リレー小説2
<Rel2.101便・敷往路メイ2>

 

  101便・スクウェアブロックへの通路【メイ、ハチ、タクヤ】 

 

「ねえ・・・・・」
メイがハチ、タクヤに話し掛ける。
「どうかしましたか?」
「なんか・・・・・変な臭いがしない?」
「確かに・・・・・この臭いは・・・・」
三人が通路を曲がる。
と、その時三人は足を止める。通路に何か転がっていたようだ。
「こ、これは・・・・・・!」
それは、原型を留めていない乗務員の無残な姿だった。
遠くを見ると、他にも死体が転がっている。・・・・・血の海の上に。
ウィーーン、ガシャ…… 
機械の駆動音が聞こえて来る… 
恐らく、これがゼロの言っていた『コンテナ内の何か』なのだろう。 
「ハチ!タクヤ!封印を解くわ!」 
薙刀を縦に構え、念じるメイ。 
同時に2人の少年を旋風が包み込む。 
其の中でハチは黒斑犬の獣人…タクヤは黒猫獣人の姿へと変化した。 
ハチこと風の精霊神ダルメシア、タクヤこと雷の精霊神猫丸である。 
そして身構える名一行の前……曲がり角から殺戮者が姿を現す…… 
……其の姿を見て、一向は絶句した。
セ〜〜
ラ〜〜
ム〜〜〜ン
右腕にドリル、左腕にブレードを装備した人型ロボットが3体。 
8角形の平べったい頭部には落書きとしか思えない様な目、鼻、口があり、 
2体は股間にガトリングガン、1体は砲身の様な物が付いている。 
意味不明なマシンヴォイスを放ちながら、ポーズをキメるメカ達。
執筆者…鋭殻様、is-lies

  リゼルハンク本社ビル

 

「これが中華人民共和国の技術を極秘に入手し 
 我々SFESが改良した兵器… 
 『先行者』SFES仕様です」 
モニターに映った映像を見ながら話し合うゲスト達。 
「中々の性能だな。乗務員を抹殺する手際も良い」 
「股間の兵器も素晴らしい威力ですな。 
 ちと、使用場所が限られるのが惜しいですが…」 
「………」 
アヤコは詰まらないといった感じでそっぽ向いてたりするが…
執筆者…is-lies

  101便・スクウェアブロックへの通路

 

「………きゃあああぁぁぁぁぁあああああああ!!!」 
先行者のセクハラ的外見に悲鳴を上げるメイ。 
其れにも構わずに行進して来る3体の鹵獲兵器。 
「御嬢!くっ……何なんだ、このロボット!?」 
「……少なくとも趣味良いとは言えないよね… 
 まあ、壊しちまえば一緒さ!ダルメシア、行くぞ!」 
涙目になったメイを安全な場所へと移し、先行者達と対峙する2体の精霊神。 
マンセーマンセー
一列に並び、ブレードを構えて突進して来た変態兵器。 
慌てず騒がず猫丸が雷を込めた拳を敵に叩き込むが、一向に止まる気配が無い。 
併し、素早さは精霊である自分達の方が上だ。 
ガトリングガンの銃弾を避けてから、能力の鎌鼬を発生させ 
ロボットの配線を切断するダルメシア。 
「この程度なら……」 
だが、股間にキャノン方のあるロボットは何を思ったか 
蟹股になって足踏みを始める。 
「これは……」 
エーテルが先行者の股間に収束されていくと感じた猫丸。 
流石は精霊神と言ったところだ。 
彼は直ぐに雷球を先行者の股間に放った。 
一瞬の間を置き、キャノン搭載先行者が爆発する。 
股間内部のエーテル加速器が破壊され、集めたエーテルが暴走したからだ。 
残ったガトリング搭載先行者がブレードで猫丸に襲い掛かろうとするが、 
横から槍を携えて突進して来たダルメシアに、 
頭部を貫かれて爆発する。 
「うし。もう大丈夫ですよ御嬢」 
「はぁ…有難う…猫丸、ダルメシア」 
落ち着いた様子で鉄屑だらけになった通路を進むメイ。 
ダルメシア達はメイを気遣い、先行者の残骸を見えない様に端へと寄せる。 
其の侭、メイ達はスクウェアブロックへと入った。 

 

  101便・スクウェアブロック

 

其処は電源が落とされ暗くなり、賑わいも無くなっている。 
足音が部屋中に響き、幽霊でも出そうな雰囲気だった。 
「は…早く機長室の方に行きましょう」 
背中を冷たい物が流れ、急いでVIPルームブロックへの通路に向かうが… 
「これは……」 
一行の目前に立ちははだかったのは鉄の壁。隔壁である。 
「これは流石に壊せそうにないですね…カードキーが無ければ入れない様ですし」 
「…ええ。一度戻りましょう」 
踵を返し、再びスクウェアブロック内を進むメイ達。 
静けさに不安を感じ、ふと周囲を眺めると、 
先程、ギャンブルをしていたユーキン達を発見したカジノコーナーに入っていた。 
並んだスロットは電源を落とされたこともあり、 
普段の騒がしさも無く沈黙している。 
其処へ突然の声。 
「いらっしゃいませ〜。コインは1枚20円よ〜」 
慌てて身構えるメイ達。 
そんな彼女達を見下した態度で迎えたのは、長髪の大女。 
「!?」 
セカイハ追跡依頼に隠れる事となった彼女の目的…敷往路家襲撃の犯人逮捕。 
父である『敷往路進』から薙刀を奪った強盗を捕らえる事が彼女の目的だった。 
別行動を取ったユーキン達と合流した時に、彼女達は犯人の情報を聞いていた。 
犯人は長髪の大女。黒い丸サングラス。黒髪に混じった赤毛。羽を模した髪飾り… 
全てが情報通りであった。この大女こそが彼女の家を荒らし、従者を皆殺しにした犯人。 
能力は『合成』。 
其の姿を見た瞬間、メイの…メイ達の中で何かが弾けた。
執筆者…is-lies

「なかなか・・・これは見物ですね。」 
キムラ達と同行した謎の男ゼロは楽しそうに、微笑む。
彼は少し離れた、他の物より少し大きい台に乗っていた。
「どっちが勝つ?」
「おそらくは・・レイネさんでしょう。
 戦闘能力からすれば、あの二人の精霊神の力のほうが強いでしょうが、レイネさんの能力は強力ですから。
 それに、メイさん達は冷静さを失っているようですし。」 
その時、レイネがちらりとゼロ達のほうを見た。 
「・・・ねぇ」
「・・ええ、どうやらここで見てること、バレているようですね。まぁ、どちらでもいいでしょう。」
軽く微笑って、言った。
執筆者…you様

「…見付けましたよ大量殺人強盗犯… 
 A+級プロ、敷往路メイが逮捕させて貰います…」 
落ち着いた感じの口調の中に、剥き身の刃の様な剣呑さを隠し、 
プロフェッショナル手帳(兼殺人許可証)を大女に突き付けるメイ。 
ダルメシア、猫丸共に凄まじい殺気を放ち、相手を威嚇する。 
其の殺気だけで周囲の空間が震え、軽い旋風と放電現象が現れた。 
だが、一般人なら蛇に睨まれた蛙の様に竦み上がってしまうであろう其れを、 
目前の大女は平然と受け止めて、ニヤリと不敵な笑みを口元に浮かべる。 
「……クスクスクスクス…」 
「……何が可笑しい…?」 
「ふつーさ〜、そういう科白の前には 
 犯人の名前を言うべきでしょ〜?敷往路メイちゃん。 
 アタシの名前は『ゼペートレイネ・フィヴリーザ』
「!!」 
聞いた事がある。世界が誇るエーテル先駆三柱の1柱。 
そんな人間が、ゼロの言っていたSFESという組織の一員とは。 
だが、メイにとって其れは然程問題ではなかった。 
明らかに挑戦的な態度の大女に、メイは何時の間にか手にした薙刀を振るっていた。 
素早く身を伏せる大女。彼女の立っていたカウンター上のグラスやレジが 
薙刀の一閃で真っ二つにされ、辺りに硬貨や破片に飛び散る。
「危ないわね〜。幾らプロが殺人OKでもさ〜 
 いきなり斬り付ける事ぁないんじゃない〜?」 
カウンターの下から笑い声も抑えずにゼペートレイネが言う。 
「ホザけ!」 
何時の間に背後に回ったのか… 
2体の精霊神が大女の後ろから、各々の得物を彼女に向けて振り被っていた。 
「あら〜?アンタ達は……あーあー、思い出した。 
 屋敷を襲われた時でも仲間を切り捨てられなくてボコにされたバカ精霊神達」 
2人を挑発しながら、地面を転がる様にして攻撃を避ける大女。 
「ふざけるなァ!貴様だけは許せねェ! 
 最大の奥義で地獄へ叩き落してやるッ!!」 
放電した短刀を構えた姿勢で走り出す猫丸。 
スロットの林に佇むゼペートレイネへと一直線に向かう。併し… 
何かを察知したのか、急に猫丸は足を止め、横のスロットの影へと跳躍した。 
略同時に先程、猫丸の居た空間を数発の銃弾が通り抜けた。 
スロットの影から姿を現す大女。其の右手には変わった銃。 
左手には何処かで見た様な薙刀が握られていた。 
「クスクス…流石精霊神。 
 少しは学習したって感じかしら〜?」 
「ふん…そんなものを使っても、寿命が少し延びるだけだぞ」 
「あら?クスクス…そんなもの……ねぇ…」 
口端を歪め、先の銃を乱射する大女。 
周囲のスロットに弾痕が次々と穿たれてゆく。 
「ハッ!当たるか!」 
難無く弾丸を回避し、ゼペートレイネへと肉薄しようとする猫丸。 
 ズドオォォォオン!
突如、猫丸の背後で爆発が起こり、熱風が彼の身体を襲う。 
堪らず床に転げ回る猫丸。 
爆破されたスロットのコインが散らばり、辺りをキラキラと輝かせる。 
「面白い銃でしょ?弾丸に爆破エーテルを付与してくれるのよ〜」 
「ダルメシア!猫丸!」
「「応ッ!!」」
悠然と歩み寄る大女に薙刀を向けたままのメイが2体の精霊神に呼び掛ける。 
どうやら今の今迄、呪文を詠唱していた様だ。 
ダルメシア、猫丸がメイの魔力に呼応するかの様に浮遊し、 
其々黄色と青白い球体となって、まるで対極図の陰儀、陽儀の様に回転を始めた。 
辺りに烈風が巻き起こり、放電も始まる。 
「…あー、其の魔法…一度見たわね〜 
 ごとりん研究所を半壊させた『パンデモニウム』……」 
そんな中でも表情1つ変じない大女。 
「冥府へ堕ちなさい!パンデモニウム!!
力をセーブし、効果範囲を狭めたパンデモニウム。其の分、威力は桁外れだ。 
一時的に極小の地獄の門を創造し、流出した魔界の波動であらゆる被造物を灰燼に帰す。 
球体の中央に現われた暗黒の溝から魔界の波動が放たれた。 
其れはスロットを粉砕しながら、ゼペートレイネに狙い違わず突っ込んで行き…… 
「!?」
ダルメシア達は己が眼を疑った。 
大女の薙刀が、魔界の波動を吸い込んでいるのだ。 
其れを見てメイは、ゼペートレイネの持つ薙刀の正体に行き着いた。 
「……お…おじい様の…薙刀…!?」 
「ピンポン。封印能力を持つ敷往路薙刀…使い心地も抜群ね〜」 
其の光景を見て3人の怒りは頂点に達した。
執筆者…is-lies
「この外道がァ!!」
「死んで償いなさいッ!!」
ダルメシアは巨大な鎌鼬を、メイは灼熱の火球を大女へと解き放つ。 
其れを横へ数歩動くだけで回避する大女。冷静さを欠いた攻撃等、物の数ではない。  
「しゃあぁぁぁああ!!」
「ん〜?」
だが、ダルメシアとメイの攻撃は単なる牽制であった。 
滅茶苦茶な攻撃で完全にメイ達を舐め切った大女の背後から 
攻撃の機会を窺っていた猫丸が突進して来たのだ。 
「(獲った!)」 
もう避け様の無い短刀の一撃が繰り出される其の時。 
「ブービー賞あげる」 
ドシュッ!
声を失うメイとダルメシア。 
ゼペートレイネの背後の猫丸が先の勢いを無くし、四肢をグッタリトさせている。 
大女は振り向いてすらいない。 
やがて、猫丸の体が宙に浮き、大女の背を越える。 
其処で漸くメイ達は気付いた。 
猫丸の顎から胸にかけて、巨大な剣が縦に突き刺さっていた。 
雷精霊神の口から大量の血がゴボゴボと音を立てながら、床へと滴る。 
巨大な剣…大女の……『尻尾』の先端であった。 
「アタシ、組織内じゃ『セイフォートの尾』って呼ばれてんの。 
 今からアンタ達にイイモノ見せたげるわ〜」 
其の言葉が終わるが早いか、猫丸が溶け込む様にして己を貫いていた剣に吸収された。 
「猫丸ーーーッ!!」 
そして、ゼペートレイネが左手をメイ達へと向ける。 
其処には小さいながらも猫丸の顔が埋まっていた。 
「アンタらも御存じのように能力は『合成』。
 アタシ殺しても良いケド 
 其の場合はコイツも死んじゃうから、其処ンとこヨロシク〜」
「な……何て…事を………!」 
両手で口を押さえ、驚愕に眼を見開くメイ。 
「クスクス…どったの〜?早く来なさい〜。 
 其れともこっちから行きましょうか〜?」 
昔から友の様に付き合って暮した精霊神…彼を傷付ける事等、出来る筈が無い。 
「…この卑怯者め……!」 
「卑怯?言ってくれるわね〜 
 アンタ達が弱いのがいけないんでしょ? 
 仲間の1人や2人も切り捨てられない弱者よ」 
ダルメシアの罵倒に、初めて感情を変化させ柳眉を立てる大女。 
銃弾で牽制射撃を行いながら薙刀を構えて近付いて来る。 
猫丸を人質に取られ、今は手も足も出ない。此処は素直に逃げるべきだ。 
爆破する弾丸を避けながら、何とかカジノコーナーを抜け出すメイ達。 
目の前の広場には円形の花壇があり、其の中央に小さな時計塔が設置され、 
花壇の外回りにはベンチ、天井には既に機能停止したモニターがある。 
 ズドォォオオン!
背後から聞こえた爆音。ハッとして振り向くと 
カジノコーナー入り口にあったクマやウサギの人形が爆破されていた。 
ゼペートレイネが近付いて来ている証拠である。 
慌ててカジノの入り口から隠れる様に、花壇の反対側で伏せる。 
…………ゼペートレイネは……入り口から出て来ない。 
  ヒュ!
突如、ダルメシアの耳が空を切る様な音を捉える。 
自分の背後だ。 
見るとナイフの様な物がダルメシアの心臓に向かって一直線に飛んで来ている。 
カジノの入り口に注意していた所為で気付けなかった。回避するには遅過ぎる。 
直ぐに風を操作し、ナイフを落とそうとするが…… 
ナイフは能力で操作された風を無視して突っ込んで来た。 
ダルメシアは気付く。
ナイフは…能力霧散効果のある猫丸の短刀だ。 
  ドヒュッ!
ぐがぁ!!
咄嗟の判断で身体をずらし、心臓への一撃は避けたものの、短刀は二の腕を貫いていた。 
ダルメシアの手から槍が床へと落ち、甲高い金属音を辺りに響かせる。 
「ダルメシア!」 
回復魔法を放とうとしてから…彼女は短刀の飛んで来た場所を見た。 
「何故……何故貴女は此処に……!?」 
既にパニック状態のメイを、ダルメシアの後ろから凶刃を放った大女がせせら笑う。 
「合成能力、床と一体化して潜る事なんて簡単よ〜」 
先のカジノコーナ入り口に爆発は、注意を引かせる為だったのであろう。 
大女の能力に戦慄を感じるメイ。
勝てるのか?この相手に。 
弱・肉・強・食。アンタもアタシの糧にしてあげるわ〜」 
絶体絶命のメイ。突き出される大女の尾。
執筆者…is-lies
「さようなら。御嬢さん」 
「………」
『もうダメだ。』
そんな思いがメイの頭をよぎり、覚悟を決め、目をギュッと瞑る。
「んっ――!?」
しかし、聞こえたのは自身の体が引き裂かれる音ではなく、
ゼペートレイネの何かを気取ったような呻き。
その直後、弾けるような衝撃音がしたかと思うと、目を瞑っていても感じる一瞬の閃光。
恐る恐る目を開けると、そこにゼペートレイネは居ない。
訝しんだ後、ふと思い当たり隣のダルメシアへと目を馳せるが、
当の本人は驚きに見開いた目で一点を見つめているのみ。
つられてそちらを見ると、一人の男が突っ立っている。
よく見てみると、それは知った顔だった。
知り合い、という意味ではない、ただ初めて会ったのではないというだけだ。
ゼロ・・・・・・さん・・・・・・?」
呟いたのはメイ。
何が起こったのかわからないといった風に呆然としている。
ダルメシアも似たようなものだ。
ゼロはというと、メイ達ほどではないものの、少し驚いたような顔で、自分の左手を見、
軽く肩をすくめると、再びメイ達に視線を戻す。
「気をつけて、まだ近くにいます。」
その一言で、弾かれたように辺りに視線を巡らせるメイとダルメシア。
「いきなり魔法弾とはヒドイじゃな〜い?」
聞こえてきたのはゼペートレイネの声。
その声の聞こえるほうへ振り向く三人。
「すみません。やはり目の前で人が殺されるというのは。」
どこか申し訳なさそうに言うゼロ。
レイネの姿は見えないため、漠然と声のするほうへ向かって言っている。
「よく言うわ〜、――」
「何のことでしょう?」
言いかけたレイネを制するようにゼロ。
「ま、いいわ〜。邪魔するんなら、アンタも敵よ」
メイ達は声のするほうへの警戒を怠らないが、会話を聞いてその内容に胸中で首を傾ける。
だが、追求するようなことはしない。そんな場合ではないからだ。
「・・・来ますっ!!」
ゼロの一声に、3人はバラバラに跳び、その後を銃弾が過ぎ去っていく。
ダルメシアが風の刃を銃弾の飛んできた方向へ放つが、手応えはない。
一瞬落ちる沈黙。
そして、次の瞬間
「メイさんっ、後ろですっ!」
メイがその言葉に反応して振り返るのと、ゼペートレイネが床から現れるのとはほぼ同時。
「くっ……!!」
身を捩りながら前に倒れこむようにして、振り上げられた尾の剣から逃れようとする。
しかし・・・・・・、間に合うタイミングではない。
ゼペートレイネには勝利を確信したような笑みが浮かんでいた。少なくともメイにはそう見えた。
「うぉぉぉっ!」
そこへ、叫びと共に風の奔流がゼペートレイネを襲う。
メイに当たることを恐れて殺傷能力はないが、強烈な風に煽られ、ゼペートレイネに隙が生じる。
それを見逃さず、メイが薙刀を突き出す!
「く・・・うっ!」
しかし、メイ自身も風の影響を受けて軌道がそれ、薙刀の一撃は脇腹を掠めたのみ。
(しまった……!!)
胸中で叫び、再び突き出されようとするゼペートレイネの剣を避けようと試みる。
しかし、その剣は避けるまでもなかった、どころか、突き出されることはなかった。
一瞬閃光が迸ったかと思うと、ゼペートレイネの体がはるか後方―メイからすれば前方へ吹き飛ばされていた。
自分の背後を振り返るメイ。確認するまでもなく、ゼロだ。
そして、自分の真横をまた閃光が駆けぬけたかと思うと、背後で小さな爆発音。
その音に視線を戻すと、追撃をかけられ、なす術無く宙を舞うゼペートレイネの姿が目に入る。
「な、待・・・っ!!」
ダルメシアが叫びかけるが、
さらに放たれた魔法弾が、ゼペートレイネは無残な物言わぬ肉塊へと変貌させていた。
「ね……猫丸が……」 
「き…貴様ァ……!」
メイが呆然と呟き、ダルメシアが怒りも露わにゼロに食って掛かる。
「落ちついて、今のレイネさんはダミーです。本物は生きていますよ。」
「え……?」
「最初の不意打ちでの魔法弾すら避けた人ですよ。
 あれくらいでやられるハズがないでしょう。
 それに、まだ『居ます』よ。」
言い終えてから辺りをぐるりと見回すゼロ。
「クスクス、流石ね〜。」
どこからか聞こえてきたその声に表情を厳しくするメイとダルメシア。
ゼペートレイネはそれに構わず同じ調子で続ける。
「ゼロ含む3対1じゃ流石に不利だからこの辺にしておくわ〜。じゃあね〜」
「っ! 逃がすかっ!! 片っ端から探して……」
すぅっと声がフェードアウトをするのを聞いて、ダルメシアが駆けだそうとする。
それを制したのはゼロの腕。
「邪魔だっ、どけっ!」
構わず強引に進もうとするダルメシア、しかしゼロは首を横に振り言う。
「今追ったところで敵うハズがありません。」
「だがっ、こうしてる間に猫丸が・・・っ!!」
「その点については大丈夫です。
  猫丸さんには人質としての価値がありますし、今殺すのなら最初から殺しています。」
「本当ですか……?」
横手から不安そうな声が上がる。無論メイだ。
「ええ、保証しますよ。
 といっても、私なんかが保証した所で、信じられないかもしれませんがね。」
「でも、救う方法はあるんですか……?」
「あるはずですよ。」
「それはっ?」
一歩詰め寄りながら早口に言うが、
当のゼロは、せかされていることなど気にもしてないようにマイペースに続ける。
「落ちついて彼女の使っていた能力をよく思い出してみてください。」
「……?」
クエスチョンマークを掲げながら、不理解の瞳をゼロに返すメイ。
しかしゼロは、話は終わりだと言うように微笑むだけ。
「……そう、ですか。
 ありがとうございました。それでは…」
クルリとキャビンブロックへの扉へと振り向き、苛立たしげな眼でゼロを見ているダルメシアを促して歩きはじめる。
「それから」
背後からかかったその声に、メイは肩越しに振り向く。
「あなたには今、味方がいます。それも忘れないでください。」
しばらく振り向いた姿勢のまま考えると、軽く会釈をして再び歩き始めた。 
執筆者…is-lies、you様
後に残るは、ゼロと、その肩に乗るグレイのみ。
「なんで、あんなことしたの?」
メイが扉の向こうへ消えるのを見届けてから、グレイがポツリと呟く。
「……。
 あのまま殺されるよりも、そのほうが面白いからですよ。」
「? 今、何か間があったけど……」
「別に意味は無いですよ。別に―――ね。」
「ふーん…?」
そして、ゼロもまたキャビンブロックへ続く扉へと歩き出す。
「ゼロ、あれ…」
グレイの小さな指が刺し示す方へ視線を向けると、壁に文字が浮かび上がっている。
――『今のコトはシルシュレイ達には内緒にしておいてあげるわ』 と。
「クス…それはどうも。」
微笑みながら独り言を呟き、左手の指をパチンと鳴らすと。
その文字は跡形も無く消え去った。
執筆者…you様
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