リレー小説2
<Rel2.101便・ビンザーデリング1>

 

日本宇宙ステーション総司令室

 

ミサイル発射が延期され、 
現在、宇宙ステーションは戦闘配置から警戒配置に移行していた。 
しかし、総司令室室内の異様な緊張が解かれることはなかった。 
其れも其のはず… 
101便との交渉で、本田ミナという一人の小娘の言葉に気圧され、
ミサイル発射延期の要求を呑まざるをえなかった特殊部隊長は、
未だ怒りが収まらぬという様子で、室内を忙しなく歩き回り、
無意味に部下を殴りつけては当り散らしているのである。 
オペレーターも交代を許されてはおらず、不用意に席を立とうものなら何をされるか分からない。 
「この作戦が無事に終了したら軍は辞めよう…」そう心の中で思う部下達であった。 
その時、一人のオペレーターが恐る恐る口を開いた。 
「隊長… いえ、将軍閣下 
「なんだ貴様!! 文句あんのかぁああぁぁッ!!」 
ただ、通信が入ったということを伝えようとした部下だったが、説明する間もなく締め上げられる。 
「か…火星に…い…らっしゃる… 
 デリ…ン…だ…りょう…から… 
 …通信が…入って……」 
何とか用件を告げた部下は、通信をメインモニターに回し、そのまま床に倒れ込んだ。 
メインモニターに映し出されたのはデリング大統領であった。
《テロリスト相手に苦戦しているかと思えば… 
 なにを遊んでいるのかね?》
「こ、これは大統領閣下。 
 実はその…101便に、あの本田の娘を名乗る者が乗っておりまして、 
 当方としても、ワイズマンエメ…」 
《報告は聞いている。 
 だが、君がそれを心配する必要はない。 
 それに、その101便だが、 
 先程火星に向けて更に加速を始めたという報告が入っているぞ》
「な、なんと!?」 
騙されたのだよ、君は。 
 作戦終了後、身の振り方を考えておきたまえ。 
 以上、通信を終わる》
特殊部隊長の言い訳を聞くこともなく、 
特に何か指示を出すわけでもなく、 
ビンザー・デリングは、ただ部隊長を叱責しただけで通信を終えた。 
周りで聞いていた部下達にも結局何が言いたかったのか分からなかった。 
ただ、問題なのはこの特殊部隊長である。
「本田…! 
 親子そろって拙者をコケにするか!! 
 テロリスト? 作戦? 何それ? 知らんでござる! 
 発射! ミサイル発射!!
「はぁ…、では、101便に通信を…」
アホか! 
 最後通告など必要ない!今すぐ全弾発射!! 
 それとSOLの準備もするでござる!」
執筆者…Gawie様

同刻 
火星・アテネ 
―リゼルハンク本社ビル―

 

リゼルハンクの新商品『先行者』のPRも無事に終了し、
本社ビル最上階ホールでは、各国VIPを迎え、総裁ネークェリーハ主催のパーティが開かれていた。 
一方、静まり返った会議室では… 
「手筈通りに… ヴァンフレム殿」 
「ご苦労でしたな。デリング大統領閣下」 
照明も消され、モニターの青白い光が室内を照らす中、
ヴァンフレムとデリング…SFESとアメリカの会談は続いていた。
「しかし、今からミサイルを発射したところで間に合いますかね?」
「変更した101便の航路プログラムと同じものを送っておきました。 
 計算では、火星の周回軌道に入った後、半周したところで着弾します。 
 残骸は、ここからは丁度火星の裏側…未開地の荒野に落ちるでしょう。 
 まぁ、仮にミサイルが外れても、結果は同じ事ですがね…」
「それはそうと…本田…ミナ…… 
 小娘とばかり思っていたが、 
 どうやら連盟の特殊部隊長では荷が重いようだ。 
 それにしても、まさか101便に乗っていたとは… 
 ヴァンフレム殿は知っていたのですかな?」 
いやらしい笑みを浮かるデリング大統領の問いに、ヴァンフレムはただ無言で返す。
「どうでしょう? 
 彼女の身柄を我が国で預かるというのは。 
 小娘一人くらい何とかなりませんかな?」
「ふむ…予定にはありませんな。 
 どうなさる御つもりですか? 閣下」
悲劇のヒロイン… 
 時代に捧げる生贄として、これ以上の人材はありますまい。 
 使い道はいくらでもありましょう。 
 それに、大名古屋国の技術… 
 いや、『ワイズマン・エメラルド』の在り処を何としても吐かせなければ。 
 我が国が所有する『シークレット・ウィズダム』 
 SFESの『ファンタスティック・マイティ・ハート』 
 それに『ワイズマン・エメラルド』が加われば残りは5つ。 
 すべての八姉妹結晶が揃った暁には、 
 破滅現象により浄化された地球を我々が支配… 
 いや、地球を我々の思い通りに創り変えることも可能だろう!」
「……………… 
 本田ミナの事は考えておきましょう…」
苦笑いのヴァンフレムがそれ以上言うことはなかった。 
ヴァンフレムとしては、破滅現象による地球崩壊は時期尚早。 
『ワイズマン・エメラルド』の所在も『ある男』の手に渡った後、行方不明。 
正直、破滅現象の適当な情報を提供しただけで、
デリングがここまで野望を膨らませるとは思っていなかったのだ。 
八姉妹結晶に関しても、アメリカとSFESが所有する二つ以外の所在は掴めていない。 
どうやらこの男は『八つ揃えれば願いが叶う魔法のアイテム』のようなモノと勘違いしているようだが、
実際その本当の力も解明されてはいないのである。
リゼルハンク総裁ネークェリーハ・ネルガル。 
そしてこのアメリカ大統領ビンザー・デリング。 
権力に取り憑かれた傀儡である。
執筆者…Gawie様
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