リレー小説2
<Rel2.101便・タカチマン4>

 

101便・下キャビンルーム

 

「し…死ぬかと思いました〜!!」 
涙声で隣の親父臭い男に泣き付く少女に対し、 
親父臭い顔の男こと『リュージ』が顔を顰める。 
何故こんな事になった? 
最初は金に釣られてだったが…こんな話は聞いていない。
若くも銃火器の扱いに長け、ガトリングガンズという銃砲店すら開いたリュージ。 
幼い頃から疫病神に取り憑かれていたらしく、為す事全てが裏目に出ていた。 
そんな彼にとって、無事に店を開けた事は幸運……少なくとも彼はそう思っていた。
併し…今、自分に泣き付いて来ているこの少女『リエ』をバイトとして雇った時から再び狂った。 
彼女と来たら、絶大な魔力を持ちながら、其れを生かし切れずに暴走させ、何度も店を壊してしまう。 
更に性質の悪い事には…彼女は自覚していない。というより脳が天気なのだ。 
腐れ縁の暗殺者『キムラ』や、ハッカー『ジード』、そして魔導科学者『タカチマン』… 
……といったディープな金蔓が居た事が不幸中の幸い。まだ店は潰れていない。 
そんな或る日、態々火星から地球へ来たタカチマンから依頼を持ち掛けられた。 
聞いてみると、彼の友人科学者『ジョニー』が何者かに命を狙われたらしい。 
犯人を捜すのにはリュージの技術が不可欠と言って来たのだ。 
大金欲しさに依頼を受け、一先ず火星にあるタカチマンの『タカチ魔導研究所』に向かおうとした。 
今は…地球と火星の連絡船と言っても良い『航宙機』に乗っている…… 
そう。順調に行けば、今日を含め後4日で火星に着ける筈なのだ。
だが、今の彼は…次の瞬間の己の命すら解らない状況に立たされていた。 
航宙機が発進したと同時に『BIN☆らでぃん』と名乗るテロがシャトルジャック。 
まあ、これはスピード解決出来たから良しとしよう。 
問題は…彼等テロを裏で操っていた『SFES』という闇組織。 
何時の間にか航宙機は完全に彼等に支配されていた。 
全通信機能遮断、更には機内に殺人マシーンや魔物迄放たれている。 
何とか、彼等は上キャビンルームへと辿り着く事に成功した。 
此処と…左キャビンルームのみが最後の砦なのだ。 
他の場所は、多くの敵が跳梁跋扈する危険地帯と化している。
執筆者…is-lies

「やはり、そちらも駄目だったか……」 
「ああ。緊急用の脱出ポッドは全部が無くなってた…」 
リュージの報告を聞いた青い髪の男…魔導科学の第一人者タカチマンが溜息を漏らす。 
どうやらSFESは自分達を簡単に逃がしてくれそうに無い。
「タカチマンさん…どうします?」 
気弱そうな銀髪少年、タカチマンの助手『ナオキング』が 
負傷者の手当てをしながら弱々しく聞いて来る。 
普段はこんなだが、狼狽が過ぎると彼は暴走してしまう。 
現にBIN☆らでぃんに銃を突きつけられた時に暴走した。 
其れを目の当たりにした負傷者も、オドオドしながらナオキングの手当てを受けている。 
「こんなんじゃ…SFES連中との交渉なんて、無理と違うんか?」 
座席から身を乗り出して茶髪の男…タカチマンと知り合いの科学者ジョニーが、 
ナオキングの発言に便乗してタカチマンに問う。
「…………取り敢えず…現状を再確認しましょう」 
リュージ達と一時的に同行していた日本国の元諜報員『佐竹』が、
其の場の全員に呼び掛ける。 200人近い眼が彼に視線を向けた。
「まず…10時丁度…航宙機発射と同時にテロリスト…… 
 其処のBIN☆らでぃん一味がシャトルジャック…」 
「おイ!こんなトコに縛られてたら、部屋にバケモン達が入って来た場合、 
 逃げられないじゃありませんかでごわす!」 
座席に縛られた髭面の男、テロリストBIN☆らでぃんが 
滅茶苦茶な日本語で痛ましく返すものの、無視。 
「BIN☆らでぃんの目的は『Ω真理教壊滅』…」 
Ω真理教…日本で活動していた宗教団体だが、 
BIN☆らでぃんが「アッラーの他に神は無い」という無茶苦茶な理由で敵視し、 
この航宙機乗客の命と引き換えにΩ追放を日本政府に迫った。
「11時半、BIN☆らでぃんとネオス日本共和国がスピード交渉。そしてスピード決裂。 
 この時にBIN☆らでぃんの放った航宙機のレーザーでΩは壊滅したと見て良いでしょう…。 
 併し直後に航宙機内の皆さんに取り押さえられた…
 ……そして…SFESが行動を開始。 
 全ての脱出ポッドが捨てられ、全通信回線も遮断されている様です。 
 …デリンジャー現象なのか、私の携帯でも火星や地球に連絡が出来ません。 
 オマケにSFESの異形が蔓延り、SFESエージェントも侵入している…… 
 ……この便は…完全に孤立しています」 
「……おいBIN☆らでぃん!SFESの事に付いてはホントに何も知らねぇんだろうな……」 
緑髪の少年『カフュ』がBIN☆らでぃんに睨みを利かせようとするが…佐竹が遮る。 
「お止しなさい。先程聞いた通り、彼等は携帯電話での指示しか与えられていません。 
 Ω真理教への怒り(不条理だが)を利用されたに過ぎません」 
「利用…?って事は…SFESの目的が何なのかは解ったんですか!?」 
護衛アンドロイド『リリィ』を従えた少女『ミナ』の言である。彼女は佐竹と同行している。 
其れに周囲の皆も驚く。全く正体も目的も不明の敵SFES。其の目的なのだから重要だ。  
間を置いてから佐竹が再度口を開く。 
「はい。SFESの目的は……まだ全貌は見えませんが… 
 其処の……タカチマン博士を勧誘する事です…」 
一同の視線が平然と構えるタカチマンに集中する。 
疑惑、憎しみ、恐怖…様々な思惑の混じった眼に不安な気持ちになるナオキング達。 
彼等のそんな気を知っているのかいないのか、タカチマンが静かに付け足す。 
「…機内でSFESの一員…『クリルテース』という子供に会った。 
 私に、SFESに入らないかと言って来たから…間違いないと思う…… 
 ……後…私の返答次第で、乗客の命運が左右される……とも言ってたな」 
「ちょ、タカチマンさん!そんな……!」 
そんな事を言って大丈夫なのかというナオキングの叫び。だが、時既に遅し。 
「じ…じゃあ……アンタを突き出せば俺達は無事で…済むんじゃないのかッ!?」 
乗客一人の言葉で、周囲にざわめきが奔る。最悪の想像をしてしまい、冷や汗を流すジョニー。 
と、その時その発言を聞いた佐竹が話し始める。 
「ですが・・・・・彼等がタカチマン博士を万が一勧誘する事に成功したとしても
 彼等が乗客の皆さんを無事に帰すかも分かりません。ここは慎重に行きましょう。」 
その発言で乗客達は沈黙する。
執筆者…is-lies、鋭殻様
「そういえば…あの『ゼロ』という奴は…何者なんだ?」 
この機内にいる略全員の実力者が遭遇した白い髪の男ゼロ。 
皆の話を総合すると… 
圧倒的な魔力を有し、黒い子竜『グレイ』と共に行動している。 
SFESと面識があり、彼等に嫌われてはいないらしい。 
タカチマン達にSFESの情報を提供したと思えば、其れは中途半端な情報でしかない。 
どうも、中立な立場の人間らしい。 
「この男については謎の存在としか言えないな… 
 SFESの仲間でもなければ俺達の味方でもない…」 
佐竹の護衛である獣人の少年『カフュ』の言葉で、ゼロの話題は締め括られた。
如何せん推理の材料に乏しい。
「じゃあよ、あの女はどったんだ?」 
乗客の中から赤い髪の男が立ち上がってカフュに聞く。 
同時に佐竹辺りが不審そうな眼差しを向けたので、カフュが説明した。 
「中部後クルーブロックで見付けた密航者だよ。 
 こっちの赤い髪が『アンディー』。そっちに座ってる金髪のが『リッキー』」 
良く見ると、ギターを持った金髪の男が座席で「どーも」といった風に親指を立てている。 
あの女…カフュ達が、アンディー達と一緒に発見した青髪少女『シストライテ』の事だ。 
彼女はSFESと敵対していたらしいのだが、直ぐに立ち去ってしまい消息が掴めない。
「女といえば…あの『レシル』という奴もか……」 
此方はタカチマン達が会った白いローブの少女だ。 
SFESの擁する生物兵器に極めて詳しく、敵対している様子でもあった。 
彼女は「仲間が待っている」とだけ言って去ってしまった。 
シストライテとレシル…どうやら彼女達は仲間の様である。
「……猫丸…は…どうなるのでしょうか?」 
俯きながら寂しそうに呟く京都の式神使い一族『敷往路家』の跡取り娘『敷往路メイ』。
彼女の傍らに控えるのはメイの従者である風精霊神『ダルメシア』。同じくメイが雇った暗殺者の少年キムラ。
『吠黒天・猫丸』…メイの使役する雷精霊神であり、メイにとっては友でもあった。 
其の彼は今、SFESメンバーの『ゼペートレイネ』に捕らえられている。 
ゼペートレイネ…タカチマンクラスのエーテル科学者でもある彼女の能力は『合成』。 
あろう事か、猫丸は彼女自身に意識を残されたまま合成されたのだ。 
ゼペートレイネを殺す事は、猫丸を殺す事でもある。 
「……SFESの弱みを握って開放する様に脅すべきか……」 
暗殺者キムラも猫丸とは面識があり、其の表情に僅かな翳りが見える。
執筆者…is-lies
・・・1分後、安息が続くことはなかった。
 ゴォン!!
突如、殴りつけるような音が響く。その音に数名の乗客がおののいた。 
「ひっ、ひぃ・・・!」 
「し、死ぬのか俺たちは?」
「いかん、皆さん、落ち着いてください・・・」 
佐竹のなだめも空しく、その言葉をさえぎるような音がまた響く。 
ゴオオォン!!
そして、ドアが音を立て・・・鉄の塊と化し、吹き飛んだ。 
煙が晴れた時…タカチマン達の目の前に現れたのは… 
20体の蜂型エネミー、5体の先行者であった。 
併し、先行者の一機には真っ赤なカラーリングが為されており、眼のレンズも横に細長くなっている。 
「…あの赤いのが司令塔と言ったところか?」
「非戦闘員の皆さん私と一緒に下がって下さい!」 
直ぐに佐竹が拳銃を取り出して乗客やミナを避難させる。彼自身は能力を持たぬ人間に過ぎない。 
又、ミナも何の能力も発現していない。 戦うのは専らアンドロイドのリリィである。
リュージやリエも先行者を相手にする戦力としては不安がある。 
リエの魔力自体は非常に高いのだが、暴走させられて乗客を巻き添えにされては敵わない。
その点は密航者のアンディーとリッキーも同様。実力はあるが信頼性に乏しい。 
この場で戦えるのは…魔導研究者にして高い戦闘力を持つタカチマン。 
獣人少年カフュ。敷往路メイ及び精霊神ダルメアシア。暗殺者キムラ。
キムラの知人であるハッカー『ジード』。ミナの護衛であるアンドロイド・リリィ。 
妖怪・九尾の狐である少女『おトメさん』だろう。
ナオキングやジョニー、メイの追っ掛け盗賊少年『ユーキン』と、 
其の弟子であり、おトメさんに懐かれている気弱少年『バンガス』は 
戦えない事も無いが戦力的に不安がある。彼等にも乗客の護衛に回って貰う事になりそうだ。
執筆者…A夫様、is-lies
乗客達が或る程度後退したところで、赤い先行者が一歩前に出て来る。 
《ふふふ…初めまして…だな。私の名は赤い水兵『ツャア・アジナブル』… 
 この『ツャア専用先行者』を操作しているSFES機動部隊所属将校だ》
赤い先行者の口元から、ツャアという男が名乗った。SFESという単語を聞き怯える乗客達。 
『K』の奴は失敗した様だな…。
 先行者、先行蛇をも退けた君達の力は賞賛に値する… 
 ……だが併し、この私の操る先行者には敵いはしまい…》
「はん!どうせ今迄の先行者共よりも、ちょっと性能が良いって程度だろ?」 
強気に対応する緑長髪の獣人少年カフュ…其の言葉には 
先行者等、物の数ではないという矜持があった。併し、ツャアは含み笑いと共に返す。 
《くく…愚かな……この先行者は私が愛用しているだけだ。 
 性能の違いが戦力の決定的差ではない事を……教えてやる!》
他の先行者や蜂型エネミーと共に襲い掛かるツャア専用機。 
其の動きは相手の動きを先読みし、更には臨機応変に対処する人間の動きであった。 
如何に力が優れていようと所詮は機械の先行者は、 
ワンパターンな動きに加え、瞬間の判断力に於いては人間にも遅れをとる。 
ツャア専用機には其れが無いのだ。
ぐあっ!?
どうせ機械の動きと侮っていたジードとダルメシアが、 
ツャア専用機両腕から飛び出した光のブレードに脇腹を軽く切り裂かれる。 
《くくく…不甲斐ない。こんな調子では『クドい三連星』達の出番は無さそうだな》
他の先行者や蜂型エネミーも、乗客やタカチマン達に襲い掛かる。 
《タカチマン博士には手を出すな!他の連中を強かに痛め付けてやるだけで良い!》
詰まり、乗客達に痛い目を見せたくなければSFESに入れと言う事なのだろう。
「手を出すな・・・か。随分と良い待遇だな・・・」
静かにそう言い放つと、タカチマンは銃のカートリッジを差し替える。 
「それに・・・契約金も弾みそうだな。」 
タカチマンはツャア専用先行者の 
人間の動きであるが故の隙を見逃さなかった。 
そして一瞬のうちにツャア専用先行者との距離をつめる。 
「・・・この就職難の時代に、こんな贅沢は言えたものでは無いが・・・
 ………私の答えは変わらん。「NO」だ。」 
そしてツャア専用先行者の額に銃を付きつける。 
《貴様・・・!》
そしてその背後に忍び寄る2体の蜂型エネミーの影・・・ 
蜂型エネミーから発射される毒針。殺傷能力に乏しい行動を奪う為の攻撃だ。 
だが其れはタカチマンへと届く前にカフュ、リリィによって撃ち落される。 
「大丈夫かッ!?」 
言いながら、エネミーにナイフで切り掛かるカフュ。 
其の恐るべきスピードの攻撃をも蜂型エネミーは回避する。 
どうやら敵も精鋭の様だ。 
とはいえ、能力に落差があり過ぎる為、避けるのに手一杯で、攻撃どころではない様子である。
執筆者…is-lies、しんかい様
《……解っているのですか?タカチマン博士… 
 我々と貴方々との圧倒的な戦力差が……
 このまま抵抗していても無益だとは思わないのですか?》
併し、タカチマンは表情一つ変えない。冷たい眼でツャア専用先行者の額を見詰めるのみ。 
この男…何か企んでいるな。
赤い先行者のカメラを通してツャア・アジナブルはそう判断した。 
ならば、もっと揺さ振る迄よ。先行者のスピーカーから再度声が流れ出る。 
《何を考えているかは知りませんが、貴方々の状況は刻一刻と悪化していますよ? 
 貴方はKと戦ったので解っているとは思いますが、 
 我々の中にも制御の難しい輩というものが存在するのです。 
 無論…貴方を排斥しようと動く者も…… 
 今、貴方が死んでしまえば、其れは我々に此処での仕事が無くなったという事を意味します。 
 詰まりは………皆殺しです。 
 そうなる前に我々と組み、乗客を解放するのが現状では最良ではないでしょうか?》
「あ…貴方々が皆さんを解放するという保証が何処に………」
先行者を魔法で牽制しながら叫ぶメイ。
《その様なものは無い。先程も言ったが我々にも卸せぬ者が居てな。
 だから早めに君達を開放する方が良いと博士に言っていたのだよ、御嬢さん》
「は、どっちにしろボク達を消す積りなんじゃないのか!?」
《私達はタカチマン博士に協力頂きたいだけさ。
 そんな事をして博士の機嫌を損なわせる訳にもいかない。
 まあ、今直ぐに良い返事が頂けるとは思っておりません。
 仲間の旗色も悪い様ですし、今回は退かせて貰いましょう》
ユーキンの反駁に軽く返してから、全エネミーと先行者に撤退命令を出す。 
そして自身も踵を返し、破壊したドアへと向かう。 
《そうそう、言い忘れていました。 
 この機には明日辺り、日本宇宙ステーションから惑星間巡航ミサイルが放たれる予定です。 
 そうなってしまえば手遅れ。我々にも止められません。 
 ミサイル発射と同時に我々は撤退させて頂きます。 
 ………考え直すのは御早めに》
そしてツャア専用機も視界から消えた。
執筆者…is-lies
ツャアの科白に混乱する一同。 
無理も無い。明日にミサイルが発射されるというのだから… 
「冗談じゃない!俺達はこんな所で死にたくないぞっ!! 
 タカチマンって言ったか?アンタが其の…SFESとやらに行けば万事解決なんじゃ……!」 
「…其の万事に、私の意志は含まれているのか……?」 
涙を流しながら怒鳴る乗客は、タカチマンの返答を聞き、今にも殴り掛かりそうな勢いだ。 
流石に危険に感じたナオキングが仲裁に入る。 
「お…落ち着いて下さい。まだ時間はあります。 
 何とか…何とか考えてみましょう!」
「そうですね。もっとも肝心な事の説明がまだですし」
佐竹の言葉に一同が顔を見合わせ、ハッとした。
「通信機能ですよ」
機内のあらゆる通信機能が使用出来なくなっているのは、SFESが機長室を占拠したからだろう。
各人の携帯電話迄使用不能なのは推測が難しい。 
携帯電話のエーテル波は嘗て無い広範囲通信を可能にしたが、 
流石に地球→火星間を直接繋ぐ事には成功しておらず、 
火星、地球の衛星を介する必要があった。
火星にも地球にも通信は不可。
衛星を介さない至近距離での通信だが…これにも失敗している。
併し、佐竹がBIN☆らでぃんの携帯でSFESからのメッセージを聞いた直後、
其の携帯での通信が不可能となった。
そして其の後、タカチマンが、SFESメンバーのクリルテースが携帯電話を使用していた事を確認している。
この事から、衛星がSFESにどうこうされたと考えるよりも、 
タカチマン達側が何らかの妨害を受けている可能性が高い。
「BIN☆らでぃんが日本に交渉した時みたいに、 
 航宙機と政府のホットラインを開かせれば…何とか出来るんじゃないのかな?」 
「其の為には機長室に向かう必要がありますが、恐らく、SFESに占拠… 
 …いえ、其処こそが侵入したSFESの本営と化している可能性は、極めて高いと思われます」 
少し希望入った声のバンガスの意見だが、リリィが冷静に分析する。
東日本との交信に成功すれば、ミサイルの発射を阻止する様に依頼出来、 
救援部隊も派遣されるだろう。
SFESは事を荒立てるのは好まない。 
この事件の仔細を口外しない代わりに、猫丸の開放を要求するのも1つの手だろう。
執筆者…is-lies
「どうやら…機長室に向かわない事には話にならなさそうだな…」 
バンダナ越しに髪を掻くリュージの科白。 
其れにおトメさんはキョトンとした顔でバンガスに質問した。 
「きちょうしつってなんですか?」 
人間の世界に疎い彼女にとっては、見る物聞く事全てがチンプンカンプンであった。 
何とかおトメさんに教えようと四苦八苦するバンガスを他所に、タカチマン達は話を進める。
「機械に強い人、戦力になる人は機長室へ行きます。これが主力です。 
 其れと航宙機後部からの敵の侵入を防ぐ班も欲しいですね。 
 非戦闘員の乗客はキャビンルームに残って下さい。後は彼等の護衛に……これは少数で構わないか。 
 前には進軍部隊、後ろは防衛戦部隊が居るのですからね」 
佐竹が或る程度の班を考える。 
「先ず、タカチマンさん、ジードさん、リュージさん、リエさん、私が機長室へと向かいましょう。 
 後…ミナさん、リリィさんを少々お借りします。彼女の知識は役に立ちますので」 
「おいおい!リエ迄連れて行くのか!?」 
蒼白な顔でリュージが佐竹に疑問をぶつける。 
彼にとって疫病神の化身とも言える彼女を同行させるというのだから。 
併し、佐竹は額に汗を浮かべて小声で言った。 
「ではリュージさんは、彼女を乗客の中に放っておいて良いと?」 
「連れて行こう」 
即答。

 

「えっと…タカチマンさんが行くのなら…僕達も行きます」 
「或る程度の知識は齧っとるからな」 
ナオキング、ジョニーも機長室へと向かう様だ。

 

「後方は俺に任せてくれ。さっき迄、其処で戦ってたんだから地形は把握してる」 
佐竹へと進言するカフュ。戦い慣れた場所の方が良いと思い佐竹も承諾した。 

 

「ちょっと待てや!そいつ一人じゃ役不足ってもんだろ? 
 さっきみたいにパンピー扱いされて隅に置かれるのはゴメンだぜ!? 
 だろうが、リッキー!おめぇも何か言ってやれ!」 
密航者のアンディであった。彼も先行者を難なく倒す程の使い手だが、 
彼の育ったスラムは弱肉強食を絵に描いた様な場所であったらしく、 
交渉や話し合いには絶望的な迄に向いていない。 
「お…俺っすか!?でもBIGになる前に死んじゃ元も子も…あ、いや…何でもねぇっす。 
 後方支援に有難く回させて頂くっす。はい」 
アンディの弟分、リッキーが怖気づいた様に話していたものの、アンディの一睨みで掌を返す。 
彼等も戦闘技術は高いので、文句は言わない佐竹であった。

 

「後方支援はもっと居た方が良いですね。私達も入ります」 
堂々と…一種の使命感を感じさせる締まった表情のメイとダルメシア。 
「メイに雇われているんだから、俺も入らせて貰うか」 
暗殺者キムラもキャビンルーム後方へと回った。

 

「御頭ぁ…どうします?」 
「決まっている!メイさんの居る後部だ!!」 
バンガスの真面目な問い掛けも、メイ狂のユーキンには通じない。 
「無理です、御頭!死んじゃいますよ!」 
「ええぃ!放せゲス!我が道を阻むかうぬ等!!」 
必死でユーキンを押さえるバンガスと、鬼神モードに入りつつあるユーキン、 
そして何が起こっているのか解っていない様な感じのおトメさんを見て、 
佐竹が妥当にキャビンルームで乗客護衛を頼んだ。其処にはミナも居る。

 

 

「…機長室へ行くぞ……」 
タカチマン一行はキャビンルームを出て、機長室へと向かって行った。
執筆者…is-lies
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