リレー小説2
<Rel2.ムーヴァイツレン・クーデル>

 

  ドイツ連邦・ベルヴュー宮殿

 

大統領執務室前の廊下を二人の男が歩いている。 
一人は戦士風の獣人、もう一人はポンチョにゴーグル、深めのソンブレロ…
中世の面影を残すこの宮殿にはあまりにも不釣合いな二人の男に、 
執務室前にいた数人の警備兵が銃を抜いて威嚇する。
「何だ貴様等!? 止まれ!」
更に後ろから軍用犬を連れて追いかけて来た十数名の警備兵が加わる。 
警備兵15人に軍用犬20匹… 
完全に包囲される怪しい二人の男、しかし投降する様子はない。 
牙を剥いて唸る犬達、首輪から鎖が外され、一斉に二人に跳びかかる。
わん!わん!わん!
…が、犬達は噛付くどころか、尻尾を振りながら獣人にじゃれついている。
次に獣人が一声上げると、犬達はくるりと振り返り、今度は警備兵達に襲いかかった。 
兵器と呼べるほどに完璧に訓練された軍用犬に自らがその標的にされたのだ。 
飼い犬に噛まれたという程度では済まない。 
逃惑う警備兵達を横目で見ながら、ポンチョの男は執務室の扉を叩く。

 

「毎度〜」
執務室内、中央に置かれた机に一人の男が座っている。 
入ってきた怪しい二人の侵入者を見ると、
不機嫌そうに頬杖を突き、葉巻を指の上で回している。 
「まったくだ、毎度毎度騒々しい。 
 アポを取るなり正装して来るなり、 
 もっとまともに登場できんのかね?ミスターユニバース君」 
後ろの窓から射し込む光が逆光となり、顔はよく見えないが、 
その声はドイツ首相ムーヴァイツレンに間違いなかった。
「…ん? そちらのワンちゃんは、君のボディガードかね?」 
腕を組んで扉にもたれかかっている獣人を指してムーヴァイツレンが問う。 
「彼はビタミンN、森の動物達の友達、わし等の同志です」
獣人を適当に紹介しながらムーヴァイツレンに歩み寄り、 
いかにも高級そうな机の上に腰を下ろす。
「それにしても、各国首脳の方々は逃げ支度で忙しいというのに、余裕ですなぁ」 
一国の大統領相手に横柄な態度のユニバース。
地球が崩壊しつつあるこの状況では
大統領の権威より、能力者の力の方が上であるという事をアピールしている様にも見える。 
一方のムーヴァイツレンはそんな彼の態度をさして気にする様子もなく、
ただ窓の外に広がるベルリンの街を眺めながら呟く。
「私は…この地球をそう簡単に捨てる事など…出来ん… 
 それに、『地球の平和は我々が守る』と言ってきたのは君だろう? 
 そのために得体の知れん君の組織に多額の資金援助も行ったのだ」
「あ、その節はどうも。もちろん地球崩壊は防いでみせます。 
 地球が崩壊したら、経済も崩壊して、商売どころじゃありませんからな」
「ふん、まぁいい、 
 今日、君が来た用件も大体分かっている」 
そう言いながらムーヴァイツレンが机の引き出しから書類を取り出す。 
「先日の見積書、見せてもらったよ。 
 フルオーター100機セットで68億UD(ローン可)だったね。 
 しかし生憎だが、今し方、別口で兵器の売込みがあってね」 
ムーヴァイツレンが書類をパラパラとめくり、一枚の写真をユニバースに見せる。
そこには、能力者と思しき人物と戦うロボットの姿が写っていた。
先行者というそうだ。君のフルオーターセットの半額だよ」 
「おやおや、ドイツさんはこんなモノを戦線に投入して、 
 ひょっとして、戦果よりもウケ狙いに走る気ですかい?」 
思ったとおりだと言わんばかりに嘲笑するユニバースに、ムーヴァイツレンは焦って否定する。 
「い、いや…まさか、
 今日、君がタイミングよく現れたのは… 
 この先行者の情報を聞きつけたからなんだろう?」 
「ふ、さすが、旦那も商売人ですな、そのとおりです」
デザインはともかく、性能はほぼ互角、にも関わらず、 
倍の値段で兵器を買ったとなれば、その出所が怪しまれるのは当然である。 
そこで早速と、ユニバースは懐から一枚の書類を取り出す。 
それは、ついさっき書き直したような手書きの見積書であった。 
「ほう、先行者の更に半額か…それに… 
 …ん? な、何だこれは!? 
 ドイツ国籍の身分証13人分にそれぞれの口座に1000万ずつ… 
 それに、秘宝エーデルヴァイスの無期限借用? 
 高いのか安いのか分からん…」 
「格安ですぜ。 
 フルオーターセットが15億、架空のドイツ人を13人作ってプラス1億3000万、
 国で所有してても意味のない宝石、
 何に使うかは企業秘密ですが、用が済めばちゃんとお返しします。
 でもって、移送先はここ」 
「むうう…」 
頭を抱えるムーヴァイツレン。 
そこへ、先程まで黙って扉の前に立っていたビタミンNが近付いて、ユニバースに耳打ちする。 
「ユニバース、そろそろだ」 
「おっと、そうでしたな。 
 わし等はこれで失礼します。まぁ、地球が壊れんうちにお願いしますわ。 
 地球からとっととトンズラするか、 
 最後まで地球を守ったドイツ大統領として歴史に名を残すか。  
 期待してますよ、旦那」
商談はユニバースが一方的に話を進め、一方的に切り上げる形となった。 
伝統を重んじるあまり、
エーテル能力という未知の分野の開発に遅れをとってしまったムーヴァイツレンとしては、
ユニバース率いる謎の組織との関係は保っておきたいところだ。 
しかし、正体を明かそうとしない彼等をそう簡単に信用する事も出来ない。 
何より、秘宝エーデルヴァイスをそんな連中に渡す事が彼にとっては屈辱であった。 
ムーヴァイツレンは深い溜息を吐く。
と、その時、 
軍用犬と格闘していた警備兵達が、ボロボロになりながらも漸く駆けつける。 
ハッと顔を上げるムーヴァイツレンだったが、 
そこにはもうビタミンNとユニバースの姿はなく、 
窓の方を振り返ると、一匹のワイバーンが飛び去っていくのが見えた。
執筆者…Gawie様

  ネオス日本宇宙ステーション、会議室

 

ネオス日本共和国首相小泉純一郎と軍部代表セカイハ・ボーリョクは日本宇宙ステーション会議室に入った。 
中には、アメリカのGOA副大統領と、
小泉と非常に仲が悪いデリング大統領。
中華人民共和国国家主席とその護衛達。 
フランス首相ラヴァルモットと護衛5人其の他諸々が居た。
但し、デリングを含む数名はモニターでの参加だ。
デリング大統領が第一声を発した。 
《小泉か…フッ…皇国の権威が弱まりようやく貴様の時代ということか。》
《デリング大統領。失礼でありますぞ。》
ラヴァルモットが低いが力強い声で言い放った。 
《フッフッフ…弱国の首相が吼えるな!》
「待ちなチャイナ…、喧嘩をしている場合ではありません」 
中国国家主席の一言である。 
「今は最悪の事態に備え、
 地球が滅亡した場合、何とか人間が滅びない為の手段を考えないといけませんシナ。」
小泉ががはっきりとした声で言った 
木星の衛星エウロパの氷の下の海の水を採取しよう
時を同じくしてモニターの一つにドイツ首相ムーヴァイツレンの顔が映る。 
其れを見るなり早速イヤミを放つのは、朝鮮労働党総書記…通称『超指導者』ゴールドマサデイである。
「やぁっとムーヴァイツレン殿の御到着かニダ。 
 聞けばまだ地球に残っているとか… 
 自殺志願かニダ?キョッキョッキョッキョ!」 
だが完全に無視される。 
ムーヴァイツレンからして見れば、おかしいのはゴールドマサデイ達の方だ。 
何故、そう簡単に故郷たる地球を捨てる事が出来るのか… 
まだ地球は崩壊すると決まった訳ではない。 
ユニバース達の組織が残っている。彼等に希望を託すのだ。
《遅れて申し訳ありません。 
 ですが、地球は何も無くなると決まっても………》
《ほう?何か良い案でもあるのかな? 
 ムーヴァイツレン殿》 
興味を持った様にデリングが陰険に弛んだ表情を引き締め… 
だが直ぐに思い出した様にポンと手を叩く。 
《ああ、其の前に業突張りの『火星帝』と話をすべきですな。 
 我々を火星に受け入れて貰わねば…… 
 幸い、リゼルハンクも協力してくれるそうですし…》
火星は長年、地球に縛られていたが、 
大名古屋国大戦で地球が疲弊した隙に独立していた。 
地球から散々国家承認を拒否され続けていた火星が、 
地球の民を受け入れるとは到底考えられない。 
だがデリングは妙に自信ありげな様子である。
各国首脳陣は未だ各々の手持ちのカードを伏せたまま、不毛な議論を続かせる。
「あ…、だから木星のエウロパの水を…」 
話を戻そうとする小泉だったが、もはや誰も耳を貸さない。 
たしかに資源の確保は重要であるが、木星開発には少なくとも十数年はかかる。 
あと、一週間か一ヶ月の内に地球が崩壊するかもなどと言われている今の状況で、
そんな悠長な話をしている場合ではないのである。 
前大戦の戦歴と独特のカリスマ性によって
ネオス日本共和国首相にまでなった小泉であったが、
具体案もなく革命的な政策ばかり打ち出している彼は、
やはり政治家には向いていなかった。
「やはり、火星の主権を今一度我々の手に取り戻さねばならんな。
 ムーヴァイツレン殿も、いつまでも地球にしがみ付いていては、また乗り遅れるよ?」
地球のことなどお構いなしに、デリングは火星進出案を進める。
一番解らないのがこのアメリカである。 
最初に破滅現象が発生してから、対抗策どころか原因究明すら行われないまま、
アメリカが真っ先に地球脱出計画を実行し、他の国もそれに追随する形となった。 
そして、今後の方針を決めるべく開かれたこの会議であったが、
出てくるのは、火星進出や木星開発の話ばかりで、
誰かが案を出せば、誰かがそれに異論を唱えるといった、
いつもの茶番をただ地球外に持ち出しただけであった。
今、現在の状況では、 
火星はテラフォーミングが最終段階に入ったとはいえ、未だ開拓中。 
宇宙ステーション、各コロニーも完全な自給自足には至っていない。 
そして地球では、多くの人々が
破滅現象の事実を知らされないまま、地球と共に消滅するかもしれない。 
また、地球が消滅した場合、
地球の衛星軌道上にある宇宙ステーションやコロニーへの被害も計り知れない。 
仮に生き延びたとしても、
少なくとも三年以内には経済と産業を再構築出来なければ、人類に未来はないのである。
(一体、我々は…何をやっているのだ…?)
今、交わされている議論はまったくの荒唐無稽な話である。 
本来なら、人類の未来や国の主権よりも、今生き延びることで精一杯なはずである。
ムーヴァイツレンはふと思った。 
(名古屋大戦の際に最後まで本田の要求を受け入れなかったアメリカが、 
  簡単に地球を捨て、火星進出を進めるのはやはり解せない。 
  アメリカは、まだ何かを隠しているのではないのか……?)
大名古屋国大戦時は能力者差別派であったトールマンが、 
一時、大統領になっていた事があり、 
現在では親能力者派のデリングが大統領だ。 
其れによる変化があったとしても、 
この火星への執着は、やはり理解し難い。
一体、火星に何があると言うのだろうか? 
そして其れは地球を見捨てる程の価値があるのか?
(…火星が何だ…私達の生まれ育った故郷は、この地球ではないか…)
表情を翳らせるムーヴァイツレン。 
其れを見たデリングが一瞬だけニヤリと笑んだが、其れを目撃出来た者は居なかった。 
《未練ですかな?ムーヴァイツレン殿》 
デリングやムーヴァイツレン同様、モニターに映っている 
イスラム共栄圏サウジアラビア皇太子『モハメト・シャー』の言葉である。 
《御気持ちは御察します。ですが地上は破滅現象の嵐が予想されております。 
 極限られた施設のみが耐性を持って残りはしましょうが、
 その中に入って破滅現象を停止…いえ、調査する事自体、無理があるでしょう。 
 ………先程、何か仰られていた様ですが、良い手立てでもあるのでしょうか?》 
どうもユニバース達の組織はあまり知られていない様だ。 
ドイツに絞って交渉をしたのか…もしくは他国でも話をしたが門前払いにされたか… 
最悪の場合は詐欺師の類なのか… 
兎も角、ユニバース等のみがムーヴァイツレンの希望だ。 
適当にモハメトをあしらい、地球の無事を祈る。
執筆者…タク様、is-lies、Gawie様
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