リレー小説2
<Rel2.101便・タカチマン11>

 

  101便・スクウェアブロック【ジード・キムラ・ケイム・ アンディ・リッキー・
                     ナオキング・カフュ・ジョニー・バンガス・ 
                     おトメさん・リエ・タカチマン・メイ・ミナ・リリィ・ライハ】
「うぅ…店長、無事でいて下さい〜… 
 今月のお給料だってまだなんですよぉ……」 
涙目のリエが漏らした一言に、気付かない振りをする一同。 
又、捕虜となった親分ユーキンの事を心配しているバンガスが、 
一緒に連れて来た狐状態のおトメさん。 
戦闘能力のバランスが取れているとは言い難いが、 
其の秘めた力は十分、切り札になり得るものだ。 
実際に、おトメさんは暴走でアズィム、アヤコの両名を退けている。 
とはいえ、暴走では此方も攻撃される恐れがあるが、 
バンガス、其処は抜かりなく、 
おトメさんの暴走を鎮められるアイテムである所の油揚げを 
しっかりとバッグに忍ばせていた。
一方、タカチマンは、瓦礫に埋没した食堂を見遣り、 
ふとした疑問を思い出す。
何故、SFESは此方の作戦が筒抜けだった?
直ぐに思い当たったのは盗聴器等の類である。 
早速、小声で皆に盗聴器の可能性を知らせるタカチマン。 
ひそひそとした小声が完全に無くなり、辺りが緊張に包まれる。 
盗聴器が周囲に仕掛けられていたとしたら、 
今の自分達の行動もしっかりと読まれているという事になる。 
そうすれば、連中はどう動く? 
十中八九、先程と同じ様、無力な乗客を襲って人質にする。 
だが、防戦だけでは向こうのペースに嵌められるだけだ。 
早々にSFESの持つ脱出手段を確保すべきだろう。
後ろでイラついた表情でブツブツ何か呟いているのはアンディである。 
先程のクリルテースに眠らされ、碌に暴れられなかったのが不快なのだろう。 
「………なぁ……もう後戻りは出来ねぇんだろ?」 
床を見つめながら、アンディは隣のジードに尋ねる。 
其の目付きはヤクの切れた中毒者(もしくは飢狼)の其れであった。 
「そ…そうだが……どうかしたか?」 
流石に危ねぇ奴と思って一歩、距離を取るジード。 
「…ムカつく!本番の夜もボリューム下げて演って、 
 いざバトルと思ったら何か良く解かんねぇけど眠っちまって、 
 そしてあっという間に決戦かよ!? オレは歌い足りねぇぞ!!」 
どう答えたものかと頭を掻くジードだが… 
「…待てよ…………よし……演ってみろ」
ジードの言葉を受け、リッキーが腰に提げた携帯アンプのスイッチを入れ、 
そこに手製の通信機を近付けた。 
キィィィィィィンというハウリング音が船内に響き渡り、 
全員が思わず耳を塞いだ。
「これだ…」 
ジードがリッキーの携帯アンプに通信機を繋ぎ合せ、 
中継機となる自分のパソコンでその音を調整する。
「いや、ちょっと待て」 
ジードの閃きを察したタカチマンは、 
ポケットを探りながら懐からペンと冊子を取り出した。 
タカチマンはその冊子『タカチ魔導研究資料』の1ページを破り、 
その裏面に何かを書いて全員に回した。
一人ずつタカチマンのメモ書きに目を通す。 
動揺する者、首を傾げる者、苦笑する者、反応はそれぞれだったが、 
首を横に振る者はなく、全員が肯くと、 
その視線が一斉にアンディとリッキーに向けられた。 
それに応えるように、アンディは肩を震わせながら、ニヤリと微笑を浮かべ、 
リッキーも親指を上に向け、拳をグッとを突き出す。
「じゃ、いくぜェ…!」
決戦の赴く戦士達のマーチ…というには不釣合いな曲ではある。 
リッキーのギターとアンディのシャウトが大音量で響く中、 
一行は間もなく、キャビンブロックの前に差掛った。
声を張り上げながら揚々と先頭を進むアンディが、 
勢いよくキャビンブロックの扉を開いた。
「アァァ〜ィ!!!ウォォ〜う!? う!ぐはッ!!
キャビンブロックを少し進んだところで、強烈な異臭が漂ってきた。 
もろに異臭を吸い込んだアンディが思わず噎せ返るが、 
負けじと鼻を摘み、尚も歌い続ける。 
臭いの元は、放置したまま忘れていたゴレティウの体臭だ。 
その臭いは既に空気清浄機の処理能力を越え、辺りに充満していた。 
おまけに、左舷客室のシートにBIN☆らでぃんと共に縛り付けていたはずが、 
何故か二人とも両腕と片足を縛られたまま、客室内をうろついている。 
ふと、タカチマン達に気付いた二人が二人三脚で近付いてきた。
「臭いの成分の8割はアンモニアですが、これは異常です」 
「やはり…さっさと宇宙空間に廃棄するべきだったな…」
平気でいられるのは狼状態カフュ、狐状態おトメさん、アンドロイドリリィくらいである。 
堪らずタカチマンが威嚇射撃を放ち二人が転倒する。 
一緒に縛られているBIN☆らでぃんが、 
口をパクパクさせ、涙目になって何かを訴えているが、 
アンディ達の騒音で全く聞こえない。むしろ聞いている暇はない。 
一行は息を止めたまま、二人にはなるべく目を合わさないように、 
足早にキャビンブロックを走り抜けた。
執筆者…is-lies、Gawie様

  101便・機関室

 

機内に響き渡るアンディのシャウトとリッキーのギターに眉を顰めるSFESの一同。 
囚われの身であるレシル達も、何が起こっているのかさっぱりの様だ。 
「な…何だこりゃ!?」 
セートの頭を切り開いて其の脳を食そうと、彼の頭に手を掛けようとしたアズィムは、 
今も尚、101便内の情報を収集しているであろうシルシュレイに尋ねる。 
「……面白ぇ。船内同時に大音量での放送か… 
 こりゃ聞こえねぇわ……巧く隠れやがった……」 
盗聴能力を潰されたのにも関わらず、寧ろ面白そうな笑みさえ浮かべる青年。
「んぁ?」 
ふと、シルシュレイが胸ポケットからバイブ設定の携帯電話を取り出す。 
「もしもし俺…俺!あ〜気にすんな。で? 
 …………………OK。OKだ!おう、じゃな」 
携帯を切った後、シルシュレイは皆に行動を指示しようとするが、 
演奏が邪魔で巧く伝わらなかった為、 
近くにあったスピーカーを全てギター型マシンガンで破壊する。 
熱を帯びた演奏が僅かに遠くなったと同時に、青年が話を始める。
「ライズが面白い情報手に入れたから、早めに切り上げろだとさ。 
 タカチマン博士に加え本田ミナも絶対に殺すな。 
 タイムオーバーになりそうだったらそいつ等だけでも連れ帰る。 
 ペンちゃんとレイネは乗客の確保を頼むぞ。 
 俺達は捕虜の中から数人連れてって最後の通告に行く。 
 これが蹴られたら後は単純に殺し合いだけさ。 
 連れてく捕虜は…そうだなぁ…なるべく相手の戦意が殺げそうな奴… 
 …お前に……ん〜…お前と…お前」 
リュージ、ダルメシア、セートを選択し話を続ける。 
何故、非戦闘員のミレンや、英雄ユーキンを持ち出そうとしないのかは謎だ。 
「あんま連れてっても足手纏いになるから、この程度で良いだろ。 
 サリシェラ、クリル、小桃嬢、キララは、残った捕虜を此処で見張っててくれ」
早速、カーゴブロックへ向かおうとするシルシュレイ達だが… 
「ちょと待ってくれよ。コイツも連れてこうぜぇ」 
ぐったりとしているシストライテの片手をアズィムが掴んで引っ張る。 
「駄目だ。そいつ……ほら…何だ…… 
 絡め手に出来そうな相手がいねぇじゃんか」 
「良いんだよ。脅しみてぇなモンさ。 
 其れにコイツ無抵抗だし、安心出来る人質じゃん」 
単に滑稽なシストライテを晒し者にしたいだけだ。 
レシルが忌々しげにアズィムを睨むが、少年は何処吹く風。 
渋々シルシュレイは何か起こらない限り傷付けない事を条件に承諾し、 
後ろ手に縛った4人と、スクウェアブロックから一旦撤退させたエネミー達を連れ、 
シルシュレイ、アヤコ、アズィム、ツャア&専用機が、機関室から出て行った。

 

「くぺぺ…こんな仕事さっさと終わらせて、アテネ第7研究所に戻るペン!」 
「そいやペンちゃんはDキメラの調教が趣味だったわね〜」 
含み笑いするペンギン太郎の一言に反応したのは、 
ノートパソコンで何かを調べながらゼペートレイネだ。 
「あったりまえだペン!特に最近、良い素材が見付かったから調教のし甲斐があるペン。 
 ………所でレイネは何やってるペン?」 
「あ〜…気にしないで。遊び相手が来るかも〜ってだけの話。 
 其れより早く行きましょ」 
大女はニヤリと笑み、ノートパソコンを畳んでペンギンを促す。 
其の笑顔には底知れぬ悪意が含まれている事は、仲間であるペンギン太郎にも汲み取れた。 
「楽しそうだペンね。ま、生きてきたんなら楽しまなきゃ損だペン。 
 ボクも帰ったらたっぷりと実験体達で楽しませて貰うペン!くぺーっぺっぺっぺ!」 
床に溶ける様にして消えるペンギンを静かに眺めるゼペートレイネ。 
(………実験体ねぇ……自分が其の立場に立たされたらどう思うのかしら? 
  そもそもはアンタも同じ穴の狢だったんだからねぇ…… 
  ………………………其れを言うならアタシもか……)
尾の剣を床に刺し、大女もペンギンの後を追う。

 

「くそぅ…ボクの……腕があれば……」 
無くなった片腕を見、ユーキンは歯噛みする。 
仮に彼の腕が無事だったとしても、この戦局は覆す事が出来なかっただろうが、 
全力を出し切れないままに囚われの身となってしまった事が悔しいのだろう。 
弟子のバンガスやおトメさんの無事を祈るしか今の自分には出来ない。 
其の無力感もユーキンを苛める。 
「……………」 
ユーキンの傍に居た寝惚け目少女ことサリシェラが、 
今のユーキンの一言に興味を持ったのか、彼の顔を覗き込む。 
「何だい?ボクに何か用かい?」 
「……………貴方に……腕があっても……勝てない…」 
ぼそっと呟く程度の少女の声にカッとなるユーキン。 
解かっているからこそ頭にきたのだ。 
「何をぉ!」 
「……何で……腕…無くなってるの……? 
 最初は…………あった筈…なのに……」 
ユーキンの怒声を無視し、失われた彼の右腕に興味を示す少女。 
どうやら細かい情報は届いていない様だ。 
「ああ、君達が卑怯にも洗脳した、ジョイフルからの攻撃でね! 
 ………まあ良いさ。腕一本でジョイフルを助けられたんだから安いものさ」 
「…………安い?…腕…なんだよ……… 
 …そんな腕じゃ……誰も護れない…」 
サリシェラが其の眠たそうな眼に一瞬だけ悲しそうな色を宿す。 
だがユーキンは其れにも気付かず、話を進める。 
「…腕以上に大事な仲間を救う為さ。1本や2本……どうって事ないよ。 
 其れに片腕でもボクはバンガスやおトメさんを護ってみせる! 
 嘘だと思うかい!?嘘だと思うのならロープを解いてみなよ。 
 ボクの底力を見せてやるゾ!!」 
騙す気満々である。
が、科白の後半は無視してサリシェラは、ユーキンの右肩に己の右手を添える。 
「…………」 
空ろな瞳には怒りも侮蔑も無く、ただユーキンの姿のみをじっと映していた。 
眼の前の少女が何を考えているのかも解からず警戒するユーキン。 
だが少女は何も言わず、直ぐにユーキンから離れてしまった。
執筆者…is-lies

  101便・キャビンブロック

 

アンディ達が5曲目の演奏を終えたところで、 
一行はカーゴブロックの扉の前までやって来た。 
扉を一つくぐる度に緊張と気合を高まっていく。 
この扉を抜ければカーゴブロック… 
そろそろ敵の迎撃があってもいい頃だろう… 
だが、立ち止まっている暇はない… 
休むことなく6曲目の演奏が始まり、 
先頭のアンディが扉のレバーに手をかけた。
「…ん? 
 …おいリッキー、なんだこの曲は? 
 こんなのはロックじゃねェ……って…?」 
今までとは明らかに曲調の違う演奏にアンディが振り返る。 
しかし、演奏しているはずのリッキーは、 
ギターから両手を離したままキョトンとした様子で応える。 
「アニキ…オレじゃねぇッス…」
リッキーではない何者かがギターを演奏している。 
激しい曲調ながらも、どことなく悲哀を感じるレクイエムのようにも聴こえる。
「ちィ、ロックじゃねぇぜ。 
 なにもんだぁ!!」
アンディが扉を開け放つ。 
そこに待ち構えていたのは… 
赤い先行者を従えた、鉄仮面を被っている水兵服の男…即ちツャア、 アヤコ
その後ろに、リュージ、ダルメシア、セート、シストライテを人質にしたアズィム。 
「ケケケ、ぞろぞろとやって来たな」 
更にその後ろから、エネミー達に囲まれながらギターを演奏していた男が歩み出る。
「よぉ、俺はシルシュレイってんだ。 
 なかなかいいもん聴かせてもらったぜ。 
 俺も混ぜてくれよ」 
シルシュレイと名乗った男は先頭のアンディを無視し、その後のリッキーに声をかける。 
「フェンダー、ストラトの65年か…?」 
「…解るッスか?」 
「まぁな。実は俺のもだ」 
シルシュレイは言いながら、リッキーのギターとは似ても似つかない赤い異形のギターを突き出す。 
「尤も、ボディの8割は改造済みだけどな」 
「…邪道ッスね」
睨み合うリッキーとシルシュレイに、一同も身構える。 
しかし、それを制してタカチマンが一人歩み出る。
「人数が少ないようだが?」 
「人質か? 
 他の奴らは機関室にいるぜ」 
「お前達もだ。 
 あと6人はいるだろう?」 
タカチマンは通信機に向かって更に声を荒げる。 
「レイネ! 
 出てきたらどうだ!? 
 隠れて聞いているのだろう!?」
「クスクス…なぁに?」 
不意にタカチマン達の後方から声が上がった。 
振り返ると、ゼペートレイネとペンギン太郎が床から上半身だけを現していた。
「タカっちの方から声をかけてくれるなんて、 
 もしかして初めてじゃない?」 
「馬鹿、レイネ!出てどうするペン! 
 無視してさっさと仕事に向かうペン!」 
大女に怒鳴り付けるペンギン太郎。 
だが既に自分も一緒に出て来ている事に彼は気付いていなかった。 
「…どうせ、今の内に乗客を抑えようというのだろう? 
 …………安心しろ。もう其の必要は無い」 
其の科白にゼペートレイネは微笑を、 
ペンギン太郎は何の事か解からないといった表情を向ける。 
「んうぅ?流石のタカチマン博士も、 
 この人質達を見て、戦意無くなりましたかい?」 
仕事もそろそろ終わりかという余裕を持ったシルシュレイと対照的に、 
何時でも衝撃波で人質にトドメを刺せる様、 
掌を捕虜達に向けているアズィムは、不満そうな様子だ。 
「俺としちゃ、もっと暴れて欲しいけどナ〜 
 特に九尾の狐…アイツにゃ顔に泥塗られたしな… 
 腹に据え兼ねるモンが……」 
「止めなさい、アズィム。 
 我々の仕事に私情を持ち込むな」
暴走しがちなアズィムをツャアが窘める。
アズィム同様におトメさんを前にして撤退したアヤコだが、 
彼女は其処までしておトメさんと戦おうという気は無い様だ。 
己が真に欲するものはSFESの中にあるのだから。
シルシュレイの目を正視しながら、タカチマンは続ける。 
「……1つ教えろ…… 
 ………何故、此処までして私を確保しようとする?」 
「無論、エーテル先駆三柱の1柱であるタカ………」 
「………冗談は聞きたくないものだ」 
嘘を一瞬で見抜かれ「どうする?」とゼペートレイネにアイコンタクトするペンギン。 
確かにタカチマンの持つ研究や技術等は貴重だが、 
幾らなんでも其れだけの為に、こんな大事を起こしたりはしない。 
ゼペートレイネはペンギン太郎に代わって自ら説明し始めた。 
「…確かに…タカっちの確保だけを目的としたものじゃないわ。 
 漏洩情報の抹消、他組織の情報収集… 
 兼ねてから邪魔だったBIN☆らでぃんや、Ω真理教… 
 其れ等を一気に潰す為の作戦よ。これは。 
 詳しく教えてあげる必要は無いでしょ?」 
「そうだな。だが… 
 私に固執し過ぎてはいないか?」
これはリッキー達も思った事だ。 
SFESは妙にタカチマンの確保のみを優先している。 
全力で掛かればタカチマンをも捕らえられるというのに、 
敢えてSFESは脅迫の道を選んでいるのだ。
「……タカっち。7年前…そう… 
 7年前だったら…強引にでも連れて行けたんだけどね…」 
タカチマンも己が記憶を失った7年前の事を出され、 
僅かにゼペートレイネへ向ける眼差しを真剣なものにする。 
「…何の事だ?」 
「…本当に何も憶えていないのね。 
 SFESに入れば、好きなだけ研究も出来きるし、記憶も戻るかもしれない。 
 断る理由はないはずよ?」
「殺人者集団の仲間になれと言うのか? 
 お前達が何を企んでいるのかは知らんが、 
 私はそこまで…」
「ウソね。 
 本当は、アタシ達が何者であろうと関係ない。 
 アンタは唯、自分の過去を知るのが怖いだけ… 
 忘れてるみたいだけど、アタシはアンタの事をよ〜く知ってるつもりよ。 
 人質を見殺しに出来るほどクールじゃないってこともね?」
「…まずは機関室に案内しろ。 
 話はそれからだ」
「そうはいかねェな。 
 それじゃ、コイツらを連れてわざわざ出向いて来た意味がねェだろ?」
話し合いは再び平行線を辿る。 
直にでも戦闘になりそうな状況ではあるが、 
SFESの方から人質を連れて交渉を持ちかけて来るあたり、 
タカチマン達の戦闘力も決して侮れないものと認識したようだ。
タカチマン達の要求は… 
乗客の解放。 
猫丸の解放。 
セート達の開放。 
及び、そのための脱出手段の確保。
一方SFESの要求は… 
タカチマンが自らの意思でSFESに入ること。 
漏洩した情報や他組織に関する情報の提供。
SFESはタカチマンさえ確保すれば、 
あとは皆殺しにするだけで、漏洩情報も抹消でき、一石二鳥である。 
しかし、SFESが人質を二つに分けた事から、 
他にも要求してくる可能性はある。 
タカチマン達としては、 
宇宙機内という閉鎖された空間で人質を解放されても意味はなく、 
解放された人質の安全を保障するために、 
まずは、脱出手段を確保することが大前提である。
「乗客は全員解放してやるって言ってんですぜ? 
 早く決めてもらえませんかねェ?」
「それならば火星に着いてからでも問題はないだろう? 
 人質を捕った以上、お前達が急ぐ必要はないはずだ」
「ほんと強情ねぇ… 
 いいわ。なら要求を変えてあげる」
慎重な態度を崩さないタカチマンに、ゼペートレイネが話を変える。 
それを受け、途端に表情を変えたシルシュレイが、 
何故か言いづらそうにしながらも、その要求を切り出す。
「まぁ、なんだ… 
 …本田ミナを渡せ…
「なにッ!?」
「本田ミナを渡せ、って言ってんだよ… 
 そしたら、機関室にいる人質を解放してやる」
執筆者…Gawie様、is-lies
よりにもよって、SFESが新たに要求したのは、 
本田ミナの引渡しであった。 
何故か躊躇いがちなシルシュレイの態度も疑問ではあったが、 
それ以上に、その意図が全く掴めない。 
ミナが、本田宗太郎の娘であることを考えれば、予想できないこともないが、 
今はタカチマンに対する当てつけ、心理的揺さぶりともとれる。 
意外な要求に一同が困惑する中、 
判断はミナに委ねられた。
「人質の交代という訳か? 
 しかし、『機関室の人質』とは抜け目のないことだな」 
「タカチマン博士、もうアンタには聞いてねェですよ。 
 さぁ、どうする? ミナちゃん?」
「…分かりました」
「いけません、御嬢様」
SFESの要求を素直に受け入れようとするミナに、 
リリィが両手を広げて立ち塞がる。 
しかし… 
「リリィ…ごめんね」
ミナはリリィとすれ違いながら小さく囁くと、 
そのまま振り返ることなく、真直ぐシルシュレイの方へと向かった。
「約束です。 
 ユーキンさん達は解放してください」
ミナを前にし、シルシュレイは、膝をついて優しく彼女の肩を叩く。
意外な光景である。 
今まで鬼神の如き殺気を漂わせていた男が、ミナに対して見せた表情には、 
花を愛でるような優しさがあった。
「…OKだ」
シルシュレイの言葉を受け、隣のツャアが携帯端末を操作し、 
機関室との通信を開く。 
すると…
《盗賊なんですかぁ〜?スゴイんですねぇ〜》
《ただし、ボク等は悪い奴からしか盗らない。 
 いわゆる義賊ってヤツさ》
《…悪い…? じゃあ、正しいって、何…?》
機関室内の会話が船内放送に流れる。
「…お、御頭ぁ〜」 
「…会話が弾んでいるようだが…」 
「…まぁ、無事でなによりだ」
船内放送から流れるユーキン達の声に一同が脱力するが… 
一応、人質の無事は確認することが出来た。
「あ〜、機関室、クリルテース、サリシェラ、聴こえるか? 
 本田ミナを確保した。そちらの人質は解放してくれ。 
 …あぁ、武器は返すな。 
 …拘束を解いてやるだけでいい」
呆れた様子のツャアが通信を終え、 
携帯端末を懐にしまい込もうとした、その時、 
ツャアの携帯端末のレーダーが101便に接近する機影を捉えた。
「…ッ!?」 
「どした?」 
「…熱源が接近中だ」 
「何? 連盟のミサイルにしては早過ぎるな」 
「いや、火星の方角からだ。 
 この時間帯で、すれ違う便はないはずだが…」 
「さっきの山本丸か…?」 
「判らん… 
 相対速度、時速約7万kmで右舷約12km地点を通過… 
 いや! 急速転回! こちらに向かって来る!? 
 これは! 機動兵器だ!」
突然の機動兵器登場に慌てるツャア達とは違い、 
まるで戯れる玩具が手に入ったという様な 
愉悦の表情を浮かべるのはゼペートレイネであった。
やがて通路の奥から警戒しながらユーキン、レシル、レオン、ミレンが姿を現す。 
体の所々に傷があり、服も汚れているが、命には別状なさそうだ。 
「御頭!」 
「レオン、ミレン!」 
「おお、バンガス!おトメさん!無事みたいだな〜! 
 ボクは見ての通り大丈夫だぞ〜!! 
 メイさん……貴女を遺してボクは死にましぇ〜ん!!」 
「は…はぁ…」 
ハイテンションなユーキンに、メイは曖昧な返事で返す。 
無表情なレオンの心情を代弁するかの様、
悔しそうな顔をしたままミレンは俯いていた。
アンディ達への道を開けるシルシュレイ一行。
其の隣を、脇目も振らず真正面…アンディ達を見据えながらレオン達は歩く。 
途中、レシルがシストライテの方を見るが、 
彼女はアズィムがこれ見よがしに御姫様抱きにしていた。 
あからさまに嫌悪の表情を浮かべ、併し大人しくレシルはタカチマン達と合流する。 
憎きSFES、仲間を晒し者にしたアズィム… 
直ぐにでも地獄の業火を浴びせたかったが、 
そうなってしまっては今の状況を無駄に掻き乱すだけだ。
無事にユーキン達がタカチマン達と合流した。
既に機関室には人質は居ない筈だ。 
だが其れでもSFESは向こうに何人かを控えさせている。 
「……脱出手段があるのは機関室か」 
「さあ、どうでしょうかね?」 
睨み合いを続けるタカチマン達を警戒しながらも、 
ツャアは携帯端末のレーダーに映った所属不明機から目を離さない。 
それは予想以上のスピードで、大きく弧を描いて101便に接近してくる。 
その反応が101便と重なった瞬間、 
大きな衝撃音と共に、船内が激しく揺れる。
「くッ…、所属不明機、101便に接触。 
 アンカーを撃ち込まれた。 
 船内通信に割り込んでくるぞ」
衝撃が収まらない内に、 
所属不明機に乗っていると思われる男の声が船内に響いた。 
《航路から外れているようだが、101便に間違いないな。 
 テロリストに告ぐ。 
 今すぐ乗客を解放し、降伏しろ。 
 さもなくば、貴船を撃沈する
救援が来たかと一瞬期待するタカチマン達だったが、 
通信に割り込んで来た男の要求はあまり穏やかではない。 
動揺しているツャア達の様子から、敵ではないことは窺えるが、 
「乗客を解放しなければ撃沈する」という矛盾した要求からは、 
到底、味方の救援とも思えない。
「何者だ…?」
思いがけない展開に、状況を見守るタカチマン達。 
一方、後にいるゼペートレイネは、携帯端末のレーダーで、 
所属不明機の反応を見ながら、不気味な笑みを浮かべていた。
「この反応は…」 
「くぺぺ、間違いない、アイツだペン」
《どうする?テロリスト! 
 いや…、SFES!!》
「クスクス、久しぶりねぇ、アルベルトちゃん。 
 元気してた? 
 セレクタとかいう新しい飼い主の命令で、 
 早速アタシ達を殺しに来たってわけ?」
セレクタ―― 
ゼペートレイネの言葉に、血相を変えたレシルが、 
アンディから通信機を取上げて叫ぶ。
「私はレシル、セレクタの一員です。 
 貴方はセレクタの戦闘員ですか? 
 なんて軽率な…! 誰の命令です!?」
《命令だと? 
 SFESを倒すのは、俺の意思だ》
「バレているのですよ! 
 私達セレクタの事が!」
「クスクス、相変わらずねぇ、アルベルトちゃんは。 
 …いいわ。特別に教えてあげる。 
 アンタの体を構成しているナノマシンは盗聴器の役割も果しているのよ。 
 だからアンタの言動は筒抜け… 
 おかげでセレクタの事を知ることが出来たってわけ。 
 まさか、逃げ遂せたと思ってたんじゃないでしょうね? 
 アンタはアタシ達が創った戦闘マシンなのよ。 
 制御出来ない兵器なんて、ナンセンス! 
 でなきゃ、誰がアンタみたいなバケモノを創ったりするもんですか!
《な……?》
「性懲りもなくアタシ達の前に現れるなんて… 
 運命って、ステキよね… 
 どお? 今からでもSFESに帰ってくれば、全部水に流してあげるわ」
《ぬぅ…、ウオォォォォォォォッ!!!》
怒り、錯乱するアルベルトがマシンガンの引金を引いた。 
最後の希望とも思えた謎の機動兵器も、 
SFESの手の内で踊らされているに過ぎなかった。 
謎の機動兵器が放つマシンガンの衝撃音と、 
ゼペートレイネの不敵な笑い声が船内に響く。 
一同は改めてSFESの強大さに恐怖を憶えた。
そんな中、一人冷静に成行きを見ていたタカチマンが口を開いた。
「レイネ、交渉はまだ終わってはいないのだろう?」
双方にとって予想外の展開… 
好機と取ったタカチマンが再び交渉を切り出す。
執筆者…Gawie様、is-lies

  所属不明機のコックピット内

 

「俺は…泳がされていただけだったというのか…? 
 ガウィー、聴いているのだろう。 
 …自爆装置のスイッチを押してくれ…」
《…自爆装置? これのことか? 既に押している。 
 残念だが、こいつはただの通信機だ。 
 ごとりん博士に一杯喰わされた》
「…そうか。 
 だが、セレクタの事は奴等に筒抜けだった…俺の所為でな」
《…問題ない。 
 情報の漏洩元が判って、むしろラッキーだ。 
 それより、お前は自分の仕事をしろ。 
 乗客を救出し、必ず戻って来い。以上だ》
セレクタ現本部アレクサンドリアとの通信は一方的に遮断され、 
以後、通信が開かれることはなかった。
「(問題ない、か… 
  フ…いいだろう…!)」
落ち着きを取り戻したアルベルトは、 
脱出ポッドのドッキング作業に取りかかりながら、 
再び、101便の船内通信に回線を開いた。
同時に端末を操作し、文章を作成する。
《アルテミス、話は聞いただろう?喋らずにこれを見ろ。 
 これから私の能力でお前を101便内へと飛ばす。 
 私自身が動くとSFESに先手を打たれる可能性が極めて高い。 
 又、先程の通信でSFESと仲間が同じ所に居る事も確認出来た。 
 どうも旗色が悪そうだ。通信で出来るだけ時間を稼ぐ。 
 其の間に乗客を探し出して脱出ポッド迄案内してくれ》
其れを己の襟元に佇む小さな人影が見ていた。 
白っぽいロングヘアー少女のフィギュアの様だが、 
これこそ、今のアルベルトにとって無くてはならぬ『妖精』なのだ。
妖精…正確には人工妖精。 
SFES脱出に一度失敗し、視覚・聴覚・味覚が使い物にならなくなったアルベルトの為、 
セレクタが製造したサポート用の妖精であった。 
アルベルトの視覚・聴覚は全て彼女が補っている。
妖精が何か言いたそうに、アルベルトを見遣るが、 
この妖精がアルベルトの無き視覚・聴覚を補っている訳だから、 
妖精がアルベルトを見たという事は、即ち、 
アルベルトの眼には、自分の顔が映っているという事だ。 
当のアルベルト自身は慣れているのか、気にも留めないのか、 
視覚情報に捉われず、妖精に頷いて返す。
「ゼペートレイネ…聞こえるか? 
 貴様等の許に私が戻るとでも…本気で考えているのか? 
 私が貴様等SFESから抜け出た理由…知らぬとは言わせんぞ」 
《くぺぺ、レイネ達は交渉開始だペン! 
 お前の話はこのボクがちゃあんと聞いてやるペン!》 
(………ペンギンか……)
1人でも気を惹き付けられればと思ったが、思わぬ大物だ。 
最も機動力の高いペンギン太郎を足止め出来る。
SFES研究所でDキメラの調教師もしていたペンギン太郎は、 
単に、昔にこき使っていた奴隷をおちょくりたいだけなのだろうが、 
其の油断が命取りになるという事を教えてやれる。
執筆者…Gawie様、is-lies

  101便・カーゴブロック

 

「そね。タカっち。 
 アンタがSFESに下るなら… 
 乗客、人質の全員を解放…ああ、無論私に合成した猫ちゃんもね。 
 脱出手段も既に用意しているわ。 
 これ等、全てと引き換え。どう?」
どうやらSFESは全ての手札を切ってでもタカチマンを同意させたい様だ。 
このタカチマンという男…本人もどうやら知らない様だが、
SFESにとっては何物にも代え難い価値があるみたいだ。
事の次第を静かに見守るレシル達。
だが、タカチマンとてこのままSFESに身を置く積りは無い。
「タカチマン博士、 
 私も彼等を信用することは出来ません。 
 いざとなれば、刺し違えてでも…」
「…待つんだ、レシル君」
レシルの言うように、未だSFESが提示した条件を信用することは出来ない。 
脱出手段を用意していると言っても、 
SFESの存在を知ってしまった者を、ただ見過ごすとは到底思えない。 
予備の脱出ポッドでも用意していると思われるが、 
そこに何らかの細工がされている可能性も十分考えられるのである。
しかし、今は謎の機動兵器の登場で状況は僅かに好転している。 
脱出ポッド内部の安全を確認することが出来れば、 
あとは脱出ポッドの起動だけである。 
これは、仮に敵に操作されていても、 
外部からのサポートがあれば無事に火星に辿り着けるだろう。 
問題は、機動兵器に乗って現れたアルベルトという男… 
セート達もそうであるが、 
このセレクタという謎の組織も、相当に訳ありの様子だ。 
尤も、その一員であるというレシルとシストライテが味方にいる以上、 
今は信じるしかなさそうであるが…
(…さて、 
  アルベルトとか言ったか… 
  レシルの仲間…セレクタ… 
  奴等の気を引くには十分だな… 
  手筈通り、こちらもそろそろ退際か…)
タカチマンは懐から愛銃プルートを取り出し、 
それをナオキングに手渡すと、 
ゆっくりとゼペートレイネの前まで歩み出た。
「ゼペートレイネ、 
 お前達の要求を呑もう。 
 私の身柄をSFESに預ける」
「…やっとその気になってくれたの? 
 でも何それ? 相変わらずね。 
 レディに対する口の利き方がなってないわ」
「……… 
 レイネ…、また一緒にやろう… 
 ……これでいいか?」
「クスクス… 
 アハハハハハハ!! 
 まぁいいわ! タカっち! 許してあげる」
跪くタカチマンを見下ろし、 
ゼペートレイネが勝ち誇ったかのような笑い声をあげる。
「…約束だ」 
「分かってるわよ」
そう言うと、ゼペートレイネの体から『尾』が切り離され、 
その中からぐったりした猫丸が姿を現した。 
直ぐ様、メイが駆け寄り、猫丸の無事を確認する。 
それを横目で見ながら、ゼペートレイネはタカチマンの腕を取る。
「それじゃ、行きましょうか♪」
ゼペートレイネとタカチマンは、沈黙する一同の間を悠々と通り抜け、 
向かいのシルシュレイ達と合流した。 
即座にエネミー達が二人を取り囲み、同時にセート達が解放された。
これで約束通り、人質は全員解放されたことになるのだが、 
元々この約束はタカチマンに対するものであり、 
解放されたセート達からすれば、単に人質が入れ替わっただけに過ぎない。
目を合わせることなく、ただ真直ぐすれ違うタカチマンに、 
何かを言いたそうなセートだったが、それを黙って見送る一同の目を見て、 
直ぐに悟る。
(…まだ、何か狙いがある…?)
不自然さを悟られぬよう、軽く言葉を交わしながら、 
一同はSFESに従い、機関室へ向かう。
一方のSFESは、 
シルシュレイがミナに付き添い、 
その隣で、ゼペートレイネが嬉しそうにタカチマンと腕を組んでいる。 
その周りをアヤコと数体のエネミーが取り囲み、 
更に前後をペンギン太郎、アズィムが警戒している。
ふと、一人手持ち無沙汰なツャアがシルシュレイに近付いて、囁く。
「…シルス、あの機動兵器はどうする?…」 
「…確かに厄介だが、ペンちゃんに考えがあるみてェだ…」 
「…いざとなったら、私が先行者で出よう…」 
「…マジか? 
 もうすぐ火星の大気圏に入るんだぞ…」 
「…だが、このタイミングで戦闘を仕掛けたという事実は古今例がない…」 
「…いや、そういう問題じゃねェ… 
 ていうか先行者って乗れんのかよ?…」 
「…心配ない、今日から宇宙服を着る…
「……… 
 …分かった、ツャアがそこまで言うなら任せるぜ…」
執筆者…is-lies、Gawie様
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