リレー小説2
<Rel2.101便・ルウ・ベイルス>

 

  日本宇宙ステーション

 

「御覧の通り、命に別状はありませ……おや?」 
縦縞模様のスーツを着た中年男の、驚愕の表情に気付き、 
固まった其の顔の前に手を翳して動かしてみるルウ・ベイルス。 
中年男の視線は真正面の、 
アフロヘア&全身黒焦げ&白目&泡吹き状態で、
気絶しているモーニンゴ娘&つんく♂♀に釘付けとなっていた。 
「ああ〜…僕の所為じゃありませんよ? 
 僕が行った時には既にこうなっていたんですから」
狭い個室一杯に響く大声で中年が叫ぶ。 
「ふざけるなよ、バカヤロー!!? 
 何だ、この頭は!全員カツラにでもしろと言うのかッ!?」 
「いや…僕に言われても困るのですが……」 
モーニンゴ娘のアフロを掴みながら「こりゃもう駄目か」と呟き、 
深呼吸してから、『本題』に入る中年男。 
「……で、BIN☆らでぃんの情報は得られたのか? 
 政府に高額で売れるからな。しかも話題性がある。これはウケるぞ」
詰まりは、こういう事だったのだ。 
ルウは乗客の救出を命じられていなかった。 
いや、いっそ無視しろなどと言われていた。 
便内の情報を定期的にルウに探って貰い、其れを政府へ売りつける。 
長く儲けられる様に、事件を解決させない。
「ああ、社長…其の事ですが………」 
言おうとした其の時…… 
「!!」
扉の側に、人影が立っていた。 
中東系の服にオタフク面をした人物だ。 
其の仮面の額には『鉄拳制裁』と書かれている。 
間違い無い。昼頃にスタジオを占拠したBIN☆らでぃん一派。 
片手にハンディカメラ、片手にはノートパソコンを持っている。 
「は…はひぃ!?」 
驚いて情けない叫び声を上げるテレビネオス社長に、 
オタフク仮面『鉄拳制裁』は話し掛けた。 
「シシシ、初めまして。BIN☆らでぃん一派で〜す。 
 ルウさん、便内の様子ですけどね、あまりペラペラ口外しちゃうと……」 
ヴォイスチャンバーの類を使用しているのか? 
異様な迄に甲高い声で胡散臭そうな名乗りをあげ、 
片手に持ったハンディカメラを見せびらかす。 
「…もしかしたら、其の社長さんが困るかも?」 
 『耳』が聞いたっていうルウ君の科白を見たらさ、 
 ちょっと気になる点があったんだよね。 
 依頼があって急ぎだって言ってるのに、ミナちゃんの長話に付き合う辺り 
 情報が欲しかったんじゃないかって思ったんだけどさ。 
 こういう路線だったとは予想外。実に好都合。シシシ」 
併し、ルウは呆れたと言わんばかりの表情で返す。 
「貴方が其の情報を流すのと、 
 僕がテレポート能力で宇宙空間内に貴方を放り出すの… 
 ……どちらが早いと思いますか?」 
「そりゃ君だね」 
あっさり認める『鉄拳制裁』。だが…
「…オイラ一体なら」
『鉄拳制裁』がノートパソコンを開き、其処に映った映像をルウ達に見せる。 
其処には地球のスタジオを占拠した『世直し』『葬世』が映っていた。 
《聞こえるかい?ルウ君。雇い主を困らせちゃダメだぞ》
《時間が無いので端的に言う。航宙機内の事は忘れろ》
『世直し』が操作中のノートパソコンに映った画像を指差す。 
続いて画面がアップになった。 
画像は…ついさっき撮影されたであろう 
この部屋で話し合うルウとテレビネオス社長の動画である。
其処で『鉄拳制裁』がノートパソコンを閉じる。 
「さ、決めちゃってよ。 
 雇い主を困らせるか否か」
執筆者…is-lies
「君がここでちょっとでも妙な動きを見せたら、 
 さっきの映像を全国ネットで流す。 
 逆に、君がスタジオにテレポートして放送を阻止しようものなら、 
 この社長さんを殺す。さぁ、どうする? 
 3秒以内に答えないと、そこでのびてる奴等を一人殺すよ?」
雇い主が死んでしまっては報酬を受取る事が出来ない。 
雇い主がテロをネタに金儲けを考えていた事が世間に知れ渡っても同様。 
雇い主を安全な場所までテレポートさせ、その後、放送を阻止…とても間に合わない。 
そもそも、入金があるまで雇い主を守りきる事自体困難である。 
しかし、表向きの依頼である『モーニンゴ娘&つんく♂♀の救出』は既に果たした。 
この時点で最初の報酬を受取る権利はある。 
となれば…
思考を巡らせるルウ、そして… 
「待って下さい。何か勘違いしてませんか? 
 僕はあくまでビジネスで動いてるだけです。 
 交渉ならその人に聞いてください」 
ルウはそう切り返し、テレビネオス社長に話を振る。 
『鉄拳制裁』がオタフク仮面のままジロリと社長を睨む。
「わ、分かった! 忘れる!忘れます!」 
あっさり要求を受け入れる社長。 
だが、この時ルウは既に、テロリスト、いや、SFESに対しての商談を思い付いていた。
「さて、これでその人はもう関係ありませんね。 
 ここからは僕から貴方々への提案です。 
 まず、僕はまだ、航宙機内の事を忘れるとは言っていません。 
 そして、僕一人なら貴方々の追跡から逃れ、 
 シャトルジャックの真相を世間に知らしめる事が出来ます。 
 さて、貴方々がここまでして隠そうとする今回の事件の真相… 
 果しておいくらなんでしょうね?」 
なんと、テレビネオス社長に見切りを付け、
ルウは商談の相手をSFESに乗り換えたのであった。 
「シシシ、 いい度胸だね。君、気に入ったよ。 
 考えさせてもらうけど、いいかな?」 
「そうですか、まぁ答えを急ぐ必要はありませんよ」
ルウの機転によりテレビネオス社長も救われ、新たな商談が交わされた…ように見えたが… 
「あ、そうそう、目撃者がまだいたよね。 
 コイツ等にはやっぱり死んでもらうよ。もう関係ないから、いいよね?」 
邪魔者は皆殺し、力ある者は誰であれ迎える。 
SFESのやり方は変わらなかった。 
腕を剣に変化させながら、『鉄拳制裁』は気絶しているモーニンゴ娘&つんく♂♀に歩み寄る。
「貴方…営業妨害の上に、これ以上僕を怒らせないで下さい」 
「テレポート能力でオイラを宇宙空間内に放り出すかい? 
 やってみなよ。さっきの言葉が『ハッタリ』じゃなけりゃね」 
テロリスト相手に商談を持ちかけたルウであっても、さすがにこれは見過ごす事が出来ない。 
始めて怒りの表情を見せるルウ。 
容赦なく『鉄拳制裁』に空間移転魔法が放たれる。 
『鉄拳制裁』の回りにあった椅子やテーブル、壁や床までもが根こそぎ消えていく。
『鉄拳制裁』だけを残して。
『ハッタリ』じゃなかったみたいだね? 
 『出来る』と思ってたみたいだね? 
 『なぜ?』って顔してるね? 
 残念でした。君の能力は実にすばらしいよ。 
 でも、君はエーテル能力の本質を良く解っちゃいない。 
 知りたいかい?教えてあげない。シシシシシ」
執筆者…Gawie様
こんな事は今迄、一度も無かった。
どんな相手でも抵抗出来ずに抹殺出来た能力が… 
この『鉄拳制裁』には全く通用していないのだ。
「シシ…どんな強力なエーテル能力でもさ、基礎ってモンがあるんだよね。
 …まぁ、オイラはレイネみたいな専門家じゃないから詳しく言えないけど……
 これが明確な原理を知って能力を行使している者と、 
 唯単に能力を行使している者との違いってやつさ」
焦って再度、空間に干渉するルウ。
エーテル干渉された空間が『鉄拳制裁』の立っている場所に割れ目を形成する。
物理特性を無視し、あらゆるものを切り裂ける「空間の断裂」であった。 
併し其れは『鉄拳制裁』の纏っていた服しか切断出来なかった。
『鉄拳制裁』は…人間ではなかった。
音も光も伴わない空間断裂の位置を、まるで知っていたかの様に回避…
いや、体自体を歪に変形させて空間断裂を避けたのだ。
「君みたいに名前が超売れっ子な人は対策がし易いよ。 
 でも航宙機内の連中は最初に対策講じてなかったみたいだね。
 『同類』として情けなくなる」 
得体の知れない相手に失神寸前の社長。そしてルウの表情も引き締まったものとなる。 
「おや?そんなに殺されたくない?偽善だなぁ。 
 ま、相手の気持ちも或る程度は遵守しましょ」 
再びノートパソコンを開き…何らかのメールを作成する『鉄拳制裁』。
1分か其の程度か…お互い全く隙を見せずに対峙していた最中、 
『鉄拳制裁』がニゲゲゲゲと奇妙な笑い声を漏らす。 
「なァ〜んだ。モーニンゴ娘もつんく♂♀も何も知らなかったんぢゃん。 
 始末する理由も無いし、ルウ君が怒りそうだし、手は出さないよ。 
 そうそう、一緒に先のビジネスの話も仲間に送っておいたから、ちょっと待ってね」 
碌な確認もしないでモーニンゴ娘達を殺そうとしていたらしい。 
彼等がズボラなのか…人間の命を其の程度にしか見ていないのか……
執筆者…is-lies
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