リレー小説2
<Rel2.101便・タカチマン12>

 

  101便・機関室

 

ツャアが先行者を伴ってエアロックに向かって行く間に、 
タカチマン達は機関室へと到着した。
僅かな照明しかない室内には、 
タカチマン達と食事もした寝惚け眼の少女、 
そして…
「………細川…小桃…」
タカチ魔導研究所のスポンサーでもある小桃と、 
其のパートナーアンドロイドであるキララが待ち構えていた。 
3人に護られる様にして、床に円形の線が書かれており、 
其の中には転送用の六芒星が描かれていた。 
転送リング…相当の力を有した能力者や機材が必要になるが、 
一瞬で遠距離の移動も可能なワープ装置である。
「ボク、乗客の人達、呼んで来るね」 
クリルテースが翼を展開し、低空飛行しながら来た道を戻る。 
其れに眼もくれずに己のスポンサー…小桃を見遣るタカチマン。
彼女がSFESに肩入れするのは、予想出来る範囲だった。 
細川財団の令嬢という裕福な生まれであると共に、 
18という若さで5つ程の博士号を持つ程の超ド級天才であり、 
又、稀代の魔術師でもある。
だが、彼女は探究心を抑えきる事が出来なかった。 
この世の全ての知を手に求めようとしているのだ。
「カーゴブロックに用意してた脱出ポッドが、 
 戦闘のドサクサにブッ壊れちまったみたいでしてね… 
 火星ももう近いですし… 
 ミサイルやSOLが来ねぇ内にコイツで脱出して頂きますぜ」
「…ちょっと待て、 
 脱出手段とは、この転送リングのことか?」
「そうですが、何か問題でもあるんですかい」
「…話にならん。 
 どこに転送されるか分からんではないか」
「嫌なら好きにすればいいさ。 
 ただし、タカチマン博士、 
 アンタだけはコイツで先に転送させてもらいますがね」
タカチマンの誤算であった。 
輸送船である101便には元々転送リングなどは設置されてはおらず、 
まさか、SFESが持ち運び可能な小型転送リングの開発に 
成功しているとは思いもよらなかったのである。
タカチマンのメモ書き通り、機関室の外で構えていたジード達も、 
脱出ポッドの確認後に行動を開始するつもりが、端から作戦を挫かれ、 
動くことが出来ない。
(…斯くなる上は…!)
タカチマンは観念したように転送リングに向かう。 
しかし、心の中では最後の決断を下していた。 
いや、固よりそのつもりだったのだ…
(結局は皆を騙す事になるのだが… 
  SFES…貴様等に与するつもりはない… 
  そして、ここから生かして帰すつもりもない…!)
妙な素振りも見せずに転送リングへと向かうタカチマンを見、 
やっと一区切り付くといった面持ちのSFES面々。 
此処まで追い詰めた相手が、 
未だに爪を隠しているという事など知らずに。 
因みにペンギン太郎はゼペートレイネの端末で、 
外の機動兵器の乗員… 
即ちはセレクタのアルベルトと会話をしている。 
これは相手の行動を逐一監視する為なのだが、 
逆に嵌め返されている事には気付いていない。
「そんじゃ行きますぜ」 
シルシュレイがリモコンを操作し、転送リングを起動させる。 
同時に六芒星が一同を誘い込む様、爛々と輝く。
「ま、妙に不安がられても面倒ですし教えましょう。 
 この先はSFESの研究所になってるんですよ。 
 其処で簡単な記憶消去を受けて貰います。 
 なぁに、レイネの言った様に大したもんじゃありませ… 
 ………んぁ?…どうなってやがる…」 
突如、シルシュレイが独り言の様に呟く。 
「おい、ペンちゃん! 
 外の野郎は動いてねぇんだよな?」 
「そ…其の時のお前の表情ったら今でも忘れないペン!」 
相手に移動した様子が無い事を、頷いてシルシュレイに伝えながら、 
其の様をアルベルトに悟られない様、話を続けるペンギン。
「クリルっ、話は解った! 
 取り敢えずお前は直ぐに戻って来い!」 
狼狽えて通信機に叫ぶシルシュレイ。 
だが、タカチマン達に彼等の混乱を見逃してやる謂われは無い。 
転送リングの中央に立ったタカチマンがゆっくりとジード達の方を振り返り、 
声にならない小さな声で呟いた。
「…ナオキ、後は頼む…」
穏やかな表情を見せたかと思った刹那、 
表情を一変させ、タカチマンが魔力を解放する。 
今までにない異質な波動― 
魔力による中和は不可能と見たアヤコと小桃は、素早く距離を取り、防壁を展開する。 
しかし、それは魔法障壁をも侵食し、機関室全体を覆っていく。 
即座にシルシュレイ、アズィム、ゼペートレイネ、サリシェラが 
4人がかりでタカチマンを取り押さえる。
「読めねェ…! ただのエーテル能力じゃねェ!」
「これが…13番目の力『ジューダス・プリースト』か!?」
「お…お前達が一箇所に集中するのを待っていた。 
 セイフォート、私と共に永遠に眠るがいい!」
タカチマンを床に押さえつけていながらも、
シルシュレイ達自身も身動きがとれない。
魂すらも凍りつくような波動に、徐々に意識が薄れていく。
「…俺達が…まさか、こんなところで…」
外から見ていたジード達には何が起こったのか解らなかった。 
タカチマンの魔力が一瞬増大したかと思った瞬間、 
シルシュレイ達がタカチマンを押さえつけ、そのまま硬直している。
1秒か、1時間か、或いは途方もなく長い時間だったのか… 
ふと、シルシュレイは目が醒めるような感覚にハッとして顔を上げる。
両腕はしっかりとタカチマンを捕えたまま、状況は変わっていない。
「…不発…か…?」
「…まさかここまで覚醒していたとはね… 
 でも、今回はアタシ達に運があったみたいね。 
 大体タカっち、今更虫が良すぎるんじゃない? 
 その力は、アンタが自分から捨てたくせに…!」
「…何の事だ…?」
「クスクス、セイフォートは…」
「話は後だ! 
 小桃嬢!アヤコさん!さっさとコイツを転送してくれ!」
小桃とアヤコも何か納得のいかない様子だが、 
流石に危険と見たか、即座に転送リングに魔力を注ぎ込む。 
転送リングから浮かび上がる六芒星の光がタカチマンを包み、 
一際眩しく閃く。 
ところが…
「…どうした? 
 やるなら早くしろ…」 
光が消えた後も、 
タカチマンの姿は転送リングの上から消えてはいなかった。
「…おい、何やってんだ? 
 頼みますぜ、二人とも」
「…転送リングが…動きません…」
「…というよりも、 
 エネルギー源である結晶からの反応が消えているわ…」
な、なにィ!!
タカチマン達の方も何が起こっていたのか解らなかった。 
だが、この好機を逃すマヌケではない。 
一瞬、呆気に取られているSFES達へと攻撃魔法を放つメイ達。 
タカチマンが床に押さえ付けられていたのが幸いし、 
飛び行く火の玉や氷の刃がタカチマンを傷付ける事は無い。
「ちぃ!?」 
すぐさまタカチマンから飛び退くものの、軽く攻撃を受けるSFES。 
瞬時に接近したカフュの繰り出したナイフの一撃が、 
ゼペートレイネの胴に埋もれる。 
幾ら身体能力が超人的であろうと、動いてる最中は回避不能だ。 
吐血しながらも、何とか尾の剣を壁に突き刺し、 
虚空に血の雫を残して逃げる大女。
奇襲… 
そう気付いたサリシェラの背後から、彼女の後頭部に銃を突きつけるキムラ。 
「……今度は俺が後ろを取ったな…」 
引き金を引こうとする寸前、 
少女の腕が信じられない速度で、銃を持ったキムラの腕を掃う。 
いや、掃うなどという生易しいものではなかった。 
キムラの腕があらぬ方向に折れ曲がり、 
彼が驚愕の色を露わにする前に、サリシェラの脚払いがヒットする。 
転んだキムラに手を差し向け、トドメの一撃を加えようとする少女。 
併し、背後から放たれたリリィの小型徹甲弾が、 
サリシェラの脇腹をごっそりと持っていく。 
無くなった脇腹を押さえる様にしながら、少女は前のめりに倒れる。
時同じくしてセートは、巧く押収されて置かれていた武器を回収し、 
ジャンキー少年ことアズィムへの接近戦を仕掛けていた。 
胸部を軽く裂かれながらも何とか相手の攻撃範囲から出ようとするアズィム。 
だが…… 
アぁズィムぅッ!!!
先程まで意識不明状態のシストライテであった。 
拳に嵌めたナックルが少年の顔面に向かって一直線に迫る。 
完全に虚を突かれたアズィムが、この一撃を避ける事は出来ない。 
「!!!!」
併し、アズィムを突如突き飛ばした影が、 
自分を身代わりにする形でアズィムを助け出す。 
たった今、戻ってきたばかりのクリルテースであった。 
シストライテの拳はクリルテースを殴り飛ばし、 其の小柄な身体を壁へと叩き付けた。 
一方、セートの刀は既にアズィムの首を捉えている。
アズィムも敵を迎撃する為、両手に魔力を集中するが遅過ぎた。 
制御塔を失ったアズィムの体は、崩れ落ちながらも手から魔法弾を連続で放ち、 
機関室の壁や天井を舐める様にして火花を散らせる。
「くのっ! 一旦退くぞ!」 
両脇に気絶したクリルテースとサリシェラを抱え、 
シルシュレイは攻撃を避けながら出口へと跳んだ。 
どうやら、この数では不利と判断したのであろう。 
同時にペンギン太郎、アヤコ、キララと手を繋いだ小桃が、 
機長室でも見せたテレポートをやって機関室から撤退した。
「タカチマン博士!」 
床に座り込んでいるタカチマンに駆け寄る一同。
「気を抜くな。奴等はまだ…」
姿を消したシルシュレイ達を警戒する一同。 
その時、再びアルベルトの声が船内に響く。
《レシルとかいう女はいるか? 
 負傷者と非戦闘員はこちらのポッドに収容した。 
 後はお前達だけだ。急げ!》
脱出ポッド― 
その言葉を聞いたジード達がキャビンブロックの方へ駆け出し、 
アンディ、リッキーがそれに続く。 
タカチマンも疲弊した体を引きずりながら、 
機関室の隅で、小さくなっているミナを抱きかかえ、機関室を後にする。
まるで映画のクライマックスを飾るBGMの如く、 
アンディとリッキーの演奏が始まった。 
そのリズムに合わせるように、メイ達の魔法が一斉に解き放たれた。
「猫丸、大丈夫?」 
「もう大丈夫、いけます!御嬢!」
タカチマン達が機関室から脱出するのを確認すると、 
リリィ、ライハ、バンガスが銃弾の雨を降らせる。 
その間にメイが魔力を増幅させ、猫丸、ダルメシアが左右に展開する。
「お返し…パンデモニウム!!
もはや遠慮はいらない。 
メイが放ったパンデモニウムの衝撃が辺り構わず破壊していく。 
直後に赤い回転灯が瞬き、空気漏れを示すアラームが鳴り響く。 
だが、既にSFES達は小桃のテレポートで機関室を脱出し、 
カーゴブロックのコンテナの陰に身を潜めていた。
執筆者…is-lies、Gawie様

「アイツ等まさか… 
 …考える事は同じだったって訳か… 
 くそッ…、こっちも脱出ポッドを使うしかないか… 
 だが、そうなると、外の野郎が厄介だな…」
SFESとて、自分達の身の安全には抜かりがない。 
当然「カーゴブロックに用意していた脱出ポッドが壊れている」 
というのは嘘であり、既に使用可能な状態に修復されていたのだ。
「ペンちゃん、外の野郎は?」 
「今、『御仕置き』をインストールするペン。 
 生意気なキメラに思い知らせてやるペン!」 
「よし、他に皆は大丈夫か?」 
セイフォートの力は伊達ではない。 
サリシェラとゼペートレイネは脇腹を抉られながらも、 
湧き上がる殺気を押し殺している。 
アズィムに至っては斬られた首を繋ぎながらケタケタと笑っている。 
だが、シストレイネの一撃を受けたクリルテースだけは様子がおかしい。 
小さな体を激しく痙攣させ、背に生えた翼も触れると砂のように崩れる。
「…お前等は先に脱出ポッドに乗って、爆破の準備をしとけ。 
 ペンちゃんは外の野郎を頼む。ツャアも待機してるはずだ。 
 俺はもう一度仕掛けるぜ。手ぶらじゃ帰れねェしな。 
 小桃嬢、アヤコさん、サポートよろしく」
タカチマン達の奇襲により、大きな打撃を受けながらも、 
陰から獲物を狙うようなシルシュレイの目は一層輝きを増す。
 執筆者…Gawie様

最大の危機を脱したタカチマン達は脱出ポッドを目指して進む。
だが、カーゴブロック内に漂う異様な殺気は未だ消えることはなく、 
逃がさぬとばかりに牙を剥く。 
先頭のジードがキャビンブロックの扉の目前に差し掛かった瞬間、 
激しい爆音と共に、カーゴブロック全体が炎に包まれた。
慌ててメイ達が防壁を張って皆を護っている間に、 
ジードがキャビンブロックへの扉を開放する。
長居は無用とばかりに扉の奥の通路へと雪崩れ込む。 
同時にジードが通信機を手にし、アルベルトに正確な位置を聞く。 
「っと、アルベルトとか言ったな? 
 今、空いてる脱出ポッドは、何処にドッキングしてある?」 
《船の進行方向から向かって右側、一番上だ》
2Fの右側。
「助かる」という思いを胸に階段を上がろうとした一同の足を、 
マシンガンの銃声が竦ませ、止める。 
「て…敵!?」 
狼狽えるバンガスを退け、抱きかかえたミナをリリィに預けてから、 
1歩、カーゴブロックに向かって前に出るタカチマン。
「……シルシュレイ…」 
「おんや?覚えててくれたんですかい? 
 そいつぁ光栄だねぇ」 
タカチマンに凶笑を浮かべているのは、 
まるで炎を吐き出そうとしている竜の口の如き、 
カーゴブロックの入り口を背にしたシルシュレイであった。 
あれ程の炎の中からやって来たというのに、 
其の体にも服にも焦げ跡1つ、付いてはいない。
「他の奴等はどうした?」 
「…まあ安心して下さいよ。 
 此処に居るのは俺だけっすから。 
 うるせぇ上司が居ましてね… 
 土産無しに帰る訳にもいかねぇんですよ」 
笑って見せながらギター型マシンガンの銃口を一同に向ける。 
どうやら強引にでもターゲットを連れて行こうというのだろう。 
タカチマンとミナには銃口を向けていない。 
いや、もっと良く見てみると、他にも狙われていない人物が何人か居る。
「(……時間を稼ぐ……逃げろ…)」 
タカチマンは小声でジョニー達に指示する。 
「せ…せやけど……」 
言い掛けたジョニーを押し退ける様にして前に出たのはダルメシアである。 
「タカチマン博士…相手は危険です。 
 私達も…彼に捕まえられました…… 
 …万が一、貴方が捕まっては…全てが無駄になってしまいます…」 
一度シルシュレイと戦ったダルメシアは、敵の危険性を既に認識していた。
『殺さずに捕らえる能力』
其れが一体何であるかは解らないが、 
タカチマンとシルシュレイを戦わせるのは危険だ。 
「此処は我々に任せて貰いましょうか…」 
ダルメシアに続き、猫丸を引き連れたメイ、 
そしてカフュ……詰まりはプロ達であった。 
今迄戦って来たアシュラやエネミー達とは、 
本格的に異なる気配を感じ取り、冷や汗を流してはいるが、 
眼の前の敵への恐怖よりも、仲間を逃がしたいという決意が上回っていた。
「…おい、ガキ共。 
 俺が用あるんは、後ろの博士なんだ。 
 お前等はとっとと脱出ポッドにでも乗ってろや」 
「ホザけ!!」 
疾風の勢いで迫り、武器を振るう猫丸&ダルメシアの一撃を 
シルシュレイがギターで防御したと同時に、 
其の場の全員が弾け飛ぶ様に動き出した。
先の機関室でアズィムの放った魔法弾により負傷した、 
セートやシストライテ等の怪我人を担ぎ、階段へと走るジード達。 
其の後を追うのは、心配そうな顔をメイに向けるリリィとリュージ。
「ちっ!逃がすかよぉ!!」 
カフュのナイフやメイの魔法を跳んで避け、 
虚空でギターのヘッドをリュージへと向けるシルシュレイ。 
リュージが危険を察知し、 
咄嗟に転がる様にして身を伏せたのと同時に、 
先程、リュージの立っていた辺りの床が粉砕された。 
銃弾が発射された訳ではない。いや、銃弾の破壊力等では決して無い。 
シルシュレイは其のまま、ヘッドを横薙ぎにし、 
リュージから後ろに居た全員を、先頭のジード達から遮断した。 
シルシュレイの放った衝撃は2Fに通じる階段までも崩壊させた。 
逃げ場を失い、振り返る一同―― 
ミナを庇っているリリィ、 
応戦していたリュージ、カフュ、メイ、ダルメシア、猫丸、 
そして、最後尾のタカチマン。 
向かいの迂回路にはシルシュレイが立ち塞がり、 
後の壁を攀じ登ろうものなら格好の的となるだろう。 
カフュ、メイは攻撃のタイミングを窺うが、 
シルシュレイも摺足で僅かな間合いの差を計る。 
だが、目の前の強敵に苦戦する一方で、タイムリミットは確実に迫っていた。
《レシルとかいう女! もう時間がないぞ! 
 現在の軌道で大気圏に突入するには進入角度が深すぎる! 
 このままでは、こちらのポッドも危険だ!》 
「あと、どのくらいもちますか?」 
《10分…いや、 
 定員を遥かにオーバーした脱出ポッドを安全な軌道に乗せるためには… 
 あと5分もない…》
リミットは5分。 
ジード達のいる場所からならまだ間に合う時間だ。 
ライハ、バンガス、ナオキングがその場に待機し、 
ジード達は退路の確認を急ぐ。
執筆者…Gawie様、is-lies

  101便・2F右側通路

 

間もなく、通路の前方に、一つだけ開かれた非常扉が見えた。 
扉の向こうでは、既に脱出ポッドに乗り込んでいるルキが 
手招きしながら大声で叫んでいる。 
だが、一同は脱出ポッドには乗り込むことなく、その場で足を止め、 
セートが通信機を手にとる。
「アルベルトさん、 
 5分たったら遠慮なく離脱して下さい」 
《……そのつもりだ…》 
「…頼みますよ」
セートの言葉に、ジード達も黙って肯く。 
しかし、それを嘲笑うように、 
一同の足元の床からペンギン太郎がぬっと顔をだした。 
「くくく…くぺぺぺ、 
 キミ達、調子に乗り過ぎだペン」
即座にレオンが斬りつけるが、ペンギン太郎は直に床に溶け込むと、 
今度は10メートル程離れた場所に再び顔を出す。 
「残念ながら、キミ達の望みの綱のアルベルトは、 
 ボクの操り人形だペン。 
 こんなカンジで……ポチっと」
ペンギン太郎が口から吐き出した携帯端末を操作した瞬間。 
アルベルトの断末魔の叫びが響いた。
「それと、もう一つ。 
 これはシストライテちゃんにプレゼントだペン」 
ペンギン太郎が更に大きく口を開き、 
前方の空間に黒い渦のようなモノを吐き出す。 
そこから現れたのは、首からドクドクと血を流すアズィムであった。
ク…ケ…ケッケッケ… 
 シ…システィィィ〜…
「確かに首を落としたはず… 
 …信じられないバケモノですね」
セートの言うように、斬られた首は再生した訳ではなかった。 
ペンギンの口から這い出たアズィムが立ち上がったかと思うと、 
突然その首がごろりと床に落ち、シストライテの足元に転がる。 
もはや人間ではない。生物であるかどうかも解らない。
「…アズィム… 
 いや、アンタはもう、アズィムじゃない!」
シストライテが足元に転がるアズィムの首をサッカーボールのように蹴りつける。 
ところが、動けるはずのないアズィムの首は突然宙に浮かび、シストライテの蹴りをかわす。 
同時に、これまた動けるはずのないアズィムの胴体が、掌から魔法弾を連射しながら一同に迫る。 
構える一同に対し、 首と胴体がそれぞれ独立して波状攻撃を仕掛けるアズィム。 
だが、不死身であるかのようなその姿は脅威であるものの、 
機関室で戦った時と比べると、その動きは単調である。 
魔法弾を交わしつつ、セートとレオンが左右から素早く間合いを詰め、 
そのまま、すり抜け様にアズィムの両腕を切り落とす。 
同時に、レシルが火炎魔法を放ち、 
首と両腕を失いながらも尚も迫るアズィムの胴体を焼き払う。 
更に、浮遊しながら口から炎を吐くアズィムの頭部を、 
シストライテの拳が捉える。
「くぺぺ、 
 もう少し驚くかと思ったのに… 
 …まぁいいペン。 
 ツャア! 今のうちにアルベルトを攻撃ペン!」
「くそッ、アルベルト! 
 何が起こってる!? 応答しろ!」 
ジードが必死に呼びかけるも、 
アルベルトは苦しそうな叫び声を上げるのみで、応答はない。 
SFESに操られる人形であったも、一同にとっては最後の望みである。 
ここまで来て、アルベルトを失うわけにはいかない。 
セートとレオンが剣を構え、ペンギン太郎に迫る。
「まだ、分かってないようだペンね。 
 ボクに剣なんて…」 
余裕のペンギン太郎に、レオンが剣を振り抜くが、 
まるで空気を斬ったように、剣はすり抜ける。 
「効かないペン」 
更にセートが下段に構えた剣で斬り上げるが、 
やはり、手応えもなく剣はペンギン太郎の胴体をすり抜ける。 
しかし、透過能力を過信していたのはペンギン太郎であった。 
すり抜けるセートの剣は、ペンギン太郎が握っていた携帯端末を真っ二つにする。 
「くぺェ! 
  し、しまった〜!!」 
透かさず、シストライテが拳を構えて駆け出す。 
「ヤバいペン」 
向かってくるシストライテを見るや否や、 
ペンギン太郎は床に溶け込み、あっさりと退散してしまった。 
だが、アルベルトを苦しめていた原因が 
ペンギン太郎の操作する携帯端末にあったとすれば、 
これでアルベルトは解放されたはずである。
「アルベルト! 無事か!?」 
《あ…あぁ、気にするな… 
 それよりも……》
体の細胞の一つ一つが鞭で打たれるような苦しみから解放されたアルベルトに、 
更に危機が迫っていた。 
アルベルトの音声が乱れるのと同時に聞こえる衝撃音― 
船外から攻撃である。 
非常扉の方を振り返ると、乗客達が心配そうにジード達を見ている。 
言葉もなく、セートとレオンはタカチマン達の救援に向かうべく、 
崩れた通路を迂回し、左舷側の階段を目指して走り出す。 
結局、脱出ポッドに乗り込んだ者は一人もなく、 
全員がセート達に続いた。
「やれやれ、馬鹿ばっかりだぜ… 
 アルベルト、待たせて悪かったな。 
 …先に行ってくれ…」 
《…了解した。一時離脱する》
執筆者…Gawie様

  宇宙空間

 

やむを得ず、アルベルトは101便を離脱する。 
だが、定員オーバーの脱出ポッドを牽引するため、 
アルベルトの機体は本来の機動性を発揮することは出来ない。 
スラスタ―を前方に回転させ、自らの機体を盾して進むアルベルトに、 
赤い先行者に跨ったツャアが容赦なく迫る。
《見せてもらおうか。セレクタの新兵器の性能とやらを!》 
背後のブーストを全開にし、 
擦れ違う瞬間、中華ブレードでエニルオークへ斬り付ける。 
装甲に軽い切り傷を付けられてしまうが、 
其の程度でどうこうなる程、ヤワな兵器ではない。 
だが、脱出ポッドを引き摺って本来の機動力を生かせないまま、 
先行者にスピードで翻弄される。
「………先行者…か……」 
SFESの施設を脱走する前にアルベルトは、 
中華人民共和国からSFESが兵器を奪ったという話を聞いていた。 
となると注意すべきはブレードやドリルの攻撃よりも……
相手の防御力が其れなりにあると見た先行者が、 
急に蟹股になって凄まじいスピードで脚を動かし始める。 
そう、中華キャノンである。 
試作機エニルオークで何処まで耐えられるかは解らないが、 
恐らく無事では済まないだろう。
《ふっ、そんな錘を付けていては満足に動けんか? 
 難なら楽にしてやっても良いぞ?》 
大宇宙のエネルギーをチャージし終えた先行者が、 
エニルオークに中華キャノンを放つと同時に、 
牽引されている脱出ポッドに接近しようとする。 
「…ちっ!」 
中華キャノンを避けてしまっては、 
エニルオークに牽引されている脱出ポッドを、ツャアの攻撃に晒してしまう可能性もある。 
(ならば…)
ブーストを全開にして中華キャノンへと自ら突っ込むエニルオーク。 
《むっ?》 
流石のツャアも相手の行動に呆気に取られる。 
中華キャノンを放ったまま前進を続けていた先行者が、 
エニルオークの鉄拳を掠って吹き飛ぶ。
《……やるな…だが、 
 そんな愚民共を救うが為、手傷を負うとは愚かな事だ…》 
体勢を整えなおした先行者に跨ったツャアが言う様、 
中華キャノンを受けたエニルオークは、 
其の装甲の所々が消し飛んでしまっている。 
対するツャア専用先行者も、 
先程の攻撃で右腕が無くなり、肩のフレームが歪んでいる。
《併し…中々……甘くは見れんな… 
 ふふ……では、これならどうだ?》 
突如、先行者のバックパックが開き、 
中から、凧に小型エアスラスターを取り付けた様な、 
珍妙な物体が4つ程出て来て先行者の上下左右に展開する。 
しかも、この凧…赤い先行者の絵が描かれていた。 
『中華ファンネル宇宙仕様』!! 
 どうだ?どれが本物か解るまい…… 
 偽者を攻撃した瞬間、私が一突きで殺してやろう…》 
真ん中の先行者が中華ブレードを構え、 
ファンネル(有線式)と共にエニルオークへと迫る! 
だが、そんなもので騙されるアルベルトではない。 
エニルオークの正拳突きが、真ん中の先行者を正確に捉える。 
《ば…馬鹿なァ!?くっ…このままでは済まさん!!》 
ズタボロになった先行者と共に吹き飛ばされながらも、ツャアはコントローラーを操り、
ファンネル全てのスラスター部から、エニルオークに向けてビームを発射させる。 
胴体やスラスター部に被弾するが、そんなに大きな害はなさそうだ。 
少なくとも今のところは。
そのまま何処かへと飛んで行くツャアを無視し、 
エニルオークは火星へと向かう。
執筆者…Gawie様、is-lies

  101便・キャビンブロック

 

既にキャビンブロックは元の形を留めていなかった。 
4つあった客室の内、左・右・下の3室は、 
其々の客室との区切りを殆ど破壊され、逆凸形の大ホールを形成していた。 
一体、どんな攻撃をすれば、此処まで破壊出来るのだろうか。
ホールの中、既に片膝を突き、肩で息をしているカフュ、メイ、2体の精霊神。 
尚も闘志を失わず、ナイフを構えるカフュだが、 
巧く立ち上がれないばかりか、ナイフを床へと落としてします。 
どんな攻撃を受けたのかすら、彼等には解らない。 
シルシュレイと戦っている間に、何故かこうなっていた。 
これこそが敵の持つ『殺さずに捕らえる能力』なのだろう。 
非戦闘員のミナやバンガス達に至っては既に気を失ってる。 
今、満足に動けるのは、気絶したミナを抱えたリリィだけである。 
シルシュレイの持つ能力はリリィには効かないのだろうか? 
兎も角、今頼りになるのはリリィだけであった。
「アンドロイドの嬢ちゃんよ、 
 いい加減に本田ミナを渡してくれよ? 
 このままじゃ、他の連中も彼女も助からんぜ?」 
応えようとしないリリィに、シルシュレイが再びギターを構える。 
リリィはその銃口から逃れながらも、頻りに誰もいない客席の方を警戒している。 
と、その時。
Mother fucker!!!
突然、大音量で響くアンディ&リッキーの演奏と共に、 
反対側の通路から回り込んできたセート達がキャビンブロックに雪崩れ込んで来た。 
挟み撃ちにされるシルシュレイだったが、その顔に焦りの表情はなく、 
取り囲む一同を見渡しながら、ニヤリと歪む口元に犬歯を覗かせる。
「下品な曲だぜ… 
 子供の教育にはよくねェな」 
シルシュレイはギターのヘッドから銃弾をばら撒き、一同を牽制しながらも、 
さりげなく、邪魔な音を発しているスピーカーを正確に撃ち抜いている。 
シルシュレイの正体不明の攻撃に苦戦していたタカチマン達も、 
その不自然な銃撃は見逃さなかった。
「…やはりな。 
 あからさまにアンディ達の雑音を嫌っている…」 
敵の能力の正体が『音』にあると仮定すれば、 
今まで、自分達の言動が盗聴されていたということも肯ける。 
そして、気付けば攻撃を受けているという正体不明の攻撃―― 
銃撃によるものだけではなく、明らかに別の方角からも攻撃を受けている。 
気付いた時にはもうダメージを受けているのだが、 
これは相手がいかに素早く行動出来たとしても説明の付くものではない。
…音による何かだとすれば…
シルシュレイの音を警戒するタカチマンだったが、 
推測が結論に至るだけの時間は与えてはもらえない。 
シルシュレイが再びギターをかき鳴らした瞬間、 
向かい側にいるセート達もやはり正体不明の攻撃に翻弄される。
しかし次の瞬間、唯一人攻撃を回避したリリィが反撃に転じる。 
狙いはシルシュレイではなく、その左右、 
誰もいない客席に向かってリリィがショットガンを放つ。
これほど近くで、前後から包囲していながらも、 
何故気付く事が出来なかったのか――? 
リリィの攻撃により、客席の陰から姿を現したのは、 
アヤコと小桃だった。
「おっと、トリックに気付いたみてェだな。 
 ってか、嬢ちゃんの場合は感覚じゃなくてセンサーだから、 
 最初から効いてなかったってとこか」 
正体がバレて諦めたのか、 
シルシュレイ達はカーゴブロックの方に退避し始める。 
それを追い詰めるセート達だったが、その時、 
カーゴブロック側の壁を吹き飛ばす激しい爆発が起こり、 
爆炎が周囲にいた全員を飲み込んだ。 
思わず立ち止まるセート達を尻目に、アヤコと小桃は躊躇することなく、 
爆炎の中に飛び込んでいく。 
壁を破壊し、爆炎の中から現れたのは、 
数人乗りの小型のクルーザー、SFESの脱出ポッドだ。
「残念だけど〜時間切れ〜!」 
脱出ポッドの中から身を乗り出して叫んでいるのはゼペートレイネ。 
その後に、倒したはずのアズィムの姿も見える。 
爆炎の向こう側は崩壊寸前のカーゴブロック。 
逃げることしかできないメイ達に、更に大きな爆発が襲い、 
最後尾にいたタカチマンと、気を失っているミナが巻き込まれてしまう。 
リリィも後を追って爆炎に飛び込むが、 
ミナを掴もうと手を伸ばした瞬間、目の前を何者かがすり抜けていく。 
炎の中、ミナを抱きかかえて脱出ポッドに乗り込むシルシュレイだった。
脱出ポッドは逆噴射で離脱を始める。 
尚も食下がるリリィを、ポッドから身を乗り出すゼペートレイネが阻む。 
しかし、ゼペートレイネとリリィは互いには目もくれず、 
リリィは連れ去られたミナに、 
ゼペートレイネは逃げ遅れたタカチマンに手を伸ばす。
「タカっち!!」 
しかし、ゼペートレイネがタカチマンの腕を掴んだのも束の間、 
タカチマンは最後に力でその手を振り解いた。
ア、アンタは…またそうやってェ…!!
タカチマンとリリィを残し、 
SFESの脱出ポッドは崩壊するカーゴブロックの爆炎の中に消えていく。

 

「博士、大丈夫ですか?」 
駆け寄るセート達に向かって、 
よろよろと起き上がるタカチマン。 
どうやら命に別状は無さそうだが、 
流石に爆炎に巻き込まれたのは痛手だったらしい。
「私は…大丈夫だ……其れよりも…」 
そう。SFESが脱出した穴から空気が漏れているのだ。直ぐに隔壁が閉鎖されるだろう。 
其の前に、空気漏れを免れる機長室側まで避難しなくてはならない。 
尤も、この航宙機内で安全な場所など、もう何処にも無いのだが… 
ミナを連れ去られたショックからか項垂れるリリィと、 
特に深手を負ったタカチマンを担ぎ、一向は急いで機長室側へと向かう。 
猫丸&ダルメシアが魔力を全て使って、 
空気漏れを防ぐシールドを張ってくれてはいるが 
そう長くは持たないだろう。 
一心で機長室へと走る中、彼等はこんな事を考えていた。

 

タカチマン… 
「(……結局…巻き込んで殺してしまうか…… 
  駄目だ………殺させはしない………どんな手を使ってでも…)
隣でオロオロしながらも、生きる意志を捨てていない助手ナオキング。 
彼等にとって全ての発端であり、其の事に今も尚苛まれているであろうジョニー。 
相変わらず不幸だが今も生きているという事は悪運は強いのであろうリュージ、 
そしてこの状況でも切羽詰った感じのしないバイトのリエ。 
航宙機の操作で疲労困憊したのか足の縺れているジード。 
巻き込んでしまった全て。 
決して、死なせはしない。
敷往路メイ… 
「(おじい様……仇は討てませんでしたけど… 
  …今度は…護れましたよ……SFESの魔手から人を…)」 
従者たる精霊神達も、結界を維持しながら同じ事を考えていた。 
彼等に担がれる形のキムラ… 
彼は暗殺者として死を覚悟していたものの、 
こんな形で死を迎えようとするとは思っていなかった。 
だが、似合わなくも無いと苦笑する。
シストライテ… 
「(アズィム…さっき殺したのは偽者だったみたいね… 
  アタシ…もうアンタを殺せそうにないけど…… 
  …きっと……セレクタが………)」 
相棒たるレシルも同じ事を考えている。 
彼女達が入っている組織を考えれば、 
思考が似通っているというのも無理はないのだろうが…
セート… 
「(悔いはしない。エーガ様でもこうしていた。 
  最後に貴方の許へ戻れそうも無い私… 
  そして仲間を巻き込んだ私を御許し下さい…)」 
併し、機長室に待機したルキとバクヤは逃がす事が出来た。 
ケイム、ライハ、レオン、ミレン… 
即ち便内に残り、死を待つ身の彼等も、其れは安心していた。
アンディ… 
「(死ぬ前にド派手な舞台で演れたのは良かったがよ、 
  やっぱ此処と決めた火星で演れねぇと死んでも死にきれねぇ) 
 をぉお!!空気漏れの上にミサイルで撃沈されようとしている航宙機内! 
 最後の演奏だ、演るぞリッキー!!」 
本来なら制止に向かいそうなリッキーも、 
今回は素直にアンディに頷く。 
最期だけでも華々しくキめたいものだ。
ユーキン… 
うぬぉぉおおお!!死んでたまるくわぁあああ!! 
  今こそメイさんにカッコ良いトコ見せるのだぁ!! 
  そして捲る捲るハチミツの如き甘いムードっはーッ!!
そして彼の弛んだ表情から、 
どーせメイさん関連の妄想だろうと溜息を吐くバンガス、 
マネするおトメさん。
リリィ… 
「…………御嬢様……」 
レオン達に支えられながら、ヨタヨタと歩くリリィ。
「だぁ、ウジウジしてんなよ! 
 良いか、悔しかったらSFESからミナを取り戻せば良いだろうが! 
 大丈夫だ、死んじゃいねぇって!だから生き残れ!走れ!」 
未だショック冷め遣らずの彼女に、獣人カフュが叫ぶ。 
このまま歩いては隔壁に辿り着けるかどうかも怪しい。 
其の効果があったのか僅かにリリィが足を速めた。
結果、一行は無事に機長室側の隔壁に辿り着く事が出来た。 
とは言え、先にアンディの叫んだ様、 
この101便にミサイルが発射された上、レーザー攻撃すら始まろうとしている。 
結局は助からないのだ。 
タカチマン達は機長室へ着くまで、ずっと助かる方法を考えていたが、 
終ぞ、其れは見付からなかった。 
死に行く一同が互い互いの顔を見合わせた其の時、 
…既に彼は、皆の中に居た。
謎の能力者…ゼロである。 
無論、使い魔であろう黒い子竜も一緒だ。
「貴方達は良くやりました… 
 後は私に任せて下さい」 
警戒するタカチマン達に向かい、優しい声で言うゼロ。 
だが……
「ちょっと待てよ……お前…何者なんだよ?」 
それぞれに思惑があったものの、 
別に、正義のためだとか、誰かのため戦った訳ではない。 
強いて言えば、本能―― 
死にたくないから、死んで欲しくないから、 
何より、訳の解らない相手に自分の運命を弄ばれるのが許せなかったからだ。 
無論、お世辞にも最良の選択であったとは言い難い。 
結局は、SFESの圧倒的な力の前に翻弄されたに過ぎなかったのだ。 
そんな一同に対して、何が「良くやった」のであろうか? 
まるで最初からこうなる事を予想していたかのようなゼロの口振りに、 
一同の間に沸々と怒りが湧き上がってくる。
(この男もSFESなのではないのか? 
  ならば、せめて最後に一太刀でも……)
一同に冷たい視線を突き刺され、 
さすがのゼロも言葉を誤ったとばかりに苦笑いを浮かべる。 
「そ、そんな目で見ないで下さいよ。 
 まだ完全に諦めた訳ではないのでしょう? 
 私だってこんなところで死ぬつもりはありません」 
確かに、今更こんなところで一戦交えたところで、 
何もならないことは全員が解っている。 
「で? 何かアイデアでもあるってのか? 
 あ…、そう言えばお前…まさか…」 
「そう言う事です。 
 私はこれから火星にテレポートしますので、皆さんもご一緒にどうかと思いまして… 
 勿論、見返りをどうとか言うつもりはありません。 
 私はただ、善意と言うか、気紛れみたいなものですから、 
 皆さんは皆さんで私を利用すれば良いだけの事なのですよ」
演技は下手だが、それ故に嘘でなさそうだ。 
暫し訝しげに視線をゼロに集中させる一同だったが、 
現状における選択肢は―― 
カーゴブロックの誘爆により全滅
大気圏突入時の摩擦熱により全滅
ミサイル、SOLの攻撃により全滅
むしろ選択肢など残ってはいない。
「…解ったよ。ヨロシク任せるぜ」 
もはやダメ元だと、一同はゼロの申し出を受け入れる。 
しかし、彼等は生命体を瞬間移動させるという現象の危険性を知らなかった。
「さて… 
 とは言ったものの…」 
ゼロは難しい表情で、人差指で一人ずつ人数を数えながら呟く。 
「…一度にこの人数は…」 
「出来るんだろ?さっさとやってくれよ」 
「そうは言いましても、 
 ときに魔法と称させるエーテル能力も、 
 御伽噺のように都合のいいものではないんですよ」 
「けッ、よく言うぜ…」 
「何か?」 
「なんでもねぇよ」 
「いいですか? 
 現在、この船は第2宇宙速度に及ぶ速さで火星に墜落しつつあります。 
 そして火星自体もかなりのスピードで自転しています。 
 何も考えずにテレポートすると、どうなるか想像できますよね?」 
「なるほど… 
 それがテレポーターが希少である理由の一つか」 
「そういう事です。 
 斯く言う私も、修行中はよく天井に頭をぶつけたり、 
 壁の中に入ってしまったものですよ。 
 ともかく、
 転移先との相対速度の軸合わせ、転移先の環境の把握、 
 これが非常に神経を使うのです。 
 更に、これがまた重要なのですが、 
 自分以外の他人をテレポートさせる際には、相手の持っているイメージが関係してきます。 
 テレポートする互いの意思の波長を合わせる必要があるということですね。 
 ある程度ならこちらで強制もできますが、 
 はっきりと抵抗する意思があるとテレポートは上手くいきません。 
 中途半端に失敗した場合は更に悲惨な結果になるでしょう」 
甘く見ていた… 
ゼロの説明を聞くほどに妙な緊張感に襲われる。 
ましてや、テレポートなど体験したことのない一同にとっては、 
それは絶叫マシンなどの比ではない。
「ちょっと待て! 
 波長を合わせるって!?」 
「そうですね… 
 アテネ宙港がいいでしょう。私も知ってますし。 
 皆さんで強くイメージして下さい」 
「ボクは火星自体始めてで、 
 アテネ宙港なんて知らないんだけど…」 
「出来ない方は何も考えないで下さい。 
 ただし、間違っても、この船に未練を残すような事は考えないように」
迷っている暇はない。 
ゼロにそうしろと言われた訳でもなく、 
自然に一同は互いの手を取り、目を閉じる。
「では、いきますよ…!」
執筆者…is-lies、Gawie様

ヴンッ― 
音として表すのならそういう感じの、空気の震動が辺りに広がる。 
一瞬の間を置き、いきなり何も無い空間から十数人もの人が出現する。
「どうやら・・成功のようだな。」 
トスッという音の後一拍置いて、タカチマンが呟く。
・・・・へぶっ!!?
・・・その後ろで、『どしゃ』というマヌケな効果音とともに、ユーキンが地面にうつ伏せに倒れる。 
「だ、大丈夫ですか?御頭・・・」 
「つい〜ん?」 
その周りでバンガスとおトメさんが心配そうな声をあげるも、
ユーキンはピクリとも動かない。どうやら気絶したようだ。
「ぅぅ、気分が悪い・・・」 
「ワープ酔いでっか?」 
「あるのか、そんなモン・・・」 
タカチマンの横でその弟子ナオキが低いトーンで呟き、ジョニー、カフュがそれぞれ言う。
「どうやら、皆さん居るようですね。」 
タカチマンは声の主・・セートのほうをチラリと一瞥すると、「ああ。」と短く答える。 
「でも、ゼロさんは・・居ませんね。」 
継いだのはメイ。キョロキョロと辺りを見回しながらタカチマン達のほうへ近づいてくる。 
「そういえば・・そうですね。」 
「私達をここまで飛ばして自分だけ失敗するということは無いだろう。 
 おそらくは無事だろう。」
と、そこにさらに新たな声がかかる。 
「ともかく、助かった。・・・んだよな?」 
言ったのはジード。 
タカチマンはそちらを見もせずそれに答えた。
「・・・・・ああ。ひとまずはな。」 
安堵の溜息と共に。

 

 

ストンッ― 
軽い靴音と共に、地面に降り立ったのは、ゼロとその使い魔・グレイ。 
「・・・なんでわざわざ違う場所に転移したの?」 
ここは火星宙港の側にある空き地。 
ゼロは一緒に転移せず、全員を宙港の屋上へ送った後、自分だけこの場所に来たのだった。 
「一緒に転移すると色々聞かれそうですしね。」 
「それでわざわざ二回も転移したの?」 
「まぁ・・そういうコトですね。 
 それより、地球は色々大変なようですね。」 
「ん・・・破滅するかも知れない。って。」 
「そう・・ですか。」
「・・・・行く、の?」  
「ええ。ですがすぐは無理ですね。また、明日です。」 
それだけ言うと、市街地のほうへ向けて歩き始めた。
執筆者…you様

見上げれば、空が見える… 
地球のように眩しく、抜けるような青空とはいかないが、 
代りに、朧に霞む二つの月が一同の緊張を解きほぐしてくれる。
地面を踏みしめる感触も、 
振動と人工の重力に晒された航宙機の中とは明らかに異なり、 
大地の上に立っているのだという事を実感できる。
…無事に火星に降り立つことが出来た… 
散々な目に遭い、未だ多くの問題を抱えてはいるのだが、 
不思議と心は落ち着いていた。 
全てを忘れてしまいそうな奇妙な余韻が一同を包む。
しかし、これで終わった訳ではない。 
不意にライハの携帯電話が鳴り響き、 
一同を現実に引き戻す。
「はい、加藤です。 
 もしもし? 
 あ、ルキ? カイト達も一緒? 
 …何それ!? どういう事!? 
 ……OK。分かった」
先に脱出していたルキ達からの連絡であった。 
タカチマン達より数分前にアテネ宙港に到着し、 
今は宙港のロビーにいるということだった。 
タカチマン達が、今いる宙港の屋上から下を眺めると、 
煙を噴いている脱出ポッドと、その周りに救助隊の姿が見える。 
負傷していた佐竹の事も気掛かりだったが、 
それに加え、ルキ達からの連絡によると、 
どうやら良くない事態が起こっているようだ。
一同は直にロビーに向い、 
なるべく人目に付かないようにルキ達と合流する。 
しかし、そこで信じられないものが一同の目に飛び込んできた。 
ロビーの数箇所に設置された大型ディスプレイに映し出されているのは、 
地球で起こっている破滅現象に関するニュース。 
移民計画と、それに伴うN53アネクメーネ開拓。 
そして一同が驚かされたのは、 
テロップで流れる101便シャトルジャックの速報だった。 
その内容とは…
 テロによる死亡者は126名 
 特殊部隊の作戦により生存者を救出 
 その後、連盟艦隊のミサイル攻撃により101便を撃墜 
 首謀者BIN☆らでぃん及びテロリスト全員の死亡を確認
更に、ルキ達の話によると、 
アルベルトとは途中で通信が途絶え、行方は分からず、 
脱出ポッドに乗っていた乗客は、佐竹等負傷者を含め、 
全員が病院に運ばれ、自分達は隙を見て逃げてきたとの事だった。
「どういうことだ…?」 
「SFESは予め手を打っていたのだろう。 
 下手に名乗り出るのも危険だな」 
「で、どうする? これから」
どうする?とは言ったものの、 
これから先は全員が行動を共にする訳ではないということは分かっている。
執筆者…Gawie様
別れの言葉はなかなか切り出せないでいる中、最初に口を切ったのはセートだった。 
「…私達はこれで。 
 結局、素性は話せないままでしたが…」 
「気にすんなって。 
 …まぁ、世話になったな」 
言葉少なに別れを告げ、セート達は去っていった。 

 

「…さぁて、どうする?マジで」 
「詳しい事は聞いていませんが、私達は盗賊ですから、 
 態々火星まで来たからには、きっと『スゲーお宝』なんでしょう。 
 まずはエーガ様に連絡を。その後は予定通りクノッソスに渡ります」 
「お腹すいた〜」 
「…では、その前に食事にしますか、私がおごりますよ」

 

何か言いたげにセート達を見送るレシルとシストライテも、 
一同に別れを告げると、二人で何かを話しながら人ごみの中に消えていった。 
「アイツ等、エーガの部下だとか言ってたけど、どうする?」 
「そうですね。エーガから私達の事を聞いてるみたいですけど…」 
「それよ。怪しいわ」 
「…今は待ちましょう。 
 どの道、決めるのはユニバースの仕事ですし」 
「そういえば…、次の集会はクノッソスだっけ?」 
「そうですよ。それが何か?」 
「あ、あの……」 
「貴女とアズィムとかいう彼氏のことですか? 
 …秘密にしておいてあげますよ」 
「いや、そんなんじゃないんだけど…」

 

一方、ちゃっかりと密航に成功したアンディとリッキーであったが、 
彼等の目的はタカチマン達とは異なり、戦いに直結するようなものではない。 
火星に来たのは、自分達の音楽で成功するという夢があったからだ。 
ここで戦いに巻き込んでしまう訳にはいかないだろう。 
「お前ら、アテはあるのか?」 
「あるわけねェだろ、そんなもん。 
 だがよ、自由ってのはそうゆうもんさ」 
「それじゃ、お世話になったッス」 
「おう、次に会う時はパルテノンのステージだな」 
一同の心配も余所に二人は揚々と歩き出した。

 

そして、今回の事件の一番の当事者であるタカチマンであったが、 
当初の目的は、リュージやジード達を連れて自分の研究所に戻る事である。 
しかし、SFESに狙われ、スポンサーである細川小桃もSFESの関係者であることが判った今、 
ノコノコとスパルタの研究所に戻るのは自殺行為に他ならない。 
「研究所には戻らねばならんが…どうしたものか」 
「そういう時は、プロや俺達を使えばいいのさ。 
 な? メイちゃん」 
「そうですね。 
 しかし、申し訳ありませんが私達は他に依頼がありますので」 
「そっか、まぁ、ギルドには話を通しておくぜ」 
「腕の方はいいのか?キムラ」 
「骨折くらい、珍しくねェよ。 
 それより、ユーキンの腕はどうすんだ?」 
「ボクも平気…かな? 痛くないし」 
「アカンって二人とも、 
 一回まともな治療を受けた方がええ。全員休息も必要やしな」 
「と言っても、この辺りの病院はほとんどがリゼルハンクの系列だ。 
 ヤバイと思うぜ。間違いなく」
「まずはアテネのスラム街にでも潜伏して様子を窺うしかないな。
 リゼルハンクの目と鼻の先だが、それだけに情報にも事欠かない。
 逆に身を隠すにも最適なところだ」
「…問題はミナちゃんのことだが、
 リリィはどうするつもりだ?」 
「はい、第一目標は御嬢様の救出。 
 第二目標は依頼主である佐竹様の救出。 
 そして、破滅現象に関する情報を得るため情報屋ガウィーとの接触。 
 まずは情報収集のため、皆様に同行させて頂きます」 
「ちょっと待て、ガウィーって…?」 
「詳細は分かりません。ご存知なら助かりますが」 
「いや、俺も直接会ったことはないんだが」 
「俺会った事ならあるぜ。 
 メイちゃんやユーキンも名古屋大戦で一緒に戦ったしな」 
「ボクは2年前に仕事で組んだ事あるし。 
 アイツの行きそうな所なら大体分かるような…」 
「なるほど… 
 こいつはひょっとすると…」 
「アテがあるのか?」
「どうかな、知り合いだからと言っても、
 闇雲に探したんじゃまず見つからない、逆に逃げられる。
 カタギじゃない奴等に上手く接触するにはそれなりの流儀があるのさ」
「決まったな、 
 2,3週間休養を取りながらアテネに潜伏し、 
 プロや暗殺者のギルドにも掛合いながら、情報収集だな」

 

別々の道を歩いてきた者が偶然乗り合わせ、 
運悪く遭遇してしまった101便シャトルジャック、そして謎の敵SFES。 
成行き任せで共に闘った戦友も、 
今また、それぞれの想いを胸にアテネの街へと散っていく。 
しかし、地球崩壊の危機に、各国の思惑、そしてその裏に付き纏うSFESの影に、 
再会を予感させる運命じみた何かを感じずにはいられなかった。

 

101便イベント・完
執筆者…Gawie様
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