さんぷる

 

 

『青』さんでしたっけか? 中々の掘り出し物ですわ」

「あの手の輩は復讐心を煽ればどうとでも動く。
 我々は付かず離れずの距離をとり時折助言をする程度で良い。
 前支配者の情報を定期的に流し、
 自分だけではどうにもならない事を思い知らせてから操る」

S-TAの工作員であるユニバース少年と魔導士イルヴは、
イギリスもといベルトンの難民キャンプで薄味な粥を啜りながら、
この度の成果について話し合っていた。

前支配者の攻撃によって崩壊したイギリスに颯爽と現れ、
どういう手品を使ってか前支配者を追い散らして民衆を救ったディノラシオール一族だが、
其の末端では前支配者の攻撃により多大な損害を被っていた不幸な連中もいた。
生野と呼ばれた男が指揮していた兵団もそんな犠牲者の一角だ。
その生野指揮下にあった生き残りの一人……
『青』という少年兵はS-TAでも、そこそこ名を知られている。
世界各地を股にかけ、あらゆる戦場に現われる流離いの傭兵……
特定の国家、権力に属する事を束縛だとして否定する無政府主義者或いは世界政府主義者……
気に入らないものは即座に切り捨て御免の無法者。
前科百犯などなど、絵に描いたようなアウトローであり毀誉褒貶の激しい人物だが、
其の実力の高さについては誰もが論を俟たない。

前支配者と交戦して瀕死の状態になった『青』を、
ベイルス家監視の為にベルトンに潜伏していたユニバース達が発見したのは偶然だったものの、
直接会話してユニバース達は『青』の其のシンプルさを即座に看破。
扱い易い手駒としてストックしておく事にしたのだった。
生野司令ら仲間の死と、記憶の欠如に沈んでいた『青』を励まし、
共に戦おう、仇を取ろう、世界を纏めよう……と鼓舞した。

共に戦おう……S-TAに利する駒として。
仇を取ろう……前支配者の存在を知りつつ惨状の原因を「暴走した某国秘密兵器」だとするディノラシオール発の怪情報を吹き込んで。
世界を纏めよう……S-TAの掲げる能力者至上主義国家の名の下に。

幸いにも『青』は前支配者ゼムセイレスとの闘い……というよりは蹂躙を受け、
戦闘の記憶を大半欠落させていた為、すんなりと怪情報を信じ込んでくれた。

「はは、イルヴさぁ〜ん?
 わっるい顔してますよ。クリスさんが見たらどう思う事やら」

「……奴の綺麗事では何も成せん。
 必要なのは力だ」

イルヴにとってクリスは一言で言い表す事の難しい存在だった。
クリスの属する一族……自称『ニュータイプキングダム』は、
其の名が示す通り典型的な能力者至上主義の一族であり、
欧州のエンパイリアン一族の大半を取り仕切っている。
そんなニュータイプキングダムに仕える従者の一族の一つがヴェインスニーク家。
其処から主人の一族を守るための戦士として訓練・選出されたのがイルヴだった。
だが主人クリスの才覚はイルヴなどの及ぶところではなかった。
逆にクリスから魔術を学ぶ破目となりヴェインスニーク家は嘲笑の的となった。
況してや……

「『青』さん懐柔は大きいでしょうなぁ。
 これで彼がディノラシオール家の内情も知ってりゃ、イルヴさんも大手柄。
 幹部昇進も有り得たかも知れませんから、其処だけは惜しかったですわな。
 まま、ヴェインスニーク家復興の道は他にまだ何かありますって、ええ」

況してや……
イルヴが一族の未来の担い手とすべく、結晶能力に優れる女と結婚して儲けた子供が、
よりにもよって非能力者とくれば、
ヴェインスニーク家が枯葉のように消し飛んでしまうのも仕様の無い話である。

「今更、ヴェインスニーク家にもS-TAの地位にも興味はない。
 だが確かにディノラシオールについては懸念もある。
 プロノズムの異常……
 前支配者を操作出来るとオルトノアやマチルダは豪語していたが、
 実際に其れをやってみせたのは……ディノラシオール」

「あー……、プロノズムがディノさんに操られたかもって事ですかい?
 どうでしょうねぇ? もしそうならS-TAの誰かとディノさんが繋がってるんでしょうが……
 全く不届きな奴っちゃなぁ〜」

S-TAと合流せずに非能力者側に与するかもと言われるディノラシオールの手先となれば、
詰まり能力者ではなく非能力者の勝利にベットしているという事であり、
何より、前支配者操作の憶測が本当だとすれば早急に処理しなければならない。

「イルヴさん、あの『青』さんね、
 ディノさんトコに特攻させてみやしませんか?
 良い具合に陰謀説信じてるし、ちょいと黒幕が当のディノさんかもって吹き込んで……」

「折角の戦力なのだぞ? 使いどころを少しは考えろ」

そういえば『青』は非能力者だったかと得心するイルヴ。
非能力者を心底憎悪しているユニバースにとっては使い捨て前提の駒なのだろうが、
そんな衝動的に使い潰されてしまっては元も子もない。

「……」

しかしイルヴは、感情的にはユニバースの方針に僅かながら賛同してもいた。
だが其れは、この少年のような非能力者に対する憎悪から来るものとは些か異なる。
非能力者だと言うのに、能力者陣営にさえも一目置かれるようになった『青』に対する……嫉妬。
自分も……そうありたかった。
自分が『青』くらいの年の頃はどうだったか。
ヴェインスニーク家の連中は異口同音に幼いイルヴを褒め称え、高い高い梯子を昇らせた。
其処から見える光景はイルヴの自尊心を大層刺激した。
周囲の誰もが小さく見える。空の上に手が届きそうだ。まるで世界の王者にでもなったかのようだ。
だが其の高い高い梯子は或る日、呆気なく倒れてしまった。
高い高い梯子の其の高さに見合う距離を落下したイルヴが受けた痛みは、
梯子の歪で分不相応なまでの長さに比例した代物であり、
其れまでの驕り高ぶったイルヴ少年を粉々に打ち砕くに充分過ぎた。
斯くして、若く自らの力と未来を疑わない少年イルヴは息絶え、
老いて自らの力と未来を信じぬ大人のイルヴが生まれるに至った。
現実から強かに打ち据えられ、夢抱く子供ではいられなくなった。
これを成長と呼ぶ者もいるだろうが、イルヴの其れに成長と呼べるだけの前向きさは無い。
或いは……カフカの「変身」を「成長」と訳せる感性があるのならば話は別だろうが。

「何故、私の娘は……」

思わず漏れた呟きにこそ、イルヴの全てが凝縮されていた。
全てが……
そう、イルヴという人間の限界も其処に含まれる。
そして人生の結末さえも。

非能力者でありながら能力者以上の存在を示してみせた『青』を見ても、
自分の子供もまた同じように成長してくれるかもしれないという希望を持てない。
自身に限界を設けたに飽き足らず、
我が子にさえ勝手に限界を設け、其の未来に一片の期待さえも抱けない。

挫折に酔って、現実的という呪文を唱え、可能性に蓋をした。
よってイルヴは「所詮そこまで」の人間として完結した。
ならば相応の身の丈で満足していれば良いものを、
なまじ梯子に登った光景を知っていたが為、其の憧憬のみが胸の内に残滓としてこびり付いた。
自分で自分の夢を実現出来ないと失望していた為、子に託した。勝手に。
勝手に期待し、勝手に失望した。
そして今、勝手に嫉妬している。

「ふぅーむ、じゃあ『青』さん使うのは控えて、
 もーちょっとディノさんに探り入れてみましょうか」

「……そうだな。クリスが良いだろう。
 奴はまだベイルス家とディノラシオール家に声をかけている」

「? ベイルスは解りますが、
 ディノラシオール家にも?」

欧州委員長クリスが密かに第三次大戦への参戦を求めていた2つの家。
クリスは絶大な力を持つベイルス家をもバックにつける事で、
其の威力を以て戦わずして戦争を止めようとしていた。
だがベイルス家が参戦に色よい返事をしたタイミングで、前支配者による英国攻撃が発生……
英国壊滅の恐怖から、非能力者は一致団結して対S-TA攻撃へと舵を切った。
非能力者軍がベイルス家参戦の可能性などという情報を掴んでしまえば、
戦争を止めたいクリスの思惑とは凡そ懸け離れた形でベイルス家の力が使われる事になる。
其れを危惧したクリスはベイルス家と非能力者軍を引き離す方針を取らざるを得なくなった。
だからクリスがベイルス家に接触しているというのは自然な話だ。
前支配者襲来前と後で要求が180度変わっているだけである。

併しディノラシオール家は今や英国の乗っ取りに成功し、ベルトンなる国名を標榜。
そしてS-TAとの敵対行動は見せず、旧英国政府や世界各国への批判に終始している。其れだけだ。
今のクリスが敢えて接触する必要があるようには見えない。

「流石に前支配者の件は知らないだろうが、
 クリスもまたディノラシオールの動きがあまりにタイミングが良いと思っているのだろう。
 其処に我々も乗じよう」
執筆者…is-lies

Rel
メインコンテンツ・リレー小説があります。
現在、第5部。
アカシックレコードコピーSFES仕様
Relのデータベースです。未完成。

 

ミュークト
チャット。ただし管理不可。

 

グリフィンインダストリー社
場所系サイトとしか此方からリンクは致しませんので注意!
後、場所系サイトでリンクフリーならば勝手にリンク張ります。ペタペタっと。
inserted by FC2 system