リレー小説3
<Rel3.『青』3>

 

 

「…ったく、これも違う……」
イルヴの家の狭っ苦しい居間の中、 
購入したノートパソコンのモニターと睨めっこを続ける『青』。 
元々ネットサーフィンが趣味であった彼だが、今は楽しんでいる様子は無い。 
モニターに表示されているのは検索エンジン。 
検索キーワードは『全支配者』
イルヴを勧誘しようとした組織セレクタが敵対しているという魔物達である。 
話は少し聞いただけだが、何でも世界の消滅を目的とし、 
人間の精神に寄生して活動する異界の魔物だそうだ。 
地球で『青』達の関わった京都事件では、天皇・六条が魔物と化し町を破壊…
黒幕と思われる摂政の藤原からは謎のオーラを感じ取った。
そして其のオーラは、
嘗て『青』の仲間の部隊を壊滅させた謎の魔物と同じ雰囲気を有していた。 
あれも前支配者ではないかと思ってネットで情報収集をしていた訳だが、 
碌な情報が無い。存在すら示されていない。
(常識ですよ。ネットで調べてもせいぜい政府側の 
 毒にも薬にもならない見解しか聞けませんよ。 
 しょせん無料の情報にはそれなりの価値しかありませんね)
今は行方不明の嘗ての仲間…ミスターユニバースとの会話が頭の中に蘇る。 
併し、ネット以外でどうやって情報を掴めば良いのか……
「ほぉ、全支配者か…」
いきなり後ろから掛けられた声にビビる『青』。 
振り向いた先にあったのは術士イルヴの顔である。
「どうでも良いが字を間違えてるぞ。 
 ての支配者…ではなく、の支配者だ」 
どういう漢字で書くか解らなかった為、適当に検索していたのだ。 
だが「前支配者」というキーワードでも一応検索していた。 
ヒットしたのは何かのファンタジーゲームや小説… 
文字通りの意味で「前の支配者」と書かれているページ程度で、 
異界の寄生魔物であると述べられているページは絶無だった。
「興味があるなら、私に聞けば良いだろう?」 
そう。イルヴは前支配者の事を良く知っている様だった。 
前支配者の能力…出身…目的…これを『青』達に話したのもイルヴ。 
何らかの関係がある事は明白だった……だが…
「お前が京都で前支配者と何があったかは知らんし、知ろうとも思わん。 
 だが、1人で何でも背負い込もうとするな。 
 前々からお前の欠点だと思っていたが、お前は他人との連携が巧くない。 
 長く一人旅を続けていたという事もあるのだろうが、 
 これからは私やエース…他の人間とも付き合う事になる。 
 良いか?仲間を頼れ」
「………解りました、まあイルヴさんがそう言うなら… 
 ……って……京都?」 
「ああ、あんな魔物絡みの異変… 
 あれ程の大規模なものは大抵、前支配者の仕業じゃよ。 
 奴等は破壊や人の死…そういうものを楽しむのだ。 
 そして其の行動は極めて大胆… 
 街中に魔物が突如出現したとかそういう話は、 
 十中八九、前支配者絡みだろうよ」
其の言葉にハッとした『青』が、 
増大する不安に耐えかね、恐る恐る聞いてみた。 
昔、仲間の部隊が謎の魔物に全滅させられた事件の事を…
「あの…ちょっと待って下さい、 
 …13、4年前の……ベルトンのイプト事件って知ってますか?」 
「…勿論だ。 
 街1つが丸々謎の消滅…… 
 TVでは核兵器暴走や…他国による新兵器の実験だとか… 
 果ては終末論まで出る始末だったが…… 
 前支配者の仕業と見て良いだろう。 
 当時、丁度ベルトン国に停泊していた傭兵が、 
 バケモノを見たとかTVで言っておったらしいからな」
間違い無い。『青』が共に戦った戦友で、数少ない生き残りだ。 
仲間の仇である前支配者…其れが今も存在し、 
好き勝手に暴れている… 
眉間にシワを寄せ、歯を食い縛る『青』。
「……お前、イプトに居たのか?」 
「いや、もしかしてって思っただけです。 
 其の…続けて下さい」
先程、仲間を頼れとは言われたものの、 
流石に人間というのはそうコロコロ変わるものではない。 
どうしても自分の手で仇を討ちたい思いがあるし、 
何よりも、もっと詳しい情報が欲しかった。
「…で、前支配者の事だが… 
 奴等は自称・宇宙誕生以前の存在… 
 まあ流石にこれはブラフだろうが、 
 相当、古い存在という事には変わりないだろう。 
 肉体の無い精神体のみの存在であり、 
 何らかの儀式で他者の肉体を借りて動くのだ。 
 目的は宇宙の消滅…そして再創造」
「あの…何です? 
 其の消滅と再創造って?」 
「連中は人間……というよりも、 
 自分達の思い通りにならないものが気に食わないらしい。 
 そういう気に入らんものを一つ一つずつ探し出して、 
 消していくのは面倒だという事で、 
 一気に全てを抹消しようという訳だ。 
 そして自分達で自分達の好きに出来る世界を創造する…と」
あまりにも荒唐無稽な前支配者の計画に唖然とする『青』。 
そして…前支配者の欲望、愉悦…… 
たった其れだけの為に… 
前支配者の楽しみだけに… 
バジーは、ジェントは、忠治司令は、何百人もの仲間は死んだ。 
怒りに身を焦がそうとする『青』だったが、 
ふと当然の疑問に行き当たった。
「…イルヴさん、何でそんなに詳しいんです? 
 ネットじゃ全然情報無かったのに…」
「まあ、前支配者とは数世代前からの因縁があってな… 
 後、前支配者は『直属』と呼ばれる下僕を持っておる。 
 こやつらは前支配者共が新たな世界を創った後、 
 相応の地位を与えられるという条件で前支配者に従属しておる。 
 前支配者から力を与えられた精鋭で、 
 元々はバケモノであったり人間であったりするが、 
 総じて人間の敵う相手ではない、気を付けろ」
誤魔化す様、話を続けるイルヴ。 
どうやら其処にはあまり入って欲しくない様だ。
「京都の襲撃時には… 
 …確かストグラとか名乗っておったか… 
 お前は会っていないが、あやつも直属であろう。 
 全てを破滅へと誘う…そう言うておったからな。 
 後、第四次世界大戦も前支配者の仕業ではないかと見ておる」
第四次世界大戦=大名古屋国大戦には『青』も参加した。 
首謀者・本田宗太郎はまるでニ重人格の様であった。 
能力者や獣人の解放を唱えたと思えば、宇宙の抹消を叫ぶ。 
確かにイルヴの説明した前支配者に似ている。
「ふぅ………前支配者…か…… 
 そいつ等って…存在はあまり表沙汰になってないみたいですけど…… 
 ンな大きい事件何度も起こしてんなら…バレても…… 
 まさかコイツ等、政府を操って情報規制しているとか?」
大名古屋国大戦に京都の事件、更に地球崩壊…… 
あれ程、派手に動き回り、情報を垂れ流しているクセ、 
一方的に前支配者が全てを掌握している事は有り得ない。 
併し、実際には前支配者の事を知っている人間は、 
組織セレクタやイルヴ程度しか『青』は知らない。
「何らかのコネクションはあるのだろうな。 
 だが連中の計画に賛同する人間はまず居ない。 
 宇宙消滅なんぞで自分の首を絞める馬鹿は居らんし、 
 先程も言ったが、前支配者に協力しても得られるのは 
 宇宙を消滅させるという其の時に生き残る権利と、新たな世での地位のみだ。 
 地球の全ての生物を敵に回す代償としては、あまりにもリスクが多過ぎる。 
 大方、其の絶大な能力を使って何か企んでいるのだろう」
「……じゃあ、其のまま放っておけば… 
 前支配者は自滅するって事なんじゃ?」
「…そうだ……だからこそ…… 
 ワシは………………っと、御喋りが過ぎたな………」
言い掛けてイルヴは振り向き、其のまま部屋を後にする。 
『青』も呼び止めようとしたが、聞く耳は持たなかった様だ。 
イルヴは前支配者と一体、何があったのだろうか… 
そして前支配者…宇宙の破滅を狙う異界の魔王達……… 
だが『青』は其の裏に何か……巨大な何かの影を感じていた。 
そして、前支配者の其れを前にした時、 
自分は理性を保っていられないであろうという事も。
執筆者…is-lies

 建物裏手

 

「ママ〜変なおじちゃんたちがいるよ〜。」 
窓の下で室内の会話を盗聴していた数人の男に少年が指を差している。 
「見ちゃ駄目よ。」 
と、少年の手を母親が引っ張り足早に歩き去りはじめたが、 
突然最も若い青年が顔を真っ赤にしてあたりに落ちていた鉄パイプを投げつけた。 
「クッククソ餓鬼!!とっとと失せろ!!」 
さっきまで情けない声を上げていた青年が突然キレた。 
「キャアアアアアアア」 
母親は恐怖で悲鳴を上げ、子どもは驚き泣き叫んだ。
青年は思わず殺気を露にしてしまう。 
細心の注意を払いながら路地裏に潜んでいたところを、 
いきなり子供に「変なおじちゃんたち」と指差され、 
大声で悲鳴を上げられ、張り詰めていた緊張感がブツリと切れた。 
青年が鉄パイプを振り回しながら、母子を追い払おうと路地裏を飛び出した、 
その時だ。
「失せるのはオメーらだ」
突然背後から声をかけられ、男達がハッと振り返ると、 
そこには『青』とエースが訝しげ男達を睨んでいた。 
慌ててイヤホンや盗聴機材を懐に詰め込む男達だったが、既に手遅れだ。
「い、いつの間に…そこに…?」
「さっき、正確には7.6秒前(適当) 
 なんか騒がしいから窓から出てきた。 
 で、オメーら何者? 
 つぅか面倒臭ェからかかって来い!」
怪しいと見るや否や、敵意を剥き出しにする『青』とエース。 
同じく、それに釣られて男達もそれぞれ武器を手にし、身構える。
と。 
「止めんかっ!!お前達は相手の力量も解らんのか?!」 
リーダー格とおぼしき男が叫んだ。
それを聞いた男達は武器をしまい始めた。…ただ一人、先程の青年を除いて。 
「煩ぇ!!俺に命令すんじゃねえっ!!」 
豹変した青年はナイフを構え、『青』達に飛び掛ろうとする。 
が、次の瞬間。
ドゴッ
彼の動きが止まった。気を失ったのである。
いつの間にか彼の前にはリーダー格の男が立っていた。
前のめりに倒れる彼を受け止め、地面に寝かせると、小声で呟いた。 
「(まったく、これだから血の気が多い奴は苦手だ…
 …さて、どうするべきか…相手は大戦の英雄…我等では到底敵わん…)」
男の顔に汗が滴る。
男は決断した。 
「…ここは一旦退くぞ。」 
後ろにいる部下にそう言うと、男は目の前に爆弾らしき物を放った。
「いっ!?」 
『青』とエースが怯み、そして後退する。 
エースが後退しつつ、
周りに被害がいかないよう、シールド魔法を詠唱しようとするが、間に合わない。 
「ここまで…か…?」 
エースは死を覚悟し、眼を瞑る。 
そして、
ボン
『青』、エースの目の前に煙が広がった。男が放ったのは爆弾ではなく、煙幕弾だったのである。 
暫くし、エースが口を開いた。 
「…逃げられましたね。」 
「ああ。……何だったんだよ、アレは?」 
「僕に言われても……」 
呆然とする二人であった。
執筆者…タク様、Gawie様、鋭殻様
「やれやれ、逃がしてしまったか… 
 まぁ、小僧のわりには、退際は心得ていたようだな」
薄れていく煙幕の中から現れたのはイルヴだった。 
どうやら事の一部始終を見ていたようだ。
「問題はお前達だ…青、エース。 
 せっかく初めての客だったというのに…」
「え、客って… 
 でも、アイツ等、なんか盗聴してましたよ」
「だったら何だ? 
 大体、ワシ等の会話を盗聴したところで一体何がわかるというのだ? 
 イニシアティヴは此方にあった。 
 もっと相手をよく見ろ。 
 奴等の目的は何だ? 
 ワシ等の情報が欲しかったのだろう? 
 ならば与えてやれ。 
 無意味に殺気を振り撒いて、無駄な敵を増やしているのは、お前の方なんだぞ」
青もエースも何故かイルヴには頭が上がらない。 
確かに、イルヴの言う事は尤もだ。 
しかし、彼等とて実戦経験は少なくはない。 
下手に相手に考える隙を与える事の危険性は知っているし、 
戦いの基本は先手必勝であることも心得ている。
「つまり…その… 
 能ある鷹は爪を隠すってやつですか?」
「お前等に隠すほどの爪があるのか!?」
解らない――― 
解ったようで何処か納得できない。 
まるで、5、6歳の子供が親に叱られているように、 
ただイルヴの説教を黙って受け入れるしかなかった。 
当然、イルヴ自身も「教育」というものには不慣れではあったのだが…
「…僕、アイツ等を追ってみます。 
 気絶した仲間を担いでは、そうそう遠くへは行ってないでしょうし」 
「やめておけ。 
 どうせ、あの様子なら近いうちにまた来るだろう。 
 いや、案外まだその辺に隠れているかもな…… 
 まぁいい。 
 次に会ったら、失礼のないようにな」
執筆者…Gawie様

 

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