リレー小説2
<Rel2.『青』8>

 

   日本宇宙ステーション・通路

 

辺りのスピーカーから流れるアナウンスに耳を傾け、不安を湛えた顔で頼りなく歩を進める人々。 
冒険者『青』達も例外には当て嵌まらなかった。 
故郷たる地球が消滅するか否か…其れを見守るしかないのだから。 
富士山にあったΩ真理教とかいうラリった宗教と戦いを繰り広げていた其の時、 
天から射して来た一条の光によって、Ωは壊滅…同時に地球が大異変を起こした…… 
TVの情報では『破滅現象』と報道され、 
急激な温度変化と眩い光と共に、万物が消え去ってゆくという正体不明の現象とされていた。 
此処で情報を収集して解ったのだが、どうやら自分達がΩと戦っていた其の時、 
東日本の航宙機が『BIN☆らでぃん』というテロリストにシャトルジャックされた。 
BIN☆らでぃんはΩを良く思っておらず、東日本にΩ追放を迫ったものの交渉決裂。 
キレて航宙機からレーザーを発射したのだ。 
このレーザーこそがΩ真理教を壊滅させた光であった。
「………どいつもこいつも…いがみ合ってばかりかよ…っ!!」
苦々しく思う『青』。過去に彼の見た平和な世界はもう戻っては来ないのだろうか? 
今は、同行していた『セレクタ』という組織と一旦別れ、ステーション内を歩いていた。 
「…天皇にΩ真理教…BIN☆らでぃん……ムシャクシャするな……」 
眼を細めて眺める強化ガラスの向こうに広がる紺碧の宇宙。 
だが其れを見ても、己が如何にちっぽけな生き物か… 
そして如何に無力かを思い知らされる様で余計にイライラする。歯噛みし、足を速める。
 ドンッ!
金髪の青年が『青』にぶつかってしまう。
しまったといった感じに一筋の冷や汗を流す『青』。
「…っと、失礼…おや?」 
だが、当の青年は『青』の顔に見覚えがあるらしく、彼の頭から爪先迄に素早く視線を巡らす。
「…あ〜…何か?」
『青』の声にハッとした金髪の青年が微笑み、澄んだ声で言葉を紡ぐ。
「大名古屋国大戦の勇者…『青』さんですね?」
怜悧さを秘めた赤い瞳でじっと『青』を見詰める青年。
「俺も有名になったもんだね」 
「ふふ…そうだ、これも何かの縁ですね。『青』さんにちょっとした依頼をしても宜しいでしょうか?」 
唐突に青年は話を切り出して来た。併し其処には計算やら作為的な意思は感じられない。 
「依頼?」
執筆者…is-lies

小奇麗な印象のする喫茶店。 
クラシックな柱時計がチクタクチクタク音を立てながら時を刻んでいた。 
『ルークフェイド・リディナーツ』 
そう名乗った金髪青年はウェイトレスにコーヒーを2つ頼んでから『青』に向き直る。
「依頼…と言っても本当に大したものじゃありません。 
 私の……弟と妹を見付けたら連絡を頂きたいのです。 
 依頼を受けて頂けるのであれば携帯の番号を御教え致します。ああ…其れと可能であれば…」 
と言い、白いコートの中から2つの手紙を取り出す。 
真っ白な其れには「兄より」とだけ書かれており封がされている。 
「この手紙も渡して頂きたいです」
「弟に妹ね……外見は?後、写真とかは?」 
「外見…ですか。今なら、妹は18歳、弟は10歳ですね… 
 もう…昔にしか会っていませんが…2人共、私に良く似ています。 
 妹が『サリシェラ・リディナーツ』。弟が『クリルテース・リディナーツ』と言います。 
 2人共………笑顔が…可愛い子達なんです……。唯、写真はありませんね……」 
一瞬…何か忌々しげな表情になるルークフェイド。 
だが其れは直ぐに消え失せ、『青』には解らなかった。 
「…残念だが、其れだけじゃ」 
「まあ、依頼といっても肩肘張ったものではなく、
 もし見付けたら手紙を渡したり、私に連絡して欲しい」という程度です。 
 前金は五十万円。私に連絡をくれれば1人に付き百万円。 
 彼等に手紙を渡して頂けたのなら1人に付き五百万円…場合によっては上乗せもしましょう。 
 『青』さんは違約が無いというので、私の方も信用させて貰っています」
常識外れの破格であった。 
「…アンタ金持ちなんだな…何か…其の姉弟…そんなに大事なのか?」 
問われ、暫し黙するルークフェイド。 
「………ええ………命よりも…」 
「先生!もうそろそろ東日本都市連合の皆さんとの…」 
何時の間にか喫茶店に入って来た背広男が青年に話し掛ける。 
先生…と呼ばれている辺り、何かのコンサルタントか…プロなのか…… 
「解りました。少々御待ち下さい」 
振り向いて背広男に告げた後ルークフェイドは、肝心の『青』の返答を促す。 
「受けて……頂けますか?」 
「・・・喜んで。ちょいと命を張って、ね。」 
ルークフェイドからの依頼を、『青』は爽やかな笑顔で受け入れた。 
「有難うございます。それではこれが私の携帯の番号です。」 
すんなりと依頼承諾後、『青』はルークフェイドから携帯電話のナンバーを受け取り、 
それを自分の携帯に早速記録しておいたのだった。
「では、私は用事があるので・・・お願いします。」 
そう言うと彼はゆっくりと立ち上がり、背広男と何らかの会話を行いながら 
喫茶店の外へと出て行った。 
「・・・ああ。任せてください。」 
そう呟き、『青』も水を1杯飲んでから店を後にした。
店から出た後・・・彼は受け取った手紙の内容を見ようと思ったのだが、何故かそれはやらなかった。 
いや、少し出来なかったと言うべきか。もしかしたら本能が告げているのかもしれない。 
一旦そんな思考を張り巡らした後、彼は自分自身の趣味関連のことではっと思い当たる。 
「・・・ホームページ・・・地球ごと消えませんように・・・」
・・・なんとも、下らないものであった。
執筆者…is-lies、A夫様
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