リレー小説2
<Rel2.キムラ1>

 

 寂れた酒場の様な建物。其の中で2人の話し合いがされていた。
「アンタが此処に来るとはな」
西日本…即ち日本皇国の暗殺者ギルドの建物である。
壊れた換気扇が力無くくるくると回転する音が響き渡り、乾いた風がガタのきている木造の壁を叩く。
其の退廃とした空間に佇む2人の人影。
1人は暗殺者ギルド等という場所とは無縁ではないかという可憐な少女…
だが其の手には布に包まれた薙刀が握られている。
片や少女よりもやや年下といった感じの少年…。
だが、少女は部屋の入り口側、対する少年は部屋の中央。
少女の方が客なのだろう。
「はい。仕事が出来まして、是非とも手伝って頂きたいのです」
「アンタとあの精霊神2体なら、大抵の事は…」
少年が皆迄言う前に、少女が口を開く。
「いえ、今回の仕事…どうも『火星』に向かいそうなんです」
其の一言に少年の眼が僅かに開かれた。
太陽系第4惑星『火星』
人類が莫大な費用と時間を費やしたテラ・フォーミング計画により、
この星は第2の地球とも呼べる環境に変化していた。
『ポリス』と呼ばれる都市郡が形成され、独自の文化を誇る。
併し其の一方で『獣人』の強制労働、売買等が公然と行われていた。
彼等『獣人』を監視するのは能力者の仕事である。
今でこそ獣人の人権問題も提起されるようにはなったが、
其れでも危険な星には違いない。
「成程、火星か。
 能力者や獣人の星…地球とは訳が違うな」
「其れで、受けて下さいますか?」
雇われ能力者『プロ』の中でも屈指の実力があり、ランクA+の称号も得ている少女。
更には西日本に代々仕えた式神使い一族『敷往路家』唯一の跡取りでもある『敷往路メイ』。
彼女の論を急いだ様な質問に、少年は苦笑して答えた。
「今の暗殺者ギルドの状況から言って、受けない訳にはいかないだろ?」
言いながら、星の装飾がされた銃を取り出して、其の感触を確かめると、不敵に笑む。
彼は……
メイと共に大名古屋国大戦で活躍した勇者の1人…
暗殺者『キムラ』は上機嫌だった。
執筆者…is-lies
「ところで…暗殺者斡旋所の方では、
 キムラさんしか紹介して貰えませんでしたけど、何かあるんですか?」
踵を返して扉へと向かいながら問うメイ。
「俺が大名古屋国大戦で戦ってた時…
 暗殺者ギルドが総出で何か大きな仕事をしていたらしくてな。
 其の時に全滅したんだ」
「…可哀相……」
甘過ぎる…俯いて悲しそうな表情をするメイを、そう評価しながら冷静にキムラが返す。 
「俺達は暗殺者だ。
 殺す事を生業として、殺される事を覚悟している。
 奴等は運が無かった」
「でも…そんな話…聞いた事無いです。
 幾ら裏の人達でも、そんなに死んだらニュースの1つや2つ…」
「イスラム共栄圏の話だからな。
 あそこはつい最近までアメリカとも紛争中だった。何人死んでもおかしくない」

 

「あ、御嬢!お帰りなさいませ」
「キムラさん、御久し振りっす」
建物から出て来たキムラ達を迎える2人の少年。
タクヤ…そしてハチという名はある。表向きの。
其の正体は敷往路家の誇る精霊神…
『吠黒天・猫丸』そして『ダルメシア・ヌマ・ブフリヌス』である。
普段は少年の姿をして、力も抑えてあるが、
一度、精霊の姿になれば獣人の集団ですら歯が立たない程の力を発揮する。
精霊の中でもトップクラスの力を持つ精霊神だからだ。
「火星か…念を入れて損は無い。
 東日本には俺の知り合いの銃砲店がある。
 其処で弾丸とかを買って行った方が良いな…
 どの道、日本の宙港は東日本にしかないし、序だ」
「では、お金の方は私が御支払いします」
流石に金持ちなだけあって羽振りは良い。
キムラがあっさりと依頼を受けたのは、こういう所もあっての事だろう。
執筆者…is-lies
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