リレー小説2
<Rel2.101便・おトメさん1>

 

  101便・右キャビンルーム

 

「ねえおトメさん、ちょっとここで待ってて」
バンガスが油揚げを頬張っているおトメさんに向かって話しかける。
「なんでですか」
「え〜と、用事があるから。すぐに戻ってくるから!」
「〜?」
おトメさんが、「ようじってなんですか」と問いかける前に
バンガスは走り去っていった。
その目的地とは…。

 

  101便・スクウェアブロック
もちろん、スクウェアブロックの和風食堂であった。
区画に入った時、辺りに硝煙が残っていたり、一部の壁等が壊れていたりして怖かったが、
どうも、この付近にエネミーは隠れていない様だ。
「(そういえば…前部通路で見張りに付いてたって言う
  タカチマンさん…居なかったけど…何かあったのかな?)」
そんな事を考えて食堂の棚を探るバンガス。

 

暫くしてバンガスは油揚げを調達すると、急いで元の場所へと戻る。
「え〜と、これだけあれば今のところは大丈夫だな…」
執筆者…ごんぎつね様

  101便・中部前左クルーブロック

 

「ケッ…シケてやがんなぁ…」
乗務員が皆殺しにされた部屋の中、机や棚の中身を荒々しく引っ繰り返す男。
書類等が床に散乱するが、男はそんなもの眼中に無かった。
毬栗頭の中年男でロングコートを着用している。
だらしなく伸びた無精髭、できものだらけの顔、横幅の無いタラコ唇、何より肥満体。
併し、最大の特徴は、顔の輪郭が歪んでいる事であろう。
其の歪んだ顔に倣っての行動も歪んでいる。火事場泥棒という奴だろうか。
この様な事件に巻き込まれると、大抵はこのテの輩が現われるものだ。
「この『ゴレティウ』様が死んで堪るかってんだ!
 俺様は連続強盗殺人婦女暴行魔!!…になる予定の男なんだからなッ!」
要するにこのデブ、単なる『悪に憧れる小心者』なのだ。
事故がきっかけで暴走…という御約束街道を直走っている訳である。
そんなゴレティウのドングリ眼が通路を歩く人影を捉えた。
赤い瞳に、髪の色と同じ紫の服を着こなした美女であった。
こんな非常時だというのに、異形に警戒した雰囲気も無く、キャビンブロックの方へと歩いている。
この女が、黒幕であるSFES側の人間である等、ゴレティウに知る由も無い。
「……………じゅるり」
舌なめずりと同時にデブのドングリ眼が怪しい光を宿す。
其の目付きは宛ら、獲物を狙うハンターである。
相手がキャビンブロックのドアを越える前に、どうしてもやりたい事があった。
急いで駆け出し、通路へと出るゴレティウ。
「へい!ねーちゃん!!」
後ろからいきなり声を掛けられても全く動じず、ゆるりと振り向く紫髪の女。
視界に入ったのは鼻の穴をピクピクさせながらイヤらしい笑みを浮かべるデブ。
「オラッ!!」
叫びながらロングコートを開く。ゴレティウ、コートの下は何と全裸であった!!
「………で?」
「……はひ?」
「…終わり?」
「…………一応(汗)」
 ガタン
…扉の閉まる音が通路に木霊する。
「…………」

 

  101便・キャビンブロック前部通路
ゴレティウを無視した紫髪の女は歩き続ける。
小声で何かを話しながら…
「…不潔ったらありゃしない…」
そんな彼女の背後から声がかかる。
振り向いた先には、先程の男、ゴレティウの姿があった。
「無視しないで…。ねぇ」
紫髪の女は腕組みし、溜息をつく。
「…何なのよ」
「ばぁ〜〜〜!!!!!!」
紫髪の女が声を発したと同時に、ゴレティウの全裸攻撃がまたも発動する。
「ばぁ〜〜〜……」
紫髪の女は、いかにも汚いものを見る目でゴレティウの顔を見る。
「ねぇ、下を見て、下。下半身」
ゴレティウはそう言ったが、紫髪の女は…再び振り向いて歩き出した。
「さて…と。…『九尾の狐』は…」
「………(またしても無視…)」
執筆者…is-lies、ごんぎつね様

  101便・右キャビンブロック

 

「…いた」
紫髪の女は妖怪狐女、おトメさんを発見した。
狐女は、紫髪の女に背を向けた状態で、床に座っている。
「う、う、う〜」
狐女は意味不明な唸り声をあげながら、首を左右に振っている。
「さて…」
紫髪の女の左手が青く光ったかと思うと、
鋭く尖った氷がおトメさんに向かって飛んで行く。
同時に、おトメさんが座っている床からも、同様の氷が突き出る。
「わ」
野生の勘と言うものだろうか。
おトメさんはその全てを躱し、紫髪の女の方へ振り返る。
「う゛〜〜〜!つい〜ん(わるいひとですか)
そんな狐女を見て、紫髪の女は不敵な笑みを浮かべる。
「楽しませてくれるのかしら…」

 

と、その時!

 

「キャーーーーーーーーー!!!!」
恐ろしい悲鳴が機内に響き渡った。
紫髪の女の後方にいるゴレティウ(全裸状態)が反応する。
「!!
 他のねーちゃんがこの俺様の美しき裸体を見たかな…」
そう言いながら振り返るゴレティウ。
その目に映ったものは
「な、な、なんですアナタ?!
 こ、こんな場所で、ぜ、ぜ、ぜ、全裸…」
油揚げ調達から戻ってきたバンガスであった。
(何なんだ、この変質者!?
  そ…そうだ、おトメさんは!)
慌てて彼女の安否を確認しようと、
キャビンルームを塞ぐデブの体の隙間から、其の背後に居るおトメさんに眼を遣る…
おトメさんは人々の悲鳴に反応し、
彼等の眼が釘付けになっている変質者の方を見ようとしていた。
「見ちゃダメだァアアァァッ!!!」
咄嗟にゴレティウに対して脚払いを掛け、転ばせるバンガス。
純粋なおトメさんに、こんな下劣な変質者を見せてなるものかという
絶大な……或る種の執念が感じられる。
デブが転んだ事により、バンガスの視界が開けた。
おトメさんは紫色の髪をした女性と対峙している。恐らく刺客だろう。
先程迄おトメさんを座らせていた座席にある氷柱が其れを物語っていた。
「おトメさん、其の女の人は刺客だ!彼女と戦って!!
 良い?決して、眼を逸らさないで戦うんだよ!」
大声で叫ぶバンガス。これで少しは時間稼ぎになるだろう。
おトメさんが戦っている間に……足元のデブを何処かに隠さねば……
…と思っている間にゴレティウが立ち上がろうとする。
仕方無いとばかりにバンガスが銃身でゴレティウの腹を強打するが……
「………ヘッ(゜∀゜)」
バンガスを嘲笑するゴレティウ。彼の肥満体の大半を占める脂肪の鎧は
少年の打撃等ではビクともしない程の打撃耐性があり、其れどころか
人知を遥かに超越した防弾耐爆性能すら獲得していたのだ。
「あの赤い服の嬢ちゃん、オメーの妹か何かか?
 お兄ちゃんとして守ってやろうとは泣かせるねェ〜
 ……何が何でも俺様の裸身を拝ませてやるぜ!」
強敵だ!
「非戦闘員の皆さん!直ぐに他のキャビンルームに向かって下さい!」
おトメさんの戦闘を阻害しない様、側にあった消火器を構えながら
乗客達に指示するバンガス。気弱なのは確かだが、指導者の器はある男だ。
先程のバンガスとエネミー達の戦闘を見て、バンガスを信用した乗客達は
割と纏まって行動し、直ぐに避難を完了させた。
ガラリとなったキャビンルーム内に次々突き刺さる氷柱。
だが其れは疾風となって走るおトメさんに掠りもしない。
どんどんと間合いを詰めて来るおトメさんに対しても余裕の笑みを崩さぬ紫髪の女。
「流石に早いのね、妖怪。
 ……なら、これはどうかしら?」
彼女がパチンと指を鳴らすと同時に、
おトメさんの前方から無数の触手が迫って来た。
執筆者…ごんぎつね様、is-lies
其れを警戒してか、動きを止め、唸り声を上げながら紫髪の女を凝視する狐女。
「……どうやら猪突猛進って訳でもなさそうね…」
不敵に笑みながら紫髪の女が人差し指をおトメさんに向けたと同時、
空間から湧き出た闇の触手の先端が一斉におトメさんへと迫る。
「!!」
だが、狐女は其の一斉攻撃で触手の軌道が決定されたと見るや否や、
猛スピードで触手と触手の間を飛び、全てを躱す。
計算した訳ではない。本能なのだ。
標的を見失った触手の波は、前方の座席を2〜3列貫いた。
紫髪の女との接近戦に持ち込むべく木の葉で幻術を行おうとした時、
おトメさんは自分の足下に魔方陣の様なものがある事に気付いた。
「…安直な行動が招くものは…よ」
同時に狐女の周囲の空間にも無数の魔方陣が浮かび、
淡く光ったかと思うと、中心のおトメさん向けて無数の魔法弾を放つ。
360度全方向から迫る魔法弾に死角は無い。
 ズドオオォォォオオン!!
「おトメさぁん!!?」
だが、変化能力で盾に姿を変えたおトメさんは、魔法弾の幾つかを防いでいた。
人型に戻る狐女。併し……服の袖から覗く彼女の右手からはが滴っていた。
「………?」

 

「ゲヘヘ…余所見してて良いのか?」
バンガスが気を取られた隙に、少年へとヒップアタックをかますゴレティウ。
汚らしい肉塊から受けるのは肉体的なダメージ以上に精神的なダメージが大きい。
「こ……この程度で……」
何とか踏み止まるバンガス。だがゴレティウは下品な笑みを崩さない。
「ヒヒヒ…そんじゃ一発キツいの御見舞いしてやるぜ!」
…と言いながらバンガスに背を向けるゴレティウ。
ゴレティウ臆したか?等と思う暇もあればこそ…
「………フッ!!

 

ズバアアアアァァァァアアアアン!!

 

吹き飛ばされたバンガスには何が起こったのかすら解らなかった。
ただ一言、言うならば……

 

「臭い」
執筆者…is-lies
キャビンルームに充満して行く黄色い毒ガス。
乗客が既に避難を終えていたのが不幸中の幸いだ。
だが、其のあまりの臭さにバンガスは一瞬で失神してしまった。
「ぐはははは!これがゴレティウ様の実力よォ!!」
自慢して楽しいか、コイツ?
「!?」
倒れたバンガスと黄色いガスを見て咄嗟に球体の防壁を展開する紫髪の女。
間一髪、彼女がゴレティウメタンを嗅ぐ事は無くなったものの、
血を見て一瞬放心中のおトメさんはそうもいかない。
「×☆△◎!!???」
臭気200%増量(当社比)のゴレティウメタンを嗅いで
頭をクラクラとさせて隣の座席に寄り掛かる狐女。
腐食性の狐状態であるのなら、ビクともしなかったのだろうが…
「うおぉ…コレ、俺本人からしても臭ェんだよな…
 他人にゃ尚更だろうな…ま、良い。
 うひひひ。邪魔者が居なくなったところで………」
倒れたおトメさんに、のっしのっしと歩み寄るゴレティウ。
紫髪の女は様子見に徹している様だ。其れが賢明な判断であった。
「…………」
ゆるりと立ち上がるおトメさん。やや俯いており表情が見えない。
「お、気付いたか」
そんな狐女に向かって、ゴレティウは歩み寄っていく。
「げへへへへへへ…」
ゴレティウはおトメさんの目の前まで迫った。
そして、立ち尽くしている狐女の顔を覘く。
「ん〜〜〜〜?」
次の瞬間、ゴレティウは声を失った。
狐女の顔が…変わっていた。
目が真っ赤に光り、うっすらと不気味な笑みを浮かべている。
「…」
しかしどうしたことか。以前のように真っ先に祟りには行かない。
ゴレティウも、しばし様子を見ようと思った…その時。
「鑼溘戔溽りハ艪…」
狐女は何処からか御札を取り出すと、それを見ながら
何か、解読不能な言葉を呟きはじめた。
「な、な、なんだ?」
すると…狐女の周りに、鬼火が出始めた。
「鑼溘戔溽りハ艪!!!!!!!」
狐女が叫ぶと、鬼火は辺りに飛び散り、その場にいる者を無差別に襲う。
ぬ…ヌオオおおおおををををを?!?!?!……ッ…?!
ゴレティウは吹き飛ばされ、
防壁を張っていた紫髪の女までもが床に膝をつく。
狐女の暴走は…止まらない……?
執筆者…is-lies、ごんぎつね様
「…これ程の力………」
流石に予想外であった。
上級の魔物すらも屠る連続攻撃で、紫髪の女の防壁も軋んで来ていた。
一方のゴレティウは…
うをぉぉぉぉおおおおおおぉぉ!!?
脂肪の鎧に包まれた身体でも、こういった炎ならば意味が無い。
あっと言う間に黒焦げになって床へと崩れ落ちる。
手足をピクピクと痙攣させてはいるが、死んではいない様だ。
「鑼溘戔溽りハ艪!!!!!!!」
残った紫髪の女に鬼火を集中させるトランスおトメさん。
「…!!?」
防壁が破れた。
だが、迫って来た鬼火が紫髪の女の身を焼く事は無かった。
部屋中を氷の嵐が包み、全ての鬼火を消去ったからだ。
「間一髪…ってトコだな?
 流石にゲストさん傷付けるとヤバイんでね。
 『アヤコ』嬢。一旦、退きましょうぜ」
気絶していたバンガスが僅かに意識を取り戻し、其れを見聞きしていた。
日本皇国の病院で敷往路進を襲った少年…其れが戦場に介入して来たのだ。
アヤコ…と呼ばれた紫髪の女が記憶を手繰る様に思案しながらジャンキー少年に問う。
「……貴方は…確か……」
ニカっと歯を見せてニヤけながら敬礼し、おどけた態度で名乗りを上げる少年。
『アズィム・シュトランゼ』。
 SFES、セイフォートの脳と御理解あれ」
其れは、この便の黒幕…SFESの一員…
「鑼溘戔溽りハ艪!!!!」
狐女は呪文で再び鬼火を出現させる。
全ての標的を焼き尽くす其の為に。
「キヒヒ、流石だなぁ……
 でも今はオメェと戦ってる場合じゃねーんだ」
言って、ポケットの中からボールを取り出し、床へと叩き付ける。
直ぐにボールから煙幕が噴出し、狐女の視界を真っ白にする。
「????」
煙が晴れた時、其処にはアズィムもアヤコも居なかった。
執筆者…is-lies
「…い…今の内に……」
毒ガスのダメージが残る身体を引き摺って、
油揚げ片手に、暴走おトメさんへと近付くバンガス。
鑼溘戔溽りハ艪!!!!
「(こ…怖いッ!!)」
今直ぐに逃げ出したいが、おトメさんを放っておく事は出来ない。
勇気を振り絞って少年は暴走した狐女へと近付く。
……バンガスは…魔物や妖怪が好きだった。
各地の異形のみならず、製造されたエネミーに対しても……
ありとあらゆる魔物に興味を持っていた。
魔物は人に追い遣られても立派に生きて行く。
幾ら殺されても逞しく生き延び、
人による完全な駆除が諦められている程だ。
幼いバンガスは其れを凄いと思った。
気弱でオドオドした彼は、何時も周囲の仲間から苛められていた。
ユーキンが居なくては何も出来ない。
そんな自分に嫌悪感を催した事すらある。
大戦の勇者…等と言われていても、所詮はユーキン達の影。
特に大した戦果を上げた訳でもない。他人の御零れに与っただけだ。
そんな時に…自分に似て…独りぼっちだった妖怪を見付けた…
おトメさん……
可愛く…無垢で………強い…
憧れの様なものを感じる反面、少々大人びてみた。
彼女は外界の何も知らなかったから…。
ユーキンでは彼女に何かを教える…という事は出来ないから。
バンガスは初めて…自分を必要としてくれる存在を見付けたのだ。
決して、おトメさんを突き放したりしない。
決して、おトメさんを不要としたりしない。
決して、おトメさんを独りぼっちにしない。
其の孤独……解るから……
バンガスが鬼火に身を焼かれながら差し出した油揚げで
おトメさんは暴走を止め、其の場へと丸まって寝入ってしまう。
其の安らかな表情を見て、バンガスは自分にとっても
おトメさんが大事である事を再認識した。
「……ゆっくり休んで………独りじゃ…ないから……
そうして体の疲れで横になるバンガス。
壊れた蛍光灯の灯りが2人を祝福する天の光の如く、眠ったバンガス達に集中していた。
執筆者…is-lies
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