
この少女、間違いなく天然だ。
「…というかコレは……… 
 さっきの女の人…あ、貴方と一緒に入って来た人。 
 彼女は何も言わなかったんですか?」
「えっと…さっきの人… 
 1〜2時間位前…此処で会ったばかりでぇ………。 
 道案内頼んだら……此処へ連れてかされてしもうて…」
どうやら先程の女が、いきなり道を聞いて来たこの天然少女をウザがり、 
偶然発見した何でも屋である『青』達に全てを任せた…という流れの様だ。
(どうする?近くまで送って、後はコイツの勝手にさせるか?)
(そうはいかないでしょう。開始日時はかなり先ですよ?
  それにさっきの話から察するに、あの人はここに来てまだ数日も経ってないんでしょう。
  近くまで送って後はあの人の判断に任せると言うのは…)
少女に背を向け、小声で話し合う二人。 
「あの〜…迷惑ならうち一人で…」 
少女が小声で話し合う二人を見て心配そうな声で二人に話し掛ける。
「お、そりゃ良…」 
そりゃ良い、と『青』が言おうとしたその時。 
「そんな迷惑なんかじゃありませんよ!!
 僕達はこういう事が仕事なんですから!…あ!!そうだ!!」 
エースが何やら『青』に耳打ちをする。
「…何ィ!?オーディションの日まで泊めるぅ!?
 道案内だけすればいいだろう!?第一、俺は女なんざ大嫌…っ!!」 
女なんざ大嫌いだ、と言いかけた『青』の口が止まる。
エースが踵で『青』の足を踏みつけたのだ。 
(『青』さん……?依頼人を個人の嗜好で選り好みするのはどうかと思いますよ?
 あの人を泊めてもいいですよね?)
微笑むエース。しかしその眼は笑っていなかった。
執筆者…is-lies、鋭殻様

 

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