リレー小説2
<Rel2.101便・タカチマン9>

 

  101便・スクウェアブロック、洋風食堂内【タカチマン、メイ、ミナ、リリィ、ライハ】

 

一同はメインディッシュに手を付け始めている。 
其の間にもレイネが話し合いを持ち掛けようとしたが、 
何とか食事に集中する様にライハが促し、話はそう進んでいなかった。 
タカチマン達の目的は話し合いというよりも寧ろ時間稼ぎだ。 
長引いている間に機関室さえ押さえる事が出来れば勝ちなのだから。 
まだ十数分しか経っていないが、
ミナ達にとっては内心、汗だくものである。 
刻一刻と時が過ぎ去る中、ふとゼペートレイネが柱時計を眺める。
「そろそろねぇ〜… 
 …もう良いでしょ、ごっこ遊びは?」
紙ナプキンで口の周りを拭いてニヤリと笑む大女。
「………何の事だ?」 
「…要するに、時間を稼いでいたのはアンタ達だけじゃな………」
言い終えるよりも早くメイがテーブルをレイネ達に向かって蹴り上げる。 
横倒しになったテーブルがタカチマン、そしてレイネ達を遮る様な壁となり、 
間髪入れずメイが魔法で作り上げた氷の刃の嵐がテーブルを切り刻む。 
相手はテーブルが倒された事で何が起こったかも解からずに混乱し、 
次の瞬間で戦闘能力を搾取されるという訳だ。
「め…メイさん…?」 
ミナが悲鳴を寸前で飲み込む様に口を両手で押さえ、 
何とか搾り出した声でメイに話し掛ける。
「敵が作戦を知っていた以上、 
 機関室に向かった皆さんも無事ではないでしょう。 
 孤立させられる前に…何とか状況を有利にしないと…」
先程の攻撃は其々急所は外してある。だが手加減は一切無い。 
流石に猫丸ごとゼペートレイネを殺す気は起こらず、 
大女に対しては確実に急所はずらしてある。 
重傷だろうが命には別状無い筈だ。 
用心深く、ズタボロになったテーブルに近付くメイ。
一方、タカチマンの方はこれからの事を考えていた。 
直ぐにでも機関室に向かって援護すべきか…一旦退くか…
退けば取り敢えずは自分達の体勢は整えられるだろう。 
だが先ず確実に、誘き寄せられたセート達の命は危うくなる。 
逸早く援護に向かうべきだろうか。 
無論、罠が仕掛けられていると予測されるが、 
機関室が修復される前に防戦一方になっては 
唯単に追い詰められるだけだ。
「出て来なさい!死んだ訳じゃないでしょう?」 
メイはテーブルを薙刀で払い除けてから…自分の甘さに気付いた。 
テーブルの向こう側には誰も居なかった。
誰かに嘲笑われた様な気がして、 
直ぐに気配のした窓の方を向くメイ。 
視線の先…食堂の外には…
「…ゼペートレイネ……」 
憎き大女と2人の子供がじっと此方を眺めていた。 
メイがガラス越しにの大女に魔法を放つよりも早く、 
子供の片割れ…寝惚け目の少女が、 
洋風食堂の真上辺りを指差し…腕を横に振る。
轟音と共に窓の外が瓦礫で埋まる。 
一瞬遅れて理解出来た。 
腕の一振りで天井が…最上層では床であったものが破壊され、 
落ちて来た瓦礫が窓を塞いでしまったのだ。 
まさかと思って入り口の方をライハが見ると、 
其処は瓦礫で塞がれたという生易しいものではなく、 
入り口ごと瓦礫に潰されていた。 
「時間稼ぎか…」

 

  101便・スクウェアブロック

 

瓦礫に埋もれた食堂を眺め、SFESエージェント達は早速次のプランを実行に移す。 
「タカっち、待っててね。直ぐにお仲間の首を用意してあげる。 
 『サリシェラ』は機関室に向かって。 
 向こう、相手の戦力が集まってるみたいだし。 
 アタシとクリルちゃんは機長室の方に行くから。 
 ああ…解かってるだろうケド、非戦闘員は捕虜にすんよ〜 
 戦力が無くなれば、タカっちも少しは考えも変わるでしょうし」
サリシェラと呼ばれた寝惚け目の少女は無言でコクリと頷くと、 
弟の少年クリルの頭を撫でた後、機関室に向かって走り出した。 
恐ろしい程の速さであっという間に2人の視界から少女の姿は消えた。
「さぁ〜て、全面戦争開始ぃ〜!」 
『尾』を床へと突き刺すゼペートレイネ。 
すると大勢の異形達が床から、壁から出て来たではないか。 
融合能力で機内に隠していた全ての手駒を総動員する積りなのだ。
「アシュラが1体… 
 シ・ソヤ(蜂型異形)が22体… 
 フシキ(猿型異形)が4体… 
 セイレイ(蜻蛉型異形)が20体 
 先行者は………あらあら4体しかないわ。 
 1日目で相当やられたみたいね。 
 ま、セイレイの被害が少なくて良かったわ〜。 
 其れにアズィム君やアヤコさんはどうせこっち来るでしょうし。 
 シ・ソヤやフシキは全員で此処を見張ってて。 
 友軍信号が無い標的が来たら生け捕りにすんのよ」
尚、まだセイフォートラーバが2体残っているが、 
オートで命令をこなすには知能に難があるので、 
例外として投入はされなかった。
「残りは全員アタシに付いて来なさい。
 さ、行くわよクリルちゃん」
こうして異形達と共にゼペートレイネ一行は機長室側へと向かった。
執筆者…is-lies

  101便・スクウェアブロック、洋風食堂内

 

閉じ込められたとはいえ、適当な壁を壊せば直ぐにでも脱出可能だろう。 
そう思った時、ミナが思い出した様に口を開いた。
「あの……魔物は何処に行ったんでしょうか?」 
そう。大型異形のアシュラだ。外には出ていない様だったが…。 
取り敢えず周囲に其の巨体は見付からない。
其の時、周囲を見渡すタカチマン達に狙いを定めた砲口が、 
厨房の陰からこっそりと姿を現した。 
発射されたネット弾が一直線にリリィ達へと向かっていくが、
即座に気付いたタカチマンが、
愛銃プルートを懐から抜き取ると同時に上体を捻らせ、 
ネット弾に照準を合わせて引き金を引く。 
早業で放たれた冷凍弾は、狙い違わず着弾… 
ネット弾が展開するよりも早く其れを凍らせる。
奇襲に失敗したと見るや否や、 
アシュラは頭の1つである砲塔に付いてるリボルバーを回転させ、 
砲口から「ぽひゅっ」と情けない音を立てて小さなボールを発射した。 
其れは音同様に飛距離も速度も情けなく、 
半ば床を転がる様にしてタカチマン達へと近付き… 
榴弾です!
ボールの正体を見抜いたリリィの一言に、 
一同が間を置かずにボールから離れる。 
爆発した小型榴弾がテーブルを幾つか吹き飛ばし、 
アシュラとタカチマン達との間に黒煙の壁を作り出した。
「御嬢様、大丈夫でしょうか?」 
「う…うん……平気」 
爆風に煽られて尻餅搗いたミナに、リリィが手を差し伸べて立たせる。 
黒煙の壁は濛々と立ち込め、視界が全く開けない。 
「良く見えないが…敵は近付いてない様です」 
メイが全身の感覚を研ぎ澄ませて気配を探るが、 
少なくとも此方に近付いて来てはいない。 
其の時、アシュラの首の1つ…クロウラーの首が、
煙を割ってライハへと襲い掛かる。 
「!?」 
アシュラは首を伸ばして攻撃して来たのだ。 
これなら其の巨体や気配が邪魔になる事はない。 
「…こんのっ!」 
ライハが持った銀色のリボルバー銃が、 
自分を一飲みにしようと迫るクロウラーの口内に向けられる。 
クロウラーの口がライハの腕を噛み砕くよりも早く、ライハは引き金を引いた。
口内に銃弾を撃ち込まれたクロウラーは大きく仰け反り、
更にリリィが放ったショットガンがクロウラーの頭を弾き飛ばす。
「アシュラに構っている暇はないな」 
タカチマンは目の前のアシュラよりも、姿を消したゼペートレイネ達の方が気掛かりだった。 
「(一刻も早くセート達の救援に… 
  いや…、こういう時あの女なら…、まさか…)」
「よし、一旦機長室に退くぞ」
「え? でも…セートさん達は…」 
タカチマンが一時退却を決断する。 
それに対して、ミナが言いかけるが、直にその声を圧し留めた。 
判り切った心配事は口にするべきではない。 
確かにセート達が危険に晒されていることは間違いないが、
それは機長室のジード達も同じこと。 
何より、救援に向かうなら機長室の方が近い。 
どうしようもない選択肢で迷っている暇はないのだ。 
意を決するタカチマンの目に、
ミナは未だ『敵』を意識する事の出来ない自分の甘さを知った。 
そんなミナにライハが答える。 
「なぁに、セート達なら上手くやるさ」
一同はアシュラを警戒しつつ、辺りを見回す。 
爆煙で視界が閉ざされる中、唯一天井に開いた大きな穴が目に入った。
「全員、二階まで飛べるな?」 
「やってみます」
先ずはリリィがミナを抱えて跳躍する。 
フリルバーニアを装備するアンドロイドリリィは、
ミナを抱えたままでも楽々と二階まで飛び上がることに成功した。 
続いてライハがジャンプ。 
届きはしなかったが、リリィがその腕を掴み、引き上げる。 
更にタカチマンが腰を落し、手で足場を組むと、メイがそれを借りて飛び上がる。 
しかしその時、体勢を立て直したアシュラが、最後に残ったタカチマンに向かって突進してきた。
「急げ!」 
リリィ、メイが援護する中、ライハが身を乗り出してタカチマンの腕を掴む。 
間一髪、全員が二階に退避することに成功した。
「よし、船首側の階段を下りればVIPルームだ。急ぐぞ」
執筆者…is-lies、Gawie様
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