リレー小説3
<Rel2.LWOS 2>

 

 

  火星〜地球区間宙域
  宇宙コロニー「箱舟」中央司令タワー。

 

「Living Weapon development Organizations」LWOSの現在の拠点である
このコロニーの本部である。
黒と青が混ざったような色をした「鉄の柱」はただならぬ威圧感を発し、
周囲と明らかな違和感を感じさせる。

 

 

  タワー30階 所長室

 

シックな雰囲気を感じさせる木製の机。 
そして、椅子に座り書類に目を通す男・・・・・・LWOS所長、バルハトロスである。 
「・・・・・・そろそろ会議の時間か・・・・・」 
彼は書類をしまうと机に付けられた端末の電源を入れる。 
すると、端末の上に映像が投影される。
そこには幹部の面々の映像があった。白いマントを羽織った者の姿も見える。
「これより緊急の会議を開会する。」 
映像の一つに映った黒髪のサングラスを掛けた男・・・・・・
LWOS副所長「ジェールウォント・カディエンス」が口を開く。
「今回は、いうまでも無いが、SFESに対しての攻撃についてだ。皆、判っているな?」 
バルハトロスが話し始める。

 

 

  「箱舟」内居住区特別エリア 一室 

 

バルハトロスの話す様子を虚ろな表情で聞く少女・・・・・
LWOS幹部「マリーエント」である。
彼女には予測がついていた。おそらくこの会議でSFESに攻撃する事が決まる。
だが、そうなるとすれば火星市街への被害は免れないだろう。
彼女はその事が憂鬱だった。また人々に危害を加える事になる。
出来ればこんな事、止めさせたい。だが、止めさせる事が彼女には出来ない。
なぜなら、彼女は自分や仲間の秘密を知り、それを盾に脅迫を受けているからである。
ここでバルハトロスに背くという事は死を意味する。だから彼女は何も言えないのだった・・ 
「・・・・・・はぁ・・・・・・」 
彼女は溜息をついた。

 

其の時、エマージェンシーコールが辺りから一斉に鳴り響き、部屋中に赤いランプが滅灯する。 
「な…何っ!?」
《敵襲!敵襲!》
アナウンスと同時に、マリーエントのモニターに一つの映像が介入して来た。 
宇宙空間にぽつぽつと見える…星にしては歪な物体…黒光りする円形の何かが4つ。 
《直径約10メートル。熱源反応を確認。
 軌道修正をしながら『箱舟』に高速接近中。 
 約5分後に『箱舟』に接触すると思われます。発射元は90%の確率で火星。詳しくは特定不可》

 

 

  タワー30階 所長室

 

「……ふん…SFESに間違いない…… 
 併し…たった4つの戦闘機で、この『箱舟』に何をする気だ?」 
《ターゲット1〜4に生体反応を確認。生体兵器であると思われます》
コンピューターの応答にバルハトロスが苦笑する。 
生物兵器組織のLWOSに生物兵器で挑むとは愚か極まれりというところか。 
「レーザーでさっさと宇宙の藻屑にしてやれ」 
箱舟の外壁の一部分(と言っても1km程もある)の所々がスライドし砲塔を顕にする。 
其の剣呑な殺意を受けても、SFESの生物兵器は止まる事を知らずに突っ込んで来る。 
レーザーが放たれた。 
漆黒の宇宙空間が一瞬、光に包まれ、白き世界と化すものの…… 
「!?」 
SFESの生物兵器は健在であった。 
「電磁シールドかっ!?」 
全体に高密度の電磁波を纏いながら異形達は『箱舟』一直線に飛んでいく。 
《ターゲット1〜4、速度を上げました。 
 約20秒後に『箱舟』に接触すると思われます》
「っ!ちぃ!此方もシールドを張れ!!」 
一杯食わされた。異形達は直前迄、己の高い機動力を隠していたのだ。 
シールドが張り巡らせられるものの、4体の異形は寸前で其の内部に入り込む。 
「おのれ…だが、たった4体で何をする気……」

 

ズウゥウゥゥウウン……

 

所長室に僅かに響いた重音…そして端末の隣に置いてあったスタンドがカタカタと揺れる。 
《ターゲット1〜4、『箱舟』にカミカゼアタック。『箱舟』破損率0.07%》
呆気に取られるバルハトロスと幹部達。 
一瞬の沈黙の後に沸き起こる爆笑。 
SFESは何がしたかったのだ? 
「…っと、笑ってもおれぬな。隔壁は?」
「問題無く閉じました」 
破損した区域から空気が漏れ出ている筈だ。 
其の前に無事な区域の隔壁を閉じ、破損区域を隔離するのが当然。
……彼等は知る由も無かった。 
突撃したSFESの異形は、
『ユニコーンズホーン』と呼ばれる、対LWOS用の生体兵器であるという事を。
執筆者…鋭殻様、is-lies
「おい・・・・・マリエルの映像が消えてるぞ!!」 
一人の男が叫んだ。LWOS実質的最強の「ベリオム」である。 
「何・・・・・・?」 
バルハトロスは呟く。 
「残念だが隔離エリアにいた者はあそこにいてもらおう。じきに部隊を送る。」
「冗談じゃねえ・・・・・!俺はあいつを助けに行くぜ!」 
そしてベリオムが画面から去っていった・・・・ 

 

視点はマリエルの元へ・・・・

 

 

  特別居住区エリア(破損区域)

 

マリエルが机から顔を上げる。いまだに警報がなっている。端末も回線が切れたようだ。 
「・・・・・・な、何が・・・・・」 
ギャアアアア!!
その時部屋の外から悲鳴が聞こえる。 
「・・・・・っ!!」 
彼女は部屋の外へと走っていく。
部屋の外に出た彼女が見たもの…… 
「これは……」 
巨大な黒い塊が、壁を突き破って通路を半分塞いでいた。 
「さっきの衝撃……この異形…『箱舟』に突撃したの?」
異形は『箱舟』の装甲を突き破り、『箱舟』内部に半身を埋めていたのだ。 
併し、異形が動く気配は全く無い。一瞬呆れるマリーエント。 
この巨大な『箱舟』に、高が直径10mの異形がブツかった程度で何があるというのだ? 
巨象に挑むアリみたいなものである。 
だが、彼女は直ぐに他の心配事に思いを馳せる。 
もしかしたらこの異形は生体ミサイルの類で、不発なのかも知れない。 
これは専門家に任せ、万が一の時の為に非戦闘員を避難させるべきだろう。 
空気が漏れていないのかと危惧したが……どうも異形の表皮は樹脂の様になっており 
衝突時の熱で溶けてから固まったのか
壁の僅かな隙間も塞がれており、既に空気は漏れていなかった。 
「?………自分で作った穴を塞いでる?」 
見ると異形の前方には大穴が開いていた。壊れたとかそういうものではなく、 
内側から開いた様な感じだ。マリーエントが何と無しに覗き込もうとした其の時。
 カチャ
彼女の後方から、軽い金属音が響いた。 
慌てて振り向くマリーエント。其処には甲殻に包まれた人型が立っていた。 
見た事がある。SFES生体兵器『チューンドキメラ』。 
知力戦力共に高く、研究が進められたキメラの一種だが、 
『D−キメラ』と呼称される圧倒的戦力を有する新型が開発されたと同時に 
戦闘力強化を捨て、情報収集兵器として改良が続けられたシリーズである。 
多分、突撃した異形は輸送機やらであったのだろう。 
《こんばんわ。LWOS幹部マリーエント。 
 僕はSFESエージェントの『ライズ』と言う者だ》
生体通信…チューンドキメラを介してSFES本部からの通信が為される。 
「何故…私の名を?」 
《前支配者を介して君達の情報は筒抜けだよ。戦力、技術、箱舟の構造。 
 バルハトロスが何をトチ狂って僕達の研究サンプルたる前支配者に手を出したのかは知らんが、 
 はっきりと言ってやるよ。お前達は勝てない。 
 いや…僕達が手を出す以前に火星の総攻撃で滅びるのがオチだ。 
 SFESと同期であるとはいえ、隠れ蓑も持たない大々的な組織だろうに》 
其処迄、一気に述べて一息吐くライズ。其れは嘆息であった。 
《君達の能力…潰すには惜しい。今からなら……投降も出来るが…》 
「……何を馬鹿な事を……」 
バルハトロスに背く事は出来ない。そう思って彼女が声を出したと同時。 
ギャアアァァアアアア
先程の悲鳴。どうも遠くらしい。苦悶と激痛を感じさせる様な悲鳴。 
「な…何が起こって……!?」 
《くく…ちょっとした御土産さ。直ぐに色好い返事が貰えるとは思っていないが… 
 僕達の戦力をちょいとばかし見せてあげるのも良いかと思ってね》
言ってチューンドキメラは跳躍し、壁にあったダクトの中へ一瞬で消えた。
執筆者…鋭殻様、is-lies

  タワー30階・所長室

 

「空気は漏れていないだと?」 
副所長ジェールウォントからの報告を聞き、呆気に取られるバルハトロス。 
…と再度のエマージェンシーコール。 
同時にモニターにウィンドウが新たに開き、LWOS研究員の泣き顔がアップで映る。 
どうも場所は隔離されたエリアの一研究室らしい。 
《しょ…所長!大変です!》
「何があった?」 
《す…すふぇ………ぎぃっ!?
バルハトロス…そして幹部達は己の目を疑った。 
子供の背丈程もある巨大なアリが、泣き叫ぶ研究員の喉を食い千切ったのだ。 
監視カメラに噴出した血がこびり付き、 
バルハトロス達のモニターに出たウィンドウが赤で埋め尽くされる。 
が…がぁ……ぎひぃ……
  ザーーーーーーーーー 
ウィンドウがサンドストームに変化した。 
もう疑う余地が無い。SFESの生体兵器が『箱舟』に侵入して来たのだ。
「ふ、ふざけおって!!」 
ジェールウォントの顔が朱に染まっていく。バルハトロスの顔色も悪い。 
「・・・・部隊を編成。艦内に緊急体制を敷け。
 ・・・・・・・・火星進撃、考え直す必要があるか・・・・・」
「オッサン、俺と「ロネ」で破損エリアに行ってやろうか?」
モニターに映った男が口を開いた。
「・・・・・「アレット」、お前は艦の周りの敵を探し、見つけ次第戦闘機で掃討、
 ロネは部隊の指揮を執れ。」 
二人の男・・・・・「アレット」「ロネ」はそれを聞き画面より消える。
「・・・・・・「処刑人」、放す時が来たか・・・・・」 
バルハトロスは呟いた。
  視点はマリエルへ。

 

 

  特別居住区エリア(破損区域)

 

ライズとの通信が切れ、少し考え込んでいたマリーエント。と、
うわああああ!!
今度は先程より近くから声がする。
「やるしかないのね・・・・」 
彼女は走り始める。
「く、来るなっ!!娘には指一本触れさせん!」 
マリーエントが悲鳴の大元で見たのは、
工具を持ち後ろにいる少女(おそらく娘)を守っている研究員だった。
そして、それに対峙しているのは蟻型の巨大な、今まで見た事の無い異形だった。
「異形!?さっきライズが言っていたのはこういう事だったの!?」 
彼女が彼等に近づこうとしたその時。
「とりゃああああ!!」 
もはや捨て身同然の突撃だった。男は工具を振りまわし異形に向かっていく。
が、蟻は突然口から何かを吐き、それは男の靴に命中する。
すると、突然靴は溶け始めた。酸だったのだろう。
「ぬうっ!!」 
男が怯む。その隙を異形は見逃さなかった。間合いを詰め男に詰め寄る。
マリーエントはまずいと思い彼等に向かって走る。だが、
ブシュウウッ!!
時既に遅く。男は首を噛み砕かれた。男の首から鮮血が噴き出す。 
「そんな・・・・・お父さん、嫌・・・・・嫌・・・・」 
無残な親の光景を見て、涙を流し、恐怖に戦く少女を抱きしめ、
その光景を少女の視界から隠すマリーエント。
そしてその場には異形が人を喰らう不気味な音だけが金属の通路に響く。
マリーエントは妙な事に気付いた。 
異形は人間を食べている様に見え、併し実際には細かく分解しているだけであるという事に。 
細かくした其れを口に含んだまま、曲がり角へと消える異形。 
だが異形は直ぐに戻って来た。口の肉塊は……無くなっている。 
異形の次なるターゲットは無論…… 
マリーエントと幼き少女。
「掴まってっ!」 
少女を抱いたまま逃げ出すマリーエント。 
彼女は対能力者用の生体兵器なのだが、この様な能力を使用しない敵には圧倒的に不利。 
だが、少女が居なければ楽に逃げ出せるであろうマリーエントの脚も、 
流石に子供一人を抱えたままでは鈍るのは道理。蟻型エネミーも決して遅くは無いのだから。 
マリーエントとの距離を詰め、飛び掛る蟻型エネミー。 
何人もの研究員を引き裂いたであろう、其のギロチンの様に剣呑な顎が 
彼女の頭を一砕きにしようとした。
執筆者…is-lies、鋭殻様
ドガァァン!!
突然壁が破壊される。それを見た異形が動きを止める。 
だがそれも一瞬で再び異形が二人に飛びかかろうとする。
(・・・・・・ここまでなの?・・・ごめんね・・・私、貴方を助けられそうに無い・・・・)
マリーエントが少女の顔を見る。もう異形はすぐ其処に迫っている。
もはや覚悟を決めるしかない、と彼女が思った、その時!!
「諦めんじゃねえ!!最後まで足掻け!!」 
その声と同時に、先程の穴から一人の男が出てきて、異形に跳び蹴りを喰らわせる。
「ベリ・・・・・オム?」 
彼女は呆気に取られて、男の方を見ている。 
異形は男の攻撃に怯むが、すぐに男・・・・ベリオムの手を顎で鋏む。
「む・・・・・・・うっとおしいぞ!!」 
男は異形に手を鋏まれたままもう片方の腕を構える。そして、 
「はあっ!!」 
次の瞬間、異形の頭部をベリオムの手が貫いた。 
「ふう・・・・・・一段落、と・・・・・それにしても、痛えぜ・・・・・」 
ベリオムは血塗れの腕を押さえながら呟く。 
マリーエントは彼の腕を見る。
その状態は、普通の人間ならば間違いなく重傷の傷である。だが、彼は違った。 
腕の傷の箇所が淡い光を出す。それと同時に、傷口も塞がっていた。 
これが彼がLWOS最強の理由の一つ・・・・能力「再生」である。
「・・・・・・」 
「あ、貴女、大丈夫?」 
マリーエントは抱えていた少女に話し掛ける。 
「・・・・はい・・・・」 
少女は涙目で答える。無理も無いだろう。父親が目の前で惨殺されたのだから。 
(こんなに小さな子にあのような光景は残酷すぎる・・・・・可哀想に・・・・・)
マリーエントは黙り込む。 
と、その時。
ピー、ピー、ピー
なにやら機械音が鳴る。ベリオムの方向からである。
その音を聞きベリオムは懐から通信機を取り出した。 
「・・・・・あ、ロネか?・・・・・・・・何ぃ!?「処刑人」を放すぅ!?」 
それを聞き、マリーエントの顔が凍りつく。
「処刑人」・・・・・・ 
LWOS生体兵器の中で最も危険な兵器・・・・・
コントロールされていても、攻撃対象が居なくなれば味方をも攻撃しかねない・・・
その凶悪さは凄まじいものであった。彼女は不安になったが、それをすぐに頭から振り払う。 
「俺達を殺す気かぁ!?・・・・・・何?だから早く出ろって?判った・・・・」 
ベリオムは通信を切った。
「くそっ!グズグズしてらんねぇぜ!早く破損区域から出るぞ!」 
直ぐにマリーエント達の手を引いて走り始めるベリオム。
《成程。彼がLWOS最強のベリオムか……使い物になりそうではあるな……
 併し…僕には視えるぞ。お前の泣き所が……》
ダクトに隠れたチューンドキメラの眼を通じ、事の次第を眺めるライズ。 
キメラは先程の蟻型エネミーが殺したであろう人間の肉片の側へと下り、青い水晶球の如き3つの目でじっと眺める。 
《……ふん…成功と言ったトコか。既に潜伏状態とは都合が良い》
執筆者…鋭殻様、is-lies

  タワー30階・所長室

 

「処刑人はどうなっている?」 
《解凍作業完了しました。直ちに投入致します》
アナウンスを聞いて一安心といった表情のバルハトロス。 
SFESに『箱舟』への侵入を許してしまったのは、かなり手痛い。 
宇宙空間のコロニーという事もあって、物資の調達に手間取る上に、動きも把握され易い。 
何よりも士気に関わる問題だろう。早急に対策をすべきであると考える。 
「まあ、高々数区画の壊滅で終わって何より………」 
バルハトロスの声を遮ったのは、又もやエマージェンシーコールであった。 
《敵第二波、急速接近中。
 先の中型生体兵器と同タイプのものが5。惑星間巡航ミサイルが10。 
 約30秒後に『箱舟』に接触すると思われます》
「く・・・・・・・!!」 
「ミ、ミサイルはともかく、先程の生体兵器にはレーザーは効かんぞっ!!」 
幹部達が動揺する。 
その時、モニターが新たに開かれた。 
其処に映っていたのは・・・・・

 

 

  その頃 箱舟外宙域

 

《アレット、ミサイル10とさっきの生体兵器が5。気をつけろっ!!》
通信を聞く緑髪の男、アレットは戦闘機の中にいた。
そう、彼は先程バルハトロスに、箱舟に接近する敵を発見、掃討する様命じられていた。 
「わーった。・・・・・しかし、レーザーが効かねえとなると、ちょっとキツイな・・・
 ・・・ま、やるしかないか。」 
そう呟くと、アレットは操縦桿の横にあった球状の物体に手を乗せる。
アレットの手が光り、球体にその光が吸い込まれていく。そして、 
「発射!!」 
アレットが操縦桿に付いていたボタンを押す。 
機体の先端・・・・・レーザーの発射口だろうか。そこから赤い輝きを放つ光が漏れていた。
そして、その先端が異形達の方向へと向けられ、赤い光が放たれた。
だが、異形戦闘機ユニコーンズホーンの電磁シールドは其れをも無効化してしまう。 
又もや『箱舟』へと突き進む異形。今度も特攻する腹なのだろう。

 

 

  タワー30階・所長室

 

「…だが今度はシールドを展開させている。 
 アレット!此方のシールドもあの電磁シールドに破られるだろうが、 
 接触時に数秒間、互いのシールドが打ち消し合う筈だ!其の瞬間に攻撃しろ」 
マイクに向って命じながら、手でキーボードを次々と打っていくバルハトロス。 
同時に『箱舟』各所のハッチが開き、無数の戦闘機が射出された。 
併し、バルハトロス達が外部に集中している時、箱舟内部では何かが徐々に増大していた。 
そして其れは1つではない。
執筆者…is-lies、鋭殻様

  特別居住区エリア(破損区域)

 

「……………間に合わなかった…ってか」 
一筋の汗を流すベリオムの前に佇む人型。 
類人猿を彷彿とさせる長い腕に、鉈の如き剣呑な輝きを放つ爪。 
其の『処刑人』の持つ死神の鎌が、怯える少女と、彼女を両腕に抱くマリーエント、 
そして引き攣った笑みを浮かべるベリオムの顔を映していた。
「(マリエル、ゆっくりと下がれ、ゆっくりと・・・・)」 
ベリオムはそう囁き、少しづつ後退りしていく。 
マリーエントもゆっくりと、「処刑人」の眼を見つつ後退りする。 
そして、距離が十分に離れた時、 
「走れっ!!」 
ベリオムが叫ぶと同時に二人は全速力で走り始める。 
それを見た処刑人も二人を「獲物」とし、追跡を始める。 
それも、かなりの高速で。

 

 

  タワー30階・所長室

 

監視カメラより映される映像に映っている3人の男女・・・・
そう、ベリオム達である。彼等は必死な顔をして走っている。 
「・・・・悪いが、お前達が居ては都合が悪いのだ・・・・・」 
そう呟くと、バルハトロスは別のウィンドウを開く。 
そこには、「オリジナルタイプNo:4遺伝子バックアップ情報」
「オリジナルNo:3遺伝子バックアップ情報」というタイトルのデータがあった。 
「・・・・それに、愛する者が居るならば・・・寂しくあるまい?マリーエント。・・・クク・・・・」 
「ったく、アンタがやりそうな事だな・・・・」 
バルハトロスの笑い声を遮り、男の声がする。 
バルハトロスは突然声がした方を振り向く。 
そこには、はだけたワイシャツを着、赤い髪にバンダナという・・・
不良の様な男が立っていた。歳は22程だろう。
「貴様・・・・は・・・」 
「白き翼」フレディック、状況把握の為に来ました・・・・ってか?」 
「な、バカな・・・・外から入れる状況では・・・・」 
フレディックは呆れた様に両手を広げて言う。
「なあ、アンタ、俺達をナメてんじゃないか?隠密行動は俺達の十八番だぜ?」
バルハトロスは少し黙ると、口を開いた。
「・・・・・つまり、あの異形もモノとせず、外壁か何かから侵入したという事だな?
 ・・・存在を隠す為とはいえ、止めてほしいモノだな?」 
バルハトロスは、男、フレディックの方を睨む。
彼、フレディックは、表情こそお気楽だったが、その眼はバルハトロスを凝視していた。 
「まあ、俺も長居する気はないからな、さっさと外敵は排除してくれよ? 
 宇宙空間の行動は目立ち過ぎるんでな。 
 其れともLWOSともあろうものが、この程度の攻撃で終わっちまうか?」 
小馬鹿にした様なフレディックの態度にジェールウォントが真っ先にキレそうになるが、 
要らぬボロを出す前にバルハトロスが手で制する。 
「静かにしてくれ。今、打開策を考えている」
SFES突撃型異形は現在、4体が『箱舟』に侵入。 
先程の蟻の様な異形も最低4匹……いや、輸送機の大きさから見てもっと居そうだ。 
まあ、全ての『処刑人』を放せば、直ぐに鎮圧出来るだろう。 
問題は外のSFES異形だ。 
「良いか!ミサイルは絶対に撃ち落せ! 
 一発でも当たったら相当な被害になるぞ!」 
マイクに向かって外の部隊に叫ぶジェールウォント。 
フレディックは其の狼狽を溜息して眺める。 
「おいおい…敵の侵入を許しちまってんのか? 
 ……ま、アンタ等で巧くやってくれよ?出来ない場合は……
 …白き翼の機密漏洩を防ぐ為の常套手段を取らせて貰うぜ?」
其の言葉に冷や汗を流し、マイクに向かって叫ぶジェールウォント。
「『処刑人』を全部解凍しろ!内部の敵を優先して殲滅しろ!!」
《敵第三波、急速接近中。先の中型生体兵器と同タイプのものが10。惑星間巡航ミサイルが100。 
 約30秒後に『箱舟』に接触すると思われます》
三度の襲来に騒然となる幹部衆。 
「ひゃ…100だとッ!?」 
「馬鹿な!外に戦力を集中すべきだ!」 
「いや、多少の被害は仕方ない!内部の機密を最優先に…」 
幾ら『箱舟』といえど、100発もの大型ミサイルを受けては大破は免れない。 
いや、SFESが宇宙空間で使うミサイルだ。1発の威力も解かったものではない。 
戦力は十分。防御も十分。
幹部衆の狼狽に付け込まれている。 
マリーエントの区画と通信を切り離されたのが痛手だ。 
こんな事なら、先走った判断を下すのではなかった。 
だが後悔しても、もう遅い。 
バルハトロスは命令を下した。
「・・・・・・・戦闘機に待機中の量産型を
 全てミサイルに突撃させろ!不出来か等は関係無くだ!」 
「・・・!」 
フレディックは一瞬青ざめるが、すぐに表情を戻す。 
バルハトロスは判断したのだ。今躊躇し全てを失うくらいならば
少しの痛手を受ける覚悟を持たねば、と。 
それにアレットが猛反対をする。 
《フ・・・・フザけんな!オッサン。血迷ったか!?》
だが、バルハトロスはそれを無視し、
何かの端末を取り出し、何かパスワードのようなモノを入力する。 
《が・・・・がはっ!!》
モニターに映ったアレットが胸を抑え苦しみ始める。 
「(・・・・少しの間、お前には大人しくしてもらおう。・・・・アレットよ。)」 
そうバルハトロスが呟いた時、アレットは気絶した。 
「・・・・アレットの機体をこちらに戻せ。」

 

やがて全てのLWOS戦闘機が攻撃対象をユニコーンズホーンからミサイルへと変更する。 
全火力を用いた攻撃…詰まりは特攻を仕掛ける。
一番早かった機体がミサイルと接触、大爆発を起こすと思われた…だが。 
「!!??」
爆発は機体のものだけであった。ミサイルは……ダミーであった。 
他の機体も次々とミサイルに接触するが、大爆発は一つも起こらない。 
ミサイル全てがダミー。 
「し……しまったっ!!」
機体が全滅した御蔭で苦も無く『箱舟』に接近を果たすユニコーンズホーン。 
突撃すると思われた直前、ふと停止し、先端を4つに分ける。 
すると其の内部からは蛇の様な目の付いた異形が現れた。 
其れは『箱舟』の外壁に近付くと、衛星の如く其の周囲を周り始める。
マリーエントしか知り得ない情報だが、 
SFESは今回の攻撃でLWOSを倒す気等、はなから無い。 
ミサイルで大規模に破壊を行う理由が無い。 
LWOS技術の物理的な奪取。其れが主目的なのだから。
「何だ、あの異形は?」 
「…まあ、ミサイルが着弾しなかっただけでも良かった。 
 今度は内部に戦力を集中しましょう!情報を奪取されては元も子もない! 
 幸い、外の攻撃は止んだようですし…」 
「いやいや!外の敵を殲滅してからにしましょう!何をするか解かったものじゃない!」 
幹部達があれこれと話をしている時、ベリオム達は……
執筆者…is-lies、鋭殻様

  特別居住区エリア(破損区域)

 

「ち・・・・・・・!」 
ベリオム達は立ち止まっていた。いや、そうせざるを得ない状況にあった。 
前にも処刑人。後ろにも処刑人。 
そう、挟み撃ちをされたのだ。 
「絶体絶命・・・・・ってか・・・・・・」 
彼の額から汗が流れる。 
上をふと見る。すると、通気口があった。 
(ここからなら出られるかもしれない)
マリーエントもそれに気づいた様で、ベリオムの方を向く。 
だが、動く事はしなかった。 
二人は同じ事を考えていた。何かがおかしい。 
そこからは何かが動いているような音がしているのだ。 
(・・・なんだ、この音は・・・・嫌な予感がするぜ・・・)
音は序々に大きくなる。 
マリーエントが何かに気づき、通気口の真下に居るベリオムに向かって叫んだ。 
「・・・・・まさか!!ベリオム、そこから離れてっ!!」 
その瞬間、通気口の蓋が溶け、その中から蟻型の異形が落ちてくる。 
先程のSFESの異形だろう。但し、数は先程より明らかに多い。 
ベリオムはマリーエントの声に反応し、落ちてくる異形を素早く避けた。
処刑人の鎌は先ずSFESの蟻型異形『ミュルメコレオ』を捉えた。 
為す術も無く次々と切断され体液を撒き散らすミュルメコレオ達。だが……
ガキッ!
何体目かのミュルメコレオを斬り付けた処刑人の鎌… 
だが其れが今度のミュルメコレオの甲殻に容易く弾かれる。 
ベリオムが処刑人の鎌を見ると、其れは所々が腐食していた。 
そう…ミュルメコレオの体液には武器である強酸も混じっていたのだ。 
鎌を封じられた処刑人に数で畳み掛けるミュルメコレオの大群。 
あっという間に全身に蟻を纏う姿となる処刑人。
もう片方の処刑人がミュルメコレオ排斥に躍起となる一方、
ベリオム達は処刑人の横を素早く通り抜け、隔壁へと戻る。 
何としてでも、この隔離区域から抜け出さなくてはならない。
執筆者…is-lies、鋭殻様

視点は一時別の所へ・・・・
火星宙域にて

 

航宙機が宇宙空間に停止している。
本来なら火星からレーダー等で気付かれそうだが、気付かれていないようだ。
どうやら特殊な機体らしい。その機体には白い翼のマークがペイントされていた。 
その航宙機内では・・・・
シックな造りになっている部屋。そこで唯一違和感を放つ巨大なモニター。
その前に座り、映されている映像・・・・「箱舟」が襲撃される様子を見ている男。
青マント、仮面を纏ったその姿は、ただならぬ威圧感を発している。
と、映されていた映像が消え、モニターに赤髪の男が映る。「フレディック・ローディ」である。 
「・・・・フレディ、何か変化があったのですね?」 
男がフレディックに問う。 
質問を聞き、フレディックは頷く。 
「ええ。奴等、新たな生体兵器を投入して来ました。今から映像を映します。」 
モニターに、先程「箱舟」に張り付いたSFES生体兵器の映像が映し出される。
まるで衛星の様な異形…… 
其の姿を見た瞬間、仮面の男が眦を決する。 
「直ぐに通信を遮断しなさい!そしてあの異形を殲滅しなさい!」 
有無を言わさぬ言葉にフレディックも一瞬動揺するが、 
問答は後と言う仮面の男の意志を咄嗟に汲み取り、通信を遮断する。
「参りましたね……傍受された可能性が極めて高い…… 
 まあ、其れは航宙機を破棄する事で証拠隠滅は出来ますが… 
 SFESに警戒されてしまいますね…… 
 ……其れに…最大の問題は…今、『箱舟』にいる分ですか…… 
 人事データを奪取される前に鳧をつけるのですよフレディック…」

 

 

  『箱舟』破損区画

 

怯えた研究者の首を圧し折り、端末を操作… 
機密情報を次々と外部の異形衛星に送信し始めるチューンドキメラ(ライズ)。
《流石に大量だが、まあ氷山の一角と言った所か。 
 この区画のラボデータは十分……次だ。》
執筆者…鋭殻様、is-lies
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