リレー小説2
<Rel2.101便・ロバーブラザーズ3>

 

  101便・左キャビンルーム

 

3人と1匹は乗客の防衛に専念しようとする。 
…だが、前と後には別部隊がいる。 
そう簡単には敵を通さないだろう。 
乗客の中には怯えている者もいる。 
そんな乗客を、皆は必死に落ち着かせようとしていた。 
「え〜、皆さん、大丈夫、大丈夫ですから…」 
「そうです!このボクがいますから!」 
ユーキンは張り切っている。ミナがいるから効果抜群。 
「2人とも、凄く頼りがいがありますね」 
「う〜」 
ミナはおトメさんを撫でながら、2人を見つめていた。 
「ミナさんっ!ボクがいるから安心してくださいね!」 
「あ、はい」 
ユーキンの目がキランと光る。 
格好良いポーズを決めているユーキン。 
バンガスはそんなユーキンを横目で見る。 
「………」と。
乗客の中には子供も居た。 
怖がっていたり、泣き叫んでいたり。 
キャビンルームの中は騒がしかった。 
「ワ〜ン!!!」 
「おお、よしよし…」 
「ギャーーーン!!!」 
「ああ、困った…、泣き止んで、ボウヤ」 
そんな親子の前に、おトメさんが行った。 
「つい〜ん」 
「あら、キツネさん。ほらボウヤ、キツネさんよ」 
「ヒック、ヒック…。あ、キツネさん…」 
子供は涙を拭う。動物さんに興味がわいたようだ。 
「おトメさん、何かに化けて喜ばせてあげたら?」 
「つい〜ん」 
 ドロン
おトメさんは大きなクマのぬいぐるみに化けた。 
「つい〜ん」 
「キツネさん…キツネさんがクマさんになった…」 
「あらあらまあ…」 
「なんでぇ…なんでキツネさんがクマさんになるのぉ?! 
 ギャーーーーーーーーーーーン!!!!!!」 
「おやおやボウヤ、泣き止んで」 
「…」 
「つい〜ん?」 
やっぱりキャビンルームの中は騒がしかった。
執筆者…ごんぎつね様
ユーキンたちは半分、遊んでいるような状況だった。 
「他の部隊はもっと大変かなぁ」 
「ええ…。そうでしょうね」
そんな中… 
「つい〜ん?」 
「だってそうじゃん!? 
 キツネさんがクマさんになるなんておかしいよぉ! 
 ボクが学んだ生物学ではね! 
 キツネがクマになる事など有り得ないのだよ! 
 だってそうだろう? 
 キツネとクマは別々の動物さ! 
 キツネはキツネ、クマはクマさ! 
 いきなりキツネがクマになったらどう思うよキミ?! 
 そりゃあパニックさ!パニックなのだよキミ!! 
 キツネがクマになったら、その動物はキツネでもクマでもない! 
 新種なのだよ!新種の動物でしょ?!ねぇ!! 
 そうだ!このクマになったキツネは新種の動物なのだ! 
 ボクが名前を付けてあげよう!キミはキツネグマだ!」 
「…」 
「どうだい、これで解決しただろう? 
 ハッハッハ…ハハ…ハ…」
バタン
「ああっ、ボウヤ!ボウヤが狂って倒れた!
「大丈夫だよママ。ボクは狂っても倒れてもいない。 
 ほらこの通り、ボクは生きているさ!」 
「ああ、さすがボウヤ!」 

 

「………」 
「なんだか五月蝿い親子ですね…」 
キャビンルームは五月蝿かった。
執筆者…ごんぎつね様
バンガスと話し合ってるユーキン、煩い子供の前でキョトンとしているおトメさん。 
座席で彼女等を眺めながら、ほっと一息吐くミナ。 
とても闇組織の脅威に晒されている最中とは思えなかった。
火星… 
父、本田宗太郎が以前から解放すべきであると言っていた獣人の監獄。 
宗太郎に幼い頃から話をされていたミナも、能力者差別は無くすべきであると考える。 
温室育ちの彼女は、火星に行った事も無く、何時も新生名古屋城の自室で火星の本を見ていた。 
火星へ行き、獣人達を「もう大丈夫」と言って解放するのをどれだけ夢に見た事か。 
但し、其の夢の中…航宙機に座る彼女の隣の座席には父・本田宗太郎の姿があった。 
大きな手で自分の頭を撫でてくれるのだ。
そう夢現になった時、彼女は何者かに頭を撫でられていた。 
「!?」 
「可愛い御嬢さんね」 
白い服を着た大女であった。所々に赤毛のある黒い長髪をしており、 
羽を模した髪飾りで髪の半分を纏めていて、丸サングラス越しにミナを眺めている。 
「え…ええっと…どうも」 
「火星は初めて?御嬢さん」 
大女はクスクスと笑いながらミナに言った。
「え…ええ(何だろ、この人?)」 
訝しく思いながらも正直に返すミナ。 
聞いて大女は口の端を歪ませて更に質問する。 
「へえ…其れで御嬢さんは獣人の事…どう思うの?」 
「其れは其の……解放させる事が出来たら良いな…って……」 
そう。父・宗太郎の志を彼女も継いでいた。優しかった時の父の遺志を… 
「ふぅん…其の為の『力』は貴女にあって?」 
「え?」 
『力』よ。
 口で言うだけなら誰にだって出来るわ。 
 御嬢さんは獣人を解放するだけの伝や力を持っているのかしら?」
……ミナは答えられなかった。 
旅をしていたとはいえ、彼女自身には戦闘力が欠片程も無く、 
全てリリィに任せていたと言っても良い程度でしかない。 
人類の歴史からして見ても類稀なる力を持った本田宗太郎。 
其の娘たる自分が全くの非力であるという事を彼女は嘆くしかなかった。
「御嬢さん、この世って弱肉強食なのよ。 
 強者が弱者の肉を喰らって己の命を繋ぐの。 
 この流れは絶対よ。悔やむなら力を手に入れる事ね。 
 無力な言葉は無意味に響くだけ。無力な正義は悲しいだけ」
「そうだ!キツネグマの名に、発見者である僕の名前も刻んでおこう!
 う〜ん…そうだな……更に捩りを入れておくのも悪くない…!!」
坊主刈りの少年がまだ何か言っていた。
おトメさんはとっくに狐の姿に戻っているというのに。
「ボウヤの名前が図鑑に載る!?ならもっとカッコ良い名前を付けておくべきだったわ…不覚」
「ママ!僕の名前はカッコ悪かったの!?ギャアアアアァァァァアアアアアン!!!」
バンガスは「いっその事、こいつ等締め出すべきか?」と考えていたのであった。
執筆者…is-lies
「えーい! もう我慢できん! 
 ドアを開けろ! 私は一人で脱出させてもらうぞ!」
何もできない、何も解らない状況に、ついに業を煮やした一人の中年男性が席を立った。 
「あのぉ、大人しくして頂けませんか? 
 今、仲間が機長室に向かいました。暫くの辛抱ですから…」 
「で、何時まで待たせる気だ!? 
 私は火星で重要な会議があるんだぞ!」 
バンガスが必死に説得するものの、男はまるで耳を貸さない。
「オッサン、恥ずかしくねぇか? 
 ボク達は乗務員でもなんでもない。ただの乗客だ(見りゃ判ると思うけど) 
 それでもアンタ達を助ける為に命張ってるんじゃないか!」 
「それが余計な事だというんだ! 
 それとも、お前が責任を取るとでもいうのか?ガキが!」
生死を賭けた状況で冷静な判断が出来る者は、 
たとえ戦闘のプロであってもそう多くはない。 
況してはこの男には、今その状況に置かれている事を実感することすら出来なかった。 
…というか、このままではSFES云々の前に、この男はここで殴り殺されてしまいそうだ。
「あ、あの…」 
何とか二人を止めようとミナだったが、 
大女が袖を引いてそれを制止する。 
「困ったものねぇ。 
 でもね、あのオジサンだって、アレでも必死なのよ。 
 こういう時どうすればいいか、御嬢さん判る?」 
「そ、それは…」 
「クスクス、簡単よ」 
大女はそう言いながら、スッと立ち上がる。
「ちょっといいかしら? 
 実はこの船には予備の脱出ポッドがあるの。 
 定員は20人、先に行きたい方はいるかしら?」 
大女の言葉に客室内がどよめき、 
先程の男を含め数十名が我先にと大女に駆け寄る。
「よろしい、私が案内しましょう。 
 ……アンタ達は…先にきなさい!」 
大女の姿が消えた刹那、客室内が鮮血で染まった。
ミナの頬に掛かる血の飛沫。 
「?!」 
「!!!」 
「うっ!!」 
「ギャアアアン…ン?!」 
室内はどよめいた。 
誰もが大女がいた方向を向いた。 
泣く子も黙る出来事は一瞬にして起きた。 
「バンガスっ!!」 
「はい!!」 
ユーキンが叫ぶと同時にバンガスが行動を起こす。 
ミナを含む乗員達をバンガスが護るように押さえた。 
おトメさんは唸り、ユーキンは大女が消えた場所にたたずむ。 
「…畜生めぇ…!!」 
ユーキンの顔は引きつっていた。怒りだろう。 
室内にいた乗客の殆んどが、 
真っ先に行動を起こしたユーキンに祈りを捧げただろう。 
「死にたくない」という悲痛な祈りを。
「姿を見せろー!!!」
ユーキンの叫びが室内にこだまする中、 
先程の大女の笑い声が室内に響く。
隣に居た筈の大女は、ユーキン達の視線の遥か先、ドアの前に屈み込んでいた。 
其の背を隠す様に聳え立つのは…大女のである。其の先端には剣が付いており、 
一瞬だけ、空中に赤い血の線を引かせていた。
執筆者…Gawie様、ごんぎつね様、is-lies
「…カスみたい。御嬢さん、人間と蟻の行動の違いって知ってる?」 
大女の問いにミナは口から乾いた声を出す事しか出来ない。 
目の前の光景を頭で処理し切れない。 
「蟻は種が中心。個は女王蟻さえ居れば幾らでも代えが利くの。死は恐れない。 
 人は個が中心。種はどうなっても良く、個が重要ってのが大方よね〜。コイツ等みたく」 
崩れ落ちた中年男性の頭を靴で踏み躙る大女。
バンガスはすぐさまに大声で乗客に避難を促す。
だが大女は興味が無い様で、何かを呟き始めた。
「……いちぃ〜、自分じゃ何もしないで横になって救いを待ち、 
 にぃ〜、自分こそは恵まれないとぼやいては嘆き、 
 さぁ〜ん、己が身を弁えず激情に任せ、
 よぉ〜ん、自分の為なら他の命も奪うのみ。 
 ごぉ〜、何よりも自分の弱さを棚に上げてるのが気に食わないわ〜。 
 ……カスみたい。アンタ等なんかは…」 
ニヤニヤしながら大女は己の尾を振り上げた。先端の剣が鈍い光を放ち、乗客達を威圧する。 
「アンテノルの待つアンティノラにでも逝って来なさ〜い♪」 
尾を一気に床へと突き刺す。 
突如、大女に切り裂かれた乗客数十名が、 
まるで底無し沼に嵌ったかの如く、床に沈んで行き……消えた。
「地の底で蟻を見習いなさい…って、此処に土は無いわね〜クスクス」 
「あ……貴女は……!?」 
「どぅ御嬢さん?
 あのオジサン達は恐怖から逃れる事が出来たわ〜。永遠の安息って奴ね。 
 アタシは『ゼペートレイネ・フィヴリーザ』。 
 タカっち達ブレインの引き剥がしに成功したみたいだから、ちょっと遊びに来たのよ♪」
「このっ・・!!」 
ユーキンが大女・・・ゼペートレイネに向けて発砲する。 
しかしその瞬間、ゼペートレイネは床へ溶けるように消えていく。 
「ちっ、またか・・・!!」
ユーキンが辺りをキョロキョロと見回す。 
バンガスも辺りを見回し、ミナは未だ茫然自失状態。おトメさんは唸り声を低くする。
「まぁまぁ、そんなにいきり立たないで。」 
「ッ!?」
突如背後からかけられた声に驚き、振り向こうとするユーキン。 
しかし頬に当てられた剣が、その動きを制した。 
「言ったでしょ?今回はちょっと遊びに来ただけ。 
 あなた達は今度ゆっくりと始末してあげるわ。」 
尾の先端の剣を翻し、ユーキンの頬から離す。 
刹那、おトメさんがレイネに飛び掛りる。 
「狐のお嬢さん、あなたの相手もちゃんと用意してるわよ。 
 そう焦らないの。クスクス」 
そして再び姿を消すレイネ。 
「これ以上勝手なことしたらシルスに怒られちゃうわね〜 
 それじゃ、また会いましょ。クスクス・・・・」 
その声がキャビンルームに低く響き、レイネは気配すら完全に消えうせた。
執筆者…is-lies、you様
「御頭ぁ…どうします?」 
何とか生き残った乗客達を宥め、状況を説明したバンガスが、 
本来の気弱さを覗かせてユーキンに問う。 
もう、この左キャビンルームも安全とは言えない。 
壁を通り抜けたりする敵能力者の存在は知っていたので、 
そもそも、この航宙機内に安全な場所など無い事は知っていたが、 
乗客の不安を少しでも取り除く為に 
攻撃されていないキャビンルームへ移ったのだが… 
「そうだなぁ…機長室へ向かってみようか? 
 あっちは強い人達が多いし…機長室を抑えてくれていたんなら、其処へ行こう!」 
確かに何処から誰が来るか解からない中部のキャビンブロックよりも、 
最前部の機長室の方が安心出来るだろう。 
「そうですね。行こう、おトメさん」 
振り向くバンガス。併し彼が見たのは、 
先程の少年の母親に頼まれ、ウサギだの鳥だのに変化し、 
大声で泣いている件の少年を泣き止ませようとするおトメさんの姿であった。 
溜め息を吐くバンガス。併し其の時、ふと思い出した。 
(タカっち達ブレインの引き剥がしに成功したみたいだから) 
ゼペートレイネの言葉…… 
…何か…嫌な予感がした。 
不安に駆られ、すぐさま乗客を纏めてキャビンルームを脱出する。 
向かうは機長室。
執筆者…is-lies
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