リレー小説2
<Rel2.101便・タカチマン6>

 

キャ〜ダメぇ〜!」 
「いやぁ〜やめてぇ〜!
扉越しに女性の悲鳴が聞こえてくる。 
「あの声は、メイ!?ミナ!? 
 クソッ、何が起こってるんや!?」 
扉を殴りつけ、力を込めてレバー引くジョニー、しかし扉は開かない。
「開けろ!開けんかいッ!」 
まんまと敵の策に嵌められてしまった… 
キャビンブロックに残してきた皆は無事なのか… 
最悪の状況が脳裏を過る… 
「どいて下さい」
DONG!! DONG!! DONG!!
リリィのショットガン連射、しかし、扉は僅かにへこむのみ。 
「任せろ」 
今度はジードが扉のロック解除を試みるが、 
その時、ジードの目の前に閃光が迸る。 
「いかん!離れろ!」 
タカチマンが叫ぶと扉の前に爆炎が巻起こり、 
それを横跳びで躱すジードに更に光弾が追撃ちをかける。 
「扉越しに…魔法攻撃か…何者だ」
爆炎の中から現れたのはいかにも魔女っ子という感じの少女。 
手に持ったヨーヨーを弄りながら軽く会釈をする。
扉が開けられた様子はなく、恐らく扉を透過、もしくはテレポートして来たものと思われる。 
「嬢ちゃんの仕業か? おいたが過ぎるぜ」 
リュージの言葉に少女はムスっとした表情を見せると、 
突き出した掌に再び魔力を集中させる。 
タカチマンも応戦の構えをとり、ジョニーとジードが左右に展開、 
魔法攻撃に高い耐性を持つリリィが先行する。 
先程より更に強い魔力で放たれる光弾。
ところが、光弾はリリィの脇を通過し、修理したばかりの通信機に向けられた。
一閃――― 
振り返る一同。 
なんと、通信機の前に立ちはだかった佐竹を光弾が直撃し、 
衝撃で飛散した金属片が通信機のモニターを破壊した。 
「モ、モニターが……す…すまな…い…」 
崩れ落ちる佐竹。流れ出す鮮血が再び床を覆っていく。 
「佐竹さん!」 
「き、貴様ッ!何て事を!」 
もはや失神寸前のリエとナオキングもなんとか応急処置を試みる。 
怒り心頭のジョニーとリュージが少女に詰寄る。 
「……その人が…勝手に…」
「なんやとッ!?」 
斬りかかるジョニー、ところが、 
なんと、佐竹の流血を目の当りにした少女は無表情ながらも攻撃の手を止め、明らかに動揺している。 
ジョニーも思わず剣を止めてしまう。 
最初に機長室に突入した際、あれだけの凄惨な光景を見せ付けられただけに、
少女のこの反応には驚きを隠せない。 
「まさか、実戦で相手を傷つけるのは、初めてか?」 
タカチマンの問いにも少女は無言で俯いたまま、もはや先程のような魔力も感じられない。 
「遊びやないんや、お家帰んな」 
ジョニーの言葉に、少女は上目遣いで答える。 
「……お家なんか……」 
そうと呟くと、再び魔力を集中し光が少女を包む。 
既に少女の頭部に狙いを定めていたリリィがショットガンを放つが、
弾は少女をすり抜け、壁に着弾する。 
光が消えると、そこには少女の姿はなかった。
「単純な戦闘能力だけで利用されたか、SFESめ…」
執筆者…Gawie様
SFESは実力至上主義と聞く。 
強い能力を秘めた者を勧誘し、組織を強化している。 
あのヨーヨー少女の魔力は確かに申し分無い。 
此処の人間が束になっても一捻りにされかねない程の魔力を感じた。 
だが本人の精神が、己の力の齎す破壊の凄惨さに耐えられなければ、 
折角の力も封じ…最悪の場合は己の存在をも消してしまう。 
あの少女の再来襲の可能性は薄いだろう。 
「(……何故…SFESは、あんなに力を求めるのだ?)」 
タカチマンが抱いたふとした疑問… 
神明元年程に創立され、世界をも動かす力を得たと言われるSFES。 
併し、彼等は現状に満足する事無く…を求め続けている。 
まるで底無し沼に陥っているかの如く、ひたすらに力のみを求めている。 
商品の生物兵器強化…としては強力過ぎる。 
そもそも生物兵器のマーケットはSFESがほぼ独占している状態だ。 
ライバル足り得るのはSFESと同期の生体兵器開発組織『LWOS』位だろう。 
其れを抜いてもSFESの力への執着は異常だ。
考えながら、佐竹の治療を手伝っていた其の時、
《…もしもし?聞こえているのか?もしもし?》 
通信機から男性の声が漏れる。 
「この声は………まさか『小泉 純一郎』ッ!?」 
ネオス日本共和国内閣総理大臣… 
ライオンハーティド(獅子心王)を初めとする数々の異名を持つ、 
ネオス日本共和国の最高権力者である。 
とんでもない大物の出現にたじろぐ一同。 
「……ぐ…いけない………誰か… 
 レスキュー派遣の依頼を………ッ!」 
吐血しながら佐竹が叫ぶ。
「聞こえているか?こちらは101便だ! 
 救助を求める!詳細は…」 
 ジードが言うが、通信機はザザザと音を上げている。 
 先程の出来事で回線が少し狂ってしまったようだ。 
「………」 
黙ったまま、タカチマンが通信機を弄くりはじめる。 
「これくらいならすぐに直る。皆は佐竹さんのほうを」 
リュージがタカチマンの隣に行き、修理を始める。  
…と、そんな中、ジョニーが拳を床に叩きつける。 
「助からないと決まった訳ではない」
…とジードが言うが、ジョニーの心境は違っていた。 
「そんなことはわかっとる!言いたいのは…… 
 地球のほうは助からんのや! 
 爺ちゃんが言っとった地球が死んでしまうんや! 
 人間どもは宇宙に脱出するかも知れんが、 
 それ以外のものはどうなる?! 
 動物!自然!そして地球そのもの! 
 …どういうつもりや…何で…こんな事に…」 
ジョニーが何度も何度も拳を床に叩きつけて叫ぶ。 
一同は何も言えなかった。
しばらくして、通信機から声が聞こえ始めた。 
《もしもし…聞こえているのか?!》 
「聞こえている!こちらは101便だ」 
《先程、少し聞こえたのだが…救助派遣か? 
 詳しい状況を説明してくれないか》
ジードが小泉純一郎に、新たな負傷者が出たという事… 
そして乗客達の安否が確認出来なくなった旨を伝える。 
尚、此処ではSFESの情報は伏せておく。 
交渉の切り札にもなるのだから。 
モニターが壊れたので、小泉の顔を見る事は出来ないが、 
長きに渡る沈黙を見るに、事態が逼迫している事を悟ったのだろう。
《………誰か…そちらに代表者は居るかね?》 
何の事を言っているか解からないが、長話をする余裕はない。 
佐竹が負傷した今、代表はタカチマンを措いて他に無い。 
ジード達に押されるままに、彼は通信機へと向かう。
「………一応、私がそうなる様だ」 
《……他のメンバーを遠ざけてくれないか? 
 君と一対一で話をしたい。早急に頼む》 
何故と問いたいが、一秒でも時間が惜しい。 
他のメンバーを機長室の端っこに移動させ、 
再度、小泉純一郎と通信するタカチマン。
執筆者…is-lies、ごんぎつね様
《………駄目だ。 
 レスキューは派遣出来ない…》 
あまりにも衝撃的な一言。だが飽く迄、冷静に対応する。 
「……何故だ?」 
《…地球で、破滅現象という…》 
「其れは聞いた。簡潔に頼む」 
ネオス日本共和国の総理大臣、小泉を前にしても、 
タカチマンは決して自分のペースを崩さない。 
咳払いをしてから、事の次第を告げる小泉。 
《………航宙機のレーザーに対応出来、 
 更に其の航宙機に追い付ける航宙機を用意する時間も人手も無い。 
 …地球側の一時避難希望者には、其の航宙機の乗員を遥かに上回る人々が居るのだ… 
 そちらの200余名に回す程の余裕は無い。 
 更に、大破壊の元凶であるBIN☆らでぃんは生かしてはおけない… 
 我が国でも…そして各国からも航宙機ごと沈めろとの声が出ている…… 
 無論…人道に反する残虐な行いだ…… 
 併し、今の君達の便の進路は解かっているかね?》 
進路…火星行きで間違いない筈だ。 
火星の宙港は、火星最大のポリス(都市)『アテネ』にしか存在しない。 
「…?火星のアテネ宙港ではないのか?」 
《…いや…調べてみたところ……僅かにズレている… 
 ……火星のアテネ市街…其処へ直行しているのだ。 
 BIN☆らでぃん辺りが航路プログラムを変更したのだろう… 
 最終的に何処に落ちるかも解からない。 
 …………オマケに我々の方で放った 
 停止信号も軌道変更コードも受け付けないと来ている。 
 そちらでも軌道変更出来ない場合は…………… 
 …詰まりは、背に腹は代えられないという事だ》 
「成程。火星市民の為に航宙機を破壊するという事か。 
 ところで、この事件の黒幕は違う。BIN☆らでぃんではない」
どうやら自分達で航路プログラムを修正するしかなさそうだ。 
生きて帰れるかどうか…怪しくなって来た。 
だがSFESにはリスクを負ってもらう。 
小泉にSFESの事を全て話し、 
自分達が脱出に成功した時のみに 
SFES情報を一般公開してくれと頼む。 
そして、自分自身の身の安全にも気を付ける様にと。
《…そんな事が………解かった。君達の交渉の最後の切り札としよう。 
 併し…其のSFESとやらはミサイルの事も知っていたのか? 
 ……そうだ!ミサイルどうするのだ? 発射まであまり時間が無いぞ? 
 早く、軌道修正が可能か否か…其れだけでも教えてくれ。 
 そうすれば各国の連中を押し留める事も出来る》 
攻撃中止は出来ないのだろう。 
各国どころか自国で攻撃を促す考えが出来てしまっていては仕方が無いのかも知れないが、 
一時の感情で大それた事をしてしまえば後々尾を引くのは必然。 
尤も、地球で破滅現象なんぞ起こされては、正常な判断等出来そうもないか…
「ミサイルか…確か日本宇宙ステーションで発射されると聞いたが…」 
ツャアの科白を思い出して、貴方なら止められないかと小泉に問う。 
其れと同時に、東日本にスパイでも潜り込んでいるのではないかとも考える。 
あの段階で、未決議の作戦情報を仔細に入手していたのだから。 
最悪の場合、各国の首脳が既にSFESに魂を売っているのかも知れない。 
…………この小泉もそうでないという保証は無いが、 
今は藁にも縋らなければならない状況だ。信じるしか道は無い。
《……ああ…自国の尻は自国で拭けとね…… 
 既に私1人に止められるものではないのだ………》 
音声だけだが、其れからは小泉の悲嘆がよく感じ取れる。 
「この便にはVIPが多く搭乗している様だが 
 彼等はどうする気だ?一緒に殺してしまうのか?」 
《VIPか………政府関連のVIPが存在しないとは聞いたが… 
 少し待ってくれ……》 
暫しの沈黙の後に一筋の希望が見えて来る。
《!!これは盲点だった! 
 あのエーテル先駆三柱のタカチマン博士が搭乗してらっしゃる! 
 VIPの名簿にだけ気を取られていたが… 
 一般乗客の中に、こんな大物が紛れ込んでいたとは……》 
「どうにか遅延出来そうか?」 
《少し待ってくれ。各国首脳と話をしてみる》 
そういって小泉の音声が途絶えた。
まだ待たなければ結論は出そうにない様だ。
執筆者…is-lies
「あれ?この扉開かないぞ?」 
不意に聞こえた聞き覚えのある声、扉のほうを振り返る一同。
「その声はユーキンさん?」 
「どうしてここにおるんや?」 
扉の傍に居たナオキングとジョニーが声を出す。 
扉を隔てた其処にいるのは、どうやらユーキンとバンガス達のようだ。
「色々あったんです。説明は後でします。それより・・・」 
「扉がロックされてしまって開かないんだ。そちらからなんとかならんか?」 
バンガスが質問を言い切るより早くそれに答えるタカチマン
「・・・ダメですね。ビクともしません。」 
「外からも開かないか・・・」 
タカチマンの呟きの後、しばしの沈黙が流れる。 
その沈黙を破ったのは、これまた聞き覚えのある声・・ 
「少し扉から離れていてください。」 
「あ、あなたは、ゼロさん!?」 
そう、聞こえたのはゼロの声。 
「離れていろって・・?」 
「扉を破壊するので、念のため離れていてください。」 
その言葉に扉の内と外の全員が扉から距離を置く。 
全員が離れたことを気配で察し、扉に左手を翳すゼロ。 
次の瞬間、扉が一瞬光り、あっさりと崩壊した。 
破壊された扉を悠々と越えて機長室内へ入り込むゼロ。 
「全く…SFESの皆さんも詰めが早いですね…… 
 こんなに早く終わらせてしまおうとは…………」 
其の後ろを恐る恐ると付いて来るバンガス&ミナ。 
バンガスは不機嫌そう&眠そうな顔のおトメさんの手をしっかりと引き、 
リリィと再開出来て喜色満面のミナは、片腕が石化しているユーキンを負ぶっている。 
更に後ろにはキャビンルームの乗客達が勢揃いしていた。 
内、数人がファンシー系の人形を必死こいて運んで来ている。
「やった……佐竹さ………!?」 
応急処置を受けたもののぐったりとした佐竹を見、声を詰まらせるミナ。 
佐竹の怪我は決して軽くは無い。 
能力者達からの治療を受けても完治には暫く掛かるだろう。 
早速、乗客の中に紛れていた医師も助力に向かう。
「済みません……キャビンルームも襲われちゃって…… 
 もう…安全な場所が無くなっちゃったんです…… 
 キャビンルームよりも、こっちの方が乗客の人達も落ち着けると思って……」 
タカチマンに何とか説明しようとするバンガス。 
確かに前後左右に注意しなくてはならないキャビンルームよりも、 
後部にさえ注意していれば良い機長室の方が安心出来るのだろう。
だが…妙にSFESの駒の進め方が良い…… 
最初の先行者の様な機械部隊なら、 
キャビンルームに入る前にカフュ達防衛班が片付けてくれるのだが、 
聞いてみるとキャビンルームを襲ったのは、あのゼペートレイネ。 
融合能力を利用した壁抜けが可能な能力者だ。 
此方の動きが読まれているのだろうか?
ナオキングが何だこりゃと言いたそうな目で 
ファンシー系の人形を眺めているのに気付いたミナが説明する。 
「あ、これですか?大名古屋国大戦の英雄で、 
 ユーキンさん達の仲間でもあった『ジョイフル』さんです。 
 ……SFESに操作されて襲って来たんです… 
 今は…機能停止しているみたいですけど……… 
 ユーキンさんは…ジョイフルさんの石化光線を受けて……」
「さ…さっきの叫び声は何だったんや? 
 メイも一緒に居たみたいやったけど……」 
ジョニーの問にミナは首を傾げるばかり。此処でやっと騙された事に気付く。
SFESの仕業だったのだ。
どうもSFESはタカチマン達を分断し、他のメンバーを攻撃… 
恐怖を煽る事で交渉を成立させようとしたのだろう。
其の時、通信機から声が放たれた。 
《待たせた…小泉純一郎だ》 
通信が行われている事から希望を汲み取り、緊張の解けるバンガス一行。 
一方、タカチマンはなるべく通信内容を漏らさない様に話を進める。 
「どうだったのだ?」 
《………駄目だ…其れでも各国の態度は変わらん… 
 特にアメリカ合衆国とイスラム共栄圏は 
 今直ぐにでも発射すべきと言って聞かない…》
其処へ足取りも変わらずゼロが近付いて来る。
執筆者…you様、is-lies

  101便の一室

 

「全員揃ったみてぇだな」 
シルシュレイの前にはゼペートレイネ、人語を解するペンギン、 
イヤホンで音楽を聴いているアズィム、結界を張り終えた小桃&コピー、
パイプの上に腰掛けたアヤコ、専用機を従えたツャア、幼い姉弟、 
SFESエージェントが勢揃いしていた。 
因みにクドい三連星友達に呼ばれたとかで戦線離脱している。
前支配者は捕獲完了したみたいだ。 
 破滅現象の激化で地球崩壊かもって各国も慌しく動き出しているが、 
 まあ、こりゃどーでも良い。 
 何か良く解からんが脱出ポッドが壊れていたのも修正可能な域だ。 
 問題は…コイツだ」 
シルシュレイの取り出した携帯端末には、 
宇宙空間に佇む1隻の航宙機が映っていた。 
其の外見は宇宙戦艦ヤマ○の様な軍艦型…… 
更に漁船を加えた様な、眩暈を引き起こしそうなイカれたデザインであった。 
「この101便に向かって来ている航宙機だ。 
 …ヤマモト帝国『山本丸』である事を確認している。 
 流石に近付かれると撃ち落さなきゃならなくなるが、 
 アヤコさん、アンタの方で何とか接触を避ける様に言って貰えないかい? 
説明を聞いて露骨に眉を顰めるアヤコ。 
アヤコはヤマモト帝国の幹部であり、実質的な支配者である。 
彼女を作戦に組み込んでいるにも関わらず、接近してくるヤマモト帝国艦。 
一部の部下の暴走というところだろうか。
山本丸との交信を希望。相手の返答は早かった。 
端末に映る戦国武将の様な男…というか濃い男。 
四角顔に無精髭、赤い鎧に実を纏った如何にも野蛮そうな雰囲気を纏っている。 
大名古屋国大戦で乗員を無視して敵戦艦を墜落させた、 
連盟艦隊特殊部隊長に通じるものすらあった。

つ〜どえ〜や〜まもとのはたもとに〜♪
あ〜あ〜や〜まもとて〜いこく〜♪
よ〜ぞらにかがやくいっと〜うせ〜い♪

「な…何だこの音楽は!?」 
同時に端末から流れる演歌とも軍歌とも校歌ともつかぬ歌が流れ出る。 
ヤマモト帝国の国歌である。 
《ガーーーハハハハハハ!皆の者!アヤコちゃんの護衛、御苦労である》 
必要以上にデカい声で話し始める戦国武士。 
信じられないだろうが、この野蛮人こそがヤマモト帝国王『ヤマモト』なのである。 
「あ〜、此方SFES101便潜入班。 
 あまり近付かれると各国への示しが付かない。攻撃せざるを得なくなってしまう」 
だが、戦国武士ことヤマモトは全く聞いていない。 
《アヤコちゃーん!寂しくない?欲しいものない?》 
シカトこかれたツャアがもっと強く言ってみるが、 
ヤマモトのバカでかい声に遮られて、どうも届かない様だ。
取り敢えず機関室に響き渡る大音量を抑えようとするツャア。 
音量を減らして交信に臨むものの、やはり相手はアヤコLOVEを叫ぶのみ。 
こっちの話なんかは正に馬耳東風といった感じだ。 
しつこいヤマモトの交信にツャアも辟易し、 
アヤコに交信を頼む。こっちの方がヤマモトも反応するだろう。併し…
「沈めちゃったら?」 
アヤコの科白に硬直するツャア。
其の一方で考えを練るのはシルシュレイだ。
第三次世界大戦直後の日本分裂時のドサクサに熊本の山中で急ピッチ建国された自称・国家のヤマモト帝国。 
ヤマモトは見ての通りの武骨者。だが其の力だけは特級品であり日本皇国の兵も寄せ付けなかった。 
其処にアヤコの魔導技術が加わり、山賊国家として異常な隆盛を見せた。
ヤマモトはアヤコの傀儡といったところだろが、其れが要らないとは……
「へぇ…どうやらアヤコさんはSFESを気に入ってくれた様っすね。 
 …いや、アヤコさんの場合なら……前支配者を…ですかい?」 
彼女の目的を『小耳』に挟んだ事があった為、少し鎌を掛けてみるシルシュレイ。 
だがアヤコの方には一切の動揺が見て取れない。 
「…どっちでも良い」 
そっけない返事に、併しシルシュレイは何かを掴んだ様で、 
ニヤリと口の端を持ち上げ、端末を操作し始める。 
「そんじゃ、アヤコさんの希望に従い… 
 そしてアヤコさんの移籍を祝い………」 
キーを一押し。 
「乾杯」
同時に放たれた航宙機レーザーが宇宙漁船…いや、山本丸の艦橋を破壊する。 
操縦不可となった山本丸は、そのまま101便を追い越して行ってしまう。
執筆者…is-lies

  101便・機長室

 

「初めまして小泉首相。御会い…いえ、御話し出来て光栄です」 
恭しげに対話を始めるゼロ。其の声に何かを感じ取った様子の小泉首相。 
「悪いですが、先程の話…全て聞かせて頂きました。 
 各国重鎮の皆様にも色々あるとは思いますが、 
 あまり早急な措置を考えるのも如何なものかと存じます」 
《君は…誰だ?》 
初めて小泉が、相手の素性に疑問を抱いた。 
其れが然も当然の様に対応するゼロ。 
「ゼロと呼んで頂ければ結構です。 
 ああ、名簿を見ても私の名はありません。 
 飛び入り参加みたいなものですから」 
《ゼロ……飛び入り…だと………… 
 ………まさか君は………高宮…》 
ゼロと名乗った男の言葉に、小泉は嘗ての英雄の名を思い出した。 
以前の戦争の英雄… 
八姉妹、そして高宮零土。 
八姉妹に関する記録のほとんどが残っていないのに対し、 
高宮零土はその名を知らぬ者はいない英雄であり、 
小泉にとっては、何度か作戦行動を共にした戦友でもあった。 
《コードネーム、ゼロ… 
 高宮が最初に私の前に現れた時もそう名乗った… 
 まさか君は………》 
「高宮零土、ですか? 
 残念ながら、私とは関係ありません」 
《そうか…、いや、すまない… 
 しかし、あの人が生きていたら、このような事態には…》 
「閣下、こんな時に死んだ人間の話をするなんて、 
 一国の首相のすることではありませんね」
ここで高宮零土の名が出ること自体が予想外のことであった。 
小泉が口にした英雄の名は、一同に不思議と何かを期待させる力があった。 
しかし、ゼロは表情を変えることなくそれを否定した。 
そんな二人のやり取りに、妙な違和感を感じずにはいられないタカチマンだったが、 
確信には至らず、ゼロの素性を考察することは自分の頭の中のみに留めた。
何にせよ、これで一つはハッキリした。 
もはや、事態はネオス日本共和国首相と言えど、どうすることも出来ない。 
結局は自分達だけで何とかするしかないということだ。
「では、この回線を日本宇宙ステーションの総司令に繋いで貰えるか?」 
《それは出来ない》 
ならばと、宇宙ステーションとの通信を要求するタカチマンであったが、 
小泉は即座にそれを拒否する。 
「んだよ、使えねぇ奴だな」 
思わず悪態を吐くリュージ、そこへジードが割込む。 
「なら、こちらで勝手にやらせてもらう」 
《ま、待つんだ! 君達は自分の立場が…》 
まだ何かを言おうとした小泉を無視し、ジードが再び端末を操作し始める。 
モニターからの視覚情報を得る事が出来ないため、操作状況は一切分からない。 
そんな中、ジードだけは迷うことなく操作パネルを叩き続ける。
そして間もなく、ジードはピタリと手を止め、マイクに向かって言った。 
「こちら101便、宇宙ステーション、聞こえるか?」 
通信は成功してした。 
一同は改めてジードの卓越したスキルに感謝の意を示す。
《こちら日本宇宙ステーション総司令室。 
 101便というとテロリストで御座るか? 
 カンラカラカラ!あの世で己の愚挙を悔やむが良い! 
 これより貴様等に正義の鉄槌が下される! 
 泣いても謝っても許してはやらん。カラカラ》 
何か勘違いしているのだろう。 
ワルキューレの騎行をBGMに歌舞伎風の高笑いをする総司令。 
其の独特な笑い声にミナやユーキンは聞き覚えがあった。
連盟艦隊特殊部隊長自称『最強の部隊』である連盟艦隊特殊部隊を指揮する野蛮な男だ。 
大名古屋国大戦大詰めで、 
大戦首謀者・本田宗太郎を追い込んでいたユーキン達ごと、 
敵戦艦『アマノトリフネ』を沈めようとしたりした事からも 
其の短絡思考…というよりもドタマの進化程度が見て取れる。 
今回は汚れ役を押し付けられたといったところであろうか。 
尤も、この男は目先の栄華しか見ていないのだから、 
自ら喜び勇んでミサイル発射の任を受けたのだろう。
「生憎、BIN☆らでぃん一味はとっ捕まえた。俺達は一般の乗客だよ」 
《にゃんと……だが其の便は現在……》 
「其れも聞いた。何とか軌道変更なりする積りだ。 
 だからミサイル発射は、もうちょい待ってくれないか?」 
長話は無用とばかりに率直な結論を求めるジード。 
だが、そんなジードに不安げな声を掛ける者も居た。
「あの…ジードさん……無理だと思うっす」 
ユーキンの言葉にバンガス、ミナも頷き同意した。 
まあ、乗員ごと本田を倒そうと攻撃しても、 
『英霊として祀れば帳尻が付く』等と 
信じられない事をのたまわった男なのだから仕方が無い。
そして返答は全く其の通りであった。 
《面倒で御座るな………どうでありましょう? 
 英霊として祀ります故に大人しく散っては頂けぬか?》 
「俺等の命を面倒の一言で済ますな!!」 
リュージの怒鳴りにも「だってぇ〜面倒だしぃ〜」と返す特殊部隊長。 
どうやらマトモに交渉するのは無理の様だ。
執筆者…is-lies、Gawie様
そんな中、一人思い詰めた表情のミナ…
ゼペートレイネが言った様、自分は力が無い。 
弱肉強食の場で食われる立場の人間だ。 
だが、こうしてまだ生き残っている。 
生きているからには精一杯足掻くべきだ。 
今の自分に出来る事…自分にしか出来ない事……
本田宗太郎の娘として生まれ、温室で健やかに育ち、火星の解放を夢見ていた。 
だが父が何かに取り憑かれた様に性格を急変させ、 
世界の消滅を目指し、全国を相手に第4次世界大戦を起こす。 
この戦争は宗太郎の使用したウイルス『JHN』で大名古屋国が勝利し、 
各国に国家解体を迫るが、ユーキン、バンガス、キムラ、
メイ(猫丸、ダルメシア)、イルヴ、『青』、エース、ツヨシン、ジョイフル、
ごとりん博士、 ミスターユニバース、テロリスト獣人解放戦線等の活躍によって 
世界消滅は食い止められ、本田宗太郎は死亡。 
大名古屋国大戦こと第4次世界大戦は終了した… 
併し、この事で圧倒的な大名古屋国の技術を 
盗もうとする動きが各国で見られたが、 
大名古屋国の研究員達は既に所在不明となり、 
現在、大名古屋国技術を有するのは、ミナの護衛アンドロイド・リリィ位だろうか。 
又、宗太郎の死にも不明瞭な点が多く、其れを探ろうという動きもある。
今の自分は其れから逃れる為、本田の名を捨て、 
ミナとして生きている。
其の自分が、今、この状況で出来る事…
ゴクリと唾を飲み、大きく息を吸い、 
ミナは意を決して声を上げようとした… 
その時、何者かの手がミナの肩を叩き、 
思わず脱力するミナの声は吐息となって漏れた…
ミナの発言を制止したのはゼロであった。 
ミナの決意を察したかの様に、或いは何かを企んでいるかの様に、 
ゼロはニコリとミナに微笑みかけると、
「私に任せてください」と言って通信機のマイクを取った。 
「いいんですか、連盟艦隊特殊部隊長殿? 
 この船にはあのエーテル先駆三柱のタカチマン博士、 
 それに、あの大名古屋国大戦の勇者であらせられる、 
 ユーキン様、キムラ様、メイ様達も乗っておられるのですよ」
妙に大袈裟な口調でゼロはユーキン等がこの便に搭乗していることを告げた。 
ただ、この事は既に小泉によって伝えられているはずではあったが、 
今一度、名古屋大戦を治めた勇者達の存在を伝えておく価値はあるように思えた。 
それに釣られてユーキンも、
勇者と言われ、照れ臭そうにしながらも満更でもないとばかりにマイクに向かう。 
「そ、そうさ! BIN☆らでぃんなんざ、本田宗太郎に比べりゃ大した事なかったぜ! 
 船の軌道もすぐに元に戻してみせる! だから僕達を信じてくれ!」
しかし…  
特殊部隊長の返した言葉は予想以上に絶望的なものであった。 
《カンラカラカラ! 分かったでござる。 
 ついに尻尾を出したでござるな。名古屋大戦のA級戦犯ユーキン! 
 シャトルジャックの黒幕は貴様等であると、つまりそういう事でござるな!》
「せ…戦犯…!?」
大名古屋大戦を終結させた直接の原因となった、
ユーキン他数名の能力者達の活躍は、日本国内では勇者と称えられるものであった。 
しかし、他の国からすれば、
個人の感情で参戦し、他の国を差し置いて
名古屋国を滅ぼしてしまった無名の能力者などは戦争犯罪人に他ならなかったのである。
「おい! 逆効果じゃねぇかよ!」 
軽率な発言であったとゼロを責めるリュージであったが、辺りを見回しても既にゼロの姿はない。 
そして、焦る一同に、ついに特殊部隊長が無謀な決断を下す。 
《ミサイル発射の予定時刻を待つ必要はない! 
 愚かな貴様等には、拙者が今すぐ正義の鉄槌をおみまいするでござる!!》
その時…
「待って下さい!!」
少女の声に一同が振り返る。 
今までに無い力強い声に、それがミナであることに一瞬気が付かなかった。 
一同が注目する中、ミナは唇を噛締めながら通信機の前に歩み出る。 
《な…何で御座るか?命乞いは受け付けぬで御座るよ》 
少々、声の気迫に押された感じの特殊部隊長との対話に臨むミナ。 
マイクに顔を近付け…一呼吸置いてから口を開く。 
彼女は捨てた名をもう一度使った。 
「私……本田ミナです… 
 …本田グループ総裁、本田宗太郎の娘…です…!」 
「なっ!?」
騒然となる乗客達。タカチマンへと向けられた奇異の視線が 
今はミナへと注がれている。中には後退りする者も居る程だ。 
ナオキング達も驚きを隠せない。 
嘗て全世界を震撼させた最凶の能力者… 
其の娘だというのだから驚くなという方が無理だろう。
一方、彼女の正体を知る佐竹やユーキンは、 
彼女が何故正体をバラしたのか、 
そしてどうやって彼女を守り抜くかと考えた所で、 
漸くミナの真意を悟った。 
…………はひ?…おみゃぁが本田の娘だとぉ!? 
 しょ…証拠、見せてみぃ!!》 
明らかに狼狽している特殊部隊長。 
あの大名古屋国戦艦アマノトリフネ撃墜の一件で 
大名古屋国技術の殆どを消失させてしまった彼としては、 
彼の技術を発見出来るか否かで、今後の進退が決まっていた。 
自分の事となると急にマジメになる特殊部隊長。 
ミナは、相手が食い付いて来たのを感じ、更に話を進める。 
弱気にならない様…甘く見られない様…… 
「残念ですけど今、私が何を言っても証拠にはなりません。 
 唯、私と一緒に大名古屋国の技術全てを知るリリィも搭乗しています… 
 このまま貴方がミサイルを発射して私達を殺すのは簡単だと思いますけど 
 でも…そうなったら大名古屋国の技術は闇に消えます。 
 そう焦る必要も…無いんじゃないですか?」 
《う……ぬぅうう……》
執筆者…is-lies、Gawie様
inserted by FC2 system